セリチニブ(ジカディア)とは非小細胞肺がんの治療に用いられる経口薬です。
特定の遺伝子変異を持つ患者さんに処方される分子標的薬の一種でがん細胞の増殖を抑制する働きがあります。
この薬剤は従来の抗がん剤と異なり、がん細胞を狙い撃ちにする特徴を持っています。
そのため正常な細胞への影響が比較的少なく副作用の軽減が期待できます。
ただし個々の患者さんの状態や症状によって効果や副作用の現れ方が異なるため医師の指示に従った服用が重要です。
有効成分と作用機序、効果
セリチニブの有効成分
セリチニブ(ジカディア)の有効成分は化学名セリチニブそのものであり、この物質が非小細胞肺がん治療において中心的な役割を果たします。
分子量558.14g/molを持つこの有効成分は体内で特定のタンパク質に作用してがん細胞の増殖を抑制する働きを持ちます。
項目 | 詳細 |
一般名 | セリチニブ |
化学式 | C28H36N5O3Cl |
分子量 | 558.14 g/mol |
セリチニブの作用機序
セリチニブは分子標的薬の一種でALK(アナプラスチックリンパ腫キナーゼ)という酵素を標的とします。
この薬剤はALK阻害剤として機能し、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん細胞の増殖シグナルを遮断します。
具体的には以下のような過程を経てがん細胞の増殖を抑制するのです。
- ALKタンパク質への結合
- ALKの自己リン酸化阻害
- 下流シグナル伝達経路の遮断
これらの作用によってがん細胞の生存と増殖に必要な信号が遮断され、結果としてがんの進行を抑制する効果が得られます。
作用段階 | 具体的な作用 |
第一段階 | ALKタンパク質への結合 |
第二段階 | ALKの自己リン酸化阻害 |
第三段階 | 下流シグナル伝達経路の遮断 |
セリチニブの薬物動態学的特性
セリチニブは経口投与後 消化管から吸収されて血中に移行します。
血中濃度のピークは服用後4〜6時間程度で現れ半減期は約41時間と比較的長いことで知られています。
この特性により1日1回の服用で効果が持続して患者さんの服薬負担軽減にもつながっています。
薬物動態パラメータ | 値 |
最高血中濃度到達時間 | 4〜6時間 |
半減期 | 約41時間 |
バイオアベイラビリティ | 約70% |
セリチニブの臨床効果
セリチニブの主な効果はALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおける腫瘍縮小と進行抑制です。
臨床試験では従来の化学療法と比較して高い奏効率と無増悪生存期間の延長が報告されています。
特にALK阻害剤による前治療歴のある患者さんにおいても効果を示すことが知られており二次治療以降の選択肢として重要な位置づけにあります。
具体的な臨床効果としては以下の通りです。
- 腫瘍縮小率の向上
- 無増悪生存期間の延長
- 全生存期間の改善傾向
- 脳転移巣に対する効果
効果指標 | セリチニブの優位性 |
奏効率 | 化学療法より高い |
無増悪生存期間 | 化学療法より延長 |
脳転移への効果 | 血液脳関門通過性あり |
これらの特性によりセリチニブはALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者さんの治療において中心的な役割を果たす薬剤として認識されています。
使用方法と注意点
セリチニブの投与方法
セリチニブ(ジカディア)は通常成人に対して1日1回450mgを経口投与します。
この薬剤は食事の影響を受けるため食事の約1時間前または食後2時間以降に服用することが推奨されます。
患者さんの状態や副作用の発現状況に応じて適宜用量調整を行うことが大切です。
投与量 | 服用タイミング |
450mg | 食前1時間または食後2時間以降 |
300mg(減量時) | 食前1時間または食後2時間以降 |
服用時の注意事項
