Q熱とは呼吸器疾患の一種で、人から人にうつるのではなく、動物から人に感染する人獣共通感染症でもあります。

感染経路は感染動物との直接的な接触や汚染された環境からの飛沫吸入などで、海外渡航歴の患者さんから流行するケースもみられます。

Q熱の予防策としてはワクチン接種が非常に有効的です。

Q熱の病型と主な症状について

Q熱は、急性Q熱と慢性Q熱の2つの病型に分類され、それぞれ異なる特徴の症状があらわれます。

急性Q熱

急性Q熱はコクシエラ・バーネッティの感染後2〜3週間の潜伏期を経て発症します。

その症状はインフルエンザ様症状と呼ばれ、非特異的であるため診断に苦慮することもあるでしょう。

急性Q熱の主症状

急性Q熱は主に以下のような症状が出ることが特徴です。

  1. 高熱
  2. 頭痛
  3. 倦怠感

発熱は急性Q熱の最も特徴的な症状であり、38〜40℃の高熱が数日から2週間程度続きます。

頭痛は発熱とともに高頻度に見られる症状です。 痛みが激しい場合が多く、時に光過敏や音過敏を伴うことがあります。

倦怠感も急性Q熱の主要な症状の一つで全身の脱力感や易疲労感として現れますが、発熱や頭痛とともに出現し、症状の改善とともに軽快していくでしょう。

症状発症頻度
発熱90%以上
頭痛約50%
倦怠感約50%

急性Q熱のその他の症状

急性Q熱では上記の主症状以外にも、以下のような症状が見られることがあります。

  • 筋肉痛
  • 関節痛
  • 咳嗽
  • 胸痛
  • 悪心・嘔吐

ただしこれらの症状は必ずしも全例で見られるわけではなく、個人差が大きいのが特徴です。

慢性Q熱

慢性Q熱は、急性Q熱感染後6ヶ月以上経過してから発症する病型で、急性Q熱の約5%が慢性Q熱に移行すると言われています。

慢性Q熱は急性Q熱と比較して重篤な合併症を引き起こすことがあり、適切な診断と治療が必要です。

慢性Q熱の主症状

慢性Q熱の主症状はに以下の2つが挙げられます。

症状(合併症)頻度
心内膜炎約60%
血管炎約20%

心内膜炎は慢性Q熱の最も重篤な合併症であり、心臓弁膜症や心不全を引き起こし、発熱、心雑音、心不全症状などが見られるケースが多いです。

血管炎は大血管や末梢血管に炎症が生じる病態であり、発熱、血管痛、血管雑音などの症状が見られ、動脈瘤や血栓症のリスクを高めます。

慢性Q熱のその他の症状

慢性Q熱では上記の主症状以外にも、以下のような症状にも注意が必要です。

  • 骨髄炎
  • 慢性肝炎
  • 肝肉芽腫

Q熱の原因と感染経路について

Q熱はコクシエラ・バーネッティという細菌の感染によって引き起こされる人獣共通感染症であり、感染動物との接触や汚染された環境からの曝露によって発症します。

コクシエラ・バーネッティとは

コクシエラ・バーネッティは、リケッチア科に属するグラム陰性の細胞内寄生性細菌です。

この細菌は長期間生存することができ、乾燥にも耐性があります。 また、非常に感染力が強く、わずか数個の菌体でも感染が成立するほどです。

特徴説明
グラム陰性細胞壁の構造が特殊であり、グラム染色では染まりにくい
細胞内寄生性宿主細胞内で増殖する
環境耐性乾燥や高温にも耐性がある
高い感染力少量の菌体でも感染が成立する

感染源と感染経路

Q熱の主な感染源は以下のような動物です。

  • 山羊

これらの動物が保菌していても無症状であることが多いため、感染に気づかないことがあります。

こうして感染動物の体内で増殖したコクシエラ・バーネッティは次のような経路で排出され、環境中に拡散されるのです。

  • 出産時の胎盤や羊水
  • 乳汁
  • 糞便
  • 尿

そしてヒトへの感染は主に以下のような経路で起こります。

  • 汚染された空気の吸入
  • 汚染された乳製品の摂取
  • 感染動物との直接接触
  • マダニに咬まれることによる感染

特に汚染された空気の吸入は最も起こりうる感染経路です。

感染のリスク因子

Q熱の感染リスクは以下のような因子によって高くなります。

リスク因子説明
職業性曝露農業従事者、獣医師、屠殺場従業員など
レジャー活動キャンプ、ハイキングなどの野外活動
免疫抑制状態HIV感染者、癌患者、ステロイド使用者など

