クリゾチニブ(ザーコリ)とは特定の肺がんに対して効果を発揮する分子標的薬です。

この薬剤はがん細胞の増殖を促進する異常なタンパク質の働きを阻害することで腫瘍の成長を抑制します。

主にALK遺伝子やROS1遺伝子の変異が確認された非小細胞肺がんの患者さんに処方されます。

従来の抗がん剤と異なりピンポイントでがん細胞を攻撃するため副作用が比較的軽減されるのが特徴です。

服用方法は経口で医師の指示に従って適切に服用することが重要です。

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目次

有効成分と作用機序 その効果

クリゾチニブの有効成分

クリゾチニブ(ザーコリ)の主たる有効成分は化学名3-[(1R)-1-(2,6-ジクロロ-3-フルオロフェニル)エトキシ]-5-(1-ピペリジン-4-イル)-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジンであり、この分子が薬理学的な効果を発揮します。

この化合物は分子量450.34g/molを有し結晶性の白色〜淡黄色粉末として存在します。

項目詳細
化学式C21H22Cl2FN5O
分子量450.34 g/mol
外観白色〜淡黄色粉末
水溶性低い

クリゾチニブの作用機序

クリゾチニブは分子標的薬として機能して特定のタンパク質キナーゼを阻害することで抗腫瘍効果を発揮します。

主な標的は以下の通りです。

  • ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)
  • ROS1(c-ros癌遺伝子1)
  • MET(肝細胞増殖因子受容体)

