イノバン(ドパミン塩酸塩)とは、心臓や血管に作用して循環器系の機能を改善する重要な呼吸器治療薬です。

この薬は体内で自然に産生されるドパミンという物質と同じ働きをする合成薬で、主に重症の心不全や循環不全の患者さんに使用されます。

血管を拡張させて心臓の収縮力を高めることで全身への血液循環を改善する効果があり、その結果呼吸器系の機能も向上して患者さんの症状緩和に貢献します。

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有効成分と作用機序および効果について

ドパミン塩酸塩の特性と構造

イノバンの有効成分であるドパミン塩酸塩はカテコールアミン類に属する化合物で、生体内で自然に産生されるドパミンと同一の化学構造を持つ合成薬です。

この物質は中枢神経系において重要な神経伝達物質としての役割を果たすだけでなく末梢においても循環器系に対して顕著な作用を示します。

項目詳細
化学名3,4-ジヒドロキシフェネチルアミン塩酸塩
分子式C8H11NO2・HCl
分子量189.64

ドパミン塩酸塩の化学構造は カテコール骨格とエチルアミン側鎖から成り、これが受容体との結合や薬理作用の基盤となっています。

ドパミン受容体を介した作用機序

ドパミン塩酸塩の作用機序は主にドパミン受容体との相互作用を通じて発現します。

体内には複数のドパミン受容体サブタイプが存在し、それぞれが異なる生理学的反応を引き起こすことが知られています。

受容体サブタイプ主な作用
D1血管拡張 腎血流増加
D2神経伝達調節 末梢血管収縮
D3 D4 D5様々な中枢・末梢作用

イノバンは これらの受容体に結合することで心臓や血管系に対して複合的な効果をもたらします。

低用量では主にドパミン受容体を刺激して腎血流量の増加や利尿作用を促進します。

一方高用量になるとβ1アドレナリン受容体も活性化され、心筋収縮力の増強や心拍数の上昇といった変化が生じます。

循環動態に対する効果

イノバン投与による循環動態への影響は多岐にわたります。

  • 心筋収縮力の増強
  • 心拍出量の増加
  • 腎血流量の改善
  • 尿量の増加

これらの作用が相まって全身の血液循環が改善されて組織への酸素供給が増加し、結果として重症心不全や循環不全状態にある患者さんの症状緩和に寄与することが可能となります。

