シスプラチン(ランダ)とは肺がんをはじめとする様々な悪性腫瘍の治療に用いられる抗がん剤です。
この薬剤はがん細胞のDNAに結合してその増殖を抑制する働きを持っています。
シスプラチンはその効果の高さから「プラチナ製剤の王様」とも呼ばれ、多くの患者さんの治療に貢献してきました。
一方で副作用への対策も重要となるため専門医による綿密な経過観察が必要です。
有効成分と作用機序 効果について
シスプラチンの有効成分
シスプラチン(CDDP)の有効成分はシス-ジアミンジクロロ白金(II)という化合物です。
この物質は無機白金錯体に分類され、その構造が抗がん作用の鍵となっています。
化学式 | 分子量 |
PtCl₂(NH₃)₂ | 300.05 g/mol |
白金原子を中心にアンモニア分子とクロロ基が配位した正方形平面構造を持つことが特徴的です。
作用機序の詳細
シスプラチンの作用機序は DNA と強く結合することによって発揮されます。
体内に投与されたシスプラチンは血液中の塩化物イオン濃度が低い細胞内に入ると活性化された状態に変化します。
- 水和反応によるクロロ基の脱離
- 正電荷を帯びた反応性の高い白金複合体の形成
活性化されたシスプラチンはDNAの主にグアニン塩基と共有結合を形成しDNA 鎖内および鎖間の架橋を引き起こします。
DNA損傷の種類 | 割合 |
鎖内架橋 | 約90% |
鎖間架橋 | 約5-10% |
この架橋形成によりDNA の複製や転写が阻害され結果としてがん細胞の増殖が抑制されるのです。
がん細胞に対する効果
シスプラチンの抗腫瘍効果は幅広い種類のがんに対して認められています。
特に精巣がん・卵巣がん・膀胱がん・頭頸部がん・非小細胞肺がんなどの固形がんに対して高い有効性を示します。
がんの種類 | 奏効率 |
精巣がん | 70-80% |
卵巣がん | 50-60% |
非小細胞肺がん | 20-30% |
がん細胞のDNA に損傷を与えることで細胞周期の停止やアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導して腫瘍の縮小や進行抑制をもたらすのです。
免疫系への影響
近年の研究ではシスプラチンが免疫系に与える影響も注目されています。
- 腫瘍特異的T細胞の活性化
- 制御性T細胞の減少
- 樹状細胞の成熟促進
これらの作用により体の免疫システムががん細胞を認識して攻撃する能力が高まる可能性があります。
免疫細胞の種類 | シスプラチンの影響 |
T細胞 | 活性化 |
樹状細胞 | 成熟促進 |
このような免疫調節作用は他の免疫療法との併用効果を期待する根拠となっています。
相乗効果と併用療法
シスプラチンは単独での使用に加え他の抗がん剤や放射線療法との併用で相乗効果を発揮することがあります。
例えば非小細胞肺がんの治療ではペメトレキセドやゲムシタビンとの併用療法が標準的に行われています。
併用薬 | 対象がん |
ペメトレキセド | 非小細胞肺がん |
ゲムシタビン | 膵臓がん |
また放射線療法との併用ではシスプラチンが放射線増感剤として働き治療効果を高めることが知られています。
これらの併用療法により単独使用時よりも高い腫瘍縮小効果や生存期間の延長が期待できます。
使用方法と注意点
投与経路と用量設定
シスプラチン(ランダ)は主に静脈内投与で使用します。
通常成人には1日1回の頻度で50〜100 mg/m²(体表面積)を投与しますが患者さんの状態や併用薬によって調整が必要です。
投与方法 | 標準的な投与量 |
単独療法 | 50-100 mg/m² |
併用療法 | 60-80 mg/m² |
投与間隔は3〜4週間ごとが一般的ですが腫瘍の種類や治療レジメンによって変更することもあります。
- 3週間ごと 高用量投与
- 毎週 低用量投与
前処置と水分管理
