デュルバルマブ(イミフィンジ)とは、肺がんをはじめとする呼吸器系の悪性腫瘍に対して使用される革新的な免疫療法薬です。
この薬剤は人体が本来持つ免疫システムを活性化させてがん細胞と闘う力を高める働きがあります。
従来の抗がん剤とは異なりデュルバルマブは正常な細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞を標的とする特徴を持っています。
この薬が患者さんの生活の質を向上させて生存期間を延長する可能性があると考えられています。
有効成分と作用機序および効果
デュルバルマブの有効成分
デュルバルマブ(イミフィンジ)の有効成分はヒト型モノクローナル抗体であり、この抗体はPD-L1(Programmed Death-Ligand 1)と呼ばれるタンパク質を標的としています。
PD-L1は多くのがん細胞表面に発現しており免疫システムの攻撃から逃れるための防御機構として機能しています。
有効成分 | 標的タンパク質 |
デュルバルマブ | PD-L1 |
デュルバルマブは高度な遺伝子工学技術を用いて作製された人工抗体で、その構造は人間の抗体と非常に類似しているため体内での安定性が高く長期間にわたって効果を発揮することができます。
デュルバルマブの作用機序
デュルバルマブはPD-L1に特異的に結合してがん細胞とT細胞間の相互作用を阻害する働きがあります。
通常がん細胞表面のPD-L1はT細胞上のPD-1受容体と結合することでT細胞の活性化を抑制し、免疫システムの攻撃から逃れています。
デュルバルマブがPD-L1に結合するとこの相互作用が遮断され、T細胞は活性化状態を維持することができます。
PD-L1阻害 | T細胞への影響 |
結合阻害 | 活性化維持 |
これにより体内の免疫システムががん細胞を正常に認識し、攻撃する能力を回復または増強することができます。
デュルバルマブの免疫活性化メカニズム
デュルバルマブによるPD-L1阻害は単にT細胞の活性化を維持するだけでなく複雑な免疫カスケードを引き起こします。
- 活性化T細胞の増殖促進
- サイトカイン産生の増加
これらの作用により腫瘍微小環境が変化し、がん細胞に対する免疫応答が強化されます。
さらにデュルバルマブは抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導する可能性があり、この機序を通じてNK細胞などの免疫細胞ががん細胞を直接攻撃することもあります。
免疫活性化作用 | 影響を受ける細胞 |
T細胞活性化維持 | CD8陽性T細胞 |
サイトカイン産生増加 | ヘルパーT細胞 |
ADCC誘導 | NK細胞 |
デュルバルマブの臨床効果
デュルバルマブの投与によって特定のがん種において顕著な臨床効果が認められています。
非小細胞肺がんや尿路上皮がんなどの固形腫瘍に対して腫瘍縮小効果や無増悪生存期間の延長が報告されています。
特に局所進行非小細胞肺がんにおいては化学放射線療法後の地固め療法としてデュルバルマブを使用することで 無増悪生存期間および全生存期間の延長が示されました。
がん種 | 主な臨床効果 |
局所進行非小細胞肺がん | 無増悪生存期間延長 |
尿路上皮がん | 腫瘍縮小 |
デュルバルマブの効果は個々の患者さんのPD-L1発現状況や腫瘍の遺伝子変異プロファイルによって異なる場合があるため治療開始前に適切なバイオマーカー評価を行うことが必要です。
また デュルバルマブは他の抗がん剤や放射線療法との併用により相乗効果を示すこともあり複合的な治療戦略の一環として使用されることが多くなっています。
- 化学療法との併用による効果増強
- 放射線療法後の再発リスク低減
このようにデュルバルマブは単独使用だけでなく複合的な治療アプローチの中で重要な役割を果たし、がん治療の新たな可能性を切り開いています。
