ネダプラチン(アクプラ)とは肺がんや中皮腫などの呼吸器系悪性腫瘍に対して使用される抗がん剤の一種です。
この薬剤は白金を含む化合物でがん細胞のDNAに作用してその増殖を抑制する効果があります。
主に進行したステージの非小細胞肺がんや悪性胸膜中皮腫の患者さんに処方されることが多く他の抗がん剤と併用されることもあります。
ネダプラチンは副作用のプロファイルが他の白金製剤と異なる点が特徴的で腎機能への影響が比較的軽度とされています。
しかし骨髄抑制や消化器症状などの副作用には注意が必要です。
有効成分と作用機序、効果について
ネダプラチンの有効成分
ネダプラチン(NDP)の主成分は白金錯体の一種であるネダプラチンです。
この化合物は分子式C8H14N2O5Ptで表され 化学構造上シスプラチンやカルボプラチンと類似していますが独自の特性を持っています。
一般名 | 化学名 |
ネダプラチン | cis-Diammine(glycolato-O,O’)platinum(II) |
白金製剤としての特徴
ネダプラチンは第二世代の白金製剤に分類されます。
この薬剤が持つユニークな化学構造により従来の白金製剤と比較して異なる薬物動態や毒性プロファイルを示すことが明らかになっています。
特に腎毒性が低いという点が大きな特徴となっています。
世代 | 代表的な白金製剤 |
第一世代 | シスプラチン |
第二世代 | カルボプラチン ネダプラチン |
第三世代 | オキサリプラチン |
作用機序
ネダプラチンの抗腫瘍効果は主にDNAとの相互作用によってもたらされます。
体内に投与されたネダプラチンは血中で活性化され DNAの塩基 特にグアニンと結合します。
この結合によりDNA鎖内および鎖間に架橋が形成されDNA複製や転写が阻害されます。
- DNA複製の阻害
- 転写過程の干渉
結果としてがん細胞の増殖が抑制され アポトーシス(細胞死)が誘導されます。
抗腫瘍効果のスペクトル
ネダプラチンは広範囲のがん種に対して効果を発揮しますが特に以下の腫瘍に対する有効性が認められています。
がん種 | 効果 |
非小細胞肺がん | 高い |
小細胞肺がん | 中程度 |
悪性胸膜中皮腫 | 有効 |
食道がん | 期待される |
非小細胞肺がんにおいては単剤での使用や他の抗がん剤との併用療法で効果を発揮します。
悪性胸膜中皮腫では標準治療の一つとして位置づけられており生存期間の延長に寄与することが報告されています。
化学療法における位置づけ
ネダプラチンは様々な化学療法レジメンの構成要素として重要な役割を果たしています。
単剤での使用以外にも他の抗がん剤との相乗効果を期待して併用されるケースが少なくありません。
併用薬 | 適応がん |
ゲムシタビン | 非小細胞肺がん |
イリノテカン | 小細胞肺がん |
ペメトレキセド | 悪性胸膜中皮腫 |
これらの併用療法により腫瘍縮小率の向上や無増悪生存期間の延長が達成されています。
治療効果を最大化し副作用を最小限に抑えるため患者さんの状態や腫瘍の特性に応じた投与計画の立案が求められます。
ネダプラチンの使用方法と注意点
投与方法と用量設定
ネダプラチン(NDP)は通常 静脈内投与で使用します。
標準的な投与量は体表面積あたり80-100 mg/m²で 3〜4週間ごとに1回投与するスケジュールが一般的です。
ただし患者さんの状態や併用薬 がんの種類によって投与量や間隔を調整することがあります。
投与方法 | 標準的な用量 | 投与間隔 |
静脈内投与 | 80-100 mg/m² | 3〜4週間ごと |
投与前の準備と注意事項
ネダプラチン投与前には十分な腎機能評価が必要です。
クレアチニンクリアランスや血清クレアチニン値を確認して腎機能低下がある場合は減量や投与間隔の延長を検討します。
また 十分な補液を行い尿量を確保することで腎毒性のリスクを軽減できます。
投与前の確認事項 | 方法 |
腎機能評価 | クレアチニンクリアランス測定 |
肝機能評価 | 肝酵素値の確認 |
骨髄機能 | 血球数の確認 |
投与中のモニタリング