シスプラチン投与前には十分な水分補給が重要です。
腎臓への負担を軽減するため投与前後に大量の輸液を行い尿量を確保するためです。
時期 | 輸液量 |
投与前 | 1000-2000 mL |
投与後 | 2000-3000 mL |
制吐剤の予防投与も必須でセロトニン5-HT3受容体拮抗薬やステロイドを組み合わせて使用します。
- セロトニン5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロンなど)
- デキサメタゾン
- アプレピタント(NK1受容体拮抗薬)
投与中のモニタリング
シスプラチン投与中は患者さんの状態を慎重に観察することが大切で特に腎機能と電解質バランスのチェックを頻繁に行い異常の早期発見に努めます。
検査項目 | 頻度 |
血清クレアチニン | 毎週 |
電解質 | 毎週 |
血球数 | 1-2週ごと |
投与中に気分不快や呼吸困難などの症状が現れた場合は直ちに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。
妊娠・授乳への影響
シスプラチンは胎児に重大な影響を与える可能性があるため 妊娠中の使用は避けるべきです。
治療中および治療後一定期間は確実な避妊が必要です。
性別 | 避妊期間 |
女性 | 治療終了後6ヶ月 |
男性 | 治療終了後3ヶ月 |
授乳中の患者さんには薬剤が母乳に移行する可能性があるため授乳を中止するよう指導します。
適応対象となる患者
固形がんを有する患者
シスプラチン(ランダ)は広範囲の固形がんに対して効果を発揮する抗がん剤で特に肺がん・卵巣がん・精巣がん・膀胱がん・頭頸部がんなどの患者さんに対して高い有効性を示します。
がんの種類 | 主な適応 |
肺がん | 非小細胞肺がん |
卵巣がん | 上皮性卵巣がん |
精巣がん | 胚細胞腫瘍 |
膀胱がん | 進行性尿路上皮がん |
これらのがん種において腫瘍の進行度や全身状態を考慮してシスプラチンの使用を検討します。
化学療法の適応となる全身状態の患者
シスプラチンによる化学療法を受けるためには十分な臓器機能と全身状態を保持していることが必須です。
一般的に ECOGパフォーマンスステータス(PS)が0〜2の患者さんが適応となります。
PS | 状態 |
0 | 全く問題なく活動できる |
1 | 軽度の症状があるが歩行可能 |
2 | 日中の50%未満をベッドで過ごす |
また腎機能・肝機能・骨髄機能が一定以上に保たれていることが必要です。
- 腎機能 クレアチニンクリアランス60 mL/min以上が望ましい
- 肝機能 AST・ALT・総ビリルビンが基準値の2.5倍以下
- 骨髄機能 好中球1500/μL以上、血小板10万/μL以上
併用療法の対象となる患者
多くのケースで シスプラチンは他の抗がん剤と組み合わせて使用されます。例えば非小細胞肺がんではペメトレキセドやゲムシタビンとの併用が標準的です。
がん種 | 併用薬 |
非小細胞肺がん | ペメトレキセド |
膵臓がん | ゲムシタビン |
頭頸部がん | フルオロウラシル |
これらの併用療法に耐えうる体力と臓器機能を有する患者さんが対象となります。
再発・転移がん患者
初回治療後に再発や転移をきたした患者さんでもシスプラチンの使用を考慮することがあります。
特にプラチナ感受性再発と呼ばれる前回のプラチナ製剤による治療から6ヶ月以上経過して再発した症例では再度シスプラチンを用いることが多いです。
再発形式 | プラチナフリーインターバル |
プラチナ感受性 | 6ヶ月以上 |
プラチナ抵抗性 | 6ヶ月未満 |
ただし累積投与量や前回の副作用の程度を慎重に評価する必要があります。
放射線療法との併用が有効な患者
シスプラチンは放射線増感作用を持つため放射線療法と併用することで効果を高められる場合があります。
