ドリペネム水和(フィニバックス)とは、呼吸器感染症の治療に用いられる抗菌薬です。
この薬剤は、カルバペネム系と呼ばれる抗生物質のグループに属しており、細菌の細胞壁合成を阻害することで効果を発揮します。
主に肺炎や気管支炎などの呼吸器系の重症感染症に対して処方されます。
その強力な抗菌作用により、他の抗生物質が効きにくい耐性菌にも有効性を示すことが特徴です。
フィニバックスの有効成分と作用機序 効果について
有効成分の特徴
ドリペネム水和物(フィニバックス)の主成分であるドリペネムは、カルバペネム系抗生物質に分類される強力な抗菌薬で、広範囲の細菌に対して殺菌作用を持ち、グラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌など多くの病原体に効果を発揮する特性を有しています。
ドリペネムの化学構造は他のカルバペネム系抗生物質と類似していますが、側鎖の構造に独自の特徴があり、この特性により優れた安定性と抗菌力を実現しており、多くの感染症治療において重要な役割を果たしています。
分類 | 特徴 |
系統 | カルバペネム系 |
抗菌スペクトル | 広範囲 |
主な標的 | グラム陽性菌 グラム陰性菌 嫌気性菌 |
作用機序の詳細
ドリペネムは細菌の細胞壁合成を阻害することで抗菌効果を発揮し、具体的には細菌のペニシリン結合タンパク質(PBPs)に高い親和性で結合し、ペプチドグリカン架橋形成を妨げることで細菌の増殖を抑制します。
この作用により細菌の細胞壁構造が脆弱化し、最終的に細菌の溶解や死滅につながるため、さまざまな感染症の治療に有効性を示すことが臨床的に確認されています。
- PBPsへの結合
- ペプチドグリカン合成阻害
- 細胞壁の脆弱化
- 細菌の溶解死滅
耐性菌に対する効果
ドリペネムは多くの耐性菌に対しても高い効果を示し、特にβ-ラクタマーゼという酵素を産生する耐性菌に対して強い抵抗性を持っているため、他の抗生物質が効きにくい感染症の治療において重要な選択肢となります。
耐性菌の種類 | ドリペネムの効果 |
ESBL産生菌 | 高い効果 |
AmpC型β-ラクタマーゼ産生菌 | 効果あり |
メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌 | 一部に効果 |
この特性により、多剤耐性菌による感染症の治療や、免疫機能が低下した患者さんの重症感染症への対応など、難治性感染症の管理において大きな役割を果たしています。
臨床効果と適応症
ドリペネムは主に重症の呼吸器感染症や複雑性尿路感染症、腹腔内感染症などの治療に用いられ、これらの感染症において高い臨床効果を示し、特に院内感染や人工呼吸器関連肺炎などの難治性感染症に対する有効性が医療現場で高く評価されています。
適応症 | 治療効果 |
重症肺炎 | 優れた効果 |
複雑性尿路感染症 | 高い有効性 |
腹腔内感染症 | 良好な治療成績 |
ドリペネムの投与により、感染症の症状改善や炎症マーカーの低下が期待でき、また他の抗菌薬と比較して耐性菌の出現リスクが低いことも、長期的な感染症コントロールにおいて重要な利点として認識されています。
ドリペネム水和物の使用方法と注意点
投与方法と用量調整
ドリペネム水和物(フィニバックス)は主に点滴静注で投与し、通常成人には1回0.25グラムを1日3回8時間ごとに30分以上かけて点滴静注しますが、感染症の重症度や患者の腎機能に応じて用量を調整することがあります。
重症例では1回0.5グラムまで増量することもあり、効果的な治療のために適切な投与量の設定が欠かせません。
投与方法 | 標準用量 | 最大用量 |
点滴静注 | 0.25g×3回/日 | 0.5g×3回/日 |
腎機能低下患者では薬物の排泄が遅延するため、クレアチニンクリアランスに基づいて投与量や投与間隔を調整し、過剰投与による副作用リスクを回避しつつ、十分な治療効果を得られるよう配慮します。
投与期間と効果判定
ドリペネムの投与期間は一般的に5〜14日間ですが、感染症の種類や重症度、患者の臨床反応に応じて個別に決定し、必要に応じて延長や短縮を検討します。
