アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)とは特定の肺がん患者さんに対して処方される経口分子標的薬です。
この薬剤はがん細胞の増殖に関与するタンパク質の働きを抑制することで腫瘍の成長を阻止する効果が期待されます。
主に上皮成長因子受容体遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの方々に使用されることが多く従来の抗がん剤とは異なるメカニズムで作用します。
患者さんの状態や病状の進行度に応じてこの薬剤の使用が検討されますが、副作用や相互作用についても十分な注意が必要です。
有効成分と作用機序、その効果
アファチニブマレイン酸塩の有効成分
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)の有効成分は分子量441.49の白色〜黄色の結晶または結晶性の粉末であるアファチニブです。
この化合物は水に対して難溶性を示しますが、ジメチルスルホキシドやN,N-ジメチルホルムアミドといった有機溶媒には溶けやすい特性を持っています。
アファチニブの化学構造はキナゾリン骨格を基本とし、側鎖にアクリルアミド基を有する特徴的な形態を取っています。
項目 | 詳細 |
一般名 | アファチニブマレイン酸塩 |
化学名 | N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3S)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド一リンゴ酸塩 |
分子式 | C32H33ClFN5O11 |
分子量 | 718.08 |
アファチニブの作用機序
アファチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)に分類される薬剤です。
この薬剤はEGFRファミリーに属するHER1(EGFR)、HER2、HER4の細胞内チロシンキナーゼドメインに不可逆的に結合することでこれらの受容体の活性を阻害します。
アファチニブが結合すると受容体のリン酸化が抑制されて下流のシグナル伝達経路が遮断されます。
標的受容体 | 阻害効果 |
HER1 (EGFR) | 強力な阻害 |
HER2 | 中程度の阻害 |
HER4 | 弱い阻害 |
この作用によってがん細胞の増殖・生存・転移に関与する重要な経路が遮断されて腫瘍の成長が抑制されます。
アファチニブの特徴的な作用機序
アファチニブの特筆すべき点はその不可逆的な結合様式にあります。
- 従来のEGFR-TKIとは異なり受容体との結合が強固
- 一度結合すると受容体の機能を長時間にわたり抑制
この特性によりアファチニブは持続的な効果を発揮してがん細胞の増殖を効果的に抑制することが可能となるのです。
アファチニブの臨床効果
アファチニブは主にEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者さんに対して使用されます。
臨床試験では特にEGFR遺伝子のエクソン19欠失変異やエクソン21 L858R点突然変異を有する患者さんにおいて顕著な効果が確認されています。
評価項目 | 結果 |
無増悪生存期間 | プラセボ群と比較して有意に延長 |
奏効率 | 従来の化学療法と比較して高い |
全生存期間 | 一部のサブグループで改善傾向 |
アファチニブの投与により腫瘍の縮小や症状の改善が観察されて患者さんのQOL向上に寄与することが報告されています。
進行性または転移性のNSCLC患者さんにおいてアファチニブは一次治療の選択肢として位置づけられています。
特に従来の治療法に抵抗性を示す患者さんや特定のEGFR遺伝子変異を有する患者さんに対して有効性が期待できます。
臨床現場で確認されているアファチニブの効果は次の通りです。
- 腫瘍サイズの減少
- 症状(咳、呼吸困難など)の軽減
- 生存期間の延長
- 日常生活の質の向上
これらの効果によりアファチニブは肺がん治療の重要な選択肢となっています。
使用方法と注意点
投与方法と用量
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)は経口投与する薬剤で 通常成人には1日1回 食事の1時間前または食後2時間以降に服用します。
標準的な開始用量は40mgですが、患者さんの状態や副作用の発現状況に応じて適宜増減することがあります。
用量 | 適応 |
40mg | 標準開始用量 |
30mg | 副作用発現時の減量 |
50mg | 効果不十分時の増量 |
服用を忘れた際は気づいた時点で速やかに服用しますが、次の服用時間まで6時間未満の時は飛ばして次の定期服用時間に1回分を服用します。
