呼吸器疾患の一種である中東呼吸器症候群(MERS)とは、MERSコロナウイルスによって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。

この疾患は2012年にサウジアラビアで初めて確認され、主に中東地域で発生していることからこの名称が付けられました。

中東呼吸器症候群(MERS)はヒトコブラクダが主な感染源とされており、ラクダとの接触や未加熱のラクダ乳の摂取によって感染するリスクがあります。

また感染者との濃厚接触によってヒトからヒトへの感染も起こり得ます。

発熱、咳、呼吸困難などの症状を引き起こし、重症化すると肺炎や呼吸不全を発症する可能性があります。

MERSの主要症状と経過

中東呼吸器症候群(MERS)はその症状の現れ方や重症度が個人によって大きく異なる特徴を持つ呼吸器疾患です。

初期症状は一般的な風邪やインフルエンザに似ていることが多いですが、急速に悪化する傾向があり、重症化すると生命を脅かす状態に陥る可能性があります。

症状の進行は個人差が大きいものの、典型的な経過パターンを把握することで適切な対応が可能となります。

初期症状

MERSの初期症状は多くの場合、一般的な上気道感染症と類似しており、このことが初期段階での診断を困難にする一因となっています。

以下はMERSの主な初期症状です。

  • 発熱(38°C以上の高熱が多い)
  • 咳(乾性咳嗽が特徴的)
  • 全身倦怠感
  • 頭痛
  • 筋肉痛

これらの症状は感染後2〜14日程度の潜伏期間を経て現れることが多いとされていますが、個人差が大きく、症状の出現時期や強さは患者さんによって異なる可能性があります。

呼吸器症状の進行

初期症状の後、MERSに特徴的な呼吸器症状が現れ始め、これらの症状は感染の進行とともに徐々に悪化する傾向があります。

これらの症状は感染後約1週間程度で顕著になることが多いですが、個人によっては数日で急速に悪化することもあり、注意深い観察が必要です。

主な呼吸器症状には以下のようなものがあります。

症状出現時期
呼吸困難感染後5-7日
胸痛症例により異なる
喀痰性咳嗽感染後1週間前後

特に呼吸困難はMERSの重要な症状の一つで急速に悪化する可能性があり、患者さんの生活の質を著しく低下させる要因となることがあります。

呼吸困難が現れた際は速やかに医療機関を受診することが大切であり、特に高齢者や基礎疾患を持つ方は早期の医療介入が重要です。

消化器症状

MERSでは呼吸器症状に加えて消化器症状が現れることもあり、これらの症状は時に呼吸器症状よりも先行して出現することがあるため診断の手がかりとなる可能性があります。

これらの症状は患者さんによって出現の有無や程度が異なり、一部の患者さんでは消化器症状が主症状となることもあるでしょう。

以下は主な消化器症状です。

  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 腹痛

消化器症状はMERSの初期段階で現れることもあれば、呼吸器症状の後に続いて現れることもあり、症状の出現順序は個人差が大きいことが知られています。

特に下痢は一部の患者さんで顕著に観察される症状であり、重度の下痢は脱水症状を引き起こす可能性があるため適切な水分補給が重要です。

重症化の兆候

MERSは急速に進行して重症化する可能性がある疾患であり、特に高齢者や基礎疾患を持つ方は重症化のリスクが高いとされています。

重症化の兆候としては以下のような症状や所見が挙げられます。

重症化兆候臨床的意義
持続的高熱(39℃以上)強い炎症反応
進行性呼吸困難肺機能の悪化
低酸素血症呼吸不全の進行

これらの兆候が見られた際には早急な医療介入が必要となり、集中治療室での管理が必要となる可能性もでてくるでしょう。

症状の経過と変化

MERSの症状は感染後の時期によって変化し、個々の患者さんの免疫状態や基礎疾患の有無によっても症状の進行パターンが異なることがあります。

以下のような経過パターンが観察されるのが一般的です。

  • 第1週 初期症状(発熱、咳、倦怠感など)
  • 第2週 呼吸器症状の悪化
  • 第3週 重症化または回復の分岐点

ただしこの経過は個人差が大きく、全ての患者さんが同じパターンを示すわけではなく、症状の進行速度や重症度は個々の患者さんによって大きく異なることも少なくありません。

