フィルグラスチム(グラン)とは呼吸器専門医が日々の診療で重要視している薬剤の一つです。
主に抗がん剤治療後に生じる好中球減少症の改善や予防に用いられ患者さんの免疫機能を支える大切な役割を担っています。
フィルグラスチムは骨髄に直接作用して白血球の一種である好中球の産生を促進して感染症のリスクを軽減する効果があります。
フィルグラスチム(グラン)の有効成分と作用機序効果
有効成分の特徴
フィルグラスチム(グラン)の主要な有効成分はフィルグラスチムと呼ばれるタンパク質であり、遺伝子組換え技術を用いて製造された顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の一種です。
この物質は人体内で自然に産生されるG-CSFと同等の構造および機能を持ち骨髄中の造血幹細胞に直接作用して顆粒球系前駆細胞の増殖と分化を促進する働きがあります。
フィルグラスチムは分子量約18800の糖タンパク質で175個のアミノ酸から構成される単一のポリペプチド鎖を有しています。
アミノ酸数 | 分子量 |
175 | 18800 |
作用機序の詳細
フィルグラスチムは体内に投与されると骨髄中の造血幹細胞表面に存在するG-CSF受容体に特異的に結合します。
この結合により細胞内シグナル伝達経路が活性化されて顆粒球系前駆細胞の増殖と分化が促進されます。
結果として骨髄での好中球産生が促進され末梢血中の好中球数が増加するのです。
作用部位 | 主な効果 |
骨髄 | 好中球産生促進 |
末梢血 | 好中球数増加 |
フィルグラスチムは好中球の機能も亢進させて貪食能や活性酸素産生能を向上させることで生体防御機能を強化します。
加えて骨髄から末梢血への好中球の放出を促進し、感染部位への遊走を活性化する作用も有しています。
臨床効果の概要
フィルグラスチムの投与により次のような臨床効果が期待できます。
- 好中球減少症の改善と予防
- 感染リスクの低減
- 化学療法の継続性向上
がん化学療法に伴う好中球減少症患者さんにおいてフィルグラスチムは好中球数を速やかに回復させて重症感染症の発症リスクを軽減します。
これにより化学療法の投与スケジュールを維持し治療強度を保つことが可能となり、腫瘍に対する治療効果の向上につながるのです。
適応疾患と投与効果
フィルグラスチムは様々な疾患や状況下での好中球減少症に対して効果を発揮します。
適応疾患 | 期待される効果 |
がん化学療法後 | 好中球減少期間の短縮 |
造血幹細胞移植 | 好中球生着の促進 |
再生不良性貧血 | 好中球数の増加 |
先天性好中球減少症 | 好中球数の正常化 |
造血幹細胞移植後の患者さんでは好中球生着を促進して生着までの期間を短縮することで感染症リスクを軽減し治療成績の向上に寄与します。
再生不良性貧血や先天性好中球減少症などの慢性的な好中球減少を伴う疾患においてもフィルグラスチムは好中球数を増加させて感染防御能を改善します。
HIV感染症患者さんにおける好中球減少症に対しても有効性が認められており日和見感染のリスク軽減に役立ちます。
好中球機能への影響
フィルグラスチムは好中球数の増加のみならず好中球の機能そのものも向上させます。
具体的には次のような作用により好中球の生体防御能力を強化します。
- 貪食能の亢進
- 活性酸素産生能の増強
- 細胞接着分子の発現促進
- 遊走能の向上
このような作用により好中球は効率的に感染巣に到達して病原体を排除する能力が増強されます。
好中球機能 | フィルグラスチムの効果 |
貪食能 | 亢進 |
活性酸素産生能 | 増強 |
細胞接着分子 | 発現促進 |
遊走能 | 向上 |
結果として全身の免疫機能が強化されて様々な感染症に対する抵抗力が高まります。
使用方法と注意点
投与経路と用法
フィルグラスチム(グラン)は主に皮下注射または静脈内投与で使用します。
投与量と頻度は患者さんの状態や治療目的によって異なりますが、一般的に1日1回から2回の投与を行います。