頭頸部がんや子宮頸がんなどでは根治的放射線療法にシスプラチンを併用することが標準的です。
がん種 | 放射線療法の種類 |
頭頸部がん | 外部照射 |
子宮頸がん | 外部照射+腔内照射 |
この場合には放射線治療に耐えうる全身状態であることに加え腫瘍の進展範囲や年齢なども考慮して適応を判断します。
治療期間
標準的な投与サイクル
シスプラチン(ランダ)の治療期間はがんの種類・進行度・患者さんの全身状態によって大きく異なります。
一般的には3〜4週間を1サイクルとして4〜6サイクルの投与を行うことが多いです。
がん種 | 標準的なサイクル数 |
非小細胞肺がん | 4-6サイクル |
卵巣がん | 6サイクル |
精巣がん | 3-4サイクル |
頭頸部がん | 3サイクル |
これらのサイクル数はあくまでも目安であり個々の患者さんの状況に応じて増減することがあります。
投与間隔の調整
シスプラチンの投与間隔は副作用の発現状況や骨髄機能の回復具合によって調整が必要になることがあります。
通常は好中球数が1500/μL以上、血小板数が10万/μL以上に回復するまで次のサイクルを延期します。
副作用 | 投与間隔の延長 |
骨髄抑制 | 1-2週間 |
腎機能障害 | 2-4週間 |
神経毒性 | 症状改善まで |
延期が長期化する際は減量や他の薬剤への変更を検討することもあります。
治療効果判定のタイミング
シスプラチンを含む化学療法の効果判定は通常2〜3サイクル終了後に行います。
具体的には画像検査や腫瘍マーカーの推移を総合的に評価して治療の継続や変更を判断します。
効果判定 | 判断基準 |
CR | 病変の完全消失 |
PR | 30%以上の縮小 |
SD | PR未満〜PD未満 |
PD | 20%以上の増大 |
効果が認められる場合は予定のサイクル数まで治療を継続し、その後の方針を決定します。
- 奏効例では維持療法への移行を検討
- 進行例では他の治療法への変更を考慮
長期投与における注意点
シスプラチンの長期投与では累積毒性に注意が必要です。
特に聴覚障害や末梢神経障害は投与回数が増えるほどリスクが高まるため 定期的な評価が重要です。
累積投与量 | リスク |
300 mg/m²未満 | 低リスク |
300-600 mg/m² | 中等度リスク |
600 mg/m²超 | 高リスク |
長期投与を行う際は 患者さんのQOLを考慮しながら 慎重に継続の是非を判断します。
維持療法の期間
一部のがん種では初期治療後に維持療法としてシスプラチンを継続使用することがあります。
卵巣がんなどでは完全奏効が得られた後も数ヶ月間の維持療法を行うことで無増悪生存期間の延長が期待できます。
維持療法の種類 | 期間 |
単剤維持 | 6-12ヶ月 |
併用維持 | 3-6ヶ月 |
ただし維持療法の期間は個々の患者さんの状況や忍容性を考慮して決定する必要があります。
論文の使用経験報告によるとシスプラチンとペメトレキセドの併用療法を6サイクル実施後に部分奏効が得られた進行非小細胞肺がんの患者さんがいました。
その後ペメトレキセド単剤による維持療法を1年間継続したところ長期の無増悪生存が得られたという報告がありました。
この経験から個々の患者さんに合わせた柔軟な治療期間の設定が長期予後の改善につながる可能性を実感しました。
シスプラチンの副作用やデメリット
消化器系の副作用
CDDP(ランダ)投与後に最も頻繁に見られる副作用の一つが消化器症状です。
特に悪心・嘔吐は患者さんのQOLを著しく低下させる要因となるため予防的な制吐剤の使用が標準的になっています。
副作用 | 発現頻度 |
悪心 | 70-80% |
嘔吐 | 60-70% |
食欲不振 | 50-60% |
下痢 | 20-30% |
