イトラコナゾール(イトリゾール)とは真菌感染症に対して効果的な抗真菌薬の一種です。
この薬剤は呼吸器系の深在性真菌症や全身性真菌症の治療に広く用いられています。
特にアスペルギルス症やカンジダ症などの難治性の感染症に対して高い効果を示すことが知られています。
イトラコナゾールは真菌の細胞膜の主要成分であるエルゴステロールの合成を阻害することで真菌の増殖を抑制します。
その結果感染症の症状改善や進行の抑制が期待できます。
ITCZの有効成分と作用機序、効果
イトラコナゾール(ITCZ)は深在性真菌症の治療に広く用いられる抗真菌薬です。
ここではこの薬剤の有効成分、作用の仕組み、そして期待される効果について詳しく解説します。
有効成分の特徴
イトラコナゾールの主成分は化学名1-[(2R,4S)-4-[4-[4-[4-[[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-1,3-ジオキソラン-4-イル]メトキシ]フェニル]ピペラジン-1-イル]フェニル]-2-[(1RS)-1-メチルプロピル]-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-5-オンです。
この化合物はトリアゾール系抗真菌薬に分類され、その構造が真菌の細胞膜合成を阻害する働きを持っています。
イトラコナゾールの分子構造は複雑で多くの環状構造を含んでおり、これが薬剤の特異的な作用と関係しています。
特性 | 詳細 |
分子式 | C35H38Cl2N8O4 |
分子量 | 705.63 g/mol |
外観 | 白色〜微黄色の結晶性粉末 |
溶解性 | 水にほとんど溶けない |
作用機序の解明
イトラコナゾールの作用機序は真菌細胞膜の主要成分であるエルゴステロールの生合成阻害に基づいています。
具体的には次のステップで真菌の増殖を抑制します。
- チトクロームP450依存性酵素の14α-脱メチル化酵素を阻害
- エルゴステロール前駆体の蓄積を引き起こす
- 細胞膜の構造と機能に障害を与える
- 真菌の増殖を停止させる
この過程でイトラコナゾールは選択的に真菌細胞に作用してヒトの細胞には影響を与えにくい特性を持っています。
阻害対象 | 影響 |
真菌細胞 | エルゴステロール合成阻害 |
ヒト細胞 | 最小限の影響 |
幅広い抗真菌スペクトル
イトラコナゾールは多様な真菌種に対して効果を示しますが、なかでも以下の真菌に対して高い活性を持ちます。
- アスペルギルス属
- カンジダ属
- クリプトコッカス属
- ブラストミセス属
- ヒストプラズマ属
これらの真菌によって引き起こされる感染症に対してイトラコナゾールは強力な治療効果を発揮します。
臨床効果と適応症
イトラコナゾールの臨床効果は様々な真菌感染症の治療において実証されていますが、主な適応症は次のようなものです。
- 深在性真菌症
- 表在性皮膚真菌症
- 爪真菌症
特に肺アスペルギルス症や慢性肺アスペルギルス症などの難治性感染症に対してイトラコナゾールは重要な治療選択肢となっています。
適応症 | 効果 |
肺アスペルギルス症 | 高い有効性 |
カンジダ症 | 良好な治療成績 |
クリプトコッカス症 | 症状改善 |
イトラコナゾールを長期投与することで再発予防にも有効であることが報告されています。
このため難治性の真菌感染症や免疫不全患者さんの二次予防に使用されることがあります。
使用方法と注意点
イトラコナゾール(ITCZ)は深在性真菌症の治療に効果的な抗真菌薬ですが、その使用には正しい知識と注意が必要です。
ここではイトラコナゾールの適切な使用方法と服用時に留意すべきポイントについて詳しく解説します。
投与経路と剤形
イトラコナゾールは主に経口投与で使用します。
剤形にはカプセル剤・錠剤・内用液剤があり、患者さんの状態や治療目的に応じて選択します。
剤形 | 特徴 |
カプセル剤 | 一般的な形状・吸収性に優れる |
錠剤 | 服用しやすい・長期保存に適する |
