開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)とは、胸腔内に空気が流入することで肺が虚脱し、呼吸困難などの症状を引き起こす病態のことを指します。

胸部に外傷を受けたり、肺に穴が開いたりすることで発症するケースが多く見られます。

開放性気胸が発症すると、胸痛や呼吸困難といった症状が現れ、重症化すると生命に関わる危険性もあるため、早期の診断と適切な対応が求められます。

開放性気胸の主症状

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)の主症状は、突然の胸痛と呼吸困難です。これらの症状は、胸腔内に空気が流入することにより引き起こされます。

胸痛は、患者にとって耐え難いほど強く、鋭い痛みを伴うことが特徴的です。痛みは、胸部の片側に限局していることが多く、深呼吸や体動によって増強します。

呼吸困難の程度と症状の変化

呼吸困難の程度は、気胸の大きさや肺の虚脱具合によって異なります。軽度の場合は、息切れや呼吸の浅さを感じる程度ですが、重症化すると安静時でも呼吸困難を感じ、チアノーゼを呈することがあります。

気胸の程度呼吸困難の症状
軽度軽い息切れ
中等度安静時の呼吸困難
重度チアノーゼを伴う呼吸困難

低酸素血症による全身症状

開放性気胸によって肺が虚脱すると、血液中の酸素濃度が低下し、低酸素血症を引き起こします。低酸素血症が進行すると、以下のような全身症状が出現する可能性があります。

  • 頻脈
  • 不整脈
  • 意識障害
  • ショック

これらの症状は、生命に関わる危険性があるため、迅速な対応が求められます。

患者の身体活動への影響

開放性気胸を発症した患者は、胸痛と呼吸困難のために、日常生活における身体活動が大きく制限されます。

安静時でも症状が出現する場合、歩行や入浴などの基本的な動作が困難となり、QOLの低下を招きます。

活動レベル影響
安静症状なし〜軽度
軽度の活動中等度の症状
中等度以上の活動重度の症状

精神的ストレスと不安

突然の発症と強い症状により、患者は大きな精神的ストレスと不安を抱えることになります。病状の不確かさや、日常生活への影響は、患者の心理状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

開放性気胸の原因とそれを引き起こす要因

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)の主な原因は、胸部外傷や医療処置に伴う合併症であり、外力や医原性の要因によって引き起こされます。

これらの原因により、胸壁や肺組織に損傷が生じ、胸腔内に空気が流入することで開放性気胸が発症します。

外傷性の原因

胸部外傷は、開放性気胸の最も一般的な原因の1つです。

交通事故や転落事故などの高エネルギー外傷では、肋骨骨折や肺挫傷を伴うことが多く、これらの損傷が原因となって開放性気胸を発症することがあります。

外傷の種類開放性気胸の発症リスク
鈍的外傷中程度
鋭的外傷高い

また、刺傷や銃創などの鋭的外傷では、胸壁や肺組織に直接的な損傷を与えるため、開放性気胸を引き起こす可能性が高くなります。

医原性の原因

医療処置に伴う合併症も、開放性気胸の重要な原因の1つです。以下のような医療行為が原因となることがあります。

  • 中心静脈カテーテル挿入
  • 経皮的肺生検
  • 胸腔ドレナージ
  • 胸腔鏡下手術

これらの処置では、手技の際に誤って胸壁や肺組織を損傷し、開放性気胸を引き起こす可能性があります。

基礎疾患との関連

慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺疾患などの基礎疾患を有する患者では、肺組織の脆弱性が増しているため、軽微な外力や医療処置でも開放性気胸を発症するリスクが高まります。

基礎疾患開放性気胸の発症リスク
COPD高い
間質性肺疾患高い
肺気腫中程度

自然気胸との関連

自然気胸は、明らかな外傷や医原性の要因がなく、肺の構造的な異常により発症する気胸ですが、まれに自然気胸が開放性気胸に移行することがあります。これは、自然気胸によって形成された肺のブラや嚢胞が破裂し、胸腔内に交通が生じることで起こります。

医療機関での診察と診断

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)の診察と診断においては、病歴聴取と身体所見の確認が重要であり、画像検査を組み合わせることで確定診断に至ります。

