一度出始めると止まらない「ごほごほ」という激しい咳。体力を消耗し、周りの目も気になってつらい思いをしていませんか。
ただの風邪だと軽く考えていても、実は他の病気が隠れている可能性もあります。
この記事では、激しく続く咳の原因として考えられること、咳の特徴から推測できる病気、ご自身でできる対処法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて詳しく解説します。
「ごほごほ」と激しく続く咳の特徴
咳は、気道内に入った異物や過剰な分泌物を体外に排出しようとする防御反応です。しかし、その出方や性質によって、体の状態を推し量る重要な手がかりになります。
「ごほごほ」と表現されるような激しい咳は、特に気管や気管支の深い部分に炎症や刺激があるサインかもしれません。
咳の種類と「ごほごほ」という咳
咳は音や痰の有無によって、「乾いた咳(乾性咳嗽)」と「湿った咳(湿性咳嗽)」に大別します。「コンコン」と表現される乾いた咳は、痰が絡まないのが特徴です。
一方、「ゴホンゴホン」「ごほごほ」と聞こえる湿った咳は、気道に痰などの分泌物が絡んでいることを示唆します。激しく連続する咳は、気道の炎症が強く、分泌物が多い状態である可能性が高いです。
咳が続く期間による分類
咳は、症状が続いている期間も診断の重要な情報です。医学的には、咳の続く期間によって以下のように分類します。ご自身の咳がどの段階にあるかを知ることは、原因を考える上で役立ちます。
咳の持続期間による分類
分類 | 持続期間 | 主な原因 |
---|---|---|
急性咳嗽 | 3週間未満 | 風邪、インフルエンザ、急性気管支炎など |
遷延性咳嗽 | 3週間以上8週間未満 | 感染後の咳、咳喘息の初期など |
慢性咳嗽 | 8週間以上 | 咳喘息、COPD、胃食道逆流症など |
痰の有無や色でわかること
湿った咳の場合、一緒に出る痰の色や性質も重要な観察項目です。痰は気道の健康状態を映す鏡のようなもので、その色から炎症の種類をある程度推測できます。
ただし、痰の色だけで自己判断するのは危険であり、あくまで目安として捉えることが大切です。
痰の色と状態から考えられること
痰の色 | 状態 | 考えられる原因の例 |
---|---|---|
透明・白色 | サラサラまたは粘り気がある | ウイルス感染の初期、アレルギー、気管支喘息など |
黄色・緑色 | 粘り気が強い | 細菌感染(急性気管支炎、肺炎など) |
赤色・さび色 | 血液が混じる | 肺炎、気管支拡張症、肺がんなどの可能性(要受診) |
激しい咳(ごほごほ)を引き起こす主な原因
激しい咳は、さまざまな要因によって引き起こされます。最も一般的なのは感染症ですが、アレルギーや生活環境が関わっている場合も少なくありません。
原因を特定することが、適切な対処への第一歩です。
ウイルスや細菌による感染症
咳の最も多い原因は、ウイルスや細菌が鼻や喉、気管支に感染して炎症を起こすことです。いわゆる「風邪」と呼ばれる急性上気道炎やインフルエンザが代表的です。
これらの感染症は、気道の粘膜を傷つけ、咳を引き起こします。
主な感染症の比較
感染症名 | 主な病原体 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
普通感冒(風邪) | ライノウイルスなど | くしゃみ、鼻水、喉の痛みが主で、咳は軽度なことが多い |
インフルエンザ | インフルエンザウイルス | 高熱、関節痛、筋肉痛と共に激しい咳が出ることがある |
急性気管支炎 | ウイルス、細菌 | 初期は乾いた咳、後に湿った激しい咳に変化することが多い |
アレルギー反応によるもの