これらのキナーゼはがん細胞の増殖や生存に重要な役割を果たしています。

クリゾチニブはATP競合的に作用してこれらのキナーゼの活性部位に結合してその機能を抑制します。

標的キナーゼ主な機能
ALK細胞増殖シグナル伝達
ROS1細胞生存促進
MET細胞移動・浸潤促進

クリゾチニブの分子レベルでの作用

クリゾチニブは標的キナーゼのATP結合ポケットに入り込み強固な水素結合やファンデルワールス力を介して結合します。

この結合によりキナーゼの立体構造が変化して基質であるタンパク質のリン酸化が阻害されます。

結果として下流のシグナル伝達経路が遮断され、がん細胞の増殖や生存が抑制されるのです。

作用段階分子レベルでの現象
結合ATP結合ポケットへの侵入
構造変化キナーゼの立体構造歪曲
機能抑制基質リン酸化の阻害
効果発現シグナル伝達経路の遮断

クリゾチニブの臨床効果

クリゾチニブは特にALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対して顕著な効果を示します。

臨床試験では無増悪生存期間の延長や奏効率の向上が確認されています。

さらにROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対しても高い有効性が報告されています。

対象がん種主な臨床効果
ALK陽性NSCLC無増悪生存期間延長
ROS1陽性NSCLC高奏効率

クリゾチニブの効果は通常投与開始後数週間以内に現れ始め、多くの患者さんで腫瘍の縮小や症状の改善が観察されます。

ただし効果の持続期間は個人差が大きく、耐性獲得のメカニズムについても研究が進められています。

クリゾチニブの薬物動態学的特性

クリゾチニブは経口投与後に消化管から吸収されて肝臓で代謝されます。

主要な代謝酵素はCYP3A4/5でり、代謝産物の多くは尿中に排泄されます。血中濃度は投与後約4時間でピークに達して半減期は約42時間です。

これらの特性により1日2回の投与スケジュールが採用されています。

薬物動態パラメータ
最高血中濃度到達時間約4時間
半減期約42時間
主要代謝酵素CYP3A4/5

クリゾチニブの薬物動態は食事の影響を受けにくく空腹時や食後どちらでも服用が可能です。

ただし グレープフルーツジュースなどのCYP3A4阻害作用を有する食品との併用は避けるべきです。

使用法と留意事項

クリゾチニブの投与スケジュール

クリゾチニブの標準的な投与量は250mgを1日2回です。

この用量を朝晩に分けて服用することで血中濃度を安定的に保ちます。

患者さんの状態や副作用の程度に応じて200mgや400mgへの増減量を行う場合があります。

投与量服用回数備考
250mg1日2回標準用量
200mg1日2回減量時
400mg1日2回増量時

服用時の注意点

クリゾチニブは食事の有無にかかわらず服用できます。

錠剤は割ったり砕いたりせず そのまま水またはぬるま湯で飲み込みます。

項目推奨事項
食事有無を問わない
錠剤の扱い割らずに服用

服薬管理のコツ

規則正しい服用を心がけるためアラームや服薬管理アプリの利用を推奨します。

飲み忘れた際は気づいた時点で1回分を服用して次回から通常のスケジュールに戻ります。

ただし次の服用時間まで6時間未満の場合は飛ばして次の通常の服用時間に1回分を服用します。

  • 服薬時間の設定(朝食後・夕食後など)
  • 薬剤管理表の活用
  • 家族や介護者との情報共有

治療効果のモニタリング

クリゾチニブ投与中は定期的な血液検査や画像検査で効果と安全性を評価します。

腫瘍マーカーの推移や画像所見の変化を注意深く観察し、必要に応じて投与量の調整や他の治療法への変更を検討します。

検査項目頻度目的
血液検査2-4週毎副作用チェック
CT/MRI2-3ヶ月毎腫瘍評価
腫瘍マーカー1-2ヶ月毎治療効果判定

長期服用時の注意点

クリゾチニブは長期にわたり服用する薬剤です。耐性獲得や効果減弱に備えて定期的な効果判定と治療方針の見直しを行います。

また骨密度低下や心機能への影響など長期投与に伴うリスクにも留意します。

長期投与のリスク対策
耐性獲得遺伝子検査の実施
骨密度低下カルシウム摂取推奨
心機能変化心エコー検査の定期実施

クリゾチニブ(ザーコリ)の適応患者

ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌

クリゾチニブは主にALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌患者さんに対して使用します。

ALK融合遺伝子は全非小細胞肺癌患者さんの約3-5%に認められ、若年者や非喫煙者に多い傾向があります。

この遺伝子異常を持つ患者さんではクリゾチニブが高い有効性を示すため第一選択薬となることが多いです。

特徴詳細
発現頻度3-5%
好発年齢若年〜中年
喫煙歴非喫煙者に多い
組織型腺癌が多い

ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺癌

ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌もクリゾチニブの適応対象となります。

この遺伝子変異は全非小細胞肺癌の約1-2%に認められ、ALK陽性例と同様に若年非喫煙者に多いです。

ROS1陽性患者さんに対するクリゾチニブの治療効果はALK陽性患者さんと同等以上であることが報告されています。

項目ROS1陽性肺癌の特徴
発現頻度1-2%
年齢分布若年者に多い
喫煙状況非喫煙者が多数
予後比較的良好

MET遺伝子異常を有する非小細胞肺癌

MET遺伝子の増幅やエクソン14スキッピング変異を持つ非小細胞肺癌患者さんもクリゾチニブの投与対象となる可能性があります。

これらの遺伝子異常は全非小細胞肺癌の約3-4%に認められ、高齢者や喫煙者にも発症します。

MET阻害作用を持つクリゾチニブはこれらの患者さんに対しても一定の効果が期待できます。

MET異常の種類特徴
遺伝子増幅コピー数増加
エクソン14スキッピングスプライシング異常

遺伝子検査の重要性

クリゾチニブの適応を判断するには腫瘍組織または血液を用いた遺伝子検査が必要です。

FISH法・RT-PCR法・次世代シーケンス法などの手法によりALK ROS1 MET遺伝子の異常を検出します。

これらの検査は診断時だけでなく病勢進行時にも実施し 最適な治療選択に活用します。

検査法特徴検出対象
FISH法高感度融合遺伝子
RT-PCR高特異度融合遺伝子
NGS網羅的解析複数遺伝子異常

患者選択の基準

クリゾチニブの投与対象となる患者さん選択には 以下の要素を考慮します。

  • 組織学的に非小細胞肺癌と診断されていること
  • ALK ROS1 METいずれかの遺伝子異常が陽性であること
  • PS(パフォーマンスステータス)が0-2であること
  • 主要臓器機能が保たれていること

