エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)とは、血液凝固を防ぐ働きを持つ抗凝固薬の一種です。
この薬剤は血栓形成を抑制して脳梗塞や深部静脈血栓症などの重篤な合併症リスクを低減させる効果があります。
主に心房細動(しんぼうさいどう)患者さんの脳卒中予防や静脈血栓塞栓症の治療・再発抑制に用いられます。
従来の抗凝固薬と比較して服用回数が少なく食事の影響を受けにくいという特徴があり、患者さんの生活の質向上にも寄与しています。
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)の有効成分と作用機序 効果
有効成分の特徴
エドキサバントシル酸塩水和物はリクシアナの主成分であり直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)に分類される薬剤です。
この化合物は血液凝固カスケードにおいて重要な役割を果たす第Xa因子を選択的に阻害する特性を持っています。
項目 | 詳細 |
一般名 | エドキサバントシル酸塩水和物 |
分類 | 直接作用型経口抗凝固薬 (DOAC) |
標的 | 第Xa因子 |
エドキサバンは経口投与後速やかに吸収され、高い生物学的利用能を示すことが知られています。
代謝については主に加水分解を受けて一部はCYP3A4による酸化的代謝を経て体内から排出されます。
作用機序の詳細
エドキサバンの主たる作用機序は活性化血液凝固第X因子(FXa)の選択的かつ可逆的な阻害にあります。
具体的には以下のプロセスを経て抗凝固作用を発揮します。
- FXaへの直接的結合と阻害
- プロトロンビンからトロンビンへの変換抑制
- 血栓形成カスケードの遮断
この一連の作用によりフィブリノーゲンがフィブリンに変換されるのを防ぎ、最終的に血栓形成を抑制します。
作用段階 | エドキサバンの効果 |
第1段階 | FXaへの結合・阻害 |
第2段階 | トロンビン生成抑制 |
第3段階 | フィブリン形成阻止 |
臨床効果と適応症
エドキサバンは非弁膜症性心房細動患者さんにおける脳卒中および全身性塞栓症の発症リスク低減に高い有効性を示します。
加えて深部静脈血栓症や肺塞栓症の治療・再発予防にも効果的であることが臨床試験により実証されています。
適応症 | 期待される効果 |
非弁膜症性心房細動 | 脳卒中・全身性塞栓症予防 |
深部静脈血栓症 | 治療および再発予防 |
肺塞栓症 | 治療および再発予防 |
本薬剤の投与により従来のワルファリン療法と比較して出血性合併症のリスクを低減しつつ、同等以上の血栓塞栓症予防効果が得られることが明らかになっています。
薬物動態学的特性
エドキサバンは経口投与後1〜2時間で最高血中濃度に達し、半減期は約10〜14時間です。
この特性により1日1回の服用で安定した抗凝固作用を維持できます。
- 迅速な吸収と高い生物学的利用能
- 予測可能な薬物動態プロファイル
- 一定の血中濃度維持による持続的効果
パラメータ | 値 |
最高血中濃度到達時間 | 1〜2時間 |
半減期 | 10〜14時間 |
投与回数 | 1日1回 |
これらの特徴により患者さんの服薬アドヒアランス向上につながり、長期的な抗凝固療法管理において有利となります。
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)の使用法と注意事項
適切な服用方法
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)は通常1日1回の服用を推奨します。
服用時間は朝または夜のどちらかに設定し、毎日同じ時間帯に飲むことで効果を最大限に引き出せます。
用法 | 詳細 |
服用回数 | 1日1回 |
服用タイミング | 朝または夜 |
注意点 | 毎日同じ時間に服用 |
食事の有無に関わらず服用可能ですが、胃腸への負担を軽減するため食後に飲むことをお勧めします。
錠剤は噛まずに水またはぬるま湯で飲み込んでください。
用量調整の重要性
エドキサバンの用量は患者さんの体重や腎機能に応じて調整する必要があります。
標準的な用量は60mgですが、体重60kg以下または中等度の腎機能障害がある方は30mgに減量します。
