アレクチニブ塩酸塩(アレセンサ)とは非小細胞肺がんの特定の遺伝子変異を持つ患者さんに処方される分子標的薬です。

この薬剤はALK融合遺伝子陽性の方々を対象としており、がん細胞の増殖を抑制する効果が期待されています。

従来の化学療法とは異なりピンポイントでがん細胞を攻撃することで副作用の軽減にも寄与する可能性があります。

医療の進歩により開発されたこの薬は患者さんの生活の質を維持しながら病気と向き合うための選択肢の一つとなっています。

アレセンサ カプセル 150mg|PLUS CHUGAI 中外製薬医療関係者向けサイト(医師向け) (chugai-pharm.jp)

アレクチニブ塩酸塩(アレセンサ)の有効成分、作用機序、効果

有効成分の特性

アレクチニブ塩酸塩(えんさんえん)は分子標的薬として知られる薬剤群に属する化合物です。

この成分は特定のタンパク質に対して高い親和性を持ち、がん細胞の増殖に関わる経路を阻害する働きを有します。

分子量や化学構造などアレクチニブ塩酸塩の物理化学的特性はその薬理作用と密接に関連しています。

特性詳細
化学式C30H34N4O2・HCl
分子量482.62 g/mol
形状白色~黄白色の結晶又は結晶性の粉末
溶解性水にやや溶けにくい

作用機序の詳細

アレクチニブ塩酸塩の主な標的はALK(Anaplastic Lymphoma Kinase)と呼ばれるタンパク質キナーゼです。

ALKは正常細胞では厳密に制御されていますが、一部の非小細胞肺がんでは異常な活性化が起こっています。

この薬剤はALKに結合してその活性を強力に阻害することでがん細胞の増殖シグナルを遮断します。

  • ALKタンパク質への選択的な結合
  • キナーゼ活性の阻害
  • がん細胞の増殖シグナル伝達の遮断
  • アポトーシス(細胞死)の誘導

さらにアレクチニブ塩酸塩はRET(REarranged during Transfection)キナーゼも阻害して複数の経路を標的とすることで、より効果的にがん細胞の成長を抑制します。

薬物動態学的特徴

アレクチニブ塩酸塩の体内での動きはその治療効果に大きな影響を与えます。

経口投与後に消化管から吸収されて主に肝臓で代謝されます。半減期が比較的長いため1日2回の投与で安定した血中濃度を維持できます。

パラメータ
生物学的利用能約37%
最高血中濃度到達時間4-6時間
半減期約32時間
主な代謝経路CYP3A4

中枢神経系への移行性が高いこともこの薬剤の特徴の一つです。

臨床効果とエビデンス

アレクチニブ塩酸塩の効果は複数の臨床試験で実証されています。

ALK融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺がん患者さんに対して高い奏効率と無増悪生存期間の延長が報告されています。

特に脳転移を有する患者さんでも頭蓋内病変に対する効果が認められています。

臨床試験主要結果
ALEX試験クリゾチニブと比較し、無増悪生存期間を有意に延長
J-ALEX試験日本人患者さんでも同様の有効性を確認
ALUR試験二次治療以降でも有効性を示す