特定の物質(アレルゲン)に対する体の過剰な免疫反応が、咳の原因になることがあります。気道にアレルギー反応が起きると、気管支が収縮したり、粘膜が腫れたりして、発作的な激しい咳が出ます。
- ハウスダスト
- ダニ
- 花粉(スギ、ヒノキなど)
- ペットのフケ
喫煙や大気汚染などの環境要因
タバコの煙や大気中の汚染物質、化学物質などを吸い込むことも、気道を刺激し、慢性的な咳の原因となります。
特に喫煙は、気道の粘膜にダメージを与え、痰の分泌を増やし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような深刻な病気につながる可能性があります。
その他の要因
感染症やアレルギー以外にも、咳の原因は多岐にわたります。例えば、血圧の薬の一部(ACE阻害薬)の副作用として乾いた咳が出ることがあります。
また、精神的なストレスが原因で咳が続く心因性咳嗽という状態もあります。
激しい咳(ごほごほ)から考えられる病気
一時的な咳であれば心配いらないことが多いですが、激しい咳が続いたり、特定の症状を伴ったりする場合は、背景に何らかの病気が隠れている可能性があります。
ここでは、咳の期間別に考えられる代表的な病気を紹介します。
急性の咳に関連する病気
始まってから3週間未満の咳は、多くが感染症によるものです。しかし、中には重症化する危険性のある病気も含まれます。
急性気管支炎
主にウイルスの感染によって気管支に炎症が起こる病気です。はじめは乾いた咳が出ますが、次第に痰の絡んだ湿性の激しい咳に変わることが特徴です。発熱や倦怠感を伴うこともあります。
肺炎
細菌やウイルスが肺の中の肺胞という組織に感染し、炎症を起こす病気です。38度以上の高熱、黄色や緑色の痰を伴う激しい咳、胸の痛み、呼吸困難などの症状が現れます。
高齢者や基礎疾患のある方は重症化しやすいため、特に注意が必要です。
百日咳
百日咳菌という細菌に感染することで発症します。顔を真っ赤にして激しく咳き込む発作(レプリーゼ)が特徴で、息を吸う時に「ヒュー」という笛のような音が聞こえることがあります。
近年はワクチンの効果が薄れた大人の感染も増えています。
長引く咳に関連する病気
3週間以上咳が続く場合、単なる感染症の後遺症だけでなく、慢性的な病気の可能性を考える必要があります。
咳喘息
気管支喘息の前段階ともいわれる状態で、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)や呼吸困難はなく、唯一の症状が長引く乾いた咳であることが特徴です。
夜間や早朝、会話中、冷たい空気を吸った時などに咳が悪化しやすい傾向があります。
咳喘息と気管支喘息の主な違い
項目 | 咳喘息 | 気管支喘息 |
---|---|---|
主な症状 | 慢性的な咳のみ | 咳、喘鳴、呼吸困難 |
喘鳴 | なし | あり(ゼーゼー、ヒューヒュー) |
自然治癒 | まれにあるが、再発しやすい | まれ |
アトピー咳嗽
アレルギー素因を持つ人に多く見られ、喉のイガイガ感を伴う乾いた咳が特徴です。咳喘息と似ていますが、気管支拡張薬が効きにくいという違いがあります。
アレルギーを抑える薬が効果的な場合があります。
副鼻腔気管支症候群
慢性的な副鼻腔炎(蓄膿症)と気管支炎を合併した状態です。鼻水が喉の奥に流れる「後鼻漏(こうびろう)」によって気道が刺激され、湿った咳が長く続きます。粘り気の強い痰が特徴です。
胃食道逆流症(GERD)
胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜や気道を刺激し、咳を引き起こす病気です。
胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)などの症状を伴うことが多いですが、咳だけが症状として現れる場合もあります。食後や横になった時に咳が悪化しやすいのが特徴です。
