呼吸器疾患の一種であるサルコイドーシスとは、原因不明の全身性肉芽腫性疾患です。
身体のあらゆる臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫という特殊な組織が形成されることが特徴で、主に肺、眼、皮膚、心臓などに病変が生じます。
発症年齢は20~40歳代の女性に多い傾向にあります。
症状の程度や組み合わせは患者によって大きく異なるので診断が難しい疾患の一つです。
主な症状
サルコイドーシスは全身のさまざまな臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が形成される原因不明の疾患で、臓器によって多彩な症状を呈します。、
無症状で経過する場合もあれば、重篤な臓器障害を生じることもあるため、早期診断と適切な経過観察が重要です。
全身症状
サルコイドーシスの全身症状としては発熱、倦怠感、体重減少などです。発熱は38℃以下の微熱であることが多く、数週間から数ヶ月間続くことがあります。
症状 | 頻度 |
発熱 | 20-30% |
倦怠感 | 50-70% |
体重減少 | 10-20% |
肺の症状
サルコイドーシスで最も高頻度に認められるのは肺病変です。肺の症状としては咳嗽、呼吸困難、胸痛などがありますが、無症状のケースもよく見られます。
- 咳嗽
- 呼吸困難
- 胸痛
- 無症状
肺の症状では重症度によってステージに分類されています。
Stage | 胸部X線所見 | 頻度 |
0 | 異常なし | 5-10% |
I | 両側肺門リンパ節腫脹 | 40-50% |
II | 肺門リンパ節腫脹 + 肺野浸潤影 | 30-40% |
III | 肺野浸潤影のみ | 10-15% |
IV | 肺線維症 | 5-10% |
眼の症状
他にもサルコイドーシスの症状で比較的高頻度に認められるのは眼病変です。ぶどう膜炎が最も多く、結膜炎、角膜炎、網膜血管炎なども生じることがあります。
眼病変 | 頻度 |
ぶどう膜炎 | 20-30% |
結膜炎 | 5-10% |
角膜炎 | 1-5% |
網膜血管炎 | 1-5% |
皮膚の症状
サルコイドーシスでは皮膚病変も約25%の患者に認められます。結節性紅斑様皮疹、局面状皮疹、皮下結節などが特徴的です。
サルコイドーシスの原因やきっかけ
サルコイドーシスの正確な原因は不明ですが、遺伝的素因と環境因子の複合的な関与により、自己免疫機序が惹起されると考えられています。
明確な原因の解明まで至っていませんが、以下は現在までに研究されている原因因子です。
遺伝的素因
サルコイドーシスの発症に関与していると考えられているのが遺伝的素因です。
特定のHLA型(HLA-DRB10301, HLA-DQB10201など)との関連が報告されており、家族内発症も認められます。
人種 | HLA型 |
白人 | HLA-DRB10301, HLA-DQB10201 |
黒人 | HLA-DRB11101, HLA-DQB10602 |
日本人 | HLA-DRB10803, HLA-DQB10601 |
環境因子
他にもサルコイドーシスの発症に関与が示唆されているのが環境因子です。
マイコバクテリア、プロピオニバクテリアなどの感染症、ベリリウム、アルミニウムなどの金属、農薬、殺虫剤などの有機物質といったものへの曝露がトリガーとなる可能性があります。
因子 | 相対リスク |
感染症 | 2-3 |
金属曝露 | 5-10 |
有機物質曝露 | 2-5 |
粉塵曝露 | 1-2 |
自己免疫機序
サルコイドーシスでは何らかの抗原刺激によって活性化されたT細胞が、肉芽腫形成に関与すると考えられています。
その後活性化T細胞は、IL-2, IFN-γ, TNF-αなどのサイトカインを産生してマクロファージを活性化するのです。
サイトカイン | 役割 |
IL-2 | T細胞の増殖と活性化 |
IFN-γ | マクロファージの活性化 |
TNF-α | 肉芽腫形成 |
診察と診断について
サルコイドーシスの診察と診断では臨床症状、画像検査、病理学的検査を総合的に評価し、他の類似疾患を除外することが重要です。
臨床症状の評価