迅速な診断と適切な対応が、患者の予後を左右する鍵となります。

病歴聴取のポイント

開放性気胸が疑われる患者では、以下の情報を詳細に聴取することが大切です。

聴取内容重要性
胸部外傷の有無高い
呼吸器症状の出現時期と経過高い
基礎疾患の有無中程度
最近の医療処置歴中程度

これらの情報は、開放性気胸の原因や重症度を推測する上で非常に有用です。

身体所見の確認

開放性気胸の身体所見では、以下の点に注目します。

  • 呼吸状態(呼吸数、呼吸パターン、チアノーゼの有無)
  • 胸部の視診(胸郭の動き、外傷の有無)
  • 胸部の触診(皮下気腫の有無)
  • 胸部の打診(気胸側の過膨張音)
  • 胸部の聴診(気胸側の呼吸音減弱)

これらの所見を総合的に評価することで、開放性気胸の重症度を判断することができます。

画像検査の役割

画像検査は、開放性気胸の確定診断に不可欠です。胸部X線検査が第一選択となりますが、必要に応じて胸部CTも行われます。

画像検査目的
胸部X線検査気胸の有無と程度の評価
胸部CT検査気胸の詳細な評価と原因の検索

胸部X線検査では、気胸側の肺野の透過性亢進と縦隔の偏位を認めることで診断が可能です。胸部CTは、胸部X線検査では評価が難しい小さな気胸や、肺実質の異常を検出するのに有用です。

鑑別診断の考え方

開放性気胸の鑑別診断では、以下の疾患を考慮する必要があります。

  • 緊張性気胸
  • 血気胸
  • 肺挫傷
  • 横隔膜ヘルニア

これらの疾患は、開放性気胸と類似した症状や所見を呈することがあるため、注意深い鑑別が求められます。病歴聴取、身体所見、画像検査を組み合わせることで、的確な診断が可能となります。

開放性気胸の画像所見:胸部X線とCTによる評価

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)の画像診断では、胸部X線検査と胸部CT検査が中心的な役割を果たします。

これらの検査により、気胸の存在と重症度を評価し、適切な治療方針を決定することが可能となります。

胸部X線検査の所見

胸部X線検査は、開放性気胸の診断において第一選択となる検査です。典型的な所見は以下の通りです。

X線所見意味
肺野の透過性亢進気胸の存在を示唆
肺血管陰影の消失虚脱した肺を反映
縦隔の健側への偏位高度な気胸や緊張性気胸を示唆
胸郭の変形や皮下気腫外傷性気胸を示唆

これらの所見は、気胸の重症度を反映しており、治療方針の決定に重要な情報を提供します。

Case courtesy of Jens Christian Fischer, Radiopaedia.org. From the case rID: 12821

所見:第3~8肋骨骨折、第5・6肋骨の偏位、偏位した胸膜線と右肺尖部の肺血管陰影の欠如を認め、気胸として合致する所見である。また、胸壁の皮下気腫も認め、開放性気胸の可能性がある。

胸部CT検査の役割

胸部CT検査は、胸部X線検査では評価が難しい小さな気胸や、肺実質の異常を検出するのに有用です。また、気胸の原因となる病変の検索にも威力を発揮します。

胸部CTで評価すべき点は以下の通りです。

CT所見意味
気胸の範囲と程度重症度の評価に有用
肺実質の損傷や異常所見原因疾患の検索に有用
胸壁や縦隔の損傷外傷性気胸の評価に有用
血気胸の有無治療方針の決定に重要

胸部CTは、開放性気胸の詳細な評価と原因検索に不可欠な検査と言えます。

Case courtesy of David Cuete, Radiopaedia.org. From the case rID: 24619

所見:右側肋骨の多発骨折による大きな気胸が認められる。胸水貯留、肺挫傷疑う浸潤影も認め、胸壁の軟部組織内に多量の気腫が認められ、開放性気胸の可能性も考えられる。

画像所見の経時的変化

開放性気胸の画像所見は、時間経過とともに変化することがあります。例えば、初期には見られなかった所見が、後に明らかになることがあります。

以下のような変化に注意が必要です。

  • 気胸の増大
  • 緊張性気胸への移行
  • 血気胸の出現
  • 肺の再膨張不全

これらの変化を見逃さないためには、経時的な画像評価が重要となります。 病状の変化に応じて、適宜画像検査を行うことが求められます。

画像診断の限界と注意点

画像診断は、開放性気胸の評価に非常に有用ですが、限界や注意点も存在します。例えば、呼吸状態が不安定な患者では、体動による画質の低下が問題となることがあります。

また、緊張性気胸では、画像検査に伴う時間的遅れが致命的となる可能性があります。臨床所見から緊張性気胸が強く疑われる場合は、画像検査を待たずに緊急処置を行う必要があります。