使用方法と注意点
投与方法と用量
デュルバルマブ(イミフィンジ)は通常点滴静注により投与します。
標準的な投与量は体重1キログラムあたり10ミリグラムで 2週間ごとに60分かけて点滴します。
投与方法 | 標準用量 | 投与間隔 |
点滴静注 | 10mg/kg | 2週間ごと |
ただし患者さんの状態や腫瘍の種類によって投与スケジュールを調整することがあります。
治療期間
デュルバルマブによる治療期間は 病状の進行が認められるまで、または許容できない副作用が発現するまで継続します。
一般的に局所進行非小細胞肺がんの場合は最長12ヶ月間の投与を行います。
がん種 | 標準治療期間 |
局所進行非小細胞肺がん | 最長12ヶ月 |
転移性尿路上皮がん | 病状進行まで |
ある医師の臨床経験ではある患者さんが12ヶ月間のデュルバルマブ治療を完遂し、その後3年以上再発なく経過しているという例がありました。
この症例はデュルバルマブの長期的な効果を示唆するものとして印象深く記憶に残っています。
投与前の検査と評価
デュルバルマブ投与を開始する前に以下の検査を実施して患者さんの状態を総合的に評価することが重要です。
- 血液検査(血球数 肝機能 腎機能など)
- 画像検査(CT PETなど)
- 心機能評価
これらの検査結果に基づき投与の可否や用量調整の必要性を判断します。
検査項目 | 評価内容 |
血液検査 | 骨髄機能 臓器機能 |
画像検査 | 腫瘍の状態 転移の有無 |
特にPD-L1発現状況の確認は治療効果予測に有用なバイオマーカーとして 注目されています。
併用療法と相互作用
デュルバルマブは単独療法として使用されることもありますが、他の抗がん剤や放射線療法との併用も行われます。
化学放射線療法後の地固め療法としての使用が非小細胞肺がんにおいて効果を示しています。
併用療法 | 対象疾患 |
化学放射線療法後の地固め | 非小細胞肺がん |
他の免疫チェックポイント阻害剤との併用 | 進行がん |
ただし併用療法を行う際は相互作用による副作用増強の可能性があるため慎重なモニタリングが必要です。
患者指導と生活上の注意点
デュルバルマブ治療を受ける患者さんには以下の点について十分な説明と指導を行うことが大切です。
- 感染症予防のための衛生管理
- 規則正しい生活リズムの維持
- バランスの取れた食事と適度な運動
特に免疫関連有害事象の早期発見のため体調の変化に注意を払い、異常を感じた際は速やかに医療機関に連絡するよう指導します。
生活上の注意点 | 具体的な行動 |
感染症予防 | 手洗い マスク着用 |
生活リズム | 十分な睡眠 ストレス管理 |
モニタリングと経過観察
デュルバルマブ投与中は定期的な血液検査や画像検査を実施して治療効果と副作用をモニタリングします。
特に免疫関連有害事象の早期発見と対応が重要で皮膚症状・消化器症状・内分泌機能異常などに注意を払います。
モニタリング項目 | 頻度 |
血液検査 | 2-4週ごと |
画像検査 | 2-3ヶ月ごと |
治療終了後も長期的な経過観察が求められます。
免疫チェックポイント阻害剤の特性上 投与終了後も効果が持続することがあり、晩期有害事象にも注意が必要だからです。
適応対象となる患者
非小細胞肺がん患者における適応基準
デュルバルマブ(イミフィンジ)は主に進行または転移性の非小細胞肺がん患者さんに対して使用します。
特に化学放射線療法後の地固め療法として効果を発揮するため根治的化学放射線療法後に病勢進行がみられない患者さんが適応となります。
病期 | 前治療 | デュルバルマブの位置づけ |
III期 | 化学放射線療法 | 地固め療法 |
IV期 | 化学療法 | 2次治療以降 |
この適応はPD-L1発現率に関わらず考慮されますが、PD-L1高発現例でより高い効果が期待できます。