サルコイドーシスの診察では発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状と、咳嗽、呼吸困難、皮疹、眼症状などの臓器特異的症状を詳細に聴取します。
臓器 | 主な症状 |
肺 | 咳嗽、呼吸困難、胸痛 |
眼 | ぶどう膜炎、結膜炎、眼乾燥症 |
皮膚 | 結節性紅斑様皮疹、局面状皮疹、皮下結節 |
画像検査
サルコイドーシスの診断には胸部X線写真とHRCT(高分解能CT)が有用です。ここでは肺門リンパ節腫脹、肺野病変の有無を評価します。
- 胸部X線写真:肺門リンパ節腫脹、肺野病変
- HRCT:粒状影、すりガラス影、牽引性気管支拡張
病期 | 胸部X線所見 |
I期 | 両側肺門リンパ節腫脹のみ |
II期 | 肺門リンパ節腫脹 + 肺野病変 |
III期 | 肺野病変のみ |
IV期 | 肺線維症 |
病理学的検査
サルコイドーシスの確定診断には病変部位の生検による非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明が必要です。
生検部位 | 診断率 |
経気管支肺生検 | 70-90% |
経気管支針生検(EBUS-TBNA) | 80-90% |
皮膚生検 | 60-80% |
鼠径リンパ節生検 | 60-80% |
鑑別診断
サルコイドーシスの診断では他の肉芽腫性疾患や類似疾患を除外する必要があります。主な鑑別疾患は以下の通りです。
- 結核
- 真菌感染症
- 過敏性肺炎
- 薬剤性肺炎
- 悪性リンパ腫
- 肺癌
サルコイドーシスの画像所見について
サルコイドーシスは胸部X線写真やHRCTにおいて特徴的な所見を呈します。
肺門リンパ節腫脹や小葉中心性粒状影、気管支血管束の肥厚などが重要な所見であり、他疾患との鑑別を行いながら総合的に診断する必要があります。
胸部X線写真所見
サルコイドーシスの胸部X線写真所見は肺門リンパ節腫脹と肺野病変の有無と程度により、以下の4期に分類されます。
病期 | 所見 |
0期 | 異常なし |
I期 | 両側肺門リンパ節腫脹のみ |
II期 | 肺門リンパ節腫脹 + 肺野病変 |
III期 | 肺野病変のみ |
I期では両側肺門リンパ節腫脹が特徴的で、II期では肺野に粒状影や網状影を伴います。 III期では肺野病変のみが認められるのです。
所見:両側肺門部の腫大あり、サルコイドーシスの肺門リンパ節腫大を反映した所見である。
HRCT所見
HRCTはサルコイドーシスの肺病変の評価に有用で、次のような所見がみられるでしょう。
- 小葉中心性粒状影
- 気管支血管束の肥厚
- 牽引性気管支拡張
- すりガラス影
- consolidation(肺胞腔内に液体や細胞が貯留し、正常な空気が失われた状態)
所見 | 頻度 |
小葉中心性粒状影 | 80-90% |
気管支血管束の肥厚 | 50-70% |
牽引性気管支拡張 | 30-50% |
すりガラス影 | 20-40% |
所見:複数の小結節の不規則な集簇あり、いわゆる”Galaxy sign”(黄色細線)を認め、サルコイドーシスの典型所見である(a)。また、ランダムに分布するびまん性小結節(”Miliary sarcoidosis”)に起因する淡いすりガラス影様の濃度上昇を認める(b)
リンパ節病変
サルコイドーシスでは肺門リンパ節のみならず、縦隔リンパ節や気管分岐下リンパ節の腫大も高頻度に認められます。
リンパ節病変 | 頻度 |
両側肺門リンパ節腫脹 | 80-90% |
縦隔リンパ節腫大 | 50-70% |
気管分岐下リンパ節腫大 | 30-50% |
所見:両側肺門リンパ節の腫大と部分的石灰化(黄色矢印)を認める(c)。主に肺門周囲と上葉に嚢胞性変化と牽引性気管支拡張症(黄色矢印)を伴う線維性サルコイドーシスの所見である。
鑑別診断
サルコイドーシスの画像所見は他の肉芽腫性疾患や間質性肺疾患との鑑別が重要です。主な鑑別疾患は以下の通りです。
- 結核
- 非結核性抗酸菌症
- 過敏性肺炎
- 薬剤性肺炎
- リンパ増殖性疾患
治療方法と薬、治癒までの期間
サルコイドーシスの治療では臓器病変の程度と全身症状の重症度に応じた適切な薬物療法と、定期的な経過観察が重要です。