決して2回分を一度に服用してはいけません。
副作用モニタリングと対処法
アファチニブ投与中は定期的な副作用のモニタリングが重要です。
特に注意すべき副作用としては下痢・皮膚障害・間質性肺疾患などがあります。
副作用 | モニタリング項目 |
下痢 | 便の回数・性状 |
皮膚障害 | 発疹・掻痒感 |
間質性肺疾患 | 呼吸困難・咳嗽 |
これらの副作用が発現した際は速やかに担当医に連絡して適切な対処を行うことが大切です。
症状の程度に応じて投与量の調整や一時的な投与中断、支持療法の実施などを検討します。
患者指導のポイント
アファチニブを安全かつ効果的に使用するためには患者さんへの適切な指導が不可欠です。
服薬アドヒアランスの維持や副作用への早期対応など患者さん自身が主体的に治療に取り組むよう促すことが重要です。
- 毎日決まった時間に服用することの重要性
- 副作用の初期症状と対処法
- 生活上の注意点(日光過敏など)
患者さんの理解度を確認しながら個々の生活スタイルに合わせた具体的なアドバイスを提供することで治療の継続性を高めることができます。
指導項目 | 内容 |
服薬時間 | 食事との関係を考慮 |
副作用対策 | 保湿剤の使用など |
生活習慣 | 禁煙・適度な運動 |
ある医師の臨床経験ではある70代の男性患者さんがアファチニブの服用開始後2週間で重度の下痢を発症しました。
速やかに減量と対症療法を行いその後は副作用をうまくコントロールしながら治療を継続できました。
このケースから早期の副作用対応と患者さんとの密なコミュニケーションの重要性を再認識しました。
長期使用時の注意点
アファチニブを長期間使用する際には定期的な効果判定と安全性評価が必要です。
画像検査や血液検査を定期的に実施して腫瘍の状態や全身状態を評価します。
評価項目 | 頻度 |
画像検査 | 2-3ヶ月ごと |
血液検査 | 1ヶ月ごと |
長期使用に伴い 新たな副作用が出現したり既存の副作用が変化したりする可能性があるため注意深い経過観察が求められます。
また耐性獲得の可能性も考慮して効果が減弱した際には速やかに治療方針の再検討を行います。
- 定期的な効果判定と安全性評価
- 新たな副作用や耐性獲得の早期発見
- 必要に応じた治療方針の見直し
アファチニブの長期使用においては患者さんのQOL維持と治療効果の両立を目指すことが大切です。
適応対象となる患者さん様
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)は主に上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者さんに対して使用する薬剤です。
特にエクソン19欠失変異やエクソン21 L858R点突然変異を有する患者さんにおいて顕著な効果を示すことが臨床試験で確認されています。
これらの遺伝子変異を持つ患者さんでは腫瘍細胞の増殖にEGFRシグナルが重要な役割を果たすためアファチニブによるEGFR阻害が効果的に作用します。
EGFR遺伝子変異タイプ | 発生頻度 |
エクソン19欠失 | 約45% |
エクソン21 L858R点突然変異 | 約40% |
その他の変異 | 約15% |
進行期または転移性非小細胞肺癌
アファチニブは主に進行期(ステージIIIB/IV)または転移性の非小細胞肺癌患者さんに対して使用します。
早期のステージでは手術や放射線療法が主な治療選択肢となるためアファチニブの使用は限定的です。
進行期や転移性の患者さんでは全身療法が中心となり、その中でアファチニブは重要な役割を果たします。
病期 | アファチニブの使用 |
I-IIIA期 | 原則使用しない |
IIIB-IV期 | 主な適応 |
一次治療および二次治療での使用
アファチニブは一次治療(初回治療)として使用されることが多いですが状況に応じて二次治療以降でも使用します。
一次治療での使用はEGFR遺伝子変異が確認された時点で検討します。
二次治療以降での使用は他の治療法に抵抗性を示した患者さんや特定の条件下で考慮します。
- 一次治療でのアファチニブ使用条件
- EGFR遺伝子変異陽性の確認
- 進行期または転移性非小細胞肺癌
- 全身状態良好(PS 0-2)
- 二次治療以降でのアファチニブ使用を考慮する状況
- 他のEGFR-TKIへの耐性獲得後
- 化学療法後の増悪例
特殊な患者集団での使用
高齢者や腎機能障害患者さん、肝機能障害患者さんなどの特殊な患者さん集団においてもアファチニブの使用を慎重に検討します。
これらの患者さんでは薬物動態や副作用プロファイルが変化する可能性があるため個々の状態に応じた用量調整や綿密なモニタリングが大切です。
患者さん集団 | 使用上の注意点 |