従来の化学療法と比較してより長期の病勢コントロールが期待できることが示されています。

このような効果は患者さんのQOL(生活の質)維持にも寄与する可能性があります。

  • 全身性の抗腫瘍効果
  • 脳転移巣への効果
  • 長期的な病勢コントロール
  • QOLの維持

アレクチニブ塩酸塩の登場によりALK陽性非小細胞肺がんの治療戦略は大きく変化しました。

継続的な研究によってこの薬剤の位置づけや使用法はさらに最適化される見込みです。

使用方法と注意点

投与方法と用量

アレクチニブ塩酸塩は経口投与する薬剤であり、通常 1日2回の服用を推奨します。

標準的な用量は1回300mgですが患者さんの状態や副作用の発現状況に応じて調整する場合があります。

食事の影響を受けにくい特性を持つため食前食後を問わず服用できます。

投与タイミング用量
300mg
300mg

服用を忘れた際は次の定期投与時間まで待ち、決して2回分を一度に服用しないよう患者さんに指導することが重要です。

治療効果のモニタリング

アレクチニブ塩酸塩による治療を開始した後は定期的な効果判定と副作用チェックが必要です。

CT検査やMRI検査などの画像診断を通じて腫瘍の縮小や増大の有無を評価します。

血液検査では肝機能や腎機能のパラメーターを注意深く観察して異常値の早期発見に努めます。

検査項目頻度
画像診断2-3ヶ月ごと
血液検査2-4週間ごと

治療効果が認められる場合でも長期的な経過観察が重要で定期的な診察を継続します。

生活上の注意点

アレクチニブ塩酸塩による治療中は日常生活においてもいくつかの注意点があります。

過度の日光暴露を避けて外出時は日焼け止めや帽子の着用を心がけるよう指導します。

運転や機械操作時には注意力や集中力低下の可能性を考慮して慎重な行動を促します。

  • 日常生活での注意点
  • 適度な休息をとる
  • バランスの良い食事を心がける
  • 定期的な軽い運動を継続する
  • アルコール摂取を控える

妊娠可能な女性患者さんには治療中および治療終了後一定期間の避妊が必要である点を説明します。

生活習慣推奨事項
睡眠7-8時間の十分な睡眠
食事バランスの取れた栄養摂取
運動週3回 30分程度のウォーキング

服薬アドヒアランスの重要性

アレクチニブ塩酸塩による治療では継続的な服薬が効果を最大限に引き出すために大切です。

患者さんの生活リズムに合わせた服薬スケジュールの設定やお薬カレンダーの活用などが有効な手段となります。

副作用への不安や服薬の煩わしさから自己判断で中断することがないように丁寧な説明と定期的なフォローアップが求められます。

ある医師の臨床経験ではある患者さんが服薬を忘れないようスマートフォンのアラーム機能を活用して毎日の服薬時間を設定したところ、アドヒアランスが大幅に向上した事例がありました。

このような工夫を個々の患者さんの生活スタイルに合わせて提案することで治療の継続性を高められる場合が多いです。

アドヒアランス向上策内容
お薬カレンダー服薬状況を視覚化
アラーム設定服薬時間を通知
家族のサポート服薬の声かけ
定期的な面談服薬状況の確認と励まし

患者さんとのコミュニケーションを密に取り服薬に関する疑問や不安を解消することで、より効果的な治療につながります。

適応対象となる患者

ALK陽性非小細胞肺がん患者

アレクチニブ塩酸塩(あれくちにぶえんさんえん)は主にALK(Anaplastic Lymphoma Kinase)融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者さんに対して使用する薬剤です。

このタイプの肺がんは全非小細胞肺がんの約3-5%を占め比較的若年層や非喫煙者に多く見られる傾向があります。

ALK融合遺伝子の存在は特殊な遺伝子検査によって確認してその結果に基づいて投与を検討します。

ALK陽性の特徴詳細
発生頻度非小細胞肺がんの3-5%
好発年齢50歳前後
喫煙歴非喫煙者または軽度喫煙者に多い

初回治療および二次治療以降の患者

アレクチニブ塩酸塩は初回治療(ファーストライン)としても二次治療以降(セカンドライン以降)としても使用可能です。

初回治療の患者さんでは他の抗がん剤による治療歴がない状態でアレクチニブ塩酸塩の投与を開始します。

一方、二次治療以降の患者さんでは他のALK阻害剤や化学療法による前治療後に病勢進行が確認された場合に投与を検討します。

治療ライン患者さんの状態
初回治療未治療のALK陽性非小細胞肺がん
二次治療以降前治療後に再発・進行したALK陽性非小細胞肺がん

転移性・進行性がん患者

アレクチニブ塩酸塩の投与対象となるのは主に進行または転移性の非小細胞肺がん患者さんです。

局所進行性(ステージIIIB)や遠隔転移を有する(ステージIV)患者さんが該当し、根治的な手術や放射線療法の適応とならない段階の方々が対象となります。

特に脳転移を有する患者さんにも効果が期待できるため中枢神経系への転移がある場合でも投与を考慮します。

  • 適応となる病期
  • ステージIIIB(局所進行性)
  • ステージIV(遠隔転移あり)

