過敏性肺炎とは呼吸器疾患の一種で、特定の抗原物質を吸入することにより発症する非感染性の間質性肺疾患です。

過敏性肺炎の原因となる抗原は多岐にわたり、発症すると高熱や咳、呼吸困難といった症状が現れます。重症化した場合は呼吸不全を引き起こす可能性もあるので注意が必要です。

過敏性肺炎への対応としては早期発見と原因抗原の回避が肝要であり、症状が軽度であれば抗原回避のみで改善する場合もあります。

過敏性肺炎における病型と症状

過敏性肺炎(かびんせいはいえん)は、病型により急性、亜急性、慢性の3つに分類されます。症状は病型により異なりますが、咳、息切れ、発熱が代表的です。

急性過敏性肺炎

急性過敏性肺炎とは原因抗原の大量吸入後4〜8時間で発症する病型です。

症状としては、原因抗原の吸入後4〜6時間に咳、息切れ、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛などインフルエンザ様症状が現れます。

症状詳細
乾性咳嗽が主体
息切れ労作時に顕著
発熱38℃以上の高熱

亜急性過敏性肺炎

亜急性過敏性肺炎とは原因抗原の大量吸入後数週間から数ヶ月の経過で発症する病型です。

主な症状としては、咳、息切れ、体重減少、倦怠感などがあります。

症状詳細
乾性咳嗽が主体
息切れ労作時に顕著
体重減少数週間で5%以上

慢性過敏性肺炎

慢性過敏性肺炎とは原因抗原の大量吸入後、数ヶ月から数年の経過で発症する病型です。

症状は数ヶ月から数年かけて緩徐に進行し、労作時に呼吸困難が出現します。他にも症状としては乾性咳嗽、体重減少などが見られるでしょう。

症状詳細
息切れ労作時に顕著
乾性咳嗽持続性
体重減少数ヶ月で5%以上

また、慢性過敏性肺炎では次のような症状が現れる場合があります。

  • 繰り返す感染症状
  • ばち指
  • チアノーゼ

過敏性肺炎の重症度と症状

過敏性肺炎の重症度により症状の程度は異なります。 軽症の場合は咳や息切れなどの症状が軽度ですが、重症になると呼吸不全を引き起こし、生命を脅かす可能性もあるのです。

