イリノテカン塩酸塩水和物(カンプト、トポテシン)とは、主に進行がん患者様の治療に用いられる抗悪性腫瘍剤でございます。

この薬剤はがん細胞の増殖を抑える効果を持ち、特に大腸がんや肺がんなどの治療に広く使用されております。

イリノテカンはトポイソメラーゼⅠ阻害剤と呼ばれる種類に属し、がん細胞のDNA複製を妨げることでその増殖を抑制いたします。

患者様の状態や他の治療法との組み合わせによりその使用方法や投与量が決定されるため専門医による慎重な判断が必要となります。

イリノテカン塩酸塩点滴静注液40mg「SUN」(日局イリノテカン塩酸塩水和物) | 医療関係者の皆様へ | サンファーマ株式会社 (sunpharma.com)
目次

有効成分と作用機序および効果

イリノテカンの有効成分

イリノテカン塩酸塩水和物(CPT-11)は抗がん剤の一種であり、その主要な有効成分はイリノテカンです。

この化合物はカンプトテシン(えんじゅの木から抽出される天然物質)の半合成誘導体として開発されました。

イリノテカンは体内で代謝されて活性型である SN-38 に変換されることでその薬理作用を発揮します。

有効成分化学構造
イリノテカンカンプトテシン誘導体
SN-38イリノテカンの活性代謝物

イリノテカンの作用機序

イリノテカンの主たる作用機序はトポイソメラーゼI阻害作用にあります。

トポイソメラーゼIはDNAの複製や転写に重要な役割を果たす酵素でがん細胞の増殖に必須です。

イリノテカンおよびその活性代謝物SN-38はこのトポイソメラーゼIと結合してその機能を阻害します。

結果としてDNA鎖の切断と再結合のプロセスが妨げられ、がん細胞のDNA複製が阻害されるのです。

  • トポイソメラーゼI阻害
  • DNA複製の阻害
  • がん細胞増殖抑制

細胞周期への影響

イリノテカンはがん細胞の細胞周期にも影響を与えます。

特にS期(DNA合成期)において顕著な効果を示し、この時期のがん細胞に対して強力な細胞毒性を発揮します。

加えてG2期からM期への移行も阻害することでがん細胞の分裂を効果的に抑制します。

細胞周期段階イリノテカンの影響
S期DNA合成阻害
G2/M期細胞分裂阻害

イリノテカンの臨床効果

イリノテカンは幅広い種類のがんに対して効果を示します。

特に大腸がんや直腸がんの治療において高い有効性が認められており、標準治療の一つとして広く使用されています。

肺がん(小細胞肺がんおよび非小細胞肺がん)に対しても有効性が確認されており、単剤または他の抗がん剤との併用で使用されることがあります。

さらに卵巣がんや胃がんなどの消化器系のがんに対しても一定の効果が報告されています。

がんの種類イリノテカンの効果
大腸・直腸がん高い有効性
肺がん単剤・併用で効果あり
その他のがん一定の効果を確認

イリノテカンは腫瘍縮小効果だけでなく生存期間の延長にも寄与することが臨床試験で示されています。

多くの場合で他の抗がん剤や放射線療法との併用によってその効果が増強されます。

  • 腫瘍縮小
  • 生存期間延長
  • 他治療との相乗効果

このようにイリノテカンは多様ながん種に対して効果を持つ重要な抗がん剤で、その独特の作用機序と広範な臨床効果によりがん治療の重要な選択肢となっています。

使用方法と注意点

投与方法と用量

イリノテカン塩酸塩水和物は通常点滴静注で投与します。

投与量と頻度は患者さんの体表面積・がんの種類・全身状態などを考慮して個別に決定します。

一般的な投与スケジュールとしては3〜4週間を1サイクルとして各サイクルの第1日目に投与することが多いです。

投与方法特徴
