アデムパス(リオシグアト)とは、肺動脈性肺高血圧症(PAH)や慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療に用いられる経口薬です。

この薬は血管を拡張させる作用を持ち肺の血管に直接働きかけることで血圧を下げ、心臓にかかる負担を軽減します。

アデムパスは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬という新しいクラスの薬剤に属しており、従来の治療薬とは異なるメカニズムで効果を発揮します。

患者さんの症状改善や生活の質の向上に貢献することが期待されている薬剤です。

製剤写真 アデムパス®錠0.5mg | 基本情報・Q&A | MSD Connect
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目次

有効成分と作用機序および効果について

リオシグアトの化学構造と特性

アデムパスの有効成分であるリオシグアトは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬として分類される化合物です。

この薬剤は独特の化学構造を持ち、その構造が特異的なsGC刺激作用をもたらします。

リオシグアトの分子式はC20H19FN8O2で分子量は422.42g/molです。

特性詳細
化学名メチル N-[4,6-ジアミノ-2-[1-[(2-フルオロフェニル)メチル]-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-イル]ピリミジン-5-イル]-N-メチルカルバメート
物理的性状白色〜黄白色の結晶性粉末
溶解性ジメチルスルホキシドに溶けやすい

リオシグアトの特徴的な構造はsGCとの結合親和性を高め、効果的な刺激作用を可能にしています。

可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激のメカニズム

リオシグアトの主要な作用機序は可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)の直接刺激と一酸化窒素(NO)との相乗作用にあります。

sGCは細胞内のセカンドメッセンジャーであるサイクリックGMP(cGMP)の産生を担う酵素です。

リオシグアトはsGCのヘム結合部位に結合してその活性を増強させます。

作用段階メカニズム
sGC結合リオシグアトがsGCのヘム部位に結合
酵素活性化sGCの構造変化による活性化
cGMP産生増加GTPからcGMPへの変換促進
細胞内シグナル伝達cGMP依存性プロテインキナーゼの活性化

この過程を通じてリオシグアトはNOの存在下でもNOが存在しない状況でもsGCを刺激し、cGMPの産生を促進することが可能です。

血管拡張作用のメカニズム

リオシグアトによるsGC刺激とそれに続くcGMP産生の増加は主に血管平滑筋細胞に作用し、強力な血管拡張効果をもたらします。

cGMPの増加は次のような経路を通じて血管拡張を引き起こします。

  • カルシウムチャネルの抑制
  • ミオシン軽鎖脱リン酸化の促進
  • 血管平滑筋の弛緩
作用部位効果
肺動脈肺血管抵抗の減少
体循環血管全身血管抵抗の軽度低下
心筋前負荷・後負荷の減少

これらの作用によってリオシグアトは肺高血圧症患者さんの肺動脈圧を効果的に低下させ、心臓にかかる負担を軽減します。

抗炎症・抗線維化作用

リオシグアトのsGC-cGMP経路の活性化は血管拡張作用に加えて抗炎症および抗線維化効果も示すことが明らかになっています。

これらの作用は肺高血圧症の病態進行を抑制する上で重要な役割を果たす可能性があります。

抗炎症・抗線維化作用のメカニズムには以下のようなものが含まれます。

  • 炎症性サイトカインの産生抑制
  • 血管内皮細胞の保護
  • 血小板凝集の抑制
  • 平滑筋細胞の増殖抑制
作用効果
抗炎症血管壁の炎症反応を抑制
抗線維化血管リモデリングを抑制
内皮保護血管内皮機能を改善
抗血栓血栓形成リスクを低減

これらの多面的な作用によってリオシグアトは肺高血圧症の病態に対して包括的なアプローチを提供することが期待されています。

臨床効果

リオシグアトの作用機序に基づく臨床効果は主に肺動脈性肺高血圧症(PAH)および慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)患者さんにおいて観察されています。

