インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)とは慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状緩和に用いられる長時間作用型の気管支拡張薬です。

この薬剤は肺の気道を広げる効果があり、患者さんの呼吸をより楽にすることができます。

1日1回の吸入で24時間効果が持続するため日常生活の質を向上させる可能性があります。

オンブレスはCOPDの方々の症状管理において重要な役割を果たす医薬品の一つとして注目されています。

オンブレス|製品基本情報(添付文書等)|医療関係者向け|ノバルティス ファーマ DR’s Net (novartis.co.jp)
目次

有効成分と作用機序、効果について

有効成分の特徴

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)の有効成分はインダカテロールであり長時間作用型β2刺激薬(LABA)に分類される化合物です。

この成分は高い選択性を持ちβ2受容体に対して強力な刺激作用を発揮します。

特性詳細
分類長時間作用型β2刺激薬
選択性β2受容体に高選択的
作用時間24時間持続

インダカテロールの化学構造は他のβ2刺激薬と比較して独特でその特徴が薬剤の長時間作用に寄与しています。

作用機序の解説

インダカテロールは肺の気道平滑筋に存在するβ2受容体に結合してアデニル酸シクラーゼを活性化させます。

この活性化により細胞内のサイクリックAMP(cAMP)濃度が上昇して平滑筋の弛緩をもたらします。

  • 気道平滑筋のβ2受容体に結合
  • アデニル酸シクラーゼの活性化
  • 細胞内cAMP濃度の上昇
  • 平滑筋の弛緩

結果として気道が拡張され呼吸がしやすくなるという効果が得られます。

薬理学的特性

インダカテロールの特筆すべき点はその作用の速さと持続時間にあります。

投与後5分以内に効果が現れ始めて24時間にわたって気管支拡張作用が持続します。

項目特性
作用発現投与後5分以内
持続時間24時間
投与頻度1日1回

この長時間作用は患者さんのアドヒアランス向上に貢献する重要な要素となっています。

臨床効果と患者への影響

インダカテロールの使用によって慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんの呼吸機能が改善されることが臨床試験で示されています。

具体的には1秒量(FEV1)の増加や息切れ症状の軽減が観察されています。

効果臨床的意義
FEV1増加呼吸機能の改善
息切れ軽減QOL向上
運動耐容能改善日常活動の拡大

これらの効果により患者さんの生活の質(QOL)が向上し日常活動の範囲が広がることが期待できます。

また インダカテロールの長時間作用は夜間や早朝の症状改善にも寄与して患者さんの睡眠の質を高める可能性があります。

使用方法と注意点

適切な吸入手順

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)は吸入用カプセル製剤であり、専用の吸入器を用いて使用します。

正しい吸入手順を守ることで 薬剤の効果を最大限に引き出すことができます。

手順詳細
準備吸入器にカプセルをセット
吸入ゆっくりと深く吸い込む
確認カプセルが空になったか確認

用法・用量の遵守

オンブレスの標準的な用法は1日1回1カプセルの吸入です。

この用法を厳守して勝手に増量したり減量したりしないよう患者さんに指導します。

  • 毎日同じ時間帯に吸入する
  • 忘れた場合は思い出した時点で吸入する
  • 2回分を一度に吸入しない

規則正しい服用が症状コントロールの鍵となります。

特殊な状況下での使用

妊娠中や授乳中の使用については慎重に判断する必要があります。

高齢者や腎機能障害のある患者さんでは用量調整を検討します。

患者群使用上の注意
妊婦リスク・ベネフィット評価
高齢者低用量から開始
腎障害患者慎重に投与

長期使用時の注意点

オンブレスは長期的な使用を前提としている薬剤です。

定期的な診察を通じて効果の持続性や副作用の有無を確認します。

  • 症状の変化を注意深く観察する
  • 定期的な肺機能検査を実施する
  • 生活習慣の改善指導を併せて行う

2021年に発表されたJournal of Thoracic Diseaseの研究ではインダカテロールの長期使用がCOPD患者さんの呼吸機能と生活の質を持続的に改善したことが報告されています。

この結果は適切な使用方法と継続的なフォローアップの重要性を裏付けています。

オンブレスの適応対象患者

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)は主に慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断された患者さんに処方される薬剤です。