これらの条件を満たす患者さんに対してクリゾチニブ投与の是非を検討します。

前治療歴と投与タイミング

クリゾチニブは一次治療から使用可能ですが、前治療歴のある患者さんにも投与できます。

化学療法や免疫チェックポイント阻害薬による前治療後の二次治療以降でも高い有効性を示すことが知られています。

ただしALK ROS1陽性例では早期からのクリゾチニブ使用が推奨されます。

投与ライン対象患者さん備考
一次治療未治療例推奨
二次治療前治療歴あり有効性維持
三次以降複数前治療歴個別判断

併存疾患と投与可否

クリゾチニブ投与の際には患者さんの併存疾患に注意を払う必要があります。

特に間質性肺疾患・重度の肝機能障害・QT延長症候群などを有する患者さんでは慎重な投与判断が求められます。

一方軽度から中等度の腎機能障害や肝機能障害では用量調整により投与可能な場合が多いです。

併存疾患投与可否注意点
間質性肺疾患原則禁忌慎重判断
肝機能障害重度は禁忌用量調整
QT延長症候群要注意心電図モニタリング

高齢者への投与

高齢患者さんへのクリゾチニブ投与も可能ですが慎重な経過観察が大切です。

年齢による薬物動態の変化は軽微ですが、併存疾患や多剤併用に注意が必要です。

このように個々の患者さんの状態を総合的に評価して適切な投与量や支持療法を選択します。

年齢層投与上の注意点
65-74歳通常量で開始可
75-84歳慎重に開始
85歳以上個別判断

治療期間

クリゾチニブの標準的な投与期間

クリゾチニブは病勢進行または許容できない副作用が発現するまで継続投与します。

ALK陽性非小細胞肺癌患者さんにおける無増悪生存期間(PFS)の中央値は約10.9ヶ月と報告されています。

ただし個々の患者さんによって治療反応性は異なり、2年以上の長期投与例も少なくありません。

患者さん群中央PFS
ALK陽性10.9ヶ月
ROS1陽性19.2ヶ月

治療効果の持続期間

クリゾチニブの治療効果は通常投与開始後数週間以内に現れ始めます。

奏効例では腫瘍縮小や症状改善が比較的早期に観察されるものの、効果持続期間には個人差があります。

一部の患者さんでは数年にわたり病勢コントロールが可能なケースもあり長期生存に寄与します。

治療効果発現時期持続期間
腫瘍縮小4-8週個人差大
症状改善2-4週数ヶ月〜数年

投与中断と再開のタイミング

副作用管理のため一時的な休薬や減量が必要になることがあります。

グレード3以上の副作用発現時には原則として休薬し症状改善後に減量再開を検討します。

休薬期間が3週間を超える際は慎重に再開の是非を判断します。

副作用Grade対応再開基準
グレード 1-2継続/減量
グレード3休薬グレード1以下に回復
グレード4原則中止個別判断

耐性出現時の対応

クリゾチニブ投与中に獲得耐性が生じると治療効果が減弱して病勢進行をきたします。

耐性機序の解明と克服は重要な課題であり、新規ALK阻害薬への切り替えや再生検による耐性機序の同定が推奨されます。

例えば第二世代ALK阻害薬への変更で再度の奏効が得られるケースもあります。

耐性メカニズム頻度対応策
ALK二次変異30-40%新規ALK阻害薬
バイパス経路活性化20-30%併用療法検討
不明30-40%再生検考慮

長期投与時の注意点

クリゾチニブの長期投与に伴い慢性毒性や晩期有害事象に注意が必要です。

