呼吸器疾患の一種である横隔膜ヘルニアとは、横隔膜の一部に欠損や脆弱部位があり、その部分から腹腔内の臓器が胸腔内へ逸脱してしまう病態のことを指します。

横隔膜は、胸郭と腹部を隔てる筋肉組織であり、呼吸運動に非常に重要な役割を果たしています。

この横隔膜に先天的あるいは後天的な原因で脆弱な部位や穴が生じると、胃や腸などの腹腔内臓器が胸腔内に飛び出してしまうのです。

目次

横隔膜ヘルニアの病型分類と特徴

横隔膜ヘルニアは、その発生原因や解剖学的な位置によって、いくつかの病型に分類されます。それぞれの病型は、臨床症状や治療方針が異なるため、正確な診断が重要となります。

先天性横隔膜ヘルニア

先天性横隔膜ヘルニアは、胎児期に横隔膜が正常に形成されないことによって生じるヘルニアです。多くの場合、左側に発生し、胃や腸などの腹腔内臓器が胸腔内に逸脱します。

新生児期に呼吸障害を呈することが多く、早期の外科的治療が必要とされます。先天性横隔膜ヘルニアの中でも、Bochdalek孔ヘルニアとMorgagni孔ヘルニアが代表的なタイプです。

病型発生部位
Bochdalek孔ヘルニア横隔膜後外側部
Morgagni孔ヘルニア横隔膜前部

胸膜横隔膜ヘルニア

胸膜横隔膜ヘルニアは、横隔膜の胸膜に覆われた部分に欠損が生じ、腹腔内臓器が胸腔内に脱出する病態です。外傷や先天性の要因によって引き起こされることがあります。

胸膜横隔膜ヘルニアは、無症状のこともありますが、胸部レントゲンや CT 検査によって診断されます。症状が軽度の場合は経過観察が可能ですが、重篤な場合は外科的修復が検討されます。

食道裂孔ヘルニア

食道裂孔ヘルニアは、横隔膜の食道裂孔から胃の一部が胸腔内に逸脱する病態を指します。以下の4つのタイプに分類されます。

  • I型(滑脱型):胃噴門部が胸腔内に滑脱
  • II型(傍食道型):胃底部が食道に沿って胸腔内に脱出
  • III型(混合型):I型とII型の混合
  • IV型:他の腹腔内臓器が胸腔内に脱出

食道裂孔ヘルニアは、胸やけや嚥下困難などの症状を引き起こすことがあり、重症例では外科的治療が必要となります。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニア

外傷性横隔膜ヘルニアは、鋭的または鈍的な胸腹部外傷によって横隔膜が損傷を受け、ヘルニアが形成されるものです。一方、医原性横隔膜ヘルニアは、胸腹部の手術操作に伴って生じる合併症の一つです。

病型原因
外傷性横隔膜ヘルニア胸腹部外傷
医原性横隔膜ヘルニア胸腹部手術の合併症

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアは、受傷または手術後の経過観察中に発見されることが多く、ヘルニア内容の絞扼や嵌頓を来した場合は緊急手術の適応となります。

横隔膜ヘルニアの主症状

横隔膜ヘルニアは、病型や重症度によって様々な症状を呈しますが、呼吸器症状や消化器症状が主体となることが多いです。

先天性横隔膜ヘルニアの症状

先天性横隔膜ヘルニアは、新生児期に重篤な呼吸障害を引き起こすことが特徴です。腹腔内臓器が胸腔内に脱出することにより、肺の発育が阻害され、呼吸困難やチアノーゼ、多呼吸などの症状が出現します。

また、胸腔内での臓器圧迫によって、心拍数の増加や血圧の低下、哺乳力の低下などを伴うこともあります。先天性横隔膜ヘルニアは、早期発見と迅速な対応が重要な疾患と言えるでしょう。

主な呼吸器症状主な全身症状
呼吸困難チアノーゼ
多呼吸哺乳不良
陥没呼吸活気不良

胸膜横隔膜ヘルニアの症状

胸膜横隔膜ヘルニアは、無症状で経過することも少なくありませんが、ヘルニア内容の脱出量が多い場合は呼吸器症状や消化器症状を呈します。呼吸器症状としては、胸部不快感や呼吸困難、咳嗽などがあります。

一方、消化器症状としては、胸やけや嚥下困難、食後の腹部膨満感などが挙げられます。ヘルニア内容の嵌頓や絞扼を来した場合は、激しい胸痛や腹痛、嘔吐などの急性症状を呈することがあるため注意が必要です。

食道裂孔ヘルニアの症状

食道裂孔ヘルニアは、病型によって症状の特徴が異なります。最も頻度の高いI型(滑脱型)では、胃酸の逆流によって引き起こされる胸やけや嚥下困難、喉の違和感などが主な症状となります。