効果判定は臨床症状の改善や炎症マーカーの推移を指標とし、必要に応じて細菌学的検査も実施しながら、総合的に治療効果を評価していきます。
- 臨床症状の改善(咳、痰、呼吸困難の軽減など)
- 体温の正常化(解熱傾向の持続)
- 白血球数やCRPの低下(炎症反応の沈静化)
- 細菌培養検査の陰性化(原因菌の消失)
治療効果が不十分な場合は他の抗菌薬への変更や併用療法を検討し、患者の状態に応じた最適な治療戦略を柔軟に立案します。
投与時の注意事項
ドリペネムの投与前には必ず薬剤アレルギーの既往歴を確認し、特にβ-ラクタム系抗生物質に対するアレルギー歴がある患者では慎重に投与を判断し、代替薬の使用も視野に入れて対応します。
アレルギー歴 | 対応 |
なし | 通常投与 |
β-ラクタム系 | 慎重投与または代替薬検討 |
ドリペネム | 投与禁忌 |
点滴静注時は30分以上かけてゆっくりと投与し、急速静注は避けることで、投与に伴う有害事象のリスクを最小限に抑えます。
投与中は定期的に腎機能や肝機能の検査を行い、異常が見られた場合は速やかに用量調整や投与中止を検討し、患者の安全性を最優先に治療方針を見直します。
相互作用と併用注意薬
ドリペネムは他の薬剤との相互作用が比較的少ない抗菌薬ですが、一部の薬剤との併用には注意し、特に抗てんかん薬や尿酸排泄促進薬との相互作用に留意する必要があります。
併用注意薬 | 相互作用 |
バルプロ酸ナトリウム | 血中濃度低下 |
プロベネシド | 腎排泄遅延 |
特にバルプロ酸ナトリウムとの併用ではバルプロ酸の血中濃度が低下し、てんかん発作のリスクが高まるため、併用を避けるか慎重にモニタリングを行い、必要に応じてバルプロ酸の増量や代替薬の使用を考慮します。
特殊な状況での使用
妊婦や授乳婦への投与については安全性が確立していないため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討し、胎児や乳児への影響を最小限に抑えるよう慎重に管理します。
高齢者では腎機能低下が多いため、慎重に投与量を設定し、副作用の発現に十分注意しながら投与することで、高齢者特有のリスクを考慮した適切な治療を心がけます。
患者群 | 投与時の注意点 |
妊婦・授乳婦 | 有益性と危険性を慎重に評価 |
高齢者 | 腎機能に応じた用量調整 |
小児への使用については十分なデータがないため、原則として成人と同様の用量で投与しますが、体重に応じて調整することがあり、小児の特性を考慮した慎重な投与管理が求められます。
ある医師の臨床経験では、重症肺炎の高齢患者にドリペネムを使用し、速やかな解熱と炎症反応の改善を認めた例があり、この症例では腎機能に応じて投与量を調整したことで、安全かつ効果的な治療を実現でき、患者の早期回復につながりました。
適応対象患者
重症感染症患者
ドリペネム水和物(フィニバックス)は主に重症感染症の患者に対して使用する抗菌薬で、特に院内感染や人工呼吸器関連肺炎などの難治性感染症に罹患している方々が主な対象となり、これらの患者では多剤耐性菌による感染のリスクが高いため、強力な抗菌作用を持つドリペネムが効果的な選択肢となります。
重症敗血症や敗血症性ショックの患者においてもドリペネムは広域スペクトラムの抗菌活性を活かして初期治療の選択肢となり、迅速な感染制御に貢献します。
感染症タイプ | 適応患者 |
院内感染 | 入院中の重症患者 |
人工呼吸器関連肺炎 | 長期人工呼吸管理中の患者 |
複雑性尿路感染症患者
ドリペネムは複雑性尿路感染症の患者にも適応があり、特に腎盂腎炎や尿路閉塞を伴う感染症患者に対して使用し、これらの患者では通常の抗菌薬が効きにくい耐性菌による感染のリスクが高いため、ドリペネムのような強力な抗菌薬が治療効果を発揮します。
- 腎盂腎炎患者
- 尿路結石による閉塞性腎盂腎炎患者
- カテーテル関連尿路感染症患者
- 前立腺炎を伴う複雑性尿路感染症患者
尿路感染症の既往がある患者や泌尿器科的処置後の感染リスクが高い患者もドリペネムの適応対象となり、再発予防や治療に役立ちます。
腹腔内感染症患者
ドリペネムは腹腔内感染症の治療にも用いられ、特に複雑性腹腔内感染症や腹膜炎の患者が対象となり、これらの感染症では複数の細菌が関与していることが多いため、ドリペネムの広域スペクトラムが効果的に作用し、多様な病原体に対応します。