尿路上皮がん患者における使用基準
デュルバルマブは進行性尿路上皮がんの患者さんにも使用します。
白金系抗がん剤による化学療法後に病勢進行した患者さんや一次治療として白金系抗がん剤が適さない患者さんが対象となります。
前治療 | デュルバルマブの使用タイミング |
白金系抗がん剤後進行 | 2次治療 |
白金系抗がん剤不適 | 1次治療 |
尿路上皮がんにおいてもPD-L1発現状況を確認することが推奨されます。
小細胞肺がん患者への適用可能性
小細胞肺がんに対するデュルバルマブの使用は現在臨床試験段階にあります。
進展型小細胞肺がんの一次治療として化学療法との併用で有望な結果が報告されています。
病型 | 併用療法 | 期待される効果 |
進展型 | 白金系+エトポシド | 生存期間延長 |
ただし小細胞肺がんへの適応は現時点で承認されていないため臨床試験への参加が必要となります。
肝細胞がん患者さんに対する使用検討
肝細胞がんに対するデュルバルマブの効果も注目されています。
進行肝細胞がんの患者さんにおいて他の免疫チェックポイント阻害剤との併用療法が検討されています。
併用薬 | 対象患者さん |
トレメリムマブ | 進行肝細胞がん |
肝機能障害の程度や肝炎ウイルス感染状況を慎重に評価して適応を判断する必要があります。
適応外使用の可能性がある患者群
デュルバルマブの効果は様々ながん種で研究されており、今後適応拡大の可能性があります。
現在臨床試験が進行中のがん種は以下の通りです。
- 頭頸部がん
- 胃がん
- 大腸がん
これらのがん種の患者さんは標準治療で十分な効果が得られない場合には臨床試験への参加を検討することができます。
適応を判断する上での重要な因子
デュルバルマブの適応を決定するうえで以下の因子を総合的に評価することが重要です。
- 病理組織型
- がんの進行度(病期)
- 前治療歴とその効果
- 全身状態(PS)
評価項目 | 適応に好ましい条件 |
組織型 | 非小細胞肺がん 尿路上皮がん |
病期 | III期以上 |
PS | 0-1 |
特に全身状態は治療の忍容性に直結するため 慎重な評価が必要です。
適応外となる患者群
デュルバルマブの使用が推奨されない、または禁忌となる患者群も存在します。
主な除外基準は次のようなものです。
除外条件 | 理由 |
活動性自己免疫疾患 | 免疫関連有害事象のリスク上昇 |
重度臓器機能障害 | 薬物代謝への影響 |
これらの条件に該当する患者さんではデュルバルマブ以外の治療選択肢を検討する必要があります。
治療期間
標準的な治療期間
デュルバルマブ(イミフィンジ)の治療期間は疾患の種類や進行状況によって異なりますが一般的に長期間の投与が必要となります。
非小細胞肺がんの場合では化学放射線療法後の地固め療法として最長12ヶ月間の投与を行います。
疾患 | 標準的な治療期間 |
非小細胞肺がん | 最長12ヶ月 |
尿路上皮がん | 病勢進行まで |
尿路上皮がんにおいては 病勢進行が確認されるまで、または許容できない副作用が発現するまで継続します。
治療効果に基づく期間調整
デュルバルマブの治療効果は個々の患者さんによって異なるため治療期間を柔軟に調整することが重要です。
効果が顕著な場合は標準的な期間を超えて継続することもあれば効果不十分や副作用出現時には早期中止を検討します。
治療効果 | 期間調整 |
顕著な効果 | 延長検討 |
効果不十分 | 早期中止 |
ある医師の臨床経験ではある非小細胞肺がん患者さんが12ヶ月の標準治療を終了後も良好な効果が持続し、患者さんと相談の上で治療を18ヶ月まで延長したケースがありました。
結果として その後3年以上再発なく経過しており、個別化した治療期間設定の重要性を実感しました。
免疫関連有害事象と治療期間
デュルバルマブによる免疫関連有害事象の発現は治療期間に影響を与えます。