効果作用機序
心収縮力増強β1受容体刺激
腎血流増加D1受容体刺激
末梢血管調節D2受容体刺激
利尿促進腎灌流圧上昇

臨床応用と投与量依存性

イノバンの臨床効果は投与量に応じて変化することが特徴的です。

低用量域では腎血流量の増加が主体で中等量では心収縮力増強効果が顕著となり、高用量になると末梢血管収縮作用も加わり血圧上昇効果が現れます。

投与量主な臨床効果
低用量腎血流増加 利尿促進
中等量心収縮力増強 心拍出量増加
高用量血圧上昇 末梢血管収縮

この用量依存性の特性を理解して適切な投与量を選択することが治療効果を最大化する上で不可欠です。

以下はイノバンの代表的な臨床応用例です。

  • 心原性ショック
  • 急性心不全
  • 開心術後の循環不全
  • 腎機能低下を伴う慢性心不全

これらの病態においてイノバンは循環動態の改善や臓器機能の維持に重要な役割を果たします。

使用方法と注意点

投与経路と調製方法

イノバン(ドパミン塩酸塩)は主に静脈内投与で使用される薬剤です。

通常点滴静注の形で投与されることが多く、持続的な血中濃度の維持が必要となります。

投与経路特徴
点滴静注最も一般的 血中濃度の調整が容易
中心静脈投与高濃度投与時に使用

調製の際には生理食塩液やブドウ糖液などの輸液に希釈して使用します。

希釈濃度は患者さんの状態や必要な投与速度に応じて調整されますが、一般的に0.1%~0.3%の範囲内で準備されることが多いです。

投与量の設定と調整

イノバンの投与量は患者さんの病態や反応性に応じて慎重に設定する必要があります。

通常では1~5μg/kg/分の範囲で開始し、効果と副作用を観察しながら適宜増減します。

投与量主な効果
1~2μg/kg/分腎血流量増加
2~10μg/kg/分心収縮力増強
10μg/kg/分以上末梢血管収縮

投与中は心拍数・血圧・尿量などのバイタルサインを継続的にモニタリングし、目標とする血行動態が得られるまで徐々に用量を調整していきます。

効果が不十分な場合は段階的に増量を検討しますが、20μg/kg/分を超える高用量投与時には副作用のリスクが高まるため特に注意が必要です。

併用薬との相互作用

イノバンは他の循環作動薬と併用されることが多いため、相互作用に留意することが重要です。

  • β遮断薬との併用では効果が減弱する可能性がある
  • MAO阻害薬との併用で過度の昇圧反応が起こることがある

これらの薬剤を使用中の患者さんにイノバンを投与する際は慎重な観察と用量調整が不可欠となります。

併用薬相互作用
β遮断薬効果減弱
MAO阻害薬昇圧作用増強
利尿薬利尿作用増強

投与中のモニタリング項目

イノバン投与中は患者さんの全身状態を注意深く観察し、適切な治療効果が得られているかを評価する必要があります。

以下は主なモニタリング項目です。

モニタリング項目評価ポイント
血圧過度の上昇や低下がないか
心拍数頻脈や不整脈の有無
尿量腎灌流の指標として

これらの指標を総合的に判断し、必要に応じて投与速度の調整や他の治療法の追加を検討します。

投与中止時の注意点

イノバンの突然の中止は急激な血圧低下や心不全症状の悪化を招く恐れがあるため、原則は段階的な減量が推奨されます。

減量のペースは患者さんの状態に応じて個別に設定しますが、一般的に10~30分ごとに25%ずつ減量していくことが多いです。

減量ステップ目安
1段階25%減量
2段階50%減量
3段階75%減量

私が経験した症例では急性心不全で入院した60代男性患者さんにイノバンを使用した際、徐々に心機能が改善したので投与量を減らしていきました。

しかし最終段階で少し急ぎすぎたため一時的に血圧が低下しました。

この経験から特に最後の減量段階ではより慎重に進める必要があることを学びました。

投与中止後もしばらくの間は患者さんの状態を綿密に観察して再投与の必要性がないか見極めることが大切です。

適応対象となる患者

急性循環不全を呈する患者

イノバン(ドパミン塩酸塩)は主に急性循環不全の状態にある患者さんに対して使用される薬剤です。

急性循環不全とは心臓のポンプ機能が急激に低下し全身への血液供給が不十分となった状態を指します。

このような状況下では組織への酸素供給が著しく減少し、生命を脅かす危険性があるため迅速かつ効果的な対応が求められます。

症状特徴
低血圧収縮期血圧90mmHg未満
乏尿尿量0.5mL/kg/時未満
末梢冷感四肢末端の冷たさ
意識障害軽度の錯乱から昏睡まで

イノバンの投与対象となる急性循環不全の患者さんには 以下のような状態が含まれます。

  • 心原性ショック
  • 敗血症性ショック
  • 出血性ショック
  • 急性心不全の増悪

これらの状態では心臓の収縮力低下や末梢血管の拡張、腎血流量の減少などが生じているためイノバンの薬理作用が有効となる可能性が高いです。

心臓手術後の循環動態不安定な患者

心臓手術を受けた直後の患者さんは循環動態が不安定になることが少なくありません。

手術による心筋への直接的な影響や人工心肺使用による全身性炎症反応、出血による循環血液量の減少など 様々な要因が複合的に作用して心機能の一時的な低下を引き起こすことがあります。