内用液剤 | 嚥下困難な患者に適している |
各剤形にはそれぞれ異なる吸収特性があるため医師の指示に従って適切な剤形を選択することが重要です。
用法・用量
イトラコナゾールの用法・用量は感染症の種類、重症度、患者さんの体重などによって異なりますが一般的な用法・用量は以下の通りです。
- 成人の場合 通常1日100〜200mgを1〜2回に分けて経口投与
- 小児の場合 体重に応じて調整し1日3〜5mg/kgを目安に投与
ただし個々の患者さんの状況に応じて医師が適切な用量を決定します。
治療効果を最大限に引き出すためには規則正しい服用が欠かせません。
服用時の注意事項
イトラコナゾールの吸収は胃酸の分泌状態に影響されるため服用のタイミングや食事との関係に注意が必要です。
カプセル剤や錠剤の場合は食直後または食事中に服用することで吸収率が向上します。
一方内用液剤は空腹時に服用することが推奨されています。
剤形 | 推奨される服用タイミング |
カプセル剤・錠剤 | 食直後または食事中 |
内用液剤 | 空腹時 |
服用を忘れた場合は気づいた時点で服用し、その後は通常のスケジュールに戻ります。
ただし次の服用時間が近い場合は1回分を抜かして通常どおり服用を続けます。
2019年に発表されたJournal of Antimicrobial Chemotherapyの研究ではITCZの治療薬物モニタリング(TDM)の重要性が指摘されています。
この研究によるとTDMを実施することで治療効果の最適化と副作用リスクの低減が可能となることが示されました。
ITCZの適応対象患者
イトラコナゾール(ITCZ)は幅広い抗真菌スペクトルを持つ薬剤であり様々な真菌感染症の治療に用いられます。
ここではイトラコナゾールが適応となる患者さんの特徴や使用が推奨される病態について詳しく解説します。
深在性真菌症患者
イトラコナゾールの主要な適応対象は深在性真菌症に罹患した患者さんです。
深在性真菌症は体内深部の臓器や組織に真菌が感染することで引き起こされる重篤な疾患群を指します。
特に以下の疾患を有する患者さんがイトラコナゾールの投与対象となります。
深在性真菌症 | 主な感染部位 |
アスペルギルス症 | 肺・副鼻腔 |
カンジダ症 | 食道・膀胱・血流 |
クリプトコッカス症 | 肺・中枢神経系 |
ヒストプラズマ症 | 肺・全身 |
これらの疾患は免疫機能が低下した患者さんや長期の抗生物質使用歴がある患者さんに発症しやすい傾向です。
免疫不全患者
免疫機能が低下している患者さんは真菌感染症のリスクが高く、イトラコナゾールの使用が検討される対象となります。
具体的には次のような状態にある患者さんが該当します。
- HIV/AIDS患者
- 臓器移植後の免疫抑制療法を受けている患者
- 造血幹細胞移植を受けた患者
- 長期のステロイド療法を受けている患者
- 化学療法を受けているがん患者
これらの患者さんでは予防的投与も含めてイトラコナゾールの使用が考慮されます。
免疫不全の原因 | イトラコナゾール使用の目的 |
HIV/AIDS | 日和見感染予防・治療 |
臓器移植 | 移植後感染症予防 |
化学療法 | 真菌感染リスク軽減 |
慢性肺アスペルギルス症患者
慢性肺アスペルギルス症はイトラコナゾールが特に効果を発揮する疾患の一つです。
この疾患は主に以下のような既往歴や基礎疾患を持つ患者さんに発症します。
- 結核や非結核性抗酸菌症の既往
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 気管支拡張症
- サルコイドーシス
これらの背景を持つ患者さんで慢性的な咳嗽・喀痰・体重減少などの症状が持続する場合にはイトラコナゾールによる治療が選択肢となります。
皮膚真菌症・爪真菌症患者
イトラコナゾールは深在性真菌症だけでなく表在性の真菌感染症にも有効です。
特に以下のような皮膚や爪の真菌症に罹患した患者さんが適応対象となります。
