非結核性抗酸菌症(NTM)とは呼吸器疾患の一種で、結核菌以外の抗酸菌による感染症です。
健康な人には感染しにくいのですが、免疫力の低下した人や肺に基礎疾患を持つ人には感染しやすいのが特徴となっています。
非結核性抗酸菌症の症状と似ている結核と比較すると感染力は弱い一方で、進行すると日常生活に支障をきたす可能性があるので注意が必要です。
非結核性抗酸菌症における病型
非結核性抗酸菌症(NTM)は、線維空洞型と結節・気管支拡張型という大きく2つの病型に分類されます。
線維空洞型
線維空洞型は主に中高年の男性に多く見られる病型で、肺の上葉に空洞を形成することが特徴です。
空洞は単発性または多発性で周囲に線維化を伴うのが一般的で、喫煙者や基礎疾患を持つ人に発症しやすい傾向があるとされています。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 中高年 |
性別 | 男性に多い |
喫煙歴 | 喫煙者に多い |
結節・気管支拡張型
結節・気管支拡張型は中年女性に多く見られる病型で、肺の中葉や舌区に小結節や気管支拡張を呈するのが特徴です。
結節は多発性で気管支拡張は区域性または葉性に分布する傾向にあります。 非喫煙者や基礎疾患のない人にも発症する可能性があるのがこの病型です。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 中年 |
性別 | 女性に多い |
喫煙歴 | 非喫煙者にも発症 |
病型による違い
線維空洞型と結節・気管支拡張型の違いをまとめると以下のようになります。
- 好発年齢や性別が異なること
- 肺の病変の分布や形態が異なること
- 喫煙歴や基礎疾患の有無に差があること
このように、NTMの病型によって、患者さんの背景や肺の病変の特徴が異なってくるのです。
NTMにおける主な症状
非結核性抗酸菌症は発症しても初期の段階では無症状のことも多く、数年かけて徐々に進行していきます。
そうなるとようやく以下のような症状が現れますが、病型によって症状の差があることにも注目です。
全身症状
非結核性抗酸菌症(NTM)では以下のような全身症状が見られる可能性があります。
症状 | 詳細 |
発熱 | 37.5℃以上の発熱が続く |
体重減少 | 数ヶ月で5%以上の体重減少 |
倦怠感 | 疲れやすくなる |
食欲不振 | 体重減少の主な原因 |
これらの症状は非特異的ではありますが、長期間続く場合は注意が必要です。
呼吸器症状
非結核性抗酸菌症の主な症状は呼吸器症状で、以下のようなものがあげられます。
- 咳嗽
- 喀痰
- 血痰
- 呼吸困難
咳嗽は乾性咳嗽から始まって次第に湿性咳嗽に変化していくでしょう。喀痰は粘稠で血痰を伴うことがあります。呼吸困難は病状の進行に伴って出現する症状です。
症状 | 詳細 |
咳嗽 | 乾性咳嗽から湿性咳嗽に変化 |
喀痰 | 粘稠で血痰を伴うことがある |
病型による違い
線維空洞型と結節・気管支拡張型では、症状に違いがあります。
線維空洞型では咳嗽や喀痰などの呼吸器症状が主体で、全身症状は比較的軽度であることが多いです。
一方、結節・気管支拡張型では全身症状が前面に立つことが多く、呼吸器症状は軽度である傾向にあります。
NTMにおける原因とリスク因子
症状が似ている結核の原因となる結核菌は人から人に感染しますが、NTMは身の回りの環境中に広く存在する非結核性抗酸菌の感染によって発症するのです。
非結核性抗酸菌が体内に入っても感染する確率は低く、ほとんどの人では感染は起こりません。
非結核性抗酸菌とは
非結核性抗酸菌とは結核菌以外の抗酸菌の総称で、自然環境中に広く分布しているのが特徴です。
主な菌種としては、マイコバクテリウム・アビウム(MAC)、マイコバクテリウム カンサシ、マイコバクテリウム・アブセサスなどがあげられます。
菌種 | 特徴 |
MAC | 土壌や水道水に広く存在 |
マイコバクテリウム カンサシ | 水回りに存在 |
マイコバクテリウム・アブセサス | 土壌や水汚染物質に存在 |
感染経路
非結核性抗酸菌は、以下のような経路で感染するのです。
- 空気中の菌の吸入
- 汚染された水や土壌との接触
- 医療機器や器具を介した感染
特に土壌や水道水に広く存在するMACは日常生活での感染リスクが高いとされています。
アテハマル方はリスク因子