このような患者さんに対してイノバンは心臓の収縮力を改善して適切な血圧と臓器灌流を維持するために使用されます。

手術の種類イノバン使用の可能性
冠動脈バイパス術高い
弁置換・形成術高い
大動脈手術中程度
先天性心疾患修復術中程度

心臓手術後の患者さんにおけるイノバンの使用は個々の症例の重症度や術後経過によって判断されますが 一般的に以下のような状況で考慮されます。

  • 低心拍出量症候群
  • 術後の遷延性低血圧
  • 腎機能低下を伴う循環不全

これらの状況下ではイノバンの投与により心機能の改善と臓器灌流の維持が期待されます。

慢性心不全の急性増悪期にある患者

慢性心不全を有する患者さんが急性増悪を来した際にイノバンの使用が検討されることがあります。

慢性心不全の急性増悪は様々な要因によって引き起こされ患者さんの状態を急速に悪化させる可能性のある重大な病態です。

このような状況下では心臓のポンプ機能が著しく低下して肺うっ血や全身の浮腫、呼吸困難などの症状が顕著となります。

急性増悪の要因頻度
感染症高い
不整脈中程度
過度の塩分・水分摂取中程度
薬物療法の中断低い

イノバンはこのような急性増悪期にある患者さんの循環動態を改善し、症状の軽減と全身状態の安定化を図るために使用されます。

特に次のような状態にある患者さんがイノバンの投与対象となる可能性が高いでしょう。

  • 低血圧を伴う重症心不全
  • 利尿薬抵抗性の体液貯留
  • 腎機能障害を合併した心不全

これらの患者さんに対してはイノバンの心収縮力増強作用と腎血流改善効果が有益となる場合があります。

ショック状態にある重症患者

ショックとは全身の組織への血液供給が著しく低下した危機的な状態を指し、イノバンの重要な適応対象となります。

ショック状態にある患者さんでは血圧の低下・末梢循環不全・代謝性アシドーシスなどが生じ、早急な対応が必要となるのです。

イノバンはこのような重症患者さんの循環動態を改善し、生命維持に不可欠な臓器への血流を確保するために使用されます。

ショックの種類主な原因
心原性ショック急性心筋梗塞 重症不整脈
敗血症性ショック重症感染症
出血性ショック大量出血
血液分布異常性ショックアナフィラキシー

ショック状態にある患者さんのうちイノバンの投与が考慮されるのは主に以下のような場合です。

  • 輸液療法に反応しない低血圧
  • 乏尿や無尿を伴う腎灌流低下
  • 意識レベルの低下を伴う脳血流低下

これらの状況下ではイノバンの投与により血圧の上昇と臓器灌流の改善が期待されます。

治療期間と予後

急性期における治療期間

イノバン(ドパミン塩酸塩)は主に急性期の循環不全に対して使用される薬剤で、その治療期間は患者さんの状態や原疾患の改善度合いによって大きく異なります。

一般的に急性心不全やショック状態などの緊急時には数時間から数日間の短期間投与が行われることが多いです。

この間患者さんの循環動態を綿密にモニタリングしながら投与量の調整や他の治療法との併用が検討されます。

病態一般的な治療期間
急性心不全24〜72時間
心原性ショック48〜96時間
敗血症性ショック24〜120時間
術後循環不全12〜48時間

治療効果が現れ循環動態が安定してきた段階でイノバンの漸減や中止が検討されます。

しかし状態の改善が見られない場合や原疾患の治療に時間を要する際には、より長期の投与が必要となることもあります。

長期投与における注意点

イノバンの長期投与に関しては慎重な判断が求められます。

通常急性期を脱した後は経口薬への切り替えや他の治療法への移行が検討されますが、一部の症例では長期投与が避けられない状況も存在します。

長期投与を行う際には次のような点に特に注意を払わなければなりません。

  • 耐性の発現
  • 副作用の蓄積
  • 電解質バランスの変動
  • 末梢組織の虚血リスク
投与期間主な注意点
1週間以内急性副作用の監視
1〜4週間耐性発現の評価
1ヶ月以上長期的な安全性確認

