呼吸器疾患の一種である肺分画症とは、肺の一部が正常な気管支や肺動脈とつながっておらず、体循環から直接血液の供給を受けている先天性の疾患です。
この疾患は、胎児の発育過程で肺が正常に形成されず、独立した肺組織が作られてしまうことが原因と考えられています。
肺分画症は、発生する部位によって内臓型と肺外型に分類され、症状も多岐にわたります。
病型
肺分画症は肺葉外(肺外型)分画症と肺葉内(肺内型)分画症の2つの病型に分類され、それぞれ特徴的な解剖学的位置関係や血管支配を有しています。
肺葉外(肺外型)分画症
肺葉外(肺外型)分画症は正常肺組織と胸膜で隔てられた異常肺組織で、通常は下葉に位置することが多く、大動脈から直接分岐する異常動脈により栄養されています。
特徴 | 説明 |
位置 | 正常肺組織と隔てられている |
血管支配 | 大動脈から直接分岐する異常動脈 |
異常動脈は横隔膜を貫通して下行大動脈から分岐し、異常肺組織へと流入するため、正常の肺動脈とは交通がありません。
肺葉内(肺内型)分画症
一方、肺葉内(肺内型)分画症は正常肺組織内に埋没した異常肺組織であり、肺門部から流入する異常動脈により栄養されていることが特徴です。
特徴 | 説明 |
位置 | 正常肺組織内に埋没 |
血管支配 | 肺門部から流入する異常動脈 |
肺葉内(肺内型)分画症の異常動脈は肺動脈と交通している場合もあれば、大動脈から直接分岐している場合もあり多様性に富んでいます。
病型による違い
肺葉外(肺外型)分画症と肺葉内(肺内型)分画症では、異常肺組織の位置や血管支配が異なるだけでなく、発生学的にも違いがみられます。
- 肺葉外(肺外型)分画症は前腸由来の異常組織が胸腔内に迷入したものと考えられている
- 肺葉内(肺内型)分画症は気管支芽の分岐異常により生じた異常肺組織であると推定されている
このように、肺葉外(肺外型)分画症と肺葉内(肺内型)分画症は発生メカニズムが異なることから、両者を明確に区別することが重要です。
鑑別診断における留意点
肺分画症の病型を正確に診断するためには、画像検査が不可欠です。
特に、造影CTや血管造影によって異常動脈の走行を詳細に評価し、異常肺組織との位置関係を把握することが肝要となります。
肺分画症と他の先天性肺疾患との鑑別にも注意が必要であり、肺葉内肺分画症や気管支原性嚢胞との鑑別が問題となる場合があります。
肺分画症の主症状と注意点
肺分画症は呼吸器疾患の一種であり、その主症状は繰り返す肺炎や喀血、慢性の咳嗽などが挙げられますが、無症状のこともあり注意が必要です。
肺分画症の主症状は以下の通りです。
症状 | 頻度 |
繰り返す肺炎 | 高い |
喀血 | 中程度 |
慢性の咳嗽 | 中程度 |
無症状 | 低い |
繰り返す肺炎は肺分画症患者の最も一般的な症状の一つとされています。これは正常な気管支と交通のない分画肺に分泌物が貯留し、細菌が繁殖しやすい環境となることが原因です。
喀血も肺分画症でしばしば見られる症状です。 分画肺の血管は体循環から血液供給を受けるため、肺胞レベルの毛細血管が拡張しやすく出血のリスクが高くなります。
また、分画肺の存在による気道の慢性的な刺激から長引く咳嗽が生じることもあります。ただし咳嗽の原因は様々であるため、他の疾患との鑑別が重要となります。
無症状の肺分画症
肺分画症は以下のような場合、無症状となり得ます。
- 分画肺が小さい
- 分画肺への感染が生じていない
- 出血が起こっていない
このように症状が現れない場合もあるため、画像検査などで偶発的に発見されることがあります。無症状であっても、将来的に感染や出血のリスクがあることから定期的な経過観察が求められます。
肺分画症の症状と他疾患との鑑別
