レジオネラ肺炎とはレジオネラ属菌による細菌性肺炎の一種で、1976年に米国フィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人会の会合で集団発生したことから「在郷軍人病」とも呼ばれています。
レジオネラ属菌は土壌や水中に広く存在し、空調設備や給湯設備などを介して感染が拡大していく病態です。
レジオネラ肺炎の症状は非特異的なものが多く、他の肺炎との鑑別が困難な場合があります。
重症化すると多臓器不全を引き起こす危険性も潜んでいるので、的確な診断と治療が大切です。
レジオネラ肺炎の主な症状とその特徴について
レジオネラ肺炎の主な症状は、発熱、咳嗽、呼吸困難の3つが代表的です。
発熱
レジオネラ肺炎では高熱が特徴的な症状です。 感染初期から出現し、40℃以上の高熱になります。
発熱の程度 | 割合 |
40℃以上 | 約50% |
39℃以上 | 約30% |
38℃以上 | 約20% |
発熱は数日から1週間程度持続することが多いです。 また、発熱に伴って悪寒戦慄や頭痛、筋肉痛などの全身症状を伴うことも少なくありません。
咳嗽
レジオネラ肺炎では咳嗽が高頻度に見られる症状です。 感染初期から出現し、次第に増悪していく傾向があります。
以下は咳嗽の特徴をまとめたものです。
- 乾性咳嗽が主体
- 次第に湿性咳嗽に変化
- 喀痰は少量で粘稠
- 血痰を伴うことがある
咳嗽はレジオネラ肺炎の重要な症状の一つであり、適切な治療が行われないと遷延化することがあります。
呼吸困難
レジオネラ肺炎が重症化すると呼吸困難が出現します。 そして肺炎の進行に伴って増悪し、安静時にも認められるようになるでしょう。
重症度 | 呼吸困難の程度 |
軽症 | 労作時の呼吸困難 |
中等症 | 安静時の呼吸困難 |
重症 | 高度の呼吸困難、呼吸不全 |
呼吸困難が高度になると酸素飽和度の低下やチアノーゼなどの低酸素血症の徴候が現れます。
レジオネラ肺炎では呼吸不全が重篤な合併症の一つであり、適切な呼吸管理が必要です。
その他の症状
レジオネラ肺炎では上記の主症状以外にも、以下のような症状が見られることがあります。
- 胸痛
- 腹痛
- 下痢
- 意識障害
特に消化器症状や意識障害は、レジオネラ肺炎に特徴的な症状です。
これらの症状は全身感染に伴う多臓器障害を反映していると考えられています。
レジオネラ肺炎の原因と発症について
レジオネラ肺炎はレジオネラ属菌の感染が原因で起こる肺炎であり、汚染された水が細かい水滴となって吸い込まれたり、誤って飲み込まれたりすることで発症します。
レジオネラ属菌とは
レジオネラ属菌は土壌や河川、湖沼などの自然環境水中に広く存在するグラム陰性桿菌です。
この菌は温水環境下で増殖しやすく、特に25〜45℃の温度範囲で活発に増殖します。
レジオネラ属菌には50種以上の菌種が存在しますが、ヒトへの病原性が確認されているのは約20種です。
中でもレジオネラ・ニューモフィラ血清群1が、レジオネラ肺炎の原因として最も重要視されています。
レジオネラ属菌の種類 | 病原性 |
レジオネラ・ニューモフィラ | 高い |
レジオネラ・ロングビーチ | 中程度 |
レジオネラ・ボゼマニ | 中程度 |
レジオネラ・ミクダデイ | 低い |
感染経路
レジオネラ属菌は以下のような経路で感染します。
- 汚染された水道水や空調設備の冷却水などのエアロゾルを吸入することによる感染
- 汚染された水を誤って飲み込むことによる感染
- 汚染された水が創傷に直接触れることによる感染
主な感染源は循環式浴槽、加湿器、シャワー、冷却塔、噴水などです。
土壌中のレジオネラ属菌がこれらの水環境中で増殖し、エアロゾル化することで感染のリスクが高まります。
発症のメカニズム
レジオネラ属菌はエアロゾルの吸入や汚染水の誤嚥により肺胞マクロファージに取り込まれます。
しかしこの菌は食胞内で増殖することができるため、マクロファージ内で生存・増殖し、細胞を破壊することで炎症反応が引き起こされ、肺炎が発症に至るのです。
発症までのステップ | 概要 |
細菌の侵入 | エアロゾルの吸入や汚染水の誤嚥 |