特に 肝機能障害・間質性肺疾患・QT延長などのモニタリングを定期的に行います。

また骨密度低下や内分泌機能異常にも留意して必要に応じて予防策を講じます。

  • 3-6ヶ月ごとの全身CT検査
  • 1-2ヶ月ごとの血液生化学検査
  • 心電図モニタリング(特にQT延長リスク患者)
  • 年1回の骨密度検査

治療終了の判断基準

クリゾチニブ治療の終了を検討する主な状況は以下の通りです。

  • 画像上の明らかな病勢進行
  • 臨床症状の顕著な悪化
  • 管理困難な重篤な有害事象の発現
  • 患者の希望や全身状態の著しい低下

ただしオリゴ進行など限局的な増悪の場合は局所療法併用下での継続投与も選択肢となります。

終了検討事由判断基準
病勢進行RECISTガイドライン
有害事象CTCAE グレード 4
PS低下ECOG PS 3-4

治療後のフォローアップ期間

クリゾチニブ投与終了後も一定期間のフォローアップが重要です。

晩期有害事象の発見や二次癌のスクリーニングを目的として通常3-5年程度の経過観察を行います。

また 分子標的治療後の特殊な再発形式にも注意を払い適切な検査間隔を設定します。

フォローアップ項目頻度期間
胸部CT3-6ヶ月毎3-5年
血液検査3-6ヶ月毎3-5年
二次癌スクリーニング年1回生涯

ある医師の臨床経験ではALK陽性肺腺癌の70代女性患者さんにクリゾチニブを3年以上継続投与したケースがあります。

当初は骨転移を伴う進行期症例でしたが、クリゾチニブにより原発巣・転移巣ともに著明な縮小が得られその効果が長期間持続しました。

副作用は軽度の視覚異常のみでQOLを維持しながら外来治療を継続できた好例です。

この経験からクリゾチニブの長期投与による病勢コントロールと生存期間延長の可能性を実感しました。

クリゾチニブ(ザーコリ)の副作用とデメリット

視覚障害

クリゾチニブによる視覚障害は高頻度で発現する副作用の一つです。

主に羞明・光視症・飛蚊症などの症状が現れ、患者さんのQOLに影響を及ぼす可能性があります。

多くの場合は軽度で一過性ですが持続する際は眼科専門医の診察が必要となります。

視覚障害の種類頻度対処法
羞明60-70%サングラス着用
光視症50-60%暗所での休憩
飛蚊症40-50%経過観察

消化器症状

悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状もクリゾチニブの代表的な副作用です。

これらの症状は投与初期に多く発現して患者さんの食事摂取や日常生活に支障をきたすことがあります。

対症療法や投与スケジュールの調整により多くの場合でマネジメント可能です。

  • 悪心・嘔吐 制吐剤の予防的使用や食事の工夫
  • 下痢 整腸剤の併用や水分補給の徹底
  • 便秘 緩下剤の使用や運動療法の導入

肝機能障害

クリゾチニブによる肝機能障害は慎重なモニタリングを要する副作用の一つです。

AST・ALT・ビリルビンなどの肝機能マーカーの上昇が認められ、重症化すると投与中止を余儀なくされます。

定期的な血液検査と早期介入が重要であり、必要に応じて休薬や減量を検討します。

重症度AST/ALT上昇対応
グレード 1正常上限の1-3倍経過観察
グレード2正常上限の3-5倍減量検討
グレード 3正常上限の5-20倍休薬
グレード 4正常上限の20倍超投与中止