術後感染や医療関連感染のリスクが高い患者においてもドリペネムは予防的または治療的に使用され、感染症の発症や進行を抑制する役割を果たします。
腹腔内感染症タイプ | 適応患者 |
複雑性腹腔内膿瘍 | 外科的ドレナージ後の患者 |
穿孔性腹膜炎 | 消化管穿孔のある患者 |
免疫不全患者
ドリペネムは免疫機能が低下している患者の感染症治療にも使用され、特に好中球減少症を伴う発熱性患者が対象となり、これらの患者では重症感染症のリスクが高く、早期からの強力な抗菌薬治療が感染症の重症化を防ぐ上で重要な役割を果たします。
HIV感染症患者や長期ステロイド療法中の患者など、さまざまな原因で免疫機能が低下している方々もドリペネムの適応対象となり、日和見感染症のリスク軽減に寄与します。
免疫不全状態 | 適応患者 |
好中球減少症 | 化学療法後の患者 |
臓器移植後 | 免疫抑制剤使用中の患者 |
多剤耐性菌感染症患者
ドリペネムは多剤耐性菌による感染症患者に対しても使用され、特にESBL産生菌やAmpC型β-ラクタマーゼ産生菌による感染症の患者が対象となり、これらの耐性菌は通常の抗菌薬に耐性を示すため、ドリペネムのような強力なカルバペネム系抗菌薬が治療の中心的役割を担います。
多剤耐性緑膿菌や多剤耐性アシネトバクター属菌による感染症患者もドリペネムの治療対象となり、難治性感染症の制御に貢献します。
耐性菌タイプ | 適応患者 |
ESBL産生菌 | 既存の抗菌薬治療が無効な患者 |
AmpC型β-ラクタマーゼ産生菌 | 第三世代セフェム系耐性菌感染患者 |
高齢者および合併症を有する患者
ドリペネムは高齢者や複数の合併症を持つ患者にも使用されますが、これらの患者では薬物動態が変化している可能性があるため慎重な投与が求められ、特に腎機能低下を伴う高齢者では投与量の調整が感染症治療の成功に不可欠な要素となります。
- 慢性呼吸器疾患を有する高齢者
- 糖尿病性腎症を伴う感染症患者
- 心不全と肺炎を合併した患者
- 長期臥床による誤嚥性肺炎リスクの高い患者
これらの患者では感染症の重症化リスクが高く、早期からのドリペネム投与が感染症の進行を防ぐ上で大切であり、適切な用量調整と慎重なモニタリングにより、効果的かつ安全な治療を実現することができます。
治療期間
ドリペネム水和物(フィニバックス)の投与期間における臨床的判断ポイント
感染症別の適正投与期間
ドリペネム水和物の治療期間は、各感染症の性質や患者の状態によって柔軟に設定します。
軽度から中等度の感染症では通常5〜7日間の投与で効果を発揮しますが、重症例や難治性感染症では2週間以上の長期投与を要する場合もあります。
呼吸器感染症においては、市中肺炎で7〜10日間、院内肺炎では10〜14日間の投与を推奨します。
感染症の重症度 | 推奨投与期間 |
軽度 | 5〜7日間 |
中等度 | 7〜10日間 |
重症 | 10〜14日間 |
尿路感染症の場合、複雑性膀胱炎では5〜7日間、腎盂腎炎では10〜14日間の投与が一般的となります。
臨床経過に基づく投与期間の最適化
ドリペネム水和物の投与期間決定には、患者の症状改善度と各種検査データの推移を綿密に追跡することが鍵となります。
発熱パターンや炎症マーカーの変動、血液培養の結果などを総合的に評価し、適切なタイミングで治療終了を判断します。
体温の正常化、CRPなどの炎症指標の低下、白血球数の正常範囲内への回復、血液培養の陰性化などが確認できた時点で、投与終了を検討します。
一方、臨床症状の改善が乏しい場合や炎症反応が遷延する際には、投与期間の延長を考慮します。
臨床指標 | 改善目安 |
体温 | 37.5℃未満が1日以上持続 |
CRP | 治療開始時の30%以下に低下 |
白血球数 | 4,000〜9,000/μL |
耐性菌発現リスクを考慮した投与期間設定
抗菌薬の長期使用は耐性菌出現のリスクを高めるため、必要以上の投与期間延長は避けます。
特にドリペネム水和物のようなカルバペネム系抗菌薬は広域スペクトラムを有するため、耐性菌選択のリスクが高いことを念頭に置きます。