- 白癬(足白癬・体部白癬・頭部白癬)
- カンジダ性皮膚炎
- 癜風
- 爪白癬(爪真菌症)
これらの疾患は一見すると軽症に見えますが、難治性であったり再発を繰り返したりする場合があります。
そのような患者さんではイトラコナゾールの全身投与が考慮されます。
表在性真菌症 | 特徴 |
足白癬 | 足の裏や指の間に発症 |
爪白癬 | 爪の肥厚・変色・脆弱化 |
カンジダ性皮膚炎 | 間擦部や皮膚のしわに発症 |
難治性真菌感染症患者
従来の抗真菌薬治療に反応しない難治性の真菌感染症患者さんもイトラコナゾールの適応対象となる可能性があります。
特に次のような状況下にある患者さんではイトラコナゾールの使用が検討されます。
- アゾール系抗真菌薬に耐性を示す真菌株による感染
- 複数の抗真菌薬による治療歴がある患者
- 再発を繰り返す真菌感染症患者
- 薬物相互作用のため他の抗真菌薬が使用できない患者
これらのケースではイトラコナゾールの特性を活かした治療戦略が重要となります。
難治性真菌感染症の要因 | イトラコナゾールの利点 |
薬剤耐性 | 広域抗真菌スペクトル |
再発性感染 | 長期投与の実績 |
薬物相互作用 | 代謝経路の多様性 |
治療期間
イトラコナゾール(ITCZ)による治療期間は感染症の種類や重症度 患者さんの状態によって大きく異なります。
では各種真菌感染症におけるイトラコナゾールの標準的な投与期間と治療期間を決定する際の考慮点について詳しく解説します。
表在性真菌症の治療期間
表在性真菌症に対するイトラコナゾールの治療期間は比較的短期間で済む傾向です。
皮膚真菌症や爪真菌症などの表在性感染症では一般的に次のような投与期間が推奨されます。
- 皮膚カンジダ症 2〜4週間
- 足白癬 2〜4週間
- 爪真菌症(爪白癬) 指の爪で3ヶ月 足の爪で6ヶ月
これらの治療期間は あくまで目安であり、個々の患者さんの症状や治療反応性に応じて調整が必要です。
表在性真菌症 | 標準的治療期間 |
皮膚カンジダ症 | 2〜4週間 |
足白癬 | 2〜4週間 |
爪真菌症(指) | 3ヶ月 |
爪真菌症(足) | 6ヶ月 |
深在性真菌症の治療期間
深在性真菌症に対するイトラコナゾールの治療期間は表在性真菌症と比べて一般的に長期にわたります。
感染部位・原因菌・患者さんの免疫状態などにより投与期間は大きく異なりますが、典型的には次のような期間が考えられます。
- 肺アスペルギルス症 6ヶ月〜1年以上
- 慢性肺アスペルギルス症 6ヶ月以上 場合によっては数年
- 全身性カンジダ症 治療反応性に応じて2〜6ヶ月
- クリプトコッカス症 髄膜炎の場合 最低6〜12ヶ月
これらの疾患では臨床症状や画像所見 血清学的マーカーなどを総合的に評価しながら治療期間を決定します。
深在性真菌症 | 一般的な治療期間 |
肺アスペルギルス症 | 6ヶ月〜1年以上 |
慢性肺アスペルギルス症 | 6ヶ月以上 |
全身性カンジダ症 | 2〜6ヶ月 |
クリプトコッカス髄膜炎 | 6〜12ヶ月以上 |
免疫不全患者における治療期間
免疫機能が低下している患者さんでは真菌感染症の治療期間が延長される傾向です。
HIV/AIDS患者さん、臓器移植後の患者さん、長期ステロイド使用患者さんなどでは通常よりも長期間のイトラコナゾール投与が必要となる場合があります。
具体的には以下のような点を考慮して治療期間を決定します。
- 免疫機能の回復状況
- 原疾患の管理状態
- 真菌感染の再発リスク
- 薬剤耐性の発現リスク
これらの患者群では治療終了後も定期的なフォローアップが重要です。
免疫不全の原因 | 治療期間への影響 |
HIV/AIDS | 免疫再構築まで延長 |
臓器移植後 | 免疫抑制薬減量まで延長 |
長期ステロイド使用 | ステロイド減量に応じて調整 |
予防投与の期間
イトラコナゾール(ITCZ)は真菌感染症の予防目的でも使用されます。
予防投与の期間は患者さんのリスク因子や臨床状況によって異なりますが、一般的には次のような目安があります。
