アピキサバン(エリキュース)とは、血液中の凝固因子という物質の働きを抑える抗凝固薬です。
この薬剤は血栓が形成されるのを防ぐ効果があり、心房細動患者さんの脳卒中予防や静脈血栓症の治療に用いられます。
従来の抗凝固薬と比べて服用回数が少なく食事制限も緩和されているため患者さんの生活の質を向上させる可能性があります。
ただし個々の症状や状態に応じて使用法が異なりますので必ず医師の指示に従って服用してください。
アピキサバン(エリキュース)の有効成分 作用機序 効果
有効成分
アピキサバン(エリキュース)の主成分は化学名アピキサバンという物質です。
この成分は直接作用型第Xa因子阻害薬に分類され血液凝固カスケードにおいて重要な役割を果たします。
アピキサバンの分子構造は特異的に設計されており、第Xa因子と選択的に結合する能力を持っています。
項目 | 内容 |
一般名 | アピキサバン |
商品名 | エリキュース |
分類 | 直接作用型第Xa因子阻害薬 |
作用機序
アピキサバンは血液凝固過程において中心的な役割を担う第Xa因子を直接的に阻害します。
第Xa因子はプロトロンビンをトロンビンに変換する過程を触媒する酵素で、この変換を抑制することで血液凝固を防ぎます。
具体的にはアピキサバンが第Xa因子の活性部位に結合してその機能を阻害することで凝固カスケードの進行を抑制します。
この作用により血栓形成のリスクを低下させる効果が期待できます。
作用対象 | 阻害方法 | 効果 |
第Xa因子 | 直接阻害 | 血液凝固抑制 |
アピキサバンの作用機序の特徴は以下のとおりです。
- 可逆的な阻害作用
- 高い選択性
- 予測可能な薬物動態
効果
アピキサバンの主な効果は血栓形成の予防と既存の血栓の増大抑制です。
この薬剤は心房細動患者さんにおける脳卒中や全身性塞栓症のリスク低減に有用性を示しています。
加えて深部静脈血栓症や肺塞栓症の治療および再発予防にも効果的であることが臨床試験により確認されています。
対象疾患 | 期待される効果 |
心房細動 | 脳卒中予防 |
静脈血栓症 | 血栓増大抑制 |
アピキサバンの効果が特に顕著に現れるケースは次の通りです。
- 非弁膜症性心房細動患者さん
- 人工股関節全置換術後の静脈血栓塞栓症予防
薬物動態学的特性
アピキサバンは経口投与後速やかに吸収されて高い生物学的利用能を示します。
食事の影響を受けにくい特性を持ち1日2回の服用で安定した血中濃度を維持できます。
肝臓での代謝と腎臓からの排泄によりクリアランスされるため肝機能や腎機能に応じた用量調整が必要になる場合があります。
特性 | 詳細 |
吸収 | 速やか |
服用回数 | 1日2回 |
排泄経路 | 肝臓・腎臓 |
アピキサバンの薬物動態学的特性は安定した抗凝固作用の維持と副作用リスクの低減に寄与しています。
使用方法と注意点
服用方法と用量
アピキサバン(エリキュース)は通常1回5mgを1日2回服用します。
患者さんの年齢・体重・腎機能などに応じて医師が適切な用量を決定します。
食事の有無にかかわらず服用できるため生活リズムに合わせて服用時間を設定できます。
標準用量 | 服用回数 | 食事の影響 |
5mg | 1日2回 | なし |
服用を忘れた際は気づいたらすぐに服用してください。
ただし次の服用時間が近い場合は忘れた分を飛ばして通常のスケジュールに戻ります。決して2回分を一度に服用しないよう注意が必要です。
併用注意薬
アピキサバンは他の薬剤と相互作用を起こす可能性があるため併用薬の確認が重要です。
特に他の抗凝固薬・抗血小板薬・非ステロイド性抗炎症薬との併用には注意が必要です。
これらの薬剤との併用により出血リスクが高まる恐れがあります。
注意が必要な併用薬 | 理由 |