II型(傍食道型)やIII型(混合型)では、滑脱型の症状に加えて、嘔吐や腹痛、体重減少などの消化器症状を伴うことがあります。IV型は、他の腹腔内臓器の脱出を伴うため、より重篤な症状を呈する可能性があります。

以下に、食道裂孔ヘルニアの主な症状をまとめます。

  • 胸やけ、嚥下困難、喉の違和感
  • 嘔吐、腹痛、体重減少
  • 胸部不快感、呼吸困難(稀)

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの症状

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアは、受傷または手術後の経過によって症状の出現時期や重症度が異なります。急性期には、呼吸困難や胸痛、腹痛などの急性症状を呈することがあります。

急性期の主な症状慢性期の主な症状
呼吸困難呼吸困難
胸痛胸部不快感
腹痛消化器症状

慢性期には、呼吸困難や胸部不快感などの呼吸器症状に加えて、嘔気や嘔吐、腹部膨満感などの消化器症状を伴うことがあります。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアは、症状の有無にかかわらず、定期的な経過観察が大切です。

横隔膜ヘルニアの原因やきっかけ

横隔膜ヘルニアは、先天性の要因や後天性の原因によって引き起こされますが、その発生メカニズムは病型によって異なります。

先天性横隔膜ヘルニアの原因

先天性横隔膜ヘルニアは、胎生期の横隔膜形成不全によって生じる先天異常です。

横隔膜の発生過程において、胸腹裂孔の閉鎖不全や筋組織の形成不全が起こると、横隔膜に欠損部位が残存し、ヘルニアが形成されます。

先天性横隔膜ヘルニアの発生には、遺伝的要因や環境要因が関与していると考えられています。染色体異常や単一遺伝子の変異、テラトーゲン(催奇形因子)の曝露などが、リスク因子として知られています。

遺伝的要因環境要因
染色体異常テラトーゲン曝露
単一遺伝子変異母体の疾患や感染症

胸膜横隔膜ヘルニアの原因

胸膜横隔膜ヘルニアは、先天性の要因や外傷性の原因によって生じることがあります。先天性の場合は、横隔膜の胸膜に覆われた部分の脆弱性が原因となります。

一方、外傷性の胸膜横隔膜ヘルニアは、鋭的または鈍的な胸腹部外傷によって横隔膜が損傷を受けた結果、ヘルニアが形成されます。交通事故や転落事故、スポーツ外傷などが主な原因となります。

食道裂孔ヘルニアの原因

食道裂孔ヘルニアの原因は、加齢に伴う食道裂孔の拡大や支持組織の脆弱化が主体です。加齢とともに、横隔膜の筋組織や結合組織が弛緩し、食道裂孔が開大することで、ヘルニアが形成されやすくなります。

また、以下のような因子も食道裂孔ヘルニアの発生リスクを高めると考えられています。

  • 肥満や内臓脂肪の蓄積
  • 妊娠や出産による腹圧の上昇
  • 重量物の持ち上げや慢性的な咳嗽
  • 喫煙や飲酒などの生活習慣

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの原因

外傷性横隔膜ヘルニアは、前述の通り、胸腹部の鋭的または鈍的外傷によって引き起こされます。一方、医原性横隔膜ヘルニアは、胸腹部の手術操作に伴う合併症として発生します。

外傷性ヘルニアの原因医原性ヘルニアの原因
交通事故食道手術
転落事故肺切除術
刺傷や銃創肝臓や脾臓の手術

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの予防には、適切な外傷予防策や手術操作の工夫が重要となります。また、既往のある患者では、定期的な経過観察が欠かせません。

医療機関での診察と診断

横隔膜ヘルニアの診断には、詳細な病歴聴取と身体診察に加えて、画像検査が重要な役割を果たします。ここでは、横隔膜ヘルニアの診察と診断の流れについて、病型別に解説していきます。

先天性横隔膜ヘルニアの診察と診断

先天性横隔膜ヘルニアは、出生直後から重篤な呼吸障害を呈するため、早期の診断が不可欠です。新生児の呼吸状態や全身状態を評価し、胸部レントゲンや超音波検査を行うことで、診断が確定します。