点滴静注90分以上かけて投与
単独投与がんの種類により選択
併用療法他の抗がん剤と組み合わせ

投与前の準備と観察

イリノテカン投与前には 十分な問診と身体診察を行い患者さんの状態を慎重に評価することが重要です。

血液検査で白血球数・血小板数・肝機能・腎機能などを確認して投与の可否を判断しますが、このとき患者さんへの説明と同意取得も欠かせません。

  • 問診と身体診察の実施
  • 血液検査による状態確認
  • インフォームドコンセントの取得

投与中のモニタリング

イリノテカン投与中は患者さんの状態を注意深く観察します。

特にアレルギー反応や急性の副作用に注意を払い、異常が見られた際は速やかに対応できるよう準備します。

バイタルサインの定期的なチェックや患者さんとのコミュニケーションを密に取ることで早期に問題を発見し対処することができます。

モニタリング項目チェックポイント
バイタルサイン血圧 脈拍 体温
自覚症状吐き気 倦怠感 痛み
皮膚所見発疹 掻痒感

投与後のフォローアップ

イリノテカン投与後は副作用の発現に注意しながら患者さんの経過を慎重に観察します。

特に骨髄抑制や下痢などの遅発性副作用に注意を払い適切な支持療法を行います。

定期的な外来受診や必要に応じて電話での状態確認を行うことで患者さんの安全性を確保します。

  • 副作用モニタリング
  • 支持療法の実施
  • 定期的な経過観察

併用療法と相互作用

イリノテカンは他の抗がん剤との併用で使用されることが多く相乗効果が期待できますが、一方で併用薬との相互作用に注意が必要です。

特にCYP3A4阻害剤や誘導剤との併用はイリノテカンの血中濃度に影響を与える可能性があるため慎重に投与計画を立てる必要があります。

併用薬注意点
CYP3A4阻害剤イリノテカンの血中濃度上昇
CYP3A4誘導剤イリノテカンの血中濃度低下
他の抗がん剤相乗効果と副作用増強

論文における使用経験報告によると大腸がん患者さんに対するイリノテカンとオキサリプラチンの併用療法(FOLFOXIRI療法)で従来の療法よりも高い奏効率と生存期間の延長が観察されました。

この結果は適切な併用療法の選択が治療効果を大きく左右する可能性を示唆しています。

患者教育と自己管理

イリノテカン治療を受ける患者さんへの教育は治療の成功に大切な役割を果たします。

副作用の早期発見と対処法 生活上の注意点などについて患者さんやご家族に分かりやすく説明することが求められます。

特に下痢対策として適切な水分補給や整腸剤の使用法などを具体的に指導します。

教育項目指導内容
副作用対策早期発見と対処法
生活指導感染予防 食事管理
緊急時の連絡病院への連絡方法

適応対象となる患者

大腸がん患者への適応

イリノテカン塩酸塩水和物は 主に進行・再発の大腸がん患者さんに対して使用します。

特に手術不能または再発した大腸がんの症例において本剤の有効性が広く認められています。

初回治療や二次治療として単剤で使用されることもありますが、他の抗がん剤と併用することでより高い治療効果を期待できます。

大腸がんの状態イリノテカンの使用
進行期単剤または併用療法
再発二次治療以降で使用
手術不能化学療法の中心薬剤

小細胞肺がん患者への適応

小細胞肺がんの患者さんに対してもイリノテカン塩酸塩水和物の使用が承認されています。

特に標準的な白金製剤を含む化学療法後に再発した症例や初回治療で白金製剤との併用療法として用いられます。

小細胞肺がんは進行が速いがん種でありイリノテカンの迅速な細胞傷害作用が有効とされています。

  • 再発小細胞肺がん
  • 進展型小細胞肺がん(初回治療)