長期投与を行う場合でも定期的な効果判定と減量・中止の可能性を検討することが大切です。

予後に与える影響

イノバンによる治療が患者さんの予後に与える影響は重症度や治療開始のタイミングなど多くの因子に左右されます。

適切なタイミングでイノバンを使用することで循環動態の早期改善や臓器障害の進行防止が期待でき、結果として予後の改善につながる可能性が広がるでしょう。

一方でイノバンに過度に依存することは長期的には予後を悪化させる要因となりうるため注意が必要です。

予後改善因子予後悪化因子
早期介入治療開始の遅延
適切な用量設定過量投与
原因疾患の改善原疾患の進行
他の治療法との併用イノバン依存

イノバン治療後の予後を左右する要素として以下のようなものが挙げられます。

  • 原疾患の種類と重症度
  • 治療開始までの時間
  • 併存疾患の有無
  • 年齢や全身状態

これらの要素を総合的に評価し、個々の患者さんに最適な治療戦略を立てることが予後改善につながると考えられます。

長期予後の評価指標

イノバンによる急性期治療を経た患者さんの長期予後を評価する上でいくつかの重要な指標があります。

以下のような指標を用いることで治療効果の持続性や患者さんのQOL改善度を客観的に評価することが可能です。

評価指標内容
再入院率6ヶ月以内の再入院頻度
生存率1年 3年 5年生存率
心機能改善度左室駆出率の変化
QOLスコア日常生活動作の自立度

また、イノバン治療後の長期予後を改善するためには以下のような取り組みが重要です。

  • 定期的な外来フォローアップ
  • 適切な薬物療法の継続
  • 生活習慣の改善指導
  • 再発リスクの早期発見と対応

これらの取り組みを通じて急性期の治療効果を長期的に維持し、患者さんのQOL向上につなげることが可能となります。

ある医師の臨床経験では70代の重症心不全患者さんにイノバンを使用した症例があります。

急性期には著明な改善を示しましたが、長期予後を考慮し早期からリハビリテーションを導入しました。その結果退院後も良好な心機能を維持し、3年間再入院することなく過ごすことができました。