- 食後すぐに横になる
- 食べ過ぎ、飲み過ぎ
- 脂肪分の多い食事
- 腹部を締め付ける服装
咳が続く場合のセルフケアと対処法
激しい咳は体力を消耗します。医療機関を受診するまでの間、少しでも症状を和らげるために自分でできる対処法があります。
ただし、これらはあくまで対症療法であり、原因そのものを治すものではないことを理解しておくことが重要です。
安静と十分な睡眠
体力が落ちると免疫力も低下し、症状が悪化しやすくなります。咳がひどい時は無理をせず、体を休めることが第一です。睡眠時間を十分に確保し、体の回復を促しましょう。
室内の加湿と換気
空気が乾燥していると、喉の粘膜が刺激されて咳が出やすくなります。加湿器を使ったり、濡れたタオルを部屋に干したりして、室内の湿度を50~60%程度に保つように心がけます。
また、定期的に窓を開けて空気を入れ替え、室内のウイルスやアレルゲンを減らすことも大切です。
水分補給の重要性
こまめに水分を摂ることで、喉の粘膜が潤い、刺激が和らぎます。また、痰が絡む咳の場合は、水分を摂ることで痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。
白湯や麦茶など、刺激の少ない飲み物が良いでしょう。
咳を和らげる食事と飲み物
喉への刺激が少なく、体を温める食事や飲み物は、咳の症状緩和に役立つことがあります。
咳の緩和に役立つ食事・飲み物の例
種類 | 例 | 期待されること |
---|---|---|
温かい飲み物 | はちみつ入りのお湯、生姜湯 | 喉を潤し、体を温める |
喉に良いとされる食材 | 大根、れんこん、長ねぎ | 炎症を和らげるといわれる成分を含む |
消化の良い食事 | おかゆ、うどん、スープ | 胃腸に負担をかけず、体力の消耗を防ぐ |
※1歳未満の乳児には、はちみつを与えないでください。乳児ボツリヌス症のリスクがあります。
医療機関を受診するタイミング
セルフケアを行っても咳が改善しない場合や、特定の症状が見られる場合は、医療機関を受診して専門家による診断を受けることが重要です。早期発見・早期治療が、重症化を防ぐ鍵となります。
すぐに受診を検討すべき症状
以下のような症状が咳と共に見られる場合は、重篤な病気のサインである可能性があります。放置せず、速やかに医療機関を受診してください。
受診を急ぐべき危険なサイン
症状 | 考えられる危険性 |
---|---|
呼吸が苦しい、息切れがする | 肺炎、気管支喘息の重積発作、肺塞栓症など |
血の混じった痰が出る(血痰) | 肺がん、結核、気管支拡張症など |
胸に強い痛みがある | 肺炎、気胸、心臓の病気など |
顔色や唇の色が悪い(チアノーゼ) | 深刻な酸素不足の状態 |
2週間以上咳が続く場合
一般的な風邪による咳は、通常1~2週間で軽快します。もし咳が3週間近く、あるいはそれ以上続くようであれば、急性咳嗽の範囲を超えています。
咳喘息やその他の慢性的な病気の可能性を考え、一度、医療機関で相談することをお勧めします。
何科を受診すればよいか
大人の場合、まずは内科、特に呼吸器内科の受診が適しています。咳の原因を総合的に診断し、必要な検査や治療を行ってくれます。かかりつけの内科医がいる場合は、まずそこで相談するのも良いでしょう。
必要に応じて、耳鼻咽喉科や消化器内科など、他の専門科を紹介されることもあります。
医療機関で行う検査
医療機関では、咳の原因を正確に突き止めるために、いくつかの検査を行います。正確な診断のために、ご自身の症状を詳しく伝えることが大切です。
問診で伝えるべきこと
医師は、患者さんからの情報をもとに診断を進めます。以下の点を整理しておくと、診察がスムーズに進みます。