化学療法後の好中球減少症予防には化学療法終了後24時間以内に投与を開始することが推奨されます。
投与経路 | 投与頻度 |
皮下注射 | 1日1〜2回 |
静脈内 | 1日1〜2回 |
投与量の調整
患者さんの体重や好中球数に基づいて投与量を調整することが必要です。
通常成人には1日1回50〜400μg/m2を投与しますが、好中球数が正常化した際には減量や中止を検討します。
小児患者さんでは体重あたりの投与量を計算し慎重に投与量を決定します。
年齢 | 標準投与量 |
成人 | 50〜400μg/m2/日 |
小児 | 体重に応じて調整 |
自己投与の指導
一部の患者さんでは医師の指導のもと自己投与が可能です。
自己投与を行う場合は以下の点に注意するよう患者さんに指導します。
- 清潔な環境で投与すること
- 注射部位を毎回変えること
- 使用済み注射器の廃棄方法を守ること
自己投与を行う患者さんには投与方法や注意点を十分に説明し定期的に手技の確認を行うことが大切です。
投与中のモニタリング
フィルグラスチム投与中は定期的な血液検査が重要です。
好中球数が目標値に達した場合や過剰に上昇した場合は投与量の調整や中止を検討します。
長期投与時には骨密度の変化や脾臓の腫大にも注意が必要です。
検査項目 | 頻度 |
血液検査 | 週2〜3回 |
骨密度 | 半年〜1年毎 |
脾臓サイズ | 適宜 |
特殊な状況での使用
妊娠中や授乳中の患者さんへのフィルグラスチム投与については慎重に判断する必要があります。
動物実験では胎児への影響は報告されていませんが人間での安全性は確立されていません。
高齢者や腎機能障害のある患者さんでは投与量の調整や副作用モニタリングをより慎重に行います。
2018年に発表されたJournal of Clinical Oncologyの研究では高齢がん患者さんへのフィルグラスチム投与が化学療法の完遂率を向上させて生存率の改善につながることが示されました。
このような知見を踏まえて患者さんの状態を総合的に判断しながら投与の是非を決定することが大切です。
フィルグラスチム(グラン)の適応対象患者
がん化学療法による好中球減少症
フィルグラスチムは抗がん剤治療に伴う好中球減少症の予防や治療に広く用いられます。
特に強力な化学療法を受ける固形がんや血液がんの患者さんが主な対象となります。
好中球数が1000/μL未満に低下する高リスクの化学療法レジメンを受ける患者さんでは予防投与が推奨されます。
がん種類 | 化学療法リスク |
固形がん | 中〜高リスク |
血液がん | 高リスク |
造血幹細胞移植患者
自家または同種造血幹細胞移植を受ける患者さんもフィルグラスチムの重要な適応対象です。
移植後の好中球生着を促進し感染リスクを軽減する目的で使用します。
末梢血幹細胞採取時にも使用し十分な量の幹細胞を効率的に採取するのに役立ちます。
移植種類 | 使用目的 |
自家移植 | 幹細胞採取 生着促進 |
同種移植 | 生着促進 |
再生不良性貧血患者
重症再生不良性貧血患者さんにおける好中球減少の改善にフィルグラスチムが使用されることがあります。
他の治療法に反応しない際の選択肢として考慮され血球数の回復を促します。
ただし長期使用における安全性や有効性については慎重な評価が必要です。
HIV感染症関連好中球減少症
HIV感染症に伴う好中球減少やAIDS患者さんにおける日和見感染予防にもフィルグラスチムが用いられます。
抗HIV薬による骨髄抑制が強い場合や重度の好中球減少を呈する患者さんが対象となります。
CD4陽性リンパ球数や HIV-RNA量などを考慮し総合的に判断して投与を決定します。
指標 | 基準値 |
好中球数 | <1000/μL |
CD4陽性細胞数 | 個別に評価 |
先天性好中球減少症
重症先天性好中球減少症や周期性好中球減少症などの遺伝性疾患を有する患者さんもフィルグラスチムの適応となります。
これらの疾患では持続的な好中球減少により重篤な感染症のリスクが高く長期的な投与が必要になることがあります。