原因やきっかけ

過敏性肺炎(HP)は特定の抗原を吸入することにより引き起こされる非感染性の間質性肺疾患です。

過敏性肺炎の原因となる抗原

過敏性肺炎の原因となる抗原は多岐にわたり、以下のようなものがあります。

抗原の種類具体例
微生物細菌、真菌、マイコプラズマなど
動物タンパク鳥の羽毛、動物の糞尿など
化学物質イソシアネート、エポキシ樹脂など

また、職業や環境により特有の抗原に曝露される場合もあります。

職業・環境特有の抗原
農業従事者堆肥、藁、穀物など
鳥飼育者鳥の糞尿、羽毛など
木工職人木材の粉塵、カビなど

過敏性肺炎の発症メカニズム

過敏性肺炎は特定の抗原を吸入することにより、肺に炎症が起こることで発症します。発症メカニズムは以下の通りです。

  1. 抗原の吸入
  2. 抗原に対する免疫反応の活性化
  3. 肺胞や細気管支周囲への炎症細胞浸潤
  4. 肺の炎症および線維化

反復して抗原を吸入することで炎症が持続し、不可逆的な肺の線維化が進行します。

過敏性肺炎の病型と原因抗原の関係

過敏性肺炎は病型により原因抗原への曝露様式が異なるのです。

病型原因抗原への曝露様式
急性過敏性肺炎大量の抗原を短期間に吸入
亜急性過敏性肺炎中等量の抗原を数週間から数ヶ月吸入
慢性過敏性肺炎少量の抗原を長期間吸入

過敏性肺炎の診察と診断について

病歴、身体所見、画像所見、病理所見を総合的に判断して過敏性肺炎の診断に至ります。抗原の特定やリンパ球刺激試験なども補助的に用いられる場合もあるでしょう。

病歴聴取

過敏性肺炎の診察では詳細な病歴聴取が不可欠です。患者さんの職業、環境、趣味、ペットの有無などを確認して抗原への曝露歴を探ります。

症状の経過や、抗原曝露との関連性についての確認も不可欠となるでしょう。

身体所見

身体所見では聴診で両肺野に捻髪音を聴取することが多いです。呼吸困難や低酸素血症を呈することもあります。

所見急性型亜急性型慢性型
発熱+++
呼吸困難++++
fine crackles(捻髪音)++++++

画像検査

画像検査としては胸部X線写真とHRCT(高分解能CT)が有用です。HRCTではすりガラス陰影や小葉中心性粒状影、モザイク状濃度分布などを認めます。

HRCT所見急性型亜急性型慢性型
すりガラス陰影+++++
小葉中心性粒状影+++
網状影+++
蜂巣肺++

病理学的検査

確定診断には経気管支肺生検や外科的肺生検による病理学的検査が有用です。ここではリンパ球浸潤、肉芽腫形成、気管支中心性病変などを認めます。

病理所見所見
リンパ球浸潤++
肉芽腫+
器質化肺炎+
線維化+

過敏性肺炎の画像所見

過敏性肺炎の画像所見は病型によって異なりますが、HRCTでの所見が診断に有用です。

急性型の画像所見

急性型では両側びまん性のすりガラス陰影や斑状影を認めることが特徴的です。小葉中心性粒状影やモザイク状濃度分布を伴うこともあります。

画像所見頻度
すりガラス陰影+++
斑状影++
小葉中心性粒状影+
Dabiri, Mona et al. “Hypersensitivity Pneumonitis: A Pictorial Review Based on the New ATS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline for Radiologists and Pulmonologists.” Diagnostics (Basel, Switzerland) vol. 12,11 2874. 20 Nov. 2022,

所見:吸気CT(上段)は淡いすりガラス影(赤矢印)を、呼気CT(下段)はair trapping(黄矢印)を認める

亜急性型の画像所見

亜急性型では両側びまん性のすりガラス陰影に加え、小葉中心性粒状影やモザイク状濃度分布を高頻度に認めるでしょう。

線維化を示唆する網状影や牽引性気管支拡張も見られる場合があります。

画像所見頻度
すりガラス陰影+++
小葉中心性粒状影+++
モザイク状濃度分布++
網状影+
Dabiri, Mona et al. “Hypersensitivity Pneumonitis: A Pictorial Review Based on the New ATS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline for Radiologists and Pulmonologists.” Diagnostics (Basel, Switzerland) vol. 12,11 2874. 20 Nov. 2022,

所見:吸気CT(上段)では、両肺に不均一なすりガラス影とわずかな線維化を認める。上肺優位の分布に注意。呼気CT(下段)では、Air trapping(矢印)を認める。

慢性型の画像所見

慢性型では両側の網状影や蜂巣肺、牽引性気管支拡張などの線維化所見が主体となります。すりガラス陰影や小葉中心性粒状影は軽度であることが多いです。

画像所見頻度
網状影+++
蜂巣肺++
牽引性気管支拡張++
すりガラス陰影+
Dabiri, Mona et al. “Hypersensitivity Pneumonitis: A Pictorial Review Based on the New ATS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline for Radiologists and Pulmonologists.” Diagnostics (Basel, Switzerland) vol. 12,11 2874. 20 Nov. 2022,

所見:(A)はパッチ状のすりガラス影を示す。3年後のフォローアップCT(B-D)では、牽引性気管支拡張症(曲がった矢印)、網状影、斑状のすりガラス影、浸潤影、線維化が認められる。吸気相(C)および呼気相(D)では、正常肺(短い矢印)およびすりガラス影(黒いアスタリスク)あり、いわゆるThree attenuation patternを認める。また、Air trappingが目立つ(長矢印)。

HRCTの有用性

HRCTは過敏性肺炎の病型や病期の評価に不可欠な検査です。病型に応じた特徴的な所見を捉えることで診断や治療方針の決定に役立ちます。

治療方法と薬、治癒までの期間

過敏性肺炎の治療は原因抗原の回避と薬物療法が中心となり、病型や重症度に応じて治療方針が決定されます。適切な治療により、多くの場合は治癒が期待できるでしょう。

原因抗原の回避

過敏性肺炎の治療において原因抗原の特定と回避が最も重要です。

原因抗原が判明した場合は、その抗原への曝露を徹底的に避けることが不可欠になります。

原因抗原回避方法
鳥関連抗原鳥の飼育中止、羽毛製品の使用中止
真菌真菌の生育環境の改善、マスクの着用
化学物質曝露源の特定と回避、換気の徹底

急性型の治療

  • ステロイド薬の全身投与
  • 酸素療法
  • 対症療法

急性型では原因抗原の回避とともに、ステロイド薬の全身投与が行われます。初期治療としてはプレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日が使用されることが多いです。

薬剤用量
プレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日
メチルプレドニゾロン500〜1000mg/日

亜急性型と慢性型の治療

亜急性型と慢性型でも原因抗原の回避とともに、ステロイド薬の投与が行われます。プレドニゾロン0.5〜1mg/kg/日から開始して、症状や画像所見の改善に応じて漸減します。

ステロイド薬の減量・中止後に再燃する際は免疫抑制薬の併用が検されるでしょう。

免疫抑制薬用量
アザチオプリン50〜150mg/日
シクロスポリン2〜5mg/kg/日
シクロホスファミド50〜100mg/日

治癒までの期間

過敏性肺炎の治癒までの期間は病型や重症度によって異なります。

急性型では抗原回避により数日から1週間程度で症状は改善し、治療開始から数週間~数ヶ月で治癒することが多いす。

亜急性型と慢性型では治療に反応しにくいこともあり、治癒までに数ヶ月から数年を要する場合があることを念頭におかなければなりません。

過敏性肺炎の病型はによる臨床経過のまとめは以下の通りです。

  • 急性過敏性肺炎:抗原回避により速やかに改善
  • 亜急性過敏性肺炎:抗原回避と適切な治療により改善
  • 慢性過敏性肺炎:不可逆的な線維化が進行し、予後不良