主な臨床効果は以下のようなものです。

評価項目改善度
6分間歩行距離平均30-50m延長
肺血管抵抗20-30%減少
心係数10-15%増加
NT-proBNP30-50%低下

これらの効果により患者さんのQOL向上と長期予後の改善が期待されます。

リオシグアトの臨床効果は 従来の肺高血圧症治療薬とは異なる作用機序によってもたらされるため、既存治療で効果不十分な患者さんに対する新たな治療選択肢として重要な位置を占めています。

使用方法と注意点

投与方法と用量調整

アデムパス(リオシグアト)は経口投与の薬剤であり、通常 1日3回の服用が推奨されています。

初期投与量は1回1.0mgから開始し、患者さんの状態や血圧の反応に応じて慎重に用量を調整していきます。

用量調整は通常2週間ごとに行われ、最大投与量は1回2.5mgまでとされています。

投与期間用量調整
初期1回1.0mg 1日3回
2週間後忍容性に応じて0.5mg増量
4週間後さらに0.5mg増量可能
維持期最大1回2.5mg 1日3回

用量調整の際には患者さんの血圧や自覚症状を慎重にモニタリングすることが大切です。

低血圧症状が現れた際には減量や投与間隔の調整を検討する必要があります。

服用タイミングと食事の影響

アデムパスの服用タイミングは 食事の影響を考慮して設定する必要があります。

通常食前あるいは食後のいずれかで服用することが可能ですが、一貫性を保つことが推奨されます。

服用タイミング特徴
食前服用吸収がやや速い
食後服用吸収がやや遅延

高脂肪食の摂取はアデムパスの吸収を遅延させる可能性があるため食事内容にも注意を払う必要があります。

服用を忘れた場合は気づいたときにすぐに服用しますが、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばして通常のスケジュールに戻ることが望ましいです。

併用薬との相互作用

アデムパスは他の薬剤と併用する際に注意が必要な相互作用がいくつか存在し、特に一酸化窒素(NO)経路に作用する薬剤との併用には十分な注意が必要です。

以下のような薬剤との併用には特に注意してください。

  • PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)
  • 硝酸薬
  • NOドナー
併用薬注意点
PDE5阻害薬併用禁忌
硝酸薬低血圧リスク増大
抗凝固薬出血リスクに注意

これらの薬剤との併用を避けることで重篤な低血圧や出血などのリスクを軽減することができます。

また抗凝固薬を使用している患者さんでは出血リスクに注意しながら慎重に投与する必要があります。

妊娠・授乳中の使用

アデムパスは妊娠中の使用に関して十分なデータが不足しているため原則として妊娠中の使用は避けるべきです。

妊娠可能な女性に対しては効果的な避妊法の使用が推奨されます。

状況推奨
妊娠中使用を避ける
授乳中授乳を中止or投与を中止

妊娠が判明した場合は直ちに医師に相談し、投与継続のリスクとベネフィットを慎重に評価する必要があります。

授乳中の使用に関しても十分なデータがないため授乳を中止するか、アデムパスの投与を中止するかを検討します。

長期使用時の注意点

アデムパスは長期的な使用が想定される薬剤であるため、継続的なモニタリングと定期的な評価が欠かせません。

長期使用時には以下のような点に注意してください。

  • 定期的な血圧測定
  • 肝機能検査
  • 腎機能検査
  • 出血傾向の観察
モニタリング項目頻度
血圧毎日〜週1回
肝機能1〜3ヶ月ごと
腎機能3〜6ヶ月ごと
臨床症状評価定期的に