鑑別を要する疾患 | 共通する症状 |
肺結核 | 咳嗽、喀血 |
肺腫瘍 | 咳嗽、喀血 |
気管支拡張症 | 繰り返す肺炎、喀血 |
肺分画症の症状は非特異的であり、他の呼吸器疾患でも同様の症状を呈する可能性があります。そのため症状のみで診断することは難しく、画像検査を含めた総合的な評価が必須となります。
小児の肺分画症
小児の肺分画症では、以下のような症状がみられることがあります。
- 繰り返す肺炎
- 呼吸困難
- チアノーゼ
- 発育不全
特に新生児期に発症した場合、重篤な呼吸不全を来すこともあるため、注意深い観察と迅速な対応が求められます。
成人の肺分画症
成人で発見される肺分画症の多くは小児期に発症したものが見逃されていたケースであると考えられています。
しかし中には成人になって初めて症状が出現するケースも存在します。
成人発症の肺分画症では喀血が主訴となることが多いとされ、喫煙による気道の慢性炎症が関与している可能性が指摘されています。
肺分画症の原因やきっかけ
肺分画症は先天性の疾患であり、胎生期の肺の発生異常が原因で生じると考えられていますが、その詳細なメカニズムは完全には解明されていません。
肺分画症の原因は以下の通りです。
原因 | 説明 |
肺芽の異常分枝 | 胎生期の肺芽の異常な分枝により分画肺が形成される |
体循環からの血流 | 分画肺が体循環から血液供給を受ける異常血管を有する |
肺芽の異常分枝と分画肺の形成
肺は胎生期に前腸の一部から発生し、気管支樹が複雑に分枝しながら形成されていきます。
この過程で何らかの異常が生じると、正常な気管支樹から独立した肺組織、すなわち分画肺が形成されると考えられています。
分画肺の発生時期については諸説ありますが、胎生4〜6週ごろとする説が有力です。この時期は、肺芽が気管支樹として分枝を開始する時期に相当します。
体循環からの異常血流
通常、肺は肺動脈から血液供給を受けますが、分画肺では大動脈などの体循環から直接血液供給を受ける異常血管を有することが特徴です。
この血管は以下のような経路をたどることが知られています。
- 胸部大動脈から直接分岐
- 腹部大動脈から分岐し横隔膜を貫通
- 肋間動脈や気管支動脈から分岐
このような異常血管が発生する原因は明らかではありませんが、肺芽の発生異常に伴う二次的な変化である可能性が示唆されています。
異常血管の起始部位 | 頻度 |
胸部大動脈 | 高い |
腹部大動脈 | 中程度 |
その他(肋間動脈、気管支動脈など) | 低い |
遺伝的要因の関与
肺分画症の多くは散発的に発生しますが、まれに家族内発生例も報告されています。
このことから、何らかの遺伝的要因が関与している可能性が示唆されていますが、明確な遺伝子異常は同定されていません。
また、肺分画症と他の先天性疾患との関連も指摘されています。
例えば、先天性横隔膜ヘルニアや食道閉鎖症などの消化管の先天異常を合併することがあり、これらの疾患と共通の発生メカニズムが存在する可能性が考えられています。
発生学的分類と原因の違い
肺分画症は発生学的に、肺内分画症と肺外分画症の2つに分類されます。これらはその発生時期と原因が異なると考えられています。
肺内分画症は、比較的遅い胎生期(胎生6週以降)に生じる肺芽の異常分枝が原因と考えられています。
一方、肺外分画症は、より早期の胎生期(胎生4〜5週)に前腸の異常分枝により生じると考えられています。
医療機関での診察と診断
肺分画症の診察と診断には、病歴聴取や身体所見に加え、画像検査が重要な役割を果たします。
確定診断には CT や血管造影が有用であり、他の疾患との鑑別を慎重に行う必要があります。
病歴聴取と身体診察