先天性横隔膜ヘルニアの胸部レントゲン所見としては、患側の肺野の透過性低下と縦隔の健側への偏位、腸管ガス像の胸腔内への突出などが特徴的です。

超音波検査では、横隔膜の欠損部位や脱出臓器を直接描出することが可能です。

診察項目主な所見
呼吸状態呼吸困難、多呼吸、陥没呼吸
全身状態チアノーゼ、哺乳不良、活気不良

胸膜横隔膜ヘルニアの診察と診断

胸膜横隔膜ヘルニアは、無症状のこともあれば、呼吸器症状や消化器症状を呈することもあります。

病歴聴取では、外傷の既往や呼吸器・消化器症状の有無を確認し、身体診察では、呼吸音の左右差や腹部の膨満、圧痛などを評価します。

画像検査としては、胸部レントゲンやCT検査が有用です。

胸部レントゲンでは、患側の肺野の透過性低下や横隔膜の挙上、胸腔内への腸管ガス像の突出などを認めます。CT検査では、横隔膜の欠損部位や脱出臓器、ヘルニア門の位置などを詳細に評価することができます。

食道裂孔ヘルニアの診察と診断

食道裂孔ヘルニアの診察では、胸やけや嚥下困難などの逆流症状の有無を確認し、身体診察では、心窩部の圧痛や腹部の膨満感などを評価します。病型によっては、呼吸器症状や体重減少などを伴うこともあります。

食道裂孔ヘルニアの診断には、上部消化管内視鏡検査とバリウム造影検査が有用です。

内視鏡検査では、食道裂孔部の観察や食道粘膜の炎症所見を評価し、バリウム造影検査では、ヘルニアの病型や逆流の程度を評価することができます。

以下に、食道裂孔ヘルニアの主な診断法をまとめます。

  • 上部消化管内視鏡検査:食道裂孔部の観察、粘膜炎症の評価
  • バリウム造影検査:ヘルニアの病型分類、逆流の程度評価
  • 胸部CT検査:ヘルニア嚢の位置や大きさの評価

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの診察と診断

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの診察では、外傷や手術の既往を確認し、呼吸器症状や消化器症状の有無を評価します。身体診察では、呼吸音の左右差や腹部の膨満、圧痛などを評価します。

画像検査としては、胸部レントゲンやCT検査が有用です。急性期には、横隔膜の連続性の断絶や腹腔内臓器の胸腔内への脱出などを認めます。

慢性期では、ヘルニア嚢の形成や脱出臓器の拡張などを評価することが重要です。

病期主な画像所見
急性期横隔膜の連続性断絶、臓器脱出
慢性期ヘルニア嚢形成、脱出臓器の拡張

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの診断には、詳細な病歴聴取と身体診察、適切な画像検査が欠かせません。診断後は、症状の重症度や脱出臓器の状態に応じて、適切な治療方針を決定することが重要です。

横隔膜ヘルニアの病型別画像所見

横隔膜ヘルニアの画像診断には、胸部レントゲン検査やCT検査、上部消化管造影検査などが用いられますが、病型によって特徴的な所見が異なります。

先天性横隔膜ヘルニアの画像所見

先天性横隔膜ヘルニアの胸部レントゲン所見としては、患側の肺野の透過性低下と縦隔の健側への偏位、腸管ガス像の胸腔内への突出などが特徴的です。

超音波検査では、横隔膜の欠損部位や脱出臓器を直接描出することが可能です。

CT検査では、横隔膜の欠損部位や脱出臓器、肺の低形成などをより詳細に評価することができます。また、肺動脈の形態や血流の評価にも有用であり、重症度の判定や治療方針の決定に役立ちます。

検査法主な所見
胸部レントゲン患側肺野の透過性低下、縦隔偏位、腸管ガス像の胸腔内突出
超音波検査横隔膜欠損部位、脱出臓器の描出
Case courtesy of Ian Bickle, Radiopaedia.org. From the case rID: 172772

所見:左胸腔を占拠する腸管など疑う構造・気腔・軟部影が認められ、先天性横隔膜ヘルニアを疑う。

胸膜横隔膜ヘルニアの画像所見

胸膜横隔膜ヘルニアの胸部レントゲン所見としては、患側の肺野の透過性低下や横隔膜の挙上、胸腔内への腸管ガス像の突出などを認めます。

CT検査では、横隔膜の欠損部位や脱出臓器、ヘルニア門の位置などを詳細に評価することができます。

また、脱出臓器の嵌頓や絞扼の有無、胸水貯留の程度なども評価可能であり、治療方針の決定に重要な情報を提供します。胸膜横隔膜ヘルニアの画像診断には、CT検査が最も有用とされています。

Diaphragmatic Hernia – StatPearls – NCBI Bookshelf (nih.gov)より引用

所見:左横隔膜の挙上と気腔構造が認められ、胸膜横隔膜ヘルニアが疑われる。

食道裂孔ヘルニアの画像所見

食道裂孔ヘルニアの診断には、上部消化管造影検査が広く用いられています。バリウム造影検査では、ヘルニアの病型分類や逆流の程度を評価することができます。

以下に、食道裂孔ヘルニアの病型別のバリウム造影所見を示します。

  • I型(滑脱型):食道胃接合部の胸腔内への滑脱
  • II型(傍食道型):胃底部の食道に沿った胸腔内脱出
  • III型(混合型):I型とII型の混在
  • IV型:他の腹腔内臓器の胸腔内脱出