ネダプラチン投与中は次の点に注意してモニタリングを行います。
- バイタルサインの変化
- 過敏反応の兆候
- 輸液量と尿量のバランス
特にアナフィラキシー反応には細心の注意を払い発現時には直ちに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。
モニタリング項目 | 頻度 |
バイタルサイン | 15分ごと |
尿量 | 1時間ごと |
過敏症状 | 常時観察 |
併用薬との相互作用
ネダプラチンは他の抗がん剤や支持療法薬と併用されることが多いですが相互作用に注意が必要です。
特に腎毒性のある薬剤との併用では腎機能への影響が増強される可能性があります。
注意が必要な併用薬 | 理由 |
アミノグリコシド系抗生物質 | 腎毒性増強 |
利尿剤 | 腎毒性増強 |
非ステロイド性抗炎症薬 | 腎毒性増強 |
投与後の患者管理
ネダプラチン投与後は患者さんの全身状態を注意深く観察します。
特に骨髄抑制による血球減少や消化器症状の発現に留意して必要に応じて支持療法を行います。
さらに退院後も自宅での観察ポイントを患者さんに指導することが大切です。
- 発熱や出血傾向の有無
- 食欲不振や嘔気・嘔吐の程度
- 倦怠感や脱水症状の確認
論文における使用経験報告によると ある症例ではネダプラチンによる化学療法後に重度の骨髄抑制が見られました。
そこですぐに適切な支持療法と患者さん教育を行ったところ速やかに回復し予定通り治療を完遂できました。
この経験から患者さんとの綿密なコミュニケーションと早期の介入が治療成功の鍵となることを再認識しました。
観察項目 | 頻度 |
体温測定 | 1日2回以上 |
体重測定 | 毎日 |
食事・水分摂取量 | 毎食後 |
長期的なフォローアップ
ネダプラチン治療を受けた患者さんの長期的なフォローアップも重要です。
定期的な血液検査や画像診断によって治療効果の判定と晩期毒性の早期発見に努めます。
またQOLの維持・向上を目指し必要に応じてリハビリテーションや栄養指導を取り入れることが有効です。
フォローアップ項目 | 間隔 |
血液検査 | 1-3ヶ月ごと |
画像診断 | 3-6ヶ月ごと |
QOL評価 | 3-6ヶ月ごと |
このようにネダプラチンの使用には綿密な計画と継続的な管理が必要です。
患者さん個々の状態に応じたきめ細かな対応が治療効果の最大化と副作用の最小化につながります。
適応対象となる患者
主な適応症
ネダプラチン(NDP)は主に呼吸器系の悪性腫瘍に対して使用される抗がん剤です。
特に非小細胞肺がんや悪性胸膜中皮腫の患者さんに対して効果を発揮します。
これらの疾患と診断された方々がネダプラチンによる治療の対象となる可能性が高いです。
適応症 | 病期 |
非小細胞肺がん | 進行期・再発 |
悪性胸膜中皮腫 | 切除不能 |
小細胞肺がん | 進展型 |
食道がん | 進行・再発 |
患者の状態による適応判断
ネダプラチンの使用を検討する際には患者さんの全身状態を慎重に評価することが重要です。
一般的にパフォーマンスステータス(PS)が0〜2の方が適応となりやすいです。
また十分な骨髄機能・肝機能・腎機能を有していることが前提となります。
- PS 0 日常生活に制限のない状態
- PS 1 軽度の症状があるが歩行可能
- PS 2 歩行可能だが労働不能
機能 | 基準値 |
好中球数 | 1500/μL以上 |
血小板数 | 10万/μL以上 |
ヘモグロビン | 9.0 g/dL以上 |
クレアチニンクリアランス | 60 mL/min以上 |
前治療歴による適応
ネダプラチンは他の抗がん剤による前治療歴がある患者さんにも使用できます。
特にシスプラチンやカルボプラチンなどの他の白金製剤に抵抗性を示した症例や副作用のために継続使用が困難となった方々に対して代替選択肢として考慮されます。
前治療 | ネダプラチンの位置づけ |
初回治療 | 選択肢の一つ |
二次治療以降 | 他剤無効例に対する選択肢 |
併存疾患を有する患者への配慮