肺分画症の患者では、繰り返す肺炎や喀血、慢性咳嗽などの症状を訴えることが多いため、これらの症状の有無や経過を詳細に聴取することが重要です。ただし、無症状の場合もあるため注意が必要です。
身体診察では、聴診で異常呼吸音を聴取したり、罹患側の呼吸音が減弱していたりする場合があります。しかし、これらの所見は非特異的であり、確定診断には至りません。
身体所見 | 頻度 |
異常呼吸音 | 中程度 |
罹患側の呼吸音減弱 | 中程度 |
無所見 | 中程度 |
画像検査の重要性
肺分画症の診断において画像検査は不可欠です。以下の検査が診断に有用とされています。
- 胸部単純 X 線写真
- 胸部 CT
- MRI
- 血管造影
特に胸部 CT は、分画肺の同定や異常血管の描出に優れており、診断に最も重要な検査と言えます。また、血管造影は異常血管の詳細な評価に有用です。
検査 | 有用性 |
胸部単純 X 線写真 | 低い |
胸部 CT | 高い |
MRI | 中程度 |
血管造影 | 高い |
鑑別診断
肺分画症は他の呼吸器疾患との鑑別が重要です。 鑑別を要する主な疾患は以下の通りです。
- 肺膿瘍
- 肺結核
- 肺腫瘍
- 気管支拡張症
- 先天性嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)
これらの疾患は画像所見が類似していることがあるため、注意深い鑑別が必要となります。特に CCAM は、肺分画症と同様に先天性の肺の形成異常であり、両者の合併例も報告されています。
診断のフローチャート
肺分画症が疑われる患者には、以下のような診断のフローチャートが推奨されます。
- 病歴聴取と身体診察
- 胸部単純 X 線写真
- 胸部 CT
- 血管造影(CT で異常血管が疑われる場合)
- 鑑別診断
このフローチャートに沿って診断を進めることで、効率的かつ確実な診断が可能となります。
画像所見
肺分画症の診断には画像検査が重要な役割を果たし、胸部単純 X 線写真、胸部 CT、MRI、血管造影などが有用とされていますが、中でも胸部 CT は分画肺の同定や異常血管の描出に優れ、診断に最も重要な検査と言えます。
胸部単純 X 線写真の所見
胸部単純 X 線写真では、以下のような所見が見られることがあります。
- 分画肺の存在部位に一致した浸潤影や腫瘤影
- 分画肺内の air bronchogram
- 罹患側の容量減少や縦隔の偏位
ただし、これらの所見は非特異的であり、確定診断には至りません。また、無所見のこともあるため注意が必要です。
胸部単純 X 線写真の所見 | 頻度 |
浸潤影や腫瘤影 | 中程度 |
air bronchogram | 低い |
容量減少や縦隔偏位 | 低い |
無所見 | 中程度 |
胸部 CT の所見
胸部 CT は肺分画症の診断に最も有用な検査であり、以下のような特徴的な所見が見られます。
- 分画肺の存在:正常肺とは別の異常な肺組織として描出される
- 分画肺内の含気量低下:分画肺内の含気量が低下し、高吸収域として描出される
- 異常血管の存在:分画肺に流入する体循環由来の異常血管が描出される
特に異常血管の描出は、肺分画症の確定診断に重要な所見です。異常血管は分画肺の栄養血管であり、大動脈から直接分岐していることが多いとされています。
MRI の所見
MRI は放射線被曝なく血管構造を評価できる利点がありますが、空間分解能が CT に劣るため、肺実質の評価には適していません。
ただし、以下のような所見が得られる場合があります。
- 分画肺内の高信号域:T2強調画像で分画肺内の液体貯留を反映した高信号域が描出される
- 異常血管の描出:MR angiography により異常血管の描出が可能