条件 | 用量 |
標準 | 60mg |
体重60kg以下 | 30mg |
中等度腎機能障害 | 30mg |
定期的な腎機能検査を行って必要に応じて用量を見直すことが大切です。
ある医師の臨床経験では80歳の女性患者さんが体重減少により60kg以下になった際 用量調整を行わずに標準量を継続していたため、軽度の出血傾向が見られました。
速やかに30mgへ減量したところ症状は改善し 安全に治療を継続できました。
併用薬に関する注意事項
エドキサバンは他の抗凝固薬や抗血小板薬との併用により出血リスクが上昇する可能性があります。
以下の薬剤との併用には特に注意が必要です。
- アスピリンなどの抗血小板薬
- ワルファリンなどの他の抗凝固薬
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
併用注意薬 | 注意点 |
抗血小板薬 | 出血リスク上昇 |
他の抗凝固薬 | 重複作用に注意 |
NSAIDs | 胃腸出血に留意 |
これらの薬剤を使用中の場合は必ず医師に相談し、慎重な経過観察のもとで投与を検討します。
服用を忘れた場合の対応
エドキサバンの服用を忘れた場合は気づいた時点ですぐに服用することが重要です。
ただし次の服用時間まで8時間未満の場合は、その回の服用を飛ばして次の予定時間に1回分だけ服用してください。
忘れた時間 | 対応 |
8時間以上前 | すぐに服用 |
8時間未満 | 次回分を通常通り服用 |
絶対に2回分を一度に服用しないよう注意してください。
手術・処置時の休薬
手術や侵襲的処置を予定している場合は事前にエドキサバンの休薬が必要となります。
通常手術の24時間前から休薬して術後の出血リスクが低下した時点で再開します。
- 小手術の場合24時間前から休薬
- 大手術の場合48時間前から休薬
- 硬膜外麻酔を伴う手術は72時間前から休薬
具体的な休薬期間は手術の種類や患者さんの状態により異なるため担当医と相談の上で決定してください。
適応対象患者
非弁膜症性心房細動患者
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)は非弁膜症性心房細動を有する患者さんに対して主に処方します。
この疾患では心房内で血液の流れが滞りやすく、血栓形成のリスクが高まるため抗凝固療法が必要となります。
リスク因子 | 説明 |
高血圧 | 血管壁への負担増大 |
糖尿病 | 血管内皮機能障害 |
心不全 | 心機能低下による血流停滞 |
高齢 | 血管壁の脆弱化 |
特に75歳以上の高齢者や複数のリスク因子を持つ患者さんでは脳卒中予防のためエドキサバンの使用を積極的に検討します。
静脈血栓塞栓症患者
深部静脈血栓症や肺塞栓症といった静脈血栓塞栓症の治療および再発予防にもエドキサバンは有効です。
これらの疾患では下肢や肺動脈に形成された血栓が生命を脅かす事態を引き起こす可能性があるため早期からの抗凝固療法が重要です。
静脈血栓塞栓症 | 主な症状 |
深部静脈血栓症 | 下肢の腫脹・疼痛 |
肺塞栓症 | 呼吸困難・胸痛 |
長期臥床や大きな手術後 妊娠中・出産後の患者さんさんは静脈血栓塞栓症のリスクが高いため注意が必要です。
整形外科手術後の患者
人工膝関節全置換術や人工股関節全置換術を受けた患者さんにおいて静脈血栓塞栓症の予防目的でエドキサバンを使用することがあります。
手術による組織損傷や術後の活動性低下が血栓形成を促進するため適切な予防策が大切です。
手術 | 予防投与期間 |
人工膝関節全置換術 | 術後14日間 |
人工股関節全置換術 | 術後28日間 |
これらの手術を受けた患者さんには個々の出血リスクを考慮しつつエドキサバンによる血栓予防を行います。
癌関連血栓症患者
悪性腫瘍を有する患者さんは血液凝固能が亢進しやすく静脈血栓塞栓症のリスクが高くなります。
特に進行癌や化学療法中の患者さんでは血栓形成のリスクが顕著に上昇するためエドキサバンによる予防や治療が考慮されます。
癌種 | 血栓リスク |
膵臓癌 | 非常に高い |
肺癌 | 高い |
胃癌 | 中等度 |
乳癌 | 中等度 |
癌患者さんへのエドキサバン投与は腫瘍の進行度や化学療法の影響、出血リスクなどを総合的に評価して判断します。
腎機能低下患者への投与
