サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)とは気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状改善に用いられる長時間作用型β2刺激薬です。

この薬剤は気道平滑筋の弛緩(しかん)を促して呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)を和らげる効果があります。

通常は吸入器を通じて投与され、その作用は約12時間持続します。

日々の呼吸器症状のコントロールに役立つ一方で発作時の即効性はありません。

患者さんの生活の質を向上させる可能性がある薬剤ですが医師の指示に従った適切な使用が重要です。

セレベント50ディスカス
製剤写真 セレベント50ディスカス|医療関係者向け情報 GSKpro

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の有効成分と作用機序、効果

有効成分の特徴

サルメテロールキシナホ酸塩は長時間作用型β2刺激薬に分類される薬剤であり、その構造式はC25H37NO4・1/2H2C4H4O4です。

この化合物は脂溶性が高く気道粘膜への吸着性に優れているという特性を持っています。

特性詳細
分類長時間作用型β2刺激薬
化学式C25H37NO4・1/2H2C4H4O4
特徴高い脂溶性

作用機序の詳細

サルメテロールは気道平滑筋細胞膜上のβ2受容体に選択的に結合してその活性化を引き起こします。

この結合により細胞内のアデニル酸シクラーゼが活性化されcAMP(環状アデノシン一リン酸)の産生が促進されます。

cAMPの増加は細胞内カルシウム濃度を低下させて結果として気道平滑筋の弛緩をもたらします。

作用段階効果
β2受容体結合受容体活性化
アデニル酸シクラーゼ活性化cAMP産生促進
cAMP増加細胞内Ca2+濃度低下

薬理学的効果

サルメテロールの主な薬理学的効果は以下の通りです。

  • 気管支拡張作用
  • 気道過敏性の抑制
  • 気道粘液線毛輸送能の改善

これらの作用によって呼吸機能の改善と症状の緩和が期待できます。

臨床効果の持続性

サルメテロールの臨床効果は投与後約30分で発現して12時間以上持続します。

この長時間作用は従来の短時間作用型β2刺激薬と比較して大きな利点です。

持続的な気管支拡張効果により患者さんの生活の質を向上させる可能性があります。

効果持続時間
発現時間投与後約30分
持続時間12時間以上

気管支喘息への効果

気管支喘息患者さんにおいてサルメテロールは症状のコントロールに重要な役割を果たします。

定期的に使用することで夜間や早朝の喘息症状を軽減し日中の発作頻度を減少させる効果があります。

さらに運動誘発性気管支収縮の予防にも効果を示すことから患者さんのQOL向上に寄与します。

使用方法と注意点

適切な投与方法

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)は通常吸入器を用いて投与します。

成人の場合は1回50μgを1日2回朝と夜に吸入するのが一般的な用法です。

小児においては体重や症状の程度に応じて投与量を調整することがあります。

対象投与量投与回数
成人50μg1日2回
小児要調整1日2回

定期的な使用の必要性

サルメテロールは定期的に使用することで最大の効果を発揮します。

症状がない時でも指示された用法用量を守り継続的に服用することが大切です。

2019年に発表された研究では定期的な吸入ステロイド薬との併用により喘息コントロールが改善したという結果が報告されています。

使用パターン効果
定期的使用症状コントロール向上
不規則な使用効果減弱の可能性

過度の使用に関する注意

サルメテロールは長時間作用型β2刺激薬であり1日2回以上の使用や増量は推奨されません。

過度の使用は副作用のリスクを高める可能性があるため医師の指示を厳守することが重要です。

適応対象となる患者

気管支喘息患者

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)は主に気管支喘息の長期管理薬として使用します。

特に次のような症状を持つ患者さんに効果を発揮します。

  • 夜間や早朝に喘息症状が悪化する方
  • 運動誘発性の気管支収縮を経験する方

従来の短時間作用型β2刺激薬では十分な症状コントロールが得られない患者さんに対して長時間作用型であるサルメテロールの使用を検討します。

症状サルメテロールの効果
夜間・早朝の悪化長時間の気管支拡張
運動誘発性収縮予防効果

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者

COPDの患者さんにおいてもサルメテロールは有効な治療選択肢となります。

特に以下のような特徴を持つCOPD患者さんに対して使用を考慮します。

  • 中等度から重度の気流制限がある方
  • 日常生活に支障をきたす呼吸困難がある方

サルメテロールは肺機能の改善と症状緩和に寄与してQOL向上に貢献する可能性があります。

COPD重症度サルメテロール使用
軽度個別に判断
中等度~重度使用を検討

小児患者

サルメテロールは4歳以上の小児患者さんにも使用可能ですが小児への使用に際しては次の点に注意が必要です。

  • 年齢や体重に応じた適切な用量調整
  • 保護者による正しい吸入指導の実施

小児患者さんでは特に副作用の早期発見と対応が大切です。

年齢使用可否
4歳未満原則使用不可
4歳以上慎重に使用可

高齢者

高齢の喘息やCOPD患者さんにもサルメテロールの使用を検討します。

ただし高齢者では以下の点に留意する必要があります。

  • 腎機能や肝機能の低下に応じた用量調整
  • 併存疾患や併用薬との相互作用の確認

高齢者では特に 定期的な経過観察と副作用モニタリングが重要となります。

治療期間

長期管理薬としての位置づけ

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)は長時間作用型β2刺激薬で気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期管理に用います。