ある医師の臨床経験では、投与期間を適切に管理することで、耐性菌の出現を最小限に抑えつつ、治療効果を最大限に引き出せた症例を数多く経験しています。
- 7日以内の投与期間は耐性菌のリスクが比較的低い
- 8〜14日の投与では中程度のリスクがある
- 15日以上の長期投与では耐性菌出現のリスクが高まる
特殊条件下での投与期間調整
免疫機能が低下した患者や重症敗血症などの複雑な病態では、通常より長い投与期間が求められます。
骨髄移植後の患者や好中球減少を伴う血液疾患患者では、感染のコントロールに時間を要するため、14日間以上の投与を必要とします。
特殊病態 | 標準的投与期間 |
好中球減少性発熱 | 14〜21日間 |
重症敗血症 | 14日間以上 |
人工呼吸器関連肺炎 | 14〜21日間 |
発熱性好中球減少症(好中球数500/μL未満)、ショック状態を伴う重症敗血症、人工呼吸器関連肺炎(VAP)などの病態では、個々の患者の状態を慎重に評価しながら投与期間を決定します。
これらの特殊な状況下では、感染源のコントロールや全身状態の改善が得られるまで、柔軟な投与期間の延長を検討します。
フィニバックスの副作用と安全性に関する重要知見
胃腸障害の発現と対策
ドリペネム水和物の投与後、患者の一部に消化器系の不快感が生じます。
主に軽度の吐き気や嘔吐、便通異常などの症状が報告されており、これらは一時的な性質を持つことが多く、服薬を継続しながら対症療法で改善する傾向にあります。
胃腸症状 | 発現率 |
吐き気 | 6-11% |
嘔吐 | 4-8% |
下痢 | 5-9% |
腹部不快感 | 3-6% |
ただし、重篤な消化器症状が長引く場合には、投薬の中止を含めた治療方針の見直しを検討します。
過敏反応と皮膚症状
ドリペネム水和物はβラクタム系抗菌薬の一種であるため、アレルギー反応を誘発する可能性を有します。
軽微な発疹やかゆみから、まれに生命を脅かすアナフィラキシーショックまで、幅広い過敏症状が観察されています。
- 全身性蕁麻疹
- 顔面浮腫
- 呼吸困難感
- 血圧低下
特に、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬でアレルギー歴のある患者には細心の注意を払います。
ある医師の臨床現場では、徹底したアレルギー歴の聴取と慎重な投与開始により、深刻なアレルギー反応を効果的に予防できた事例を多数経験しています。
肝腎機能への影響と監視体制
ドリペネム水和物は主に腎排泄型の薬剤であるため、腎機能が低下した患者では血中濃度が上昇し、副作用のリスクが増大します。
一方、肝機能への直接的な影響は比較的軽微ですが、稀に肝機能障害を発症します。
肝機能指標 | 異常値出現頻度 |
AST上昇 | 3-6% |
ALT上昇 | 4-7% |
ALP上昇 | 2-4% |
T-Bil上昇 | 1-3% |
腎機能低下患者に対しては、クレアチニンクリアランスに応じた適切な投与量調整が重要となります。
定期的な肝腎機能検査を実施し、異常値の早期発見に努めます。
血液学的副作用の監視
ドリペネム水和物の投与により、様々な血液学的な変化が生じる場合があります。
白血球減少症や好中球減少症、貧血、血小板減少症などが報告されており、これらの副作用は大半が可逆的であり、投薬中止により回復します。
しかしながら、重度の血球減少が発生すると、感染リスクの上昇や出血傾向など、二次的な健康被害を招く恐れがあります。
- 定期的な血球数モニタリング
- 感染徴候の早期発見
- 出血傾向の観察
血液学的異常 | 発生率 |
好中球減少 | 3-5% |
貧血 | 2-3% |
血小板減少 | < 2% |
リンパ球減少 | 1-2% |
耐性菌出現のリスクと対策
ドリペネム水和物を含むカルバペネム系抗菌薬の不適切な使用は、耐性菌の出現を助長します。
特に、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の増加は、臨床現場に深刻な影響を与えています。
耐性菌対策は個々の患者のみならず、医療機関全体、さらには公衆衛生上の重大な課題となっています。
- エンピリック治療の適正化