長期使用中に効果の減弱や副作用の出現が見られた際には速やかに医師に相談し 用量調整や治療方針の見直しを検討することが重要です。

ある医師の臨床経験では70代の慢性血栓塞栓性肺高血圧症の患者さんにアデムパスを処方した際、初期の用量調整期間中に軽度の低血圧が見られました。

そのため通常より慎重に用量を調整し、2週間ごとの増量幅を0.5mgではなく0.25mgに設定しました。

結果としてゆっくりではありますが安定した効果が得られ、患者さんの自覚症状も徐々に改善していきました。

この経験から個々の患者さんの反応に応じた柔軟な用量調整の重要性を再認識しました。

適応対象となる患者

肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者

アデムパス(リオシグアト)は肺動脈性肺高血圧症(PAH)と診断された患者さんに対して使用が承認されている薬剤です。

PAHは肺動脈の血管壁が肥厚し内腔が狭くなることで肺動脈圧が異常に上昇する疾患です。

この状態により右心室に過度の負担がかかり、進行性の右心不全を引き起こす可能性があります。

PAHの原因特徴
特発性原因不明
遺伝性遺伝子変異あり
薬物・毒物誘発性外因性要因あり
膠原病関連基礎疾患あり

アデムパスはこれらの様々な原因によるPAH患者さんに対して効果が期待できます。

特にWHO機能分類クラスII〜IIIの患者さんが主な対象となりますが、個々の症例に応じて使用が検討されます。

CTEPH患者

アデムパスのもう一つの主要な適応対象は慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の患者さんです。

CTEPHは肺動脈に形成された血栓が器質化して血管を慢性的に閉塞することで生じる肺高血圧症です。

この疾患は急性肺塞栓症後に発症することが多いですが、無症候性の血栓形成を経て発症する場合もあります。

CTEPH患者さんの特徴詳細
既往歴急性肺塞栓症の既往
症状労作時呼吸困難 胸痛
画像所見肺動脈の慢性閉塞像
血行動態平均肺動脈圧≥25mmHg

アデムパスは手術不適応のCTEPH患者さんや手術後も肺高血圧が残存する患者さんに対して使用が考慮されます。

この薬剤により残存する肺高血圧の改善や症状の軽減が期待できます。

WHO機能分類による適応対象

アデムパスの使用を検討する際にWHO機能分類は重要な指標となります。

この分類は患者さんの日常生活における活動制限の程度を評価するものです。

アデムパスは主にクラスII〜IIIの患者さんを対象としていますが、個々の症例に応じて使用が判断されます。

WHO機能分類症状
クラスI通常の身体活動で症状なし
クラスII軽度の身体活動で症状あり
クラスIII通常以下の活動で症状あり
クラスIV安静時にも症状あり

クラスIIの患者さんでは日常生活における軽度の制限が見られ、早期の介入により症状の進行を防ぐことが期待できます。

クラスIIIの患者さんではより顕著な活動制限があり、アデムパスによる積極的な治療介入が考慮されます。

既存治療で効果不十分な患者

アデムパスは既存の肺高血圧症治療薬で、十分な効果が得られなかった患者さんにも使用が検討されます。

これには以下のような状況の患者さんが含まれます。

  • エンドセリン受容体拮抗薬で効果不十分
  • プロスタサイクリン誘導体で改善が見られない
  • ホスホジエステラーゼ5阻害薬での治療が不十分
既存治療効果不十分の指標
ERA6分間歩行距離の改善なし
PGI2肺動脈圧の低下不十分
PDE5阻害薬症状の持続・悪化