小児患者さんが多いため成長発達への影響も考慮しながら慎重に投与します。
フィルグラスチムの適応となる先天性好中球減少症には以下のようなものがあります。
- コストマン症候群
- シュワッハマン・ダイアモンド症候群
- 糖原病Ib型
その他の適応疾患
骨髄異形成症候群(MDS)や再発・難治性急性骨髄性白血病(AML)などの血液疾患患者さんでも好中球減少の改善を目的にフィルグラスチムを使用することがあります。
また大量の放射線被曝後の骨髄機能回復促進にも使用される可能性があります。
薬剤性の好中球減少症や重症感染症に伴う好中球減少においても患者さんの状態に応じて使用を検討します。
疾患 | 使用目的 |
骨髄異形成症候群 | 好中球数改善 |
難治性白血病 | 感染リスク軽減 |
放射線被曝後 | 骨髄機能回復促進 |
フィルグラスチムの適応を判断する際に考慮する要素には次のようなものがあります。
- 好中球数とその推移
- 基礎疾患の種類と重症度
- 感染症の有無とリスク
- 患者さんの全身状態と年齢
治療期間
化学療法に伴う好中球減少症における投与期間
フィルグラスチムの投与期間は患者さんの状態や治療目的によって異なりますが、化学療法後の好中球減少症予防では通常5〜7日間の投与を行います。
化学療法終了後24時間以内に投与を開始し好中球数が正常範囲に回復するまで継続します。
ただし好中球数が10000/μLを超えた場合は過剰な上昇を避けるため一時的に休薬または減量を検討します。
化学療法 | 投与開始時期 | 標準的投与期間 |
固形がん | 24時間以内 | 5〜7日間 |
血液がん | 24時間以内 | 7〜14日間 |
造血幹細胞移植における投与期間
造血幹細胞移植患者さんでは移植前の末梢血幹細胞採取時と移植後の好中球生着促進時の2期に分けて投与します。
末梢血幹細胞採取時は通常4〜6日間投与し十分な量の幹細胞が採取できるまで継続します。
移植後は好中球数が安定して500/μLを超えるまで投与を続け一般的に10〜14日間程度の投与期間となります。
移植フェーズ | 投与目的 | 投与期間 |
採取前 | 幹細胞動員 | 4〜6日間 |
移植後 | 生着促進 | 10〜14日間 |
慢性好中球減少症における長期投与
再生不良性貧血や先天性好中球減少症などの慢性疾患では長期的なフィルグラスチム投与が必要になるケースがあります。
これらの疾患では数ヶ月から数年にわたる継続投与を行うこともあり定期的な効果判定と副作用モニタリングが重要です。
Journal of Clinical Oncologyに掲載された2019年の研究では重症先天性好中球減少症患者さんに対する10年以上のフィルグラスチム長期投与の安全性と有効性が報告されています。
疾患 | 投与期間 | モニタリング頻度 |
再生不良性貧血 | 数ヶ月〜1年 | 1〜2週間毎 |
先天性好中球減少症 | 数年〜10年以上 | 1〜3ヶ月毎 |
HIV関連好中球減少症での投与期間
HIV感染症に伴う好中球減少症では抗HIV療法の効果や患者さんの免疫状態に応じて投与期間を決定します。
短期的な投与から数ヶ月間の継続投与まで患者さんごとに個別化した対応が必要で、CD4陽性Tリンパ球数やHIV-RNA量の推移を見ながら投与期間を調整していきます。
フィルグラスチム投与中止の目安となる指標は以下の通りです。
- 好中球数が2000/μL以上に安定して回復
- CD4陽性Tリンパ球数の持続的な上昇
- HIV-RNA量の検出限界以下への低下
投与期間の個別化と調整
フィルグラスチムの至適投与期間は患者さんの背景や治療目的によって大きく異なるため画一的な基準で決定することはできません。
以下の要因を総合的に判断し個々の患者さんに最適な投与期間を設定することが大切です。
- 基礎疾患の種類と重症度
- 好中球数の推移と回復速度
- 感染症の有無とリスク
- 併用薬剤の影響
- 患者さんの全身状態と忍容性
考慮すべき要因 | 投与期間への影響 |
好中球数回復 | 速い回復→短期間 遅い回復→長期間 |
