呼吸器疾患の一種である肺ランゲルハンス細胞組織球症は肺内で特定の細胞が異常に増える珍しい病気です。

この疾患は主として喫煙習慣のある若年成人に発症しますが、非喫煙者や小児にも起こり得ます。

肺ランゲルハンス細胞組織球症を発症すると呼吸機能が次第に低下して息苦しさや乾性咳嗽といった症状が出現することがあるでしょう。

目次

病型:単一臓器型と多臓器型の特徴と違い

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)は単一臓器型と多臓器型という2つの主要な病型に分類されます。

疾患の進行や予後に大きく影響するため病型の正確な診断と分類が求められるでしょう。

単一臓器型PLCHの特徴

単一臓器型PLCHは肺にのみ病変が限局する形態です。この型では肺の機能が徐々に低下していきますが、他の臓器への影響は見られません。

単一臓器型PLCHの主な特徴は以下の通りです。

  • 病変が肺に限局
  • 他の臓器は正常に機能
  • 比較的緩やかな進行
  • 良好な生活の質を維持できることが多い

多臓器型PLCHの特徴

多臓器型PLCHは肺以外の臓器にも病変が及ぶ、より複雑な形態です。この型では肺だけでなく骨、皮膚、リンパ節、中枢神経系など、複数の臓器が影響を受けます。

そのため症状も多岐にわたり、次のように全身的な影響が大きくなるのです。

臓器影響
呼吸機能の低下
骨折リスクの増加
皮膚発疹や腫瘤の形成
中枢神経系神経学的症状

PLCHの症状:音もなく忍び寄る呼吸器の脅威

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)は多岐にわたる症状を引き起こす珍しい呼吸器疾患です。

現れる症状は人それぞれでその重さも様々ですが、どの症状も患者さんの生活の質に大きく影響する可能性があります。

呼吸困難:PLCHの代表的症状

PLCHにおいて呼吸困難は最もよく見られる症状の一つです。この症状は病気の進行に伴い少しずつ悪化していく傾向があります。

初期の段階では階段を上る時や軽い運動をする際にのみ息切れを感じることがあるでしょう。その後時間が経つにつれ、日常の活動でも呼吸が苦しくなることがあります。

呼吸困難の程度の変化は以下のような要因によって変化します。

呼吸困難の程度日常生活への影響
軽度激しい運動時のみ
中等度日常的な活動で感じる
重度安静時でも感じる

乾性咳嗽:持続的な不快感

乾性咳嗽(かんせいがいそう)はPLCHにおいてもう一つの主要な症状です。この咳は通常痰を伴わない乾いた咳であり長期間続くことが特徴です。

多くの患者さんがこの咳を最初の症状として経験するでしょう。咳は特に夜や明け方に悪化することがあり、睡眠の質を落とす原因となることもあります。

咳の特徴説明
持続期間数週間から数ヶ月
性質乾いた、痰を伴わない
悪化要因喫煙、冷たい空気、運動

胸痛:突然の不快感

胸痛はPLCHの患者の一部で経験される症状です。この痛みは突如として現れることが多く、その性質や続く時間はさまざまでしょう。

胸痛の原因としては以下のようなものが考えられます。

  • 肺の嚢胞の破裂
  • 気胸の発生
  • 肋骨周辺の炎症

胸に痛みを感じた際は速やかに医療機関を受診することが大切です。特に急に息苦しくなるような胸痛は、気胸の可能性があるため、緊急の対応が求められます。

全身症状:PLCHの広がりを示す兆候

PLCHが進行すると肺以外の器官にも影響を及ぼすことがあります。この場合体全体に関わる症状が現れることがあるのです。

代表的な全身症状には以下のようなものがあります。

症状考えられる原因
発熱炎症反応の亢進
体重減少代謝の変化
骨の痛み骨病変の形成

これらの症状はPLCHが多臓器型に移行している可能性を示唆しているのです。全身に症状が現れた場合は詳しい検査や評価が必要となります。

発症原因:解き明かされていない原因と潜在的な引き金

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の正確な原因はいまだ完全には解明されていません。

しかしながら喫煙との強い関連性や免疫系の異常、遺伝的要因などの複合的な作用が発症に関与していることが分かってきています。

喫煙:PLCHの主要な危険因子

喫煙はPLCHの発症と進行に最も強く関連する因子です。

喫煙者は非喫煙者と比べてPLCHを発症するリスクが著しく高くなります。これはタバコの煙に含まれる有害物質が肺の組織を刺激し、異常な免疫反応を引き起こすと考えられています。