高齢者 | 慎重な用量設定 |
腎機能障害 | クレアチニンクリアランスに応じた調整 |
肝機能障害 | 肝機能検査値に基づく判断 |
EGFR T790M変異陽性患者
EGFR T790M変異は他のEGFR-TKIに対する耐性獲得機序として知られていますが、アファチニブはこの変異に対しても一定の効果を示す可能性があります。
ただし T790M変異単独陽性患者さんに対するアファチニブの効果は限定的であり他の治療選択肢も考慮する必要があります。
変異タイプ | アファチニブの効果 |
De novo T790M | 限定的 |
獲得性T790M | 他の選択肢を優先 |
免疫チェックポイント阻害剤との併用
近年免疫チェックポイント阻害剤との併用療法が注目されています。
EGFR遺伝子変異陽性患者さんにおける免疫チェックポイント阻害剤の効果は限定的ですがアファチニブとの併用により相乗効果が期待できる可能性があります。
ただし併用療法の安全性と有効性についてはさらなる研究が必要です。
併用パターン | 期待される効果 |
逐次療法 | 耐性獲得後の選択肢 |
同時併用 | 相乗効果の可能性 |
治療期間
治療開始から効果判定まで
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)による治療を開始した後、効果判定までの期間は通常8〜12週間程度です。
この期間中は患者さんの症状や全身状態を注意深く観察して副作用の管理を行いながら治療を継続します。
効果判定には主にCT検査やMRI検査などの画像診断を用いて腫瘍の大きさや数の変化を評価します。
評価項目 | 評価方法 |
腫獼サイズ | CT/MRI |
症状改善 | 問診 |
全身状態 | PS評価 |
奏効例における治療継続期間
アファチニブ治療に奏効した患者さんでは病勢進行が確認されるまで、または忍容できない副作用が出現するまで治療を継続します。
多くの患者さんで数ヶ月から1年以上の治療継続が可能となっています。
臨床試験のデータによると奏効例での無増悪生存期間の中央値は約11ヶ月とされていますが、個々の患者さんにより大きな差があることに留意する必要があります。
治療継続期間 | 割合 |
6ヶ月未満 | 約20% |
6-12ヶ月 | 約40% |
12-18ヶ月 | 約25% |
18ヶ月以上 | 約15% |
長期投与例における注意点
アファチニブを長期間投与する際には慢性的な副作用や耐性獲得に注意を払う必要があります。
特に皮膚障害や下痢などの副作用は長期的なQOL低下につながる可能性があるため適切な対策を講じることが重要です。
また定期的な効果判定を行い耐性獲得の兆候がないかを慎重に評価することで適切なタイミングでの治療方針の変更を検討します。
長期投与時の注意点 | 対策 |
慢性副作用 | 予防的介入 |
耐性獲得 | 定期的な評価 |
QOL維持 | 支持療法の充実 |
治療中断後の再投与
何らかの理由でアファチニブ治療を中断した後に再度投与を検討するケースがあります。
再投与の判断には中断理由や中断期間、その間の病勢進行の有無などを総合的に考慮します。
再投与時には初回投与時よりも慎重な経過観察が必要となり副作用の早期発見と適切な対応が求められます。
- 再投与を検討する状況
- 有害事象による一時中断後の回復時
- 他治療後の再増悪時
- 患者さん希望による中断後の再検討時
- 再投与時の注意点
- 慎重な用量設定
- 頻回の副作用モニタリング
- 効果判定の時期設定
治療終了の判断
アファチニブ治療の終了を判断する主な基準としては以下のような状況が挙げられます。
明らかな病勢進行が確認された場合や 重篤な副作用が出現し管理困難となった際、また患者さんの全身状態が著しく低下した場合などが該当します。
治療終了の決定には患者さんやご家族との十分な話し合いを行い今後の治療方針や緩和ケアについても検討することが大切です。
治療終了の理由 | 頻度 |
病勢進行 | 約70% |
副作用 | 約20% |
患者さん希望 | 約10% |
ある医師の臨床経験では80代の女性患者さんがアファチニブで2年以上の長期投与を継続できた例があります。
当初は副作用への不安から治療に消極的でしたが、丁寧な説明と支持療法の工夫により良好なQOLを維持しながら治療を続けることができました。
この経験から個々の患者さんに寄り添った治療アプローチの重要性を再認識しました。
次治療への移行
アファチニブ治療終了後の次治療の選択は患者さんの全身状態・前治療の効果・耐性機序などを考慮して決定します。
T790M変異陽性例ではオシメルチニブへの切り替えを検討し、その他の場合は細胞障害性抗癌剤や免疫チェックポイント阻害薬などの選択肢を吟味します。