食胞内での増殖 | マクロファージ内で生存・増殖 |
炎症反応の惹起 | 細胞破壊による炎症性サイトカインの放出 |
肺炎の発症 | 肺胞の炎症と浸出液貯留 |
感染リスクを高める要因
以下のような要因がレジオネラ肺炎の感染リスクを高めることが知られています。
- 高齢者や基礎疾患を有する方
- 喫煙者や多量飲酒者
- 免疫抑制状態にある方
特に慢性呼吸器疾患、糖尿病、悪性腫瘍、免疫抑制剤の使用などは重症化のリスクを高める要因として重要です。
診察と診断のポイントについて
レジオネラ肺炎は早期診断と適切な治療開始が予後を左右する重要な疾患です。
詳細な病歴聴取と身体所見、各種検査を組み合わせた総合的な評価により的確な診断と治療方針の決定を行うことが求められます。
問診
レジオネラ肺炎が疑われる患者さんには、以下のような病歴を聴取します。
- 発症時期と経過
- 呼吸器症状(咳嗽、喀痰、呼吸困難など)
- 全身症状(発熱、悪寒戦慄、頭痛、筋肉痛など)
- 消化器症状(腹痛、下痢など)
- 旅行歴、入浴施設の利用歴
特に発症前の旅行歴や入浴施設の利用歴はレジオネラ肺炎の診断において重要な情報となります。
また、基礎疾患や免疫抑制状態の有無も確認が必要です。
身体所見
レジオネラ肺炎の身体所見としては、以下のようなものがあります。
所見 | 特徴 |
体温 | 高熱(40℃以上) |
呼吸音 | 湿性ラ音、断続性ラ音 |
呼吸数 | 頻呼吸 |
意識状態 | 意識障害(重症例) |
レジオネラ肺炎では高熱と呼吸器症状が主体ですが、重症例では意識障害を伴うことがあります。
また、消化器症状を伴う場合もあるため腹部所見にも注意が必要です。
検査
レジオネラ肺炎の診断に際しては、以下のような検査が行われます。
- 胸部X線検査
- 胸部CT検査
- 尿中レジオネラ抗原検査
- 喀痰培養検査
- 血液検査(白血球数、CRP、肝機能、腎機能など)
以下はレジオネラ肺炎の診断に有用な検査所見です。
胸部画像検査 | 浸潤影、斑状影、胸水 |
尿中レジオネラ抗原検査 | 陽性 |
喀痰培養検査 | レジオネラ属菌の検出 |
血液検査 | 白血球増多、CRP上昇、肝機能障害、腎機能障害 |
特に尿中レジオネラ抗原検査は、迅速かつ特異度の高い検査として広く用いられています。
鑑別診断
以下はレジオネラ肺炎と鑑別を要する疾患です。
- 市中肺炎
- インフルエンザ
- マイコプラズマ肺炎
- クラミジア肺炎
これらの疾患ではレジオネラ肺炎と類似した症状や検査所見を示すことがあるため、詳細な病歴聴取と各種検査による鑑別が必要となります。
レジオネラ肺炎の画像所見について
レジオネラ肺炎の画像所見は他の細菌性肺炎と似ていますが、いくつかの特徴的なパターンを示します。
胸部X線写真の所見
胸部X線写真では片側性または両側性の浸潤影や斑状影を認めることが多いです。
これらの陰影は末梢優位に分布し、急速に拡大する傾向があります。 また、胸水貯留を伴うことも少なくありません。
胸部X線写真の所見 | 頻度 |
片側性または両側性の浸潤影 | 高い |
末梢優位の分布 | 高い |
急速な陰影の拡大 | 高い |
胸水貯留 | 中程度 |
所見:右中下肺野肺門部寄りに浸潤影が広がっており、肺炎が疑われる。
CTの所見
胸部CTでは以下のような所見を認めることがあります。
- スリガラス状陰影
- 小葉中心性の粒状影
- 気管支壁の肥厚
- 小葉間隔壁の肥厚
これらの所見はレジオネラ肺炎に特徴的ではありませんが、他の細菌性肺炎との鑑別に役立つでしょう。
画像所見の経時的変化
レジオネラ肺炎の画像所見は病期によって変化します。
病期 | 画像所見 |
初期 | 限局性の浸潤影 |
進行期 | 浸潤影の拡大、融合 |
回復期 | 陰影の吸収、線維化 |
適切な治療が行われない場合は急速に進行し、重篤な呼吸不全を引き起こすことがあります。
所見:中下葉にすりガラス影~浸潤影が広がっており、上述のCXRより増悪あり。クラミジア肺炎増悪として合致する性状である。
画像診断の役割