この薬剤は症状の予防や長期的なコントロールを目的としているため通常は継続的な使用が前提となります。

患者さんの症状や重症度に応じて数か月から数年にわたる長期投与を行うことがあります。

疾患治療期間の目安
気管支喘息数か月~数年
COPD長期的に継続

定期的な評価と治療期間の調整

サルメテロールによる治療を開始した後は定期的な評価を行い効果や副作用の有無を確認します。

評価の頻度は患者さんの状態に応じて決定しますが一般的に以下のようなスケジュールを考慮します。

  • 治療開始後1~3か月 初期評価
  • その後3~6か月ごと 定期評価

これらの評価結果に基づき治療の継続や変更 中止を検討します。

評価時期主な確認事項
初期評価効果発現 副作用
定期評価症状コントロール 肺機能

症状安定時の対応

サルメテロールによる治療で症状が安定した際の対応には慎重な判断が求められます。

2018年に発表された研究では喘息患者さんにおける長時間作用型β2刺激薬の減量や中止を試みた結果、症状悪化のリスクが増加したことが報告されています。

このため症状が安定した場合でも急激な減量や中止は避けて段階的なアプローチを取ることが推奨されます。

治療中断のリスク

サルメテロールの治療を自己判断で中断することは症状の急激な悪化を招く可能性があるため避けるべきです。

治療中断によるリスクには以下のようなものがあります。

  • 気道過敏性の亢進
  • 呼吸機能の低下
  • 増悪頻度の上昇
中断理由対応
副作用発現医師に相談
症状改善慎重に減量検討

長期使用時の注意点

サルメテロールを長期使用する際には次の点に注意が必要です。

  • 耐性の発現有無のモニタリング
  • 併用薬との相互作用の定期的な確認
  • 骨密度や心血管系への影響の評価

長期使用に伴うこれらの潜在的なリスクを最小限に抑えるため定期的な検査や評価が重要です。

長期使用の影響モニタリング項目
骨密度への影響骨密度検査
心血管系への影響心電図 血圧測定

小児における治療期間の考え方

小児患者さんにおけるサルメテロールの治療期間は成長や発達の観点から特に慎重に決定する必要があります。

成長期にある小児では以下の点を考慮しながら治療期間を設定します。

  • 年齢に応じた呼吸機能の発達状況
  • アレルギー症状の推移
  • 副作用の出現頻度や程度

定期的な成長曲線のチェックや骨年齢の評価を行いながら最適な治療期間を個別に判断します。

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の副作用とデメリット

一般的な副作用

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の使用に伴い様々な副作用が報告されています。

頻度の高い副作用は以下の通りです。

  • 動悸・頻脈
  • 手指の震え
  • 頭痛
  • 筋肉痛・筋痙攣

これらの症状は多くの場合軽度で一過性ですが、患者さんの日常生活に影響を与える可能性があるため注意深い観察が必要です。

副作用発現頻度
動悸5-10%
手指の震え3-8%
頭痛2-5%

重大な副作用

稀ではありますが重大な副作用が発現するリスクがあります。

特に注意を要する副作用は次のようなものです。

  • 重篤な過敏症反応(アナフィラキシーショックを含む)
  • 心房細動などの不整脈
  • 低カリウム血症

2015年に発表された大規模コホート研究ではサルメテロール使用者において心血管イベントのリスクが若干上昇したとの報告がありました。

重大な副作用対応
アナフィラキシー即時中止・救急処置
重度の不整脈投与中止・専門医受診

長期使用による影響

サルメテロールの長期使用に伴い 以下のような影響が懸念されています。

  • 気管支過敏性の亢進
  • 骨密度の低下
  • 薬剤耐性の発現

これらの長期的な影響を最小限に抑えるためには定期的な評価と用量調整が重要です。

長期影響モニタリング方法
骨密度低下骨密度検査
耐性発現肺機能検査

小児への影響

小児患者さんにおけるサルメテロールの使用には特別な配慮が必要です。