- 培養結果に基づいた的確な抗菌薬選択
- 最小有効期間での投与終了
適切な抗菌薬スチュワードシップの実践により、耐性菌出現のリスクを最小限に抑えることが極めて重要です。
代替治療薬
同系統薬への移行
ドリペネム水和物による治療が期待通りの効果を示さない場合、同じカルバペネム系に属する他の抗菌薬へ切り替えるのが一般的な対応策です。
メロペネムやイミペネム/シラスタチンなどが代表的な選択肢となり、対象となる細菌の感受性パターンや患者の全身状態を総合的に判断して最適な薬剤を選びます。
代替薬 | 特性 |
メロペネム | 緑膿菌に高い抗菌力 |
イミペネム | グラム陽性球菌にも有効 |
これらの薬剤はドリペネム水和物と類似した広域スペクトラムを持ちながら、微妙に異なる抗菌プロファイルを示すため、耐性菌の可能性も視野に入れつつ、最新の培養検査結果を参照しながら選択することが肝要です。
キノロン系抗菌薬の活用
カルバペネム系全般に抵抗性を示す感染症例では、作用機序の異なるキノロン系抗菌薬への転換が検討されます。
レボフロキサシンやシプロフロキサシンが代表的な選択肢で、その特徴的な性質を活かした使用法を模索します。
- 幅広い抗菌スペクトラム
- 優れた組織浸透性
- 静脈内投与と経口投与の両オプション
感染の重症度や局在に応じて、最適な投与ルートと用量を設定します。
薬剤 | 主たる適応 |
レボフロキサシン | 肺炎、複雑性尿路感染症 |
シプロフロキサシン | 腸管感染、皮膚軟部組織感染 |
ただし、近年のキノロン耐性菌の台頭を考慮し、使用には十分な配慮が求められます。
グリコペプチド系薬剤の導入
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの難治性グラム陽性球菌感染が疑われる状況では、バンコマイシンやテイコプラニンといったグリコペプチド系抗菌薬の投入を考慮します。
これらの薬剤は主にグラム陽性菌に対して卓越した殺菌効果を発揮し、特にMRSAに対する第一選択薬として広く認知されています。
ある医師の臨床経験では、重症MRSAによる肺炎患者にバンコマイシンを適切な血中濃度管理下で使用し、劇的な改善を得られた印象的な症例があります。
- 血中濃度モニタリングの実施
- 腎機能に応じた用量調整
- 投与期間の適切な設定
これらのポイントに留意しながら、慎重な投与管理を行うことが治療成功の鍵となります。
併用療法の検討
単剤での治療効果が芳しくない場合、複数の抗菌薬を組み合わせた併用療法へのシフトを検討します。
β-ラクタム系とアミノグリコシド系の組み合わせや、カルバペネム系とポリミキシン系の併用など、様々な組み合わせパターンが考えられます。
併用例 | 期待効果 |
メロペネム+アミカシン | 緑膿菌への相乗作用 |
イミペネム+コリスチン | 多剤耐性菌への対応力向上 |
このアプローチにより、相乗的な抗菌効果や耐性菌への対処能力の向上が期待できますが、同時に副作用リスクも増大するため、患者の全身状態を綿密にモニタリングしながら慎重に使用することが大切です。
新世代MRSA治療薬の選択
従来のバンコマイシンに加え、近年では新たな作用機序を持つ抗MRSA薬も臨床応用されています。
リネゾリドやダプトマイシン、テジゾリドなどがその代表例で、これらは従来薬とは異なるメカニズムで抗菌作用を示し、耐性菌への対応力や特定の組織への移行性に優れた特徴を持ちます。
薬剤 | 特徴 |
リネゾリド | 経口投与可能、肺組織への高い移行性 |
ダプトマイシン | 強力な殺菌作用、腎機能障害患者でも使用可能 |
感染部位の特性や患者の背景因子を総合的に評価し、症例ごとに最適な薬剤を選択することが重要です。
これらの新世代薬剤は、従来の治療に抵抗性を示すMRSA感染症に対する新たな選択肢として、臨床現場に大きな希望をもたらしています。
ドリペネム水和物(フィニバックス)の併用禁忌と相互作用
抗てんかん薬との危険な相互作用
ドリペネム水和物とバルプロ酸ナトリウムの同時投与は、極めて危険な組み合わせとして認識されています。
この併用により、バルプロ酸の血中濃度が急速に低下し、てんかん発作の制御不能や重篤な症状の再燃を引き起こす可能性が非常に高くなります。