抗凝固薬 | 出血リスク上昇 |
抗血小板薬 | 出血リスク上昇 |
NSAIDs | 出血リスク上昇 |
以下の薬剤も相互作用の可能性があるため使用前に必ず医師に相談してください。
- 一部の抗真菌薬
- 一部の抗ウイルス薬
- 一部の抗てんかん薬
モニタリングと経過観察
アピキサバン服用中は定期的な血液検査によるモニタリングが必要です。
特に腎機能や肝機能の変化に注意を払い必要に応じて用量調整を行います。
出血傾向や血栓症状の有無を確認するため定期的な診察も欠かせません。
検査項目 | 頻度 |
血液凝固能 | 3-6ヶ月ごと |
腎機能 | 6-12ヶ月ごと |
肝機能 | 6-12ヶ月ごと |
患者さんには以下の症状が現れた際は直ちに受診するよう指導します。
- 異常な出血(鼻血 歯茎からの出血 内出血など)
- 息切れや胸痛
- 手足の腫れや痛み
生活上の注意点
アピキサバン服用中は出血リスクが高まるため日常生活でも注意が必要です。
怪我や切り傷に注意して激しいスポーツや危険を伴う活動は控えめにします。
歯科治療や手術を受ける際は事前に主治医に相談し、一時的な休薬が必要か判断します。
注意が必要な活動 | 対策 |
スポーツ | 接触の少ない種目を選択 |
歯科治療 | 事前に主治医に相談 |
手術 | 休薬の必要性を確認 |
アルコールは適量であれば問題ありませんが過度の摂取は避けるよう指導します。
また納豆やクロレラなどビタミンKを多く含む食品の過剰摂取にも注意が必要です。
ある医師の臨床経験では80代の心房細動患者さんさんがアピキサバン服用中に転倒して頭部打撲の際に硬膜下血腫を生じた例がありました。
幸い早期発見で後遺症なく回復しましたがが、この経験から高齢者の転倒予防指導の重要性を再認識しました。
アピキサバン(エリキュース)の適応対象となる患者
非弁膜症性心房細動患者
アピキサバン(エリキュース)は非弁膜症性心房細動患者さんの脳卒中および全身性塞栓症の発症リスク低減に適応があります。
心房細動により心臓内に血栓が形成されやすくなった患者さんに対して脳や全身の血管に血栓が詰まるのを予防する効果が期待できます。
非弁膜症性心房細動とは僧帽弁狭窄症や人工弁置換術後などの弁膜症に起因しない心房細動を指します。
適応疾患 | 期待される効果 |
非弁膜症性心房細動 | 脳卒中予防 |
非弁膜症性心房細動 | 全身性塞栓症予防 |
非弁膜症性心房細動患者さんの中でも特に以下の因子を有する方々がアピキサバンの良い適応となります。
- 75歳以上の高齢者
- 脳卒中の既往がある患者さん
静脈血栓塞栓症の治療および再発予防
アピキサバンは深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈血栓塞栓症の治療および再発予防にも使用します。
下肢や骨盤内の深部静脈に形成された血栓(深部静脈血栓症)やその血栓が肺動脈に詰まった状態(肺塞栓症)の患者さんが対象となります。
これらの疾患で入院加療を受けた後に再発予防目的で長期的にアピキサバンを服用する患者さんも少なくありません。
適応疾患 | アピキサバンの役割 |
深部静脈血栓症 | 治療・再発予防 |
肺塞栓症 | 治療・再発予防 |
静脈血栓塞栓症のリスク因子を持つ患者さんには予防的にアピキサバンを使用する場合もあります。
主なリスク因子は次のようなものです。
- 長期臥床
- 大手術後
- 悪性腫瘍
整形外科手術後の静脈血栓塞栓症予防
人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術を受けた患者さんに対して術後の静脈血栓塞栓症予防目的でアピキサバンを使用します。
これらの手術では下肢の静脈血流が一時的に停滞しやすくなるため血栓形成のリスクが高まります。