非結核性抗酸菌症(NTM)の発症には以下のようなリスク因子があるので、あてはまるかたは注意が必要です。
- 60歳以上
- 現在または過去の喫煙
- 既存の肺疾患(COPD、気管支拡張症など)
- 免疫抑制状態(HIV感染、免疫抑制剤の使用など)
特に既存の肺疾患を有する高齢者や喫煙者は、非結核性抗酸菌症(NTM)のハイリスク群とされています。
発症メカニズム
非結核性抗酸菌が肺に定着すると、菌の増殖によって肺組織の炎症や破壊が引き起こされるのです。
病変は上葉優位の空洞形成や気管支拡張を特徴とする線維空洞型と、中葉や舌区優位の小結節や気管支拡張を特徴とする結節・気管支拡張型に大別されます。
このように菌種や宿主の免疫状態によって病型や重症度が異なると考えられているのです。
非結核性抗酸菌症における診察と診断
非結核性抗酸菌症(NTM)は初期には症状がなかったり非特異的なため、早期発見が難しいこともあります。
診断には臨床症状、画像所見、細菌学的検査を慎重に評価することが重要です。
病歴聴取と身体診察
NTMの診察に際しては、まず詳細な病歴聴取によって 咳嗽や喀痰、発熱、体重減少などの症状の有無や経過を確認するとともに、既往歴や喫煙歴、職業歴なども聴取します。
身体診察では胸部の聴診により罹患肺の副雑音の有無を確認するのです。
病歴聴取項目 | 身体診察項目 |
症状の有無と経過 | 胸部聴診 |
既往歴、喫煙歴、職業歴 | リンパ節触診 |
画像検査
NTMの診断には胸部X線検査とCT検査が不可欠となります。
胸部X線検査では上肺野優位の浸潤影や空洞形成、気管支拡張像などを認めることがあるのです。
CT検査ではさらに詳細な病変分布や性状の評価が可能で、小葉中心性粒状影や気管支拡張、小結節影などを認めます。
画像検査 | 主な所見 |
胸部X線検査 | 浸潤影、空洞形成、気管支拡張像 |
CT検査 | 小葉中心性粒状影、気管支拡張、小結節影 |
細菌学的検査
NTMの確定診断には喀痰や気管支洗浄液などの検体から非結核性抗酸菌を検出・同定することが必要不可欠です。
抗酸菌塗抹検査と培養検査を行い、陽性の場合は菌種同定検査を追加します。 また、薬剤感受性検査をすることで、適切な治療薬の選択に役立てるのです。
具体的には以下の検査を組み合わせて行います。
- 抗酸菌塗抹検査
- 抗酸菌培養検査
- 菌種同定検査
- 薬剤感受性検査
診断基準
以下の基準によって非結核性抗酸菌症(NTM)が診断されます。
- 臨床的基準:呼吸器症状や画像所見などの臨床所見があること
- 細菌学的基準:複数回の喀痰検査または1回の気管支洗浄液検査で非結核性抗酸菌が検出されること
臨床的基準と細菌学的基準の両方を満たす場合にNTMと診断されるのです。 このように非結核性抗酸菌症の診断には、総合的な評価が必要不可欠となります。
NTMにおける画像所見
非結核性抗酸菌症の画像所見は病型によって異なる特徴があり、診断や病型分類に極めて重要な役割を担っています。
また、経時的な画像所見の変化を追跡することで病状の進行や治療効果を評価することができるのです。
胸部X線検査所見
非結核性抗酸菌症(NTM)の胸部X線検査では、以下のような所見が認められることがあります。
- 上肺野優位の浸潤影や粒状影
- 空洞形成
- 気管支拡張像
- 胸膜肥厚
特に、線維空洞型では上肺野優位の浸潤影や空洞形成が特徴的であり、結節・気管支拡張型では気管支拡張像や粒状影が目立つのが特徴です。
病型 | 主な胸部X線検査所見 |
線維空洞型 | 上肺野優位の浸潤影、空洞形成 |
結節・気管支拡張型 | 気管支拡張像、粒状影 |
所見:右中肺野・左下肺野を中心として、両側肺野に散在する粒状影・結節影・浸潤影・気管支壁肥厚が散見され、矢印のように右傍気管線部の腫大あり、NTMとそれに伴うリンパ節腫大が疑われる。
CT検査所見
NTMの診断にはCT検査が非常に有用となります。 CT検査では、より詳細な病変分布や性状の評価が可能であり、以下のような所見が認められるのです。
- 小葉中心性粒状影
- 気管支拡張
- 小結節影
- 気管支壁肥厚
- 空洞形成
線維空洞型では上葉優位の気管支壁肥厚や空洞形成が特徴的となっています。一方、結節・気管支拡張型では小葉中心性粒状影や気管支拡張が目立つのが特徴です。
病型 | 主なCT検査所見 |
線維空洞型 | 上葉優位の気管支壁肥厚、空洞形成 |