間質性肺疾患

間質性肺疾患はクリゾチニブの重大な副作用の一つであり注意深い観察が必要です。

発症頻度は1-2%程度ですが重症化すると致死的となる危険性があります。

咳嗽・呼吸困難・発熱などの症状に注意して疑わしい場合は速やかに胸部CT検査を実施します。

症状頻度初期対応
咳嗽70-80%胸部X線
呼吸困難60-70%SpO2測定
発熱40-50%血液検査

心臓関連の副作用

QT間隔延長や徐脈などの心臓関連の副作用にも注意が必要です。

特に心疾患の既往がある患者さんや電解質異常を伴う患者さんではリスクが高まります。

定期的な心電図検査と電解質モニタリングを行い異常を早期に発見することが大切です。

副作用頻度モニタリング
QT延長2-3%心電図検査
徐脈1-2%脈拍測定
心不全<1%心エコー

末梢性浮腫

クリゾチニブによる末梢性浮腫は患者さんのQOLを低下させる要因となります。

下肢を中心に発現して重症例では歩行困難をきたすことがあります。利尿剤の使用や圧迫療法など 症状に応じた対策を講じる必要があります。

  • 軽度 下肢挙上や弾性ストッキングの着用
  • 中等度 間欠的空気圧迫法の実施
  • 重度 利尿剤の投与や投与量調整の検討

薬物相互作用

クリゾチニブはCYP3A4で代謝されるため多くの薬物と相互作用を示します。

併用薬の効果増強や減弱、クリゾチニブ自体の血中濃度変動など様々な影響が生じる可能性があります。

特に抗不整脈薬や抗真菌薬との併用には注意が必要です。

相互作用薬剤影響対策
CYP3A4阻害薬クリゾチニブ濃度上昇減量
CYP3A4誘導薬クリゾチニブ濃度低下増量
QT延長薬不整脈リスク増加避ける

耐性獲得

クリゾチニブ治療の長期化に伴い耐性獲得が問題となります。

ALK遺伝子の二次変異やバイパス経路の活性化など様々なメカニズムが関与します。

耐性出現後の治療戦略として 次世代ALK阻害薬への切り替えや併用療法の検討が重要です。

耐性メカニズム頻度対策
ALK二次変異30-40%次世代ALK阻害薬
バイパス活性化20-30%併用療法
不明30-40%再生検

ある医師の臨床経験では70代男性のALK陽性肺腺癌患者さんにクリゾチニブを投与したところ、2週間後に重度の視覚障害を訴えられました。

日常生活に支障をきたすほどの症状でしたが投与を3日間休薬してその後50%減量で再開したところ、視覚障害は軽快し治療を継続できました。

この経験からクリゾチニブの副作用管理には個別化したアプローチが重要だと実感しました。

代替治療薬

第二世代ALK阻害薬

クリゾチニブ耐性例に対しては第二世代ALK阻害薬が有効な選択肢となります。

これらの薬剤はクリゾチニブよりも強力なALK阻害活性を有し一部の耐性変異にも効果を示します。

代表的な薬剤としてはセリチニブ(ジカディア)やアレクチニブ(アレセンサ)です。

薬剤名商品名特徴
セリチニブジカディア脳転移に有効
アレクチニブアレセンサ副作用が少ない

第三世代ALK阻害薬

第二世代ALK阻害薬にも耐性を示す症例に対しては 第三世代ALK阻害薬が選択肢となります。

これらの薬剤はさらに広範囲のALK耐性変異に対して効果を発揮します。

代表的な薬剤はロルラチニブ(ローブレナ)です。

薬剤標的変異特徴
ロルラチニブG1202R変異高い中枢移行性
エヌトレクチニブROS1融合遺伝子複数のキナーゼを阻害

免疫チェックポイント阻害薬

ALK阻害薬に耐性を示した症例では免疫チェックポイント阻害薬も選択肢の一つです。

これらの薬剤は腫瘍細胞の免疫回避機構を阻害して体の免疫系を活性化させます。

ニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)などが使用されます。

  • PD-L1発現率が高い症例で有効性が期待できる
  • 免疫関連有害事象に注意が必要
  • 効果の持続性が期待できる症例がある

従来の細胞傷害性抗癌剤

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が無効な場合には従来の細胞傷害性抗癌剤も選択肢となります。

プラチナ製剤をベースとした併用療法が一般的です。

ペメトレキセドやドセタキセルなどの薬剤が使用されます。

レジメン薬剤組み合わせ特徴
CP療法カルボプラチン+パクリタキセル標準的
PEM+CBDCAペメトレキセド+カルボプラチン非扁平上皮癌に有効

MET阻害薬

一部のクリゾチニブ耐性例ではMET遺伝子増幅が耐性機序となっていることがあります。

このような症例ではMET阻害薬が有効な場合があります。具体的にはカプマチニブ(タブレクタ)やテポチニブなどの薬剤です。

薬剤名標的適応
カプマチニブMETMET遺伝子変異陽性
テポチニブMETMET exon 14 skipping変異

RET阻害薬

RET融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対してはRET阻害薬が選択肢で、例えばセルペルカチニブ(レットヴィモ)やプラルセチニブなどが使用されます。

これらの薬剤は高い奏効率と持続的な効果が期待できます。

  • RET融合遺伝子の検出が必要
  • 脳転移に対しても効果あり
  • 甲状腺機能低下などの副作用に注意

KRAS阻害薬

KRAS G12C変異陽性の非小細胞肺癌に対してはKRAS阻害薬も選択肢となります。

ソトラシブ(ルマケラス)が代表的な薬剤で、これまで「アンドラッガブル」とされてきたKRAS変異に対する画期的な治療薬です。

変異型薬剤特徴
KRAS G12Cソトラシブ経口薬
KRAS G12Cアドグラシブ第2世代

併用療法

単剤での耐性獲得後は複数の薬剤を組み合わせた併用療法も考慮されます。

ALK阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用やALK阻害薬と細胞傷害性抗癌剤の併用などが研究されています。