COPDは気道の炎症や肺胞の破壊により呼吸機能が低下する進行性の疾患であり、長期的な気管支拡張療法を必要とします。

COPD重症度オンブレスの適応
軽症症状に応じて検討
中等症推奨される
重症他剤との併用を考慮

オンブレスは特に中等症から重症のCOPD患者さんにおいてその長時間作用型気管支拡張効果が有益です。

症状コントロールが不十分な患者

既存の短時間作用型気管支拡張薬で十分な症状改善が得られない患者さんがオンブレスの良い適応となります。

日中の息切れや運動能力の低下に悩む患者さんにとってオンブレスの24時間持続する効果は日常生活の質を向上させる可能性があります。

  • 短時間作用型薬剤で効果不十分な方
  • 日中の症状コントロールに課題がある方
  • 夜間や早朝の呼吸困難に悩む方

これらの症状を有する患者さんにオンブレスは新たな選択肢となり得ます。

併存疾患を有する患者

COPDは多くの場合他の疾患と併存するのですが、オンブレスは一定の条件下で様々な併存疾患を持つ患者さんにも使用できます。

併存疾患オンブレス使用の考慮点
心疾患心拍数への影響に注意
糖尿病血糖値モニタリング
骨粗鬆症骨密度への影響を観察

各患者さんの全身状態を考慮し 個別化した処方判断が重要です。

長期管理を要する患者

COPDは慢性疾患であり長期的な管理を要します。

オンブレスは継続使用による効果の維持が期待できるため長期的な症状コントロールを必要とする患者さんに適しています。

  • 定期的な通院が可能な方
  • 生活習慣の改善に取り組む意欲がある方

治療期間

長期継続治療の必要性

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の長期管理薬として位置づけられています。

COPDは進行性の疾患であるため症状のコントロールと病態の安定化には継続的な治療が求められます。

治療期間目的
短期(〜3ヶ月)初期効果の確認
中期(3ヶ月〜1年)症状安定化
長期(1年以上)進行抑制

オンブレスによる治療は通常長期にわたって継続することで最大の効果を発揮します。

治療効果の評価と期間調整

オンブレスの治療効果は個々の患者さんによって異なるため定期的な評価と期間の調整が重要です。

  • 呼吸機能検査(スパイロメトリー)の結果
  • 息切れなどの自覚症状の変化
  • 日常生活動作(ADL)の改善度

これらの指標を総合的に判断して治療期間を決定します。

長期安全性の考慮

オンブレスの長期使用における安全性プロファイルは比較的良好ですが継続的なモニタリングと副作用の早期発見は欠かせません。

観察期間重点チェック項目
初期(〜1ヶ月)即時型副作用
中期(1〜6ヶ月)心血管系への影響
長期(6ヶ月以上)骨密度変化

長期使用時の安全性データの蓄積によってさらに適切な治療期間の設定が可能となっています。

治療中断のリスク

オンブレスの治療を突然中止すると症状の急激な悪化を招く恐れがあります。

治療の中断や終了を検討する際には慎重な判断と段階的な減量が大切です。

中断理由対応策
副作用発現代替薬検討
効果不十分用量調整
患者さん希望教育指導

治療の継続性を保つことが長期的な症状コントロールには重要です。

2020年にEuropean Respiratory Journalに掲載された研究ではインダカテロールの3年以上の長期使用が COPD患者さんの肺機能低下速度を有意に抑制したと報告されています。

この結果はオンブレスによる長期治療の有効性を裏付けるもので継続的な治療の重要性を示唆しています。

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)の副作用やデメリット

一般的な副作用

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)は多くの患者さんに有効な治療薬ですが、他の薬剤と同様に副作用のリスクがあります。