アピキサバンによる予防的抗凝固療法は術後の血栓形成を効果的に抑制して患者さんの早期回復と合併症予防に寄与します。
対象手術 | 予防目的 |
人工股関節全置換術 | 静脈血栓塞栓症 |
人工膝関節全置換術 | 静脈血栓塞栓症 |
整形外科手術後のアピキサバン投与は以下のスケジュールで行うのが一般的です。
- 術後12〜24時間以内に開始
- 術後10〜14日間継続
心血管疾患リスクの高い患者
冠動脈疾患や末梢動脈疾患など動脈硬化性疾患を有する患者さんにもアピキサバンが処方される頻度が増えています。
これらの患者さんでは動脈血栓症のリスクが高くアピキサバンによる抗血栓効果が心血管イベントの予防に有効です。
特に複数の動脈硬化危険因子を有する患者さんや過去に心筋梗塞や脳卒中の既往がある患者さんが良い適応となります。
リスク因子 | 予防対象イベント |
冠動脈疾患 | 心筋梗塞 |
末梢動脈疾患 | 虚血性脳卒中 |
心血管疾患リスクの評価には 一般に以下の因子を考慮します。
- 高血圧
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 喫煙
腎機能低下患者への配慮
アピキサバンは他の直接経口抗凝固薬と比較して腎機能低下患者さんでも使用しやすい特徴があります。
腎機能が低下している患者さんでは薬物の体内蓄積による出血リスク上昇に注意が必要ですが、アピキサバンは腎排泄率が比較的低いため軽度から中等度の腎機能低下患者さんにも使用できます。
ただし重度の腎機能低下(クレアチニンクリアランス15mL/min未満)の患者さんには慎重投与が必要です。
腎機能 | アピキサバン使用 |
正常〜軽度低下 | 通常量 |
中等度低下 | 減量考慮 |
重度低下 | 慎重投与 |
腎機能低下患者さんへのアピキサバン投与時に注意する点は以下の通りです。
- 定期的な腎機能モニタリング
- 出血症状の綿密な観察
治療期間
非弁膜症性心房細動患者さんの治療期間
非弁膜症性心房細動患者さんにおけるアピキサバン(エリキュース)の治療期間は基本的に長期にわたります。
心房細動自体が持続性または永続性の病態であることから脳卒中や全身性塞栓症の予防目的で継続的な抗凝固療法が必要となるためです。
多くの場合患者さんの状態に大きな変化がない限り生涯にわたってアピキサバンの服用を継続することになります。
病態 | 治療期間 |
持続性心房細動 | 長期(生涯) |
永続性心房細動 | 長期(生涯) |
ただし以下のような状況では治療期間の再検討が必要です。
- 洞調律に復帰し 長期間維持できた場合
- 出血性合併症が生じた場合
静脈血栓塞栓症患者さんの治療期間
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)に対するアピキサバンの治療期間は患者さんの背景因子や血栓の性状によって異なります。
急性期の初期治療では通常7日間の高用量投与を行い、その後標準用量に移行します。
維持療法の期間は一般的に3〜6ヶ月ですが、再発リスクの高い患者さんでは延長が必要となる場合があります。
治療段階 | 期間 | 用量 |
初期治療 | 7日間 | 高用量 |
維持療法 | 3〜6ヶ月 | 標準用量 |
静脈血栓塞栓症の治療期間を決定する際に考慮すべき因子には次のようなものがあります。
- 血栓の誘因(一過性か持続性か)
- 血栓の部位と大きさ
- 過去の再発歴
整形外科手術後の予防投与期間
人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症予防におけるアピキサバンの投与期間は比較的短期間です。
術後12〜24時間以内に投与を開始して10〜14日間継続するのが一般的です。