これらの併用療法は相乗効果や耐性克服が期待できます。

併用パターン期待効果注意点
ALK阻害薬+免疫チェックポイント阻害薬相乗効果免疫関連有害事象
ALK阻害薬+細胞傷害性抗癌剤耐性克服骨髄抑制

ある医師の臨床経験ではクリゾチニブ耐性後にアレクチニブへ切り替えた50代女性のALK陽性肺腺癌患者さんがいました。

アレクチニブで一旦奏効が得られましたが1年後に再び進行。

その後ロルラチニブへの切り替えで劇的な腫獍縮小が得られ、2年以上にわたり病勢コントロールが可能でした。

この症例からALK阻害薬の世代を進めていくことで長期生存が得られる可能性を実感しました。

クリゾチニブ(ザーコリ)の併用禁忌

強力なCYP3A阻害剤との相互作用

クリゾチニブはCYP3A酵素系で代謝されるため強力なCYP3A阻害剤との併用は避けるべきです。

これらの薬剤との併用によりクリゾチニブの血中濃度が上昇して副作用のリスクが高まります。

代表的な強力CYP3A阻害剤はケトコナゾールやイトラコナゾールなどの抗真菌薬です。

CYP3A阻害剤薬効分類併用時の影響
ケトコナゾール抗真菌薬AUC 216%増加
イトラコナゾール抗真菌薬Cmax 44%増加
リトナビル抗HIV薬半減期延長

強力なCYP3A誘導剤との相互作用

強力なCYP3A誘導剤もクリゾチニブとの併用を避けるべき薬剤群です。

これらの薬剤はクリゾチニブの代謝を促進して血中濃度を低下させることで治療効果を減弱させる可能性があるからです。

カルバマゼピンやフェニトインなどの抗てんかん薬、リファンピシンなどの抗結核薬が該当します。

  • カルバマゼピン クリゾチニブのAUCを70%低下させる
  • リファンピシン 血中濃度を50%以上低下させる
  • セイヨウオトギリソウ 肝代謝酵素を誘導し効果を減弱

QT間隔延長を引き起こす薬剤

クリゾチニブ自体がQT間隔延長作用を有するためQT間隔延長を引き起こす他の薬剤との併用には注意が必要です。

併用によりQT間隔延長のリスクが相加的または相乗的に増加して重篤な不整脈を引き起こす恐れがあります。

抗不整脈薬や一部の抗精神病薬 抗うつ薬などがこれに該当します。

QT延長薬薬効分類注意点
アミオダロン抗不整脈薬長時間作用
ハロペリドール抗精神病薬高用量で注意
シタロプラム抗うつ薬用量依存性

P糖タンパク質の基質となる薬剤

クリゾチニブはP糖タンパク質の阻害作用を有するためP糖タンパク質の基質となる薬剤との併用に注意が必要です。

これらの薬剤の血中濃度が上昇し予期せぬ副作用が発現する恐れがあります。

代表的な薬剤はジゴキシンやダビガトランなどです。

P糖タンパク質基質薬効分類併用時の影響
ジゴキシン強心薬AUC 30%増加
ダビガトラン抗凝固薬出血リスク上昇
フェキソフェナジン抗ヒスタミン薬眠気増強

グレープフルーツ製品との相互作用

グレープフルーツやその加工品はCYP3A4を阻害する作用がありクリゾチニブの代謝に影響を与えます。

これらの食品との併用によりクリゾチニブの血中濃度が上昇して副作用のリスクが高まる恐れがあります。

治療期間中はグレープフルーツ製品の摂取を避けることが望ましいです。

食品含有成分影響
グレープフルーツフラノクマリンCYP3A4阻害
グレープフルーツジュースナリンギン代謝遅延
ポメロベルガモチン吸収増加

ワルファリンとの相互作用

クリゾチニブはワルファリンの代謝に影響を与え、その抗凝固作用を増強する可能性があるため併用時には頻回のINRモニタリングと用量調整が必要となります。

特に出血リスクの増加に十分な注意をわなければいけません。

  • INR値の上昇に注意
  • 皮下出血や歯肉出血などの微小出血に留意
  • 用量調整は慎重に行う

BCRP基質との相互作用

クリゾチニブは乳癌耐性タンパク質(BCRP)を阻害するためBCRP基質となる薬剤との併用に注意が必要です。

これらの薬剤の血中濃度上昇や組織移行性の変化が生じる可能性があります。

これにはロスバスタチンやメトトレキサートなどが該当します。

BCRP基質薬効分類併用時の注意点
ロスバスタチンスタチン系薬剤筋障害リスク上昇
メトトレキサート抗リウマチ薬骨髄抑制増強
トポテカン抗悪性腫瘍薬副作用増強

クリゾチニブ(ザーコリ)の薬価と医療費負担

薬価

クリゾチニブの薬価は1カプセル250mgあたり11054円です。

標準的な用法用量である1日2回投与の場合だと1日あたりの薬価は22,108円となります。

この金額は患者さん負担額ではなく保険適用前の薬剤費を示しています。

規格薬価
250mgカプセル111054円
200mgカプセル8752円

処方期間による総額

1週間処方の場合の薬価総額は154,756円です。これが1ヶ月(30日)処方になると663,240円かかります。

これらの金額は薬剤費のみであって診察料や検査料は含まれていません。

処方期間薬価総額
1週間154,756円
1ヶ月663,240円
  • 3割負担の場合 1週間で46,426.8円
  • 1割負担の場合 1ヶ月で66,324円

ある医師の臨床経験では経済的負担を懸念する患者さんが多く、利用可能な助成制度の説明が重要でした。

なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文