錠剤は噛まずにそのまま十分な水で飲み込むようにしてください。
もし服用を忘れた際は次の定期服用時間までに12時間以上ある場合のみ気づいた時点で服用します。
12時間未満の場合はその回の服用を抜かして次の定期服用時間に1回分を服用するよう指導します。
- 錠剤は噛まずに水で飲む
- 服用忘れは12時間以内なら次回分から
- 2回分を同時に服用しない
モニタリングと経過観察
セリチニブ投与中は定期的な血液検査・肝機能検査・心電図検査などを実施して有害事象の早期発見に努めます。
特に投与開始初期は頻回のモニタリングが重要で患者さんの自覚症状の変化にも注意しなければなりません。
治療効果の評価には定期的な画像検査を行い腫獺サイズの変化や新病変の有無を確認します。
モニタリング項目 | 頻度 |
血液検査 | 2週間ごと |
肝機能検査 | 月1回 |
心電図検査 | 3ヶ月ごと |
画像検査 | 2-3ヶ月ごと |
患者教育と生活指導
セリチニブ治療を開始する際は患者さんとご家族に対して十分な説明を行わなければいけません。
副作用の初期症状や対処法、緊急時の連絡先などを具体的に伝えて不安なく治療に臨めるよう支援します。
日常生活における注意点として過度の飲酒を避けることや運転や機械操作時の注意喚起も大切です。
- 副作用の初期症状と対処法を説明
- 緊急時の連絡先を明確に伝える
- 生活習慣の見直しを指導
ある医師の臨床経験ではある患者さんが服薬管理アプリを活用してセリチニブの服用状況を確実に記録していました。
このアプリは服薬時間のアラーム機能だけでなく体調の変化も記録できるため副作用の早期発見にも役立ちました。
こうしたツールの活用は特に高齢の患者さんや多剤併用の方々にとって服薬管理を容易にし、治療の継続性向上につながる可能性があります。
長期投与における留意点
セリチニブの長期投与においては継続的な有効性評価と安全性モニタリングが重要です。
耐性獲得の可能性も考慮して定期的に治療効果を再評価する必要があります。
また長期の副作用やQOLへの影響にも注意を払い、必要に応じて支持療法を組み合わせることで患者さんの治療満足度を維持することが大切です。
長期投与の留意点 | 対応策 |
耐性獲得 | 定期的な効果再評価 |
長期副作用 | 継続的モニタリング |
QOL維持 | 支持療法の併用 |
適応対象となる患者
ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者
セリチニブ(ジカディア)は主にALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者さんに対して使用する薬剤です。
ALK融合遺伝子とは肺がん細胞の増殖を促進する異常な遺伝子で、この遺伝子変異を持つ患者さんがセリチニブの投与対象となります。
非小細胞肺がん全体の約3-5%の患者さんがこの遺伝子変異を有すると言われています。
ALK融合遺伝子 | 患者さん割合 |
陽性 | 3-5% |
陰性 | 95-97% |
初回治療および二次治療以降の患者
セリチニブは初回治療(ファーストライン)として使用できる薬剤であると同時に他のALK阻害剤による治療歴がある患者さんにも使用できます。
つまりALK融合遺伝子陽性と診断された直後の患者さんから他の治療で効果が得られなかった患者さんまで 幅広い治療段階の方々が適応対象となります。
特にクリゾチニブなどの第一世代ALK阻害剤に耐性を示した患者さんにおいても効果を発揮する可能性があります。
治療ライン | 適応 |
初回治療 | ○ |
二次治療以降 | ○ |
脳転移を有する患者
セリチニブは血液脳関門を通過する特性を持つため脳転移を有する非小細胞肺がん患者さんにも使用を検討します。
肺がんの脳転移は比較的高頻度に見られる合併症であり患者さんのQOLに大きな影響を与えるためこの薬剤の脳転移巣への効果は注目されています。