- 造血幹細胞移植患者 好中球減少期間中および移植後100日間
- 血液悪性腫瘍患者 化学療法による好中球減少期間中
- HIV患者 CD4陽性Tリンパ球数が一定レベルを上回るまで
予防投与の継続期間は定期的に再評価して必要に応じて調整します。
治療効果判定と期間延長の判断
イトラコナゾールによる治療効果の判定は臨床症状の改善・画像所見の変化・血清学的マーカーの推移などを総合的に評価して行います。
治療期間の延長が必要となる状況には 以下のようなものがあります。
- 臨床症状の改善が不十分
- 画像所見で病変の残存や増悪
- 血清学的マーカーの陽性持続
- 免疫機能の回復遅延
これらの場合は治療期間を延長するとともに薬剤感受性試験や治療薬物モニタリング(TDM)の実施を検討します。
効果判定項目 | 延長を検討する基準 |
臨床症状 | 改善不十分または再燃 |
画像所見 | 病変の残存または新規出現 |
血清マーカー | 陽性持続または再上昇 |
免疫機能 | 回復遅延 |
2021年に発表されたClinical Microbiology and Infectionの研究では慢性肺アスペルギルス症患者さんにおけるITCZの長期投与の有効性が報告されています。
この研究によると 6ヶ月以上の継続投与で臨床的安定が得られた患者さんの割合が有意に高く、2年以上の長期投与でも良好な忍容性が示されました。
イトラコナゾールの副作用とデメリット
イトリゾール(ITCZ)は効果的な抗真菌薬ですが他の薬剤と同様に副作用やデメリットがあります。
ここではイトラコナゾール使用時に注意すべき副作用とその他の潜在的なデメリットについて詳細に解説します。
消化器系の副作用
イトラコナゾールによる消化器系の副作用は比較的高頻度に見られます。
主な症状は以下のようなものです。
- 悪心・嘔吐
- 腹痛
- 下痢
- 便秘
- 食欲不振
これらの症状は多くの場合軽度から中等度であり投薬を継続することで改善するでしょう。
しかし症状が持続したり日常生活に支障をきたしたりする場合は医師に相談して用量調整や代替薬への変更を検討する必要があります。
消化器系副作用 | 発現頻度 |
悪心・嘔吐 | 5-10% |
腹痛 | 3-8% |
下痢 | 3-7% |
食欲不振 | 2-5% |
肝機能障害
イトラコナゾールは肝臓で代謝されるため肝機能に影響を与える可能性があります。
肝機能障害の主な症状は以下のようなものです。
- 倦怠感
- 黄疸(皮膚や眼球の黄染)
- 右上腹部痛
- 濃い色の尿
- 灰白色の便
これらの症状が現れた際は直ちに医師に連絡して肝機能検査を実施する必要があります。
投薬開始前および治療中は定期的な肝機能モニタリングが必要です。
肝機能検査項目 | 異常値の目安 |
AST (GOT) | >正常上限の3倍 |
ALT (GPT) | >正常上限の3倍 |
γ-GTP | >正常上限の2倍 |
ALP | >正常上限の2倍 |
心血管系への影響
イトラコナゾールは特に高用量または長期投与時に心血管系に影響を与える場合があります。
注意すべき心血管系の副作用は以下のようなものです。
- うっ血性心不全
- 不整脈
- 心電図異常(QT間隔延長など)
特に心疾患の既往がある患者さんや高齢者では心機能のモニタリングが重要です。
心不全症状(呼吸困難・浮腫・動悸など)が現れた場合は速やかに医療機関を受診するよう指導が必要です。
心血管系リスク因子 | 注意点 |
高齢(65歳以上) | 心機能モニタリング強化 |
心疾患の既往 | 投与開始前の心機能評価 |
QT延長のリスク | 定期的な心電図検査 |
耐性菌の出現
長期間のイトリゾール使用は耐性菌の出現リスクを高める可能性があります。
耐性菌出現のリスク因子には以下のようなものがあります。
- 不適切な用法・用量
- 治療の中断や自己中止
- 予防的長期投与
- 免疫不全状態の持続
耐性菌の出現は治療の失敗や再発のリスクを高めるため慎重な投与計画と患者さん教育が重要です。
