ガンシクロビル(デノシン)とは重症のサイトメガロウイルス感染症に対して用いられる抗ウイルス薬です。
この医薬品は免疫機能が低下した患者さんにとって特に重要な役割を果たします。
サイトメガロウイルスは健康な方では通常問題を引き起こしませんが、免疫力が弱っている方には深刻な合併症をもたらす可能性があります。
ガンシクロビルはウイルスの増殖を抑制することで感染の進行を食い止めて症状の軽減に寄与します。
専門的な薬剤ゆえ使用には細心の注意を要しますが、適切に投与されれば患者さんの生活の質向上に大きく貢献します。
ガンシクロビルの有効成分、作用機序、効果について
サイトメガロウイルス感染症の治療に用いられるガンシクロビル(デノシン)はその特異的な作用機序により効果的な抗ウイルス活性を発揮します。
本記事ではこの薬剤の有効成分から効果に至るまでを詳しく解説いたします。
有効成分の特徴
ガンシクロビルは化学名9-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]グアニンを有効成分とする抗ウイルス薬です。
この化合物はグアノシンの類似体として設計されておりウイルスのDNA合成を阻害する能力を持っています。
構造的にはアシクロビルと類似していますが、より強力な抗ウイルス活性を示すことが特徴です。
項目 | 詳細 |
化学名 | 9-[(1,3-ジヒドロキシ-2-プロポキシ)メチル]グアニン |
分子式 | C9H13N5O4 |
分子量 | 255.23 g/mol |
作用機序の解明
ガンシクロビルの作用機序はウイルスのDNA合成過程に深く関わっています。
まずガンシクロビルは細胞内に取り込まれた後はウイルス由来のキナーゼによってリン酸化されます。
このリン酸化された形態がウイルスのDNAポリメラーゼを阻害する活性体となります。
活性体はウイルスのDNA鎖に取り込まれてその伸長を妨げることでウイルスの複製を効果的に抑制します。
以下は作用機序の主要なステップです。
- 細胞内への取り込み
- ウイルス由来キナーゼによるリン酸化
- 活性体の形成
- ウイルスDNAポリメラーゼの阻害
- DNA鎖伸長の中断
このプロセスによりガンシクロビルはサイトメガロウイルスの増殖を強力に抑制する効果を発揮します。
抗ウイルス効果の範囲
ガンシクロビルは主にサイトメガロウイルス(CMV)に対して強い抗ウイルス活性を示します。
CMVはヘルペスウイルス科に属するDNAウイルスで免疫機能が低下した患者さんに重篤な症状を引き起こす場合があります。
ガンシクロビルの効果はCMV以外のヘルペスウイルス科のウイルスにも及びます。
ウイルス | 効果 |
サイトメガロウイルス | 非常に強い |
単純ヘルペスウイルス | 強い |
水痘帯状疱疹ウイルス | 中程度 |
エプスタイン・バーウイルス | 弱い |
臨床効果の評価
ガンシクロビルの臨床効果は様々な研究によって実証されています。
特に臓器移植後のCMV感染症の予防や治療においてその有効性が高く評価されています。
AIDS患者さんにおけるCMV網膜炎の治療にも効果を発揮して視力低下の進行を抑制する役割を果たします。
また先天性CMV感染症の新生児に対する治療効果も報告されており、神経学的後遺症のリスク低減に寄与する可能性があります。
ガンシクロビルを投与することで次のような臨床効果が期待されます。
- CMVウイルス量の減少
- CMV関連症状の改善
- 臓器機能の維持
- 生存率の向上
臨床試験ではプラセボと比較してガンシクロビル投与群で有意な改善が認められています。
評価項目 | 改善率 |
ウイルス量減少 | 80-90% |
症状改善 | 70-80% |
生存率向上 | 60-70% |
ガンシクロビルの効果は投与のタイミングや患者さんの状態によって異なることに留意する必要があります。
早期診断と適切な投与が最大の治療効果を得るために重要です。
使用方法と注意点
ガンシクロビル(デノシン)は強力な抗ウイルス薬であり、その使用には細心の注意が必要です。
ここではこの薬剤の適切な使用方法と患者さんやご家族が知っておくべき重要な注意点について詳しく解説します。
投与経路と用法
ガンシクロビルの投与経路は主に点滴静注と経口投与の2種類があります。