この経験からイノバン治療後の長期的なケアの重要性を実感しました。

副作用とデメリット

循環器系への影響

イノバン(ドパミン塩酸塩)は循環動態を改善する一方で様々な副作用を引き起こす可能性があります。

特に循環器系への影響は顕著で投与量や患者の状態によって異なる症状が現れることがあります。

高用量投与時には頻脈や不整脈のリスクが高まり心筋酸素消費量の増大につながる恐れが生じるのです。

副作用発現頻度
頻脈高い
不整脈中程度
狭心症様症状低い
高血圧中程度

これらの副作用は投与量の調整や他の薬剤との併用によって管理されることが多いですが、時として治療の中断を余儀なくされる場合もあるでしょう。

また長期投与によって耐性が生じ、効果が減弱することも循環器系への影響として考慮すべき点です。

末梢循環障害

イノバンの投与は末梢循環に影響を与え、特に高用量投与時には末梢血管収縮作用が顕著となります。

この作用により四肢末端の虚血や壊死が生じるリスクが高まります。末梢循環障害に関連する主な症状は次のようなものです。

  • 四肢冷感
  • チアノーゼ
  • 皮膚潰瘍
  • 壊疽
部位症状
指趾冷感 色調変化
皮膚蒼白 潰瘍形成
腸管虚血性腸炎
腎臓腎血流低下

これらの症状は投与中止後に改善することが多いですが、重症例では不可逆的な組織障害を引き起こす可能性があります。

そのため末梢循環の状態を注意深く観察し早期発見・早期対応をしなければなりません。

内分泌系への影響

イノバンはドパミン受容体を介して内分泌系にも影響を与えます。

特に下垂体前葉からのプロラクチン分泌抑制作用が知られており、これにより様々な内分泌学的変化が生じる可能性があります。

主な内分泌系への影響は以下のとおりです。

影響症状
プロラクチン低下乳汁分泌抑制
甲状腺機能変化TSH分泌異常
成長ホルモン変動成長への影響
性腺機能変化性ホルモンバランス異常

これらの影響は通常一過性で投与中止後に正常化することが多いですが、長期投与時には持続的な内分泌機能変化を引き起こす恐れがあります。

特に成長期の小児や妊婦への投与には慎重な判断が求められます。

消化器系の副作用

イノバンの投与は消化器系にも影響を及ぼし様々な症状を引き起こす可能性があります。

消化器系の副作用は比較的頻度が低いものの患者さんのQOLに大きな影響を与えることがあるため注意が必要です。

主な消化器系の副作用は以下のようなものです。

症状発現機序
悪心・嘔吐化学受容体刺激
腹痛腸管血流変化
下痢腸管運動亢進
食欲不振中枢性作用

これらの症状は投与量の調整や制吐剤の併用などによって軽減できることが多いですが、重症例では治療の継続が困難となる場合もでてきます。

特に長期投与時には消化器症状による栄養状態の悪化に注意を払う必要があります。

薬物相互作用によるデメリット

イノバンは他の薬剤と併用される機会が多く、その際に様々な薬物相互作用が生じる可能性があります。

これらの相互作用は時として予期せぬ副作用や治療効果の減弱をもたらすことがあるため慎重な薬剤選択と用量調整が求められます。

以下は主な薬物相互作用とそのリスクです。

併用薬相互作用
β遮断薬効果減弱 血圧変動
MAO阻害薬高血圧クリーゼ
フェノチアジン系薬剤相互作用による効果減弱
利尿薬電解質異常悪化

これらの相互作用を回避するためには患者さんの服用薬剤を十分に把握し、必要に応じて代替薬の検討や用量調整を行うことが大切です。

またイノバンの投与中は他の薬剤の追加や変更に際して 細心の注意を払わなければなりません。

ある医師の臨床経験では70代の心不全患者さんにイノバンを投与した際に既存のβ遮断薬との相互作用により予想以上の血圧低下が生じたことがあります。

この経験から併用薬の影響を慎重に評価して段階的な用量調整の重要性を再認識しました。

薬物相互作用は時として予測困難な事態を引き起こすため常に警戒心を持って患者さんを観察することが不可欠です。

代替治療薬

ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)