腎機能障害を有する患者さんにおいてネダプラチンは他の白金製剤と比較して使用しやすい特徴があります。
ただし重度の腎機能障害がある場合は慎重な投与が必要となります。
心疾患や糖尿病などの併存疾患がある方に対しても個々の状況を踏まえて適応を判断します。
併存疾患 | 注意点 |
腎機能障害 | 軽度〜中等度なら使用可能 |
心疾患 | 心毒性に注意して使用 |
糖尿病 | 末梢神経障害のリスクに注意 |
高齢者への適応
高齢者に対するネダプラチンの使用は暦年齢だけでなく生物学的年齢を考慮して判断します。
一般的に 75歳以上の方ではより慎重な適応判断と用量調整が必要となります。
フレイル評価や併存疾患の状況、社会的サポート体制なども含めて総合的に検討します。
- 日常生活動作(ADL)の自立度
- 認知機能の状態
- 栄養状態
年齢層 | 考慮事項 |
65-74歳 | 標準的な評価で判断 |
75歳以上 | 高齢者総合機能評価を実施 |
妊娠可能年齢の患者への配慮
妊娠可能年齢の患者さんに対しては治療開始前に妊娠の有無を確認することが大切です。
ネダプラチンは胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため妊娠中の使用は原則として避けます。
治療中および治療後一定期間は確実な避妊法の実施を患者さんに指導することが必要です。
患者さん群 | 対応 |
妊娠中 | 原則使用不可 |
妊娠可能年齢 | 治療前の妊娠検査と避妊指導 |
このようにネダプラチンの適応判断には多角的な視点が重要です。
患者さん一人ひとりの状況を詳細に評価し最適な治療法を選択することでより良い治療成績につながる可能性があります。
治療期間
標準的な投与スケジュール
ネダプラチン(NDP)の治療期間はがんの種類や病期 患者さんの全身状態などによって個別に設定します。
一般的には3〜4週間を1サイクルとして複数サイクルの投与を行います。
多くの場合4〜6サイクルを目安としていますが患者さんの反応や忍容性に応じて柔軟に調整します。
がん種 | 標準的なサイクル数 |
非小細胞肺がん | 4〜6サイクル |
悪性胸膜中皮腫 | 4〜6サイクル |
小細胞肺がん | 4〜6サイクル |
食道がん | 2〜3サイクル |
治療効果判定のタイミング
ネダプラチンによる治療効果は通常2〜3サイクル終了後に初回の評価を行います。
この時点で腫瘍縮小効果や症状改善が認められる場合はさらに治療を継続することが多いです。
一方で効果が乏しい あるいは病勢の進行が見られる際には他の治療法への変更を検討します。
- CT検査による腫瘍サイズの測定
- 腫瘍マーカーの推移確認
- 自覚症状の変化評価
評価時期 | 主な評価項目 |
治療開始前 | ベースライン評価 |
2〜3サイクル後 | 初回効果判定 |
4〜6サイクル後 | 最終効果判定 |
長期投与の可能性と留意点
一部の患者さんでは 6サイクルを超える長期投与が検討されます。
特に初期治療で良好な効果が得られ副作用が許容範囲内である場合に考慮します。
ただし長期投与に伴う蓄積毒性のリスクも念頭に置いて慎重に判断することが重要です。
長期投与のメリット | 留意すべき点 |
腫獋制御の維持 | 骨髄抑制の増強 |
QOLの安定 | 末梢神経障害の進行 |
生存期間の延長可能性 | 腎機能への影響 |
維持療法としての使用
一部の症例では初期治療後の維持療法としてネダプラチンの継続投与を行うことがあります。
この際投与間隔を延長したり用量を減量したりすることで長期的な抗腫瘍効果の維持を図ります。
維持療法の期間は個々の患者さんの状況に応じて柔軟に設定しますが、病勢進行や忍容性の低下が見られるまで継続することが多いです。
- 標準治療後の残存病変に対する制御
- 微小転移巣の抑制
- 再発リスクの軽減
維持療法の形態 | 特徴 |
単剤維持 | 副作用リスク低減 |
併用維持 | 相乗効果期待 |
間欠投与 | QOL維持重視 |
治療中断・終了の判断基準
ネダプラチン治療の中断や終了は以下のような状況で検討します。
病勢進行が確認された際には速やかに他の治療選択肢への変更を考慮します。