その他のがん種への適応拡大

イリノテカン塩酸塩水和物の適応は大腸がんや小細胞肺がん以外のがん種にも徐々に拡大しています。

現在卵巣がんや子宮頸がんなどの婦人科系悪性腫瘍、胃がんや膵臓がんといった消化器系がんにも使用されることがあります。

これらのがん種では主に他の抗がん剤との併用療法の一部として用いられ 個々の患者さんの状態に応じて使用を検討します。

がん種イリノテカンの位置づけ
卵巣がん再発例に対する選択肢
胃がん進行・再発例での使用
膵臓がん併用療法の一部

適応患者の全身状態評価

イリノテカン塩酸塩水和物の使用を検討する際には患者さんの全身状態(パフォーマンスステータス)を慎重に評価することが大切です。

一般的にパフォーマンスステータスPS 0〜2の患者さんが本剤の適応対象となり、PS 3以上の患者さんでは副作用リスクが高まるため使用には特別な配慮が必要となります。

また肝機能・腎機能・骨髄機能などの臓器機能も重要な判断基準となります。

パフォーマンスステータスイリノテカン使用の考え方
PS 0-1積極的に使用を検討
PS 2慎重に使用を判断
PS 3-4原則として使用を避ける

併存疾患への配慮

イリノテカン塩酸塩水和物を使用する患者さんでは併存疾患の有無とその程度を十分に考慮する必要があります。

特に重度の肝機能障害や腎機能障害を有する患者さんでは本剤の代謝や排泄に影響を与える可能性があるため慎重な投与が求められます。

加えて感染症・心疾患・糖尿病などの合併症を持つ患者さんにおいてもそれぞれの疾患の状態を見極めながら本剤の使用を判断します。

  • 肝機能障害(重度)
  • 腎機能障害(重度)
  • 活動性感染症
  • コントロール不良の糖尿病

高齢患者さんへの配慮

高齢の患者さんにイリノテカン塩酸塩水和物を使用する際は個々の患者さんの生理機能や併存疾患を考慮し 慎重に適応を判断します。

一般的に高齢者では臓器機能の低下や予備能の減少により副作用のリスクが高まる傾向にあります。

しかし暦年齢のみで判断するのではなく、患者さんの生物学的年齢や全身状態を総合的に評価して個別化した投与計画を立てることが重要です。

年齢層考慮すべき点
65-74歳通常量で開始し 状態を観察
75歳以上減量開始を検討 慎重に増量

イリノテカン塩酸塩水和物の副作用とデメリット

消化器系への影響

イリノテカン塩酸塩水和物による治療で最も頻繁に観察される副作用は消化器系の症状です。

特に下痢は高頻度で発現し、なかでも早発性下痢と遅発性下痢の2つのタイプがあります。

早発性下痢は投与直後から数日以内に現れてコリン作動性の機序によるものと考えられています。

一方で遅発性下痢は投与後5日目以降に発現して腸管粘膜障害に起因すると推測されています。

下痢のタイプ発現時期主な機序
早発性下痢投与直後〜数日コリン作動性
遅発性下痢投与5日目以降腸管粘膜障害

骨髄抑制のリスク

イリノテカン塩酸塩水和物は骨髄抑制を引き起こす可能性があり白血球減少・好中球減少・血小板減少・貧血などが生じることがあります。

これらの副作用は感染リスクの上昇や出血傾向 倦怠感などにつながる可能性があるため定期的な血液検査によるモニタリングが重要です。

骨髄抑制の程度は個人差が大きく投与量や患者さんの年齢・全身状態などによって影響を受けます。

骨髄抑制の種類主な症状リスク
白血球減少発熱感染症
血小板減少出血傾向出血
貧血倦怠感QOL低下

肝機能障害と腎機能障害

イリノテカン塩酸塩水和物の代謝や排泄に関与する肝臓と腎臓の機能に影響を与えることがあります。

肝機能障害はトランスアミナーゼの上昇やビリルビン値の増加として現れて重症化すると黄疸や肝不全を引き起こす可能性があります。

腎機能障害は比較的稀ですが尿細管障害や急性腎不全の報告があるため注意が必要です。

  • AST(GOT)上昇
  • ALT(GPT)上昇