この期間は手術後の急性期における血栓形成リスクが高い時期をカバーするよう設定されています。
手術の種類 | 投与開始時期 | 投与期間 |
人工股関節全置換術 | 術後12〜24時間 | 10〜14日間 |
人工膝関節全置換術 | 術後12〜24時間 | 10〜14日間 |
ただし個々の患者さんの状態に応じて 以下の調整を行うこともあります。
- 高リスク患者さんでの投与期間延長
- 出血リスクに応じた投与開始時期の調整
治療期間中のモニタリングと再評価
アピキサバンによる抗凝固療法中は定期的なモニタリングと治療効果の再評価が重要です。
特に長期投与を行う非弁膜症性心房細動患者さんでは3〜6ヶ月ごとに血液検査や臨床症状の評価を行い、治療継続の必要性を確認します。
また年齢や体重の変化、腎機能の推移などに応じて用量調整や治療方針の見直しを検討します。
評価項目 | 頻度 |
血液検査 | 3〜6ヶ月ごと |
臨床症状評価 | 3〜6ヶ月ごと |
腎機能評価 | 6〜12ヶ月ごと |
治療期間中のモニタリングで注意を払わなければならないのは次の点です。
- 出血症状の有無
- 血栓塞栓症状の有無
治療中断のリスクと対応
アピキサバンの治療を中断すると急激に血栓塞栓症のリスクが高まる恐れがあります。
特に非弁膜症性心房細動患者さんでは服薬を1〜2日忘れただけでも脳卒中リスクが上昇する可能性があるため患者さんへの服薬指導が大切です。
やむを得ず治療を中断しなければならない際は代替療法の検討や厳重な経過観察が必要となります。
中断理由 | 対応策 |
手術・処置 | 一時的なヘパリン置換 |
出血合併症 | 原因治療後の再開検討 |
ある医師の臨床経験では80歳の非弁膜症性心房細動患者さんが自己判断でアピキサバンを中断し、2週間後に脳梗塞を発症したケースがありました。
この経験から治療の重要性と中断リスクについて患者さんへの丁寧な説明を心がけるようになりました。
副作用やデメリット
出血性合併症
アピキサバン(エリキュース)の最も重要な副作用は出血性合併症です。
抗凝固作用によって通常よりも出血が止まりにくくなるため軽微な外傷でも予想以上の出血を引き起こす危険性が高まります。
特に消化管出血や頭蓋内出血などの重大な出血イベントには注意が必要です。
出血部位 | リスク |
消化管 | 中等度 |
頭蓋内 | 高度 |
皮下 | 軽度 |
出血性合併症のリスク因子には以下のようなものがあります。
- 高齢
- 腎機能低下
- 低体重
消化器系副作用
アピキサバンによる消化器系の副作用も比較的高頻度に認められます。
悪心・嘔吐・腹痛・下痢などの症状が出現することがあり、患者さんのQOLを低下させる要因となります。
これらの症状は多くの場合一過性ですが持続する場合は用量調整や休薬を検討する必要があります。
症状 | 頻度 |
悪心 | 中等度 |
嘔吐 | 低頻度 |
腹痛 | 中等度 |
下痢 | 中等度 |
消化器系副作用への対策としては次のような方法があります。
- 食後の服用
- 制酸薬の併用
肝機能障害
アピキサバン服用中に肝機能障害が生じる可能性があります。
まれに重度の肝障害を引き起こす症例も報告されているため定期的な肝機能検査によるモニタリングが大切です。
AST・ALT・γ-GTPなどの肝酵素上昇が認められた際は薬剤性肝障害の可能性を考慮して投与継続の可否を慎重に判断します。
検査項目 | 基準値上昇時の対応 |
AST | 経過観察または減量 |
ALT | 経過観察または減量 |
γ-GTP | 経過観察 |
肝機能障害のリスクを軽減するための注意点は以下の通りです。
- アルコール摂取の制限
- 肝毒性のある薬剤との併用注意
過敏症反応
アピキサバンによるアレルギー反応や過敏症状が現れる患者さんもいます。
