呼吸器疾患の一種である肺嚢胞症とは、肺の中に複数の嚢胞と呼ばれる袋状の空洞ができる病気です。 嚢胞は気道から分離しており、大きさや形が様々で、時間の経過とともに変化する可能性があります。

肺嚢胞症は先天性のものと後天性のものがあり、症状や重症度は患者さんによって異なります。 肺の働きが低下することで、息切れや咳、胸の痛みなどの症状が現れることがあります。

病型

肺嚢胞症は、先天性と後天性に大別され、それぞれ特徴的な病型が存在します。

先天性嚢胞性肺疾患の病型

先天性嚢胞性肺疾患は、胎児期の肺の発達異常によって生じる疾患群であり、以下のような病型があります。

  1. 先天性嚢胞性腺様奇形(CCAM)
  2. 肺分画症
  3. 気管支原性嚢胞
  4. 先天性横隔膜ヘルニア

これらの病型は、発生部位や嚢胞の特徴によって分類されます。

病型発生部位
CCAM肺実質
肺分画症肺実質外

先天性嚢胞性肺疾患は、新生児期から症状が現れることが多く、重症例では呼吸不全を引き起こす可能性があります。早期発見と適切な介入が重要となります。

後天性嚢胞性肺疾患の病型

後天性嚢胞性肺疾患は、様々な要因によって肺に嚢胞が形成される疾患群です。主な病型は以下の通りです。

  • 気腫性嚢胞
  • 感染性嚢胞
  • 腫瘍性嚢胞
  • リンパ脈管筋腫症(LAM)
病型主な原因
気腫性嚢胞喫煙、加齢
感染性嚢胞細菌、真菌、寄生虫

後天性嚢胞性肺疾患の中でも、気腫性嚢胞とLAMは比較的頻度が高く、注目すべき病型です。

気腫性嚢胞

気腫性嚢胞は、喫煙や加齢によって肺胞が破壊され、嚢胞が形成されることで生じます。嚢胞は多発性で、上肺野に好発します。

リンパ脈管筋腫症(LAM)

LAMは、平滑筋様細胞の異常増殖によって肺に多発性の嚢胞が形成される疾患です。主に閉経前の女性に発症し、進行性の呼吸機能低下を引き起こします。

肺嚢胞症の主症状

肺嚢胞症は、その病型や重症度によって様々な症状を呈します。

呼吸器症状

肺嚢胞症の最も典型的な症状は、呼吸器症状です。患者は以下のような症状を訴えることが多いです。

  • 息切れ
  • 咳嗽
  • 喀痰
  • 胸痛

これらの症状は、嚢胞による肺の換気障害や、感染の合併によって引き起こされます。

症状頻度
息切れ高い
咳嗽高い

全身症状

肺嚢胞症が進行すると、低酸素血症による全身症状が現れることがあります。

症状原因
チアノーゼ低酸素血症
ばち指慢性的な低酸素血症

また、感染の合併によって発熱や倦怠感などの全身症状を呈する場合もあります。

症状の多様性

肺嚢胞症の症状は、病型や重症度によって大きく異なります。

先天性嚢胞性肺疾患では、新生児期から重篤な呼吸不全を呈する一方で、無症状で経過する場合もあります。

後天性嚢胞性肺疾患では、嚢胞の数や大きさ、分布によって症状が異なります。気腫性嚢胞では、徐々に進行する呼吸器症状が主体となりますが、感染性嚢胞では急性の症状を呈することがあります。

症状の進行

肺嚢胞症は、適切な介入がなされない場合、症状が進行し、quality of lifeが著しく低下することがあります。

呼吸不全が進行すると、日常生活動作の制限や、酸素療法が必要になる可能性があります。

また、繰り返す感染によって、嚢胞の増大や新たな嚢胞の形成が促され、症状がさらに悪化することがあります。

肺嚢胞症の原因やきっかけ

肺嚢胞症は、先天性と後天性に大別され、それぞれ異なる原因やきっかけによって発症します。

先天性肺嚢胞症の原因

先天性肺嚢胞症は、胎児期の肺の発達異常によって引き起こされ、以下のような要因が関与していると考えられています。

  • 遺伝的要因
  • 環境要因(母体の感染症、喫煙、薬剤など)
  • 発生学的要因(気管支の閉塞、肺血流の異常など)
要因
遺伝的要因染色体異常、単一遺伝子異常
環境要因母体の感染症、喫煙、薬剤

