シベレスタットナトリウム水和物とは重症の急性呼吸窮迫症候群(きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん)の患者さんに使用される呼吸器治療薬です。

この薬は肺の炎症を抑える効果があり、呼吸機能の改善を目指します。

エラスポールという商品名でも知られており、主に集中治療室で使用されるのが基本で、重篤な呼吸器疾患に対して医師の厳密な管理のもとで投与されます。

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有効成分と作用機序、効果

有効成分の特徴

シベレスタットナトリウム水和物の有効成分は化学名でN-[2-[4-(2,2-ジメチルプロパノイルオキシ)フェニルスルホニルアミノ]ベンゾイル]アミノ酢酸四水和物ナトリウム塩と呼ばれる化合物です。

この化合物は分子量578.55の白色~微黄白色の結晶性の粉末で水に溶けやすい特徴を持っています。

構造式は複雑ですが、主にベンゼン環とスルホニル基アミド結合を含む特徴的な分子構造を有しています。

項目詳細
化学名N-[2-[4-(2,2-ジメチルプロパノイルオキシ)フェニルスルホニルアミノ]ベンゾイル]アミノ酢酸四水和物ナトリウム塩
分子量578.55
性状白色~微黄白色の結晶性粉末
溶解性水に溶けやすい

作用機序の解明

シベレスタットナトリウム水和物の主な作用機序は好中球エラスターゼの選択的阻害作用です。

好中球エラスターゼは炎症反応において重要な役割を果たすタンパク質分解酵素であり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重症呼吸器疾患で過剰に活性化されることがあります。

シベレスタットナトリウム水和物はこの好中球エラスターゼの活性部位に結合して、その機能を阻害することで炎症反応を抑制します。

具体的に確認されている作用は次のようなものです。

  • 好中球の血管内皮細胞への接着抑制
  • サイトカイン産生の抑制
  • 血管透過性亢進の抑制

分子レベルでの阻害メカニズム

シベレスタットナトリウム水和物の分子構造は好中球エラスターゼの活性部位と高い親和性を持つように設計されています。

この薬剤が好中球エラスターゼと結合すると酵素の触媒活性が失われ、基質であるタンパク質の分解が抑制されます。

作用段階詳細
第1段階シベレスタットが好中球エラスターゼに接近
第2段階活性部位との結合
第3段階酵素活性の阻害
第4段階タンパク質分解の抑制

この阻害作用は可逆的であるため薬剤の濃度が低下すると徐々に酵素活性が回復します。

臨床効果の評価

シベレスタットナトリウム水和物の臨床効果は主に急性肺障害や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者さんを対象とした臨床試験で評価されています。

これらの研究では肺機能の改善や人工呼吸器からの離脱期間の短縮などの効果が報告されています。

具体的な効果としては以下のような点です。

  • 動脈血酸素分圧(PaO2)の改善
  • 肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)の減少
  • 人工呼吸器装着期間の短縮
  • 集中治療室滞在日数の減少
評価項目効果
PaO2改善
AaDO2減少
人工呼吸器装着期間短縮
ICU滞在日数減少

これらの効果は好中球エラスターゼの阻害による肺の炎症抑制と組織障害の軽減によってもたらされると考えられています。

シベレスタットナトリウム水和物の投与によって肺胞上皮細胞や血管内皮細胞の損傷が抑えられ、肺の構造と機能が保護されることが臨床効果の基盤です。

使用方法と注意点

投与経路と用法

シベレスタットナトリウム水和物は通常静脈内への持続注入によって投与されます。

この薬剤は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性肺障害(ALI)などの重症呼吸器疾患の患者さんに対して集中治療室や病院の高度医療ユニットで使用されます。