これらの症状は投与直後から数日間持続することがあり患者さんの栄養状態や体力低下につながる恐れがあります。
- 悪心・嘔吐の予防には5-HT3受容体拮抗薬やNK1受容体拮抗薬を併用
- 食事の工夫や栄養補助食品の利用で栄養状態の維持を図る
腎機能障害
シスプラチンによる腎機能障害は用量依存性で累積投与量の増加とともにリスクが高まります。
腎尿細管障害が主な機序であり、電解質異常や急性腎不全を引き起こす可能性があります。
腎機能指標 | 異常値の目安 |
血清クレアチニン | 基準値の1.5倍以上 |
クレアチニンクリアランス | 30%以上の低下 |
腎機能障害の予防には十分な水分補給が重要ですが、それでも10-20%の患者さんで何らかの腎機能低下が見られます。
- 投与前後の輸液療法の実施
- 腎保護薬(マンニトールなど)の併用を検討
骨髄抑制
シスプラチンは造血幹細胞に対して強い毒性を示し投与後1-2週間で血球減少が顕在化します。
特に白血球減少と血小板減少は感染症や出血のリスクを高めるため慎重なモニタリングが必要です。
血球種類 | 減少の程度 |
白血球 | グレード 3-4 30-40% |
血小板 | グレード 3-4 20-30% |
赤血球 | グレード 2-3 40-50% |
骨髄抑制の管理にはG-CSF製剤の予防的投与や輸血サポートなどが考慮されます。
- 発熱性好中球減少症の予防と早期対応
- 血小板数10万/μL以下での出血予防策の実施
聴覚障害
シスプラチンによる聴覚障害は蝸牛の外有毛細胞障害に起因して高音域から障害が進行します。
この副作用は不可逆的であることが多く、患者さんのQOLに長期的な影響を与える可能性があります。
聴力低下の程度 | 累積投与量 |
軽度(20-40 dB) | 200-400 mg/m² |
中等度(40-60 dB) | 400-600 mg/m² |
重度(60 dB以上) | 600 mg/m²以上 |
聴覚障害の予防は困難ですが定期的な聴力検査による早期発見と投与量の調整が重要です。
- 高周波数聴力検査の定期的実施
- 耳鳴りや難聴の自覚症状の確認
末梢神経障害
シスプラチンによる末梢神経障害は主に感覚神経を侵し手足の先端から始まる異常感覚や痛みとして現れます。
この症状は投与量依存性で累積投与量が増えるほど発症リスクと重症度が上昇します。
神経障害の重症度 | 症状 |
グレード1 | 軽度の感覚異常 |
グレード2 | 日常生活に支障のある感覚異常 |
グレード3 | 高度の感覚・運動障害 |
末梢神経障害は投与終了後も長期間持続することがあり患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。
- ビタミンB群やグルタミン製剤の予防的投与を検討
- 症状出現時の減量や投与間隔の延長を考慮
論文における使用経験報告によると進行卵巣がん患者さんへのシスプラチン投与において積極的な水分管理と予防的制吐剤を使用しました。
するとグレード3以上の腎機能障害や重度の悪心・嘔吐の発生率を5%未満に抑えることができたという報告があります。
この経験から副作用の予防と早期対応の重要性、そして個々の患者さんに合わせた細やかな管理の必要性を再認識しました。
CDDPの効果がなかった場合の代替治療薬
他のプラチナ製剤
シスプラチン(CDDP)が効果を示さない状況ではまず他のプラチナ製剤への変更を検討します。
カルボプラチンやオキサリプラチンといった同系統の薬剤はシスプラチンと類似した作用機序を持ちながら副作用プロファイルが異なるため代替選択肢となり得ます。
薬剤名 | 特徴 |
カルボプラチン | 腎毒性が低い |
オキサリプラチン | 消化器系がんに有効 |
これらの薬剤はシスプラチン耐性となった腫瘍に対しても効果を示すことがあります。