喫煙状態PLCHリスク
現在喫煙者非常に高い
過去喫煙者やや高い
非喫煙者低い

喫煙とPLCHの関連性を示す注目すべき事実

  • PLCHの患者の90%以上が喫煙者である
  • 禁煙によって症状が改善することがある
  • 受動喫煙でもリスクが上昇する可能性がある

免疫系の異常:PLCHの根底にある機序

PLCHは 免疫系の異常が関与する疾患と考えられています。特にランゲルハンス細胞と呼ばれる免疫細胞の異常な増殖と活性化がこの疾患の中心的な病態です。

通常の状態ではランゲルハンス細胞は外敵から体を守る重要な役割を果たします。しかしPLCHではこれらの細胞が制御不能に増殖し、肺組織に浸潤して炎症を引き起こすのです。

免疫細胞正常な機能PLCHでの状態
ランゲルハンス細胞抗原提示異常増殖
T細胞免疫応答の調整過剰活性化
サイトカイン免疫反応の制御過剰産生

遺伝的要因:PLCHの素因

PLCHの発症には遺伝的な要因も関与している可能性があります。特定の遺伝子変異がこの疾患の発症リスクを高める可能性が指摘されているのです。

例えばBRAF遺伝子の変異がPLCHの患者の一部で確認されています。この遺伝子は細胞の増殖や分化を制御する重要な役割を果たしており、その変異が細胞の異常な増殖につながる可能性も否めません。

遺伝的要因に関する重要な点

  • 家族性のPLCHは稀であるが、報告例がある
  • 遺伝子変異は必ずしもPLCHを引き起こすわけではない
  • 環境要因との相互作用が大切である

環境要因:PLCHのトリガー

環境要因もPLCHの発症に関与していると考えられています。喫煙以外にも様々な環境因子がこの疾患のトリガーとなる可能性が指摘されているのです。

環境因子想定されるメカニズム
大気汚染肺組織の慢性的な刺激
職業性曝露特定の化学物質への反応
ウイルス感染免疫系の異常活性化

これらの環境要因は特に遺伝的素因を持つ人においてPLCHの発症リスクを高める可能性があるでしょう。

多面的な診断アプローチと先端検査技術

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の診断は多角的かつ詳細なプロセスを経ます。

症状の多様性と他の呼吸器疾患との類似点から的確な診断には綿密な問診と検査、そして場合によっては生検が必要となるでしょう。

問診:PLCHを疑う最初のステップ

PLCHの診断プロセスは詳細な問診から始まりますが、特に注目される点は次の項目です。

  • 咳の特徴と持続期間
  • 息苦しさの程度と進行
  • 喫煙習慣(現在の喫煙量、喫煙年数、禁煙歴など)
  • 職業上の化学物質への曝露歴
  • 家族歴
質問項目診断的意義
喫煙歴PLCHとの強い関連性
呼吸困難の進行病気の進行度の推定
職業歴他の職業性肺疾患の除外

身体検査:PLCHの兆候を探る

問診の次は身体検査でPLCHに特徴的な所見を探るのですが、PLCHの初期段階では特異的な身体所見が乏しいことが多く、診断を難しくしています。

それでも注目する身体所見は以下の通りです。

  • 聴診による肺音の異常(捻髪音など)
  • チアノーゼ(酸素不足による皮膚や粘膜の青紫色化)
  • ばち指(指先が太鼓バチ状に変形)
身体所見意味
捻髪音肺の線維化を示唆
チアノーゼ重度の酸素化障害
ばち指慢性的な低酸素状態

画像検査:PLCHの特徴的な所見

画像検査はPLCHの診断において中心的な役割を果たします。主に胸部X線検査とCT検査が用いられ、特にHRCT(高分解能CT)がPLCHの特徴的な所見を捉えるのに有用です。

PLCHの典型的な画像所見:

  • 両側性の結節影(初期段階)
  • 嚢胞性変化(進行期)
  • 上肺野優位の分布
画像検査特徴的所見
胸部X線びまん性の結節影、嚢胞
HRCT厚壁嚢胞、奇異な形の嚢胞

肺機能検査:PLCHによる肺機能障害の評価

肺機能検査では肺活量、一秒量、拡散能力などを測定してPLCHが肺機能に与える影響を評価します。

PLCHにおける典型的な肺機能検査結果:

  • 拘束性換気障害と閉塞性換気障害の混合パターン
  • 拡散能力の低下
  • 運動時の酸素飽和度の低下

生検:PLCHの確定診断

生検はPLCHの確定診断に不可欠です。通常は気管支鏡検査による経気管支肺生検(TBLB)や外科的肺生検が行われ、以下のような特徴的な所見を確認します。

  • ランゲルハンス細胞の集簇
  • CD1a陽性細胞の存在
  • S-100蛋白陽性細胞の存在

画像が示す病態の進行と特徴的所見

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の画像所見は病気の進行段階や重症度を反映する重要な指標です。

胸部X線写真やCT画像はPLCHの診断と経過観察において極めて重要な役割を果たし、特徴的な所見を呈します。

胸部X線写真:PLCHの初期スクリーニング

胸部X線写真は、PLCHの初期スクリーニングや経過観察に広く用いられます。

しかし、初期段階では異常所見が明確でないことがあり、より詳細な検査が必要となることが多いです。

PLCHの胸部X線写真における特徴的な所見:

所見特徴
びまん性の結節影直径1-10mm程度、境界不明瞭
網状影肺野全体に広がる網目状の陰影
嚢胞性変化進行期に見られる円形・楕円形の透亮像
Case courtesy of Laughlin Dawes, Radiopaedia.org. From the case rID: 35847

所見:軽度の肺過膨張とびまん性の淡い粒状影、網状影、気管支拡張、すりガラス影が散見される。

高分解能CT(HRCT):PLCHの詳細な評価

高分解能CT(HRCT)は肺の微細な構造を捉えることができ、PLCHに特徴的な所見を明確に示すためPLCHの診断において最も有用な画像検査とされています。

HRCTで観察されるPLCHの典型的な所見は次の通りです。

病期HRCT所見
初期小結節、星芒状病変、結節性病変
中期厚壁嚢胞、結節と嚢胞の混在
後期薄壁嚢胞、肺気腫様変化
Lorillon, Gwenaël, and Abdellatif Tazi. “How I manage pulmonary Langerhans cell histiocytosis.” European respiratory review : an official journal of the European Respiratory Society vol. 26,145 170070. 6 Sep. 2017,

所見:(a) 患者1の肺Langerhans細胞組織球症の診断時に撮影された高解像度コンピュータ断層撮影(HRCT)スキャンの胸部画像(肺ウィンドウレベル)では、特徴的な小結節や嚢胞性病変が散見される。(b) 喫煙を中止して2年後に撮影されたHRCT画像では、肺病変がほぼ完全に消失している。

画像所見の分布と進行パターン

PLCHの画像所見は特徴的な分布パターンを示します。これは診断の手がかりとなるだけでなく、他の肺疾患との鑑別にも役立つでしょう。

PLCHの画像所見の分布の特徴:

  • 上肺野優位
  • 両側性
  • 肺底部と肋骨横隔膜角の比較的保存

進行に伴う画像所見の変化:

  1. 小結節の出現
  2. 結節の融合と拡大
  3. 嚢胞性変化の出現
  4. 嚢胞の拡大と融合

所見:


Lorillon, Gwenaël, and Abdellatif Tazi. “How I manage pulmonary Langerhans cell histiocytosis.” European respiratory review : an official journal of the European Respiratory Society vol. 26,145 170070. 6 Sep. 2017,

所見:上葉優位に薄壁嚢胞やすりガラス影、線状影、気管支拡張が散見される。

単一臓器型と多臓器型PLCHの画像所見の違い

PLCHは単一臓器型と多臓器型に分類されますが、画像所見にも違いが見られることがあります。

特徴的な画像所見
単一臓器型肺に限局した結節・嚢胞、比較的均一な進行パターン
多臓器型肺病変+他臓器病変、骨病変、中枢神経系の異常(MRIで確認)

鑑別を要する疾患との画像所見の比較

PLCHの画像所見はリンパ脈管筋腫症(LAM)、特発性肺線維症(IPF)、過敏性肺炎などの他肺疾患と類似することがあるため、慎重な鑑別が必要です。

画像所見による鑑別のポイント:

  • PLCHは上肺野優位、LAMは全肺野に均等
  • PLCHの嚢胞は不整形、LAMの嚢胞は円形均一
  • IPFは下肺野優位の線維化像
  • 過敏性肺炎は小葉中心性の粒状影が特徴的