  • 血中クレアチニン上昇
  • BUN上昇

皮膚症状と脱毛

イリノテカン塩酸塩水和物による治療中は様々な皮膚症状が現れることがあります。なかでも発疹・掻痒感・色素沈着などが比較的よく見られる症状です。

脱毛は患者さんのQOLに大きな影響を与える副作用の一つで多くの患者さんで程度の差はあれ発現します。

皮膚症状発現頻度対処法
発疹比較的高頻度ステロイド外用薬
脱毛高頻度冷却キャップ
色素沈着中等度日光遮断

間質性肺炎のリスク

イリノテカン塩酸塩水和物による治療中は稀ではありますが重篤な副作用として間質性肺炎が報告されています。

間質性肺炎は急速に進行する可能性があり早期発見と迅速な対応が患者さんの予後を左右します。

咳嗽・呼吸困難・発熱などの症状が現れた際は直ちに担当医に相談するよう患者さんに指導することが大切です。

間質性肺炎の症状対応予後因子
乾性咳嗽即時報告早期発見
呼吸困難投与中止迅速な治療
発熱ステロイド投与基礎肺疾患

論文における使用経験報告によるとイリノテカン塩酸塩水和物による治療中に発生した間質性肺炎の症例において早期のステロイド投与と酸素療法の併用により良好な転帰が得られたケースが報告されています。

この経験は副作用の早期発見と適切な対応の重要性を示唆しています。

心血管系への影響

イリノテカン塩酸塩水和物は心血管系にも影響を与える可能性があります。特に注意すべき副作用としてQT間隔の延長や不整脈が挙げられます。

これらの副作用は既存の心疾患を有する患者さんや電解質異常を伴う患者さんでリスクが高まるため治療開始前および治療中の心電図モニタリングが重要です。

心血管系副作用リスク因子モニタリング
QT延長電解質異常定期的心電図
不整脈既存心疾患ホルター心電図
血圧変動脱水血圧測定

このようにイリノテカン塩酸塩水和物の副作用は多岐にわたり時に重篤な転帰をたどる可能性があります。

代替治療薬

オキサリプラチンベースの治療

イリノテカン塩酸塩水和物による治療が効果を示さない状況ではオキサリプラチンを中心とした治療レジメンへの変更を検討します。

オキサリプラチンは白金系抗悪性腫瘍薬に分類され、DNAの架橋形成を通じてがん細胞の増殖を抑制します。

特に大腸がんにおいてイリノテカン耐性後の二次治療や三次治療として広く用いられています。

治療レジメン構成薬剤主な適応
FOLFOXオキサリプラチン + 5-FU/LV大腸がん
XELOXオキサリプラチン + カペシタビン結腸・直腸がん
SOXオキサリプラチン + S-1胃がん

分子標的薬による治療

イリノテカン抵抗性となった腫瘍に対しては分子標的薬の使用が有効な選択肢となり得ます。

特に血管新生阻害薬や上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬は従来の細胞傷害性抗がん剤とは異なる作用機序を持ち、新たな治療の可能性を提供します。

これらの薬剤は単独使用よりも従来の化学療法との併用で用いられることが多く相乗効果を期待します。

  • ベバシズマブ(抗VEGF抗体)
  • セツキシマブ(抗EGFR抗体)
  • パニツムマブ(抗EGFR抗体)
  • レゴラフェニブ(マルチキナーゼ阻害薬)

免疫チェックポイント阻害薬

近年免疫チェックポイント阻害薬が様々ながん種で効果を示しており、イリノテカン耐性後の新たな治療オプションとして注目を集めています。

これらの薬剤はがん細胞が免疫システムから逃れるために利用している経路を遮断して体の免疫力を活性化させることでがんを攻撃します。

特にマイクロサテライト不安定性(MSI)が高い大腸がんなどでは顕著な効果が報告されています。

薬剤名標的分子主な適応がん種
ニボルマブPD-1肺がん・悪性黒色腫
ペムブロリズマブPD-1MSI-H固形がん
イピリムマブCTLA-4悪性黒色腫

TAS-102(トリフルリジン/チピラシル塩酸塩配合剤)