重度の有害事象が発現した際は一時的に投与を中断して症状改善後に再開するといった対応が必要となります。
有害事象グレード | 対応 |
Grade 1-2 | 経過観察継続 |
Grade 3-4 | 投与中断・再開検討 |
これにより実質的な治療期間が当初の予定より延長することがあります。
長期投与における注意点
デュルバルマブの長期投与に伴い以下の点に注意が必要です。
- 遅発性の免疫関連有害事象
- 全身状態の変化
- 併存疾患の管理
注意点 | モニタリング項目 |
遅発性有害事象 | 甲状腺機能 肝機能 |
全身状態 | PS 栄養状態 |
特に高齢者や併存疾患を有する患者さんでは定期的な全身評価が治療継続の判断において重要です。
休薬期間の設定
デュルバルマブの治療効果を最大化しつつ副作用を軽減するために計画的な休薬期間を設けることがあります。
休薬期間中も慎重な経過観察を行い病勢の変化に応じて投与再開のタイミングを判断します。
休薬理由 | 期間目安 |
有害事象管理 | 1-4週間 |
計画的休薬 | 4-8週間 |
休薬後の再開においては慎重な用量調整や投与間隔の見直しを検討します。
治療終了後のフォローアップ期間
デュルバルマブ治療終了後も長期的なフォローアップが欠かせません。
免疫チェックポイント阻害剤の特性上治療終了後も効果が持続することがあり、一方で晩期有害事象の発現にも注意が必要だからです。
- 定期的な画像検査
- 血液検査によるバイオマーカー評価
フォローアップ項目 | 頻度 |
画像検査 | 3-6ヶ月ごと |
血液検査 | 1-3ヶ月ごと |
少なくとも治療終了後2年間は綿密な経過観察を行い、その後も個々の患者さんの状況に応じてフォローアップ期間を設定します。
再投与の検討
デュルバルマブ治療終了後に再発した場合は再投与を検討することがあります。
初回治療で良好な効果が得られ、かつ重篤な有害事象がなかった患者さんが再投与の候補となります。
再投与条件 | 評価項目 |
初回治療効果 | 無増悪生存期間 |
有害事象歴 | 重症度 管理可能性 |
再投与時の治療期間は個々の症例に応じて柔軟に設定し、慎重なモニタリングの下で継続します。
副作用とデメリット
免疫関連有害事象の概要
デュルバルマブ(イミフィンジ)は免疫チェックポイント阻害剤であり、その作用機序から特徴的な副作用として免疫関連有害事象(irAE)が挙げられます。
これらの有害事象は体内の様々な臓器や組織に影響を及ぼす可能性があり、時に重篤化することがあります。
主な免疫関連有害事象 | 発現頻度 |
肺炎 | 約10% |
甲状腺機能異常 | 約15% |
肝機能障害 | 約5% |
大腸炎 | 約2% |
ある医師の臨床経験では肺腺がんの患者さんにデュルバルマブを投与したところ投与開始3ヶ月後に突如として重度の下痢症状が現れ、精査の結果免疫関連大腸炎と診断されたケースがありました。
ステロイド治療により症状は改善しましたが、このエピソードは irAEの予測困難性と迅速な対応の重要性を再認識させられる機会となりました。
皮膚関連の副作用
デュルバルマブによる皮膚関連の副作用は比較的高頻度に発現し、患者さんのQOLに影響を与えることがあります。
主な皮膚症状は次のようなものです。
- 発疹
- 掻痒感
- 皮膚乾燥
皮膚症状 | 発現時期 |
発疹 | 投与後1-2週間 |
掻痒感 | 投与後2-4週間 |
これらの症状は多くの場合軽度ですが重症化すると治療の一時中断や中止の検討も考えなければなりません。
内分泌系への影響
デュルバルマブは内分泌系にも影響を及ぼし、特に甲状腺機能異常が高頻度に認められます。
甲状腺機能低下症や亢進症が発現することがあり、長期的なホルモン補充療法が必要となることもあります。
内分泌障害 | 主な症状 |
甲状腺機能低下症 | 倦怠感 体重増加 |