年齢や基礎疾患の有無によっても症状の進行速度や重症度が異なることがあり、特に高齢者や慢性疾患を持つ方は、より注意深い観察と早期の医療介入が重要でしょう。

発生原因と感染経路

中東呼吸器症候群(MERS)の直接的な原因はMERS-CoVと呼ばれるコロナウイルスの一種による感染です。

このウイルスは2012年にサウジアラビアで初めて同定されて以来、主に中東地域で発生が報告されており、その特異的な地理的分布が疾患名の由来となっています。

MERS-CoVはコウモリを自然宿主とし、ヒトコブラクダを中間宿主として、最終的にヒトに感染すると考えられているのです。

この複雑な感染経路の解明は、MERSの予防と制御において重要な役割を果たしています。

MERS-CoVの特徴

MERS-CoVはコロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類される一本鎖RNAウイルスです。

このウイルスは他のコロナウイルスと比較して高い病原性を持つことが知られています。

以下はMERS-CoVの主な特徴であり、これらの特徴がMERSの制御を難しくしている要因の一つです。

  • 高い致死率
  • 長い潜伏期間(2〜14日)
  • 環境中での安定性
ウイルス特性詳細
遺伝子一本鎖RNA
コロナウイルス科
ベータコロナウイルス

動物からヒトへの感染

MERSの主要な感染源はヒトコブラクダであることが明らかになっています。

ヒトコブラクダからヒトへの感染経路には以下のようなものがあります。

  • 感染したラクダとの直接接触
  • ラクダの生の乳や肉の摂取
  • ラクダの排泄物や体液への曝露

特に中東地域でのラクダとの密接な関わりがMERSの発生と拡大に関連していると考えられているのです。

感染源感染リスク
ラクダとの接触
生乳摂取中〜高
肉の摂取

ヒトからヒトへの感染

MERS-CoVはヒトからヒトへの感染も起こり得ます。以下がその主な感染経路です。

  • 飛沫感染
  • 接触感染
  • エアロゾル感染(特定の医療行為時)

ヒトからヒトへの感染は主に医療施設内や家族内での濃厚接触によって起こることが多いとされています。

環境要因と季節性

MERSの発生には以下のような環境要因も影響を与えていると考えられています。

  • 気温と湿度
  • 人口密度
  • 衛生状態

特に乾燥した気候がウイルスの生存に適していることが指摘されています。

環境要因影響
乾燥気候ウイルス安定性上昇
高温ウイルス不活化
高湿度飛沫の落下速度上昇

遺伝的要因と宿主感受性

MERSの発症や重症化には宿主側の遺伝的要因も関与している可能性があり、研究では次のような要因が示唆されているのです。

  • 特定の遺伝子多型
  • 免疫系の個人差
  • 既存の健康状態

これらの要因が個人のMERSに対する感受性や重症化リスクに影響を与えていると考えられています。

MERSの診察と診断プロセス

中東呼吸器症候群の診察と診断は複数の段階を経て慎重に行われる必要があり、各段階での正確な評価と判断が最終的な診断の精度を左右します。

初期評価から検査結果の解釈まで一連のプロセスを通じて総合的な判断が下されますが、この過程では患者さんの臨床経過や疫学的背景の変化にも注意を払わなければなりません。