ただし脳転移の状態や症状によっては放射線療法などと組み合わせて治療を行う場合があります。
転移部位 | セリチニブの効果 |
肺原発巣 | ◎ |
脳転移巣 | ○ |
遺伝子検査による適応判断
セリチニブの使用を検討する際にはALK融合遺伝子の存在を確認するための遺伝子検査が必要です。
この検査には主に以下の方法があり患者さんの状態や腫瘍組織の採取可能性によって適切な検査方法を選択します。
- 免疫組織化学染色(IHC法)
- 蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH法)
- 次世代シークエンス(NGS)
検査結果が陽性であった患者さんがセリチニブの投与対象です。
検査方法 | 特徴 |
IHC法 | 迅速だが感度やや低い |
FISH法 | 高感度だが時間がかかる |
NGS | 複数遺伝子を同時に検査可能 |
全身状態を考慮した適応判断
セリチニブの投与を検討する際には患者さんの全身状態(パフォーマンスステータス PS)も重要な判断基準となります。
一般的にPS0-2の患者さんが投与対象となることが多くPS3-4の患者さんへの投与は慎重に検討します。
また肝機能や心機能などの臓器機能も考慮して重度の機能障害がある場合は投与を控える場合があります。
PS | 日常生活の状態 | セリチニブ投与 |
0-1 | ほぼ通常の生活可能 | 〇 |
2 | 日中の50%以上起床可能 | △ |
3-4 | 日中の50%以上就床 | × |
年齢や併存疾患による考慮
セリチニブの適応を判断する際 患者さんの年齢や併存疾患の有無も考慮します。
高齢者や複数の併存疾患を持つ患者さんでは薬物相互作用や副作用のリスクが高まる可能性があるため、より慎重な投与判断と綿密な経過観察が必要です。
ただし年齢のみを理由に投与を制限することはなく、個々の患者さんの状態を総合的に評価して判断します。
患者さん背景 | 注意点 |
高齢者 | 臓器機能低下に注意 |
併存疾患あり | 薬物相互作用に注意 |
以下のような併存疾患がある場合は特に注意が大切です。
- 間質性肺疾患の既往
- 重度の肝機能障害
- QT延長のリスク因子
これらの条件を総合的に評価してセリチニブ投与のベネフィットがリスクを上回ると判断された患者さんが 最終的な適応対象となります。
治療期間
治療開始から効果判定まで
セリチニブ(ジカディア)による治療を開始した後から最初の効果判定までの期間は通常8〜12週間程度です。
この期間は患者さんの症状や副作用の状況を慎重に観察しながら定期的な血液検査や画像検査を実施します。
効果判定では腫瘍の縮小や増大の有無、新たな転移巣の出現がないかなどを総合的に評価します。
項目 | 期間 |
治療開始から最初の効果判定 | 8〜12週 |
血液検査の頻度 | 2〜4週ごと |
画像検査の頻度 | 8〜12週ごと |
治療効果が認められた場合の継続期間
初回の効果判定で腫瘍縮小や症状改善が確認された場合はセリチニブの投与を継続します。
多くの患者さんでは病勢進行が認められるまで、または副作用により継続が困難になるまで治療を続けます。
臨床試験のデータによると無増悪生存期間(PFS)の中央値は約16.6ヶ月とされていますが個々の患者さんによって大きく異なります。
治療継続の条件 | 備考 |
腫瘍縮小 | PRまたはCR |
病勢安定 | SD |
副作用の管理可能 | Grade 1-2 |
長期投与における注意点
セリチニブの長期投与では治療効果の維持と副作用のバランスに注意を払う必要があります。
定期的な効果判定と副作用モニタリングを継続して必要に応じて用量調整を行います。
長期投与中の患者さんではQOLの維持も重要な課題となるため支持療法の併用や生活指導にも力を入れます。
長期投与の課題 | 対応策 |
副作用の蓄積 | 用量調整 休薬 |
耐性の出現 | 効果判定の頻度増加 |
QOLの低下 | 支持療法の強化 |
治療中止の判断
