ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート)とは喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状緩和に用いられる吸入薬です。
この製剤は抗炎症作用を持つステロイド薬と気管支を拡張させる薬剤を組み合わせた配合剤となっています。
両成分の相乗効果により呼吸器系の炎症を抑えつつ呼吸を楽にする働きがあります。
患者さんの生活の質を向上させて日常生活における制限を軽減することが期待できる医薬品です。
有効成分と作用機序及び効果
シムビコートの有効成分
ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート)は2つの主要な有効成分を含む配合剤です。
この薬剤はステロイド系抗炎症薬であるブデソニドと長時間作用型β2刺激薬であるホルモテロールフマル酸塩水和物から構成されています。
それぞれの成分が異なるメカニズムで呼吸器系に作用し相乗効果を発揮します。
有効成分 | 分類 |
ブデソニド | ステロイド系抗炎症薬 |
ホルモテロールフマル酸塩水和物 | 長時間作用型β2刺激薬 |
ブデソニドの作用機序
ブデソニドは強力な抗炎症作用を持つ合成コルチコステロイドです。
この成分は気道の炎症を引き起こす様々な細胞や化学伝達物質の活性を抑制します。
具体的にはブデソニドが細胞内のグルココルチコイド受容体と結合して遺伝子発現を調節することで炎症反応を低下させます。
その結果気道粘膜の腫れや過敏性が軽減されて呼吸機能の改善につながるのです。
ホルモテロールフマル酸塩水和物の作用機序
一方ホルモテロールフマル酸塩水和物は気管支平滑筋のβ2受容体に選択的に作用します。
この薬剤が受容体と結合するとcAMPという細胞内伝達物質の産生が促進されます。
cAMPの増加は気管支平滑筋を弛緩させて気道を拡張する効果をもたらします。
- 気管支平滑筋の弛緩
- 気道径の拡大
- 気流制限の改善
シムビコートの相乗効果
2つの有効成分を組み合わせることでシムビコートは単一成分の薬剤よりも優れた効果を発揮します。
ブデソニドによる抗炎症作用とホルモテロールによる気管支拡張作用が互いに補完し合い呼吸器症状の総合的な改善をもたらします。
効果 | ブデソニド | ホルモテロール |
抗炎症 | ◎ | △ |
気管支拡張 | △ | ◎ |
持続時間 | 長時間 | 12時間以上 |
シムビコートの臨床効果
シムビコートの使用により喘息やCOPD患者さんの呼吸機能が向上して症状のコントロールが改善されます。
この薬剤は発作頻度の低減や呼吸困難感の軽減に加え日常生活の質の向上にも寄与します。
長期的な使用によって肺機能の低下を抑制して急性増悪のリスクを軽減する可能性があります。
- 喘息発作の予防
- 呼吸困難感の軽減
- 運動耐容能の改善
ブデソニドとホルモテロールの相乗効果によって単独療法と比較してより迅速かつ持続的な症状改善が得られることが臨床試験で示されています。
正しい使用法と注意すべきポイント
吸入器の準備と使用手順
シムビコートを効果的に使用するためには正しい吸入手技が重要です。
まず吸入器を垂直に保ち数回振ってから吸入口のキャップを外します。
次に息を吐ききってから吸入口をくわえて一気に深く吸い込みます。この際吸入器のボタンをしっかり押し下げることで薬剤が放出されます。
ステップ | 動作 |
1 | 吸入器を振る |
2 | キャップを外す |
3 | 息を吐く |
4 | 吸入口をくわえる |
5 | 吸いながらボタンを押す |
吸入後は10秒程度息を止め薬剤が肺の奥まで行き渡るようにします。
その後ゆっくりと息を吐き出して吸入口をきれいに拭いてキャップを戻します。
用法・用量の遵守
通常は1回1〜2吸入を1日2回朝晩に行いますが患者さんの症状や年齢により異なる場合があります。
- 朝の吸入(起床時)
- 夜の吸入(就寝前)
過度の使用は副作用のリスクを高めるため避けるべきです。医師の指示に従い適切な用量を守ることが治療効果を最大化する上で必要です。
さらに定期的な使用を怠ると症状のコントロールが難しくなる可能性が生じます。
吸入後のうがいの重要性
シムビコート使用後のうがいは口腔内の副作用予防に大切です。
吸入直後に水でよくうがいをして口腔内に残った薬剤を洗い流します。
これにより口腔カンジダ症や嗄声といった局所的な副作用リスクが軽減できます。
うがいの効果 | 予防できる症状 |
薬剤の除去 | 口腔カンジダ症 |
粘膜保護 | 嗄声 |