また、妊娠中の女性がQ熱に感染した場合、流産や早産のリスクが高くなる傾向があるのです。

慢性Q熱のリスク因子

急性から慢性Q熱への移行には以下のようなリスク因子が関与しているとされます。

  • 弁膜症などの心疾患
  • 人工血管や人工弁の使用
  • 免疫抑制状態(ステロイド使用、がん、HIV感染など)

これらのリスク因子を有する患者さんでは、急性Q熱の治療後も慎重な経過観察が必要です。

Q熱の診察と診断のポイントについて

Q熱は非特異的な症状を呈することが多く、診断が難しい疾患です。

詳細な病歴聴取と身体所見、各種検査を組み合わせた総合的な評価により的確な診断を行うことが求められます。

問診

Q熱が疑われる患者さんには以下のような病歴を聴取します。

  • 発症時期と経過
  • 症状(発熱、頭痛、倦怠感など)
  • 動物との接触歴
  • 職業歴(農業従事者、獣医師など)
  • 海外渡航歴

特にヒツジ、ヤギ、ウシなどの反芻動物との接触歴は、Q熱の診断において重要な情報です。

また、流行地域への渡航歴や農場での作業歴なども必ず確認します。

身体所見

Q熱の身体所見としては以下のようなものがあります。

所見特徴
体温発熱(38〜40℃)
心音心雑音(慢性Q熱の場合)
肝脾腫肝腫大、脾腫
リンパ節腫脹全身のリンパ節腫脹

急性Q熱では発熱以外の特異的な身体所見に乏しいことが多いです。

反対に慢性Q熱では心内膜炎に伴う心雑音や、肝脾腫、リンパ節腫脹などが見られる傾向にあります。

検査

Q熱の診断に際しては以下のような検査が行われます。

  • 血液検査(白血球数、CRP、肝機能など)
  • 血清抗体検査(間接蛍光抗体法、ELISA法)
  • 血液培養検査
  • 心臓超音波検査(慢性Q熱の場合)

Q熱の診断に有用な検査所見は次の通りで、特に血清抗体検査はQ熱の確定診断に重要な役割があるのです。

検査所見内容
血清抗体検査急性期と回復期のペア血清で抗体価の有意な上昇
血液培養検査コクシエラ・バーネッティの分離
心臓超音波検査心内膜炎の所見(疣贅、弁逆流など)

急性Q熱では発症後2〜3週間で抗体価の上昇が見られるため、急性期と回復期のペア血清を用いた抗体価の比較が診断に有用です。

検査法急性Q熱慢性Q熱
間接蛍光抗体法(IFA)IgM抗体の上昇IgG抗体の高値持続
補体結合反応(CF)抗体価の上昇抗体価の高値持続

また、慢性Q熱では心エコー検査や血管造影検査などの画像検査が合併症の評価に有用となります。

鑑別診断

Q熱と鑑別を要する疾患としては、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • インフルエンザ
  • マイコプラズマ肺炎
  • レジオネラ肺炎
  • ブルセラ症
  • 腸チフス

これらの疾患ではQ熱と類似した症状や検査所見を示すことがあるため、詳細な病歴聴取と各種検査による鑑別が必要となります。

画像所見とその特徴について

Q熱の画像診断には胸部X線検査と胸部CT検査が用いられますが、非特異的であるため画像所見のみでの診断は困難です。

胸部X線検査所見

急性Q熱の胸部X線検査では、以下のような所見が見られることがあります。

所見特徴
間質性陰影びまん性、限局性
浸潤影片側性、両側性
胸水少量から中等量

ただし、これらの所見は他の肺炎でも見られる可能性があります。また、胸部X線検査では異常所見を認めない場合も少なくありません。

慢性Q熱では心内膜炎に伴う心拡大や血管炎に伴う血管壁の不整などが見られることがありますが、これらの所見も非特異的です。

Gikas A, Kofteridis D, Bouros D, Voloudaki A, Tselentis Y, Tsaparas N. Q fever pneumonia: appearance on chest radiographs. Radiology. 1999 Feb;210(2):339-43.