結節・気管支拡張型 | 小葉中心性粒状影、気管支拡張 |
所見:両肺に分岐状小結節、粒状影、気管支壁肥厚・拡張等が散見され、NTMとして合致する所見である。
画像所見の経時的変化
非結核性抗酸菌症の画像所見は病状の進行に伴って経時的に変化していきます。
初期には気管支拡張像や小結節影が目立ち、徐々に浸潤影や空洞形成が出現してくることがあります。 また、治療に伴って病変の改善や消失が認められる場合もあるでしょう。
NTMにおける治療方法と期間
非結核性抗酸菌症の治療は複数の抗菌薬を組み合わせた長期間の多剤併用療法が基本です。
適切な治療は画像検査や細菌学的検査を組み合わせて総合的に病型を判断し、病型によって異なる治療方針を正しく行うことでしょう。
治療期間は菌種や病型、重症度によって異なり通常は1年以上という長期治療が必要ですが、適切な薬物療法と必要に応じた外科的治療を組み合わせることで多くの場合は治癒が可能となります。
治療の基本方針
NTMの治療目標は菌の排菌を停止させて症状を改善し、再発を防ぐことです。治療には以下のような基本方針があります。
- 複数の抗菌薬を組み合わせた多剤併用療法
- 十分な治療期間の確保
- 副作用のモニタリングと対策
- 必要に応じた外科的治療の検討
特に多剤併用療法と十分な治療期間が治療成功の鍵を握っているのです。
抗菌薬の選択
非結核性抗酸菌症(NTM)の治療には主に次のような抗菌薬が用いられます。
薬剤名 | 特徴 |
マクロライド系薬 | クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど |
リファマイシン系薬 | リファブチン、リファンピシンなど |
エタンブトール | 他剤との併用で使用 |
アミノグリコシド系薬 | アミカシン、ストレプトマイシンなど |
フルオロキノロン系薬 | レボフロキサシン、モキシフロキサシンなど |
これらの抗菌薬を組み合わせて使用しますが、菌種や薬剤感受性試験の結果に基づいて選択するのが一般的です。
治療開始後は副作用のモニタリングを行いながら必要に応じて薬剤の調整を行うことになります。
治療期間
非結核性抗酸菌症(NTM)の治療期間は、以下のような要因によって異なるのです。
- 菌種
- 病型や重症度
- 治療反応性
一般的には排菌が停止してから少なくともさらに1年間は治療を継続することが推奨されています。したがって多くの場合、治療期間は1~2年程度になると考えておいてください。
ただし再発リスクが高い場合や治療反応性が不良な場合はさらに長期の治療が必要になることもあるでしょう。
病型 | 治療期間の目安 |
線維空洞型 | 排菌停止後1~2年 |
結節・気管支拡張型 | 排菌停止後1年以上 |
外科的治療
NTMの治療では薬物療法が中心ですが、次のような場合は外科的治療を検討することになります。
- 薬物療法で改善が得られない限局性病変がある場合
- 薬剤耐性菌による感染が疑われる場合
- 大量の喀血がある場合
外科的治療は病変部の切除が中心で、薬物療法と併用することで治療成績の向上が期待できます。ただし術後の合併症リスクもあるため、慎重な適応判断が必要不可欠です。
NTMにおける治療の副作用とリスク
非結核性抗酸菌症の治療では長期間の多剤併用療法が必要であるため、副作用やリスクが懸念されます。
抗菌薬による副作用
NTMの治療に用いられる抗菌薬で考慮される副作用は以下の通りです。
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- 血液障害(貧血、白血球減少など)
- 聴力障害(アミノグリコシド系薬)
- 末梢神経障害(リファマイシン系薬)
特にマクロライド系薬とリファマイシン系薬は肝機能障害のリスクが高く、アミノグリコシド系薬は聴力障害や腎機能障害に注意が必要となります。
薬剤系統 | 主な副作用 |
マクロライド系薬 | 肝機能障害、消化器症状 |
リファマイシン系薬 | 肝機能障害、末梢神経障害 |
アミノグリコシド系薬 | 聴力障害、腎機能障害 |
薬剤相互作用
非結核性抗酸菌症の治療では複数の薬剤を併用するため、薬剤相互作用のリスクも考えなければなりません。
特に以下のような組み合わせには注意が必要です。
- リファマイシン系薬とプロテアーゼ阻害薬(HIV治療薬)
- マクロライド系薬とワルファリン(抗凝固薬)
- フルオロキノロン系薬と制酸剤や鉄剤