これらの要因が複雑に絡み合って、肺の発達異常が生じると考えられています。

後天性肺嚢胞症の原因

後天性肺嚢胞症は、様々な原因によって引き起こされます。主な原因は以下の通りです。

  1. 喫煙
  2. 感染症
  3. 全身性疾患(リンパ脈管筋腫症など)
  4. 肺の過膨張

喫煙は、肺気腫の主要な原因であり、気腫性嚢胞の形成に関与します。

原因メカニズム
喫煙肺胞の破壊、気腫性変化
感染症炎症による肺組織の破壊

感染症では、細菌性肺炎、肺結核、肺真菌症などが肺嚢胞の形成に関与します。炎症によって肺組織が破壊され、嚢胞が形成されると考えられています。

全身性疾患による肺嚢胞症

全身性疾患に伴って肺嚢胞が形成されることがあります。代表的な疾患は以下の通りです。

  • リンパ脈管筋腫症(LAM)
  • Birt-Hogg-Dubé症候群(BHD)
  • Marfan症候群

これらの疾患では、肺以外の臓器にも異常が見られることが多く、肺嚢胞はその一部分症であると捉えられています。

肺の過膨張による肺嚢胞症

肺の過膨張は、気道閉塞や肺実質の脆弱化によって引き起こされ、肺嚢胞の形成に関与し、以下のような病態が関与すると考えられています。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 気管支喘息
  • 間質性肺疾患

これらの病態では、肺の過膨張が持続することで、肺胞の破壊や嚢胞形成が促進されると考えられています。

医療機関での診察と診断

肺嚢胞症の診察と診断においては、患者の症状や病歴を詳細に聴取し、身体所見を丁寧に取ることが大切です。

また、画像検査や肺機能検査などの各種検査を適切に組み合わせ、総合的に判断することが求められます。

病歴聴取と身体診察

肺嚢胞症が疑われる場合、まず患者の呼吸器症状や全身状態について詳しく聴取します。

特に、咳嗽や呼吸困難、喀痰などの有無や程度、発症時期や経過を確認することが重要です。

また、喫煙歴や職業歴、家族歴なども診断の手がかりになることがあります。

身体診察では、聴診により呼吸音の異常や副雑音の有無を評価します。

所見意義呼吸音の減弱肺の含気量低下を示唆副雑音(捻髪音など)気道閉塞や分泌物貯留を示唆

画像検査

肺嚢胞症の確定診断には画像検査が不可欠です。

胸部X線写真では、両肺野に多発する嚢胞状陰影を認めることが特徴的ですが、早期や軽症例では異常を指摘できないことも少なくありません。

そのため、胸部CTが診断に有用であり、 肺嚢胞の分布や 大きさ、壁の性状などを詳細に評価することができます。

検査所見胸部X線多発嚢胞状陰影胸部CT嚢胞の分布、大きさ、壁の性状

肺機能検査

肺嚢胞症では、嚢胞による肺の弾性低下や気道閉塞により、拘束性換気障害や閉塞性換気障害を呈することがあります。

肺機能検査により、これらの換気障害のパターンや重症度を評価することができます。

以下の項目を中心に評価します:

  • 肺活量(VC)
  • 1秒量(FEV1.0)
  • 全肺気量(TLC)
  • 残気量(RV)

その他の検査

肺嚢胞症の診断や病態評価のために、状況に応じて以下のような検査を追加することがあります。

  • 気管支鏡検査:気道の評価や生検
  • 血液検査:感染症の評価など
  • 遺伝子検査:家族性の肺嚢胞症が疑われる場合

これらの検査結果を総合的に判断し、肺嚢胞症の確定診断や重症度評価、合併症の有無などを明らかにしていきます。

画像所見

肺嚢胞症の画像所見は、診断や病態評価において重要な手がかりとなります。胸部X線写真や胸部CTを中心に、嚢胞の分布や性状、経時的変化などを詳細に評価することが大切です。