MRI は CT の補助的な検査として位置づけられますが、妊婦や小児など被曝を避けたい場合には有用です。
MRI の所見 | 頻度 |
分画肺内の高信号域 | 中程度 |
異常血管の描出 | 中程度 |
血管造影の所見
血管造影は異常血管の詳細な評価に有用な検査です。以下のような所見が得られます。
- 異常血管の起始部位と走行:体循環から分画肺に流入する異常血管の起始部位と走行が明瞭に描出される
- 異常血管の本数:複数の異常血管が存在することもある
ただし、血管造影は侵襲的な検査であり、CT で異常血管が明瞭に描出される場合は必ずしも必要ありません。診断が困難な症例や、手術前の詳細な血管評価が必要な症例などに限定されます。
以上のように、肺分画症の画像診断には様々なモダリティが用いられますが、中でも胸部 CT が最も重要な検査と言えるでしょう。
CT では分画肺の存在や異常血管の走行が明瞭に描出され、確定診断に至ることができます。
一方、胸部単純 X 線写真は非特異的な所見しか得られず、MRI や血管造影は補助的な位置づけとなります。
肺分画症が疑われる患者には、まず胸部 CT を施行し、必要に応じて他の検査を追加するのが適切な診断アプローチと考えられます。
肺分画症の治療方法と薬、治癒までの期間
肺分画症の治療は外科的切除が基本であり、分画肺を完全に切除することで根治が期待できます。
手術は開胸手術または胸腔鏡下手術で行われ、術後の合併症は少なく予後は良好です。術後は定期的な経過観察が重要であり、再発は稀ですが長期的なフォローアップが推奨されています。
外科的切除の適応と術式
肺分画症と診断された場合、無症状であっても外科的切除が推奨されます。これは、感染や出血のリスクを回避するためです。
手術の適応は以下の通りです。
- 有症状の肺分画症
- 無症状でも画像検査で肺分画症と診断された場合
- 悪性腫瘍との鑑別が困難な場合
手術術式は、開胸手術と胸腔鏡下手術に大別されます。
術式 | 特徴 |
開胸手術 | 直視下に手術を行うため、安全性が高い。異常血管の処理が容易。 |
胸腔鏡下手術 | 低侵襲。整容性に優れる。手術時間が短い。 |
術式の選択は、病変の部位や大きさ、異常血管の走行などを考慮して決定されます。
近年は胸腔鏡下手術の適応が拡大しており、多くの症例で胸腔鏡下手術が選択されるようになっています。
術前管理と周術期の注意点
肺分画症の手術に際しては、以下のような術前管理と周術期の注意点があります。
- 感染徴候がある場合は、抗菌薬投与と感染コントロールを行う
- 喀血がある場合は、気管支動脈塞栓術を考慮する
- 術前に3D-CT などで異常血管の走行を詳細に評価する
- 術中は異常血管の処理に注意し、必要に応じて血管外科医との連携を考慮する
特に異常血管の処理は、手術の要となる部分です。 不適切な処理により大量出血を来す可能性があるため、慎重な操作が求められます。
術後管理と合併症
肺分画症の手術後は、以下のような管理を行います。
- 呼吸管理:適切な鎮痛と呼吸リハビリテーションを行う
- 感染予防:抗菌薬の予防投与を行う
- 出血の監視:ドレーンの性状と排液量を監視する
手術の合併症としては、以下のようなものが挙げられます。
合併症 | 頻度 |
肺瘻 | 低い |
術後出血 | 低い |
感染 | 低い |
再発 | 稀 |
一般的に、肺分画症の手術は安全性が高く、合併症の頻度は低いとされています。術後の回復は良好であり、多くの患者は術後1週間程度で退院可能となります。
術後の経過観察
肺分画症の手術後は、定期的な経過観察が重要です。 再発は稀ですが、長期的なフォローアップが推奨されています。
経過観察の間隔と内容は、以下のように設定されることが多いです。