一般的な副作用には咳嗽・頭痛・上気道感染などがありますがこれらは比較的軽度で一時的なものが多いです。

副作用発現頻度
咳嗽10-20%
頭痛5-10%
上気道感染5-15%

上記の症状の多くは時間とともに軽減するものの持続する場合は医師への相談が重要です。

心血管系への影響

β2刺激薬であるオンブレスは心血管系に影響を与える可能性があります。

特に心拍数の上昇や血圧の変動に注意が必要です。

  • 動悸
  • 不整脈
  • 血圧上昇

これらの症状が現れた際には迅速な医療評価が求められます。

代謝への影響

オンブレスの使用により 血糖値の上昇や血中カリウム値の低下が起こる可能性があります。

糖尿病患者さんや電解質異常のリスクがある患者さんでは特に注意深いモニタリングが大切です。

代謝への影響モニタリング項目
血糖上昇空腹時血糖 HbA1c
低カリウム血症血清カリウム値

代謝の影響をみるためには定期的な血液検査による経過観察が必要となります。

骨密度への影響

長期使用における骨密度への影響も懸念されています。

特に高齢者や骨粗鬆症のリスクがある患者さんでは定期的な骨密度検査を考慮する必要があります。

  • 骨折リスクの評価
  • カルシウムとビタミンDの補充検討

予防的なアプローチが長期的な骨の健康維持には重要です。

耐性と効果の減弱

長期使用に伴い薬剤への耐性が生じ効果が減弱する可能性があります。

このような状況の場合では用量調整や他の治療法との併用を検討する必要があります。

使用期間効果評価
3-6ヶ月初期効果確認
6-12ヶ月中期効果評価
12ヶ月以上長期効果判定

効果の減弱が見られたら治療戦略の見直しが求められます。

吸入に関連する局所症状

オンブレスは吸入薬であるため口腔や咽頭に局所的な症状を引き起こす可能性があります。

  • 口腔カンジダ症
  • 咽頭痛
  • 声帯の刺激

このような症状を予防するためには吸入後の水でのうがいが大切です。

2019年にLancet Respiratory Medicineに掲載された研究ではインダカテロールを含む長時間作用型β2刺激薬の使用と心血管イベントリスクの関連性が報告されました。

しかしこの研究は観察研究であり因果関係を直接示すものではありません。

このような研究結果は個々の患者さんのリスク・ベネフィットを慎重に評価する必要性を示唆しています。

代替治療薬

他の長時間作用型β2刺激薬(LABA)

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)で十分な効果が得られない場合は同じ長時間作用型β2刺激薬(LABA)クラスの他の薬剤を検討します。

これらの薬剤は作用機序が類似しているものの 個々の患者さんの反応性が異なることがあります。

薬剤名投与間隔
ホルモテロール12時間毎
サルメテロール12時間毎
ビランテロール24時間毎

各薬剤の特性や患者さんの生活リズムに合わせて選択します。

長時間作用型抗コリン薬(LAMA)

LABAで効果不十分な場合は異なる作用機序を持つ長時間作用型抗コリン薬(LAMA)への切り替えや追加を考慮します。

LAMAは気管支平滑筋の収縮を抑制して気道を拡張させる効果があります。

  • チオトロピウム
  • グリコピロニウム
  • ウメクリジニウム

これらの薬剤は単剤で使用するだけでなくLABAとの併用も選択肢となります。

吸入ステロイド薬(ICS)との併用療法

オンブレス単独で効果が不十分な際には吸入ステロイド薬(ICS)との併用療法へ移行することがあります。

ICSは気道の炎症を抑制して症状改善や増悪予防に寄与します。

ICS成分特徴
フルチカゾン高い局所抗炎症作用
ブデソニド肺内滞留時間が長い
シクレソニド低コルチゾール作用

患者さんの症状や既往歴に応じて最適なICS成分を選択します。

LABA/LAMA配合剤

単一の薬剤クラスでは効果が不十分な時にLABA/LAMA配合剤の使用を検討します。

この組み合わせによって相乗的な気管支拡張効果が期待できます。

  • インダカテロール/グリコピロニウム
  • ビランテロール/ウメクリジニウム
  • オロダテロール/チオトロピウム

配合剤の使用は服薬回数の減少にもつながり、アドヒアランス向上に寄与します。

ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬

従来の吸入薬で効果不十分な場合には経口薬であるPDE4阻害薬の追加を考慮します。

PDE4阻害薬は気道の炎症を抑制して増悪回数の減少に効果を示します。

薬剤名投与方法
ロフルミラスト1日1回経口

この薬剤は特に頻回の増悪や慢性気管支炎を伴うCOPD患者さんに有効です。

テオフィリン製剤

古典的な気管支拡張薬であるテオフィリン製剤も代替治療の選択肢となります。

テオフィリンは気管支平滑筋弛緩作用に加えて抗炎症作用も有します。

  • 徐放性テオフィリン製剤
  • 持続性アミノフィリン製剤

ただし治療域が狭いため血中濃度モニタリングが必要です。

2021年にRespiratory Researchに掲載された研究ではLABAからLAMA/LABA配合剤への切り替えによりCOPD患者さんの肺機能と生活の質が有意に改善したことが報告されています。

