ビノレルビン酒石酸塩(ナベルビン)とは抗がん剤の一種で、主に肺がんや乳がんの治療に用いられる薬剤です。

この薬は細胞分裂を阻害することでがん細胞の増殖を抑える働きがあり、化学療法の選択肢として多くの患者さんに処方されている薬物です。

ビノレルビン酒石酸塩は植物由来の成分を元に開発された薬剤で比較的副作用が少ないことが特徴とされています。

ただし個々の患者さんの状態や他の治療法との組み合わせによって効果や副作用の現れ方には個人差があることにご留意ください。

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ビノレルビン酒石酸塩の有効成分 作用機序 効果の詳細

有効成分の特徴

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)はニチニチソウ科の植物であるニチニチソウから抽出されるビンカアルカロイドを基に合成された抗がん剤です。

この化合物は半合成ビンカアルカロイド系抗悪性腫瘍薬に分類され、その構造はビンブラスチンに類似しています。

ビノレルビン酒石酸塩の分子式はC45H54N4O8・2C4H6O6で分子量は1079.11g/molです。

特性詳細
薬剤分類半合成ビンカアルカロイド系
由来ニチニチソウ
分子式C45H54N4O8・2C4H6O6
分子量1079.11g/mol

作用機序の解明

ビノレルビン酒石酸塩の主な作用機序は微小管の重合阻害です。

この薬剤は細胞内のチューブリンに結合し微小管の形成を妨げることで細胞分裂を阻害します。

具体的には以下のステップで作用します。

  • チューブリンとの結合
  • 微小管の重合阻害
  • 有糸分裂の停止
  • アポトーシスの誘導

微小管は細胞分裂時に染色体を分離する紡錘体の形成に重要です。

ビノレルビン酒石酸塩がこの過程を阻害することでがん細胞の増殖を抑制する効果を発揮します。

作用段階影響
G2期微小管形成阻害
M期紡錘体形成不全
S期DNA合成抑制

抗腫瘍効果のメカニズム

ビノレルビン酒石酸塩の抗腫瘍効果は主に細胞周期のG2/M期での作用に基づいています。

この薬剤は微小管の重合を阻害することで有糸分裂を停止させてがん細胞の増殖を抑制します。

加えて アポトーシス(細胞死)を誘導する作用も持ち合わせているのです。

これらの作用によってビノレルビン酒石酸塩は広範囲のがん種に対して効果を示します。

がん種効果
非小細胞肺がん高い有効性
乳がん単剤・併用で有効
卵巣がん再発例にも効果
前立腺がんホルモン抵抗性に有効

臨床効果と適応

ビノレルビン酒石酸塩は非小細胞肺がんや乳がんの治療において重要な役割を果たしています。

非小細胞肺がんに対しては単剤療法や他の抗がん剤との併用療法で使用されて高い奏効率を示しています。

乳がんにおいても進行・再発例に対する治療選択肢として評価されています。

さらに 卵巣がんや前立腺がんなど他のがん種に対しても効果が報告されています。

ビノレルビン酒石酸塩の投与経路には静脈内投与と経口投与があり、患者さんの状態や治療目的に応じて選択されます。

経口投与は患者さんのQOL向上に寄与する可能性があり注目されています。

  • 非小細胞肺がんの一次治療・二次治療
  • 進行・再発乳がんの化学療法
  • 他の抗がん剤との併用療法
  • 経口剤によるメンテナンス療法

以上のように ビノレルビン酒石酸塩は幅広いがん種に対して効果を発揮する抗がん剤として臨床の場で重要な位置を占めています。

適切な使用方法と重要な注意点

投与経路と用量設定

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の投与経路には静脈内投与と経口投与があり、患者さんの状態や治療目的に応じて選択します。