投与量は患者さんの体重や症状の程度に応じて医師が慎重に決定します。

投与経路用法
静脈内持続注入
投与場所ICUまたは高度医療ユニット
投与量決定体重と症状に基づく

一般的な投与量は体重1kgあたり1日0.2mgですが、個々の患者さんの状態によって調整される可能性があります。

投与期間は通常14日間を超えないようにされますが、患者さんの反応や臨床経過によって医師が判断します。

投与前の準備と注意事項

シベレスタットナトリウム水和物の投与を開始する前には患者さんの全身状態や肝機能腎機能などを詳細に評価することが重要です。

特に重度の肝機能障害や腎機能障害がある方では慎重な投与が求められます。

以下の点に注意して投与前の準備を行わなければなりません。

  • 患者さんの既往歴と現在の症状の確認
  • 血液検査による肝機能腎機能の評価
  • アレルギー歴の確認
  • 併用薬の確認と相互作用の検討

投与直前には薬剤の溶解状態や濃度を確認して適切な輸液ラインを確保することが不可欠です。

準備項目内容
患者評価全身状態肝腎機能
薬剤準備溶解状態濃度確認
投与経路輸液ライン確保

投与中のモニタリング

シベレスタットナトリウム水和物の投与中は患者さんの呼吸状態や循環動態を継続的にモニタリングすることが大切です。

特に動脈血酸素飽和度(SpO2)や動脈血ガス分析の結果に注目して肺機能の改善を評価します。

また肝機能や腎機能の指標となる血液検査値も定期的に確認して副作用の早期発見に努めます。

投与速度や投与量の調整が必要な際は医師の指示に従って慎重に行います。

モニタリング項目頻度
SpO2持続的
動脈血ガス定期的
肝機能検査定期的
腎機能検査定期的

患者さんの全身状態や意識レベルの変化にも注意を払い、異常が認められた場合は速やかに医師に報告することが求められます。

投与中止の判断と注意点

シベレスタットナトリウム水和物の投与中止の判断は慎重に行われなければなりません。

以下のような状況では投与中止を検討する可能性が生じます。

  • 肺機能の著明な改善が見られた場合
  • 重篤な副作用が発現した場合
  • 投与開始後14日が経過した場合
  • 患者さんの全身状態が悪化し治療方針の変更が必要となった場合

投与中止の際は急激な中止を避け段階的に減量することが推奨されます。

中止後も一定期間は患者さんの状態を注意深く観察し、再増悪のリスクに備えることが重要です。

中止判断基準対応
肺機能改善段階的減量
副作用発現即時中止検討
14日経過継続必要性再評価
全身状態悪化治療方針再検討

シベレスタットナトリウム水和物の使用にあたっては医師看護師薬剤師などの医療チームが密接に連携し、患者さんの状態に応じた細やかな対応を行うことが求められます。

適応対象となる患者

ARDS患者

シベレスタットナトリウム水和物は主に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)と診断された患者さんに使用されます。

ARDSは重篤な肺の炎症状態を指し急激に進行する呼吸不全を特徴とする症候群です。

この状態では肺胞と毛細血管の間にある障壁が損傷し、肺に液体が蓄積することで酸素の取り込みが著しく障害されます。

ARDS診断基準内容
発症1週間以内の急性発症
画像所見両側性の浸潤影
原因心原性肺水腫の除外
酸素化PaO2/FiO2比 ≤ 300 mmHg

ARDSの原因は多岐にわたり敗血症肺炎外傷などの直接的な肺傷害や重症膵炎などの全身性疾患に続発することがあります。

シベレスタットナトリウム水和物はこれらの患者さんにおいて肺の炎症を抑制し呼吸機能の改善を目指す目的で使用されます。

重症敗血症に伴う急性肺障害患者

敗血症は全身性の炎症反応を引き起こす重篤な感染症であり、急性肺障害(ALI)やARDSの主要な原因の一つです。

シベレスタットナトリウム水和物は敗血症に伴う急性肺障害を呈する患者様にも適応があります。

この状況下では全身の炎症反応が肺に波及し好中球の活性化と浸潤が顕著となります。

以下のような所見が認められる患者さんが対象となるでしょう。

  • 感染症の徴候(発熱頻脈など)
  • 全身性炎症反応症候群(SIRS)の基準を満たす
  • 肺機能の急激な悪化
  • 胸部X線やCTでのびまん性浸潤影
敗血症診断基準基準値
体温>38℃ or <36℃
心拍数>90回/分
呼吸数>20回/分
白血球数>12000/μL or <4000/μL