これらの薬剤を併用する場合は、慎重なモニタリングと用量調整を行いましょう。
長期治療に伴うリスク
NTMの治療は1年以上の長期治療を要するため、以下のようなリスクも生まれるのです。
- 服薬アドヒアランスの低下
- 薬剤耐性菌の出現
- 累積毒性の増加
長期治療では服薬アドヒアランス(用法容量の厳守)の維持が治療成功の鍵となりますが、副作用や生活の質の低下により服薬が困難になるケースもあるでしょう。
また、不適切な治療や服薬アドヒアランスの低下は薬剤耐性菌の出現につながるリスクがあります。
外科的治療のリスク
限局性病変や薬剤耐性菌感染などでは外科的治療が検討されますが、外科的治療にも以下のようなリスクがあるのです。
- 術後合併症(肺瘻、膿胸、呼吸不全など)
- 残存肺の機能低下
- 再発や再感染
特に術後合併症は患者さんの予後に大きな影響を与えるため、慎重な術前評価と周術期管理が不可欠となります。
このようにNTMの治療では副作用やリスクを最小限に抑えながら適切な治療を継続することが重要なのです。
再発リスクと予防
非結核性抗酸菌症は適切な治療により多くの場合は治癒しますが、一定の割合で再発することが知られており再発予防のための対策が重要となります。
再発のリスク因子
NTMの再発には関与しているリスク因子は次の通りです。
- 不十分な治療期間
- 薬剤耐性菌の存在
- 基礎疾患や免疫抑制状態
- 高齢
- 喫煙
特に治療期間が不十分な場合や薬剤耐性菌が存在する場合は再発リスクが高くなるでしょう。
また、COPDや気管支拡張症などの基礎疾患がある場合や、免疫抑制状態にある場合も再発しやすい傾向があります。
リスク因子 | 詳細 |
不十分な治療期間 | 排菌停止後1年以上の治療が必要 |
薬剤耐性菌の存在 | 多剤耐性菌では再発リスクが高い |
再発予防のための対策
非結核性抗酸菌症の再発を予防するためには、以下のような対策が重要です。
- 十分な治療期間の確保
- 服薬アドヒアランスの維持
- 基礎疾患の管理
- 免疫抑制状態の改善
- 生活習慣の改善(禁煙など)
特に治療期間については、排菌が停止してから少なくとも1年間は継続するとよいでしょう。
また、用法や容量を厳守るという服薬アドヒアランスを維持することで治療失敗や薬剤耐性菌の出現を防ぐことができます。
再発時の対応
非結核性抗酸菌症が再発した場合は以下の手順で対応するのが一般的です。
- 原因菌の同定と薬剤感受性試験
- 適切な抗菌薬の選択
- 十分な治療期間の設定
- 外科的治療の検討
再発時には原因菌の同定と薬剤感受性試験を行い適切な抗菌薬を選択します。 また、再発例では治療期間をより長く設定することが推奨されています。
外科的治療は限局性病変や薬剤耐性菌感染などの場合に検討することになるでしょう。
NTMにおける治療費
非結核性抗酸菌症の治療費は病状や治療方法によって大きく異なりますが、長期間の多剤併用療法が必要なため一般的に高額になる傾向があります。
診察料
NTMの診療では初診料として2,880円、再診料として750円が基本的な費用となります。 ただし、病院によって料金は異なるでしょう。
項目 | 費用 |
初診料 | 2,880円 |
再診料 | 730円 |
検査費
NTMの診断や経過観察には喀痰検査や胸部X線検査、CT検査などが必要となります。
これらの検査費用は検査の種類や回数によって異なりますが、数千円(喀痰検査・レントゲンのみ)から数万円程度(CTまで撮像したり、複数回の検査の場合)となることが多いでしょう。
処置費
非結核性抗酸菌症の処置費は種類や回数によって異なりますが、点滴や注射などの費用は千円から数千円程度です。
処置 | 費用 |
点滴 | 点滴手技料530円+薬剤料 |
注射 | 注射手技料530円+薬剤料 |
入院費
重症の非結核性抗酸菌症では入院治療も考慮しなければなりません。入院費は1日あたり1万円~3万円程度となりますが、個室や食事などの選択によって異なります。
長期入院となる場合は、数百万円以上の費用がかかることもあるでしょう。
病院や治療方法によって費用が異なるため、事前に確認しておくことが大切となります。
ただし、保険適応では1割~3割の自己負担となり、多くの場合高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
- 参考にした論文