次治療への円滑な移行のためにはアファチニブ治療中から定期的に耐性機序の評価を行い適切なタイミングでの治療変更を見極めることが重要です。
耐性機序 | 次治療の選択肢 |
T790M変異 | オシメルチニブ |
MET増幅 | MET阻害薬併用 |
小細胞癌転化 | 細胞障害性抗癌剤 |
アファチニブの治療期間は個々の患者さんにより大きく異なるため画一的な基準ではなく総合的な判断に基づいて治療方針を決定することが必要です。
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)の副作用とデメリット
消化器系副作用
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)の最も頻度の高い副作用として下痢が挙げられます。
下痢は投与開始後早期に発現することが多く重症度によっては脱水や電解質異常を引き起こす危険性があります。
また悪心・嘔吐・食欲不振といった症状も比較的高頻度で見られ、患者さんのQOL低下や栄養状態悪化につながる可能性があります。
消化器系副作用 | 発現頻度 |
下痢 | 約90% |
悪心 | 約20% |
嘔吐 | 約15% |
食欲不振 | 約25% |
皮膚障害
皮膚関連の副作用もアファチニブ治療において高頻度で発現し、特に痤瘡様皮疹(ざそうようひしん)や皮膚乾燥・爪囲炎などが特徴的です。
これらの皮膚症状は患者さんの外見や日常生活に影響を与え、時に治療の中断や減量を必要とするほど重症化することがあります。
- 主な皮膚障害
- 痤瘡様皮疹
- 皮膚乾燥
- 爪囲炎
- 掻痒(そうよう)
- 脱毛
- 皮膚障害への対策
- 保湿剤の積極的使用
- 日光暴露の回避
- 早期からのステロイド外用薬使用
間質性肺疾患
間質性肺疾患(ILD)は頻度は低いものの重篤な転帰をたどる可能性がある副作用です。
ILDの初期症状として乾性咳嗽・呼吸困難・発熱などが現れることがあり、早期発見と迅速な対応が重要です。
ILDの発症リスク因子として喫煙歴、既存の間質性肺疾患、放射線治療歴などが知られています。
ILDのリスク因子 | リスク増加率 |
喫煙歴 | 約1.5倍 |
既存のILD | 約3倍 |
放射線治療歴 | 約2倍 |
肝機能障害
アファチニブによる肝機能障害は比較的稀ですが、重篤化する可能性があるため注意が必要です。
定期的な肝機能検査を行いAST・ALT・ビリルビンなどの上昇を早期に発見することが大切です。
肝機能障害が認められた際には投与中止や減量を検討して状況に応じて肝庇護薬の使用も考慮します。
肝機能検査項目 | 異常値の目安 |
AST | 基準値上限の3倍以上 |
ALT | 基準値上限の3倍以上 |
T-Bil | 基準値上限の2倍以上 |
心臓関連の副作用
アファチニブ投与に伴い心機能低下や不整脈などの心臓関連副作用が報告されています。
特に高齢者や心疾患の既往がある患者さんでは注意深いモニタリングが必要となります。
またQT間隔延長のリスクもあるため心電図検査を定期的に実施して異常が認められた際は速やかに対応することが重要です。
心臓関連副作用 | 発現頻度 |
左室駆出率低下 | 約2% |
QT間隔延長 | 約1% |
不整脈 | 約3% |
ある医師の臨床経験では70代の男性患者さんがアファチニブ投与開始後3週間で重度の下痢を発症しました。
速やかな補液と止痢薬投与、さらにアファチニブの一時休薬と減量により症状は改善しましたが、この経験から早期の副作用マネジメントの重要性を再認識しました。
治療コストとアクセス
アファチニブは高額な分子標的薬で長期間の使用が必要となる場合は患者さんの経済的負担が大きくなる懸念があります。
また保険適用の制限や地域による医療機関のアクセス差などにより、必要な患者さん全てが容易に治療を受けられないという課題も存在します。
これらの問題は患者さんの治療継続や生活の質に影響を与える可能性があるため社会的支援体制の充実が求められます。
治療期間 | 概算医療費 |
1ヶ月 | 約30万円 |
6ヶ月 | 約180万円 |
1年 | 約360万円 |
代替治療薬
他のEGFR-TKIへの切り替え
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)が効果を示さなかった場合は他のEGFR-チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)への切り替えを検討します。
特にオシメルチニブは第三世代のEGFR-TKIとして知られ、T790M変異陽性例に対して高い有効性を示します。
エルロチニブやゲフィチニブといった第一世代EGFR-TKIも耐性機序によっては選択肢となる可能性があります。
