呼吸器疾患の一種である鳩胸とは、胸骨が前方に突出している状態のことを指します。

この状態は、しばしば胸の形が鳥の鳩のように見えるため、その名前がつけられました。鳩胸は遺伝的要因や成長期の骨の発育異常が原因で発生することが多く、通常、思春期に症状が明らかになります。

日常生活に支障をきたすことは少ないものの、見た目の問題や運動時の呼吸困難を感じることがあります。このような症状が現れた場合には、医師による適切な評価が必要です。

鳩胸の主たる症状と特徴的な身体的変化

鳩胸は呼吸器疾患の一種であり、前胸部の突出を主たる症状とし、それに伴う様々な身体的変化が特徴的です。

前胸部の突出

鳩胸の最も顕著な症状は、前胸部、特に胸骨の突出です。 これは胸郭の形状異常によるものであり、胸骨が前方に突き出た状態となります。

突出の程度には個人差がありますが、中等度から重度の場合、胸部の変形が一目瞭然となります。

程度胸骨突出の目安
軽度1-2cm
中等度2-4cm
重度4cm以上

胸郭の非対称性

鳩胸では、胸郭の左右非対称が見られることがあります。 片側の胸郭が他方と比べてより突出している場合や、胸骨の突出が正中線からずれている場合などです。

この非対称性は、姿勢の異常や脊柱の側弯を引き起こす要因となり得ます。

呼吸機能への影響

鳩胸は、しばしば呼吸機能に影響を及ぼします。 胸郭の変形により、肺の拡張が制限され、呼吸量が減少する可能性があります。

その結果、以下のような症状が現れることがあります。

  • 息切れ
  • 運動耐容能の低下
  • 頻呼吸
  • 慢性的な咳

重度の場合、呼吸不全を来たすこともあります。

呼吸機能鳩胸での変化
肺活量減少
1秒量減少
最大換気量減少

心機能への影響

鳩胸は、心臓に物理的圧迫を加えることがあります。

特に重度の場合、胸骨の突出が心臓を圧迫し、その機能に影響を与える可能性があります。 これにより、以下のような症状が生じ得ます。

  • 動悸
  • 胸痛
  • 失神
  • 不整脈

ただし、心機能への影響は個人差が大きく、無症状の場合も多いです。

鳩胸の主症状は、前胸部の突出とそれに伴う身体的変化です。

呼吸機能や心機能への影響は、突出の程度や個人の体質によって異なりますが、重度の場合は慎重な経過観察が必要となります。

鳩胸の原因やきっかけ

鳩胸の原因は複合的であり、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。

遺伝的要因

鳩胸の発症には遺伝的要因が関与していると考えられています。 家族内発生が報告されており、遺伝的素因が存在する可能性が示唆されます。

ただし、明確な原因遺伝子は特定されておらず、多因子遺伝の可能性が高いです。

遺伝形式特徴
常染色体優性遺伝親の片方が罹患していれば50%の確率で子に遺伝
常染色体劣性遺伝両親がともに保因者の場合に25%の確率で子が罹患

胸郭の発育異常

鳩胸の主な原因は、胸郭の発育異常です。胸骨や肋骨の成長が不均衡となり、前胸部が突出する形状になります。

この発育異常は、胎児期から乳幼児期にかけての critical period に生じると推測されています。

以下の要因が、胸郭の発育異常に関与している可能性があります。

  • 胸郭の軟骨や骨の形成不全
  • 胸郭周囲の筋肉の不均衡な発達
  • 胸郭を構成する結合組織の異常

環境的要因

鳩胸の発症には、環境的要因も関与していると考えられています。特に、以下のような要因が注目されています。

環境要因関与の可能性
ビタミンD欠乏骨の形成不全を引き起こす
喫煙暴露胎児の発育に悪影響を及ぼす
低出生体重胸郭の発育不全と関連

ただし、これらの環境要因と鳩胸との因果関係は明確には証明されていません。

内分泌系の異常

鳩胸の発症に、内分泌系の異常が関与している可能性があります。特に、軟骨や骨の成長に関わるホルモンの異常が注目されています。

成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌異常が、胸郭の発育不全を引き起こす可能性が指摘されていますが、明確な因果関係は証明されていません。