静脈内投与の場合は通常成人には1回20〜25 mg/m²(体表面積)を1週間間隔で緩徐に静脈内に注射します。

経口投与では1回60 mg/m²を1週間間隔で経口投与することが一般的です。

患者さんの年齢・体格・がんの種類・進行度・全身状態などを考慮して個々の症例に応じて適切な用量を決定することが重要です。

投与経路標準的用量投与間隔
静脈内20〜25 mg/m²1週間
経口60 mg/m²1週間

投与前の評価と準備

VNRの投与を開始する前に患者さんの全身状態・臓器機能・骨髄機能などを十分に評価する必要があります。

特に肝機能障害や骨髄抑制がある患者さんでは用量の調整や投与間隔の延長を検討します。

投与前には以下の検査を実施して結果を慎重に評価します。

  • 血液検査(白血球数 好中球数 血小板数 ヘモグロビン値)
  • 肝機能検査(AST ALT ビリルビン)
  • 腎機能検査(クレアチニン eGFR)
  • 心機能検査(必要に応じてECGや心エコー)

これらの検査結果に基づいて投与の可否や用量調整を判断します。

検査項目基準値注意点
好中球数1500/μL以上低値で減量/延期
血小板数100,000/μL以上低値で減量/延期
総ビリルビン1.5 mg/dL以下高値で減量/中止

投与時の注意事項

VNRの静脈内投与時には血管外漏出に十分注意する必要があります。

漏出が起こると重度の組織障害を引き起こす可能性があるため投与部位の観察を頻繁に行います。

投与速度は15分以上かけてゆっくりと行い投与中および投与後も患者さんの状態を注意深く観察します。

経口投与の場合 食事の影響を受けにくいものの、空腹時に服用することが推奨されます。

患者さんには服用時間を一定にして確実に内服するよう指導します。

投与方法注意点
静脈内血管外漏出に注意
経口空腹時に服用

治療効果のモニタリングと用量調整

VNR治療中は定期的に効果判定と副作用モニタリングを行います。

腫瘍の縮小や腫瘍マーカーの低下などを指標に効果を評価して必要に応じて投与計画を見直します。

副作用、特に骨髄抑制の程度を注意深く観察して適切なタイミングで用量調整や支持療法の導入を検討します。

治療効果が不十分な場合や強い副作用が出現した際には他の治療法への変更も考慮します。

ある医師の臨床経験では80歳の非小細胞肺がん患者さんにVNRを投与した際に骨髄抑制が予想以上に強く出現しました。

そのため 2サイクル目から用量を20%減量したところ、副作用をコントロールしつつ腫瘍縮小効果を維持できました。

この経験から高齢者では特に慎重な用量設定と頻回のモニタリングが必要だと実感しています。

評価項目頻度対応
血液検査週1回異常時は減量/延期
画像検査2-3サイクル毎PD時は治療変更
副作用評価毎回診察時グレードに応じて対応

患者教育と生活指導

VNR治療を受ける患者さんには治療の目的 予想される効果 起こりうる副作用について十分に説明して理解を得ることが大切です。

患者さんとその家族に行う指導は具体的に以下の点です。

  • 発熱や体調不良時の速やかな連絡
  • 感染予防策(手洗い うがい マスク着用)
  • 食事や水分摂取の重要性
  • 適度な休息と運動のバランス
  • 禁煙や節酒の必要性

これらの指導によって患者さんのQOL維持と治療の継続性向上を図ります。

適応対象患者さん

非小細胞肺がん患者への適応

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)は非小細胞肺がん患者さんに対して広く使用される抗がん剤です。