シベレスタットナトリウム水和物は好中球エラスターゼを阻害することで肺組織の損傷を軽減し呼吸機能の維持改善に寄与することが期待されます。

手術後の急性肺障害患者

大規模な手術、特に胸部や腹部の手術後に急性肺障害を発症する患者さんもシベレスタットナトリウム水和物の適応対象となる場合があります。

手術による組織損傷や全身麻酔の影響で炎症反応が惹起され、肺機能が急激に悪化することがあるのです。

このような状況で以下の症状や所見が認められる患者さんが考慮されます。

  • 術後48時間以内の呼吸困難の出現
  • 酸素化指標(PaO2/FiO2比)の低下
  • 胸部画像検査での新たな浸潤影
  • 心原性肺水腫や肺炎などの他の原因が除外される
術後ALI/ARDSリスク因子
患者要因高齢喫煙既往歴
手術要因長時間手術緊急手術
麻酔要因大量輸液高濃度酸素

これらの患者さんにおいてシベレスタットナトリウム水和物の使用は術後の急性肺障害の進行を抑制し早期の呼吸機能回復を促す可能性があります。

他の原因による急性肺障害患者

ARDSや敗血症手術後以外にも様々な原因で急性肺障害を発症する患者さんがシベレスタットナトリウム水和物の適応対象となることがあります。

例えば以下のような状況が挙げられます。

  • 重症外傷(特に胸部外傷)後の肺障害
  • 誤嚥性肺炎による急性呼吸不全
  • 輸血関連急性肺障害(TRALI)
  • 薬剤性肺障害

これらの病態においても好中球の過剰な活性化と肺組織への浸潤が病態の本質的な部分を占めています。

シベレスタットナトリウム水和物の使用を検討する際には個々の患者さんの病態や重症度を慎重に評価し、投与のリスクとベネフィットを十分に考慮することが重要です。

原因別ALI/ARDS特徴
外傷性直接的肺損傷
誤嚥性化学的炎症
TRALI抗体介在性
薬剤性特異的反応

患者さんの年齢既往歴現在の全身状態などを総合的に判断し、医師が個別に投与の適否を決定します。

治療期間と予後

標準的な治療期間

シベレスタットナトリウム水和物の治療期間は一般的に14日間を超えないよう設定されています。

この期間は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性肺障害(ALI)の急性期を乗り越えるのに十分な時間とされており、多くの臨床試験でもこの期間が採用されています。

ただし患者さんの状態や反応によっては医師の判断で治療期間が調整されることがあります。

治療期間考慮事項
標準期間最長14日間
短縮早期改善時
延長遷延化症例

治療開始後は定期的に患者さんの呼吸機能や全身状態を評価して必要に応じて投与期間を見直すことが重要です。

治療効果の評価指標

シベレスタットナトリウム水和物の治療効果を評価する際には複数の指標が用いられます。

主な評価項目は以下の通りです。

  • 動脈血酸素分圧(PaO2)の改善
  • 人工呼吸器からの離脱期間
  • 集中治療室(ICU)滞在日数
  • 28日後生存率

これらの指標を総合的に判断して治療の継続や中止の判断がなされます。

評価指標目標値
PaO2/FiO2比>300mmHg
人工呼吸器離脱7日以内
ICU滞在期間14日以内
28日後生存率>70%

治療効果が不十分な場合には他の治療法との併用や治療戦略の見直しが検討されることがあります。

予後に影響を与える因子

シベレスタットナトリウム水和物による治療を受けた患者さんの予後は様々な因子によって影響を受けます。

主な予後予測因子は以下のようなものです。

  • 年齢(高齢ほど予後不良)
  • 基礎疾患の有無と重症度
  • ARDSの原因(直接的肺障害か間接的肺障害か)
  • 治療開始時のPaO2/FiO2比
  • 多臓器不全の合併の有無