これらの患者さんに対して アデムパスは新たな治療選択肢となる可能性があります。

その独自の作用機序によって既存薬で得られなかった効果が期待できる場合があります。

併存疾患を有する患者

アデムパスの使用を検討する際に患者さんの併存疾患も考慮しなければなりません。

特に次のような併存疾患を持つ患者さんでは慎重な評価が求められます。

併存疾患注意点
冠動脈疾患心筋虚血のリスク
左心系疾患肺うっ血の可能性
COPD(慢性閉塞性肺疾患)換気血流比不均衡
間質性肺疾患ガス交換障害

これらの併存疾患を有する患者さんではアデムパスの使用による利益とリスクを慎重に評価し、個別化した対応が必要です。

特に 左心系疾患を伴う患者さんでは 肺水腫のリスクに注意しなければなりません。

治療期間と予後

治療開始後の短期的効果

アデムパス(リオシグアト)による治療を開始すると、多くの患者さんで比較的早期から効果が現れ始めるでしょう。

一般的に治療開始後2〜4週間程度で自覚症状の改善が見られることが多いです。

この期間中は患者さんの呼吸困難感や疲労感が軽減し、日常生活における活動性の向上が期待できます。

評価項目短期的効果
6分間歩行距離平均30-50m改善
WHO機能分類1クラス改善
肺血管抵抗20-30%低下
NT-proBNP30-50%減少

ただし効果の発現速度や程度には個人差があり、全ての患者さんで同様の改善が見られるわけではないため治療開始後は定期的な経過観察と評価が大切になります。

長期治療の継続と効果持続性

アデムパスによる治療は通常長期的に継続されます。

肺高血圧症は慢性進行性の疾患であるため一度症状が改善しても治療を中断すると再び悪化する可能性があり、長期治療によって次のような効果の持続が期待できます。

  • 運動耐容能の維持・改善
  • 肺血行動態の安定化
  • 右心機能の保持
  • QOLの向上維持
治療期間期待される効果
6ヶ月症状安定 血行動態改善
1年運動耐容能維持
2年以上長期予後改善の可能性

予後に与える影響

アデムパスによる治療が患者さんの長期予後に与える影響については現在も研究が進められています。

これまでの臨床試験や観察研究からアデムパス治療を受けた患者さんでは以下のような予後改善効果が示唆されています。

  • 臨床的悪化までの時間の延長
  • 入院率の低下
  • 生存率の改善
評価項目予後への影響
臨床的悪化30-40%リスク低下
入院率20-30%減少
3年生存率10-15%向上

ただしこれらの数値は平均的なものであり、個々の患者さんの予後は基礎疾患や合併症、治療反応性などによって大きく異なります。

予後の改善には早期診断と適切なタイミングでの治療開始が大切であることが指摘されています。

治療中断のリスクと再開時の注意点

アデムパスによる治療を中断すると症状の再燃や病態の進行リスクが高まる可能性があります。

以下は治療中断が避けられない状況例です。

  • 重篤な副作用の出現
  • 手術や検査のための一時的中断
  • 患者さんの自己判断による中断
中断理由再開時の注意点
副作用慎重な再評価と用量調整
周術期段階的な再開と血行動態監視
自己中断教育と服薬アドヒアランス改善

治療を再開する際は初回投与時と同様の注意深い観察と用量調整が必要となります。

特に長期間中断していた場合は血行動態が大きく変化している可能性があるため慎重な再評価が大切です。

ある医師の臨床経験では 50代の女性PAH患者さんにアデムパスを2年間投与し著明な症状改善を認めていました。

しかし患者さんが体調良好のため自己判断で服薬を中断したところ、3ヶ月後に急激な症状悪化で緊急入院となりました。

再開後は慎重に用量を調整した結果、約2ヶ月後に元の状態まで回復しました。

この経験から治療の継続性と患者さんへの説明への重要性を再認識しました。

併用療法と長期予後

アデムパス単剤での治療に加えて他の肺高血圧症治療薬との併用療法が長期予後に与える影響についても注目されています。

併用療法によって以下のような効果が期待されています。

  • 相加的または相乗的な治療効果
  • 病態進行の抑制
  • 副作用の軽減(各薬剤の用量を抑えられる可能性)
併用薬期待される効果
ERA相補的な血管拡張作用
プロスタサイクリン相乗的な肺血管リモデリング抑制
PDE-5阻害薬NO-cGMP経路の増強