エドキサバンは主に腎臓から排泄されるため腎機能が低下している患者さんへの投与には慎重な判断が必要です。
中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30〜50 mL/min)がある患者さんでは用量調整を行いつつ使用することが可能です。
腎機能 | 推奨用量 |
正常〜軽度低下 | 60mg/日 |
中等度低下 | 30mg/日 |
重度低下 | 投与禁忌 |
ただし重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス15 mL/min未満)を有する患者さんにはエドキサバンの使用は避けるべきです。
治療期間
非弁膜症性心房細動患者の治療期間
非弁膜症性心房細動患者さんにおけるエドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)の治療期間は基本的に長期にわたります。
心房細動自体が持続性あるいは永続性である場合には血栓塞栓症予防の観点から生涯にわたる抗凝固療法が推奨されます。
心房細動の種類 | 推奨治療期間 |
発作性 | リスク評価に基づく |
持続性 | 長期〜生涯 |
永続性 | 生涯 |
ただし発作性心房細動で他のリスク因子がない患者さんでは定期的な再評価を行いながら治療継続の判断を行います。
静脈血栓塞栓症患者の治療期間
深部静脈血栓症や肺塞栓症といった静脈血栓塞栓症に対するエドキサバンの治療期間は誘因や再発リスクにより異なります。
一般的に3〜6ヶ月の治療を行い、その後の継続については個々の患者さんのリスク・ベネフィットを慎重に評価して決定します。
誘因 | 推奨治療期間 |
一過性リスク因子 | 3〜6ヶ月 |
持続的リスク因子 | 6〜12ヶ月以上 |
原因不明 | 長期〜無期限 |
癌関連血栓症の場合では腫瘍が活動性である間は抗凝固療法を継続することが多く、6ヶ月以上の長期投与となるケースが少なくありません。
整形外科手術後の血栓予防期間
人工膝関節全置換術や人工股関節全置換術後の静脈血栓塞栓症予防におけるエドキサバンの投与期間は手術の種類により異なります。
手術の種類 | 予防投与期間 |
人工膝関節全置換術 | 14日間 |
人工股関節全置換術 | 28日間 |
これらの期間は一般的な目安であり、患者さんの状態や合併症リスクに応じて個別に調整することもあります。
治療期間の決定要因
エドキサバンの治療期間を決定する際には複数の要因を総合的に評価することが重要です。
主な決定要因として以下のような項目が挙げられます。
- 基礎疾患の重症度と持続性
- 血栓塞栓症の再発リスク
- 出血リスク
- 患者さんの年齢と全身状態
- 併存疾患の有無
要因 | 長期治療を支持 | 短期治療を支持 |
高齢 | ○ | × |
出血歴 | × | ○ |
再発歴 | ○ | × |
腎機能低下 | × | ○ |
これらの要因を慎重に検討して個々の患者さんに最適な治療期間を設定します。
治療期間中のモニタリングと再評価
エドキサバン療法中は定期的な経過観察と再評価が大切です。
治療効果・副作用の有無・患者さんの状態変化などを総合的に判断して必要に応じて治療期間の延長や短縮 あるいは中止を検討します。
評価項目 | 評価頻度 |
血栓塞栓症症状 | 毎回の診察時 |
出血症状 | 毎回の診察時 |
腎機能検査 | 3〜6ヶ月ごと |
肝機能検査 | 6〜12ヶ月ごと |
ある医師の臨床経験では80歳の非弁膜症性心房細動患者さんにエドキサバンを2年間投与していましたが、軽度の貧血と繰り返す鼻出血が見られたため慎重に経過観察しつつ用量を減量しました。
結果として出血症状は改善して脳卒中予防効果を維持したまま治療を継続できました。
代替治療薬
他の直接経口抗凝固薬(DOAC)
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)が効果不十分だった際にまず検討すべき代替薬は同じDOACグループに属する薬剤です。
これらは作用機序が類似しているものの薬物動態や投与スケジュールが異なるため個々の患者さんに適した選択肢となる可能性があります。
一般名 | 商品名 | 特徴 |
アピキサバン | エリキュース | 1日2回投与 腎排泄率低い |
リバーロキサバン | イグザレルト | 1日1回投与 食事の影響大 |