必要に応じて診断を見直す柔軟性も求められるでしょう。

このような迅速かつ正確な診断は患者さんの適切な管理と感染拡大防止において大切です。

初期評価と問診

MERSの診察は詳細な問診から始まります。

医師は患者さんの症状の経過や、感染リスクに関する情報を慎重に聴取します。

主な問診項目には以下のようなものがあります。

問診項目着目点
渡航歴中東地域滞在
ラクダとの接触直接接触、乳製品摂取
患者との接触医療従事者、家族内

これらの情報はMERSを疑う重要な手がかりとなります。

身体診察

問診に続いて詳細な身体診察が行われますが、MERSの診察では特に呼吸器系の評価に重点が置かれます。

以下は主な診察項目です。

  • バイタルサインの測定(体温、脈拍、血圧、呼吸数)
  • 胸部の聴診(呼吸音の評価)
  • 胸部の打診(肺の含気量の評価)
  • 酸素飽和度の測定

これらの診察結果は患者さんの状態を評価する上で重要な情報となります。

検査室検査

MERSの診断確定には検査室での各種検査が不可欠であり、これらの検査結果は診断の確実性を高めるだけでなく、患者さんの全身状態の評価にも役立ちます。

以下はMARSの主な検査項目です。

検査目的
RT-PCRウイルス検出
抗体免疫反応確認
血液全身状態評価

リアルタイムRT-PCR検査はMERS-CoVの遺伝子を直接検出する方法で、診断の確定に重要な役割を果たします。

画像検査

MERSの診断において画像検査は重要な役割を果たし、肺炎の程度や進行状況を視覚的に評価することで適切な治療方針の決定に貢献します。

以下は主に用いられる画像検査です。

検査主な所見
胸部X線すりガラス陰影
胸部CT両側性浸潤影

これらの検査によって肺炎の有無や程度、さらには特徴的な所見を確認することができます。

鑑別診断

MERSの診断においては類似した症状を呈する他の疾患との鑑別が重要であり、正確な鑑別診断は患者さんに適切な治療を提供するだけでなく、不必要な隔離措置や社会的混乱を防ぐ上でも大切です。

主な鑑別疾患には以下のようなものがあります。

  • インフルエンザ
  • 一般的な肺炎
  • 他のコロナウイルス感染症
  • レジオネラ症

これらの疾患との鑑別には臨床症状、検査結果、疫学的情報を総合的に評価することが必要です。

特徴的画像所見

中東呼吸器症候群の画像診断は胸部X線検査と胸部CT検査を中心に行われ、これらの検査で得られる特徴的な所見はMERSの診断や経過観察において極めて重要な役割を果たします。

MERSの画像所見は疾患の進行に伴って変化し、初期段階では軽微な変化から始まり、重症化するにつれて広範囲にわたる肺野の異常を呈するようになります。

これらの画像所見を適切に解釈することは患者さんの状態評価や予後予測において不可欠です。

胸部X線検査での所見

胸部X線検査はMERSの初期評価や経過観察に広く用いられる基本的な画像検査です。

MERSに特徴的なX線所見には以下のようなものがあります。

所見特徴
すりガラス陰影びまん性、淡い
浸潤影斑状、濃厚
異常陰影両側性、末梢優位

これらの所見は通常発症後数日以内に出現し始めます。初期段階では片側性の軽度な陰影から始まることが多いですが、急速に両側性に進展する傾向です。

Ajlan, Amr M et al. “Revisiting Middle East Respiratory Coronavirus (MERS-CoV) Outbreak Chest Radiographic Initial Findings, Temporal Progression, and Correlation to Outcomes: A Multicenter Study.” Cureus vol. 14,5 e24860. 9 May. 2022,

所見:27歳の医療従事者の男性で、MERS-CoV感染症から回復した患者の胸部X線画像。(A) 症状発症から10日目に取得された初回の胸部X線写真では、右下肺に局所的なすりガラス影が見られる(矢印)。(B) 初回の胸部X線写真から5日後に取得された最も悪い時の胸部X線写真(研究期間II)では、両側の非びまん性の下肺優位の混合すりガラス影および区域性陰影が見られる(矢印)。(C) 初回の胸部X線写真から73日後に取得された最終の胸部X線写真(研究期間VI)では、右下肺にすりガラス影と網状影が見られる(矢印)。