特に進行・再発例や手術不能例においてVNRの投与が考慮され、ステージIIIB/IV期の患者さんや術後再発を来した患者さんが主な対象となります。

化学療法未治療の患者さんだけでなく前治療歴のある患者さんにも使用可能です。

病期VNR適応
IIIB期
IV期
術後再発

乳がん患者への適応

VNRは進行・再発乳がん患者さんに対しても有効性が認められていてホルモン受容体陽性/陰性、HER2陽性/陰性にかかわらず使用を検討します。

アンスラサイクリン系薬剤やタキサン系薬剤による前治療歴がある患者さんにも投与可能で転移性乳がんや局所進行乳がんの患者さんが主な対象となります。

乳がんサブタイプVNR適応
ホルモン受容体陽性
トリプルネガティブ
HER2陽性

その他のがん種への適応

VNRは非小細胞肺がんや乳がん以外のがん種にも使用されることがあります。

卵巣がん患者さん、特にプラチナ製剤抵抗性の再発例に対してVNRの投与を考慮します。

前立腺がん患者さんのうちホルモン療法不応例や去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)患者さんにも使用を検討します。

その他頭頸部がんや食道がんなどにおいても個々の症例に応じてVNRの使用を判断します。

がん種VNR適応の可能性
卵巣がん
前立腺がん
頭頸部がん
食道がん

高齢者への適応

VNRは高齢者にも比較的安全に使用できる抗がん剤として知られています。

70歳以上の患者さんでも全身状態が良好であれば投与を考慮しますが、高齢者には臓器機能低下や併存疾患の影響を慎重に評価する必要があります。

個々の患者さんの状態に応じて 用量調整や投与間隔の延長を検討します。

  • 全身状態(PS)の評価
  • 主要臓器機能の確認
  • 併存疾患の管理状況
  • 社会的サポート体制の確認

これらの項目を総合的に判断して高齢者へのVNR投与の適否を決定します。

年齢VNR適応の条件
70-75歳PS良好 主要臓器機能正常
75-80歳PS0-1 臓器機能軽度低下まで
80歳以上個別に慎重判断

特殊な状況下での適応

VNRは様々な状況下の患者さんにも使用を検討できます。

例えば脳転移を有する患者さんにおいても全身状態が保たれていれば投与可能です。

骨転移による疼痛コントロール目的での使用も症例によっては考慮します。

パフォーマンスステータス(PS)が低下した患者さんでは慎重な判断が必要ですが、PS2までの患者さんであれば投与を検討します。

  • 脳転移患者 症状安定例
  • 骨転移患者 疼痛コントロール不良例
  • PS1-2の患者
  • 軽度の臓器機能障害を有する患者

これらの特殊な状況下では患者さんの全身状態や予後予測 QOL維持の観点から総合的に判断します。

特殊状況VNR適応判断
脳転移あり症状安定なら○
骨転移あり疼痛強ければ○
PS2慎重に判断

VNRの適応判断において患者さん個々の状態を詳細に評価して有効性と安全性のバランスを考慮することが重要です。

治療期間と継続基準

標準的な治療サイクル

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の治療期間はがん種や病期、患者さんの全身状態などに応じて個別に決定します。

一般的に1サイクルを3〜4週間として4〜6サイクルの投与を行うことが多いです。

非小細胞肺がんの場合にはプラチナ製剤との併用療法で4〜6サイクルの投与が標準的です。

乳がんでは単剤療法として6〜8サイクルの投与を行うケースが多く見られます。

がん種標準的サイクル数
非小細胞肺がん4〜6サイクル
乳がん6〜8サイクル

治療効果判定と継続基準

VNR治療の継続には定期的な効果判定が重要です。

通常2〜3サイクルごとにCT検査などの画像評価を行い腫瘍縮小効果を確認します。

RECIST基準に基づき Complete Response(CR) Partial Response(PR) Stable Disease(SD) Progressive Disease(PD)の4段階で評価します。