セリチニブによる治療中止を検討するのは主に以下のような状況です。
- 病勢の進行が明らかになった時
- 重篤な副作用が発現し 管理困難となった時
- 患者さんの全身状態が著しく悪化した時
- 患者さんが治療継続を希望しない時
中止の判断は慎重に行い次の治療オプションも考慮しながら患者さんやご家族と十分に相談します。
中止理由 | 頻度 |
病勢進行 | 高い |
副作用 | 中程度 |
全身状態悪化 | 低い |
患者さん希望 | 低い |
治療後の経過観察期間
セリチニブによる治療を中止した後も一定期間の経過観察が大切です。
特に他の治療法への移行を検討する際の情報収集や遅発性の副作用の確認のため定期的な受診を継続します。
経過観察の期間や頻度は個々の患者さんの状況に応じて設定しますが、3〜6ヶ月程度の間隔で1〜2年間程度フォローアップが一般的です。
フォローアップ項目 | 頻度 |
自覚症状の確認 | 1〜3ヶ月ごと |
血液検査 | 3〜6ヶ月ごと |
画像検査 | 6ヶ月〜1年ごと |
ある医師の臨床経験ではある高齢の患者さんがセリチニブによる治療を2年以上継続され、良好な腫瘍制御と高いQOLを維持されていました。
この方は副作用管理に積極的で軽微な症状でも早めに報告してくださったためきめ細かな対応が可能でした。
患者さんとの良好なコミュニケーションが長期治療成功の鍵となることを実感した症例でした。
再投与の可能性
セリチニブ治療中止後 一定期間を経て再度投与を検討する状況があります。
例えば休薬により改善した副作用が再投与時には出現しなかったり、コントロール可能なレベルにとどまるケースが生じます。
また他の治療法を経て再度セリチニブの効果が期待できる状態になることもあります。
再投与の判断は前回の治療効果や中止理由、休薬期間中の病状変化などを総合的に評価して行います。
再投与検討項目 | 評価内容 |
前回の治療効果 | PFSの長さ |
中止理由 | 副作用か病勢進行か |
休薬期間の変化 | 腫瘍増大速度 |
現在の全身状態 | PS KPS |
副作用とデメリット
消化器系の副作用
セリチニブ(ジカディア)投与中に最も頻繁に見られる副作用は消化器系のものです。
特に下痢・悪心・嘔吐・腹痛などが高頻度で発現して患者さんのQOLに大きな影響を与える場合があります。
これらの症状は投与開始後比較的早期に出現することが多く適切な対症療法や投与量の調整が必要となります。
消化器系副作用 | 発現頻度 |
下痢 | 約80% |
悪心 | 約70% |
嘔吐 | 約60% |
腹痛 | 約40% |
肝機能障害
セリチニブは肝臓で代謝されるため肝機能への影響に注意が必要です。
投与中はAST ALT γ-GTPなどの肝機能マーカーの上昇が見られることがあり定期的な血液検査でモニタリングします。
重度の肝機能障害が発現した際は休薬や減量 さらには投与中止を検討する必要があります。
肝機能検査項目 | 異常値の目安 |
AST | 基準値上限の3倍以上 |
ALT | 基準値上限の3倍以上 |
総ビリルビン | 基準値上限の2倍以上 |
間質性肺疾患
セリチニブ投与中に注意すべき重大な副作用の一つに間質性肺疾患があります。
発症頻度は比較的低いものの、一度発症すると重篤化する可能性があるため早期発見と迅速な対応が大切です。
以下のような症状が現れた際は直ちに医療機関を受診するよう患者さんに指導します。
- 息切れ
- 咳嗽の増加
- 発熱を伴う呼吸困難
心臓への影響
セリチニブはQT間隔延長のリスクがあるため心臓への影響にも注意が必要です。
特に心疾患の既往がある患者さんや電解質異常を伴う患者さんではリスクが高まる可能性があります。
定期的な心電図検査や電解質のモニタリングを行い異常が認められた際は適切な対応を取ります。
QT延長のリスク因子 | 対応 |
心疾患の既往 | 頻回の心電図検査 |
電解質異常 | 電解質補正 |
QT延長薬併用 | 併用薬の変更検討 |