胸部CT検査での所見

胸部CT検査はMERSの画像診断において最も感度が高く、詳細な評価が可能な検査方法です。

CT検査で観察される主な所見には以下のようなものがあります。

  • 多発性のすりガラス陰影
  • 小葉間隔壁の肥厚
  • 気管支血管束の肥厚
  • 胸膜下の線状陰影

これらの所見はX線検査よりも早期に、より鮮明に捉えることができます。

CT所見出現時期
すりガラス陰影(GGO)発症後1-3日
浸潤影発症後3-7日
線維化発症後2週間以降

特に末梢優位の分布や下葉優位の分布はMERSに特徴的とされています。

Ajlan, Amr M et al. “Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) infection: chest CT findings.” AJR. American journal of roentgenology vol. 203,4 (2014): 782-7.

所見:末梢に網状影(矢印)、小葉周囲の陰影(矢頭)、および広範なすりガラス影と区域性陰影が認められる。

画像所見の経時的変化

MERSの画像所見は疾患の進行に伴って特徴的な変化を示します。以下のような経過パターンの観察が一般的です。

  • 第1週 局所的なすりガラス陰影の出現
  • 第2週 浸潤影の拡大と進展
  • 第3週以降 線維化の進行または改善

ただしこの経過には個人差があり、全ての患者さんが同じパターンを示すわけではありません。

病期主な画像変化
初期局所的GGO
進行期びまん性浸潤影
後期線維化または改善
Ajlan, Amr M et al. “Revisiting Middle East Respiratory Coronavirus (MERS-CoV) Outbreak Chest Radiographic Initial Findings, Temporal Progression, and Correlation to Outcomes: A Multicenter Study.” Cureus vol. 14,5 e24860. 9 May. 2022,

所見:MERS-CoV感染症により死亡した44歳の男性症例の胸部X線画像。(A) 症状発症から8日後に取得された初回の胸部X線写真では、両側の非びまん性の末梢および下肺優位の混合すりガラス影と区域性陰影が見られる(矢印)。(B) 初回の胸部X線写真から5日後に取得された最悪の胸部X線写真(研究期間II)では、両側のびまん性の混合すりガラス状陰影と区域性陰影が見られる(矢印)。(C) 初回の胸部X線写真から15日後に取得された最終の胸部X線写真(研究期間IV)では、両側の非びまん性の末梢および下肺優位の混合すりガラス状陰影と区域性陰影が見られる(矢印)。

特殊な画像所見

一部のMERS患者さんでは通常とは異なる次のような特殊な画像所見が観察されることがあります。

  • 空洞形成
  • 気胸
  • 縦隔気腫
  • 胸水貯留

これらの所見は必ずしも全ての患者さんで見られるわけではありませんが、出現した際には重症化の兆候として注意深く評価することが必要です。

画像所見の解釈と限界

MERSの画像所見は特徴的ですが、他の肺炎や肺疾患との鑑別が必要な局面があります。

画像所見の解釈には以下のような点に注意が必要です。

  • 他のウイルス性肺炎との類似性
  • 細菌性肺炎の合併可能性
  • 個人の基礎疾患の影響

画像診断は臨床症状や検査結果と合わせて総合的に判断することが大切です。

(MERSの治療アプローチと回復過程

中東呼吸器症候群の治療は患者さんの状態に応じて個別化されるものの、主に対症療法と支持療法が中心となり、同時に合併症の予防や管理も重要な要素となります。

MERSに対する特異的な治療法は確立されていませんが、様々な治療法が試みられ、一定の効果が報告されているのです。

これらの治療法の組み合わせや適用のタイミングは、患者さんの年齢や基礎疾患、重症度などを考慮して慎重に決定されます。

治療の目標は呼吸機能の維持・改善、合併症の予防、そして全身状態の安定化であり、これらの目標達成のために包括的なアプローチが不可欠です。

治癒までの期間は個人差が大きく、軽症例では数週間程度で回復する一方、重症例では数ヶ月以上かかることもあり、長期的なフォローアップと継続的なケアが必要となる場合があります。