重篤な有害事象の発現時や全身状態の著しい悪化が見られた場合も治療継続の是非を慎重に判断します。
中断・終了の理由 | 対応 |
病勢進行 | 他剤への変更検討 |
Grade 3以上の有害事象 | 休薬・減量・中止検討 |
PS悪化 | 支持療法強化・中止検討 |
論文における使用経験報告によると、ある進行非小細胞肺がん患者さんでは通常の6サイクルを超えて10サイクルまでネダプラチン投与を継続しました。
すると著明な腫瘍縮小効果が持続して3年以上の長期生存を達成しました。
この事例から個々の患者さんの反応性を注意深く観察して柔軟な治療期間の設定が有効な場合があることが示唆されます。
フォローアップ期間の設定
ネダプラチン治療終了後のフォローアップ期間は 再発・転移リスクや晩期有害事象の可能性を考慮して設定します。
通常治療終了後2〜3年間は比較的密な間隔で経過観察を行い、その後徐々に間隔を延長していくことが多いです。
長期的な経過観察は潜在的な晩期毒性の早期発見や二次発がんのスクリーニングという観点からも大切です。
フォローアップ時期 | 観察間隔 |
治療終了後1年目 | 1〜2ヶ月毎 |
2〜3年目 | 2〜3ヶ月毎 |
4〜5年目 | 3〜6ヶ月毎 |
5年以降 | 6〜12ヶ月毎 |
このようにネダプラチンの治療期間は画一的なものではなく個々の患者さんの状況に応じて柔軟に設定する必要があります。
治療効果と有害事象のバランスを慎重に評価しながら最適な投与期間を見極めることが治療成功の鍵となる可能性があります。
ネダプラチン(NDP)の副作用とデメリット
骨髄抑制
ネダプラチン投与後に最も頻繁に観察される副作用の一つが骨髄抑制です。
この影響により白血球数・血小板数・赤血球数の減少が生じて感染リスクの上昇や出血傾向 貧血などの症状を引き起こす可能性があります。
特に好中球減少は重篤な感染症につながる恐れがあるため注意深いモニタリングが重要です。
血球種類 | 減少時のリスク |
白血球 | 感染症 |
血小板 | 出血傾向 |
赤血球 | 貧血 |
消化器症状
多くの患者さんが経験する副作用として消化器症状が挙げられます。
主な症状には悪心・嘔吐・食欲不振などがあり、これらは患者さんのQOLを著しく低下させる要因となります。
制吐剤の予防的使用や食事指導などの対策を講じますが、完全な予防は困難な場合があります。
- 悪心・嘔吐の程度評価
- 食事摂取量のモニタリング
- 体重変化の追跡
症状 | 対策 |
悪心・嘔吐 | 制吐剤投与 |
食欲不振 | 栄養指導 |
口内炎 | 含嗽剤使用 |
腎機能障害
ネダプラチンは他の白金製剤と比較して腎毒性が低いとされていますが完全に回避できるわけではありません。
長期投与や高用量投与では腎機能の悪化が見られることがあります。
定期的な腎機能検査と尿量のモニタリングが必須となり場合によっては投与量の調整や治療の中断が必要となります。
腎機能指標 | 正常値 |
クレアチニンクリアランス | ≧60 mL/min |
血清クレアチニン | ≦1.2 mg/dL |
末梢神経障害
ネダプラチン投与後に発現する可能性のある神経毒性として末梢神経障害があります。
しびれや痛み、感覚異常などの症状が手足に現れて日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。
この副作用は投与を中止しても完全には回復しないケースもあり、患者さんのQOLに長期的な影響を及ぼす恐れがあります。
グレード | 症状 |
グレード1 | 軽度のしびれ感 |
グレード2 | 日常生活に軽度の支障 |
グレード3 | 日常生活に高度の支障 |
聴覚障害
ネダプラチンによる聴覚への影響は他の白金製剤ほど顕著ではありませんが無視できるものではありません。
高音域の聴力低下や耳鳴りなどの症状が現れる可能性があり、特に小児や高齢者では注意が必要です。
対策としては定期的な聴力検査を行い早期発見・早期対応に努めることが大切です。
- 高音域聴力の評価
- 耳鳴りの有無確認