血糖値上昇
セリチニブ投与中には血糖値の上昇が見られることがあり特に糖尿病の既往がある患者さんでは注意が必要です。
定期的な血糖値のチェックと必要に応じた糖尿病治療薬の調整を行います。
また患者さんには口渇や多飲 多尿などの高血糖症状に注意するよう指導します。
血糖モニタリング | 頻度 |
空腹時血糖 | 2週間ごと |
HbA1c | 3ヶ月ごと |
視覚障害
セリチニブ投与中にはまれに視覚障害が報告されていて患者さんのQOLに影響を与える可能性があります。
主な症状としては以下のようなものがあり、これらの症状が現れた際は速やかに眼科受診を勧めます。
- 霧視
- 視力低下
- 飛蚊症
薬物相互作用
セリチニブは主にCYP3A4で代謝されるため 他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
特に以下のような薬剤との併用には慎重を期し必要に応じて投与量の調整や代替薬への変更を検討します。
- CYP3A4阻害剤(ケトコナゾールなど)
- CYP3A4誘導剤(リファンピシンなど)
相互作用のある薬剤 | 影響 |
CYP3A4阻害剤 | セリチニブ血中濃度上昇 |
CYP3A4誘導剤 | セリチニブ血中濃度低下 |
ある医師の臨床経験では ある患者さんが消化器症状の管理に苦慮されていました。
この方は食事と一緒にセリチニブを服用することで症状が軽減されましたが一方で血中濃度の変動が懸念されました。
慎重なモニタリングと細やかな服薬指導を続けた結果、効果と副作用のバランスを取りながら長期投与を継続できました。
この経験から個々の患者さんに合わせた柔軟な対応の重要性を学びました。
耐性獲得
セリチニブを含むALK阻害剤の長期投与では耐性獲得のリスクがあります。
耐性メカニズムは複雑でALK遺伝子の二次変異やバイパス経路の活性化などが知られています。
耐性獲得後は治療効果が低下するため定期的な効果判定と必要に応じた次治療の検討が大切です。
耐性獲得の兆候 | 対応 |
腫瘍増大 | 再生検検討 |
新規病変出現 | 次世代シークエンス |
症状悪化 | 他のALK阻害剤への変更 |
代替治療薬
他のALK阻害剤への切り替え
セリチニブ(ジカディア)による治療効果が得られなかった際にまず考慮すべき選択肢は他のALK阻害剤への切り替えです。
アレクチニブ(アレセンサ)やロルラチニブ(ローブレナ)などの第2世代 第3世代ALK阻害剤はセリチニブとは異なる分子構造を持ち、耐性獲得後も効果を示すことがあります。
これらの薬剤はセリチニブ耐性の原因となる二次変異に対しても活性を持つため治療の選択肢として重要です。
ALK阻害剤 | 世代 | 特徴 |
アレクチニブ | 第2世代 | 高い中枢神経系移行性 |
ブリグチニブ | 第2世代 | 広範な変異に対する活性 |
ロルラチニブ | 第3世代 | 高度耐性変異にも有効 |
免疫チェックポイント阻害剤の検討
ALK阻害剤全般に耐性を示す患者さんでは免疫チェックポイント阻害剤の使用を検討します。
ニボルマブ(オプジーボ)やペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの抗PD-1抗体は腫瘍免疫を活性化させることで抗腫瘍効果を発揮します。
ただしALK陽性肺がんでは免疫チェックポイント阻害剤の効果が限定的であるという報告もあるため慎重な判断が必要です。
免疫チェックポイント阻害剤 | 標的分子 |
ニボルマブ | PD-1 |
ペムブロリズマブ | PD-1 |
アテゾリズマブ | PD-L1 |
従来の細胞障害性抗がん剤の再考
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤が無効であった場合には従来の細胞障害性抗がん剤の使用を再検討します。
プラチナ製剤をベースとした併用療法(カルボプラチン+ペメトレキセドなど)はALK陽性肺がんに対しても一定の効果を示すことがあります。