甲状腺機能亢進症 | 動悸 発汗増加 |
また稀ではありますが、副腎機能不全や下垂体機能障害などの重篤な内分泌障害も報告されています。
肺炎のリスク
デュルバルマブ投与に伴う肺炎(間質性肺疾患)は 重要な副作用の一つです。
肺炎は急速に進行する可能性があり早期発見と迅速な対応が生命予後に大きく影響します。
肺炎の症状 | 対応 |
咳嗽 | 速やかに受診 |
呼吸困難 | 投与中断検討 |
特に非小細胞肺がん患者さんでは既存の肺疾患や放射線治療歴がある場合、肺炎のリスクが高まることに注意が必要です。
肝機能障害
デュルバルマブによる肝機能障害は無症状で経過することもあるため定期的な血液検査によるモニタリングが重要です。
肝機能障害の程度によっては投与中止や免疫抑制療法の導入が必要となります。
肝機能障害の指標 | 基準値 |
AST | 40 IU/L以下 |
ALT | 40 IU/L以下 |
重度の肝機能障害は致死的となる可能性もあるため慎重な経過観察が求められます。
投与に伴う全身症状
デュルバルマブ投与直後や投与期間中に様々な全身症状が現れることがあります。
主な全身症状には以下のようなものがあります。
- 倦怠感
- 発熱
- 食欲不振
全身症状 | 発現頻度 |
倦怠感 | 約20% |
発熱 | 約10% |
これらの症状は患者さんのQOLを著しく低下させて日常生活に支障をきたすことがあります。
長期投与に伴うデメリット
デュルバルマブの長期投与に伴い以下のようなデメリットが生じる可能性があります。
- 経済的負担の増大
- 頻回の通院による社会生活への影響
- 晩期有害事象の発現リスク
デメリット | 影響 |
経済的負担 | 高額医療費 |
通院頻度 | 2-4週に1回 |
特に長期生存者において晩期有害事象のモニタリングや管理が継続的に必要となることは患者さんの負担となる可能性があります。
薬剤耐性の問題
一部の患者さんではデュルバルマブに対する耐性が生じることがあります。
耐性メカニズムは完全には解明されていませんが腫瘍の遺伝子変異や免疫環境の変化が関与していると考えられています。
耐性のタイプ | 特徴 |
一次耐性 | 治療開始時から無効 |
獲得耐性 | 治療中に効果減弱 |
薬剤耐性の出現は治療効果の低下につながり次の治療選択に影響を与える可能性があります。
代替治療薬
他の免疫チェックポイント阻害剤
デュルバルマブ(イミフィンジ)が効果を示さなかった場合には他の免疫チェックポイント阻害剤への切り替えを検討します。
PD-1阻害剤であるニボルマブやペムブロリズマブはデュルバルマブとは異なる作用機序を持つため効果が期待できることがあります。
薬剤名 | 標的分子 |
ニボルマブ | PD-1 |
ペムブロリズマブ | PD-1 |
これらの薬剤は非小細胞肺がんや尿路上皮がんなどデュルバルマブと同様の適応を持つことが多いです。
分子標的治療薬
がん細胞の遺伝子変異プロファイルに基づいた分子標的治療薬も代替治療の選択肢となります。
EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんではオシメルチニブやアファチニブなどのEGFR-TKIが高い効果を示すことがあります。
遺伝子変異 | 推奨される分子標的薬 |
EGFR | オシメルチニブ |
ALK | アレクチニブ |
ROS1 | クリゾチニブ |
これらの薬剤は特定の遺伝子変異を標的とするため患者さん個々の遺伝子プロファイルに応じた選択が重要です。
従来の細胞傷害性抗がん剤
免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬が無効であった場合には従来の細胞傷害性抗がん剤への切り替えや併用を検討します。
非小細胞肺がんではプラチナ製剤をベースとした多剤併用療法が標準治療として確立しています。