鳩胸の原因は、遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられます。

胸郭の発育異常が主な原因ですが、その背景には様々な要因が存在します。 内分泌系の異常も関与している可能性がありますが、現時点では明確な結論は出ていません。

鳩胸の発症メカニズムの解明には、さらなる研究の蓄積が必要です。

医療機関での診察と診断

鳩胸の診察と診断においては、視診、触診、画像検査を組み合わせて総合的に評価することが肝要です。

視診による評価

鳩胸の診察では、まず視診が重要となります。 患者の胸郭を正面と側面から観察し、以下の点に着目します。

  • 胸骨の突出の有無と程度
  • 胸郭の左右非対称性
  • 肋骨弓の突出や陥没
  • 胸郭の変形に伴う姿勢の異常

視診により、鳩胸の特徴的な所見を捉えることができます。

触診による評価

視診に続いて、触診を行います。 胸骨や肋骨を丁寧に触診し、以下の点を評価します。

評価項目触診のポイント
胸骨の可動性胸骨が固定されているか、可動性があるか
胸郭の弾性胸郭が硬く変形しているか、柔軟性があるか
圧痛の有無胸骨や肋骨に圧痛がないか

触診により、胸郭の状態をより詳細に把握することができます。

画像検査による評価

視診と触診で鳩胸が疑われる場合、画像検査を行って診断を確定します。 以下の検査が有用です。

検査評価のポイント
胸部X線胸骨突出度、胸郭の非対称性
CT胸骨・肋骨の形状、胸郭内の臓器の位置
MRI胸郭周囲の軟部組織の状態

画像検査により、鳩胸の重症度を客観的に評価することができます。

重症度分類

鳩胸の重症度は、主に胸骨突出度によって分類されます。 以下の分類が一般的に用いられています。

軽度胸骨突出度が2cm未満
中等度胸骨突出度が2~4cm
重度胸骨突出度が4cmを超える

ただし、この分類は絶対的なものではなく、患者の年齢や全身状態なども考慮して総合的に判断する必要があります。

鳩胸の診察と診断では、視診、触診、画像検査を組み合わせて総合的に評価することが重要です。

各検査所見を丁寧に評価し、重症度を適切に判定することが、適切な治療方針の決定につながります。

鳩胸の診察には経験と知識が必要とされるため、専門医による診療が望ましいと言えます。

画像所見

鳩胸の画像診断では、胸部X線、CT、MRIにより、胸郭の特徴的な形態異常を捉えることができます。

胸部X線所見

鳩胸の胸部X線では、正面像と側面像を撮影し、以下の所見を評価します。

所見内容
胸骨突出正面像で胸骨の前方への突出を認める
胸郭非対称正面像で胸郭の左右非対称を認めることがある
肋骨弓の突出側面像で肋骨弓の前方への突出を認める

これらの所見は、鳩胸の特徴的な胸郭変形を反映しています。 ただし、軽度の場合は胸部X線では変化を捉えにくいことがあります。

Case courtesy of Stefan Heinze, Radiopaedia.org. From the case rID: 37860

「胸骨・肋骨など胸郭前縁の凸状変化あり、いわゆる鳩胸の状態である。」

CT所見

CTは、鳩胸の胸郭変形を立体的に評価できる有用な検査です。 以下の所見が特徴的です。

  • 胸骨の前方への突出
  • 胸骨体部の前後径の増大
  • 胸骨と肋骨の接合部の変形
  • 胸骨後面と胸椎との距離の減少

CTでは、胸骨突出度を定量的に評価することができます。 また、胸郭内の臓器の位置異常や圧排所見も観察できます。

評価項目CT所見
胸骨突出度胸骨体部の前後径を計測
心臓圧排胸骨後面と心臓との距離を評価
肺圧排肺野の圧排所見の有無を評価

CTは、鳩胸の重症度評価と治療方針の決定に重要な情報を提供します。

Case courtesy of Muhammad Aminuddin Bin Ashari, Radiopaedia.org. From the case rID: 74918