大腸がんの後期治療においてイリノテカンやオキサリプラチンに抵抗性を示した症例に対してTAS-102が新たな選択肢として登場しました。

この薬剤はヌクレオシド系抗悪性腫瘍薬であるトリフルリジンとチピラシル塩酸塩(トリフルリジン分解酵素阻害薬)の配合剤です。

DNAに取り込まれることで細胞死を誘導してイリノテカンやオキサリプラチンとは異なる機序で抗腫瘍効果を発揮します。

成分作用機序特徴
トリフルリジンDNAへの取り込み細胞死誘導
チピラシル塩酸塩酵素阻害トリフルリジン分解抑制

FOLFIRINOX療法

膵臓がんなど一部の難治性がんにおいてイリノテカン単独での効果が不十分な場合FOLFIRINOX療法への移行を検討します。

この療法は5-FU・オキサリプラチン・イリノテカンを組み合わせた強力な多剤併用療法です。

イリノテカン単独では効果が限定的であった症例でも他剤との相乗効果により治療効果が得られる可能性があります。

構成薬剤略称主な役割
5-フルオロウラシル5-FUDNA/RNA合成阻害
オキサリプラチンL-OHPDNA架橋形成
イリノテカンCPT-11トポイソメラーゼI阻害

論文における使用経験報告によると進行膵臓がんに対するFOLFIRINOX療法においてイリノテカン単独療法で進行を示した症例でも約30%の奏効率が得られたとの結果が示されています。

この知見は多剤併用療法の潜在的な有効性を示唆しており個々の薬剤への耐性を克服する可能性を提示しています。

経口フッ化ピリミジン系薬剤

イリノテカンによる治療が困難となった患者さんにおいて経口フッ化ピリミジン系薬剤への切り替えが選択肢の一つとなります。

これらの薬剤は服用の簡便さと比較的軽度な副作用プロファイルから特に全身状態が不良な患者さんや高齢者において有用性が高いです。

代表的な薬剤にはS-1やカペシタビンが挙げられ単独使用や他剤との併用で使用されます。

  • S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)
  • カペシタビン
  • UFT(テガフール・ウラシル配合剤)
  • ドキシフルリジン

このようにイリノテカン塩酸塩水和物による治療が効果を示さない場合でも多様な代替治療薬が存在します。

患者さんの全身状態、がんの種類や進行度、前治療歴などを総合的に評価して個々の症例に最適な次の一手を選択することが重要です。

また新規薬剤の開発や併用療法の最適化研究が進んでおり今後さらなる治療選択肢の拡大が期待されます。

イリノテカン塩酸塩水和物の併用禁忌

アタザナビル硫酸塩との相互作用

イリノテカン塩酸塩水和物とアタザナビル硫酸塩の併用は絶対に避けなければなりません。

アタザナビル硫酸塩はHIV治療に用いられるプロテアーゼ阻害薬ですがイリノテカンの代謝に関与するUGT1A1酵素を強力に阻害します。

この相互作用によりイリノテカンの活性代謝物であるSN-38の血中濃度が著しく上昇し重篤な副作用を引き起こす危険性があります。

薬剤名主な用途併用時のリスク
アタザナビル硫酸塩HIV治療SN-38濃度上昇
イリノテカン抗がん剤重篤な副作用

ニトロイミダゾール系抗菌薬との併用

イリノテカン塩酸塩水和物とニトロイミダゾール系抗菌薬の併用も避けるべきです。

代表的なニトロイミダゾール系抗菌薬としてメトロニダゾールがありますが、これらの薬剤はイリノテカンの代謝を阻害してその血中濃度を上昇させる恐れがあります。

結果として骨髄抑制や下痢などの副作用が増強される危険性があるのです。

  • メトロニダゾール
  • チニダゾール
  • セクニダゾール

セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)との相互作用

セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)はうつ病の民間療法として使用されることがありますが、イリノテカン塩酸塩水和物との併用は避けるべきです。