- 術後1ヶ月:胸部単純 X 線写真
- 術後6ヶ月:胸部単純 X 線写真
- 術後1年:胸部単純 X 線写真、胸部 CT
- 術後3年、5年、10年:胸部単純 X 線写真
異常所見が認められた場合は、適宜 CT などの追加検査を行います。 再発が確認された場合は、再手術を考慮します。
肺分画症の手術療法に伴う副作用とリスク
肺分画症の治療は外科的切除が基本ですが、手術療法には一定の副作用とリスクが伴います。
術後の合併症としては、肺瘻、出血、感染などが知られており、これらは患者の回復を遅らせ、時に重篤な転帰をたどる可能性があります。
また、手術自体が身体に与える侵襲は無視できず、術後の疼痛や呼吸機能の低下などの副作用も生じ得ます。
手術療法の主な合併症
肺分画症の手術療法に伴う主な合併症は以下の通りです。
合併症 | 症状 |
肺瘻 | 肺からの空気漏れ。呼吸困難、皮下気腫などを生じる。 |
術後出血 | ドレーンからの持続的な血性排液。貧血、ショックを来す可能性がある。 |
感染 | 発熱、膿性痰、呼吸困難など。肺炎や膿胸に進展する可能性がある。 |
これらの合併症は、適切な術後管理によりある程度予防可能ですが、完全に回避することは困難です。合併症が生じた場合は、速やかな診断と治療介入が求められます。
例えば、肺瘻に対してはドレナージの継続や再手術が、出血に対しては輸血や止血処置が、感染に対しては抗菌薬投与や膿瘍ドレナージが行われます。
重篤な合併症は、入院期間の延長や追加処置を必要とし、患者の身体的・精神的負担を増大させます。
手術侵襲に伴う副作用
手術自体が身体に与える侵襲も、一種の副作用と言えます。
主な副作用としては、以下のようなものが挙げられます。
- 術後疼痛:開胸手術では特に強い疼痛を伴う。鎮痛薬の投与が必要となる。
- 呼吸機能低下:手術操作による肺の損傷や疼痛による呼吸抑制から生じる。
- 全身倦怠感:侵襲に対する生体反応として生じる。回復に時間を要する。
これらの副作用は、術式の選択や術後管理の工夫により軽減可能ですが、完全に避けることはできません。
患者には副作用の可能性について事前に十分説明し、理解を得ておく必要があります。
術式 | 侵襲度 |
開胸手術 | 高い |
胸腔鏡下手術 | 比較的低い |
近年は、胸腔鏡下手術の普及により手術侵襲は軽減される傾向にありますが、開胸手術が必要となる場合もあります。
術式の選択には、病変の部位や大きさ、患者の全身状態などを総合的に考慮する必要があります。
手術関連死
肺分画症の手術関連死は稀ですが、ゼロではありません。 手術関連死の原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 大量出血:異常血管の損傷による制御不能な出血。
- 肺塞栓症:手術操作に伴う血栓形成と肺動脈への塞栓。
- 呼吸不全:手術侵襲による呼吸機能の高度低下。
これらの重篤な合併症は、適切な術前評価と周術期管理により予防に努めますが、完全に回避することは困難です。
特に、全身状態が不良な患者や高齢者では、手術関連死のリスクが高くなります。
長期的な影響
肺分画症の手術療法は、基本的に根治的な治療ですが、長期的な影響も考慮する必要があります。
例えば、手術により肺の一部を切除した場合、呼吸機能の低下が生じます。これは特に、高齢者や呼吸器疾患を有する患者で問題となります。
また、手術創の疼痛や違和感が長期間残存することもあります。これは患者の QOL を低下させる要因となり得ます。
肺分画症の再発リスクと予防策
肺分画症の治療は外科的切除が基本であり、適切な手術により根治が期待できますが、まれに再発することがあります。