CR、PR、SDの場合は原則として治療を継続し、PDと判定された時点で治療変更を検討します。

  • CRまたはPR 治療継続
  • SD 病勢コントロール良好なら継続
  • PD 治療変更を検討

腫瘍マーカーの推移も参考にしますが、画像所見との乖離に注意が必要です。

効果判定治療方針
CR/PR継続
SD症例に応じて判断
PD変更を検討

長期投与の可能性と注意点

VNRは比較的忍容性が高く長期投与が可能な薬剤です。効果が持続し副作用が許容範囲内であれば 6サイクル以降も継続投与を検討します。

特に乳がんや非小細胞肺がんの維持療法として長期投与のエビデンスが蓄積されつつあります。

ただし長期投与に伴う蓄積毒性には注意が必要です。

  • 末梢神経障害の進行
  • 骨髄抑制の遷延
  • 肝機能障害の悪化
  • QOL低下のリスク

上記のような副作用を定期的に評価して用量調整や休薬期間の延長を適宜検討します。

長期投与のメリット注意すべき点
病勢コントロール継続蓄積毒性
QOL維持耐性獲得

治療中止の判断基準

VNR治療の中止を検討する状況にはいくつかのパターンがあります。

明らかなPDが確認された場合や重篤な有害事象が発現した際には即時中止を考慮します。

長期SDが続いている場合でも累積毒性のリスクを考慮して休薬や中止を検討することがあります。

患者さんの希望や社会的要因も治療継続の判断に影響を与えます。

中止検討基準具体例
病勢進行新規病変出現
重篤有害事象Grade 3以上の非血液毒性
長期SD6ヶ月以上のSD継続

治療終了後のフォローアップ

VNR治療終了後も定期的なフォローアップが重要で治療終了後3〜6ヶ月ごとに画像検査と腫瘍マーカー測定を行うのが一般的です。

再発や転移の早期発見に努めて必要に応じて再治療や他の治療法への変更を検討します。

晩期有害事象にも注意を払い長期的なQOL維持を目指します。

  • 定期的な画像検査(CT MRI等)
  • 腫瘍マーカー測定
  • 自覚症状の確認
  • 晩期有害事象のチェック

フォローアップ期間はがん種や病期、再発リスクに応じて個別化します。

フォローアップ項目頻度
画像検査3〜6ヶ月毎
腫瘍マーカー1〜3ヶ月毎
診察1〜2ヶ月毎

ある医師の臨床経験では70歳の非小細胞肺がん患者さんにVNRを8サイクル投与してPRを維持していました。

9サイクル目開始前に軽度の末梢神経障害が出現したため2週間の休薬後に75%に減量して継続しました。

結果的に15サイクルまで投与可能となり、2年以上の無増悪生存期間を達成できました。

このケースからVNRの長期投与には慎重な副作用管理と柔軟な用量調整が重要だと実感しています。

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の副作用とデメリット

骨髄抑制

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の主要な副作用として骨髄抑制が挙げられます。

特に好中球減少は高頻度に発現し、時に重篤化するリスクがあります。

血小板減少や貧血も生じる可能性があり定期的な血液検査によるモニタリングが重要です。

グレード3以上の好中球減少は約30〜40%の患者さんで発現するとされ、発熱性好中球減少症のリスクにも注意が必要です。

骨髄抑制の種類発現頻度
好中球減少30〜40%
貧血20〜30%