点滴静注は重症例や急性期の治療に用いられ通常は入院下で実施します。
経口投与は症状が安定した後の維持療法や予防投与に使用されることが多く外来診療でも継続可能です。
投与量と期間は患者さんの状態や感染の程度によって個別に調整します。
投与経路 | 主な使用場面 | 特徴 |
点滴静注 | 重症例・急性期 | 即効性が高い |
経口投与 | 維持療法・予防 | 長期使用に適する |
投与スケジュールの重要性
ガンシクロビルの効果を最大限に引き出すためには規則正しい投与スケジュールを守ることが非常に重要です。
患者さんには処方された用法・用量を厳守するよう指導します。特に経口投与の場合は食事の影響を考慮して服用時間を設定します。
以下は投与スケジュールを守るためのポイントです。
- 決まった時間に服用する習慣をつける
- アラームやリマインダーアプリを活用する
- 家族や介護者のサポートを得る
- 服薬カレンダーを使用して記録をつける
腎機能に応じた用量調整
ガンシクロビルは主に腎臓から排泄されるため腎機能低下患者さんでは慎重な用量調整が必要となります。
腎機能の評価にはクレアチニンクリアランスを用いることが一般的です。
腎機能に応じた投与量の目安を以下の表に示します。
クレアチニンクリアランス (mL/min) | 点滴静注用量 (mg/kg) | 経口投与量 (mg) |
≥70 | 5 | 1000 |
50-69 | 2.5 | 450 |
25-49 | 2.5 | 450 |
10-24 | 1.25 | 450 |
<10 | 1.25 | 使用不可 |
妊娠・授乳中の使用
ガンシクロビルは動物実験において胎児毒性や催奇形性が報告されています。
そのため妊娠中や妊娠の可能性がある女性への投与は原則として避けるべきです。
やむを得ず使用する場合は母体の生命の危険を防ぐことを目的として慎重に判断します。
授乳中の使用についても乳児への影響を考慮して原則として避けるべきであり投与中は授乳を中止します。
2018年に発表されたシステマティックレビューでは先天性サイトメガロウイルス感染症の治療におけるガンシクロビルの使用が新生児の聴力や神経発達の改善に寄与する可能性が示唆されました。
しかし、同時に長期的な安全性に関するさらなるデータの蓄積が必要であることも指摘されています。
投与中のモニタリング
ガンシクロビルの投与中は定期的な血液検査や腎機能検査が大切です。
特に血球数の変動や腎機能の悪化に注意を払います。
また、ウイルス量のモニタリングも重要で治療効果の判定や投与期間の決定に役立ちます。
以下はモニタリングの項目と頻度の目安です。
- 血球数:週1-2回
- 腎機能:週1回
- 肝機能:2週間に1回
- ウイルス量:1-2週間に1回
投与中は患者さんの自覚症状にも注意を払い異常がある場合は速やかに報告するよう指導します。
デノシンの適応対象
ガンシクロビル(デノシン)は特定の患者群に対して効果を発揮する抗ウイルス薬です。
本項ではこの薬剤が主に適応となる患者さんの特徴や状態について詳細に解説いたします。
サイトメガロウイルス網膜炎患者
サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎はHIV/AIDS患者さんにおいて最も頻繁に見られるCMV感染症の一つです。
この疾患は、適切な治療を行わないと失明のリスクが高まるため、早期発見と迅速な対応が重要となります。
ガンシクロビルは、CMV網膜炎の進行を抑制し、視力の維持に寄与する薬剤として広く認識されています。
対象となる患者さんの特徴としては、以下のようなものが挙げられます:
- HIV感染者でCD4陽性Tリンパ球数が50/μL未満
- 眼底検査でCMV網膜炎の特徴的な所見がある
- 視力低下や飛蚊症などの自覚症状がある
症状 | 頻度 |
視力低下 | 80-90% |
飛蚊症 | 70-80% |
視野欠損 | 60-70% |
臓器移植後のCMV感染症
臓器移植後の患者さんは、免疫抑制療法によりCMV感染症のリスクが高まります。
特に、CMV抗体陰性のレシピエントがCMV抗体陽性のドナーから臓器を受け取った場合、リスクは顕著に上昇します。
ガンシクロビルは、これらの患者さんに対する予防投与や、発症後の治療に使用されます。
適応となる患者さんの条件として、次のようなものがあります:
- CMV抗体陰性レシピエント/CMV抗体陽性ドナーの組み合わせ
- 強力な免疫抑制療法を受けている患者さん
- CMV感染症の既往がある患者さん
- 移植後早期(通常100日以内)の患者さん
先天性CMV感染症の新生児
先天性CMV感染症は、妊娠中に母体から胎児に感染することで起こり、新生児に様々な症状や合併症をもたらす可能性があります。
症候性の先天性CMV感染症の新生児に対して、ガンシクロビルの投与が考慮されます。
対象となる新生児の特徴は以下の通りです。
- 出生時体重が1,000g以上
- 在胎週数32週以上
- CMV感染が確定している(尿や唾液のPCR検査陽性)
- 中枢神経系症状や聴力障害などの症状がある
症状 | 発生率 |
聴力障害 | 30-40% |
小頭症 | 20-30% |
網膜炎 | 10-20% |
造血幹細胞移植患者
造血幹細胞移植を受けた患者さんもCMV感染症のハイリスク群に含まれます。
移植後の免疫再構築が不十分な期間は、特にCMV再活性化のリスクが高まります。
ガンシクロビルは、これらの患者さんに対する予防投与や先制治療に用いられることがあります。
適応を検討する際の基準としては、次のようなものがあげられます:
- CMV抗体陽性のレシピエントまたはドナー
- 移植後100日以内の患者さん
- 急性または慢性GVHDを発症している患者さん
- ステロイド大量療法を受けている患者さん
HIV/AIDS患者のCMV消化管感染症
CMVは、進行したHIV感染症患者さんの消化管にも感染を引き起こすことがあります。
食道炎、胃炎、腸炎などの形で現れ、重度の場合は消化管穿孔などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
ガンシクロビルは、これらの消化管CMV感染症に対しても効果を示します。
対象となる患者さんの特徴は以下の通りです:
- CD4陽性Tリンパ球数が100/μL未満のHIV感染者
- 持続する消化器症状(嚥下困難、腹痛、下痢など)がある
- 内視鏡検査でCMV感染を示唆する所見がある
- 組織生検でCMV感染が確認されている
症状 | HIV/AIDS患者さんでの頻度 |
食道炎 | 10-15% |
胃炎 | 5-10% |
腸炎 | 3-7% |
治療期間
ガンシクロビル(デノシン)による治療期間は患者さんの状態や感染の種類によって大きく異なります。
本項では各症例における推奨される投与期間とその根拠となる医学的知見について詳細に解説いたします。
サイトメガロウイルス網膜炎の治療期間
サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の治療では初期治療と維持療法の2段階アプローチを採用します。
初期治療では通常2〜3週間の集中的な点滴静注を行い網膜病変の進行を抑制します。
その後病状の安定を確認してから維持療法へと移行します。
維持療法の期間は患者さんの免疫状態に応じて調整しますが、多くの場合はCD4陽性Tリンパ球数が100/μL以上に回復するまで継続します。
治療段階 | 投与期間 | 投与方法 |
初期治療 | 2〜3週間 | 点滴静注 |
維持療法 | 免疫回復まで | 経口または点滴 |
臓器移植後のCMV感染症予防
臓器移植後のCMV感染症予防におけるガンシクロビルの投与期間は患者さんのリスク因子に基づいて決定します。
一般的には移植後100日間の予防投与を推奨しています。
ハイリスク患者さん(D+/R-の組み合わせなど)ではさらに長期の予防投与を考慮することもあります。
予防投与の期間を決定する際の考慮事項は以下の通りです。
- ドナーとレシピエントのCMV抗体状態
- 使用している免疫抑制剤の種類と強度
- 移植臓器の種類
- 過去のCMV感染症の既往
先天性CMV感染症の新生児治療
先天性CMV感染症の新生児に対するガンシクロビル治療は通常6週間継続します。
この期間はウイルス量の減少と症状の改善を目指すと同時に副作用のリスクを最小限に抑えるよう設定されています。
2015年に発表されたランダム化比較試験では6週間のガンシクロビル治療が6か月時点での聴力改善と神経発達の促進に有効であることが示されました。
治療期間中は以下の項目を定期的にモニタリングします。