再発のリスクを完全にゼロにすることは困難ですが、適切な術式の選択と十分な切除範囲の設定、さらには術後の定期的な経過観察により、再発を最小限に抑えることが可能です。
再発のメカニズム
肺分画症の再発は、以下のような機序で生じると考えられています。
再発の機序 | 説明 |
不完全な切除 | 分画肺の一部が残存し、増大・再発する。 |
見逃された病変 | 多発病変の一部が見逃され、後に顕在化する。 |
新たな病変の発生 | 全く新たな部位に分画肺が発生する。 |
不完全な切除は、手術手技の問題や解剖学的な制約により生じ得ます。
特に、分画肺が正常肺と強固に癒着している場合や、複雑な血管構築を有する場合は、完全切除が技術的に困難なことがあります。
多発病変の見落としは、術前診断の限界によるところが大きいです。従来の CT では描出困難な微小な病変が、後に増大し再発として顕在化する可能性があります。
新たな病変の発生は、先天性疾患である肺分画症の特性に起因します。肺分画症の原因である肺発生異常が多中心性に生じる可能性があり、これが新たな病変として発現すると考えられています。
再発のリスク因子
肺分画症の再発リスクは、以下のような因子により増大すると考えられています。
- 不完全な切除
- 多発病変の存在
- 若年発症
- 肺外分画症
特に、肺外分画症は肺内分画症よりも再発リスクが高いとされています。これは、肺外分画症が肺内分画症よりも早期の胎生期に発生し、より広範な肺発生異常を反映している可能性があるためです。
分画症のタイプ | 再発リスク |
肺内分画症 | 比較的低い |
肺外分画症 | 比較的高い |
再発の予防策
肺分画症の再発を予防するためには、以下のような対策が重要です。
- 適切な術式の選択:分画肺を完全に切除可能な術式を選択する。
- 十分な切除範囲の設定:分画肺のみならず、周囲の正常肺も含めて切除する。
- 術中の詳細な観察:多発病変の見落としを防ぐため、術中に詳細な観察を行う。
- 定期的な経過観察:術後は定期的な画像検査により、再発の早期発見に努める。
特に、術中の詳細な観察は重要です。多発病変の見落としを防ぐため、分画肺のみならず、他の肺葉も含めて詳細に観察することが推奨されています。
以下のような経過観察スケジュールが一般的です。
- 術後1ヶ月:胸部単純 X 線写真
- 術後6ヶ月:胸部単純 X 線写真
- 術後1年:胸部単純 X 線写真、胸部 CT
- 術後3年、5年、10年:胸部単純 X 線写真
再発時の対応
肺分画症が再発した場合、基本的には初回と同様の治療方針、すなわち外科的切除が選択されます。ただし、再発病変の部位や範囲、患者の全身状態などを考慮し、慎重に治療方針を決定する必要があります。
再発病変が小さく限局している場合は、胸腔鏡下手術など低侵襲な手術が選択されることがあります。
一方、再発病変が広範囲に及ぶ場合や、患者の全身状態が不良な場合は、手術適応とならないこともあります。
治療費
肺分画症の治療費は、手術療法が中心となるため高額になる傾向がありますが、公的医療保険の適用により自己負担額は軽減されます。
初診料、再診料、検査費
項目 | 費用 |
初診料 | 2,820円 |
再診料 | 720円 |
検査費(CT、MRIなど) | 10,000円~50,000円 |
手術療法の費用
手術方法 | 費用 |
開胸手術 | 58万円~76万円+各種入院費 |
胸腔鏡下手術 | 39万円~81万円+各種入院費 |
入院費
入院費は、1日あたり1万円~2万円程度です。 手術療法の場合、入院期間は2週間~1ヶ月程度となることが多いため、入院費だけで20万円~60万円程度かかります。
これらの1~3割が自己負担となりますが、通常は高額医療費制度の適応となります
以上
- 参考にした論文