EGFR-TKI | 世代 | 主な標的変異 |
オシメルチニブ | 第三世代 | T790M変異 |
エルロチニブ | 第一世代 | エクソン19欠失 L858R |
ゲフィチニブ | 第一世代 | エクソン19欠失 L858R |
細胞障害性抗癌剤による治療
EGFR-TKI全般に耐性を示す場合には従来の細胞障害性抗癌剤による治療を考慮します。
プラチナ製剤(シスプラチン カルボプラチンなど)を中心とした併用療法が標準的な選択肢となります。
ペメトレキセドやドセタキセルといった薬剤も単剤または併用療法の一部として使用されることがあります。
- プラチナ製剤ベースの併用療法例
- シスプラチン+ペメトレキセド
- カルボプラチン+パクリタキセル
- シスプラチン+ゲムシタビン
- 単剤療法の選択肢
- ドセタキセル
- ペメトレキセド
- ナブパクリタキセル
免疫チェックポイント阻害剤
近年免疫チェックポイント阻害剤が非小細胞肺癌治療に大きな変革をもたらしています。
EGFR変異陽性例では一般的に免疫チェックポイント阻害剤の効果は限定的とされますが、アファチニブ治療後の選択肢として検討する価値があります。
ペムブロリズマブやニボルマブといったPD-1阻害剤 アテゾリズマブなどのPD-L1阻害剤が代表的な薬剤です。
免疫チェックポイント阻害剤 | 標的分子 | 投与間隔 |
ペムブロリズマブ | PD-1 | 3週間毎 |
ニボルマブ | PD-1 | 2週間毎 |
アテゾリズマブ | PD-L1 | 3週間毎 |
耐性メカニズムに基づく分子標的薬
アファチニブ耐性の分子メカニズムを解明し、それに基づいた分子標的薬の選択が重要です。
例えばMET遺伝子増幅が耐性の原因である場合にはMET阻害剤の併用や単剤投与を検討します。
HER2遺伝子増幅が関与している時はトラスツズマブなどのHER2標的薬の使用も選択肢となります。
耐性メカニズム | 対応する分子標的薬 |
MET遺伝子増幅 | カプマチニブ テポチニブ |
HER2遺伝子増幅 | トラスツズマブ |
BRAF変異 | ダブラフェニブ+トラメチニブ |
血管新生阻害薬の併用
血管新生阻害薬をEGFR-TKIや細胞障害性抗癌剤と併用することで治療効果を高める試みがなされています。
ベバシズマブやラムシルマブといった薬剤が単独または他の抗癌剤との併用で使用されることがあります。
これらの薬剤は腫瘍への血液供給を阻害することで癌細胞の増殖を抑制する効果が期待されます。
- 血管新生阻害薬の併用例
- エルロチニブ+ラムシルマブ
- カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ
- ドセタキセル+ラムシルマブ
ある医師の臨床経験では60代の女性患者さんでアファチニブ治療後にT790M変異が検出され、オシメルチニブへの切り替えで著明な腫瘍縮小が得られたケースがありました。
この経験から耐性メカニズムの解明と適切な次治療選択の重要性を再認識しました。
臨床試験への参加
既存の治療オプションに反応しない場合は新規薬剤や治療法の臨床試験への参加を検討することも選択肢の一つです。
臨床試験では従来の治療では使用できない新しい薬剤や併用療法にアクセスできる可能性があります。
ただし臨床試験参加には厳格な基準があり患者さんの全身状態や病状進行度などの条件を満たす必要があります。
臨床試験の種類 | 特徴 |
第I相試験 | 安全性と用量の確認 |
第II相試験 | 有効性の予備的評価 |
第III相試験 | 標準治療との比較 |
併用禁忌
P-糖タンパク質阻害剤との相互作用
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)はP-糖タンパク質(P-gp)の基質であるためP-gp阻害作用を持つ薬剤との併用に注意が必要です。
強力なP-gp阻害剤との併用によりアファチニブの血中濃度が上昇して副作用のリスクが高まる可能性があります。
特にケトコナゾールやイトラコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬、リトナビルなどのHIVプロテアーゼ阻害薬との併用は避けるべきです。
P-gp阻害剤 | 薬効分類 |
ケトコナゾール | 抗真菌薬 |
イトラコナゾール | 抗真菌薬 |
リトナビル | 抗HIV薬 |
キニジン | 抗不整脈薬 |
制酸薬との相互作用
制酸薬との併用はアファチニブの吸収に影響を与えるリスクがあります。
特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)や水酸化アルミニウムマグネシウム配合剤などの制酸薬はアファチニブの血中濃度を低下させる恐れがあります。