これらの薬剤は広範な抗腫瘍スペクトラムを持つため耐性獲得後の選択肢として考慮に値します。
- プラチナ製剤(シスプラチン カルボプラチン)
- 葉酸代謝拮抗薬(ペメトレキセド)
- 微小管阻害薬(パクリタキセル ドセタキセル)
新規治療薬や臨床試験の検討
既存の治療オプションが奏効しない患者さんにおいては新規治療薬や臨床試験への参加を検討することも重要です。
ALK以外の分子標的(RET METなど)を標的とする薬剤や新しい作用機序を持つ薬剤の臨床試験が進行中で、これらが新たな治療の選択肢となる可能性があります。
患者さんの遺伝子プロファイルや全身状態を考慮しつつ、最適な試験を選択することが大切です。
新規治療薬の標的 | 薬剤例 |
RET | セルペルカチニブ |
MET | テポチニブ |
KRAS G12C | ソトラシブ |
マルチキナーゼ阻害剤の使用
単一の分子標的薬が無効な場合は複数のキナーゼを同時に阻害するマルチキナーゼ阻害剤の使用を検討します。
これらの薬剤はALKだけでなく腫瘍の増殖や血管新生に関与する他のキナーゼも阻害するため広範な抗腫瘍効果が期待できます。
例えばクリゾチニブはALKに加えてMETやROS1も阻害する特性を持ち、セリチニブ耐性後の選択肢となることがあります。
マルチキナーゼ阻害剤 | 主な標的 |
クリゾチニブ | ALK MET ROS1 |
カボザンチニブ | MET VEGFR2 RET |
レンバチニブ | VEGFR FGFR RET |
ある医師の臨床経験ではセリチニブ耐性後にロルラチニブへ切り替えて良好な効果を示した患者さんがいました。
この方はセリチニブ投与中に徐々に効果が減弱して特に脳転移の進行が問題となっていました。
ロルラチニブへの変更後に脳転移巣の著明な縮小と全身状態の改善が見られ、QOLの向上を実感されていました。
この経験からALK阻害剤の世代を超えた使用の重要性を再認識しました。
併用療法の可能性
単剤での効果が限定的な患者さんにおいては複数の薬剤を組み合わせた併用療法を検討することがあります。
例えばALK阻害剤と血管新生阻害剤の併用やALK阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用などが研究されています。
これらの併用療法は異なる作用機序を持つ薬剤を組み合わせることで相乗効果や耐性克服を目指すものです。
併用療法例 | 期待される効果 |
ALK阻害剤 + 血管新生阻害剤 | 腫瘍血管の正常化 |
ALK阻害剤 + 免疫チェックポイント阻害剤 | 免疫応答の増強 |
ALK阻害剤 + CDK4/6阻害剤 | 細胞周期制御 |
セリチニブ(ジカディア)の併用禁忌
強力なCYP3A阻害剤との併用
セリチニブ(ジカディア)は主にCYP3A4で代謝されるため強力なCYP3A阻害剤との併用は避けるべきです。
これらの薬剤を併用するとセリチニブの血中濃度が著しく上昇して重篤な副作用のリスクが高まります。
具体的には以下のような薬剤との併用を控える必要があります。
- ケトコナゾール
- イトラコナゾール
- クラリスロマイシン
- リトナビル
CYP3A阻害剤 | 薬効分類 |
ケトコナゾール | 抗真菌薬 |
イトラコナゾール | 抗真菌薬 |
クラリスロマイシン | マクロライド系抗生物質 |
リトナビル | 抗HIV薬 |
強力なCYP3A誘導剤との併用
強力なCYP3A誘導剤もセリチニブとの併用を避けるべき薬剤群です。
これらの薬剤はセリチニブの代謝を促進して血中濃度を低下させることで治療効果を減弱させる可能性があります。
以下のような薬剤との併用には十分な注意が必要です。
- リファンピシン
- カルバマゼピン
- フェニトイン
- セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)
CYP3A誘導剤 | 薬効分類 |