- カルボプラチン 腎機能低下患者さんに使用しやすい
- オキサリプラチン 大腸がんや膵臓がんで高い有効性
非プラチナ系抗がん剤
プラチナ製剤全般に耐性を示す腫瘍に対しては作用機序の異なる非プラチナ系抗がん剤への切り替えが選択肢となります。
タキサン系薬剤やトポイソメラーゼ阻害剤などが代表的な代替薬です。
薬剤クラス | 代表的な薬剤 |
タキサン系 | パクリタキセル・ドセタキセル |
トポイソメラーゼ阻害剤 | イリノテカン・エトポシド |
これらの薬剤はがん種や患者さんの状態に応じて選択されます。
分子標的薬
近年がんの分子生物学的特性に基づいた分子標的薬が急速に発展していてシスプラチン耐性例に対する新たな選択肢となっています。
EGFR阻害剤・ALK阻害剤・VEGF阻害剤などが代表的です。
標的分子 | 薬剤例 |
EGFR | エルロチニブ ゲフィチニブ |
ALK | クリゾチニブ アレクチニブ |
VEGF | ベバシズマブ ラムシルマブ |
これらの薬剤は 腫瘍の遺伝子変異や発現タンパクに基づいて選択されるため個別化医療の一環として重要です。
- 遺伝子パネル検査による適応判断
- バイオマーカーに基づく治療選択
免疫チェックポイント阻害剤
免疫チェックポイント阻害剤はがん細胞に対する免疫応答を活性化させることで抗腫瘍効果を発揮します。
シスプラチン耐性例においても新たな治療オプションとして注目されています。
標的分子 | 薬剤例 |
PD-1 | ニボルマブ ペムブロリズマブ |
PD-L1 | アテゾリズマブ デュルバルマブ |
CTLA-4 | イピリムマブ |
これらの薬剤は幅広いがん種で効果が認められており従来の化学療法とは異なるアプローチで腫瘍を制御します。
- PD-L1発現率による効果予測
- 複合免疫療法の可能性
抗体薬物複合体(ADC)
抗体薬物複合体はモノクローナル抗体と細胞毒性のある薬物を結合させた新しいタイプの抗がん剤です。
がん細胞特異的に薬物を送達することで高い効果と低い全身毒性を両立させています。
標的抗原 | 薬剤例 |
HER2 | トラスツズマブ・エムタンシン |
CD33 | ゲムツズマブ・オゾガマイシン |
CD22 | イノツズマブ・オゾガマイシン |
これらのADCはシスプラチン耐性となった後の新たな治療選択肢として期待されています。
- 高い腫瘍選択性
- 従来の抗体医薬より強力な抗腫瘍効果
使用経験報告を挙げるとシスプラチン耐性の再発卵巣がん患者さんに対しペグ化リポソーマルドキソルビシンとベバシズマブの併用療法を行いました。
その結果約40%の患者さんで部分奏効以上の効果が得られたのです。
この経験からシスプラチン耐性例においても新規薬剤や既存薬の新しい組み合わせによって治療効果を引き出せる可能性があることを実感しました。
CDDPの併用禁忌
腎毒性を有する薬剤との併用
シスプラチン(ランダ)は強い腎毒性を持つため、同様に腎機能に悪影響を及ぼす薬剤との併用には十分な注意が必要です。
特にアミノグリコシド系抗生物質やバンコマイシンなどの腎毒性の強い抗菌薬との同時使用は避けるべきです。
薬剤クラス | 代表的な薬剤名 |
アミノグリコシド系 | ゲンタマイシン・トブラマイシン |
グリコペプチド系 | バンコマイシン・テイコプラニン |
これらの薬剤とシスプラチンを併用すると急性腎不全のリスクが著しく上昇します。
- 感染症治療が必要な際は非腎毒性の抗菌薬を選択
- やむを得ず使用する場合は投与間隔を十分にあける
聴器毒性を増強する薬剤
シスプラチンによる聴覚障害は累積的かつ不可逆的であるため聴器毒性を持つ他の薬剤との併用には慎重を期す必要があります。
特にアミノグリコシド系抗生物質やループ利尿薬との同時使用は聴覚障害のリスクを相乗的に高める可能性があります。
薬剤クラス | 影響 |