この結果はオンブレスで効果不十分な場合の治療戦略としてLAMA/LABA配合剤への変更が有効である可能性を示唆しています。

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)の併用禁忌

他のβ2刺激薬との併用

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)は長時間作用型β2刺激薬(LABA)に分類される薬剤です。

他のLABAやβ2刺激薬との併用は避けるべきですが、その理由として過度の気管支拡張作用や心血管系への影響が挙げられます。

β2刺激薬の種類併用時のリスク
短時間作用型頻脈・動悸
長時間作用型QT延長・不整脈

これらの薬剤との併用は副作用のリスクを高める可能性があります。

MAO阻害薬との相互作用

モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬とオンブレスの併用には注意が必要です。

MAO阻害薬はカテコールアミンの代謝を阻害するためβ2刺激薬の作用を増強する危険性があります。

  • セレギリン
  • ラサギリン
  • モクロベミド

これらの薬剤を使用中の患者さんにオンブレスを処方する際は慎重な判断が求められます。

QT間隔延長を引き起こす薬剤との併用

オンブレスはQT間隔延長のリスクがあるため同様の作用を持つ薬剤との併用には注意が必要です。

QT間隔延長は重篤な不整脈を引き起こすリスクがあるからです。

QT延長リスク薬薬効分類
アミオダロン抗不整脈薬
エリスロマイシン抗菌薬
ハロペリドール抗精神病薬

これらの薬剤とオンブレスを併用する際は心電図モニタリングなどの厳重な管理下で行う必要があります。

チトクロームP450 3A4阻害薬との相互作用

オンブレスは主にCYP3A4で代謝されるためこの酵素を強力に阻害する薬剤との併用には注意が必要です。

CYP3A4阻害薬はオンブレスの血中濃度を上昇させて副作用のリスクを高める可能性があります。

  • ケトコナゾール
  • リトナビル
  • クラリスロマイシン

これらの薬剤を使用中の患者さんではオンブレスの減量や代替薬の検討が必要となります。

β遮断薬との拮抗作用

β遮断薬はオンブレスの気管支拡張作用を減弱させる可能性があります。

特に非選択的β遮断薬との併用は気管支収縮を引き起こすリスクを考慮しなければなりません。

β遮断薬の種類併用時の注意点
非選択的原則併用禁忌
β1選択的慎重投与

心疾患を合併するCOPD患者さんではβ1選択的遮断薬の使用を検討します。

利尿薬との電解質異常リスク

オンブレスとループ利尿薬やチアジド系利尿薬との併用は低カリウム血症のリスクを高める可能性があります。

低カリウム血症は不整脈のリスクを増加させます。

  • フロセミド
  • トラセミド
  • ヒドロクロロチアジド

これらの薬剤とオンブレスを併用する際は定期的な血清カリウム値のモニタリングが大切です。

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)の薬価

薬価

インダカテロールマレイン酸塩(オンブレス)の薬価は1カプセルあたり131.4円です。

この価格は医療機関や薬局によって若干の変動があります。

製品名規格薬価
オンブレス吸入用カプセル150μg1カプセル131.4円

患者さんの自己負担額は医療保険の種類や負担割合によって異なります。

処方期間による総額

1週間処方の場合での薬剤費は919.8円となります。

1ヶ月処方になると3,942円程度になると予想されます。

  • 1週間処方 919.8円
  • 1ヶ月処方 3,942円

これらの金額は薬剤費のみで診察料や処方箋料は含まれていません。

ジェネリック医薬品との比較

現時点でオンブレスのジェネリック医薬品は発売されていません。

今後特許期間が満了すればジェネリック医薬品が登場する可能性は十分考えられます。

ジェネリック医薬品が登場すれば 薬剤費の軽減が期待できます。

なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文