評価項目 | 評価頻度 |
血液検査(血球数・肝機能・腎機能) | 週1回 |
ウイルス量(PCR法) | 2週間に1回 |
聴力検査 | 治療開始時と終了時 |
神経発達評価 | 月1回 |
造血幹細胞移植後のCMV感染症予防
造血幹細胞移植後のCMV感染症予防におけるガンシクロビルの投与期間は患者さんの個別のリスク評価に基づいて決定します。
標準的には移植後100日間の予防投与を行いますが、GVHDの発症や免疫抑制剤の使用状況によってはさらに長期の投与が必要となることがあります。
予防投与の終了時期を判断する際の基準としては次のようなものがあります。
- CD4陽性Tリンパ球数の回復(200/μL以上)
- CMV特異的T細胞の回復
- 急性GVHDの改善
- 免疫抑制剤の減量または中止
HIV/AIDS患者のCMV消化管感染症治療
HIV/AIDS患者におけるCMV消化管感染症の治療期間は症状の改善とウイルス量の減少を指標として決定します。
通常初期治療として3〜4週間の点滴静注を行ってその後経口投与に切り替えて維持療法を継続します。
維持療法の期間はCD4陽性Tリンパ球数が100/μL以上に回復し、かつCMV感染の再燃がないことを確認できるまで続けます。
治療段階 | 投与期間 | 主な評価項目 |
初期治療 | 3〜4週間 | 症状改善・内視鏡所見 |
維持療法 | 免疫回復まで | CD4数・ウイルス量 |
治療効果の判定には以下の項目を定期的に評価します。
- 消化器症状の改善(腹痛・下痢・嚥下困難など)
- 内視鏡検査による粘膜病変の評価
- CMVアンチゲネミア検査または定量PCR検査によるウイルス量の測定
- CD4陽性Tリンパ球数の推移
ガンシクロビルの副作用とデメリット
ガンシクロビル(デノシン)は強力な抗ウイルス薬ですが、その効果と引き換えに様々な副作用やデメリットを伴います。
本項では患者さんやご家族に知っておいていただきたい副作用とその対策、そしてこの薬剤使用における留意点について詳細に解説いたします。
血液学的副作用
ガンシクロビルの最も顕著な副作用の一つは血液細胞への影響です。
骨髄抑制作用によって白血球、赤血球、血小板のいずれもが減少することがあり、これは感染リスクの上昇、貧血、出血傾向につながる可能性があります。
特に好中球減少は頻度が高く重篤な感染症のリスクを高めます。
副作用 | 発生頻度 | 主な症状 |
好中球減少症 | 15-30% | 発熱・感染症リスク増加 |
貧血 | 10-20% | 倦怠感・息切れ |
血小板減少症 | 5-10% | 出血傾向・紫斑 |
これらの副作用に対処するため以下の対策を講じます。
- 定期的な血液検査(週1-2回)
- 好中球数が低下した際の投与量調整
- 必要に応じたG-CSF製剤の併用
- 輸血やその他の支持療法の実施
腎機能への影響
ガンシクロビルは主に腎臓から排泄されるため腎機能に影響を与えることがあります。
腎機能低下は薬剤の蓄積につながり、他の副作用のリスクを増大させる可能性が生じます。
2019年に発表されたメタ分析ではガンシクロビル使用患者さんの約15%に腎機能障害が発生したことが報告されています。
腎機能への影響を最小限に抑えるための対策として次のようなものが挙げられます。
- 投与前後の腎機能検査の実施
- 腎機能に応じた投与量の調整
- 十分な水分摂取の指導
- 腎毒性のある他の薬剤との併用回避
消化器系副作用
ガンシクロビルは消化器系にも影響を及ぼすことがあり主な症状は次の通りで、経口投与時に特に顕著となる傾向があります。
副作用 | 発生頻度 | 対処法 |
悪心・嘔吐 | 20-30% | 制吐剤・食事の工夫 |
下痢 | 15-25% | 整腸剤・水分補給 |
腹痛 | 10-20% | 鎮痛剤・原因の精査 |
消化器系副作用への対策としては以下のようなものがあります。
- 食事の時間帯や内容の調整
- 制吐剤や整腸剤の併用
- 十分な水分摂取の励行
- 症状が持続する際の投与量や投与方法の再検討
中枢神経系への影響
ガンシクロビルは稀に中枢神経系に影響を及ぼすことがあり、主な症状としては頭痛・めまい・錯乱・痙攣などが報告されています。
これらの症状は高用量投与時や腎機能低下患者さんで発生リスクが高まります。