- 会話聴取能力の変化
年齢層 | リスク |
小児 | 高 |
成人 | 中 |
高齢者 | 高 |
アレルギー反応
稀ではありますがネダプラチン投与後のアレルギー反応や過敏症状の発現が考えられます。
軽度の皮疹から重篤なアナフィラキシーショックまで様々な程度の反応が報告されています。
初回投与時は特に慎重な観察が必要であり、即時対応できる体制を整えておくことが重要です。
反応の種類 | 症状 |
軽度 | 皮疹 掻痒感 |
中等度 | 呼吸困難 血圧低下 |
重度 | アナフィラキシーショック |
論文における使用経験報告によると、ある症例ではネダプラチン投与後に重度の末梢神経障害が発現しました。
そこで早期に減量・休薬を行いリハビリテーションを積極的に導入することで症状の改善と社会復帰を達成できました。
この経験から副作用の早期発見と迅速な対応、そして多職種による包括的なケアの重要性を再認識しました。
二次性悪性腫瘍
長期的な副作用として二次性悪性腫瘍の発生リスク上昇が指摘されています。
特に若年患者さんや長期生存者においてはこの点に留意した経過観察が必要となります。
ネダプラチン治療後は定期的な全身スクリーニングを行い新たな腫瘍の早期発見に努めることが重要です。
好発部位 | 潜伏期間 |
骨髄性白血病 | 3-5年 |
固形腫瘍 | 5-10年以上 |
生殖機能への影響
ネダプラチンを含む化学療法は生殖機能に影響を与える可能性があります。
特に若年患者さんにおいては将来の妊孕性についての十分な説明と対策が必要となります。
男性患者さんでは精子凍結保存、女性患者さんでは卵子or卵巣組織凍結保存などの選択肢を提示する場合もあります。
- 治療前の妊孕性評価
- 生殖機能温存療法の提案
- 長期的な内分泌機能のフォローアップ
性別 | 主な影響 |
男性 | 精子形成障害 |
女性 | 卵巣機能不全 |
上記のようにネダプラチンの副作用やデメリットは多岐にわたりますが、多くは予測可能であり適切な予防策と早期対応により管理できる可能性があります。
代替治療薬
他の白金製剤への変更
ネダプラチンによる治療効果が不十分な場合にまず考慮すべき選択肢は他の白金製剤への変更です。
シスプラチンやカルボプラチンなど同じ白金系抗がん剤でも薬剤ごとに特性が異なるため腫瘍の反応性が変わる可能性が生じます。
これらの薬剤は交叉耐性が完全ではないためネダプラチン不応例でも効果を示すことがあります。
薬剤名 | 特徴 |
シスプラチン | 強力な抗腫瘍効果 腎毒性高い |
カルボプラチン | 腎毒性低い 骨髄抑制強い |
非白金系抗がん剤への切り替え
白金製剤全般に効果が乏しい場合には作用機序の異なる非白金系抗がん剤への切り替えを検討します。
タキサン系薬剤・ビンカアルカロイド系薬剤・トポイソメラーゼ阻害剤などが選択肢です。
これらの薬剤は腫瘍細胞に対して異なるメカニズムで作用するためネダプラチン耐性腫瘍にも効果を発揮する可能性があります。
- タキサン系 パクリタキセル ドセタキセル
- ビンカアルカロイド系 ビノレルビン
- トポイソメラーゼ阻害剤 イリノテカン トポテカン
薬剤系統 | 主な作用機序 |
タキサン系 | 微小管機能阻害 |
ビンカアルカロイド系 | 有糸分裂阻害 |
トポイソメラーゼ阻害剤 | DNA複製阻害 |
分子標的薬への移行
近年ではがん細胞の特定の分子を標的とする分子標的薬の開発が進んでおり、これらはネダプラチン不応例に対する新たな選択肢となっています。
EGFR阻害剤・ALK阻害剤・VEGF阻害剤などが代表的で、腫瘍の遺伝子変異や発現タンパクに応じて選択します。
これらの薬剤は従来の細胞傷害性抗がん剤とは異なるメカニズムで作用するため化学療法抵抗性の腫瘍にも効果を示すことがあります。
分子標的薬の種類 | 標的分子 |
EGFR阻害剤 | 上皮成長因子受容体 |
ALK阻害剤 | 未分化リンパ腫キナーゼ |
VEGF阻害剤 | 血管内皮増殖因子 |
免疫チェックポイント阻害剤の導入
免疫チェックポイント阻害剤はがん治療の新たなアプローチとして注目されています。