開放性気胸の治療方法と薬剤、回復までの期間

開放性気胸の治療では、胸腔ドレナージや手術療法が中心となります。これらの治療法を適切に選択し、合併症に注意しながら管理することが重要です。

薬物療法は補助的な位置づけとなりますが、症状緩和には有用です。

治療後の回復までの期間は、治療法や個々の症例により異なりますが、数週間から1ヶ月以上を要することが多いと考えられます。

胸腔ドレナージ

胸腔ドレナージは、開放性気胸の初期治療として最も一般的な方法です。胸腔内に挿入したチューブを用いて、胸腔内の空気を持続的に排出することで、肺の再膨張を促します。

ドレナージの適応目的
中等度以上の気胸肺の再膨張
呼吸状態の悪化換気の改善
緊張性気胸緊急減圧

ドレナージは、局所麻酔下で行われることが多く、重篤な合併症は少ないとされています。ドレナージ後は、胸部X線検査で肺の再膨張を確認し、エアリークの停止を待って抜去します。

手術療法

胸腔ドレナージで改善しない場合や、大きな気胸、繰り返す気胸では、手術療法が選択されます。手術は、胸腔鏡下または開胸で行われ、原因病変の切除や修復を行います。

以下のような手術が行われます。

  • 肺瘻の閉鎖
  • ブラや嚢胞の切除
  • 胸膜癒着術
手術療法の適応目的
ドレナージ無効例原因病変の根治
大きな気胸再発防止
繰り返す気胸再発防止

手術療法は、気胸の根治を目指すものであり、再発防止に有効です。ただし、侵襲性が高く、合併症のリスクも胸腔ドレナージに比べて高くなります。

薬物療法

開放性気胸の治療において、薬物療法は補助的な位置づけとなります。主に、痛みのコントロールや感染予防を目的として使用されます。

使用される薬剤は以下の通りです。

  • 鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)
  • 抗菌薬(セファゾリンなど)
  • 鎮咳薬(コデインなど)

これらの薬剤は、症状に応じて適宜選択されますが、気胸そのものを改善する効果は期待できません。あくまでも対症療法として位置づけられます。

回復までの期間

開放性気胸の回復までの期間は、気胸の重症度や治療方法によって異なります。保存的治療のみで改善する小さな気胸では、1〜2週間程度で回復することが多いです。

一方、胸腔ドレナージを要する中等度以上の気胸では、回復までに2〜4週間を要することがあります。手術療法を行った場合は、さらに回復までの期間が長くなる傾向があります。

治療方法回復までの期間
保存的治療1〜2週間
胸腔ドレナージ2〜4週間
手術療法4週間以上

ただし、これらはあくまでも目安であり、個々の症例により回復までの期間は異なります。合併症の有無や全身状態、年齢なども回復までの期間に影響を与える因子となります。

治療の副作用やデメリット(リスク)

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)の治療は、患者の生命を救い、QOLを回復させるために不可欠ですが、一方で副作用やリスクも存在します。

治療法ごとに異なる副作用やリスクを理解し、適切な管理を行うことが重要です。

胸腔ドレナージの副作用とリスク

胸腔ドレナージは、開放性気胸の初期治療として広く行われていますが、以下のような副作用やリスクが知られています。

副作用・リスク頻度
気胸の遷延化比較的高い
感染(膿胸)低い
出血低い
胸膜癒着比較的高い

特に、気胸の遷延化と胸膜癒着は、ドレナージ治療の主要な問題点と言えます。これらの副作用やリスクを最小限に抑えるためには、適切な手技と管理が求められます。

手術療法の副作用とリスク

手術療法は、開放性気胸の根治を目指す治療法ですが、侵襲性が高いため、以下のような副作用やリスクが問題となります。

副作用・リスク頻度
術後の疼痛高い
感染低い〜中等度
出血低い
呼吸機能の低下中等度
再発低い

特に、術後の疼痛管理と呼吸機能の低下に対する対策が重要となります。手術療法の副作用やリスクを最小限に抑えるためには、患者の全身状態を十分に評価し、適切な手術方法を選択することが大切です。