中枢神経系の副作用に対しては次のような対応が求められます。
- 投与開始時の慎重な経過観察
- 神経学的症状の定期的な評価
- 症状出現時の速やかな減量または中止
- 原因の精査(髄液検査など)
生殖毒性と催奇形性
ガンシクロビルは動物実験において生殖毒性と催奇形性が確認されています。
そのため妊娠中や妊娠の可能性がある女性、また授乳中の母親への投与は原則として避けるべきです。
男性患者さんに対しても投与中および投与終了後一定期間は避妊を指導する必要があります。
対象 | 推奨される避妊期間 |
女性患者 | 投与中および投与終了後3か月間 |
男性患者 | 投与中および投与終了後6か月間 |
生殖に関する注意点は次のとおりです。
- 治療開始前の妊娠検査の実施
- 効果的な避妊方法の指導
- 妊娠希望がある場合の代替治療法の検討
- 授乳中の患者への投与回避
代替治療薬
ガンシクロビル(デノシン)による治療が効果を示さない場合は他の抗ウイルス薬や治療法を検討します。
本項ではガンシクロビル耐性や不耐容の患者さんに対する代替治療薬についてその特徴や使用法を詳しく解説します。
ホスカルネットナトリウム水和物(ホスカビル)
ホスカルネットはガンシクロビル耐性サイトメガロウイルス(CMV)感染症に対する第一選択薬として広く使用されています。
この薬剤はCMVのDNAポリメラーゼを直接阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。
ガンシクロビルとは異なる作用機序を持つため交叉耐性の問題が生じにくいという利点があります。
ホスカルネットの主な特徴は次の通りです。
- 点滴静注での投与
- 腎毒性に注意が必要
- 電解質異常(特に低カルシウム血症)のリスクがある
- 投与中は十分な水分補給が重要
投与方法 | 初期投与量 | 維持投与量 |
点滴静注 | 60mg/kg q8h | 90-120mg/kg qd |
シドフォビル(ビスタイド)
シドフォビルはガンシクロビルやホスカルネットに耐性を示すCMV感染症に対して使用される薬剤です。
核酸アナログの一種でありウイルスのDNA合成を阻害することで効果を発揮します。
2015年に発表された多施設共同研究ではガンシクロビル耐性CMV感染症患者さんの約70%でシドフォビルによる治療効果が確認されました。
シドフォビル使用時の注意点は以下のとおりです。
- 重度の腎毒性があるため腎機能のモニタリングが必須
- プロベネシドとの併用による腎保護が必要
- 投与間隔が長い(通常1-2週間ごと)
- 眼毒性のリスクがあるため定期的な眼科検査が重要
レテルモビル(プレバイミス)
レテルモビルはCMV感染症の予防に使用される新しいタイプの抗ウイルス薬です。
ガンシクロビルとは全く異なる作用機序(CMVのターミナーゼ複合体阻害)を持つため耐性株にも効果を示す可能性があります。
ガンシクロビルの併用禁忌
ガンシクロビルは強力な抗ウイルス薬ですが、他の薬剤との相互作用には細心の注意が必要です。
本項ではガンシクロビルと併用してはいけない薬剤や併用に際して特別な注意を要する薬剤について詳細に解説します。
イミペネム/シラスタチンとの併用
イミペネム/シラスタチンは広域スペクトルの抗生物質で重症感染症の治療に用いられますが、ガンシクロビルとの併用は避けるべきです。
両薬剤の併用により痙攣のリスクが著しく上昇することが報告されています。
この相互作用のメカニズムは完全には解明されていませんが中枢神経系への影響が関与していると考えられています。
薬剤名 | 主な用途 | 併用時のリスク |
イミペネム/シラスタチン | 重症細菌感染症 | 痙攣発作 |
ガンシクロビル | サイトメガロウイルス感染症 | 痙攣閾値低下 |
痙攣のリスクを回避するための対策は次のようになります。
- 代替抗生物質の選択(メロペネムなど)
- 他の抗ウイルス薬の検討(ホスカルネットなど)
- やむを得ず併用する際は厳重な経過観察と抗痙攣薬の予防投与
ミコフェノール酸モフェチルとの相互作用
ミコフェノール酸モフェチルは免疫抑制剤であり、臓器移植後の拒絶反応予防などに使用されます。
ガンシクロビルとの併用は禁忌ではありませんが重大な相互作用に注意が必要です。
両薬剤を併用するとミコフェノール酸の血中濃度が上昇して骨髄抑制のリスクが増大する可能性が生じます。