所見:両肺に斑状のすりガラス影~浸潤影を散見し、非定型肺炎が疑われる。

胸部CT検査所見

胸部CT検査は胸部X線検査で異常所見を認めない場合、または合併症の評価が必要な場合に行われます。

急性Q熱の胸部CT検査では以下のような所見に注目します。

所見特徴
すりガラス影びまん性、限局性
小葉中心性粒状影多発性、びまん性
浸潤影片側性、両側性
 Figure 2b.
Voloudaki AE, Kofteridis DP, Tritou IN, Gourtsoyiannis NC, Tselentis YJ, Gikas AI. Q fever pneumonia: CT findings. Radiology. 2000 Jun;215(3):880-3.

所見:両肺に斑状のすりガラス影~浸潤影を散見する。一部いわゆるhalo signを呈しており、Q熱による肺炎として合致する性状である。

慢性Q熱では心内膜炎に伴う疣贅や血管炎に伴う血管壁の肥厚などが見られることがありますが、これらの所見も非特異的です。

Q熱の画像診断の意義

Q熱は臨床所見や血清学的検査により診断されることが多く、画像検査は補助的な位置づけです。

しかし重症例や非定型例では画像検査が診断や合併症の評価に有用であり、特に慢性Q熱では心内膜炎や血管炎などの合併症の評価に対して重要な役割を果たします。

Q熱が疑われる患者さんで非典型的な経過を示す場合は、積極的に画像検査を行うことが求められるでしょう。

Q熱の治療法と予後について

Q熱の治療は病型や重症度に応じて抗菌薬が選択され、急性Q熱では通常2週間程度で治癒しますが、慢性Q熱では長期治療を要することがあります。

急性Q熱の治療

多くの場合急性Q熱は自然治癒しますが、適切な治療により症状の早期改善が得られます。

急性Q熱の第一選択薬は、テトラサイクリン系抗菌薬のドキシサイクリンです。 ドキシサイクリンはコクシエラ・バーネッティに対して優れた抗菌活性を示します。

ドキシサイクリンが使用できない場合は、ミノサイクリンやフルオロキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシンが代替薬として用いられるでしょう。

抗菌薬用量治療期間
ドキシサイクリン1日200mg14日間
ミノサイクリン1日200mg14日間
シプロフロキサシン1日1000mg14日間

慢性Q熱の治療

慢性Q熱の治療は急性Q熱と比べて難渋することが多く、長期の抗菌薬投与が必要です。

第一選択薬はドキシサイクリンとヒドロキシクロロキンの併用療法で、治療期間は少なくとも18ヶ月が推奨されています。

抗菌薬用量治療期間
ドキシサイクリン1日200mg18ヶ月以上
ヒドロキシクロロキン1日600mg18ヶ月以上

ドキシサイクリンとヒドロキシクロロキンの併用療法が奏功しない場合は、リファンピシンやフルオロキノロン系抗菌薬を組み合わせも効果的です。

治療効果の判定

Q熱の治療効果は臨床症状の改善と血清学的検査により判定します。 特に慢性Q熱では治療中および治療終了後のフォローアップが重要です。

  • 臨床症状の改善
  • 血清抗体価の低下
  • 炎症反応の鎮静化

治療終了の判断は血清抗体価がカットオフ値未満に低下し、症状が消失した時点で行います。

予後

急性Q熱の予後は良好で適切な治療により2週間程度で改善しますが、慢性Q熱では基礎疾患や合併症の有無によって数か月から数年と長期間かかることもあります。

心内膜炎や血管感染といった重篤な合併症を伴う場合は致死率が高まりますし、治療が奏功しない難治性の慢性Q熱も存在するため注意が必要です。

副作用とリスクについて

Q熱の治療に用いられる抗菌薬は一般的に安全性が高いですが、長期投与による副作用やリスクを伴うことがあります。

テトラサイクリン系抗菌薬の副作用

急性Q熱の治療に用いられるドキシサイクリンやミノサイクリンは、以下のような副作用を考慮してください。

副作用頻度
消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)高い
光線過敏症中程度
肝機能障害低い
血液障害(貧血、白血球減少)低い
歯や爪の変色(小児) 

また、妊婦や小児への投与は避けるべきであり、代替薬の選択が必要です。

ヒドロキシクロロキンの副作用

慢性Q熱の治療に用いられるヒドロキシクロロキンは、以下のような副作用を引き起こすことがあります。

  • 眼障害(網膜症)
  • 皮疹
  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)
  • 神経障害(頭痛、めまい、けいれん)