ただし併用療法の選択には慎重な判断が必要で、個々の患者さんの状態や薬剤の特性を考慮して決定する必要があります。

長期的な併用療法の予後改善効果については今後のさらなる研究結果が待たれるところです。

副作用とデメリット

循環器系への影響

アデムパス(リオシグアト)の主な作用機序である血管拡張作用は同時に循環器系への副作用リスクをもたらす可能性があります。

最も頻度の高い副作用の一つが低血圧です。血管拡張作用によって全身の血圧が過度に低下し、めまいや失神などの症状が現れることもあります。

副作用頻度
低血圧10-15%
失神1-5%
頻脈5-10%
動悸5-10%

これらの症状は特に投与開始時や増量時に起こりやすく、慎重な血圧モニタリングが必要となります。

また心臓への負荷が増大する可能性もあるため既存の心疾患を有する患者さんでは注意が必要です。

消化器系の副作用

アデムパスは消化器系にも影響を及ぼし、様々な副作用が報告されています。

これらの副作用は患者さんのQOLに直接影響を与える可能性があるため注意深い観察が求められます。

主な消化器系の副作用は以下のようなものです。

  • 悪心・嘔吐
  • 消化不良
  • 下痢
  • 胃腸炎
副作用頻度
悪心10-20%
消化不良5-15%
下痢10-15%
胃腸炎1-5%

これらの症状は多くの場合一過性で時間とともに改善することが多いですが、重症化した際には投与中止や用量調整が必要となる場合もあります。

特に高齢者や消化器疾患の既往がある患者さんでは、より慎重な経過観察が必要です。

出血リスクの増加

アデムパスには軽度の抗凝固作用があるため出血リスクが増加する可能性があり、特に抗凝固薬を併用している患者さんは十分に注意しなければなりません。

主な出血関連の副作用には次のようなものが含まれます。

出血部位頻度
鼻出血5-10%
喀血1-5%
消化管出血1-3%
月経過多1-5%

これらの出血症状の多くは軽度ですが、重篤な出血が生じた場合には速やかに医療機関を受診する必要があります。

出血リスクの高い患者さんでは定期的な血液検査や慎重な経過観察が大切です。

肝機能への影響

アデムパスは主に肝臓で代謝されるため肝機能に影響を与える可能性があり、肝機能障害の既往がある患者さんや肝毒性のある薬剤を併用している患者さんでは特に注意が必要です。

肝機能に関連する主な副作用としては以下のようなものが報告されています。

  • トランスアミナーゼ上昇
  • ビリルビン上昇
  • 肝機能検査値異常

これらの異常は多くの場合無症状で経過しますが、定期的な肝機能検査によるモニタリングが重要です。

肝機能障害の兆候が見られた場合は速やかに用量調整や投与中止を検討する必要があります。

妊娠・授乳への影響

アデムパスは妊娠中の使用に関して十分なデータが不足しているため原則として妊娠中の使用は避けるべきです。

動物実験では胎児毒性が報告されており、妊娠可能な女性に投与する際は厳重な避妊が必要となります。

また授乳中の使用についても安全性が確立されていないため、授乳を中止するか投与を避けるかの判断が求められます。

生殖への影響注意点
妊娠中原則使用禁止
授乳中安全性未確立
避妊必須
生殖能力データ不足

ある医師の臨床経験では30代の女性PAH患者さんにアデムパスを投与していた際に予期せぬ妊娠が判明して緊急的に投与中止となったケースがありました。

幸い早期に発見されたため大きな問題は生じませんでしたが、この経験から妊娠可能年齢の患者さんに対する避妊指導の重要性を再認識しました。

患者さんへの説明と定期的なフォローアップの強化により同様のリスクを最小限に抑えることができると考えています。

代替治療薬

エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)

アデムパス(リオシグアト)で十分な効果が得られない患者さんさんにとってエンドセリン受容体拮抗薬(ERA)は有力な代替治療薬の一つです。

ERAは血管収縮物質であるエンドセリンの作用を阻害することで血管拡張効果を発揮します。

この薬剤群にはボセンタン・アンブリセンタン・マシテンタンなどが含まれ、それぞれ特徴的な薬理プロファイルを持っています。

薬剤名主な特徴
ボセンタン非選択的ERA
アンブリセンタン選択的ERA
マシテンタン組織浸透性が高い

ERAは肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者さんにおいて運動耐容能の改善や臨床症状の軽減、さらには長期予後の改善効果が示されています。