脳転移を含む全身状態の評価を行い 個々の患者さんの状況に応じた投与判断が重要です。

遺伝子検査による適応判定

アレクチニブ塩酸塩の投与を検討する際にはALK融合遺伝子の存在を確認するための遺伝子検査が必要です。

現在広く用いられている検査方法としては免疫組織化学染色(IHC法)や蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH法)があります。

これらの検査結果に基づいてALK陽性と判定された患者さんがアレクチニブ塩酸塩の投与対象となります。

検査方法特徴
IHC法タンパク質レベルでALKの過剰発現を検出
FISH法遺伝子レベルでALK融合を直接確認

検査の精度や感度によって偽陰性や偽陽性の可能性もあるため臨床症状や画像所見と合わせた総合的な判断が大切です。

全身状態(PS)を考慮した適応判断

アレクチニブ塩酸塩の投与を決定する際には患者さんの全身状態(パフォーマンスステータス PS)を評価することが必要です。

一般的にPSが0-2の患者さんが投与対象となりますが個々の症例に応じて慎重に判断します。

PSが3-4の患者さんでは薬剤の忍容性や期待される効果を十分に検討した上で投与の是非を決定します。

PS状態投与判断
0-1日常生活に支障なし積極的に検討
2日中の50%未満は臥床慎重に検討
3-4日中の50%以上が臥床極めて慎重に判断

患者さんの年齢や併存疾患なども考慮して個別化した投与決定が求められます。

副作用リスクの評価

アレクチニブ塩酸塩の投与に際しては予想される副作用と患者さんの状態を照らし合わせたリスク評価が大切です。

肝機能障害や間質性肺疾患のリスクが高い患者さんでは特に注意深いモニタリングが必要となります。

また 重度の腎機能障害を有する患者さんに対しては 慎重な投与量調整を要する場合があります。

  • 副作用リスク評価項目
  • 肝機能検査値(AST ALT ビリルビンなど)
  • 腎機能検査値(クレアチニンクリアランスなど)
  • 間質性肺疾患の既往や合併

これらの評価を通じて個々の患者さんに最適な投与計画を立案することが可能となります。

リスク因子評価方法
肝機能障害血液生化学検査
腎機能障害eGFR クレアチニンクリアランス
間質性肺疾患胸部CT 呼吸機能検査

患者さんの背景因子や合併症を総合的に勘案して適切な投与対象の選定を行うことが重要です。

治療期間

治療開始から効果判定まで

アレクチニブ塩酸塩による治療を開始した後から最初の効果判定までの期間は通常8〜12週間程度です。

この間は患者さんの全身状態や副作用の出現状況を綿密に観察しながら薬剤の継続使用の是非を慎重に判断します。

効果判定には主にCTやMRIなどの画像検査を用いて腫瘍の縮小や増大の有無を評価します。

評価項目判定基準
完全奏効(CR)すべての病変が消失
部分奏効(PR)腫瘍径の30%以上の縮小
安定(SD)PRとPDの中間
進行(PD)腫瘍径の20%以上の増大