胸部X線写真の所見

胸部X線写真は、肺嚢胞症の診断に有用な検査の一つです。

両肺野に多発する嚢胞状陰影を認めることが特徴的ですが、早期や軽症例では異常を指摘できないこともあります。

所見意義
多発嚢胞状陰影肺嚢胞の存在を示唆
スリガラス影炎症や線維化の合併を示唆
Pulmonary bulla | Radiology Reference Article | Radiopaedia.orgより引用

胸部CTの所見

胸部CTは、肺嚢胞症の診断や評価に不可欠な検査です。肺嚢胞の分布や大きさ、壁の性状などを詳細に評価することができ、合併する病変の有無も確認できます。

以下の所見を中心に評価します:

  • 嚢胞の分布(びまん性、局所性)
  • 嚢胞の大きさ(小嚢胞、大嚢胞)
  • 嚢胞壁の性状(薄壁、厚壁)
  • 合併する病変(すりガラス影、網状影、結節影)
所見意義
嚢胞壁の厚さ炎症や線維化の程度を反映
嚢胞内部の濃度感染や出血の合併を示唆
Pulmonary bulla | Radiology Reference Article | Radiopaedia.orgより引用

他の画像検査

肺嚢胞症の評価には、状況に応じて他の画像検査を追加することもあります。例えば、肺血流シンチグラフィでは、嚢胞による肺血流の低下を評価できる場合があります。

またUltra short TE MRIでは、放射線被曝なしでCTのような画像を撮像し診断することが出来ます。

Gräfe, Daniel et al. “Pediatric MR lung imaging with 3D ultrashort-TE in free breathing: Are we past the conventional T2 sequence?.” Pediatric pulmonology vol. 56,12 (2021): 3899-3907. より引用

肺嚢胞症の治療方法と薬、治癒までの期間

肺嚢胞症の治療は、症状や合併症の有無、重症度に応じて個別に決定されます。

無症状の場合は経過観察が中心となりますが、感染症や気胸などの合併症がある場合は、抗菌薬や外科的治療などが必要になることがあります。

治癒までの期間は病態によって異なりますが、長期的な管理が重要です。

治療方針の決定

肺嚢胞症の治療方針は、患者の症状や合併症、全身状態などを総合的に評価して決定します。

画像所見や肺機能検査の結果も参考にしながら、個々の患者に応じた治療計画を立てることが大切です。

病態治療方針
無症状経過観察
感染症合併抗菌薬治療
気胸合併胸腔ドレナージ、外科的治療

薬物療法

肺嚢胞症に対する薬物療法は、主に合併症の治療を目的として行われます。

感染症がある場合は、起炎菌に応じた抗菌薬を選択します。気管支拡張薬や去痰薬を使用することもあります。

以下の薬剤が使用される場合があります:

  • マクロライド系抗菌薬
  • ニューキノロン系抗菌薬
  • β刺激薬吸入薬
  • 去痰薬

外科的治療

肺嚢胞症では、難治性の気胸や感染症、嚢胞の増大による呼吸不全などに対して、外科的治療が必要になることがあります。

術式は病変の部位や 範囲によって異なりますが、胸腔鏡下手術が選択されることが多いです。

術式適応
胸腔鏡下嚢胞切除術限局性の嚢胞病変
胸腔鏡下肺部分切除術気胸や感染を繰り返す場合

治癒までの期間

肺嚢胞症の治癒までの期間は、病態や治療法によって大きく異なります。

合併症がなく経過観察のみの場合は、長期的な管理が必要ですが、 治療を要する合併症がある場合は、その治療期間や 治療効果によって左右されます。

外科的治療を行った場合は、術後の回復に数週間から数ヶ月を要することがありますが、適切な治療と管理により、良好な予後が期待できる可能性があります。

治療の副作用やデメリット(リスク)