成長期の子供たちにおいては以下のような影響が懸念されます。

  • 成長速度の低下
  • 副腎機能への影響
  • 行動への影響(興奮や不安など)

これらのリスクを考慮しながら小児への投与は慎重に行う必要があります。

年齢層注意点
4-11歳成長への影響観察
12-17歳行動変化に注意

過量投与のリスク

サルメテロールの過量投与は深刻な健康被害をもたらす可能性があります。

過量投与時に起こりうる症状には以下のようなものがあります。

  • 重度の頻脈
  • 不整脈
  • 低カリウム血症
  • 高血糖
過量投与症状緊急対応
重度の頻脈心電図モニタリング
低カリウム血症電解質補正

代替治療薬

他の長時間作用型β2刺激薬(LABA)

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)が効果を示さない患者さんに対しては同じ長時間作用型β2刺激薬(LABA)クラスの別の薬剤を検討することがあります。

代替薬としてよく用いられるのがホルモテロールフマル酸塩水和物です。

この薬剤はサルメテロールと同様の作用機序を持ちますが効果発現が速いという特徴があります。

薬剤名特徴
サルメテロール作用持続時間が長い
ホルモテロール効果発現が速い

抗コリン薬

LABAが効果を示さない場合には作用機序の異なる薬剤として長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を選択することがあります。

LAMAの代表的な薬剤には以下のようなものがあります。

  • チオトロピウム臭化物水和物
  • グリコピロニウム臭化物

これらの薬剤は副交感神経を遮断することで気管支を拡張させて呼吸機能の改善をもたらします。

LAMA主な適応疾患
チオトロピウム喘息 COPD
グリコピロニウムCOPD

吸入ステロイド薬との併用療法

サルメテロールが単独で効果を示さない際には吸入ステロイド薬(ICS)との併用療法に切り替えることがあります。

ICSとLABAの併用は相乗効果を発揮して症状のコントロールを改善する可能性があります。

2019年に発表された大規模臨床試験ではICS/LABA併用療法が単剤療法と比較して有意に喘息増悪リスクを低下させたことが報告されています。

併用薬期待される効果
フルチカゾン気道炎症の抑制
ブデソニド気道過敏性の改善

ロイコトリエン受容体拮抗薬

気管支喘息患者さんにおいてLABAが十分な効果を示さない場合にはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を検討することがあります。

LTRAには以下のような薬剤があります。

  • モンテルカストナトリウム
  • プランルカスト水和物

これらの薬剤は気道炎症を抑制して気管支収縮を緩和する効果があります。

LTRA投与形態
モンテルカスト経口薬
プランルカスト経口薬

生物学的製剤

重症喘息患者さんで従来の治療薬が効果を示さない場合は生物学的製剤の使用を考慮することがあります。

これらの薬剤は特定の炎症メディエーターを標的とし個別化医療の一環として用いられます。

代表的な生物学的製剤は以下のようなものです。

  • オマリズマブ(抗IgE抗体)
  • メポリズマブ(抗IL-5抗体)
  • ベンラリズマブ(抗IL-5受容体α抗体)
生物学的製剤標的
オマリズマブIgE
メポリズマブIL-5

テオフィリン製剤

気管支喘息やCOPDの治療においてLABAが効果を示さない場合の選択肢としてテオフィリン製剤があります。

テオフィリンは次のような作用を持ちます。

  • 気管支平滑筋弛緩作用
  • 抗炎症作用
  • 呼吸筋機能改善作用

ただし治療域と中毒域が近接しているため血中濃度のモニタリングが重要です。

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の併用禁忌

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)