セイヨウオトギリソウはCYP3A4酵素を誘導してイリノテカンの代謝を促進するためイリノテカンの血中濃度が低下し抗腫瘍効果が減弱する可能性があります。

相互作用物質影響結果
セイヨウオトギリソウCYP3A4誘導イリノテカン濃度低下
イリノテカン代謝促進抗腫瘍効果減弱

ワルファリンカリウムとの併用注意

イリノテカン塩酸塩水和物とワルファリンカリウムの併用には十分な注意が必要です。

なぜかというと両剤の併用によりワルファリンの抗凝固作用が増強される可能性があります。

このため出血リスクが高まる恐れがあり併用する場合は頻回のINRモニタリングと用量調整が重要です。

薬剤作用併用時のリスク
イリノテカン抗がん作用
ワルファリン抗凝固作用出血リスクの上昇

CYP3A4阻害剤との相互作用

イリノテカン塩酸塩水和物はCYP3A4酵素によって代謝されるためCYP3A4阻害作用を持つ薬剤との併用には注意が必要です。

これらの薬剤との併用によりイリノテカンの血中濃度が上昇し副作用が増強されるリスクがあります。

特に強力なCYP3A4阻害剤との併用は避けるべきであり、中程度の阻害剤との併用時も慎重な経過観察が重要です。

  • ケトコナゾール
  • イトラコナゾール
  • クラリスロマイシン
  • リトナビル

UGT1A1阻害剤との併用リスク

イリノテカン塩酸塩水和物の代謝にはUGT1A1酵素も関与しておりUGT1A1阻害作用を持つ薬剤との併用にも注意が必要です。

これらの薬剤との併用によりイリノテカンの活性代謝物であるSN-38の血中濃度が上昇して副作用が増強される可能性があります。

特にUGT1A1*28多型を有する患者さんではより慎重な対応が求められます。

UGT1A1阻害剤主な用途併用時のリスク
アトルバスタチン高脂血症治療SN-38濃度上昇
プロベネシド高尿酸血症治療副作用増強

放射線療法との併用時の注意点

イリノテカン塩酸塩水和物と放射線療法の併用は一部のがん種で有効性が報告されていますが同時に副作用のリスクも高まります。

特に照射部位が腹部や骨盤領域の場合は消化器系の副作用が増強される傾向にあります。

そのため併用する際は患者さんの全身状態を慎重に評価して適切な間隔をあけるなどの工夫が重要です。

併用療法期待される効果注意すべき副作用
イリノテカン + 放射線相乗的抗腫瘍効果消化器毒性増強
逐次療法副作用リスク軽減治療期間延長

このように イリノテカン塩酸塩水和物の使用にあたっては併用薬や補完療法、他の治療モダリティとの相互作用に十分な注意を払う必要があります。

患者さんの既往歴や併用薬、さらには遺伝子多型などの個人差も考慮して慎重に投与計画を立てることが安全で効果的な治療につながります。

イリノテカン塩酸塩水和物の薬価

薬価

イリノテカン塩酸塩水和物の薬価は規格によって異なります。

40mg製剤では1瓶あたり1,355〜1,968円、100mg製剤では1瓶あたり3,153〜4,453円です。

規格薬価
40mg1,355〜1,968円
100mg3,153〜4,453円

処方期間による総額

処方期間と投与量により総額は変動します。

一般的な体表面積1.4m2の方に、1週間処方で100mg/m2を4回投与する場合の金額は18,032〜25,684円となります。

1週間投与し、2週間休薬するのが一般的であり、3ヶ月処方で同様の投与を行うと4クール行う事となり、54,096〜77,052円に達します。

期間投与回数総額
1週間4回18,032〜25,684円
3ヶ月12回54,096〜77,052円
  • 体重や体表面積による用量調整
  • 併用薬剤による追加費用

ジェネリック医薬品との比較

イリノテカン塩酸塩水和物にはジェネリック医薬品が存在します。

ジェネリック医薬品の薬価は先発品の6〜7割程度になり、100mg製剤で2388〜2460円です。

製品100mg薬価
先発品3,153〜4,453円
ジェネリック2388〜2460円
  • 医療機関による採用状況の違い
  • 患者さんの選択可能性

なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文