感染症リスク | 高リスク→長期間 低リスク→短期間 |
患者さんの忍容性 | 良好→長期可 不良→短期検討 |
フィルグラスチム(グラン)の副作用とデメリット
骨痛と筋肉痛
フィルグラスチム投与に伴う最も一般的な副作用として骨痛や筋肉痛が挙げられます。
これらの症状は投与開始後数日以内に出現することが多く、特に大腿骨や腰椎 胸骨などに痛みを感じる患者さんが多いです。
通常軽度から中等度の痛みですが日常生活に支障をきたすほどの強い痛みを訴える患者さんもいます。
症状 | 発現時期 | 好発部位 |
骨痛 | 1〜3日目 | 大腿骨 腰椎 |
筋肉痛 | 2〜4日目 | 背部 四肢 |
脾臓腫大と脾臓破裂
長期的なフィルグラスチム投与により脾臓の腫大が生じることがあります。
脾臓腫大自体は無症状のこともありますが稀に重篤な合併症である脾臓破裂を引き起こす可能性があります。
2015年のBloodジャーナルに掲載された研究では先天性好中球減少症患者さんの約5%に脾臓腫大が認められたと報告されています。
脾臓破裂のリスク因子として以下のようなものがあります。
- 高用量の長期投与
- 基礎疾患(血液疾患など)
- 脾臓への放射線照射歴
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
稀ではありますがフィルグラスチム投与後に急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症することがあります。
ARDSは重篤な呼吸不全を引き起こし集中治療を要する緊急事態となります。
特に敗血症や肺炎などの重症感染症を合併している患者さんでリスクが高まるため注意深い経過観察が必要です。
リスク因子 | 初期症状 |
重症感染症 | 呼吸困難・頻呼吸 |
肺基礎疾患 | 低酸素血症・胸部X線異常 |
白血球増多症
フィルグラスチムの過剰投与や個体差により予想以上に白血球数が増加することがあります。
著しい白血球増多は血液粘稠度の上昇や微小循環障害を引き起こす可能性があるため定期的な血液検査によるモニタリングが重要です。
白血球数が50000/μLを超える際は減量や休薬を検討します。
アレルギー反応
フィルグラスチムに対するアレルギー反応は稀ですが重篤な場合もあるため注意が必要です。
軽度の皮疹や掻痒感から重篤なアナフィラキシーショックまで様々な症状が報告されています。
特に初回投与時や投与再開時にリスクが高まるため慎重な観察を行います。
アレルギー症状 | 重症度 |
皮疹 掻痒感 | 軽度〜中等度 |
呼吸困難 血圧低下 | 重度 |
骨髄異形成症候群(MDS)や白血病のリスク
長期的なフィルグラスチム使用と骨髄異形性症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)発症との関連性が指摘されています。
特に先天性好中球減少症患者さんや化学療法後の長期使用例で報告があります。
ただしこれらの疾患発症における基礎疾患や他の治療の影響も考えられるため因果関係の解明には更なる研究が必要です。
費用面でのデメリット
フィルグラスチムは高価な薬剤であり長期使用時の経済的負担が大きいことも一つのデメリットと言えます。
特に保険適用外での使用や自己負担率の高い患者さんでは治療継続の障壁となる可能性があります。
フィルグラスチム治療に伴う経済的負担を軽減するための方策として以下のようなものがあります。
- バイオシミラー製品の使用検討
- 投与量や期間の最適化
- 患者さん支援プログラムの活用
効果がなかった場合の代替治療薬
ペグフィルグラスチム
フィルグラスチムの効果が十分でない場合は代替薬としてペグフィルグラスチムを考慮します。
ペグフィルグラスチムはフィルグラスチムにポリエチレングリコール(PEG)を結合させた薬剤で半減期が長くなっています。
1回の投与で約2週間の効果が持続するため投与回数を減らすことができ、患者さんの負担軽減につながります。
特徴 | フィルグラスチム | ペグフィルグラスチム |