これらの薬剤を使用する際はアファチニブ投与の少なくとも6時間前後に服用するなど投与時間の調整が必要です。
- 注意が必要な制酸薬
- プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール ランソプラゾールなど)
- H2受容体拮抗薬(ファモチジン ラニチジンなど)
- 水酸化アルミニウムマグネシウム配合剤
- 制酸薬使用時の対応策
- アファチニブ投与の6時間以上前または2時間以上後に制酸薬を服用
- 可能であれば制酸薬の使用を避ける
- 必要に応じて医師と相談の上 投与スケジュールを調整
CYP3A4誘導薬との相互作用
アファチニブはCYP3A4による代謝をほとんど受けませんが、CYP3A4誘導薬との併用により血中濃度が低下する恐れがあります。
リファンピシンやカルバマゼピン フェニトインなどの強力なCYP3A4誘導薬との併用はアファチニブの治療効果を減弱させる危険があるため 避けるべきです。
これらの薬剤を使用する際は代替薬の検討や用量調整などの対応が必要となります。
CYP3A4誘導薬 | 薬効分類 |
リファンピシン | 抗結核薬 |
カルバマゼピン | 抗てんかん薬 |
フェニトイン | 抗てんかん薬 |
セイヨウオトギリソウ | ハーブ製品 |
他のEGFR阻害薬との併用
アファチニブは他のEGFR阻害薬(チロシンキナーゼ阻害薬や抗EGFR抗体薬)と作用機序が重複するため併用は推奨されません。
エルロチニブやゲフィチニブといった他のEGFR-TKI セツキシマブなどの抗EGFR抗体薬との併用は副作用のリスクを増大させる可能性があります。
これらの薬剤との併用療法は原則として避けるべきであり、臨床試験などの特殊な状況下でのみ検討するものです。
EGFR阻害薬 | 作用機序 |
エルロチニブ | EGFR-TKI |
ゲフィチニブ | EGFR-TKI |
セツキシマブ | 抗EGFR抗体 |
パニツムマブ | 抗EGFR抗体 |
妊娠中・授乳中の使用
アファチニブは胎児への悪影響のリスクがあるため妊娠中の使用は禁忌とされています。
妊娠可能な女性に対しては治療中および治療終了後一定期間の避妊が必要です。
また授乳中の使用も避けるべきであり、授乳婦に投与する際は授乳を中止することが求められます。
状況 | 推奨事項 |
妊娠中 | 使用禁忌 |
妊娠可能女性 | 治療中および治療後の避妊 |
授乳中 | 授乳中止または投与回避 |
肝機能障害患者さんへの投与
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)を有する患者さんへのアファチニブの投与は避けるべきです。
中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)患者さんでは慎重な投与と用量調整が必要となり、定期的な肝機能検査と綿密な副作用モニタリングが重要です。
- 肝機能障害の程度別対応
- 軽度(Child-Pugh A) 通常用量で投与可能
- 中等度(Child-Pugh B) 慎重投与 必要に応じて減量
- 重度(Child-Pugh C) 投与を避ける
- 肝機能障害患者への投与時の注意点
- 投与前の詳細な肝機能評価
- 定期的な肝機能検査の実施
- 副作用症状の早期発見と対応
- 必要に応じた用量調整や投与中止の判断
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)の薬価と患者さん負担
薬価
アファチニブマレイン酸塩(ジオトリフ)の薬価は2024年8月現在、20mgが4470.5円、30mgが6563円、40mgが8629.2円と設定されています。
規格 | 薬価 |
20mg | 4470.5円 |
30mg | 6563円 |
40mg | 8629.2円 |
処方期間による総額
40mg錠を1週間処方した場合の金額は60,404.4円程度で、1ヶ月処方では258,876円となります。
期間 | 総額(40mg錠) |
1週間 | 60,404.4円 |
1ヶ月 | 258,876円 |
患者さんの経済的負担を軽減する民間の医療保険や製薬会社による患者さん支援プログラムの活用も検討に値します。
- 民間医療保険の活用
- がん保険
- 医療費実損補償型保険
- 製薬会社の支援プログラム
- 患者さん助成プログラム
- コペイメント支援
ある医師の臨床経験では60代の男性患者さんが民間のがん保険に加入していたおかげで経済的な不安なくアファチニブ治療を継続できたケースがありました。
なお、上記の価格は2024年8月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。
以上
- 参考にした論文