治療の副作用やデメリット

過敏性肺炎の治療ではステロイド薬や免疫抑制薬が使用されますが、これらの薬剤には副作用やリスクが伴います。

治療の必要性と副作用のリスクを十分に考慮して適切な治療方針を決定することが重要です。

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬は過敏性肺炎の治療に不可欠な薬剤ですが、長期使用や高用量投与により以下のような副作用が生じる可能性があります。

副作用リスク
感染症のリスク増加+++
骨粗鬆症++
糖尿病++
体重増加++
満月様顔貌+
消化性潰瘍+
精神症状(不眠、気分変調など)+

免疫抑制薬の副作用

免疫抑制薬はステロイド薬の減量・中止後に再燃する場合に使用されることがありますが、以下のような副作用やリスクも考慮しなければなりません。

薬剤主な副作用
アザチオプリン骨髄抑制、肝障害、感染症
シクロスポリン腎障害、高血圧、感染症
シクロホスファミド骨髄抑制、出血性膀胱炎、不妊

免疫抑制薬の使用には定期的な血液検査や臓器障害のモニタリングが必要です。感染症のリスクが高まるため予防接種や感染対策も重要となります。

長期的な影響

過敏性肺炎の治療では長期にわたるステロイド薬や免疫抑制薬の使用が必要になりがちです。

長期使用による副作用やリスクを最小限に抑えるため、定期的な経過観察と適切な用量調整が求められます。さらに治療に伴う身体的・精神的な負担にも配慮が必要です。

治療の中止や変更

過敏性肺炎の治療では原因抗原の回避が最も重要ですが、職業や生活環境の変更が困難なこともあります。

治療の副作用が強い際や治療効果が不十分な際は、治療方針の変更や中止を検討する必要がでてくるでしょう。

治療のリスクとベネフィットを慎重に評価し、患者さんとの十分な話し合いのもとで最適な治療方針を決定することが大切です。

再発の可能性と予防方法について

過敏性肺炎は原因抗原への再曝露により再発する可能性が高い疾患です。再発を防ぐためには原因抗原の同定と徹底的な回避が最も重要な予防策となります。

再発のリスク因子

過敏性肺炎の再発に関与しているリスク因子は次の通りです。

リスク因子再発率
原因抗原への再曝露60-80%
不十分な抗原回避対策40-60%
ステロイド薬の急速な減量・中止30-50%
喫煙20-30%

病型別の再発リスク

過敏性肺炎の再発リスクは病型によって異なります。

病型再発リスク
急性型原因抗原への再曝露により高率に再発+++
亜急性型抗原回避が不十分な場合に再発リスクが上昇++
慢性型抗原回避が困難な場合に再発を繰り返し進行性の経過をたどる+

予防のための抗原回避対策

過敏性肺炎の予防は以下のような対策によって原因抗原の徹底的な回避が最も大切です。

  • 原因抗原の特定(環境調査、抗原誘発試験など)
  • 職場や家庭環境の改善(換気、清掃、抗原源の除去など)
  • マスクや呼吸用保護具の使用
  • 生活習慣の見直し(喫煙の中止、ペットの飼育制限など)

過敏性肺炎の治療費

過敏性肺炎の治療費は病型や重症度、治療内容によって大きく異なります。費用の概要をまとめると以下の通りです。

初診料と再診料

過敏性肺炎の診断と治療のために呼吸器内科や呼吸器外科を受診する際は、初診料(2,910円)と再診料(750円)がかかります。

検査費

過敏性肺炎の診断には血液検査、画像検査、肺機能検査、気管支鏡検査などが必要です。これらの検査費用は以下のようになります。

検査項目費用
血液検査4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)+2,520円(KL-6)など
胸部CT14,700円~20,700円
肺機能検査2,300円~5,700円
気管支鏡検査25,000円~29,000円

処置費

過敏性肺炎の治療ではステロイド薬の投与や酸素療法などの処置が行われますが、これらの処置費用は以下の通りです。

処置項目費用
ステロイド薬投与ステロイドパルス(10,296円)+40円/日(プレドニン40mg/日)
酸素療法650円/日

入院費

重症の過敏性肺炎では入院治療が必要となることがあります。

詳細としては、現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

例えば、14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

DPC名: 間質性肺炎 手術処置等1なし 手術処置等2なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥375,790 +出来高計算分

保険適用となると1割~3割の自己負担であり、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。
なお、上記値段は2024年6月時点のものであり、最新の値段を適宜ご確認ください。

以上

参考にした論文