抗がん剤 | 併用薬 |
シスプラチン | ペメトレキセド |
カルボプラチン | パクリタキセル |
これらの薬剤は広範ながん細胞に対して細胞傷害性を示すためデュルバルマブ無効例でも一定の効果が期待できます。
血管新生阻害剤
腫瘍の血管新生を阻害する薬剤もデュルバルマブ無効例における代替治療の選択肢となります。
ベバシズマブやラムシルマブなどの抗VEGF抗体は単剤または他の抗がん剤との併用で効果を発揮することがあります。
血管新生阻害剤 | 主な適応がん |
ベバシズマブ | 非小細胞肺がん 大腸がん |
ラムシルマブ | 胃がん 非小細胞肺がん |
これらの薬剤は腫瘍への栄養供給を遮断することで間接的に抗腫瘍効果を示します。
新規作用機序を持つ免疫療法
デュルバルマブとは異なる作用機序を持つ新しい免疫療法薬も代替治療として注目されています。
一例として LAG-3阻害剤やTIM-3阻害剤などが臨床開発段階にあり、これらはPD-L1/PD-1経路とは異なる免疫チェックポイントを標的としています。
新規免疫療法 | 標的分子 |
LAG-3阻害剤 | LAG-3 |
TIM-3阻害剤 | TIM-3 |
これらの薬剤は従来の免疫チェックポイント阻害剤に耐性を示した症例でも効果を発揮する可能性があります。
がんワクチン療法
がん細胞に特異的な抗原を用いたワクチン療法もデュルバルマブ無効例における新たな治療選択肢として研究が進められています。
個々の患者さんのがん細胞の特徴に基づいてカスタマイズされたネオアンチゲンワクチンなどが臨床試験段階にあります。
ワクチンの種類 | 特徴 |
ペプチドワクチン | 特定の腫瘍抗原を標的 |
樹状細胞ワクチン | 患者さん自身の免疫細胞を活性化 |
これらのワクチン療法は患者さん個々の腫瘍特性に応じた個別化医療の一環として期待されています。
併用療法の可能性
デュルバルマブ単剤で効果が得られなかった場合は他の薬剤との併用療法を検討することも重要です。
例えば 以下のような併用療法が臨床試験で検討されています。
- 免疫チェックポイント阻害剤同士の併用
- 免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬の併用
併用療法例 | 期待される効果 |
デュルバルマブ + トレメリムマブ | 相乗的な免疫活性化 |
ニボルマブ + イピリムマブ | 複数の免疫経路の阻害 |
これらの併用療法は単剤で効果が得られなかった症例でも新たな治療効果をもたらす可能性があります。
実際にある医師の臨床経験ではデュルバルマブ単剤で効果が得られなかった進行非小細胞肺がんの患者さんに対してニボルマブとイピリムマブの併用療法を試みました。
すると顕著な腫瘍縮小効果が得られたという経験は、免疫チェックポイント阻害剤の併用による相乗効果の可能性を示唆するものでした。
併用禁忌
他の免疫チェックポイント阻害剤との併用
デュルバルマブ(イミフィンジ)は単独で強力な免疫活性化作用を持つため他の免疫チェックポイント阻害剤との併用には十分な注意が必要です。
特にPD-1阻害剤であるニボルマブやペムブロリズマブとの併用は過剰な免疫反応を引き起こす危険性があるため一般的には推奨されません。
薬剤名 | 作用機序 |
ニボルマブ | PD-1阻害 |
ペムブロリズマブ | PD-1阻害 |
これらの薬剤との併用は重篤な免疫関連有害事象のリスクを著しく高める可能性があります。
強力な免疫抑制剤との併用
デュルバルマブの作用機序を考慮すると強力な免疫抑制剤との併用は避けるべきです。
高用量のステロイド剤やカルシニューリン阻害剤などの免疫抑制剤はデュルバルマブの抗腫瘍効果を減弱させる可能性があります。
免疫抑制剤 | 主な使用目的 |
プレドニゾロン | 炎症性疾患 |
タクロリムス | 臓器移植後 |