多面的な治療アプローチと回復への道のり

肺ランゲルハンス細胞組織球症の治療は患者さんの状態や病期に応じて禁煙、薬物療法、場合によっては外科的介入を組み合わせた包括的なアプローチが取られます。

治癒までの期間には個人差があり、数ヶ月から数年に及ぶこともあるでしょう。

禁煙:PLCHの治療の基本

禁煙はPLCH治療の最も重要なステップであり、多くの患者さんで禁煙だけで症状の改善や病変の安定化が見られます。

禁煙の効果:

  • 炎症の軽減
  • 新たな病変形成の抑制
  • 肺機能の改善
禁煙後の経過期待される効果
短期(数週間〜数ヶ月)咳や息切れの軽減
中期(6ヶ月〜1年)画像所見の改善
長期(1年以上)肺機能の安定化

薬物療法:PLCHの進行を抑える

薬物療法は禁煙だけでは症状の改善が見られない患者さんや、多臓器型PLCHの患者さんに対して考慮されることがあるでしょう。

主な薬物療法の選択肢:

  1. コルチコステロイド
  2. 化学療法薬
  3. 分子標的薬
薬剤主な作用使用期間
プレドニゾロン炎症抑制数週間〜数ヶ月
クラドリビン細胞増殖抑制数クール
BRAF阻害剤シグナル伝達阻害長期継続

外科的治療:合併症への対応

PLCHの進行に伴い気胸や肺高血圧症などの合併症が生じることがありますが、これらに対しては外科的治療が必要となるケースもでてきます。

主な外科的治療:

  • 胸腔ドレナージ(気胸に対して)
  • 胸膜癒着術(再発性気胸の予防)
  • 肺移植(末期の肺不全に対して)

治療効果のモニタリングと経過観察

PLCH治療の効果は定期的な検査と画像診断によってモニタリングされます。

経過観察の頻度と内容は患者さんの状態や治療への反応によって調整されますが、主なモニタリング項目は次の通りです。

検査項目頻度評価内容
肺機能検査3-6ヶ月ごと換気能力の変化
胸部CT6-12ヶ月ごと病変の進行・改善
血液検査1-3ヶ月ごと炎症マーカーの推移

治癒までの期間と予後

PLCHの治癒までの期間は病型や重症度、治療への反応性によって大きく異なります。

単一臓器型PLCHでは禁煙と適切な治療により6ヶ月から2年程度で症状の改善が見られることがあります。

多臓器型PLCHではより長期の治療が必要となり、完全な治癒よりも病状の安定化を目指すことが多いです。

予後に影響を与える因子:

  • 診断時の年齢
  • 喫煙歴
  • 肺機能障害の程度
  • 多臓器病変の有無

肺ランゲルハンス細胞組織球症治療のリスク

PLCHの治療は患者さんの生活の質を向上させ、病気の進行を抑える上で重要です。しかしどの治療法にも副作用やリスクが伴います。これらを十分に理解し、適切に対処することが、治療の成功には欠かせません。

禁煙:心身への影響

禁煙はPLCH治療の基本ですが、身体的・心理的な副作用が生じる可能性があります。禁煙に伴う主な副作用は以下の通りです。

副作用持続期間
ニコチン離脱症状(イライラ、不安、落ち込み)1-4週間
体重増加数ヶ月〜1年
睡眠障害1-2週間
集中力低下1-4週間

これらの副作用は一時的なものが多く、時間とともに改善します。しかし、適切なサポートがないと禁煙の継続が難しくなるのも事実です。

薬物療法:全身への影響

PLCHの治療に用いられる薬物には様々な副作用のリスクがあります。

コルチコステロイドの主な副作用:

  • 骨粗鬆症
  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 感染リスクの上昇
  • 皮膚の菲薄化

これらの副作用は定期的な検査と適切な用量調整により、ある程度管理することが可能です。

化学療法:強力な治療法のリスク

重症のPLCHに対して用いられる化学療法(例:クラドリビン)には、次のような重篤な副作用のリスクがあります。

副作用発現時期
骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)投与後1-2週間
脱毛投与後2-3週間
吐き気・嘔吐投与直後〜数日
免疫力低下