画像診断はレジオネラ肺炎の診断および重症度評価においても重要な役割を果たします。
また、治療効果の判定や合併症の検出にも有用です。
ただし、画像所見のみでレジオネラ肺炎と確定診断することは困難であり、臨床所見や検査結果と併せて総合的に判断する必要があります。
レジオネラ肺炎の治療法と予後について
レジオネラ肺炎の治療には適切な投薬が基本であり、重症例では集中治療を要することもありますが、多くの場合は2〜3週間で治癒します。
抗菌薬治療
レジオネラ肺炎の治療には、マクロライド系、キノロン系、テトラサイクリン系の抗菌薬が有効です。
これらの薬剤はレジオネラ属菌に対して強い抗菌活性を示し、細胞内での増殖を抑制します。
軽症例では経口薬での治療が可能なこともありますが、入院を要する場合は以下のような静注用の抗菌薬が選択されることが多いです。
抗菌薬 | 用法・用量 |
アジスロマイシン | 500mg/日 |
レボフロキサシン | 500mg/日 |
シプロフロキサシン | 400mg/日 |
ミノサイクリン | 200mg/日 |
治療期間
レジオネラ肺炎の治療期間は症状や重症度によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 軽症例:7〜14日間
- 中等症例:14〜21日間
- 重症例:21日間以上
ただし、免疫抑制状態にある患者や合併症を有する患者では、より長期の治療を要することがあります。
予後
適切な治療が行われた場合、レジオネラ肺炎の予後は比較的良好です。
多くの患者さんは2〜3週間で症状が改善し、治癒に至ります。
ただし、高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは重症化するリスクが高く、致死率も高くなりがちです。
患者背景 | 致死率 |
一般集団 | 5〜10% |
高齢者 | 20〜30% |
免疫抑制状態 | 30〜50% |
合併症と後遺症
レジオネラ肺炎では、以下のような合併症を認めることがあります。
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
- 敗血症
- 急性腎不全
- 多臓器不全
重症例ではこれらの合併症により長期の入院加療を要したり、後遺症が残るケースもでてきます。
ですから適切な治療とケアにより合併症の発生を防ぎ、後遺症を最小限に抑えることが重要です。
レジオネラ肺炎の治療に伴う副作用とリスクについて
レジオネラ肺炎の治療には副作用やリスクが伴う場合がありますが、適切な管理を行うことでこれらを最小限に抑えることが可能です。
抗菌薬治療の副作用
レジオネラ肺炎の治療で用いられるマクロライド系やニューキノロン系の抗菌薬は、以下のような副作用を引き起こす可能性があります。
抗菌薬 | 主な副作用 |
マクロライド系 | 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)、肝機能障害、QT延長 |
ニューキノロン系 | 消化器症状(悪心、嘔吐)、中枢神経症状(頭痛、めまい)、アキレス腱炎・腱断裂 |
これらの副作用は多くの場合軽度で一過性ですが、まれに重篤な場合もあります。
特に高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは注意が必要です。
抗菌薬は以下の点に注意して使用しましょう。
- アレルギー歴の確認
- 腎機能や肝機能の評価
- 併用薬との相互作用の確認
- 適切な用量と期間の設定
抗菌薬耐性菌の出現リスク
レジオネラ肺炎の治療で抗菌薬を使用する場合、抗菌薬耐性菌の出現リスクがあります。
不必要な抗菌薬の使用や不適切な用量・期間の投与によって耐性菌の出現を促し、その結果治療効果の低下や感染症の難治化を引き起こすのです。
リスク因子 | 内容 |
不必要な抗菌薬の使用 | 非細菌性疾患に対する抗菌薬の使用など |
不適切な用量・期間の投与 | 過少量の投与、必要以上の長期投与など |
合併症のリスク
レジオネラ肺炎では適切な治療が行われないと、以下のような合併症を引き起こすリスクがあります。