多くの患者さんはステロイド薬を中心とした薬物療法が行われ、数ヶ月から数年の経過で寛解に至ります。
経過観察
無症状または軽症のサルコイドーシスでは治療を行わずに定期的な経過観察を行うことが一般的です。自然寛解する可能性もあるため、3~6ヶ月ごとの診察と検査で病状を評価します。
観察項目 | 頻度 |
身体所見 | 3~6ヶ月ごと |
胸部X線 | 3~6ヶ月ごと |
肺機能検査 | 6~12ヶ月ごと |
眼科検査 | 6~12ヶ月ごと |
ステロイド薬
中等症以上のサルコイドーシスや重要臓器の病変が認められる場合はステロイド薬による治療が第一選択です。プレドニゾロン0.5~1mg/kg/日から開始して、症状と検査所見の改善に応じて漸減します。
治療期間 | 用量 |
初期治療 | プレドニゾロン 0.5~1mg/kg/日 |
維持療法 | プレドニゾロン 5~10mg/日 |
漸減・中止 | 3~6ヶ月かけて減量・中止 |
z免疫抑制薬
ステロイド薬の減量・中止が困難な場合やステロイド抵抗性の場合は免疫抑制薬の併用が検討されるでしょう。具体的にはメトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリンなどです。
薬剤 | 用量 |
メトトレキサート | 7.5~15mg/週 |
アザチオプリン | 50~150mg/日 |
シクロスポリン | 2~5mg/kg/日 |
治癒までの期間
サルコイドーシスの治癒までの期間は臓器病変の重症度と治療反応性によって大きく異なります。
多くの場合はステロイド薬による初期治療で症状と検査所見の改善が得られるでしょう。その後の維持療法と漸減・中止を経て、1~3年程度で寛解に至ります。
一方、難治性のサルコイドーシスでは長期の治療を要する確率が高いです。
以上のように、サルコイドーシスの治療では、治癒までの期間は個々の患者によって異なるため、医師との密接な連携のもと、根気強く治療を継続することが求められます。
治療における副作用やデメリット
サルコイドーシスの治療ではステロイド薬や免疫抑制薬が主に使用されますが、これらの薬剤には副作用やリスクが伴います。
治療の必要性と副作用のリスクを十分に考慮し、適切な治療方針を決定することが重要です。
ステロイド薬の副作用
サルコイドーシスの治療の中心となるステロイド薬は長期使用や高用量投与により以下のような副作用が生じる可能性があります。
- 感染症のリスク増加
- 骨粗鬆症
- 糖尿病
- 体重増加
- 満月様顔貌
- 消化性潰瘍
- 精神症状(不眠、気分変調など)
免疫抑制薬の副作用
ステロイド薬の減量・中止が困難な場合やステロイド抵抗性の場合に使用される免疫抑制薬で考慮するべき副作用やリスクは次の通りです。
薬剤 | 主な副作用 |
メトトレキサート | 骨髄抑制、肝障害、間質性肺炎 |
アザチオプリン | 骨髄抑制、肝障害、膵炎 |
シクロスポリン | 腎障害、高血圧、感染症 |
免疫抑制薬の使用には定期的な血液検査や臓器障害のモニタリングが必要です。感染症のリスクが高まるため予防接種や感染対策も重要となります。
長期的な影響
サルコイドーシスの治療では長期にわたるステロイド薬や免疫抑制薬の使用が必要になりがちです。長期使用による副作用やリスクを最小限に抑えるため、定期的な経過観察と適切な用量調整が求められます。
- ステロイド薬の長期使用による骨粗鬆症、白内障、緑内障など
- 免疫抑制薬の長期使用による二次性の悪性腫瘍の発生リスク
治療の中止や変更
サルコイドーシスの治療では副作用が強い際や治療効果が不十分な際には治療方針の変更や中止を検討する必要がでてくるでしょう。
治療のリスクとベネフィットを慎重に評価し、患者さんとの十分な話し合いのもと最適な治療方針を決定することが大切です。
再発の可能性と予防方法
サルコイドーシスは適切な治療により寛解が得られても再発する可能性のある疾患です。再発を予防するためには、定期的な経過観察と生活習慣の改善が重要となります。
再発のリスク因子
サルコイドーシスの再発に関与していると考えられているリスク因子は次の通りです。
リスク因子 | 再発率 |
ステロイド薬の急速な減量・中止 | 30-50% |
重篤な病勢 | 20-40% |