薬物療法の副作用とリスク

開放性気胸の治療において、薬物療法は補助的な位置づけとなりますが、使用する薬剤によっては副作用やリスクが問題となることがあります。

以下のような副作用が知られています。

  • 消化器症状(鎮痛薬)
  • アレルギー反応(抗菌薬)
  • 眠気や嗜眠(鎮咳薬)

これらの副作用は、多くの場合、軽度で一過性ですが、患者のQOLを低下させる可能性があります。副作用の発現に注意しながら、症状に応じて適切な薬剤を選択することが求められます。

治療後の合併症とリスク

開放性気胸の治療後には、以下のような合併症やリスクが問題となることがあります。

合併症・リスク頻度
肺の再膨張不全低い
慢性疼痛中等度
呼吸機能障害中等度
気胸の再発低い〜中等度

これらの合併症やリスクは、患者のQOLに大きな影響を与える可能性があります。 適切な治療と管理により、これらの問題を最小限に抑えることが重要です。

再発リスクと予防策

開放性気胸(かいほうせいきょうきょう)は、適切な治療により多くの場合回復が期待できますが、一度発症すると再発のリスクを伴います。

再発を防ぐためには、原因となる要因を取り除き、生活習慣の改善や定期的な経過観察が重要となります。

再発リスクの評価

開放性気胸の再発リスクは、原因や患者の背景因子によって異なります。 以下のような因子が、再発リスクを高める可能性があります。

リスク因子再発リスク
喫煙高い
基礎疾患(COPD、間質性肺疾患など)高い
若年発症中等度
手術未実施中等度

これらのリスク因子を有する患者では、再発予防により一層の注意が必要です。医療者は、患者のリスク因子を評価し、個々の患者に応じた予防策を提案することが求められます。

生活習慣の改善

開放性気胸の再発予防において、生活習慣の改善は極めて重要な役割を果たします。特に、以下のような生活習慣の改善が推奨されます。

生活習慣再発予防効果
禁煙高い
体重管理中等度
適度な運動中等度
感染予防中等度

これらの生活習慣の改善は、呼吸器疾患の予防や管理に共通して有効であり、開放性気胸の再発リスクを下げることが期待できます。

医療者は、患者に対して生活習慣の改善の重要性を説明し、実践を支援することが求められます。

定期的な経過観察

開放性気胸の再発予防には、定期的な経過観察が欠かせません。治療後は、以下のような間隔で経過観察を行うことが一般的です。

  • 治療終了後1ヶ月目
  • 治療終了後3ヶ月目
  • 治療終了後6ヶ月目
  • 治療終了後1年目
  • 以降、年1回程度

経過観察では、胸部X線検査や症状の確認を行い、再発の兆候がないかを確認します。 再発が疑われる場合には、CT検査などの追加検査を行い、早期発見・早期治療に努めます。

再発時の対応

開放性気胸が再発した場合には、速やかな診断と治療が求められます。再発時の治療方針は、初回発症時と同様に、気胸の重症度や患者の全身状態に応じて決定されます。

ただし、再発例では、手術療法が選択されることが多くなります。特に、複数回の再発を経験した患者では、手術療法による根治が重要と考えられています。

再発回数手術療法の適応
1回目の再発相対的適応
2回目以降の再発絶対的適応

治療費

初診料と再診料

項目費用
初診料2,910円
再診料750円

検査費

検査項目費用
胸部X線検査2,100円~5,620円
胸部CT検査14,700円~20,700円

処置費

  • 胸腔ドレナージ: 6,600円+材料費/日

入院費

    手術が必要な場合、総費用が非常に高額となる場合もあります。症状や治療方法によって個人差が大きいため、実際の費用は医療機関での診察・検査を受けた上で確認する必要があります。

    現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
    各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
    1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
    手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
    (投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

    計算式は下記の通りです。
    「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

    14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

    DPC名: 気胸 肺切除術等 手術処置等2なし 定義副傷病名なし
    日数: 14
    医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
    総医療費: ¥332,780 +出来高計算分

    以上

    参考にした論文