投与頻度 | 毎日 | 1サイクルに1回 |
半減期 | 3〜4時間 | 約33時間 |
レノグラスチム
レノグラスチムはグリコシル化G-CSF製剤でフィルグラスチムと異なる糖鎖構造を持っています。
この構造の違いにより生体内での安定性が向上してより長時間の効果が期待できます。
フィルグラスチムに不応性を示す患者さんや副作用が強い患者さんに対して有効な選択肢となる可能性があります。
レノグラスチムの特徴として以下のようなものがあります。
- より長い半減期
- 糖鎖修飾による安定性向上
- 好中球機能の強化作用
リペグフィルグラスチム
リペグフィルグラスチムは新世代のG-CSF製剤でペグフィルグラスチムよりもさらに長い半減期を持ちます。
1回の投与で約2週間の効果が持続するため化学療法1サイクルにつき1回の投与で済むという利点があります。
2019年のJournal of Clinical Oncologyに掲載された第III相試験ではリペグフィルグラスチムがペグフィルグラスチムと同等の有効性と安全性を示したことが報告されています。
薬剤名 | 投与間隔 | 主な適応 |
リペグフィルグラスチム | 2週間に1回 | がん化学療法後の発熱性好中球減少症予防 |
ペグフィルグラスチム | 3週間に1回 | がん化学療法後の発熱性好中球減少症予防 |
サルグラモスチム
サルグラモスチムは顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)製剤でG-CSFとは異なる作用機序を持ちます。
好中球だけでなくマクロファージや樹状細胞の産生も促進するため、より広範な免疫機能の改善が期待できます。
特に骨髄移植後の造血回復遅延や薬剤性の好中球減少症に対して効果を発揮することがあります。
サルグラモスチムの主な適応疾患は次の通りです。
- 同種骨髄移植後の好中球回復促進
- 自家末梢血幹細胞移植後の造血促進
- 化学療法後の好中球減少症
エルトロンボパグ
エルトロンボパグは本来血小板産生促進薬として開発されましたが再生不良性貧血患者さんの好中球減少にも効果があることが分かってきました。
トロンボポエチン受容体作動薬であるエルトロンボパグは造血幹細胞を刺激して好中球を含む全血球系の産生を促進します。
フィルグラスチムが効果不十分な再生不良性貧血患者さんに対する代替治療として注目されています。
薬剤名 | 主な作用機序 | 適応疾患 |
エルトロンボパグ | トロンボポエチン受容体刺激 | 再生不良性貧血 ITP |
フィルグラスチム | G-CSF受容体刺激 | 好中球減少症全般 |
アンドロゲン療法
再生不良性貧血や骨髄不全症候群などの一部の疾患ではアンドロゲン療法が好中球減少の改善に効果を示すことがあります。
テストステロンやダナゾールなどのアンドロゲン製剤が造血刺激作用を持つことが知られています。
ただし副作用や長期使用の安全性に懸念があるため慎重な経過観察が必要です。
アンドロゲン療法の主な副作用には以下のようなものがあります。
- 肝機能障害
- 男性化徴候(女性)
- 脂質異常症
- 前立腺肥大(男性)
フィルグラスチム(グラン)の併用禁忌
化学療法との同日投与
フィルグラスチムは化学療法による骨髄抑制からの回復を促進する目的で使用されますが、化学療法剤との同日投与は避けるべきです。
化学療法直後のフィルグラスチム投与は骨髄中の造血幹細胞を過剰に刺激して予期せぬ副作用を引き起こす可能性があります。
一般的に化学療法最終日から24時間以上経過してからフィルグラスチムの投与を開始することが推奨されます。
薬剤 | 投与タイミング |
化学療法薬 | Day 1-3 (例) |
フィルグラスチム | Day 5以降 (化学療法終了24時間後) |
放射線療法との併用
全身照射や骨髄を含む広範囲の放射線療法とフィルグラスチムの併用には注意が必要です。
放射線照射直後のフィルグラスチム投与は急性放射線障害のリスクを高める可能性があります。