これらの因子を考慮しながら個々の患者さんに対する予後予測や治療方針の決定が行われます。

予後因子影響
若年良好
高齢不良
基礎疾患なし良好
多臓器不全不良

患者さんの全身状態や併存症の管理も予後改善には重要で、包括的なアプローチが求められます。

長期予後と生活の質

シベレスタットナトリウム水和物による急性期の治療を乗り越えた患者の長期予後についても注目が集まっています。

ARDS survivors(ARDS生存者)と呼ばれるこれらの患者さんでは急性期を脱した後も様々な健康上の課題に直面することが明らかになっています。

報告されている長期的な影響は以下のような点です。

  • 肺機能の持続的な低下
  • 神経認知機能障害
  • 筋力低下や全身衰弱
  • うつや不安などの精神的問題

このような問題に対応するため退院後のフォローアップや包括的なリハビリテーションプログラムの重要性が認識されています。

長期合併症頻度
肺機能低下30-50%
認知機能障害25-75%
筋力低下30-80%
精神的問題20-40%

患者さんの生活の質(QOL)を向上させるためには急性期の治療だけでなく長期的な視点での支援体制の構築が大切です。

シベレスタットナトリウム水和物による治療は急性期の生命予後改善に寄与する可能性がありますが、長期的な機能予後や生活の質の向上には多職種による継続的なケアが不可欠です。

副作用やデメリット

一般的な副作用

シベレスタットナトリウム水和物は多くの医薬品と同様に様々な副作用を引き起こす可能性があります。

臨床試験や市販後調査で報告されている主な副作用は次の通りです。

  • 肝機能障害(AST ALT γ-GTPの上昇など)
  • 腎機能障害(BUN クレアチニンの上昇など)
  • 血液学的異常(白血球減少 血小板減少など)
  • 消化器症状(嘔気 嘔吐 下痢など)

これらの副作用の多くは一過性であり投与中止により改善することが多いですが、慎重なモニタリングが必要です。

副作用頻度
肝機能障害5-10%
腎機能障害3-8%
血液学的異常2-5%
消化器症状1-3%

医療従事者は投与前および投与中に定期的な血液検査や臨床症状の観察を行って副作用の早期発見に努めることが大切です。

重大な副作用

シベレスタットナトリウム水和物の使用に際しては稀ではありますが重大な副作用にも注意が必要です。

特に注意すべき重大な副作用としては以下のようなものが報告されています。

  • ショック アナフィラキシー
  • 重度の肝機能障害
  • 急性腎障害
  • 白血球減少症 顆粒球減少症
  • 血小板減少症

これらの重大な副作用は発現頻度は低いものの生命に関わる可能性があるため早期発見と適切な対応が重要です。

重大な副作用初期症状
ショック血圧低下 冷汗
肝機能障害黄疸 倦怠感
急性腎障害浮腫 尿量減少
血液障害発熱 倦怠感

医療従事者は患者さんに対してこれらの症状が現れた際には直ちに報告するよう指導することが大切です。

特定の患者群におけるリスク

シベレスタットナトリウム水和物の使用に際しては特定の患者群でリスクが高まる可能性があります。

特に慎重な投与が求められるのは以下のような患者さんです。

  • 高齢者
  • 肝機能障害のある患者
  • 腎機能障害のある患者
  • 出血傾向のある患者
  • 妊婦または妊娠している可能性のある女性

これらの患者群では副作用のリスクが高まるだけでなく薬物動態が変化する可能性もあるため、個別の用量調整や頻回のモニタリングが必要となることがあります。

患者群注意点
高齢者低用量から開始
肝機能障害肝機能モニタリング
腎機能障害腎機能モニタリング
出血傾向凝固能検査

医師は患者さんの背景因子を十分に考慮し、個々の症例に応じたリスク・ベネフィット評価を行うことが重要です。

長期使用に関する懸念

シベレスタットナトリウム水和物の長期使用に関しては十分なデータが蓄積されておらず一定の懸念があります。

通常14日間を超えない投与期間が推奨されていますが、長期使用に伴う潜在的なリスクとして指摘されている点は次のようなものです。

  • 耐性の発現
  • 免疫機能への影響
  • 予期せぬ臓器障害の発生
  • 薬物相互作用の増加

これらの懸念事項は現時点では仮説的なものも多く今後のさらなる研究や長期フォローアップが必要とされています。

長期使用の懸念想定されるリスク
耐性発現効果減弱
免疫機能影響感染リスク上昇
臓器障害肝腎機能悪化
薬物相互作用予期せぬ副作用

医療従事者は長期使用を検討する際にはこれらの潜在的リスクを念頭に置き慎重な判断を行うことが求められます。

シベレスタットナトリウム水和物の効果がなかった場合の代替治療薬

抗炎症薬としてのステロイド

シベレスタットナトリウム水和物が十分な効果を示さない場合の代替治療として全身性ステロイド薬の使用が検討されることがあります。

ステロイド薬は強力な抗炎症作用を有し急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性肺障害(ALI)の治療に長年使用されてきました。