問診で伝えるべき情報の例
項目 | 伝える内容の例 |
---|---|
咳の始まった時期 | 「1ヶ月前から」「1週間前の発熱後から」など |
咳の性質 | 「痰が絡む」「乾いた咳」「夜中にひどくなる」など |
痰の有無・色 | 「黄色いネバネバした痰が出る」「痰は出ない」など |
他の症状 | 発熱、鼻水、胸やけ、息苦しさ、体重減少の有無 |
持病や服用中の薬 | 高血圧、糖尿病、アレルギーの有無、服用薬の名前 |
胸部X線(レントゲン)検査
肺や気管支、心臓の状態を画像で確認する基本的な検査です。肺炎や肺がん、結核、心不全など、多くの呼吸器疾患の診断に役立ちます。
特に、発熱や血痰、呼吸困難を伴う咳の場合には重要な検査となります。
血液検査
体内で炎症が起きているか、アレルギー反応があるかなどを調べます。白血球の数やCRPという炎症反応の数値を見ることで、細菌感染の有無を推測できます。
また、アレルギーが疑われる場合は、特定のアレルゲンに対する抗体(IgE抗体)を測定することもあります。
その他の専門的な検査
必要に応じて、さらに詳しい検査を行うことがあります。
- 呼吸機能検査(スパイロメトリー) 息を吸ったり吐いたりして、肺の機能を調べる検査。咳喘息やCOPDの診断に用います。
- 喀痰検査 痰を採取して、含まれる細菌や細胞を調べます。結核菌やがん細胞の発見につながることがあります。
よくある質問
- Q子供の激しい咳で注意することはありますか?
- A
お子さんの場合、特に注意が必要なのはクループ症候群です。これはウイルスの感染で喉頭(声帯のあたり)が腫れ、「ケンケン」という犬の遠吠えのような特徴的な咳や、息を吸う時の喘鳴が起こります。
呼吸困難が強い場合は夜間でも救急受診が必要です。また、誤って小さな物を飲み込んでしまい、それが咳の原因になっている可能性も考慮に入れる必要があります。
- Q咳止めの市販薬は使っても良いですか?
- A
一時的な症状緩和のために市販薬を使用すること自体は選択肢の一つです。しかし、市販薬には様々な種類があり、症状に合わないものを使うと効果がないばかりか、かえって状態を悪化させることもあります。
特に、痰を伴う湿った咳の場合、無理に咳を止めると気道に痰が溜まり、細菌が繁殖しやすくなることがあります。
長引く咳や激しい咳の場合は、自己判断で薬を使い続けるのではなく、医療機関で原因に応じた適切な治療を受けることが重要です。
市販の咳止め薬を選ぶ際の注意点
咳の種類 薬の選び方のポイント 注意点 乾いた咳 咳中枢に作用する成分(鎮咳薬)を含むもの 眠気が出ることがある 湿った咳(痰がらみ) 痰を出しやすくする成分(去痰薬)を含むもの 鎮咳薬で無理に止めない方が良い場合がある
- Qマスクは咳の悪化を防ぎますか?
- A
マスクの着用は、咳の症状緩和と周囲への配慮の両面で有効です。マスクをすることで、喉の湿度がある程度保たれ、乾燥による刺激を和らげることができます。
また、冷たい空気やホコリなどを直接吸い込むのを防ぐ効果も期待できます。そして何より、咳やくしゃみによる飛沫の拡散を防ぎ、周囲の人へ感染を広げないための大切なマナーです。
- Q咳がひどくて眠れない時はどうすれば良いですか?
- A
夜間に咳がひどくなるのはつらいものです。まず、就寝前に温かい飲み物を飲んで喉を潤しましょう。枕を高くして上半身を少し起こした姿勢で寝ると、気道が広がりやすくなり、鼻水が喉に流れる後鼻漏も軽減されるため、咳が出にくくなることがあります。
また、寝室の加湿も忘れないようにしてください。それでも改善しない場合は、咳喘息や胃食道逆流症など、特定の病気の可能性もあるため、日中に医療機関を受診することを検討しましょう。
以上