サルメテロールキシナホ酸塩はモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)との併用を避けるべきです。

MAOIはうつ病やパーキンソン病の治療に用いられる薬剤ですがサルメテロールと併用すると交感神経系の過剰な興奮を引き起こす危険性があるのです。

この組み合わせは重度の低血圧や不整脈などの深刻な副作用を誘発する可能性があるため厳重に回避する必要があります。

MAOI主な適応症
セレギリンパーキンソン病
モクロベミドうつ病

非選択的β遮断薬

サルメテロールは非選択的β遮断薬との併用を避けることが重要です。

非選択的β遮断薬はβ1受容体だけでなくβ2受容体も遮断するためサルメテロールの気管支拡張作用を相殺してしまいます。

この相互作用によって重度の気管支攣縮を引き起こす可能性があり特に喘息患者さんにおいて危険です。

非選択的β遮断薬主な適応症
プロプラノロール高血圧・狭心症
カルテオロール緑内障・高血圧

CYP3A4阻害薬

サルメテロールはCYP3A4という肝臓の酵素で代謝されるため強力なCYP3A4阻害薬との併用に注意が必要です。

具体的には次のような薬剤がCYP3A4阻害作用を持ちます。

  • ケトコナゾール(抗真菌薬)
  • リトナビル(抗HIV薬)
  • クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)

これらの薬剤とサルメテロールを併用するとサルメテロールの血中濃度が上昇して副作用のリスクが高まる可能性があるのです。

CYP3A4阻害薬阻害の強さ
ケトコナゾール
リトナビル
クラリスロマイシン中程度

QT延長を引き起こす薬剤

サルメテロールはQT間隔を延長させる可能性があるためQT延長作用を持つ他の薬剤との併用には十分な注意が必要です。

QT延長を引き起こす可能性のある薬剤には次のようなものがあります。

  • 抗不整脈薬(アミオダロン キニジンなど)
  • 抗精神病薬(ハロペリドール リスペリドンなど)
  • 特定の抗菌薬(レボフロキサシン モキシフロキサシンなど)

これらの薬剤とサルメテロールを併用すると重篤な不整脈(トルサード・ド・ポアントなど)のリスクが高まる可能性があります。

他の長時間作用型β2刺激薬

サルメテロールは他の長時間作用型β2刺激薬(LABA)と併用すべきではありません。

LABAの重複使用は以下のようなリスクを高める可能性があります。

  • 重度の頻脈
  • 低カリウム血症
  • β2受容体の過剰刺激による効果の減弱

医師の指示なく複数のLABAを使用することは厳に慎むべきです。

LABA商品名例
ホルモテロールシムビコート
インダカテロールオンブレス

チトクロームP450 1A2阻害薬

サルメテロールの代謝にはチトクロームP450 1A2(CYP1A2)も関与しています。

CYP1A2を阻害する薬剤との併用はサルメテロールの血中濃度を上昇させる可能性があります。

特に注意が必要なCYP1A2阻害薬には以下のようなものがあります。

  • シプロフロキサシン(ニューキノロン系抗菌薬)
  • フルボキサミン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

これらの薬剤との併用時にはサルメテロールの減量や慎重な経過観察が必要となる場合があります。

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の薬価

薬価

サルメテロールキシナホ酸塩(セレベント)の薬価は製剤の種類や規格によって異なりますが、本邦ではディスカス製剤のみ販売されています。

ディスカス製剤50μg60ブリスターの場合は1製剤あたり2050.8円となっています。

製剤規格薬価
ディスカス50μg60ブリスター2050.8円

処方期間による総額

1ヶ月処方の場合はディスカス製剤で2050.8円となります。

3ヶ月処方ではディスカス製剤で6,152.4円です。

  • 1ヶ月処方
    • ディスカス製剤 2050.8円
  • 3ヶ月処方
    • ディスカス製剤 6,152.4円

ジェネリック医薬品との比較

現在サルメテロールキシナホ酸塩のジェネリック医薬品は販売されていません。

先発医薬品のみが市場に流通しているため価格の比較はできません。

なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文