イノバンの効果が不十分である際にはノルアドレナリンが代替薬として考慮されることがあります。

ノルアドレナリンは強力な血管収縮作用を持ち低血圧の改善に効果的で、特に敗血症性ショックなど 末梢血管拡張が顕著な状態で使用が推奨されることが多いです。

特徴効果
α受容体親和性強力な血管収縮
β受容体親和性軽度の心収縮力増強
作用発現速やか
半減期短い

ノルアドレナリンは主に持続静注で投与され、血圧の上昇や臓器灌流の改善を目的として使用されます。

ただし過度の末梢血管収縮による臓器虚血のリスクがあるため慎重な投与量調整が必要です。

ドブタミン

ドブタミンはイノバンと同じカテコラミン系薬剤ですが、より選択的なβ1受容体作用を有します。

イノバンで十分な心収縮力増強が得られない場合にはドブタミンへの切り替えや併用が検討されます。

ドブタミンの主な特徴と効果は以下の通りです。

投与量主な効果
低用量心収縮力増強
中用量心拍出量増加
高用量頻脈リスク上昇

ドブタミンは特に低心拍出量症候群や心原性ショックの患者さんに有効とされ、イノバンよりも強力な強心作用が期待できます。

しかし頻脈や不整脈のリスクが高いため心筋虚血のある患者さんへの使用には注意が必要です。

ミルリノン

ミルリノンはホスホジエステラーゼIII阻害薬に分類され、イノバンとは異なる作用機序を持つ強心薬です。

カテコラミン系薬剤に反応が乏しい場合や長期使用による耐性が生じた際の代替薬として使用されることがあるでしょう。

ミルリノンの主な作用と特徴は次の通りです。

作用効果
心収縮力増強細胞内カルシウム濃度上昇
血管拡張前負荷・後負荷軽減
持続時間比較的長い
耐性生じにくい

ミルリノンは特に以下のような状況で選択されることが多いです。

  • カテコラミン不応性の重症心不全
  • β遮断薬使用中の急性心不全
  • 肺高血圧を伴う右心不全

ただし腎機能障害のある患者さんでは投与量の調整が必要であり、低血圧や不整脈のリスクにも注意が必要です。

バソプレシン

バソプレシンはイノバンとは全く異なる作用機序を持つホルモン製剤です。

特に敗血症性ショックなどカテコラミン不応性の血管拡張性ショックに対して使用されることがあります。

バソプレシンの主な効果と特徴は以下の通りです。

効果機序
血管収縮V1受容体刺激
腎集合管作用V2受容体刺激
カテコラミン感受性増強相乗効果
副腎皮質刺激コルチゾール分泌促進

バソプレシンは通常低用量で持続静注され、他の昇圧薬との併用で使用されることが多いです。

特に次のような状況でバソプレシンの使用が考慮されます。

  • カテコラミン高用量投与にもかかわらず血圧が維持できない場合
  • カテコラミンによる頻脈が問題となっている場合
  • 相対的バソプレシン欠乏状態が疑われる場合

ただそ心停止・重症の冠動脈疾患・腸管虚血のリスクが高い患者さんでは慎重な投与が必要です。

レボシメンダン

レボシメンダンはカルシウム感受性増強薬という新しいクラスの強心薬で、イノバンとは異なる作用機序を持ちます。

心筋収縮タンパクのカルシウム感受性を高めることで心収縮力を増強させる効果があります。

レボシメンダンの主な特徴は以下の通りです。

  • 心収縮力増強作用
  • 血管拡張作用
  • 抗虚血作用
  • 抗炎症作用
投与方法特徴
初回負荷投与迅速な効果発現
持続静注24時間程度
長時間作用代謝物の効果

レボシメンダンは特に以下のような状況で使用が検討されることがあります。

  • β遮断薬使用中の急性心不全
  • 虚血性心疾患を伴う心不全
  • 周術期の心機能低下

ただし重度の腎機能障害や肝機能障害のある患者さんでは慎重な投与が必要です。また低血圧や頻脈のリスクがあるため血行動態のモニタリングが大切です。

併用禁忌

モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)との相互作用

イノバン(ドパミン塩酸塩)とモノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)の併用は重大な相互作用のリスクがあるため厳重に禁忌とされています。