初回の効果判定で腫瘍の縮小や病勢の安定が確認できれば継続使用の根拠となります。

長期投与の考え方

アレクチニブ塩酸塩は効果が持続する限り長期にわたって投与を継続することが一般的です。

多くの患者さんで数ヶ月から数年にわたる投与が行われており、中には5年以上の長期投与例も報告されています。

ただし個々の患者さんの状態や治療反応性 副作用の程度によって投与期間は大きく異なります。

  • 長期投与を支持する要因
  • 腫獋の著明な縮小または消失
  • 全身状態の改善または維持
  • 重篤な副作用の非出現

ある医師の臨床経験ではある60代の男性患者さんがアレクチニブ塩酸塩の投与開始から4年以上経過した現在も良好な病勢コントロールを維持しています。

この症例では定期的な画像評価と副作用モニタリングを継続しながら患者さんのQOL(生活の質)を保ちつつ治療を続けられています。

投与期間患者さんの割合(推定)
1年未満20-30%
1-3年40-50%
3-5年20-30%
5年以上5-10%

治療中断の判断基準

アレクチニブ塩酸塩の投与中断を検討する主な状況としては病勢の進行や重篤な副作用の出現が挙げられます。

画像検査で明らかな腫瘍増大や新病変の出現が確認された際には薬剤耐性の可能性を考慮して投与中止や他剤への切り替えを検討します。

またグレード3以上の重篤な副作用(特に間質性肺疾患や重度の肝機能障害など)が生じた場合は投与の一時中断や永久中止を判断しなければなりません。

中断理由対応
病勢進行他剤への切り替えを検討
重篤な副作用一時中断後 減量再開または永久中止

休薬期間の設定

副作用管理のために一時的な休薬が必要となる場合があり、その期間の設定には慎重な判断が求められます。

通常グレード2以上の副作用が出現した際に休薬を考慮して症状の改善を待って投与を再開します。

休薬期間は副作用の種類や重症度によって異なりますが概ね1〜4週間程度が目安です。

  • 主な休薬対象となる副作用
  • 間質性肺疾患
  • 肝機能障害
  • 重度の皮膚障害
  • QT間隔延長

再開時には減量を検討するなど慎重な対応が必要です。

副作用グレード推奨される休薬期間
Grade 21-2週間
Grade 32-4週間
Grade 4永久中止を検討

治療効果の持続性評価

アレクチニブ塩酸塩による治療効果の持続性を評価するため定期的なフォローアップが大切です。

通常 2〜3ヶ月ごとの画像検査と適切な間隔での血液検査を実施して効果の維持状況を確認します。

長期投与例では 効果が安定している場合でも半年に1回程度は詳細な全身評価を行うことが望ましいです。

フォローアップ項目頻度
胸部CT2-3ヶ月ごと
脳MRI(転移例)3-6ヶ月ごと
血液検査1-2ヶ月ごと
全身PET-CT6-12ヶ月ごと

治療効果が持続している間は患者さんのQOLを維持しながら投与を継続することが可能です。

副作用とデメリット

消化器系の副作用

アレクチニブ塩酸塩投与時に比較的高頻度で発現する副作用として消化器症状が挙げられます。

悪心・嘔吐・便秘・下痢などの症状が患者さんの生活の質に影響を与える場合があります。

これらの症状は多くの場合軽度から中等度であり対症療法で管理可能ですが、長期的な投与では持続的な対応が必要です。

消化器症状発現頻度
便秘約30%
悪心約20%
下痢約15%
嘔吐約10%

消化器症状の管理には食事指導・制吐剤・下剤などの併用を考慮します。

肝機能障害

アレクチニブ塩酸塩による治療中は肝機能障害の発現に注意を払わなければいけません。

AST(GOT)やALT(GPT)などの肝酵素上昇が認められる患者さんが一定数存在し、重度の場合は投与中断や減量を検討する必要があります。

定期的な血液検査によるモニタリングが重要で早期発見・早期対応が肝機能障害の重症化予防につながります。

  • 肝機能モニタリングのポイント
  • 投与開始前の肝機能評価
  • 投与開始後2週間は毎週の検査
  • その後は月1回程度の定期検査
  • 異常値出現時の頻回検査

肝機能障害の管理には肝庇護薬の使用や休薬期間の設定など個別化した対応が求められます。

間質性肺疾患

アレクチニブ塩酸塩投与中に注意すべき重大な副作用として間質性肺疾患があります。

頻度は比較的低いものの、発症した場合の重症度が高く致死的となる恐れもあるため慎重な経過観察が必要です。

咳嗽・呼吸困難・発熱などの症状出現時には速やかに胸部CTなどの精査を行い早期診断・早期治療につなげることが大切です。

間質性肺疾患の症状対応
乾性咳嗽胸部X線・CT検査
労作時呼吸困難呼吸機能検査
発熱血液ガス分析
倦怠感気管支肺胞洗浄

間質性肺疾患が疑われる場合は直ちに投与を中止してステロイド治療などの適切な処置を行います。

筋骨格系の副作用

アレクチニブ塩酸塩投与中は筋肉痛や関節痛などの筋骨格系症状を訴える患者さんが少なくありません。

これらの症状は患者さんのQOL低下につながる可能性があり長期投与時の服薬アドヒアランスにも影響を及ぼす要因となります。

症状の程度に応じて鎮痛剤の使用や理学療法の導入など多面的なアプローチが求められます。

筋骨格系症状管理方法
筋肉痛NSAIDs内服 軽度の運動
関節痛アセトアミノフェン内服 温熱療法
筋力低下リハビリテーション 栄養指導
こわばりストレッチング 温浴