対症療法と支持療法

MERSの治療の基本は以下のようなものを含む対症療法と支持療法です。

治療法目的
酸素療法酸素化改善
輸液管理循環維持
解熱剤発熱緩和

特に酸素療法は呼吸機能の維持に重要で、患者さんの酸素化状態に応じて適切な方法が選択されます。

抗ウイルス薬の使用

MERSに対する特異的な抗ウイルス薬は存在しませんが、いくつかの薬剤が試験的に使用されています。

主に検討されている抗ウイルス薬には以下の通りです。

薬剤作用機序
リバビリンウイルス複製阻害
ロピナビルプロテアーゼ阻害
インターフェロン免疫賦活

これらの薬剤の効果については議論が分かれており、使用に際しては慎重な判断が必要です。

免疫調節療法

MERSの重症例では過剰な免疫反応が病態を悪化させる可能性があるため、免疫調節療法が検討されることがあります。

以下は主な免疫調節療法です。

  • コルチコステロイド
  • 免疫グロブリン療法
  • サイトカイン阻害薬

これらの治療法は患者さんの状態を慎重に評価した上で、リスクとベネフィットを考慮して適用されます。

人工呼吸管理

重症のMERS患者さんでは人工呼吸管理が必要となることがありますが、その主な目的は以下の通りです。

  • 酸素化の改善
  • 呼吸仕事量の軽減
  • 肺胞の虚脱防止

人工呼吸管理には非侵襲的陽圧換気(NPPV)と気管挿管による侵襲的人工呼吸があり、患者さんの状態に応じて適切な方法が選択されます。

人工呼吸法適応
NPPV軽度~中等度
侵襲的重度~最重度

治癒までの期間と経過

MERSの治癒までの期間は患者さんの年齢、基礎疾患の有無、重症度などによって大きく異なりますが、以下のような経過パターンの観察が一般的です。

重症度平均回復期間
軽症2-3週間
中等症3-4週間
重症1-2ヶ月以上

ただしこれはあくまで目安であり、個々の患者さんで異なる経過をたどる可能性があります。

治療における副作用とリスク

MERSの治療は患者さんの命を救う上で不可欠ですが、同時に様々な副作用やリスクを伴う可能性があり、これらの副作用やリスクは使用する薬剤や治療法によって異なります。

また、患者さんの個々の状態によっても影響を受けるため、慎重な管理と継続的なモニタリングが求められるでしょう。

さらに治療の効果と副作用のバランスを常に評価し、必要に応じて治療方針を調整することが重要です。

副作用やリスクを理解して適切に管理することがMERSの治療において重要であり、これにより治療の効果を最大化しつつ、患者さんの安全性と生活の質を維持することが可能となります。

抗ウイルス薬の副作用

MERSの治療に使用される抗ウイルス薬には以下のような様々な副作用が報告されています。

薬剤主な副作用
リバビリン貧血、肝機能障害
ロピナビル消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)、肝機能障害
インターフェロンインフルエンザ様症状

これらの副作用の程度や頻度は使用する薬剤や投与量によって異なります。

免疫調節療法のリスク

MERSの重症例で使用される免疫調節療法には以下のようなリスクが指摘されています。

  • 免疫抑制による二次感染のリスク増加
  • 骨粗鬆症
  • 糖尿病の悪化または発症
  • 消化性潰瘍
  • 精神症状(不眠、興奮など)

特に長期使用や高用量使用の際にはこれらのリスクが高まる傾向があります。

リスク発生時期
二次感染短期~長期
骨粗鬆症長期使用
糖尿病中期~長期

人工呼吸管理に伴うリスク

重症MERS患者さんで必要となる人工呼吸管理には以下のようなリスクが伴います。

  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 気道損傷
  • 循環動態の変化
  • 筋力低下(人工呼吸器離脱後)