血小板減少10〜20%

消化器症状

VNR投与に伴う消化器症状は患者さんのQOLに大きな影響を与えるデメリットです。

悪心・嘔吐は比較的高頻度に発現し、食欲不振や体重減少につながる恐れが生じます。

下痢や便秘といった症状も報告されており、適切な対症療法が求められます。

まれに重度の腸炎を引き起こすこともあるため注意深い経過観察が重要です。

  • 悪心・嘔吐
  • 食欲不振
  • 下痢・便秘
  • 口内炎

これらの症状は患者さんの栄養状態や全身状態に影響を与えて治療の継続性を脅かす可能性があります。

末梢神経障害

VNRによる末梢神経障害は累積投与量に伴い発現リスクが高まるデメリットです。

しびれや感覚異常から始まり、重度では運動機能にも影響を及ぼす可能性があります。

一度発症すると改善に時間を要し、QOLの長期的な低下につながる恐れがあります。

末梢神経障害の発現頻度は全グレード合わせて20〜30%程度とされています。

末梢神経障害のGrade症状
Grade 1軽度のしびれ
Grade 2日常生活に支障
Grade 3高度の機能障害

肝機能障害

VNR投与に伴う肝機能障害は慎重なモニタリングを要する副作用です。

AST・ALT・ALP・γ-GTPなどの肝酵素上昇が認められることがあります。

重度の肝機能障害は稀ですが、発現した際は投与中止や減量を検討する必要があります。

肝機能障害の発現頻度は10〜20%程度とされていますが、多くは軽度から中等度です。

肝機能検査項目異常値の目安
AST/ALT基準値上限の3倍以上
ALP基準値上限の2倍以上
総ビリルビン2.0 mg/dL以上

過敏症状

VNRによる過敏症状はまれではありますが重篤化する可能性のあるデメリットです。

投与直後から数時間以内に発現することが多く、即時の対応が求められます。

症状は軽度の発疹や掻痒感からアナフィラキシーショックまで幅広く存在します。過去に類似薬での過敏症歴がある患者さんでは特に注意が必要です。

  • 皮疹・掻痒感
  • 呼吸困難
  • 血圧低下
  • 顔面浮腫

これらの症状が認められた際は直ちに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。

過敏症の重症度対応
軽度投与中止・経過観察
中等度抗ヒスタミン薬・ステロイド
重度エピネフリン・気道確保

血管外漏出

VNRの静脈内投与時における血管外漏出は重大な組織障害を引き起こす可能性があるデメリットです。

漏出部位の疼痛・発赤・腫脹から始まり、重度では組織壊死に至ることがあります。

予防には太い血管への確実な穿刺と投与中の頻回な観察が重要です。漏出が疑われた際は直ちに投与を中止し適切な局所処置を行う必要があります。

漏出時の症状処置
疼痛・発赤冷罨法
腫脹局所ステロイド
壊死兆候形成外科的介入

ある医師の臨床経験では70歳の非小細胞肺がん患者さんにVNRを投与した際、4サイクル目に重度の末梢神経障害が出現しました。

投与を一時中断して50%減量で再開しましたが、症状の改善に3ヶ月以上を要しました。

この経験からVNRの副作用管理には早期発見と迅速な対応が大切だと実感しています。

代替薬選択

タキサン系薬剤への転換

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)治療が奏効しなかった患者さんに対しタキサン系薬剤への切り替えを検討します。