患者さん自身の免疫系を活性化させることでがん細胞を攻撃するPD-1阻害剤・PD-L1阻害剤・CTLA-4阻害剤などが該当します。
ネダプラチンを含む従来の化学療法に抵抗性を示す腫瘍でも免疫チェックポイント阻害剤が奏効するケースが報告されています。
- PD-1阻害剤 ニボルマブ ペムブロリズマブ
- PD-L1阻害剤 アテゾリズマブ デュルバルマブ
- CTLA-4阻害剤 イピリムマブ
免疫チェックポイント阻害剤 | 主な適応がん |
ニボルマブ | 非小細胞肺がん・悪性黒色腫 |
ペムブロリズマブ | 非小細胞肺がん・頭頸部がん |
マルチキナーゼ阻害剤の使用
マルチキナーゼ阻害剤は複数のキナーゼを同時に阻害することで腫瘍の増殖や血管新生を抑制します。
ソラフェニブ・レンバチニブ・カボザンチニブなどが代表的な薬剤です。
これらは従来の化学療法や単一の分子標的薬に耐性を示す腫瘍に対しても効果を発揮する可能性があります。
マルチキナーゼ阻害剤 | 主な標的キナーゼ |
ソラフェニブ | VEGFR・RAF・PDGFR |
レンバチニブ | VEGFR・FGFR・PDGFR |
新規抗体薬物複合体(ADC)の検討
抗体薬物複合体(ADC)はモノクローナル抗体と強力な細胞傷害性物質を結合させた新しいタイプの薬剤です。
特定の腫瘍抗原を標的としつつ、強力な細胞傷害作用を発揮するトラスツズマブ・デルクステカン・エンホルツマブ・ベドチンなどが開発されています。
ネダプラチンを含む従来の化学療法に抵抗性を示す腫瘍に対しても新たな治療選択肢となる可能性があります。
ADC | 標的抗原 | 結合薬物 |
トラスツズマブ デルクステカン | HER2 | トポイソメラーゼI阻害剤 |
エンホルツマブ ベドチン | Nectin-4 | 微小管阻害剤 |
論文における使用経験報告によると、ある進行非小細胞肺がん患者さんがネダプラチンによる化学療法後に病勢進行を認めました。
そこで免疫チェックポイント阻害剤のペムブロリズマブへの切り替えにより劇的な腫瘍縮小効果が得られ、2年以上の長期生存を達成しました。
この事例から異なる作用機序を持つ薬剤への変更が治療抵抗性腫瘍に対しても新たな可能性をもたらすことが示唆されます。
併用療法の再検討
単剤での効果が限定的な場合は異なる作用機序を持つ薬剤との併用療法を検討することも重要です。
例えば非白金系抗がん剤と分子標的薬の併用、または免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用など様々な組み合わせが研究されています。
これらの併用療法は相乗効果や耐性克服の観点から単剤療法よりも高い有効性を示す可能性があります。
併用パターン | 期待される効果 |
化学療法+免疫療法 | 免疫原性細胞死の誘導 |
分子標的薬+免疫療法 | 腫瘍微小環境の改善 |
このように ネダプラチンが効果を示さない場合でも多様な代替治療薬や新規治療法が存在します。
ネダプラチン(NDP)の併用禁忌
腎毒性を有する薬剤との併用
ネダプラチンは他の白金製剤と比較して腎毒性が低いとされていますが完全に回避できるわけではありません。
そのため腎毒性を有する薬剤との併用には特に注意が必要です。
アミノグリコシド系抗生物質やバンコマイシンなどの抗生物質、シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制剤との併用は腎機能障害のリスクを著しく高める恐れがあります。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 |
アミノグリコシド系抗生物質 | ゲンタマイシン・アミカシン |
その他の腎毒性抗生物質 | バンコマイシン |
カルシニューリン阻害剤 | シクロスポリン・タクロリムス |
骨髄抑制を増強する薬剤
ネダプラチンは強力な骨髄抑制作用を有するため同様の副作用を持つ薬剤との併用には慎重な判断が求められます。
特に他の抗がん剤や免疫抑制剤との併用時には重度の骨髄抑制が生じるリスクが高まります。