2019年に発表されたJournal of Antimicrobial Chemotherapyの研究ではアスペルギルス属菌のITCZ耐性率が年々上昇傾向にあることが報告されています。
この研究によると特に慢性肺アスペルギルス症患者さんでの耐性率上昇が顕著であり長期投与時の定期的な感受性試験の実施が推奨されています。
効果がなかった場合の代替治療薬
イトラコナゾール(ITCZ)は広域抗真菌薬として多くの真菌感染症に効果を示しますが耐性菌の出現や副作用などの理由で効果が得られない事態も起こり得ます。
ここではイトラコナゾールが奏功しなかった場合に考慮すべき代替治療薬について各種真菌症ごとに詳しく解説します。
アゾール系抗真菌薬
イトラコナゾールと同じアゾール系に属する他の抗真菌薬が第一の代替選択肢となることが多いです。
主な代替薬には以下のようなものがあります。
薬剤名 | 主な特徴 |
ボリコナゾール | アスペルギルス症に高い有効性 |
ポサコナゾール | 広域スペクトル 予防投与にも使用 |
フルコナゾール | カンジダ症に特化 副作用が比較的少ない |
上記のような薬剤はイトラコナゾールと類似した作用機序を持ちますが、薬物動態や抗真菌スペクトルに違いがあります。
特にボリコナゾールはアスペルギルス症に対して高い有効性を示すため肺アスペルギルス症の治療失敗例で頻用されます。
キャンディン系抗真菌薬
イトラコナゾールを含むアゾール系薬剤に耐性を示す真菌に対してはキャンディン系抗真菌薬が有効な選択肢となります。
主なキャンディン系薬剤は次のようなものです。
- ミカファンギン
- カスポファンギン
- アニデュラファンギン
これらの薬剤は真菌細胞壁の合成を阻害することで抗真菌作用を発揮します。
アゾール系とは異なる作用機序を持つためクロスレジスタンスのリスクが低いという利点があります。
カンジダ症やアスペルギルス症に対して高い有効性を示し特に重症例や免疫不全患者さんでの使用が推奨されます。
キャンディン系薬剤 | 主な適応 |
ミカファンギン | カンジダ血症・深在性カンジダ症 |
カスポファンギン | 侵襲性アスペルギルス症 |
アニデュラファンギン | 食道カンジダ症・カンジダ血症 |
イトラコナゾール(ITCZ)の併用禁忌
イトラコナゾール(ITCZ)は広範な抗真菌スペクトルを持つ有効な薬剤ですが特定の薬剤との併用に際しては重大な相互作用のリスクが生じます。
CYP3A4で代謝される薬剤
イトラコナゾールはCYP3A4の強力な阻害剤であるため、この酵素で代謝される多くの薬剤との併用に注意が必要です。
特に以下の薬剤群との併用は禁忌とされています。
- 麦角アルカロイド製剤(エルゴタミン・ジヒドロエルゴタミンなど)
- HMG-CoA還元酵素阻害薬(シンバスタチン・アトルバスタチンなど)
- ピモジド
- キニジン
- ベプリジル
これらの薬剤とイトラコナゾールを併用するとそれぞれの血中濃度が上昇して重篤な副作用を引き起こす危険性があります。
併用禁忌薬剤 | 予想される副作用 |
麦角アルカロイド | 四肢の虚血・壊疽 |
HMG-CoA還元酵素阻害薬 | 横紋筋融解症 |
ピモジド | QT延長・心室性不整脈 |
キニジン | QT延長・トルサード・ド・ポアント |
QT延長をきたす薬剤
イトラコナゾール自体がQT間隔を延長させる作用を持つためQT延長を引き起こす他の薬剤との併用には特別な注意が必要です。
併用禁忌とされる主なQT延長薬剤には以下のようなものがあります。
- アステミゾール
- テルフェナジン
- ミゾラスチン
- ベプリジル(再掲)
- スパルフロキサシン
これらの薬剤とイトラコナゾールを併用すると致死的な不整脈(トルサード・ド・ポアントなど)のリスクが著しく上昇します。
QT延長薬剤 | 薬効分類 |
アステミゾール | 抗ヒスタミン薬 |
テルフェナジン | 抗ヒスタミン薬 |
ミゾラスチン | 抗ヒスタミン薬 |