- 呼吸不全
- 敗血症
- 急性腎不全
- 横紋筋融解症
特に高齢者や免疫抑制状態の患者は重症化のリスクが高いです。
治療リスクの最小化
レジオネラ肺炎の治療に伴う副作用やリスクを最小化するためには、以下のような点に注意が必要です。
- 的確な診断に基づいた抗菌薬の選択
- 患者背景に応じた用量・投与期間の設定
- 副作用モニタリングと早期対応
- 耐性菌出現リスクを考慮した抗菌薬の選択
レジオネラ肺炎の再発防止と予防法について
レジオネラ肺炎は適切な治療により治癒しますが、再発することもあるため感染源の特定と除去を含めた個人や施設レベルでの予防対策が重要です。
再発の可能性
レジオネラ肺炎は適切な抗菌薬治療により多くの場合治癒しますが、一定の割合で再発することが知られています。
再発率は患者の背景や治療内容によって異なりますが、おおむね5〜10%程度です。
再発のリスクは次のような因子によって高くなります。
- 高齢者
- 免疫抑制状態にある患者
- 基礎疾患を有する患者
- 不十分な治療
感染源の特定
レジオネラ肺炎の再発を防ぐためには感染源を特定し、除去することが不可欠です。
感染源の特定には以下のような方法があります。
方法 | 概要 |
環境調査 | 患者の生活環境や施設内の水環境を調査し、レジオネラ属菌の存在を確認する |
遺伝子型別 | 患者由来株と環境由来株の遺伝子型を比較し、感染源を特定する |
特に入浴施設や冷却塔、加湿器などはレジオネラ属菌の増殖に適した環境であり、重点的な調査が必要です。
感染源の除去
感染源が特定された場合は速やかに除去または消毒を行う必要があります。
主な方法としては、以下の通りです。
- 高温水による熱消毒
- 塩素などの消毒剤による化学消毒
- 汚染された設備の交換や改修
ただし完全に除去することは困難なので、定期的なモニタリングと維持管理が重要になります。
その他の予防対策
レジオネラ肺炎の予防には、以下のような対策も有効です。
- 入浴施設や冷却塔などの定期的な清掃と消毒
- 適切な水温管理(55℃以上)
- 加湿器や噴水などの適切な維持管理
- 免疫力の維持(バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理など)
特に高齢者や免疫抑制状態にある患者は感染リスクが高いため注意してください。
施設 | 予防対策 |
病院 | 水回りの定期的な清掃・消毒、高温水による熱消毒など |
高齢者施設 | 入浴施設の管理、加湿器の適切な使用と維持管理など |
ホテル | 客室の給湯設備の管理、浴場の清掃・消毒など |
レジオネラ肺炎の治療にかかる費用について
レジオネラ肺炎の治療費は重症度や合併症の有無によって大きく異なりますが、一般的に入院治療を要するため高額になる傾向にあります。
診察料
レジオネラ肺炎の診断には詳細な問診や身体診察が必要であるため、初診料は医療機関によって差が出やすいですが、おおむね2,880円~5,380円程度です。
再診料は730円~2,640円程度程度になります。
検査費
レジオネラ肺炎の診断に行われる各種検査費用の目安は以下の通りです。
検査項目 | 費用目安 |
血液検査 | 730円~2,640円程度 (専門項目必要な場合は更に高額に) |
尿中抗原検査 | 2,110円+診断料など |
胸部X線検査 | 2,100円~4,000円 |
胸部CT検査 | 14,700円~20,700円 |
処置費
重症例では人工呼吸管理や血液浄化療法などの高度な治療が必要となることがあり、これらの処置費は高額になります。
処置 | 費用目安 |
人工呼吸管理 | 1日当たり9,500円 |
血液浄化療法 | 1回当たり200,000円 |
入院費
レジオネラ肺炎の治療には2週間から4週間程度の入院加療を要することが多く、入院費は1日当たり10,000円程度です。
重症例や合併症を有する場合はさらに長期の入院が必要となり、入院費が高額になります。
以上
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