アミノグリコシド系抗生物質 | 内耳有毛細胞障害 |
ループ利尿薬 | 内リンパ液組成変化 |
これらの薬剤を使用する際は聴力検査を頻回に行い早期に異常を検出することが重要です。
神経毒性を増強する薬剤
シスプラチンは末梢神経障害を引き起こすことがあるため他の神経毒性を有する薬剤との併用には注意が必要です。
特にビンカアルカロイド系やタキサン系の抗がん剤、また糖尿病治療薬のメトホルミンとの併用では神経障害のリスクが増大する危険性が生じます。
薬剤クラス | 代表的な薬剤名 |
ビンカアルカロイド系 | ビンクリスチン・ビノレルビン |
タキサン系 | パクリタキセル・ドセタキセル |
これらの薬剤との併用を避けられない場合は神経学的な評価を定期的に行い症状の早期発見に努めます。
- 手足のしびれや痛みの有無を頻繁に確認
- 神経伝導速度検査の定期的実施を検討
腎排泄型薬剤との相互作用
シスプラチンは腎機能を低下させるため主に腎臓から排泄される薬剤の血中濃度を上昇させる危険性があります。
例えばブレオマイシンやメトトレキサートなどの抗がん剤、またはアミノグリコシド系抗生物質との併用では注意深いモニタリングが必要です。
薬剤名 | 主な排泄経路 |
ブレオマイシン | 腎排泄 |
メトトレキサート | 腎排泄 |
ゲンタマイシン | 腎排泄 |
これらの薬剤を併用する際は投与量の調整や血中濃度のモニタリングを行うことが大切です。
フロセミドとの併用に関する注意点
フロセミドはシスプラチンの腎毒性を増強する可能性があるため併用には細心の注意が必要です。
一方でフロセミドはシスプラチンによる腎障害の予防にも用いられることがあり、その使用タイミングが重要になります。
使用タイミング | 目的 |
シスプラチン投与前 | 腎保護 |
シスプラチン投与中/直後 | 腎毒性増強のリスク |
フロセミドを使用する場合はシスプラチン投与の数時間前に限定し、投与中および直後の使用は避けるべきです。
- 尿量確保のためのフロセミド使用はシスプラチン投与3-4時間前まで
- シスプラチン投与後12時間はフロセミドの使用を控える
シスプラチン(ランダ)の薬価
薬価
シスプラチンの薬価は規格によって異なります。
10mg製剤で1,016円、25mg製剤で2,167円、50mg製剤で3,363円となっています。
規格 | 薬価 |
10mg | 1,016円 |
25mg | 2,167円 |
50mg | 3,363円 |
使用量は患者さんの体表面積や治療レジメンにより決定されるため個々の症例で総費用が変動します。
処方期間による総額
非小細胞肺癌の通常療法としては、70〜90mg/m2(体表面積)を1日1回投与し、少なくとも3週間休薬となっているため、体表面積1.5m2の方であれば、1週間の治療では通常105mg〜135mgを使用するため、7,742円〜9,909円の費用がかかります。
3ヶ月(4クール)の治療期間を想定すると4回の投与が行われるので総額は30,968円〜39,636円になります。
期間 | 概算費用 |
1週間 | 7,742円〜9,909円 |
3ヶ月 | 30,968円〜39,636円 |
ただし実際の費用は併用薬や支持療法の内容によっても変動します。
ジェネリック医薬品との比較
シスプラチンのジェネリック医薬品も存在していますが、先発品と価格は同様です。
製剤 | 50mg規格の薬価 |
先発品 | 3,363円 |
ジェネリック | 3,363円 |
- 医療機関によって採用状況が異なる
- 効果や安全性は先発品と同等
なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文
-
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