リファンピシン | 抗結核薬 |
カルバマゼピン | 抗てんかん薬 |
フェニトイン | 抗てんかん薬 |
セイヨウオトギリソウ | ハーブ製剤 |
QT間隔延長を引き起こす薬剤との併用
セリチニブはQT間隔延長のリスクがあるためQT間隔延長を引き起こす他の薬剤との併用には注意が必要です。
これらの薬剤を併用すると重篤な不整脈(トルサード・ド・ポアンツなど)のリスクが高まる危険性があります。
具体的には以下のような薬剤との併用を避けるか慎重に管理する必要です。
- アミオダロン
- ソタロール
- モキシフロキサシン
- オンダンセトロン
QT延長薬 | 薬効分類 |
アミオダロン | 抗不整脈薬 |
ソタロール | β遮断薬 |
モキシフロキサシン | ニューキノロン系抗菌薬 |
オンダンセトロン | 制吐剤 |
プロトンポンプ阻害薬(PPI)との併用
セリチニブの吸収は胃内pHに依存するためプロトンポンプ阻害薬(PPI)との併用には注意が必要です。
PPIは胃内pHを上昇させることでセリチニブの吸収を低下させて結果として血中濃度と治療効果の低下につながる可能性があります。
やむを得ずPPIを使用する際は 投与のタイミングを調整するなどの対策を講じる必要があります。
PPI | 一般名 |
ネキシウム | エソメプラゾール |
タケプロン | ランソプラゾール |
パリエット | ラベプラゾール |
オメプラール | オメプラゾール |
P-糖タンパク質の基質となる薬剤との併用
セリチニブはP-糖タンパク質の阻害作用を持つためP-糖タンパク質の基質となる薬剤との併用には注意が必要です。
これらの薬剤を併用すると基質薬の血中濃度が上昇して予期せぬ副作用が現れる可能性があります。
特に以下のような薬剤との併用には慎重を期さなければなりません。
- ジゴキシン
- ダビガトラン
- フェキソフェナジン
- コルヒチン
P-糖タンパク質基質 | 薬効分類 |
ジゴキシン | 強心配糖体 |
ダビガトラン | 抗凝固薬 |
フェキソフェナジン | 抗ヒスタミン薬 |
コルヒチン | 痛風治療薬 |
肝毒性のある薬剤との併用
セリチニブは肝機能障害を引き起こす可能性があるため他の肝毒性のある薬剤との併用には十分な注意が必要です。
これらの薬剤を併用すると肝機能障害のリスクが相加的または相乗的に高まる可能性があります。
以下のような薬剤との併用時には肝機能のモニタリングを頻回に行うなどの対策が重要です。
- アセトアミノフェン(高用量)
- メトトレキサート
- イソニアジド
- バルプロ酸
肝毒性のある薬剤 | 薬効分類 |
アセトアミノフェン | 解熱鎮痛薬 |
メトトレキサート | 抗リウマチ薬・抗がん剤 |
イソニアジド | 抗結核薬 |
バルプロ酸 | 抗てんかん薬 |
セリチニブ(ジカディア)の薬価
薬価
セリチニブ(ジカディア)の薬価は1錠あたり6413.6円です。
通常 1日1回450mgを服用するため1日の薬価は19,240.8円となります。
この金額は患者さん負担額ではなく 保険適用前の薬剤費を示します。
規格 | 薬価 |
150mg1カプセル | 6413.6円 |
1日分(450mg) | 19,240.8円 |
処方期間による総額
1週間処方の場合の総額は134,685.6円となります。1ヶ月処方になると577,224.0円に達します。
これらの金額は薬剤費のみであり診察料や検査料は含まれていません。
処方期間 | 総額 |
1週間 | 134,685.6円 |
1ヶ月 | 577,224.0円 |
ある医師の臨床経験ではある患者さんが高額な薬価に不安を感じていましたが、民間の医療保険に加入していたため経済的負担が軽減されました。
医療費の補助制度や保険の活用は治療継続の観点から重要です。
- 民間医療保険の活用
- 高額医療制度
なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文