特に長期投与による網膜症は不可逆的な視力障害を引き起こす可能性があるため、定期的な眼科検査が不可欠です。

抗菌薬耐性のリスク

Q熱、特に慢性Q熱の治療では長期間の抗菌薬投与が必要となることがありますが、これによって抗菌薬耐性菌の出現リスクが高まります。

耐性菌の出現は治療の選択肢を狭め、感染症の難治化につながる恐れを考えなければなりません。

耐性菌の出現を防ぐためには適切な用量と期間の抗菌薬投与、および不必要な抗菌薬の使用を避けることが重要です。

基礎疾患悪化のリスク

慢性Q熱は心疾患や血管疾患などの基礎疾患を有する患者さんに多く見られ、長期の抗菌薬治療はこれらの基礎疾患を悪化させるリスクがあります。

例えばドキシサイクリンやヒドロキシクロロキンは、心伝導障害や不整脈を引き起こす可能性が考えられるでしょう。

また、肝機能障害や腎機能障害を有する患者さんでは、抗菌薬の代謝や排泄が遅延して副作用のリスクが高まることもあります。

基礎疾患を有する患者さんに対しては治療中の慎重なモニタリングと必要に応じた投与量の調整が求められるのです。

Q熱の再発防止と感染予防について

Q熱は適切な治療により治癒しますが、再発することもあるため感染源の特定と除去を含めた予防対策が重要です。

急性Q熱の再発

急性Q熱は適切な抗菌薬治療により多くの場合治癒しますが、治療が不十分であると再発することがあります。

再発は初回感染から数週間から数ヶ月後に起こることが多く、症状は初回感染時と同様です。

再発を防ぐためには、十分な期間(通常2週間以上)の抗菌薬治療が不可欠となります。

再発リスク因子対策
不十分な抗菌薬治療適切な用量と期間の治療
免疫抑制状態基礎疾患のコントロール

慢性Q熱への移行

急性Q熱の一部(約5%)は慢性Q熱へ移行します。 慢性Q熱への移行を防ぐためには急性期の適切な治療と、治癒後の定期的な経過観察が重要です。

慢性Q熱のリスク因子対策
心臓弁膜症定期的な心エコー検査
人工血管や人工弁長期間の抗菌薬予防投与
免疫抑制状態基礎疾患のコントロール

感染予防の重要性

Q熱はヒトからヒトへの感染はほとんどないため、感染動物や汚染された環境からの曝露を防ぐことが感染予防に重要です。

特に高リスク群に属する人は、感染のリスクを認識して予防措置を講じることが推奨されます。

また、Q熱が流行している地域では、公衆衛生対策として家畜の検疫や環境の衛生管理が行われています。

感染源対策

Q熱の再発を防ぐためには感染源を特定し、除去または回避することが重要です。主な感染源は以下のようなものがあります。

  • 感染動物(牛、羊、山羊など)との接触
  • 汚染された環境(農場、屠殺場など)へのばく露
  • 汚染された乳製品の摂取

感染源対策としては、次のような措置が有効です。

  • 感染動物の隔離と治療
  • 農場や屠殺場などの環境衛生管理
  • 殺菌処理された乳製品の使用

特に職業的にQ熱のリスクが高い人(獣医師、農場労働者、屠殺場労働者など)は、感染予防のための個人防護具の着用や衛生管理を徹底してください。

ワクチン接種

Q熱の予防にはワクチン接種も有効な手段です。

ワクチンはコクシエラ・バーネッティの不活化菌体を用いたもので、感染予防効果が高いことが示されています。

ただし、ワクチン接種はすでに感染した人では重篤な副反応を引き起こす可能性があるため、事前のスクリーニング検査が必要です。

Q熱の治療にかかる費用について

Q熱の治療費は症状の重症度や治療内容によって大きく異なります。

場合によっては診察料、検査費、処置費の他に入院費などが必要となり、高額となることもあるのです。

診察料

Q熱の診療では初診時に初診料、再診時に再診料が発生します。

初診料は2,820円、再診料は720円程度が一般的な金額です。

項目金額
初診料2,880円
再診料730円

検査費

Q熱の診断には血液検査や画像検査などが行われます。

これらの検査費用は、数千円から数万円程度です。

検査金額
血液検査
1,500~5,000円
画像検査2,100円~20,700円

処置費

Q熱の治療では抗菌薬の点滴投与などの処置が行われることがあります。

これらの処置費用は、数万円から数十万円程度です。

入院費

重症のQ熱では入院治療が必要となることがあります。

入院費は1日あたり数万円程度が一般的で、入院期間によっては総額が数百万円になることもあるのです。

以上

参考にした論文