皮疹・掻痒感・蕁麻疹などの皮膚症状が多いですが、まれに重篤なアナフィラキシー反応を引き起こすこともあります。
過敏症状が出現した際は速やかに服用を中止して医療機関を受診するよう患者さんに指導することが重要です。
過敏症状 | 頻度 |
皮疹 | 中等度 |
掻痒感 | 中等度 |
蕁麻疹 | 低頻度 |
アナフィラキシー | 極めて稀 |
過敏症のリスクがある患者さんには 以下の指導を行います。
- 症状出現時の対処法
- 代替薬の検討
薬物相互作用
アピキサバンは多くの薬剤と相互作用を示すため併用薬の管理が難しくなるというデメリットがあります。
特に他の抗凝固薬・抗血小板薬・非ステロイド性抗炎症薬との併用では出血リスクが上昇します。
またCYP3A4阻害薬や誘導薬との併用によりアピキサバンの血中濃度が変動する恐れがあります。
相互作用薬剤 | 影響 |
抗凝固薬 | 出血リスク上昇 |
CYP3A4阻害薬 | 血中濃度上昇 |
CYP3A4誘導薬 | 血中濃度低下 |
薬物相互作用を避けるために注意すべきは以下の点です。
- 服用中の全ての薬剤 サプリメントの確認
- 新規薬剤追加時の相互作用チェック
ある医師の臨床経験では70代の女性患者さんがアピキサバン服用中に市販の風邪薬を併用して重度の鼻出血を起こしたケースがありました。
この経験から一般用医薬品やサプリメントの併用についても詳細な問診と指導を行うようになりました。
定期的な検査の必要性
アピキサバン服用中は定期的な血液検査や腎機能検査が必要となり、患者さんの負担となる場合があります。
特に高齢者や腎機能低下患者さんではより頻繁な検査が必要となるため、通院頻度が増加する可能性があるでしょう。
これらの検査は副作用の早期発見や用量調整に重要ですが、患者さんのQOLに影響を与える可能性がある点にも配慮が必要です。
検査項目 | 頻度 |
血算 | 3〜6ヶ月毎 |
腎機能 | 6〜12ヶ月毎 |
肝機能 | 6〜12ヶ月毎 |
定期検査の負担を軽減するための工夫としては以下のようなものがあります。
- 他の慢性疾患の通院に合わせた検査スケジュール調整
- 在宅での検査キット活用(可能な場合)
代替治療薬
他の直接経口抗凝固薬(DOAC)
アピキサバン(エリキュース)の効果が不十分だった際にまず検討すべき代替薬は他の直接経口抗凝固薬(DOAC)です。
DOACにはリバーロキサバン(イグザレルト)・エドキサバン(リクシアナ)・ダビガトラン(プラザキサ)などで、これらはアピキサバンと同様に新世代の抗凝固薬として広く使用されています。
上記のような薬剤は作用機序や薬物動態が異なるため、アピキサバンで十分な効果が得られなかった患者さんでも効果を発揮する可能性があります。
薬剤名 | 商品名 | 作用機序 |
リバーロキサバン | イグザレルト | Xa因子阻害 |
エドキサバン | リクシアナ | Xa因子阻害 |
ダビガトラン | プラザキサ | トロンビン阻害 |
DOACの選択にあたって考慮すべき点は次の通りです。
- 患者さんの腎機能
- 服用回数の希望
- 併用薬との相互作用
ワルファリン
ワルファリンは長年使用されてきた信頼性の高い抗凝固薬であり、アピキサバンが効果不十分だった場合の有力な代替選択肢となります。
ビタミンK拮抗薬として作用するワルファリンはDOACとは全く異なる機序で抗凝固作用を発揮するため、アピキサバンで効果が得られなかった患者さんにも有効な可能性があります。
ただしワルファリンは食事の影響を受けやすく、定期的なPT-INRモニタリングが必要なため患者さんの生活スタイルや通院の負担を考慮する必要があります。
特徴 | ワルファリン | DOAC |
作用機序 | ビタミンK拮抗 | 凝固因子直接阻害 |