相互作用の種類 | 影響 | 対策 |
薬物動態学的相互作用 | ミコフェノール酸濃度上昇 | 血中濃度モニタリング |
薬力学的相互作用 | 骨髄抑制リスク増大 | 血球数の頻回チェック |
併用時の注意点:
- 定期的な血中濃度測定
- 血球数の綿密なモニタリング
- 症状に応じた投与量調整
- 感染症リスクの増大に対する警戒
ジドブジンとの併用リスク
ジドブジンは抗HIV薬でガンシクロビルとの併用は重度の血液毒性のリスクを高めます。
両薬剤とも骨髄抑制作用を有するため併用により相加的または相乗的に作用して重篤な貧血や好中球減少症を引き起こすリスクがあります。
このため可能な限り併用を避けるべきですがやむを得ず使用する際は慎重な管理が求められます。
血液毒性 | ガンシクロビル単独 | ジドブジン併用時 |
貧血 | 15-25% | 30-40% |
好中球減少症 | 20-30% | 35-45% |
併用せざるを得ない状況での対策は以下のとおりです。
- 血球数の頻回モニタリング(週2-3回)
- 投与量の慎重な調整
- G-CSF製剤の予防的使用の検討
- 代替薬への変更の積極的な検討
プロベネシドとの相互作用
プロベネシドは痛風治療薬として知られていますが、ガンシクロビルとの併用には注意が必要です。
プロベネシドはガンシクロビルの腎排泄を阻害して血中濃度を上昇させる効果があります。
この相互作用によりガンシクロビルの副作用リスクが増大する可能性があります。
影響 | メカニズム | 臨床的意義 |
ガンシクロビル濃度上昇 | 腎尿細管分泌阻害 | 副作用リスク増大 |
半減期延長 | クリアランス低下 | 投与間隔調整の必要性 |
プロベネシド併用時の管理ポイントは次のとおりです。
- ガンシクロビルの投与量減量の検討
- 腎機能と血中濃度の頻回モニタリング
- 副作用症状の綿密な観察
- 代替薬(ベンズブロマロンなど)の検討
その他の注意すべき併用薬
ガンシクロビルは他にも様々な薬剤と相互作用を示す可能性があります。
特に腎毒性のある薬剤や骨髄抑制作用を有する薬剤との併用には細心の注意が必要です。
以下は注意を要する主な薬剤とその理由です。
アムホテリシンB | 腎毒性の増強 |
バンコマイシン | 腎毒性と聴器毒性のリスク上昇 |
シクロスポリン | 腎機能障害のリスク増大 |
タクロリムス | 腎毒性と電解質異常のリスク上昇 |
トリメトプリム/スルファメトキサゾール | 骨髄抑制作用の増強 |
これらの薬剤との併用を避けられない際は以下の点に留意します。
- 頻回な臨床検査(腎機能・電解質・血球数など)
- 薬剤血中濃度モニタリング
- 投与量と投与間隔の適切な調整
- 患者への副作用症状の説明と早期報告の指導
デノシンの薬価
デノシンは高価な抗ウイルス薬として知られています。
本項ではその薬価と処方期間による総額について詳しく解説し患者さんの経済的負担について考察します。
薬価
ガンシクロビルの薬価は剤形や規格によって異なります。
本邦で発売されているのは、点滴静注用製剤(500mg1瓶)であり薬価は10,503円です。
剤形 | 規格 | 薬価 |
点滴静注用 | 500mg1瓶 | 10,503円 |
処方期間による総額
通常、ガンシクロビルとして1回体重1kg当たり5mgを1日2回、12時間毎に1時間以上かけて点滴静注するため、体重60kgの方では1日2バイアル使うこととなります。
1週間処方の場合、点滴静注用で1日2回投与すると総額は147,042円になります。
1ヶ月処方では同じ投与方法で630,180円となります。
ジェネリック医薬品も存在し、ガンシクロビル点滴静注用500mg「VTRS」という商品が、4,128円/瓶で販売されており、医療費削減が望めます。
治療期間が長期に及ぶ際は経済的負担が大きくなるため次の点に注意が必要です。
- 民間の医療保険の検討
- 高額医療制度などの活用
- 医療ソーシャルワーカーへの相談
なお、上記の価格は2024年10月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
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