薬剤 | 主な治療対象 |
バルプロ酸Na | てんかん、双極性障害 |
ドリペネム | 重症細菌感染症 |
てんかんや気分障害の既往歴を持つ患者にドリペネム水和物を使用する際には、現在の抗てんかん薬使用状況を徹底的に確認し、代替薬の検討や慎重な経過観察が求められます。
尿酸排泄促進薬との相互作用リスク
ドリペネム水和物とプロベネシドを併用すると、腎尿細管における排泄競合が生じ、ドリペネムの血中濃度が予想以上に上昇する危険性があります。
この相互作用は、副作用発現リスクを著しく高めるため、原則として避けるべき組み合わせです。
痛風や高尿酸血症の既往がある患者に対しては、尿酸値のコントロール状況や使用中の薬剤を十分に確認し、必要に応じて代替的な感染症治療戦略を検討します。
相互作用 | 臨床的影響 |
薬物動態学的 | ドリペネム血中濃度上昇 |
薬力学的 | 副作用リスク増大 |
避妊薬の効果減弱に関する警鐘
ドリペネム水和物を含むβ-ラクタム系抗菌薬は、経口避妊薬の有効性を低下させる可能性が指摘されています。
抗菌薬による腸内細菌叢の変化が、エストロゲンの腸肝循環を阻害することで、避妊効果の減弱や予期せぬ出血を招く恐れがあります。
- 避妊効果の低下リスク
- 不正性器出血の発生頻度上昇
このため、抗菌薬治療期間中は、コンドームなどの別の避妊方法を併用するなど、特別な配慮が不可欠となります。
避妊法 | 抗菌薬併用時の注意点 |
ピル | 効果減弱の可能性あり |
バリア法 | 併用を強く推奨 |
腎毒性増強のリスク
ドリペネム水和物とアミノグリコシド系抗菌薬の併用は、相乗的な抗菌効果が期待できる反面、腎機能障害のリスクを著しく高めます。
特に高齢者や既存の腎機能低下がある患者では、この組み合わせに対して極めて慎重な姿勢が求められます。
併用が避けられない場合、腎機能パラメータの頻回なチェックと血中薬物濃度の厳密な管理が必須となり、患者の全身状態を綿密にモニタリングしながら投与を進めることが重要です。
免疫抑制剤との複雑な相互作用
ドリペネム水和物と免疫抑制剤の併用は、臓器移植後や自己免疫疾患患者の感染症治療において避けられないシチュエーションが多々ありますが、両者の相互作用には細心の注意を払う必要があります。
特にシクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害剤との併用では、薬物動態の変動が顕著となる場合があります。
- 免疫抑制剤の血中濃度変動リスク
- 感染症増悪の危険性
抗菌薬による腸内細菌叢の撹乱が、免疫抑制剤の代謝に予期せぬ影響を及ぼす可能性があるため、慎重な経過観察が求められます。
免疫抑制剤 | モニタリング指標 |
シクロスポリン | 血中トラフ濃度 |
タクロリムス | 血中トラフ濃度 |
併用療法を行う際には、頻回な血中濃度測定と、それに基づいた迅速な用量調整が不可欠となります。
患者の免疫状態と感染症の重症度を総合的に評価しながら、慎重に治療を進めていく姿勢が重要です。
薬価
ドリペネム水和物の公定価格は、250mgの瓶1本につき762円と設定されており、この金額は同系統の抗菌薬と比べると中程度の位置づけとなっています。
商品名 | 含有量 | 公定価格 |
フィニバックス | 250mg/瓶 | 762円 |
フィニバックス | 500mg/瓶 | 972円 |
処方期間による総額
7日間の治療では、1日3回の投与で合計16,002円の費用が発生し、これが1か月に及ぶと68,580円まで膨らみます。
- 1日あたりの使用回数3回
- 1回の使用量250mg
治療期間 | 合計金額 |
7日間 | 16,002円 |
30日間 | 68,580円 |
ジェネリック医薬品との比較
現時点で、ドリペネム水和物のジェネリック版は市場に出回っていません。
将来的な発売の見込みはあるものの、具体的な時期については未定となっています。
比較項目 | オリジナル | ジェネリック |
公定価格 | 762円 | 未発売 |
製品名称 | フィニバックス | 該当なし |
なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文