パクリタキセルやドセタキセルはVNRと異なる作用機序を持つため交差耐性が少ないという利点があります。

これらの薬剤は微小管の脱重合を阻害することで抗腫瘍効果を発揮し、非小細胞肺がんや乳がんに対する有効性が確立されています。

ナブパクリタキセルはアルブミンと結合した製剤で溶解補助剤による副作用リスクが低いことが特徴です。

薬剤名投与間隔主な副作用
パクリタキセル毎週/3週毎末梢神経障害
ドセタキセル3週毎浮腫
ナブパクリタキセル毎週/3週毎骨髄抑制

トポイソメラーゼ阻害薬の選択

VNR治療後の次の選択肢としてトポイソメラーゼ阻害薬が挙げられます。

イリノテカンやトポテカンは DNAの複製や転写を阻害することで抗腫瘍効果を示します。

これらの薬剤はVNRとは全く異なる作用機序を持つため前治療の影響を受けにくいという利点があります。

非小細胞肺がん・小細胞肺がん・卵巣がんなどに対する有効性が報告されています。

  • イリノテカン 2週間毎投与
  • トポテカン 5日間連続投与後 2週間休薬

副作用プロファイルもVNRとは異なるため患者さんの状態に応じて選択します。

薬剤名主な適応がん特徴的副作用
イリノテカン非小細胞肺がん下痢
トポテカン小細胞肺がん骨髄抑制

分子標的薬への移行

VNR治療後の選択肢として分子標的薬への移行を検討することも重要です。

EGFR遺伝子変異陽性例ではエルロチニブやオシメルチニブなどのEGFR-TKIが高い有効性を示します。

ALK融合遺伝子陽性例に対してはアレクチニブやロルラチニブといったALK阻害薬が選択肢です。

これらの分子標的薬は従来の細胞障害性抗がん剤とは異なる作用機序を持つためVNR耐性例でも効果が期待できます。

遺伝子変異代表的薬剤投与経路
EGFR変異オシメルチニブ経口
ALK融合遺伝子アレクチニブ経口
ROS1融合遺伝子エヌトレクチニブ経口

免疫チェックポイント阻害薬の考慮

VNR治療後の新たな選択肢として免疫チェックポイント阻害薬の使用を検討します。

ペムブロリズマブやニボルマブなどのPD-1阻害薬は腫瘍の免疫逃避機構を阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。

これらの薬剤は非小細胞肺がん・頭頸部がん・尿路上皮がんなど幅広いがん種で有効性が示されています。

PD-L1発現率やMSI-High statusなどのバイオマーカーに基づいて適応を判断することが大切です。

  • ペムブロリズマブ 3週間毎または6週間毎投与
  • ニボルマブ 2週間毎または4週間毎投与
  • アテゾリズマブ 2週間毎または3週間毎投与

免疫関連有害事象(irAE)に注意しながら長期投与による持続的な効果を目指します。

薬剤名標的分子主な適応がん
ペムブロリズマブPD-1非小細胞肺がん
ニボルマブPD-1悪性黒色腫
アテゾリズマブPD-L1尿路上皮がん

抗体薬物複合体(ADC)の活用

VNR治療後の新たな治療戦略として抗体薬物複合体(ADC)の使用を考慮します。

トラスツズマブ デルクステカンはHER2を標的とするADCで、乳がんや胃がんに対する有効性が示されています。

エンホルツマブ ベドチンはNectin-4を標的として尿路上皮がんに対する新たな選択肢です。

これらのADCは抗体の特異性と強力な細胞傷害性薬剤を組み合わせることで高い抗腫瘍効果を発揮します。

薬剤名標的分子主な適応がん
トラスツズマブ デルクステカンHER2乳がん
エンホルツマブ ベドチンNectin-4尿路上皮がん

ある医師の臨床経験ではVNR治療後にPD-L1高発現 (TPS≥50%) が確認された非小細胞肺がん患者さんにペムブロリズマブを投与したところ2年以上のPRが得られました。

この経験からVNR無効例でも適切なバイオマーカー評価に基づく治療選択により長期的な治療効果が得られる可能性があると実感しています。

併用禁忌と相互作用

他の抗がん剤との併用

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)は他の抗がん剤との併用時に特別な注意が必要です。

特にミトマイシンCとの併用は重篤な間質性肺炎のリスクが高まるため原則として避けるべきです。

両薬剤の肺毒性が相乗的に作用して致命的な呼吸不全を引き起こすリスクがあります。

他のアルカロイド系抗がん剤(ビンクリスチン ビンブラスチンなど)との併用も神経毒性の増強を招くため 慎重に検討する必要があります。

併用注意薬主な相互作用
ミトマイシンC間質性肺炎
ビンクリスチン神経毒性増強
ビンブラスチン骨髄抑制増強

CYP3A4阻害薬との相互作用

VNRは主にCYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害作用を持つ薬剤との併用に注意が必要です。