モニタリング | 必要(PT-INR) | 不要 |
食事の影響 | 大きい | 小さい |
ワルファリン使用時の注意点は以下の通りです。
- 定期的な血液検査の実施
- ビタミンK含有食品の摂取量の管理
抗血小板薬
非弁膜症性心房細動患者さんや静脈血栓塞栓症の一部の症例では抗凝固薬の代わりに抗血小板薬を使用することもあります。
アスピリンやクロピドグレルといった抗血小板薬は血小板の凝集を抑制することで血栓形成を予防します。
これらの薬剤はアピキサバンと比較して抗血栓効果は劣りますが出血リスクが低いというのが利点です。
薬剤名 | 主な適応 | 作用機序 |
アスピリン | 動脈血栓予防 | COX阻害 |
クロピドグレル | 動脈血栓予防 | ADP受容体阻害 |
抗血小板薬の使用を検討する際は以下の点に注意します。
- 血栓塞栓症リスクの評価
- 出血リスクの評価
低分子ヘパリン
急性期の静脈血栓塞栓症治療や周術期の抗凝固療法として低分子ヘパリンを選択することがあります。
低分子ヘパリンは皮下注射で投与するため経口薬の服用が困難な患者さんや消化管からの吸収に問題がある患者さんに適しています。
また作用発現が速やかで効果の予測性が高いという特徴があります。
低分子ヘパリン | 投与経路 | 主な使用場面 |
エノキサパリン | 皮下注射 | 周術期 DVT予防 |
ダルテパリン | 皮下注射 | がん患者さんの VTE治療 |
低分子ヘパリンの主な利点は次の通りです。
- 迅速な抗凝固作用
- 経口摂取不要
非薬物療法
薬物療法が困難な患者さんでは非薬物療法を検討することもあります。
特に非弁膜症性心房細動患者さんにおける脳卒中予防として左心耳閉鎖デバイスの使用が選択肢となることがあります。
この方法は血栓の好発部位である左心耳を機械的に閉鎖することで血栓形成を防ぐものです。
非薬物療法 | 適応 | 特徴 |
左心耳閉鎖術 | NVAF | 侵襲的処置 |
下大静脈フィルター | DVT/PE | 一時的使用 |
非薬物療法を検討する際の注意点は以下の通りです。
- 手技に伴うリスクの評価
- 長期的な有効性の検討
ある医師の臨床経験では80代の非弁膜症性心房細動患者さんでアピキサバンによる消化管出血を繰り返した方に対し左心耳閉鎖デバイスを使用したケースがありました。
術後抗凝固薬を中止でき、QOLが大幅に改善した経験から個々の患者さんに応じた柔軟な治療選択の重要性を再認識しました。
併用禁忌
他の抗凝固薬との併用
アピキサバン(エリキュース)と他の抗凝固薬を同時に使用することは厳重に避けなければなりません。
この組み合わせは出血リスクを著しく高めるため患者さんの安全性を脅かす恐れがあります。
具体的にはワルファリン・ヘパリン・低分子ヘパリン フォンダパリヌクスなどの薬剤がアピキサバンとの併用禁忌に該当します。
併用禁忌薬 | 薬剤例 |
ビタミンK拮抗薬 | ワルファリン |
未分画ヘパリン | ヘパリンナトリウム |
低分子ヘパリン | エノキサパリン |
これらの薬剤とアピキサバンを誤って併用した際は以下の対応が必要となります。
- 直ちに両薬剤の投与を中止する
- 凝固系検査を実施し 出血リスクを評価する
強力なCYP3A4阻害剤との併用
アピキサバンは主にCYP3A4という酵素で代謝されるため強力なCYP3A4阻害剤との併用は避けるべきです。
これらの薬剤はアピキサバンの血中濃度を大幅に上昇させて出血リスクを増大させる危険性があります。
具体的にはイトラコナゾールやリトナビルなどの抗真菌薬や抗HIV薬がこの分類に該当します。
CYP3A4阻害剤 | 主な用途 |
イトラコナゾール | 抗真菌薬 |
リトナビル | 抗HIV薬 |
クラリスロマイシン | 抗生物質 |