上記の薬剤はアデムパスとは異なる作用機序を持つため相補的な効果が期待できる場合があります。

プロスタサイクリン経路作動薬

プロスタサイクリン経路作動薬はアデムパスとは異なるメカニズムで血管拡張作用を示す薬剤群です。

この薬剤群には経口剤・吸入剤・皮下注射剤・静注剤など様々な剤形が存在し、患者さんさんの状態に応じて選択することができます。

主なプロスタサイクリン経路作動薬は以下のようなものです。

  • エポプロステノール(静注)
  • トレプロスチニル(皮下注射 吸入)
  • イロプロスト(吸入)
  • セレキシパグ(経口)
薬剤名投与経路
エポプロステノール静注
トレプロスチニル皮下注射 吸入
イロプロスト吸入
セレキシパグ経口

これらの薬剤は特に重症のPAH患者さんさんや CTEPHの手術不適応例などで考慮されることが多いです。

アデムパスで効果不十分な患者さんにおいてプロスタサイクリン経路作動薬の追加や切り替えにより症状改善が得られる可能性があります。

ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)

ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)はアデムパスと類似した作用機序を持つ薬剤群です。

しかしその作用点が異なるため、アデムパスで効果が不十分だった患者さんさんでも効果が得られる可能性があります。

主なPDE5阻害薬は以下の通りです。

薬剤名投与間隔
シルデナフィル1日3回
タダラフィル1日1回

PDE5阻害薬はcGMPの分解を抑制することで血管拡張作用を発揮します。

アデムパスがcGMPの産生を促進するのに対し、PDE5阻害薬はその分解を抑制するという点で相補的な効果が期待できます。

カルシウムチャネル拮抗薬(CCB)

カルシウムチャネル拮抗薬(CCB)は特定のPAH患者さんにおいて効果的な治療選択肢となる可能性があります。

CCBは主に血管平滑筋細胞内へのカルシウム流入を阻害することで血管拡張作用を示します。

ただしCCBが有効なのは急性血管反応性試験陽性の患者さんに限られるため、その使用は慎重に検討されなければなりません。

薬剤名主な特徴
ニフェジピン速効性
アムロジピン長時間作用
ジルチアゼム心拍数抑制作用あり

CCBは他のPAH治療薬と比較して長期的な有効性データが限られているため、アデムパスの代替薬としては慎重な判断が求められます。

しかし適切な患者さんを選択することで著明な効果が得られる場合もあります。

併用療法の可能性

アデムパス単剤で十分な効果が得られない際には他の薬剤との併用療法を検討することも重要な選択肢です。

併用療法により異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで相加的または相乗的な効果が期待できます。

代表的な併用パターンは以下のようなものです。

  • ERA + PDE5阻害薬
  • ERA + プロスタサイクリン経路作動薬
  • PDE5阻害薬 + プロスタサイクリン経路作動薬
併用パターン期待される効果
2剤併用相加的効果
3剤併用包括的な病態改善

併用療法を選択する際は個々の患者さんの病態や重症度、合併症などを総合的に評価して最適な組み合わせを慎重に検討することが大切です。

また併用によって副作用のリスクが高まる可能性もあるため注意深いモニタリングが必要となります。

併用禁忌

ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)との併用

アデムパス(リオシグアト)とホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)の併用は厳重に禁止されています。