「胸郭前縁の凸状変化あり、胸骨後・縦隔に腫瘍などは認めず。いわゆる鳩胸の状態である。」

MRI所見

MRIは、軟部組織のコントラストに優れ、以下の評価に有用です。

  • 胸郭周囲の筋肉の状態
  • 胸骨や肋軟骨の形態異常
  • 胸郭内臓器の圧排所見

特に、以下の所見が重要です。

  • 大胸筋や小胸筋の菲薄化や変位
  • 肋軟骨の肥厚や変形
  • 心臓や肺の圧排所見

MRIは、軟部組織の評価に優れるため、鳩胸の病態理解に有用です。 ただし、検査時間が長く、小児では鎮静が必要となることがあります。

超音波検査(画像a):右上胸部におけるホッケースティック様の軟骨性前肋骨部分の変形が認められる。

MRI T1強調像(画像b):右上胸部領域において、同様にホッケースティック様の軟骨性前肋骨部分の変形が認められる。」

鳩胸の治療方法と薬、治癒までの期間

鳩胸の治療は、重症度と患者の年齢、全身状態を考慮して、保存的治療と外科的治療を適切に選択することが肝要です。

保存的治療

軽度から中等度の鳩胸では、まず保存的治療が選択されます。 以下の方法が用いられます。

  • 圧迫バンデージ:胸郭を圧迫し、突出を矯正
  • ブレース療法:胸郭矯正ブレースを装着し、突出を矯正
  • 理学療法:胸郭の柔軟性を高め、呼吸機能を改善

これらの治療は、長期間(数ヶ月から数年)継続する必要があります。 治療効果は、患者の年齢と治療の遵守度に大きく影響されます。

治療法適応治療期間
圧迫バンデージ軽度、乳幼児6ヶ月〜2年
ブレース療法軽度〜中等度、学童1〜3年
理学療法全重症度、全年齢継続的

保存的治療の効果が不十分な場合、外科的治療を検討します。

外科的治療

中等度から重度の鳩胸、または保存的治療が奏功しない場合は、外科的治療が選択されます。以下の手術法が代表的です。

  • Ravitch法:胸骨と肋軟骨を切除・再建する方法
  • Nuss法:胸腔鏡下に胸骨裏面にバーを挿入し、胸郭を矯正する方法

手術法の選択は、年齢、重症度、胸郭の柔軟性などを考慮して決定されます。

手術法適応手術時間入院期間
Ravitch法思春期以降、重度3〜5時間5〜7日
Nuss法思春期前、中等度〜重度1〜2時間3〜5日

いずれの手術も、熟練した小児外科医・胸部外科医のチームによる実施が不可欠です。

術後管理と治癒経過

外科的治療後は、適切な術後管理が重要です。 以下の点に留意します。

疼痛管理適切な鎮痛薬の使用と疼痛評価
呼吸管理深呼吸の励行と呼吸機能の評価
感染予防創部の観察と抗菌薬の適正使用
後療法胸郭拡張運動と姿勢指導

Ravitch法では、胸骨と肋軟骨の再建部の安定化に3〜6ヶ月を、 Nuss法では、バーの抜去までに2〜3年を要します。

いずれの手術でも、術後の経過観察と後療法が長期に必要となります。

治療の副作用やデメリット(リスク)

鳩胸の治療は、患者の症状改善と生活の質の向上に寄与する一方で、副作用やリスクも伴います。

保存的治療の副作用とリスク

保存的治療では、以下の副作用やリスクが生じる可能性があります。

  • 圧迫バンデージやブレースによる皮膚の発赤、びらん、潰瘍
  • 長期の装着による筋力低下や関節可動域制限
  • 装着中の熱感、掻痒感、不快感
  • 装着の불遵守による治療効果の減弱

これらの副作用やリスクは、患者の年齢、皮膚の状態、治療の遵守度などによって異なります。定期的な皮膚の観察と、患者教育が重要です。

治療法主な副作用リスク因子
圧迫バンデージ皮膚障害乳幼児、長時間の装着
ブレース療法筋力低下、関節制限学童、装着不遵守

適切な装着指導と経過観察により、副作用やリスクを最小限に抑えることが可能です。

外科的治療の副作用とリスク

外科的治療では、手術侵襲に伴う以下の副作用やリスクが生じ得ます。

  • 術後疼痛
  • 術後出血
  • 創部感染
  • 肺炎などの呼吸器合併症
  • 手術部位の知覚異常や醜状

これらの副作用やリスクは、手術法、患者の年齢、全身状態などによって異なります。熟練した外科医による手術手技と、適切な術後管理が不可欠です。

手術法主な副作用リスク因子
Ravitch法術後疼痛、出血思春期以降、重度例
Nuss法創部感染、呼吸器合併症思春期前、低体重

手術リスクについては、事前の十分な説明と同意取得が大切です。

長期的な合併症とリスク

鳩胸の治療では、以下の長期的な合併症やリスクも念頭に置く必要があります。

再発治療の中断や不適切な治療による再発
胸郭変形治療の遅れや不十分な治療による胸郭変形の残存
呼吸機能障害胸郭変形による呼吸機能の低下
心機能障害胸郭変形による心臓への圧迫と機能低下
精神的影響胸郭変形による自尊心の低下やボディイメージの歪み