イトラコナゾールやリトナビルなどの強力なCYP3A4阻害薬はVNRの血中濃度を著しく上昇させる恐れがあります。

これらの薬剤との併用時にはVNRの減量や投与間隔の延長を検討する必要があります。

逆にCYP3A4誘導薬(リファンピシン カルバマゼピンなど)はVNRの血中濃度を低下させる恐れがあります。

  • イトラコナゾール
  • リトナビル
  • クラリスロマイシン
  • ベラパミル

これらの薬剤との併用時には慎重な経過観察と必要に応じた用量調整が重要です。

CYP3A4阻害薬VNRへの影響
イトラコナゾール血中濃度上昇
リトナビル代謝遅延
クラリスロマイシン毒性増強

放射線療法との併用

VNRと放射線療法の同時併用は重篤な副作用のリスクが高まるため原則として避けるべきです。

特に胸部への放射線照射とVNRの併用は重度の食道炎や肺臓炎を引き起こすリスクがあります。

やむを得ず併用する際は照射野や照射量を慎重に設定して厳重な経過観察が必要です。

放射線療法とVNR投与のタイミングを適切に調整することで副作用リスクを最小限に抑えることが大切です。

併用療法主なリスク
胸部照射+VNR重度食道炎
全脳照射+VNR神経毒性増強
骨盤部照射+VNR腸炎悪化

免疫抑制剤との相互作用

VNRと免疫抑制剤の併用は重度の骨髄抑制や感染症リスクの上昇につながる恐れがあります。

シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬はVNRの代謝に影響を与えて副作用を増強するリスクがあります。

これらの薬剤を使用中の患者さんにVNRを投与する際は慎重な用量設定と頻回の血液検査が重要です。

ステロイド剤との併用も感染リスクを高める可能性があるため必要最小限の使用にとどめることが望ましいです。

免疫抑制剤VNRとの相互作用
シクロスポリン骨髄抑制増強
タクロリムス代謝遅延
プレドニゾロン感染リスク上昇

抗凝固薬との併用注意

VNRと抗凝固薬の併用は出血リスクの増加に注意が必要です。

ワルファリンとの併用ではVNRがワルファリンの代謝を阻害し抗凝固作用を増強する可能性があります。

直接経口抗凝固薬(DOAC)との併用でも出血リスクが高まる恐れがあるため慎重な経過観察が重要です。

併用時にはPT-INRや活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)のモニタリングを頻回に行って必要に応じて用量調整を検討します。

  • ワルファリン
  • アピキサバン
  • リバーロキサバン
  • エドキサバン

これらの薬剤との併用時には出血症状の早期発見と適切な対応が大切です。

抗凝固薬注意点
ワルファリンPT-INR上昇
アピキサバン出血時間延長
リバーロキサバン消化管出血リスク

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の薬価と処方コスト

薬価

ビノレルビン酒石酸塩(VNR)の薬価は剤形によって異なります。

注射剤の場合は10mg1mLあたり2,268円、40mg4mLあたり8,014円となっています。

剤形含量薬価
注射剤10mg/1mL2,268円
注射剤40mg/4mL8,014円

処方期間による総額

VNRの処方期間に応じた総額は 用法・用量により変動します。

体表面積1.7m2弱の方で標準的な用法・用量で使用した際、1週間処方の場合の金額は8,014円となります。

1ヶ月処方では注射剤で32,056円になると試算できます。

  • 1週間処方 8,014円
  • 1ヶ月処方 注射剤 32,056円

これらの金額は標準的な投与量に基づく概算であり実際の処方内容により変動する点に留意が必要です。

処方期間注射剤総額
1週間28,506円
1ヶ月114,024円

ジェネリック医薬品との比較

VNRのジェネリック医薬品は、残念ながら本邦では販売されていません。

本来ジェネリック医薬品の薬価は先発品の7〜8割程度となっており患者さん負担の軽減につながります。

ある医師の臨床経験では進行非小細胞肺がん患者さんにシスプラチン・ビノノノレルビン療法を行う際ジェネリック品を使用したところ、先発品と同等の有効性を示しつつ患者さんの経済的負担を約20%軽減できました。

なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文