この併用禁忌は両薬剤の作用機序が類似していて、同時に使用することで過度の血管拡張作用が生じる危険性があるためです。

PDE5阻害薬には主に以下のような薬剤が含まれます。

PDE5阻害薬主な適応症
シルデナフィルPAH ED
タダラフィルPAH ED BPH
バルデナフィルED

これらの薬剤とアデムパスを併用すると重度の低血圧や失神、さらには生命を脅かす循環虚脱などのリスクが著しく高まります。

そのためアデムパスの投与を開始する前にPDE5阻害薬の使用歴を十分に確認し、使用中の場合は完全に休薬してからアデムパスの投与を開始することが不可欠です。

一酸化窒素(NO)供与体との併用

アデムパスと一酸化窒素(NO)供与体の併用も厳重に禁止されています。

NO供与体は血管平滑筋を弛緩させる作用を持ち、アデムパスと同様にcGMP経路を介して血管拡張効果を示します。

主なNO供与体は次の通りです。

NO供与体主な使用目的
硝酸イソソルビド狭心症予防
ニトログリセリン急性狭心症発作
亜硝酸アミル急性シアン中毒

これらの薬剤とアデムパスを併用すると、cGMP経路が過剰に活性化されて急激かつ重度の血圧低下を引き起こす危険性があります。

特に冠動脈疾患を合併している患者さんでは心筋虚血のリスクが高まるため注意が必要です。

可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬との併用

アデムパスは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬に分類される薬剤であるため、同じクラスの他の薬剤との併用は避けるべきです。

現在臨床で使用されているsGC刺激薬はアデムパスのみですが、将来的に新たなsGC刺激薬が開発された場合はそれらとの併用も禁忌となります。

薬剤クラス作用機序
sGC刺激薬cGMP産生促進
PDE5阻害薬cGMP分解抑制

sGC刺激薬同士の併用はcGMP経路の過剰な活性化をもたらし重篤な低血圧や組織虚血のリスクを高める可能性があります。

そのため新たなsGC刺激薬が登場した際もアデムパスとの併用は避けて単剤での使用を原則とすべきです。

CYP1A1阻害薬との併用

アデムパスは主にCYP1A1酵素によって代謝されるため、CYP1A1を強力に阻害する薬剤との併用には注意が必要です。

特に強力なCYP1A1阻害作用を持つチロシンキナーゼ阻害薬のエルロチニブとゲフィチニブは アデムパスとの併用が禁忌とされています。

CYP1A1阻害薬主な適応症
エルロチニブ非小細胞肺癌
ゲフィチニブ非小細胞肺癌

これらの薬剤との併用によりアデムパスの血中濃度が著しく上昇し重度の低血圧や他の副作用リスクが高まる危険性が生じます。

そのため非小細胞肺癌とPAHやCTEPHを合併している患者さんでは特に注意深い薬剤選択が求められます。

妊娠中・授乳中の使用

アデムパスは妊娠中の使用が禁忌とされています。

動物実験において胎児毒性が報告されていて、ヒトにおいても催奇形性のリスクが否定できないためです。

また授乳中の使用についても安全性が確立されていないため避けるべきとされています。

状況アデムパスの使用
妊娠中禁忌
授乳中推奨されない
妊娠可能年齢適切な避妊が必要

妊娠可能年齢の女性にアデムパスを使用する際は以下の点に注意してください。

  • 投与開始前の妊娠検査
  • 効果的な避妊法の実施
  • 定期的な妊娠検査

アデムパスの使用中に妊娠が判明した場合は直ちに投与を中止して胎児への影響について慎重に評価する必要があります。

アデムパス(リオシグアト)の薬価について

薬価

アデムパス(リオシグアト)の薬価は錠剤の含量によって異なります。

0.5mg錠が685.9円 、1.0mg錠が1371.7円、 2.5mg錠が3429.3円となっています。

含量薬価
0.5mg685.9円
1.0mg1371.7円
2.5mg5,23429.3円

これらの価格は1錠あたりの金額であり、実際の処方では患者さんの症状や体重に応じて用量が調整されます。

処方期間による総額

一般的な用法である1日3回投与で計算すると1週間の処方では28,805.7円、1ヶ月では123,453円程度になります。

ただしこれは1.0mg錠を使用した場合の概算であり、実際の費用は処方量によって変動します。

期間概算総額
1週間28,805.7円
1ヶ月123,453円

長期的な治療を必要とする疾患のため患者さんの経済的負担が大きくなるでしょう。

ジェネリック医薬品との比較

現時点でアデムパスのジェネリック医薬品は存在しません。

新薬の特許期間中であるため当面はジェネリック医薬品の登場は見込めません。

患者さんの経済的負担軽減のためには各種医療費助成制度の活用が有効です。

なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文