MAOIはドパミンの分解を阻害するためイノバンとの併用によってドパミンの作用が過度に増強される可能性があります。

この相互作用により 急激な血圧上昇や不整脈 頭痛 嘔吐などの症状が引き起こされる危険性が高まります。

MAOI の種類主な使用目的
セレギリンパーキンソン病治療
モクロベミドうつ病治療
ラサギリンパーキンソン病治療
サフィナミドパーキンソン病治療

MAOIを使用中の患者さんにイノバンの投与が必要となった際は MAOIの完全な休薬期間(通常2週間以上)を設けてからイノバンの投与を開始することが求められます。

逆にイノバン使用中の患者さんにMAOIの投与が必要となった場合も同様に十分な休薬期間を設ける必要があります。

フェノチアジン系抗精神病薬との相互作用

フェノチアジン系抗精神病薬とイノバンの併用も重大な相互作用のリスクがあるため原則として避けるべきとされています。

フェノチアジン系薬剤はドパミン受容体遮断作用を持つためイノバンの効果を減弱させる可能性があります。

同時にイノバンの末梢血管収縮作用とフェノチアジン系薬剤のα遮断作用が拮抗し、予期せぬ血圧変動を引き起こす恐れがあります。

フェノチアジン系薬剤主な使用目的
クロルプロマジン統合失調症治療
レボメプロマジン統合失調症治療
ペルフェナジン統合失調症治療
プロメタジン制吐 抗アレルギー

これらの薬剤を使用中の患者さんにイノバンの投与が必要となった場合に代替薬の検討や慎重な血行動態モニタリングが必要です。

またフェノチアジン系薬剤の長期作用性を考慮し、十分な休薬期間を設けることが大切です。

エルゴタミン製剤との相互作用

イノバンとエルゴタミン製剤の併用は末梢循環障害のリスクが著しく高まるため禁忌とされています。

両薬剤ともに血管収縮作用を有するため、併用によって相加的あるいは相乗的に作用が増強される可能性があります。

この相互作用により四肢や内臓の虚血、壊疽などの重篤な合併症が生じる危険性が高まります。

エルゴタミン製剤主な使用目的
エルゴタミン酒石酸塩片頭痛治療
ジヒドロエルゴタミン片頭痛治療
メチルエルゴメトリン子宮収縮促進
エルゴメトリン産後出血予防

エルゴタミン製剤を使用中の患者さんにイノバンの投与が必要となった際は以下の点に注意が必要です。

  • エルゴタミン製剤の完全な休薬
  • 代替薬の検討
  • 末梢循環のモニタリング強化
  • 虚血症状の早期発見と対応

特に片頭痛治療でエルゴタミン製剤を使用している患者さんでは循環器疾患の合併に注意が必要です。

ブチロフェノン系抗精神病薬との相互作用

ブチロフェノン系抗精神病薬とイノバンの併用も重大な相互作用のリスクがあるため原則として避けるべきです。

ブチロフェノン系薬剤はフェノチアジン系と同様にドパミン受容体遮断作用を持つためイノバンの効果を減弱させる可能性があります。

また両薬剤の相互作用によって不整脈のリスクが高まることも懸念されます。

ブチロフェノン系薬剤主な使用目的
ハロペリドール統合失調症治療
ドロペリドール術後嘔吐予防
ブロムペリドール統合失調症治療
チミペロン統合失調症治療

これらの薬剤を使用中の患者さんにイノバンの投与が必要となった場合には以下のような対応が求められます。

  • 代替薬の検討
  • 慎重な用量調整
  • 心電図モニタリングの強化
  • 精神症状の変化に注意

特に長時間作用型のブチロフェノン系薬剤を使用している場合は、その効果が消失するまでに長期間を要することがあるため注意が必要です。

β遮断薬との相互作用

β遮断薬とイノバンの併用は完全な禁忌ではありませんが、重大な相互作用のリスクがあるため慎重な対応が求められます。

β遮断薬はイノバンのβ受容体刺激作用を阻害するため心収縮力増強効果や心拍数増加作用が減弱する可能性があります。

一方でイノバンのα受容体刺激作用は影響を受けないため血管収縮作用が相対的に強まり、血圧上昇や末梢循環障害のリスクが高まる傾向です。

β遮断薬主な使用目的
プロプラノロール高血圧 不整脈治療
メトプロロール心不全 狭心症治療
カルベジロール心不全治療
アテノロール高血圧 狭心症治療

β遮断薬使用中の患者さんにイノバンの投与が必要となった場合は以下のような点に注意が必要です。

  • イノバンの用量調整(通常より高用量が必要となることがある)
  • 血行動態の綿密なモニタリング
  • 代替薬(ドブタミンやミルリノンなど)の検討
  • β遮断薬の減量や一時中止の検討

特に非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)との併用では、より慎重な対応が求められます。

イノバン(ドパミン塩酸塩)の薬価について

薬価

イノバン(ドパミン塩酸塩)の薬価は製剤の種類や含量によって異なります。

一般的に使用される150mg/50mL製剤(イノバン注0.3%シリンジ)の薬価は309円となっています。

製剤薬価
150mg/50mL製剤(イノバン注0.3%シリンジ)744円
300mg/50mL製剤(イノバン注0.6%シリンジ)1,423円

薬価は定期的に見直されるため最新の情報を確認することが大切です。

処方期間による総額

イノバンは通常点滴静注で投与されるため、処方期間による総額は患者の体重や必要投与量によって大きく変動します。

一般的な使用量(体重70 kg・3γで4.2ml/h)を想定すると1週間の処方で3499.8円 、1ヶ月の処方で14,999円程度となる可能性があります。

処方期間概算総額
1週間3499.8円
1ヶ月14,999円

ただしこれらの金額は目安であり、実際の費用は個々の患者の状態や投与量によって変わります。

ジェネリック医薬品との比較

イノバンにはジェネリック医薬品が存在し、一般名でドパミン塩酸塩注射液として販売されています。

ジェネリック医薬品の薬価は先発品より安価で 20〜30%程度低くなっていることが多いです。

医薬品100mg/50mL製剤(イノバン注0.1%シリンジ)薬価
先発品529円
ジェネリック146円+シリンジ代+生理食塩水代

ジェネリック医薬品を選択することで患者さんの負担額を軽減できる可能性があります。

なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文