症状が持続する際には減量や休薬を考慮するなど 柔軟な対応が必要です。

皮膚障害

アレクチニブ塩酸塩による皮膚障害は比較的頻度の高い副作用の一つです。

発疹や掻痒感 皮膚乾燥などが主な症状で患者さんの生活の質に直接影響を与える可能性があります。

重症度に応じて外用ステロイド剤や保湿剤の使用 抗ヒスタミン薬の内服などの対症療法を行います。

  • 皮膚障害への対策
  • 保湿剤の定期的な使用
  • 刺激の少ない石鹸の選択
  • 過度の紫外線暴露を避ける
  • 皮膚科医との連携

ある医師の臨床経験ではある患者さんが重度の発疹に悩まされていましたが、皮膚科と連携して適切なスキンケア指導と外用薬の使用を行いました。

その結果症状が改善し治療継続が可能となった事例があります。

このように 皮膚科との密な連携が副作用管理の鍵となる場合があるでしょう。

薬剤耐性

アレクチニブ塩酸塩の長期投与に伴うデメリットとして薬剤耐性の獲得が挙げられます。

初期には良好な効果を示していても時間経過とともに腫瘍細胞が薬剤に対する耐性を獲得して効果が減弱または消失する可能性があります。

耐性獲得のメカニズムは複雑でありALK遺伝子の二次変異や代替経路の活性化などが関与していると考えられています。

耐性メカニズム特徴
ALK二次変異G1202R変異など
バイパス経路活性化EGFR MET経路など
薬剤排出ポンプ活性化P-糖タンパクの過剰発現
EMT上皮間葉転換

耐性出現時には他のALK阻害剤への切り替えや併用療法の検討が必要となります。

代替治療薬

次世代ALK阻害剤

アレクチニブ塩酸塩に効果が見られなかった際は次世代のALK阻害剤への切り替えを検討します。

ロルラチニブやブリガチニブなどの薬剤はアレクチニブ耐性後にも効果を示す可能性があります。

これらの薬剤はアレクチニブ耐性の原因となる二次変異にも対応できるよう設計されており、より広範囲のALK変異に対して活性を有します。

薬剤名特徴
ロルラチニブ第3世代ALK阻害剤 脳転移に高い移行性
ブリガチニブ第2世代ALK阻害剤 広範囲のALK変異に有効

これらの薬剤選択には耐性メカニズムの推定や患者さんの全身状態を考慮した慎重な判断が必要です。

免疫チェックポイント阻害剤

ALK阻害剤全般に耐性を示した患者さんに対しては免疫チェックポイント阻害剤の使用を考慮します。

選択肢としてはニボルマブやペムブロリズマブなどの抗PD-1抗体、アテゾリズマブなどの抗PD-L1抗体です。

これらの薬剤は患者さん自身の免疫システムを活性化させることで腫瘍細胞を攻撃する機序を持ちます。

  • 主な免疫チェックポイント阻害剤
  • ニボルマブ(オプジーボ)
  • ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
  • アテゾリズマブ(テセントリク)
  • デュルバルマブ(イミフィンジ)