特に胸部への放射線照射後にフィルグラスチムを投与すると急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症リスクが上昇するため慎重な判断が求められます。
放射線療法とフィルグラスチム併用時の注意点は次の通りです。
- 照射部位と範囲の確認
- 照射後の投与タイミングの調整
- 呼吸器症状の慎重なモニタリング
- 急性期の併用を避ける
他のG-CSF製剤との併用
フィルグラスチムと他のG-CSF製剤(ペグフィルグラスチムやレノグラスチムなど)との併用は避けるべきです。
これらの薬剤は同様の作用機序を持つため併用しても相加的な効果は期待できず、過剰な好中球増多や副作用のリスクが高まります。
異なるG-CSF製剤を切り替える際には適切な休薬期間を設けることが大切です。
G-CSF製剤 | 作用機序 |
フィルグラスチム | G-CSF受容体刺激 |
ペグフィルグラスチム | 持続型G-CSF受容体刺激 |
抗体医薬品との相互作用
一部の抗体医薬品とフィルグラスチムの併用には注意が必要です。
特にリツキシマブやアレムツズマブなどのリンパ球を標的とする抗体薬との併用では免疫系のバランスが崩れる可能性があります。
これらの薬剤とフィルグラスチムを併用する際は血球分画の変動に注意しながら慎重にモニタリングを行うことが重要です。
腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬との併用
関節リウマチなどの自己免疫疾患治療に用いられるTNF阻害薬とフィルグラスチムの併用には慎重な判断が必要です。
TNF阻害薬は感染リスクを高める一方でフィルグラスチムは好中球を増加させるため両者の併用により免疫系のバランスが崩れる可能性があります。
特に潜在的な感染症がある患者さんでは併用によって重篤な感染症が顕在化するリスクがあります。
TNF阻害薬とフィルグラスチム併用時の注意点として以下が挙げられます。
- 感染症スクリーニングの徹底
- 定期的な血液検査によるモニタリング
- 感染徴候の早期発見と対応
- 併用必要性の慎重な評価
ステロイド剤との併用
ステロイド剤とフィルグラスチムの併用は時に必要ですが相互作用に注意が必要です。
ステロイド剤は骨髄抑制作用を持つためフィルグラスチムの効果を減弱させる可能性があります。
一方で両者の併用により急激な好中球増多が生じて予期せぬ副作用を引き起こすこともあります。
薬剤 | 骨髄への影響 |
ステロイド | 骨髄抑制 |
フィルグラスチム | 骨髄刺激 |
フィルグラスチム(グラン)の薬価
薬価
フィルグラスチムの薬価は剤形や含量によって異なります。
75μgシリンジ製剤の薬価は4,740円、150μgシリンジ製剤は9,355円、300μgシリンジ製剤は9,404円となっています。
含量 | 剤形 | 薬価 |
75μg | シリンジ | 4,740円 |
150μg | シリンジ | 9,355円 |
処方期間による総額
例えば一般的使用量の50μg/m2で、体表面積1.6m2の方であれば、1週間処方の場合で300μgシリンジを毎日1本使用することとなり、65,828円となります。1ヶ月処方では同じ用量で282,120円に達します。
高額な医療費となるため経済的負担を考慮した処方が大切です。
- 1週間処方 300μgシリンジ毎日使用 65,828円
- 1ヶ月処方 300μgシリンジ毎日使用 282,120円
ジェネリック医薬品との比較
フィルグラスチムのジェネリック医薬品も複数存在し、先発品と比較して50〜60%程度安価です。
75μgシリンジ製剤のジェネリック医薬品の薬価は2,111円となっています。
製品 | 75μgシリンジ薬価 |
先発品 | 4,740円 |
後発品 | 2,111円 |
なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
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