こうした薬剤との併用を避けられない状況では用量調整や投与間隔の延長などの対策が必要です。
- 他の細胞傷害性抗がん剤
- 放射線療法
- 造血幹細胞に影響を与える薬剤
薬剤分類 | 骨髄抑制増強のリスク |
アルキル化剤 | 高 |
代謝拮抗剤 | 中〜高 |
トポイソメラーゼ阻害剤 | 中 |
神経毒性を増強する薬剤
ネダプラチンによる末梢神経障害は患者さんのQOLに大きな影響を与える副作用の一つです。
このため神経毒性を有する薬剤との併用には十分な注意が必要となります。
タキサン系薬剤やビンカアルカロイド系薬剤など他の神経毒性を持つ抗がん剤との併用は末梢神経障害のリスクを相乗的に高める可能性があります。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 |
タキサン系 | パクリタキセル・ドセタキセル |
ビンカアルカロイド系 | ビンクリスチン・ビノレルビン |
聴覚毒性を増強する薬剤
ネダプラチンは他の白金製剤と同様、聴覚毒性を引き起こす危険性が生じます。
アミノグリコシド系抗生物質やループ利尿薬など聴覚に影響を与える薬剤との併用は聴力低下や耳鳴りのリスクを増大させる恐れがあります。
特に小児や高齢者ではこの点に関して慎重な薬剤選択が求められます。
- アミノグリコシド系抗生物質
- ループ利尿薬
- サリチル酸系解熱鎮痛剤
薬剤分類 | 聴覚毒性増強のリスク |
アミノグリコシド系抗生物質 | 高 |
ループ利尿薬 | 中〜高 |
サリチル酸系解熱鎮痛剤 | 中 |
心毒性を有する薬剤との併用
ネダプラチンの心毒性は比較的軽度とされていますが他の心毒性を有する薬剤との併用には注意が必要です。
アントラサイクリン系抗がん剤やトラスツズマブなどの分子標的薬との併用は心機能障害のリスクを高める可能性があります。
特に心疾患の既往がある患者さんや高齢者ではこの点に関して慎重な評価が重要です。
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 |
アントラサイクリン系 | ドキソルビシン・エピルビシン |
分子標的薬 | トラスツズマブ |
肝毒性を増強する薬剤
ネダプラチンの肝毒性は比較的軽度ですが 他の肝毒性を有する薬剤との併用には注意が必要です。
メトトレキサートやイマチニブなどの薬剤との併用は肝機能障害のリスクを増大させる危険性があります。
肝機能障害の既往がある患者さんでは特に慎重な薬剤選択と肝機能モニタリングが求められます。
- メトトレキサート
- チロシンキナーゼ阻害剤
- 抗真菌薬
薬剤分類 | 肝毒性増強のリスク |
代謝拮抗剤 | 高 |
チロシンキナーゼ阻害剤 | 中〜高 |
アゾール系抗真菌薬 | 中 |
このように ネダプラチンの併用禁忌や注意すべき薬剤の組み合わせは多岐にわたります。
ネダプラチン(NDP)の薬価について
薬価
ネダプラチン(アクプラ)の薬価は規格や剤形によって異なります。
10mg製剤では4,150円、50mg製剤では18,459円、100mg製剤では36,705円となっています。
これらの価格は医療機関によって若干の変動がある可能性があります。
規格 | 薬価 |
10mg | 4,150円 |
50mg | 18,459円 |
100mg | 36,705円 |
処方期間による総額
ネダプラチンの投与量は患者さんの体表面積や症状に応じて決定されます。
仮に100mg製剤を週1回投与する場合の1週間の処方では36,705円 、1ヶ月(4回投与)では146,820円となります。
ただし実際の治療では他の薬剤との併用や支持療法の費用も考慮する必要があります。
期間 | 総額(100mg製剤使用時) |
1週間 | 36,705円 |
1ヶ月 | 146,820円 |
- 体表面積による投与量調整
- 併用薬剤の追加費用
このようにネダプラチンの薬価は他の抗がん剤と比較しても高額となっています。
なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文