ただしALK陽性肺癌では免疫チェックポイント阻害剤の効果が限定的との報告もあり、個々の症例に応じた判断が重要です。

従来型の細胞障害性抗癌剤

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示す場合は従来型の細胞障害性抗癌剤の使用を検討します。

プラチナ製剤をベースとした併用療法が一般的で、ペメトレキセドやドセタキセルなどと組み合わせて使用します。

これらの薬剤は広範囲のがん細胞に対して細胞毒性を示すためALK阻害剤耐性後でも一定の効果が期待できます。

薬剤名併用薬
シスプラチンペメトレキセド
カルボプラチンパクリタキセル
シスプラチンゲムシタビン
カルボプラチンドセタキセル

患者さんの年齢・全身状態・既往歴などを考慮して適切なレジメンを選択します。

血管新生阻害薬

腫瘍の増殖に必要な血管新生を阻害する薬剤も代替治療の選択肢となります。

具体的にはベバシズマブやラムシルマブなどの抗VEGF抗体 スニチニブなどのマルチキナーゼ阻害薬です。

これらの薬剤は単剤での使用よりも他の抗癌剤との併用で使用されることが多く相乗効果を期待します。

薬剤名作用機序
ベバシズマブ抗VEGF抗体
ラムシルマブ抗VEGFR2抗体
スニチニブマルチキナーゼ阻害薬
アキシチニブVEGFR選択的阻害薬

血管新生阻害薬の使用には出血や血栓症などのリスク評価が必要です。

臨床試験薬

既存の治療薬に抵抗性を示す患者さんに対しては臨床試験段階の新規薬剤の使用を提案することもあります。

ALK阻害作用を有する新規化合物や新たな作用機序を持つ分子標的薬、さらには細胞治療や遺伝子治療など 様々なアプローチの薬剤が開発中です。

臨床試験への参加は患者さんに新たな治療機会を提供するだけでなく、医学の発展にも寄与する重要な選択肢となります。

  • 臨床試験参加のメリット
  • 新規治療薬へのアクセス
  • 綿密な経過観察
  • 医学の進歩への貢献
  • 費用負担の軽減

ただし未知の副作用リスクや効果の不確実性など デメリットもあるため十分な説明と同意が必要です。

ある医師の臨床経験ではアレクチニブ耐性後に次世代ALK阻害剤のロルラチニブを使用し著効を示した症例を経験しました。

この患者さんは脳転移を有していましたがロルラチニブの高い中枢神経系移行性により、脳病変の著明な縮小が得られQOLの改善につながりました。

このように耐性後の薬剤選択によっては予想以上の効果が得られる機会があります。

併用療法の可能性

単剤での効果が限定的な場合には複数の薬剤を組み合わせた併用療法を検討します。

ALK阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤の併用、あるいはALK阻害剤と血管新生阻害薬の併用など異なる作用機序を持つ薬剤の組み合わせにより相乗効果を期待します。

併用療法は単剤使用時と比較して副作用のリスクが高まる傾向にあるため慎重なモニタリングが必要です。

併用例期待される効果
ALK阻害剤 + 免疫チェックポイント阻害剤腫瘍免疫の活性化
ALK阻害剤 + 血管新生阻害薬腫瘍血管新生の抑制
免疫チェックポイント阻害剤 + 化学療法免疫原性細胞死の誘導

併用禁忌

CYP3A誘導薬との併用

アレクチニブ塩酸塩はCYP3Aで代謝される薬剤のためCYP3A誘導薬との併用は避けるべきです。

リファンピシンやカルバマゼピン フェニトインなどの強力なCYP3A誘導薬はアレクチニブの血中濃度を著しく低下させて治療効果を減弱させる危険性があります。

これらの薬剤との併用を避けることでアレクチニブの有効性を維持し、治療の成功率を高めることにつながります。

CYP3A誘導薬主な用途
リファンピシン結核治療薬
カルバマゼピン抗てんかん薬
フェニトイン抗てんかん薬
フェノバルビタール睡眠薬・抗てんかん薬

これらの薬剤を使用中の患者さんではアレクチニブ投与前に代替薬への切り替えを検討する必要があります。

セイヨウオトギリソウ含有食品

セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)は一般的に入手可能なハーブサプリメントですがアレクチニブとの併用は避けるべきです。