これらの合併症やリスクは、治療の早期開始と長期的な継続によって軽減できます。また、患者と家族への適切な情報提供とサポートが重要です。

治療リスクの最小化

鳩胸の治療に伴う副作用やリスクを最小化するためには、以下の点が重要です。

  • 早期発見と早期治療介入
  • 患者の年齢と全身状態に応じた治療法の選択
  • 保存的治療における適切な装着指導と皮膚管理
  • 外科的治療における熟練した手術手技と適切な術後管理
  • 長期的な経過観察と再発への早期介入
  • 患者と家族への十分な情報提供とサポート

これらを踏まえた総合的なアプローチにより、治療リスクを最小限に抑えつつ、良好な治療効果を得ることが可能です。

再発の可能性と予防の仕方

鳩胸の治療後は、適切な経過観察と予防策の実践により再発リスクを最小限に抑えることが大切です。

再発のリスク因子

鳩胸の再発には、以下のリスク因子が関与します。

リスク因子再発への影響
治療開始の遅れ胸郭変形の固定化を招き、再発リスクが上昇
不適切な治療法の選択重症度に見合わない治療では、再発リスクが高い
治療の中断や不遵守治療効果が不十分となり、再発リスクが上昇
成長期の終了前の治療中断残存する変形が再発の原因となり得る

これらのリスク因子を踏まえた上で、個々の患者に適した治療と予防策を講じる必要があります。

保存的治療後の再発予防

保存的治療後の再発予防では、以下の点が重要です。

  • 適切な装具の選択と装着指導
  • 定期的な経過観察と装具の調整
  • 治療の遵守と継続の徹底
  • 胸郭の柔軟性維持のための理学療法の継続

特に、成長期にある患者では、定期的な経過観察と装具の調整が不可欠です。 治療の中断や装具の不適切な使用は、再発のリスクを高めます。

経過観察の間隔目的
3〜6ヶ月ごと装具の適合状態の確認と調整
6〜12ヶ月ごと胸郭変形の改善度の評価
1〜2年ごと成長に伴う装具の交換

患者と家族への教育と動機づけが、再発予防の鍵となります。

外科的治療後の再発予防

外科的治療後の再発予防では、以下の点が重要です。

  • 術後の定期的な経過観察
  • 胸郭の柔軟性維持のためのリハビリテーションの実施
  • 再発兆候の早期発見と介入
  • 姿勢指導と日常生活上の注意点の徹底

Nuss法では、バーの抜去後1〜2年間は特に再発リスクが高いため、慎重な経過観察が必要です。再発兆候を早期に発見し、適切な介入を行うことが肝要です。

以下の点に注意が必要です。

  • 術後の過度な運動制限は避け、適度な運動を促す
  • 姿勢の悪化や胸郭の非対称性の出現に留意する
  • 再発が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診する

患者自身が再発予防の重要性を理解し、主体的に取り組むことが大切です。

治療費

鳩胸の治療費は、重症度や治療法によって大きく異なりますが、一般的に高額となる傾向があります。

公的医療保険の適用により自己負担は軽減されますが、それでも長期的な治療費の負担は小さくありません。

初診料と再診料

鳩胸の診断と治療方針の決定には、複数の診療科の受診が必要となることがあります。

診療科初診料再診料
小児科6,040円~7,210円+α4,100~5,280円+α
呼吸器外科2,880円~5,380円780円~2,640円程度
ただし、小児科の場合は各自治体のこども医療費助成制度により、実際の自己負担は0円~400円などに鳴ることが多いです。

検査費

鳩胸の診断には、以下の検査が必要となります。

  • 胸部X線検査:2,100円~4,000円
  • 胸部CT検査:14,700円~20,700円
  • 肺機能検査:2,500円~5,000円

これらの検査費は、医療機関によって異なります。

入院費

外科的治療では、入院が必要となります。

Ravitch法1回目900,000円程度
Nuss法1回目1,000,000円~1,580,000円。2回目800,000円+α
一般的には保険適用となり1割~3割の自己負担となります。また、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担は更に低くなります。

これらの費用は、医療機関によって異なります。

以上

参考にした論文