肺嚢胞症の治療は、患者の状態や合併症に応じて薬物療法や外科的治療が選択されますが、いずれの治療法にも一定の副作用やリスクが伴います。

薬物療法の副作用

肺嚢胞症の薬物療法では、主に抗菌薬や気管支拡張薬、去痰薬などが使用されますが、これらの薬剤には様々な副作用がある可能性があります。

薬剤主な副作用
マクロライド系抗菌薬消化器症状、肝機能障害、QT延長
ニューキノロン系抗菌薬消化器症状、中枢神経症状、腱障害
β刺激薬吸入薬動悸、振戦、低カリウム血症

副作用の発現には個人差がありますが、定期的な血液検査や症状の観察により、早期発見と適切な対応が求められます。

重篤な副作用が疑われる場合は、速やかに薬剤の中止や変更を検討する必要があります。

外科的治療のリスク

肺嚢胞症に対する外科的治療には、胸腔鏡下手術が多く選択されますが、手術に伴う様々なリスクがあります。

以下のようなリスクを考慮する必要があります:

  • 出血
  • 感染
  • 肺瘻(空気漏れ)
  • 呼吸不全
  • 術後疼痛

これらのリスクは、患者の全身状態や 手術手技、周術期管理などによって異なりますが、いずれも重篤な合併症につながる可能性があります。

合併症リスク因子
術後肺炎高齢、喫煙、低栄養
術後気胸肺気腫合併、広範囲切除

再発の可能性と予防の仕方

肺嚢胞症は、適切な治療により症状の改善や合併症の予防が期待できますが、再発のリスクを完全に排除することは困難です。

再発の可能性を念頭に置きながら、長期的な経過観察と生活管理を行うことが重要です。

再発のリスク因子

肺嚢胞症の再発には、様々な因子が関与していると考えられています。

患者の年齢や全身状態、喫煙歴、合併疾患の有無などが、再発リスクに影響を与える可能性があります。

リスク因子機序
高齢肺の脆弱性、治癒力の低下
喫煙気道の炎症、組織損傷
合併疾患感染症、間質性肺疾患など

特に、気胸や感染症を繰り返す症例では、再発リスクが高いことが知られています。

再発予防の生活管理

肺嚢胞症の再発を予防するために、日常生活における適切な管理が求められます。

以下のような生活管理を心がけることが大切です。

  • 禁煙
  • 感染予防(手洗い、ワクチン接種など)
  • 定期的な運動
  • バランスの取れた食事

これらの生活習慣を継続することで、肺の健康維持と再発リスクの低減につながると期待されます。

生活管理効果
禁煙気道の炎症改善、肺機能の保護
感染予防二次感染のリスク低減

医学的管理と経過観察

肺嚢胞症の再発予防には、定期的な医学的管理と経過観察が不可欠で、主治医との連携のもと、以下のような管理を行います:

  • 定期的な画像検査(胸部X線、CT)
  • 肺機能検査
  • 感染症の早期発見と治療
  • 禁煙指導、生活指導

再発の兆候を早期に捉え、適切な対応を取ることが重要です。

治療費

肺嚢胞症の治療費は、病状や治療内容によって大きく異なりますが、一般的に高額になる傾向があります。

初診料と再診料

初診料は、初めて医療機関を受診した際に発生する費用であり、2880円です。

その他、検査や病院規模によって追加の費用が異なります。

再診料は、2回目以降の受診で発生し、750円+諸検査などの費用が一般的です。

費用項目概算金額
初診料2,880円
再診料750円
+諸費用・検査費の1割~3割が自己負担です。

検査費と処置費

肺嚢胞症の診断や経過観察に必要な検査費用は、以下のようになります:

  • 胸部X線撮影:8,500円 – 3,000円
  • 胸部CT検査:7,500円 – 15,000円
  • 肺機能検査:3,300円 – 4,500円

また、気胸や感染症などの合併症に対する処置費用は、病状に応じて数万円から数十万円と幅があります。

以上

参考にした論文