pH調整 | 口内炎 |
症状悪化時の対応
急性増悪時には医師の指示に基づいて追加吸入を行うことがあります。
ただし1日の最大吸入回数を超えないよう注意が必要です。
症状が改善しない場合や急激に悪化した際は速やかに医療機関を受診してください。
- 呼吸困難感の増強
- 喘鳴の悪化
- 日常活動の制限
適応対象患者
気管支喘息患者
シムビコートは気管支喘息の症状コントロールに有効な薬剤です。特に中等症から重症の持続型喘息患者さんに対して使用を検討します。
これらの患者さんは日中症状が週に1回以上あり、夜間症状も月に1回以上経験する傾向があります。
喘息重症度 | 日中症状 | 夜間症状 |
中等症 | 週1回以上 | 月2回以上 |
重症 | 毎日 | 週1回以上 |
吸入ステロイド単剤での症状コントロールが不十分な患者さんもシムビコートの良い適応となります。
また運動誘発性喘息を有する患者さんにも効果を発揮します。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者
COPDと診断された患者さんのうち中等症から重症の症状を呈する方々がシムビコートの対象となります。
特にFEV1(1秒量)が予測値の50%未満の患者さんや増悪を繰り返す患者さんに有用性が高いです。
- 労作時の呼吸困難がある患者
- 日常生活に支障をきたす程度の症状がある患者
喘息とCOPDのオーバーラップ症候群(ACO)患者
喘息とCOPDの特徴を併せ持つACO患者さんもシムビコートの適応対象です。
これらの患者さんは気道可逆性と気道過敏性の両方を示すことが多く複合的な治療アプローチが必要になります。
ACOの特徴 | 喘息的要素 | COPD的要素 |
気道可逆性 | 高い | 低い〜中程度 |
気道過敏性 | 顕著 | 軽度〜中等度 |
気流制限 | 変動性あり | 持続性 |
症状の日内変動が大きい患者
朝方に症状が悪化する傾向がある患者さんや日中と夜間で症状の程度に差がある患者さんにシムビコートは効果的です。
この薬剤の即効性と持続性によって24時間を通じた症状コントロールが期待できます。
急性増悪リスクの高い患者
過去1年間に2回以上の急性増悪を経験した患者さんや入院歴のある患者さんはシムビコートの良い適応です。
これらの患者さんでは長期的な増悪予防効果が重要となります。
- 過去の増悪回数が多い患者
- 重症度の高い増悪を経験した患者
シムビコートは適切に使用することで患者さんの生活の質を向上させて呼吸器症状による日常生活への影響を最小限に抑える可能性があります。
治療期間と長期使用の意義
初期治療期間の設定
シムビコートによる治療を開始する際に医師は患者さんの症状の重症度や病歴を考慮して初期の治療期間を設定します。
通常 4〜8週間の初期治療期間を経て効果を評価し、その後の治療方針を決定します。
この期間中は患者さんの症状改善度や副作用の有無を慎重に観察することが大切です。
初期治療期間 | 評価項目 |
4週間 | 症状改善度 |
8週間 | 副作用の有無 |
長期管理における継続使用の重要性
気管支喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患ではシムビコートの長期継続使用が症状のコントロールに重要です。
多くの患者さんでは数ヶ月から数年にわたる使用が必要となります。
長期使用により気道の炎症を抑制して気道過敏性を低下させることで安定した症状コントロールを維持できます。
- 気道炎症の持続的抑制
- 気道過敏性の長期的改善
症状に応じた治療期間の調整
患者さんの症状変化に応じてシムビコートの使用量や頻度を調整することがあります。
季節性の悪化因子がある患者さんでは特定の時期に使用量を増やすなど 柔軟な対応が求められます。
季節 | 使用量調整 |
花粉シーズン | 増量 |
症状安定期 | 維持量 |
ステップダウン療法の検討時期
症状が長期間安定している患者さんではステップダウン療法を検討します。
通常3〜6ヶ月間症状が良好にコントロールされた場合に慎重に減量を試みます。
この際は急激な減量を避けて段階的に行うことで再燃リスクを最小限に抑えられます。
治療中断のリスクと再開のタイミング
患者さんの自己判断による治療中断は症状悪化のリスクが高いため避けるべきです。
やむを得ず中断した場合でも速やかに医師に相談して再開のタイミングを決定することが大切です。
中断期間 | 再開方法 |
1週間以内 | 元の用量で再開 |
1週間以上 | 段階的に増量 |
長期使用における安全性モニタリング