ただし免疫関連有害事象の治療目的で短期間 低用量のステロイド剤を使用することは許容されます。
生ワクチンとの併用
デュルバルマブによる免疫系への影響を考慮すると生ワクチンの接種は避けるべきです。
特に次のようなワクチンとの併用には注意が必要です。
- 麻疹・風疹・おたふくかぜ混合(MMR)ワクチン
- 水痘ワクチン
- 黄熱ワクチン
ワクチン種類 | 接種可能時期 |
生ワクチン | 治療終了後3ヶ月以降 |
不活化ワクチン | 個別に判断 |
これらのワクチンはデュルバルマブ投与中および投与終了後一定期間は接種を避け、主治医と相談の上で接種時期を決定する必要があります。
肝障害を引き起こす可能性のある薬剤との併用
デュルバルマブは肝機能障害を引き起こす可能性があるため肝毒性のある薬剤との併用には注意が必要です。
アセトアミノフェンの高用量使用や一部の抗結核薬との併用は肝機能障害のリスクを高める可能性があります。
薬剤名 | 肝毒性リスク |
アセトアミノフェン | 高用量で上昇 |
イソニアジド | 長期使用で上昇 |
これらの薬剤を使用する際は 肝機能のモニタリングを頻回に行い 異常が認められた際は速やかに対応することが重要です。
QT延長を引き起こす薬剤との併用
デュルバルマブ自体はQT延長のリスクは低いとされていますが、QT延長を引き起こす可能性のある薬剤との併用には注意が必要です。
特に以下のような薬剤との併用には慎重な判断が求められます。
- 一部の抗不整脈薬
- 特定の抗精神病薬
- 一部の抗菌薬
薬剤群 | QT延長リスク |
クラスIII抗不整脈薬 | 高 |
マクロライド系抗菌薬 | 中等度 |
これらの薬剤との併用が必要な際は心電図モニタリングを含む慎重な経過観察が必要になります。
腎機能に影響を与える薬剤との併用
デュルバルマブは主に細胞内で代謝されるため腎排泄型の薬剤との相互作用は少ないとされています。
しかし腎機能障害を引き起こす可能性のある薬剤との併用には注意が必要です。
薬剤群 | 腎機能への影響 |
NSAIDs | 腎血流低下 |
アミノグリコシド系抗菌薬 | 尿細管障害 |
これらの薬剤との併用時は定期的な腎機能検査を行い、異常が認められた際は速やかに対応することが重要です。
放射線療法との併用タイミング
デュルバルマブと放射線療法の併用は肺がんの治療において効果的とされていますが、そのタイミングには注意が必要です。
化学放射線療法後の地固め療法としてデュルバルマブを使用する際は放射線治療終了から1-42日以内に開始することが推奨されています。
治療法 | デュルバルマブ開始時期 |
化学放射線療法後 | 1-42日以内 |
放射線単独療法後 | 個別に判断 |
放射線療法との同時併用については安全性と有効性のデータが限られているため現時点では推奨されていません。
デュルバルマブ(イミフィンジ)の薬価
薬価
デュルバルマブ(イミフィンジ)の薬価は規格や剤形によって異なります。
一般的に使用される500mg規格の場合では1バイアルあたり275,693円となります。
一方、120mg規格では1バイアルあたり67,871円です。
処方期間による総額
デュルバルマブの投与は通常3~4週間ごとに1回1500mgの投与が行われます。1ヶ月処方の場合は3~4バイアル分、つまり827,079~1,102,772円となります。
処方期間 | 総額(円) |
1ヶ月 | 827,079~1,102,772 |
12ヶ月 | 9,924,948~13,233,264 |
最長の12ヶ月処方では、その合計金額は9,924,948~13,233,264円にも達します。
- 体重によって使用量が変わる
- 併用薬の有無で総額が変動する
なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文