強力なCYP3A4阻害剤を使用する必要がある場合は次のような代替策を検討します。
- アピキサバンの一時中断
- 別の抗凝固療法への切り替え
P糖タンパク阻害剤との併用
P糖タンパクはアピキサバンの体内動態に影響を与える重要なトランスポーターです。
P糖タンパク阻害剤との併用はアピキサバンの血中濃度を上昇させて出血リスクを高めるリスクがあるため注意が必要です。
具体的にはシクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制剤がこの分類に含まれます。
P糖タンパク阻害剤 | 主な用途 |
シクロスポリン | 免疫抑制剤 |
タクロリムス | 免疫抑制剤 |
ベラパミル | 降圧薬 |
P糖タンパク阻害剤との併用を避けられない状況では以下の対策を考慮します。
- アピキサバンの減量
- より頻回な臨床モニタリング
セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)との併用
セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)はうつ病の治療に用いられるハーブ製剤ですが、アピキサバンとの併用は避けるべきです。
この植物由来成分はCYP3A4を強力に誘導してアピキサバンの血中濃度を低下させることで抗凝固作用を減弱させる恐れがあります。
結果として血栓塞栓症のリスクが上昇する可能性があるため注意が必要です。
相互作用 | 影響 |
CYP3A4誘導 | アピキサバン濃度低下 |
抗凝固作用 | 効果減弱 |
血栓リスク | 上昇 |
セイヨウオトギリソウを含む製品は以下のようなものです。
- 健康食品
- サプリメント
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアピキサバンの併用は出血リスクを増大させる恐れがあるため原則として避けるべきです。
NSAIDsは血小板機能を抑制して胃粘膜保護作用を低下させるため、アピキサバンとの併用で消化管出血のリスクが特に高まります。
具体的にはアスピリン・イブプロフェン・ジクロフェナクなどの一般的なNSAIDsがこの分類に含まれます。
NSAID | 主な用途 |
アスピリン | 解熱鎮痛 抗血小板 |
イブプロフェン | 解熱鎮痛 抗炎症 |
ジクロフェナク | 解熱鎮痛 抗炎症 |
NSAIDsの使用が必要な際は次のような対策を検討します。
- アセトアミノフェンなどの代替薬の使用
- 最小有効量での短期間使用
アピキサバンと併用禁忌薬の相互作用は複雑で個々の患者さんの状況に応じた慎重な判断が重要です。
医療従事者は患者さんの服用中の全ての薬剤(処方薬 市販薬 サプリメントを含む)を把握して適切な薬剤管理を行う必要があります。
患者さんの指導も重要であり、新たな薬剤の追加や変更がある際は必ず主治医に相談するよう指導することが大切です。
アピキサバン(エリキュース)の薬価
薬価
アピキサバン(エリキュース)の薬価は規格によって異なります。
2.5mg錠は1錠あたり117.5円、5mg錠は1錠あたり212.3円と設定されています。
規格 | 薬価(1錠あたり) |
2.5mg錠 | 117.5円 |
5mg錠 | 212.3円 |
処方期間による総額
標準的な用法である1回5mgを1日2回服用する場合では1週間の処方で2,972.2円、1ヶ月の処方で12,738円となります。
処方期間 | 総額 |
1週間 | 2,972.2円 |
1ヶ月 | 112,738円 |
長期服用が必要な患者さんには経済的負担が大きくなる傾向がありますが、以下の要因が総額に影響を与えます。
- 処方日数
- 1日の服用回数
以上
- 参考にした論文