この植物成分はCYP3Aを強力に誘導するためアレクチニブの血中濃度を大幅に低下させる可能性があります。

患者さんへの服薬指導の際には市販のサプリメントや健康食品にも注意を払うよう促すことが重要です。

  • セイヨウオトギリソウの影響
  • アレクチニブの血中濃度低下
  • 治療効果の減弱
  • 薬物動態の予測困難性

セイヨウオトギリソウ含有製品の使用歴がある患者さんでは少なくとも2週間の休薬期間を設けてからアレクチニブ投与を開始することが望ましいです。

グレープフルーツ製品

グレープフルーツやその果汁製品はCYP3Aを阻害する作用を持つためアレクチニブとの併用は避けるべきです。

これらの製品との相互作用によりアレクチニブの血中濃度が上昇し予期せぬ副作用のリスクが高まる恐れがあります。

患者さんには治療期間中はグレープフルーツ関連製品の摂取を控えるよう指導することが大切です。

グレープフルーツ製品注意点
生果実完全に避ける
ジュース少量でも影響あり
ジャム製造過程で濃縮される場合あり
サプリメント含有の有無を確認

代替としてオレンジやレモンなど他の柑橘類の摂取は問題ありません。

他のALK阻害剤との併用

アレクチニブは単剤での使用が原則であり、他のALK阻害剤(クリゾチニブ セリチニブなど)との併用は避けるべきです。

これらの薬剤は類似した作用機序を持つため併用による有効性の向上は期待できず、むしろ副作用のリスクが増大します。

ALK阻害剤の切り替えを行う際には前薬の血中濃度が十分に低下するまで一定の休薬期間を設けることが重要です。

ALK阻害剤一般名
ザーコリクリゾチニブ
ジカディアセリチニブ
ローブレナロルラチニブ
アルンブリグブリガチニブ

上記のような薬剤の切り替えは慎重に行い副作用のモニタリングを十分に行う必要があります。

QT間隔延長を引き起こす薬剤

アレクチニブはQT間隔延長のリスクがあるためQT間隔延長を引き起こすことが知られている他の薬剤との併用には注意が必要です。

抗不整脈薬・一部の抗菌薬・抗うつ薬などがこれに該当し、これらとの併用はQT間隔延長のリスクを相加的に増大させる恐れがあります。

併用が避けられない際には心電図モニタリングを頻回に行い異常の早期発見に努めることが大切です。

  • QT間隔延長リスクのある薬剤
  • キニジン プロカインアミド(抗不整脈薬)
  • エリスロマイシン クラリスロマイシン(マクロライド系抗菌薬)
  • ハロペリドール(抗精神病薬)
  • オンダンセトロン(制吐剤)

これらの薬剤との併用を検討する際には心臓専門医との連携が重要です。

強力なCYP3A阻害薬

アレクチニブの代謝に関与するCYP3Aを強力に阻害する薬剤との併用には十分な注意が必要です。

イトラコナゾールやケトコナゾールなどの抗真菌薬、リトナビルなどの抗HIV薬がこれに該当し、これらとの併用はアレクチニブの血中濃度を大幅に上昇させるリスクが生じます。

併用が避けられない際にはアレクチニブの減量や副作用モニタリングの強化を考慮しなければなりません。

強力なCYP3A阻害薬主な用途
イトラコナゾール深在性真菌症治療薬
ケトコナゾール抗真菌薬
リトナビル抗HIV薬
クラリスロマイシンマクロライド系抗菌薬

これらの薬剤との併用を避けることでアレクチニブの安全性を確保して有効な血中濃度を維持することができます。

アレクチニブ塩酸塩(アレセンサ)の薬価

薬価

アレクチニブ塩酸塩の薬価は1カプセルあたり6737.1円です。

通常 1日4カプセルを服用するため1日あたりの薬価は26,948.4円となります。

この金額は患者さん負担額ではなく 保険適用前の薬剤費を示しています。

規格薬価
150mgカプセル6737.1円
1日分(4カプセル)26,948.4円

処方期間による総額

アレクチニブ塩酸塩を1週間処方された場合の薬価総額は188,638.8円となります。

これが1ヶ月(30日)処方になると808,452円に達します。

処方期間薬価総額
1週間188,638.8円
1ヶ月808,452円

自己負担額の軽減策

高額な薬価に対しては民間の医療保険やがん保険などの活用が経済的負担の軽減に有効です。

これらの保険は入院時の自己負担額だけでなく外来治療における薬剤費の補填にも利用できます。

保険の種類特徴
がん保険抗がん剤治療に特化
医療保険幅広い疾患をカバー
  • 経済的サポート制度
  • 高額医療費制度
  • NPO法人による助成金制度

なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

以上

参考にした論文