これらの副作用は患者さんのQOLに大きな影響を与える可能性があるため、慎重な観察と支持療法が大切です。

外科的治療:侵襲的な介入のリスク

気胸や肺高血圧症などの合併症に対する外科的治療には手術に伴うリスクがあります。

具体的には胸腔ドレナージでは感染、出血、肺の再膨張性肺水腫といったリスクが、肺移植では拒絶反応、感染症、免疫抑制剤の長期使用に伴う副作用が考慮されるのです。

長期的な影響:生活の質への影響

以下のようなPLCH治療の長期的な影響も考慮する必要があります。

  • 慢性的な疲労感
  • 運動耐容能の低下
  • 心理的ストレス(不安、抑うつ)
  • 社会生活への影響(就労困難など)

これらの影響は、患者さんの生活の質を大きく左右する可能性がでてくるのです。

再発のリスクと予防への取り組み

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)は完全な寛解後も再発のリスクがある疾患です。

再発の可能性は患者さん個々の状況によって異なりますが、適切な予防策を講じることでそのリスクを低減できます。

再発のリスク:PLCHの不確実性

PLCHの再発率は様々な要因によって影響を受けます。

再発リスクに影響を与える主な要因:

  • 喫煙の継続または再開
  • 初回治療への反応性
  • 病変の広がりと重症度
  • 多臓器型か単一臓器型か
要因再発リスク
喫煙継続高い
禁煙成功低い
多臓器型中程度〜高い
単一臓器型低い〜中程度

再発率は報告によってばらつきがありますが、一般的に5年以内の再発率は20〜30%程度とされています。

再発のサイン:早期発見の重要性

PLCHの再発を早期に発見することは予後の改善において極めて大切です。

再発を示唆する主なサイン:

  • 咳の再出現または悪化
  • 息切れの増加
  • 胸痛の出現
  • 全身倦怠感の増強

これらのサインに気づいたら、直ちに医療機関を受診することが重要です。

再発予防:生活習慣の改善

PLCHの再発予防には次のような日々の生活習慣の改善策が不可欠となります。

  1. 完全禁煙の継続
  2. 定期的な運動
  3. バランスの取れた食事
  4. ストレス管理
  5. 十分な睡眠
予防策効果
禁煙継続再発リスク大幅低下
運動習慣全身状態改善
健康的な食事免疫機能強化

定期的な経過観察:再発の早期発見

定期的な検査による経過観察はPLCHの再発を早期に発見し、迅速に対応するために欠かせません。

検査項目頻度
胸部X線3-6ヶ月ごと
HRCT6-12ヶ月ごと
肺機能検査3-6ヶ月ごと
血液検査6-12ヶ月ごと

事実を受け入れつつも、前向きに日々の生活を送ることが、PLCHと共に生きる上で大切です。

実際の治療費と負担を減らす方法

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の治療費は、診断から長期的な管理まで様々な要素が含まれ、患者さんの病状や治療方法によって大きく変わります。

初診・再診料

初診料は2,910円程度、再診料は750円程度です。専門医による診察ではこれらに加えて各種加算が算定されることがあります。

検査費用

PLCHの診断と経過観察には以下のような様々な検査が必要です。

検査項目概算費用
胸部CT14,700円~20,700円
肺機能検査2,300円~5,700円
気管支鏡検査25,000円~29,000円

薬剤費

PLCHの治療にはステロイドや抗がん剤が使用されることがあり、費用の目安は以下の通りです。

薬剤名月額概算
プレドニゾロン40円/日(プレドニン40mg/日)× 30日 = 1,200円
ビンプラスチン2,214円/週 × 4週 = 8,856円

入院費用

症状が重い場合や検査・治療のために入院が必要になることがあります。

詳しく述べると、日本の入院費計算方法は、DPC(診断群分類包括評価)システムを使用しています。
DPCシステムは、病名や治療内容に基づいて入院費を計算する方法です。以前の「出来高」方式と異なり、多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。

主な特徴:

  1. 約1,400の診断群に分類
  2. 1日あたりの定額制
  3. 一部の治療は従来通りの出来高計算

表:DPC計算に含まれる項目と出来高計算項目


DPC(1日あたりの定額に含まれる項目)出来高計算項目
投薬手術
注射リハビリ
検査特定の処置
画像診断(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)
入院基本料

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

例えば、14日間入院とした場合は下記の通りとなります。

DPC名: 血液疾患(その他) 手術処置等2なし 定義副傷病名なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥330,730 +出来高計算分

保険適用となると1割~3割の自己負担であり、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
なお、上記値段は2024年6月時点のものであり、最新の値段を適宜ご確認ください。

以上

参考にした論文