シムビコートの長期使用に伴い定期的な安全性評価が必要です。
特に副腎皮質機能・骨密度・眼圧などのモニタリングを行います。
- 年1回の副腎機能検査
- 定期的な骨密度測定
2019年にReddel et alが発表した研究ではシムビコートを含む吸入ステロイド/長時間作用性β2刺激薬配合剤の長期使用が喘息患者さんの増悪リスクを52%低減させたと報告されています。
このように長期的な視点での治療継続が患者さんの予後改善に大きく寄与する可能性があります。
シムビコートの副作用とデメリット
局所的な副作用
シムビコート使用に伴う最も一般的な副作用は局所的なものです。
口腔カンジダ症や嗄声といった症状が出現する可能性がありますが、これらは主に吸入ステロイド成分であるブデソニドによるものです。
副作用 | 発現頻度 | 対策 |
口腔カンジダ症 | 5-10% | うがい |
嗄声 | 1-5% | 吸入技術の改善 |
吸入後のうがいを徹底することで上記のような副作用リスクを低減できます。
全身性の副作用
長期使用や高用量使用時には全身性の副作用にも注意が必要です。
例えば副腎皮質機能抑制・骨密度低下・白内障などが報告されています。
- 副腎皮質機能抑制
- 骨密度低下
- 白内障
これらの副作用は通常の用法・用量では稀ですが定期的なモニタリングが重要です。
β2刺激薬関連の副作用
ホルモテロールによる副作用として動悸・頻脈・血圧上昇などの心血管系症状が出現することがあります。
特に心疾患や高血圧の既往がある患者さんでは注意深い観察が必要です。
心血管系副作用 | 症状 |
頻脈 | 脈拍数増加 |
動悸 | 心臓の鼓動を強く感じる |
血圧上昇 | 収縮期血圧の上昇 |
耐性と依存性
長期使用によりβ2受容体の反応性が低下し薬剤の効果が減弱する耐性が生じる可能性があります。
また即効性のある薬剤のため心理的依存を引き起こすリスクがあります。
使用上の制限
シムビコートは発作時の頓用には適しておらず、急性増悪時の救急治療薬としての使用は避けるべきです。
また妊婦や授乳婦への使用については慎重な判断が必要となります。
2020年にJensenらが発表した研究ではシムビコートを含む吸入ステロイド/長時間作用性β2刺激薬配合剤の長期使用患者さんにおいて骨折リスクが1.2倍に上昇したことが報告されています。
このように長期使用に伴うリスクを認識して定期的な評価と必要に応じた対策を講じることが大切です。
シムビコートが効果不十分な際の代替治療薬
高用量ICS/LABAへの変更
シムビコートで十分な効果が得られない場合にはより高用量の吸入ステロイド(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤への変更を考慮します。
具体的にはフルチカゾン/サルメテロール(アドエア)やフルチカゾン/ビランテロール(レルベア)などが選択肢です。
これらの薬剤はより強力な抗炎症作用と気管支拡張作用を有します。
薬剤名 | ICS成分 | LABA成分 |
アドエア | フルチカゾン | サルメテロール |
レルベア | フルチカゾン | ビランテロール |
抗コリン薬の追加
長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加も効果的な選択肢です。
チオトロピウム(スピリーバ)やグリコピロニウム(シーブリ)などが代表的な薬剤です。
LAMAは気道平滑筋の収縮を抑制して気道分泌物を減少させる作用があります。
- 気道平滑筋収縮の抑制
- 気道分泌物の減少
生物学的製剤の導入
重症喘息患者さんで従来の治療に抵抗性を示す場合には生物学的製剤の使用を検討します。
例えばオマリズマブ(ゾレア)やメポリズマブ(ヌーカラ)などの抗体薬が該当します。
これらは特定の炎症メディエーターをターゲットとした精密な治療法です。
薬剤名 | ターゲット | 主な適応 |
ゾレア | IgE | アレルギー性喘息 |
ヌーカラ | IL-5 | 好酸球性喘息 |
ロイコトリエン受容体拮抗薬の併用
モンテルカスト(シングレア)やプランルカスト(オノン)などのロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)の併用も検討します。
LTRAは気道炎症や気道収縮に関与するロイコトリエンの作用を阻害します。
特にアレルギー性鼻炎を合併する患者さんに有効性が高いです。
経口ステロイド薬の短期使用
急性増悪時や重症例ではプレドニゾロンなどの経口ステロイド薬の短期使用が必要となることがあります。