ダビガトラン | プラザキサ | 1日2回投与 胃腸障害多い |
これらの薬剤は各々独自の特性を持ち、患者さんの状態や生活習慣に応じて選択することで治療効果の改善が期待できます。
ワルファリン
従来から使用されているワルファリンはエドキサバンが効果を示さなかった患者さんの代替治療として依然重要な選択肢です。
ビタミンK拮抗薬であるワルファリンは DOACとは異なる作用機序を持ち長期使用の実績があります。
利点
- 長期の使用経験
- 特定の弁膜症性心房細動にも使用可能
- 安価で経済的負担が少ない
欠点
- 定期的な血液検査が必要
- 食事制限がある
- 他剤との相互作用が多い
指標 | 目標値 |
PT-INR(非弁膜症性心房細動) | 2.0-3.0 |
PT-INR(弁膜症性心房細動) | 2.5-3.5 |
ワルファリンは調整に時間を要しますが適切な管理下では安定した抗凝固効果を発揮します。
抗血小板薬
特定の状況下では抗凝固薬の代わりに抗血小板薬を選択することもあります。
主に冠動脈疾患や末梢動脈疾患を合併している患者さんで考慮されます。
薬剤名 | 作用機序 |
アスピリン | シクロオキシゲナーゼ阻害 |
クロピドグレル | P2Y12受容体阻害 |
プラスグレル | P2Y12受容体阻害(強力) |
チカグレロル | 可逆的P2Y12受容体阻害 |
抗血小板薬は抗凝固薬ほど強力な血栓予防効果はありませんが、出血リスクが高い患者さんや抗凝固薬が禁忌の患者さんに対する代替療法として検討されます。
低分子量ヘパリン
エドキサバンの効果が不十分で経口投与が困難な状況では低分子量ヘパリンが代替治療として選択されることがあります。
主に入院患者さんや周術期の患者さん、妊婦などが対象となります。
一般名 | 投与経路 | 特徴 |
エノキサパリン | 皮下注射 | 1日1-2回投与 |
ダルテパリン | 皮下注射 | 1日1-2回投与 |
フォンダパリヌクス | 皮下注射 | 1日1回投与 |
低分子量ヘパリンは抗Xa活性を介して抗凝固作用を発揮し、通常のヘパリンよりも予測可能な効果と出血リスクの低さが特徴です。
新規抗凝固薬の併用療法
エドキサバン単独で効果不十分な患者さんに対して異なる作用機序を持つ薬剤との併用療法を検討することがあります。
この戦略は特に難治性の血栓症や高リスク患者さんに対して考慮されます。
併用例 | 目的 |
DOAC + 抗血小板薬 | 冠動脈疾患合併例 |
DOAC + 低用量アスピリン | 脳卒中二次予防 |
ワルファリン + 抗血小板薬 | 人工弁置換後 |
併用療法は出血リスクが増加するため慎重な経過観察と定期的な再評価が重要です。
ある医師の臨床経験では75歳の非弁膜症性心房細動患者さんにエドキサバンを処方しましたが6ヶ月後に一過性脳虚血発作を発症しました。
患者さんの状態を総合的に評価した結果アピキサバンへの切り替えを行い、さらに低用量アスピリンを追加しました。
その後2年間脳卒中の再発なく経過して出血性合併症も認めませんでした。
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)の薬価と費用
薬価
エドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)の薬価は規格により異なります。
規格 | 薬価(円) |
15mg錠 | 224.7 |
30mg錠 | 411.3 |
60mg錠 | 416.8 |
通常は1日1回60mg服用するため1日あたりの薬価は416.8円となります。
処方期間による総額
1週間処方の場合は2,917.6円、1ヶ月処方では12,504円となります。
処方期間 | 総額(円) |
1週間 | 2,917.6 |
1ヶ月 | 112,504 |
長期処方によって患者さんの通院負担を軽減できますが、経済的負担は大きくなります。
ジェネリック医薬品との比較
現時点でエドキサバンのジェネリック医薬品は発売されていません。
- 先発品のみの状況
- 特許期間中
薬剤 | 1日あたりの薬価(円) |
リクシアナ60mg | 601.90 |
ジェネリック | 未発売 |
将来的にジェネリック医薬品が登場すれば患者さん負担の軽減が期待できます。
以上
- 参考にした論文