スパルフロキサシン | ニューキノロン系抗菌薬 |
代謝酵素誘導作用を持つ薬剤
イトラコナゾールの血中濃度を低下させて治療効果を減弱させる可能性のある薬剤との併用も避けるべきです。
特に注意が必要な薬剤は以下のようなものです。
- リファンピシン
- リファブチン
- フェニトイン
- カルバマゼピン
- フェノバルビタール
これらの薬剤はCYP3A4を誘導しイトラコナゾールの代謝を促進します。
結果としてイトラコナゾールの血中濃度が低下して十分な抗真菌効果が得られなくなる可能性があります。
代謝酵素誘導薬 | 主な適応疾患 |
リファンピシン | 結核 |
フェニトイン | てんかん |
カルバマゼピン | てんかん・躁病 |
フェノバルビタール | てんかん・不眠症 |
消化管吸収に影響を与える薬剤
イトラコナゾールの吸収は胃内pHに大きく依存するため胃酸分泌を抑制する薬剤との併用には注意が必要です。
以下の薬剤との併用はイトラコナゾールの吸収を著しく低下させる可能性があります。
- プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール・ランソプラゾールなど)
- H2受容体拮抗薬(ファモチジン・ラニチジンなど)
- 制酸薬(水酸化アルミニウム・水酸化マグネシウムなど)
これらの薬剤を使用する際はイトラコナゾールとの服用タイミングを十分に考慮する必要があります。
胃酸分泌抑制薬 | イトラコナゾールとの併用方法 |
プロトンポンプ阻害薬 | 2時間以上の間隔をあける |
H2受容体拮抗薬 | 2時間以上の間隔をあける |
制酸薬 | 1時間以上の間隔をあける |
特殊な患者集団における注意点
特定の基礎疾患や状態にある患者さんではイトラコナゾールの使用自体が禁忌となることがあり、他剤との併用にはさらなる注意が必要です。
主な注意が必要な患者群には以下のようなものがあります。
- 心不全患者または心不全の既往がある患者
- 重度の肝機能障害患者
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性
- 授乳婦
これらの患者群ではイトラコナゾールの使用を避けるか極めて慎重に投与を検討する必要があります。
患者群 | 併用注意薬剤 |
心不全患者 | 強心配糖体 利尿薬 |
肝機能障害患者 | 肝毒性のある薬剤 |
妊婦 | 催奇形性のある薬剤 |
イトリゾールの薬価と治療費用
イトリゾール(イトラコナゾール)は効果的な抗真菌薬ですが、その薬価と治療費用についても理解しておくことが大切です。
ここではイトラコナゾールの薬価・処方期間による総額・そしてジェネリック医薬品との比較について解説します。
薬価
イトラコナゾールの薬価は剤形や含有量によって異なります。
50mgカプセル1錠あたりの薬価は134.7円です。
内用液1%の場合では1mLあたり37.2円となります。
剤形 | 含有量 | 1錠・1mLあたりの薬価 |
カプセル | 50mg | 134.7円 |
内用液1% | – | 37.2円 |
処方期間による総額
通常1日200mgを2回に分けて服用します。
1週間処方した場合の薬代総額は3,771.6円となります。
同じ容量で1ヶ月処方の場合では16,164円の費用がかかります。
- 1週間処方 3,771.6円
- 1ヶ月処方 16,164円
ジェネリック医薬品との比較
イトラコナゾールはジェネリック医薬品も存在し、利用することができます。
ジェネリック医薬品の薬価は先発品の6〜7割程度で、100mgカプセルの場合は1錠あたり68.9円となります。
医薬品タイプ | 100mgカプセル1錠の薬価 |
先発品 | 134.7円 |
ジェネリック | 68.9円 |
なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
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