代表的な薬剤はメチルプレドニゾロンやヒドロコルチゾンです。

これらの薬剤は炎症性サイトカインの産生を抑制し肺の炎症反応を広範囲に抑える効果が期待されています。

ステロイド薬一般的な投与量
メチルプレドニゾロン1-2 mg/kg/日
ヒドロコルチゾン200-300 mg/日

ただしステロイド薬の使用には感染リスクの増大や血糖上昇などの副作用があるため慎重な投与が求められます。

サイトカイン調節薬

シベレスタットナトリウム水和物が効果を示さない症例においてサイトカイン調節薬が代替治療として考慮されることがあります。

これらの薬剤は過剰な炎症反応を抑制することでARDSやALIの病態改善を目指します。

代表的な薬剤はIL-1受容体拮抗薬であるアナキンラやIL-6受容体拮抗薬であるトシリズマブなどです。

これらの薬剤は特定のサイトカインの作用を選択的に阻害することで炎症のカスケードを遮断する効果が期待されています。

サイトカイン調節薬標的分子
アナキンラIL-1受容体
トシリズマブIL-6受容体

しかしこれらの薬剤のARDSやALIに対する有効性は現在も研究段階であり慎重な使用が求められます。

抗凝固薬

シベレスタットナトリウム水和物による治療が奏功しない場合に抗凝固療法が代替または補助的治療として検討されることがあります。

ARDSやALIでは肺微小血管内での凝固亢進が病態の一部を形成していることが知られています。

代表的な抗凝固薬はヘパリンや低分子ヘパリン ナファモスタットメシル酸塩などです。

これらの薬剤は微小血栓の形成を抑制して肺循環を改善することで酸素化の改善や肺損傷の進行抑制が期待されます。

抗凝固薬作用機序
ヘパリンアンチトロンビン活性化
ナファモスタットトロンビン直接阻害

ただし出血リスクの増大には十分な注意が必要であり、患者さんの凝固能を慎重にモニタリングしながら使用することが大切です。

その他の薬物療法

シベレスタットナトリウム水和物以外にも様々な薬物療法がARDSやALIの治療に試みられています。

具体的な薬剤は次のようなものです。

  • 一酸化窒素(NO)吸入療法
  • プロスタグランジンE1(PGE1)
  • N-アセチルシステイン(NAC)
  • スタチン系薬剤

これらの薬剤はそれぞれ異なる作用機序を持ち、肺血管拡張・抗酸化作用・抗炎症作用などを通じてARDSやALIの病態改善を目指します。

薬剤期待される効果
NO吸入肺血流改善
PGE1肺血管拡張
NAC抗酸化作用
スタチン抗炎症作用

しかしこれらの薬剤の多くは現時点では十分なエビデンスが確立されておらず臨床試験や症例報告の蓄積が進められている段階です。

代替治療薬の選択に当たっては個々の患者さんの病態や合併症 禁忌事項などを十分に考慮し、総合的な判断が求められます。

また以下のような非薬物療法が併用されることもあります。

  • 腹臥位療法
  • 体外式膜型人工肺(ECMO)
  • 高頻度振動換気(HFOV)

これらの治療法は薬物療法と組み合わせることで相乗効果が期待されるものもあり、包括的な治療戦略の中で検討されます。

併用禁忌

抗凝固薬との相互作用

シベレスタットナトリウム水和物は抗凝固薬との併用に際して特別な注意が必要です。

本剤は好中球エラスターゼを阻害することで炎症反応を抑制しますが、同時に凝固系にも影響を与える可能性があります。

特にヘパリンや低分子ヘパリンなどの抗凝固薬との併用では出血リスクが増大する恐れがあります。

抗凝固薬相互作用のリスク
ヘパリン出血傾向増強
ワルファリンINR上昇

これらの薬剤との併用を避けられない状況では凝固能の頻回なモニタリングと用量調整が不可欠です。

血小板凝集抑制薬との併用リスク

シベレスタットナトリウム水和物と血小板凝集抑制薬の併用にも慎重な対応が求められます。

アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬は広く使用されていますが、シベレスタットとの併用により出血リスクが高まる可能性が生じます。