肺外病変 | 20-30% |
遺伝的素因 | 10-20% |
定期的な経過観察
サルコイドーシスの再発を早期に発見して適切な治療を開始するためには定期的な経過観察が不可欠です。 治療終了後も以下のような間隔で診察と検査を行うことが推奨されます。
- 治療終了後1年間:3ヶ月ごと
- 1年以降:6ヶ月ごと
- 再発が疑われる場合:速やかに受診
経過観察項目 | 頻度 |
身体所見 | 3-6ヶ月ごと |
胸部X線 | 6-12ヶ月ごと |
肺機能検査 | 6-12ヶ月ごと |
眼科検査 | 6-12ヶ月ごと |
生活習慣の改善
サルコイドーシスの再発予防には生活習慣の改善も重要です。特に次のような点に留意しましょう。
- 禁煙
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- ストレス管理
- 感染症予防(手洗い、マスク着用など)
ステロイド薬の漸減と中止
サルコイドーシスの治療ではステロイド薬の漸減と中止が再発のリスク因子となるため慎重に行う必要があります。
漸減は患者さんの状態を見ながらゆっくりと行い、中止後も定期的な経過観察を継続することが大切です。
サルコイドーシスの治療費の概要
サルコイドーシスの治療費は病期や重症度、治療内容によって大きく異なります。早期発見と適切な治療が、医療費の抑制につながります。
初診料と再診料
サルコイドーシスの診断と治療のために呼吸器内科や呼吸器外科を受診する際は、初診料(2,910円)と再診料(750円)がかかるでしょう。
検査費
サルコイドーシスの診断には血液検査、画像検査、肺機能検査、気管支鏡検査などが必要です。これらの検査費用は以下のようになります。
検査項目 | 費用 |
血液検査 | 4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)+2,800円(ACE) |
胸部CT | 14,700円~20,700円 |
肺機能検査 | 2,300円~5,700円 |
気管支鏡検査 | 325,000円~29,000円 |
処置費
サルコイドーシスの治療ではステロイド薬の投与や酸素療法などの処置が行われます。これらの処置費用はの目安は以下の通りです。
処置項目 | 費用 |
ステロイド薬投与 | ステロイドパルス(10,296円)+40円/日(プレドニン40mg/日) |
酸素療法 | 650円/日 |
入院費
重症のサルコイドーシスでは入院治療が必要となることがあります。入院費は1日あたり約30,000円~50,000円程度です。
詳しく述べると、日本の入院費計算方法は、DPC(診断群分類包括評価)システムを使用しています。
DPCシステムは、病名や治療内容に基づいて入院費を計算する方法です。以前の「出来高」方式と異なり、多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。
主な特徴:
- 約1,400の診断群に分類
- 1日あたりの定額制
- 一部の治療は従来通りの出来高計算
表:DPC計算に含まれる項目と出来高計算項目
DPC(1日あたりの定額に含まれる項目) | 出来高計算項目 |
投薬 | 手術 |
注射 | リハビリ |
検査 | 特定の処置 |
画像診断 | (投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。) |
入院基本料 |
計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」
例えば、14日間入院とした場合は下記の通りとなります。
DPC名: 重篤な臓器病変を伴う全身性自己免疫疾患 手術なし 手術処置等2なし 定義副傷病名なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥349,220 +出来高計算分
保険適用となると1割~3割の自己負担であり、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
なお、上記値段は2024年6月時点のものであり、最新の値段を適宜ご確認ください。
以上
- 参考にした論文