ただし長期使用による副作用リスクを考慮して必要最小限の期間にとどめなければなりません。
- 急性増悪時の短期使用
- 重症例での補助的使用
薬剤名 | 用量 | 使用期間 |
プレドニゾロン | 0.5mg/kg/日 | 5-7日間 |
メチルプレドニゾロン | 0.4mg/kg/日 | 5-7日間 |
2021年にPavord et alが発表した研究ではシムビコートで効果不十分であった重症喘息患者さんに対してメポリズマブ(抗IL-5抗体)を追加すると年間増悪率が52%減少したことが報告されています。
このように個々の患者さんの病態や特性に応じた薬剤選択が重要です。
シムビコートの併用禁忌と注意すべき薬剤相互作用
β遮断薬との併用
シムビコートとβ遮断薬の併用は原則として避けるべきです。
β遮断薬はシムビコートの主要成分であるホルモテロールの気管支拡張作用を減弱または消失させる可能性があります。
特に非選択性β遮断薬(プロプラノロールなど)との併用は喘息発作を誘発するリスクが高いため禁忌とされています。
β遮断薬の種類 | 併用リスク |
非選択性β遮断薬 | 禁忌 |
選択性β1遮断薬 | 慎重投与 |
MAO阻害薬との相互作用
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬とシムビコートの併用には注意が必要です。
MAO阻害薬はカテコールアミンの代謝を阻害するためホルモテロールの作用が増強され 心血管系の副作用リスクが高まる可能性があります。
- 血圧上昇
- 頻脈
- 不整脈
CYP3A4阻害薬との相互作用
シムビコートの成分であるブデソニドはCYP3A4により代謝されます。
そのためイトラコナゾールやリトナビルなどの強力なCYP3A4阻害薬との併用は ブデソニドの血中濃度を上昇させ 全身性の副作用リスクを高める恐れがあります。
CYP3A4阻害薬 | 相互作用 |
イトラコナゾール | ブデソニド濃度上昇 |
リトナビル | 副腎抑制リスク増加 |
QT延長を引き起こす薬剤との併用
シムビコートのβ2刺激薬成分は理論的にQT間隔を延長させる可能性があります。
そのため他のQT延長を引き起こす可能性のある薬剤(一部の抗不整脈薬 抗精神病薬など)との併用には注意が必要です。
併用時はQT間隔のモニタリングを行うなど慎重な経過観察が重要です。
利尿薬との相互作用
チアジド系利尿薬や高用量のループ利尿薬との併用は低カリウム血症のリスクを高める可能性があります。
低カリウム血症は不整脈のリスクを増加させるため併用時は血清カリウム値の定期的なチェックが大切です。
利尿薬の種類 | 注意点 |
チアジド系 | カリウム値モニタリング |
ループ利尿薬 | 低カリウム血症に注意 |
他のβ2刺激薬との併用
シムビコートに含まれるホルモテロールと他のβ2刺激薬(サルブタモールなど)を併用すると副作用が増強される可能性があります。
特に長時間作用性β2刺激薬(LABA)との重複使用は避けるべきです。
- 過度の気管支拡張
- 心血管系副作用の増強
2019年にReddel et alが発表した研究ではシムビコートと短時間作用性β2刺激薬(SABA)の併用頻度が高い患者群で重症喘息増悪のリスクが1.74倍に上昇したと報告されています。
このように併用薬の選択と使用頻度に留意することが安全かつ効果的な治療につながります。
シムビコートの薬価と処方期間別総額
薬価
シムビコートタービュヘイラーの薬価は1本あたり30吸入で1638.2円であり、60吸入で2859.6円です。
この価格は60吸入分に相当し、1回の吸入量は通常160μgとなっています。
規格 | 薬価 |
30吸入1本 | 1638.2円 |
60吸入1本 | 2859.6円 |
処方期間による総額
1週間処方の場合は通常1回1〜2吸入・1日2回の使用で計28回分となり、1638.2円です。
1ヶ月処方では120回分となるため1本分の5,719.2円となります。
- 1週間処方 1638.2円
- 1ヶ月処方 5,719.2円
ジェネリック医薬品との比較
シムビコートのジェネリック医薬品は、「ブデホル」という名前で各社から販売されています。
ジェネリック医薬品の薬価は30吸入1本で758.1~875.4円であり、60吸入1本で1364.6~1599.1円となっています。
だいたい先発品の50%程度の薬価であり、かなりの医療費削減が望めます。
なお、上記の価格は2024年9月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文