併用を避けるか極めて慎重な管理が必要となるのは以下のような状況です。

  • 消化性潰瘍の既往がある患者
  • 血小板減少症を伴う患者
  • 高齢者や腎機能低下患者
抗血小板薬注意すべき副作用
アスピリン消化管出血
クロピドグレル皮下出血

併用が避けられない際には出血症状の早期発見に努め必要に応じて投与量の調整や一時的な休薬を検討することが大切です。

腎機能に影響を与える薬剤との相互作用

シベレスタットナトリウム水和物は主に腎臓から排泄されるため、腎機能に影響を与える薬剤との併用には注意が必要です。

特にアミノグリコシド系抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用では腎機能障害のリスクが高まる可能性があります。

これらの薬剤との併用を検討する際には以下の点に留意することが重要です。

  • 投与前の腎機能評価
  • 投与中の腎機能モニタリング
  • 尿量や電解質バランスの観察
  • 腎毒性の早期発見と対応
腎毒性のある薬剤併用時の注意点
アミノグリコシド腎機能モニタリング
NSAIDs尿量観察

腎機能低下が認められた際には速やかに投与量の調整や代替薬への変更を検討する必要があります。

肝代謝に影響を与える薬剤との相互作用

シベレスタットナトリウム水和物は部分的に肝臓で代謝されるため、肝代謝に影響を与える薬剤との併用にも注意が求められます。

特にCYP3A4阻害薬やCYP3A4誘導薬との併用では本剤の血中濃度が変動し効果や副作用に影響を与える可能性があります。

相互作用が懸念される代表的な薬剤は以下のようなものです。

  • CYP3A4阻害薬(イトラコナゾール ケトコナゾールなど)
  • CYP3A4誘導薬(リファンピシン カルバマゼピンなど)
薬剤群相互作用の影響
CYP3A4阻害薬血中濃度上昇
CYP3A4誘導薬血中濃度低下

これらの薬剤との併用が必要な際には血中濃度モニタリングや臨床症状の慎重な観察が大切です。

また以下のような対応策も考慮されます。

  • 投与間隔の調整
  • 用量の個別化
  • 代替薬の検討

シベレスタットナトリウム水和物の使用に際しては患者の併用薬を十分に確認し潜在的な相互作用のリスクを評価することが重要です。

シベレスタットナトリウム水和物の薬価と経済的考察

薬価

シベレスタットナトリウム水和物の薬価は注射剤の含量によって異なります。

100mg製剤の場合、1バイアルあたり3333円となっています。

含量薬価(円/バイアル)
100mg3333

処方期間による総額

シベレスタットナトリウム水和物は通常急性期の短期間使用が想定されます。

1日あたり300mgを使用すると仮定した場合、1週間で69,993円程度になります。同様の用量で2週間(添付文書上の上限期間)使用すると139,986円ほどとなるでしょう。

  • 1週間使用(1日300mg想定) 69,993円
  • 2週間使用(1日300mg想定) 139,986円

費用負担への対策

シベレスタットナトリウム水和物の費用負担を軽減するための方法があります。

医療費控除制度を利用することで確定申告時に一定額以上の医療費の還付を受けられる場合があります。

また民間の医療保険に加入している際には保険金の給付により自己負担額を抑えられることもあります。

そして、ジェネリック医薬品が存在し、919〜1320円/100mgのため、7割ほど医療費を削減する事が出来ます。

対策内容
医療費控除確定申告で還付
民間保険保険金で負担軽減
ジェネリック医薬品先発品の1/3程度の値段

使用環境による費用変動

シベレスタットナトリウム水和物は主に集中治療室で使用される薬剤のため、薬剤費に加えて入院費や処置費用なども総額に影響を与えます。

これらの費用は医療機関や治療内容によって大きく異なる可能性があるでしょう。

  • 集中治療室使用料
  • 人工呼吸器使用料

副作用モニタリングのコスト

シベレスタットナトリウム水和物使用時には定期的な臨床検査が必要となります。

これらの検査費用も治療にかかる総額に影響を与える要因となるのです。

検査項目頻度
血液検査毎日〜週1回

なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文