これらのリスクは、人工呼吸管理の期間が長くなるほど増加する傾向があります。

適切な感染対策や早期リハビリテーションなどの対策が、リスク軽減に重要となります。

合併症予防策
肺炎厳密な感染対策
筋力低下早期リハビリ
気道損傷適切な気道管理

長期的な健康影響

MERS治療後には次のような長期的な健康影響も懸念されています。

  • 肺機能の低下
  • 慢性疲労症候群
  • 精神的影響(うつ、不安障害など)
  • 神経学的後遺症

これらの影響は治療の内容や患者さんの個別の要因によって異なりますが、長期的なフォローアップと適切なリハビリテーションプログラムが大切です。

治療関連感染症のリスク

MERS治療中の患者さんは様々な医療関連感染症のリスクにさらされる可能性があります。

以下はその主なリスクです。

  • カテーテル関連血流感染
  • 尿路感染症
  • クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

これらの感染症は患者さんの回復を遅らせ、入院期間を延長させる可能性があります。

感染症リスク因子
血流感染中心静脈カテーテル
尿路感染尿道カテーテル
C. diff抗菌薬使用

MERSの治療には様々な副作用やリスクが伴う可能性があり、これらのリスクは患者さんの年齢、基礎疾患、全身状態などによっても異なるため、個別化された評価と管理が必要です。

これらのリスクは治療の必要性と比較して慎重に評価される必要があり、同時にリスクを最小限に抑えるための予防策や早期発見のための監視体制を整えることも重要でしょう。

医療従事者と患者さんが治療のリスクと利益について十分に理解し、協力して最適な治療方針を決定することが重要であり、このプロセスには患者さんの価値観や生活の質に関する考慮も含まれるべきです。

適切なリスク管理と継続的なモニタリングがMERSの治療成功と患者さんの長期的な健康回復において不可欠です。

治療後のフォローアップや必要に応じたリハビリテーションも総合的な管理の一部として考慮されるべきです。

MERSの治療に関わる費用

MERSの治療費は症状の重症度や入院期間によって大きく異なり、また使用される薬剤や医療機器の種類によっても変動する可能性があります。

入院が必要な際は1日あたり約30,000円の費用が発生する可能性があります。人工呼吸器管理が必要な場合、追加で1日約50,000円程度の費用がかかることがあります。

初診・再診料

初診料は2,910円、再診料は750円です。

検査費用

検査費用
PCR検査4,500円
胸部CT検査14,500円~21,000円

入院費用

入院費は1日あたり約30,000円、人工呼吸器使用時は追加で約50,000円です。

詳しく説明すると、日本の入院費はDPC(診断群分類包括評価)システムを使用して計算されます。このシステムは、患者の病名や治療内容に基づいて入院費を決定する方法です。以前の「出来高」方式とは異なり、DPCシステムでは多くの診療行為が1日あたりの定額に含まれます。

DPCシステムの主な特徴

  1. 約1,400の診断群に分類される
  2. 1日あたりの定額制
  3. 一部の治療は従来通りの出来高計算が適用される

DPCシステムと出来高計算の比較表

DPC(1日あたりの定額に含まれる項目)出来高計算項目
投薬手術
注射リハビリ
検査特定の処置
画像診断
入院基本料

DPCシステムの計算方法

計算式は以下の通りです:

「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数」+「出来高計算分」

*医療機関別係数は各医療機関によって異なります。

例えば、患者が14日間入院した場合の計算は以下のようになります

DPC名: インフルエンザ、ウイルス性肺炎 手術処置等2あり
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥469,840 +出来高計算分

保険が適用されると、自己負担額は1割から3割になります。また、高額医療制度の対象となる場合、実際の自己負担額はさらに低くなります。
なお、上記の価格は2024年6月時点のものであり、最新の価格については随時ご確認ください。

その他の費用

抗ウイルス薬や免疫調節薬の費用が追加で発生する場合があります。

以上

参考にした論文