内視鏡検査では、食道裂孔部の観察や食道粘膜の炎症所見を評価し、逆流性食道炎の重症度判定に用いられます。また、CT検査では、ヘルニア嚢の位置や大きさ、脱出臓器の状態などを評価することができます。

検査法主な所見
バリウム造影検査ヘルニアの病型分類、逆流の程度評価
内視鏡検査食道裂孔部の観察、粘膜炎症の評価
Kahrilas, Peter J et al. “Approaches to the diagnosis and grading of hiatal hernia.” Best practice & research. Clinical gastroenterology vol. 22,4 (2008): 601-16.

所見:軸性食道裂孔ヘルニアをバリウム造影にて看取る。発達したAリング・Bリングが患者の嚥下時に順次撮影されている。このような症例では、Bリングから横隔膜裂孔までの距離が2cmを超えることが裂孔ヘルニアを定義する基準となる。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの画像所見

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの画像所見は、急性期と慢性期で異なります。急性期の胸部レントゲンでは、横隔膜の連続性の断絶や腹腔内臓器の胸腔内への脱出などを認めます。

CT検査では、横隔膜損傷の範囲や脱出臓器の状態をより詳細に評価することができます。

慢性期では、ヘルニア嚢の形成や脱出臓器の拡張などが特徴的な所見となります。バリウム造影検査では、ヘルニア嚢の位置や大きさ、脱出臓器の状態を評価することができます。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの画像診断には、胸部レントゲンとCT検査が最も重要です。

Diaphragmatic Hernia – StatPearls – NCBI Bookshelf (nih.gov)より引用

所見:左横隔膜に遅発性横隔膜ヘルニアの所見を認める。

横隔膜ヘルニアの治療方法と薬、治癒までの期間

横隔膜ヘルニアの治療方針は、病型や重症度、合併症の有無などによって異なりますが、多くの場合、外科的治療が必要とされます。

先天性横隔膜ヘルニアの治療方法と治癒までの期間

先天性横隔膜ヘルニアは、出生直後から呼吸管理と全身管理を行い、全身状態が安定した後に外科的治療を行います。手術では、脱出臓器を腹腔内に戻し、横隔膜欠損部を修復します。人工材料を用いた修復が必要な場合もあります。

術後は、人工呼吸管理や循環管理を継続し、徐々に離脱していきます。経口摂取の開始時期は、個々の症例によって異なりますが、通常は術後1~2週間程度で開始されます。

先天性横隔膜ヘルニアの治癒までの期間は、重症度によって大きく異なりますが、概ね数ヶ月から1年程度を要します。

治療の流れ概要
出生直後呼吸管理、全身管理
全身状態安定後外科的修復術

胸膜横隔膜ヘルニアの治療方法と治癒までの期間

胸膜横隔膜ヘルニアの治療方針は、症状の重症度や脱出臓器の状態によって決定されます。無症状や軽症例では、経過観察が可能な場合もありますが、多くの場合、外科的治療が必要とされます。

手術では、脱出臓器を腹腔内に戻し、横隔膜欠損部を修復します。胸腔鏡下手術や腹腔鏡下手術が用いられることもあります。術後の回復期間は、通常2~3週間程度ですが、嵌頓や絞扼を伴う症例では、より長期の入院加療を要することがあります。

胸膜横隔膜ヘルニアの治癒までの期間は、合併症の有無などによって異なりますが、概ね数週間から数ヶ月程度です。

食道裂孔ヘルニアの治療方法と治癒までの期間

食道裂孔ヘルニアの治療方針は、病型や症状の重症度によって異なります。軽症例では、生活指導や薬物療法が第一選択となります。

プロトンポンプ阻害薬や消化管運動機能改善薬などが用いられ、症状の改善を図ります。

重症例や薬物療法で改善しない症例では、外科的治療が検討されます。手術では、ヘルニア嚢を切除し、食道裂孔を縫縮します。

また、必要に応じて、噴門形成術や胃固定術などを併施することもあります。腹腔鏡下手術が広く用いられています。

以下に、食道裂孔ヘルニアの主な治療法を示します。

生活指導肥満の改善、食事内容の調整、就寝時の頭部挙上など
薬物療法プロトンポンプ阻害薬、消化管運動機能改善薬など
外科的治療ヘルニア嚢切除、食道裂孔縫縮、噴門形成術など

食道裂孔ヘルニアの治療期間は、治療法によって異なります。薬物療法では、数週間から数ヶ月の継続治療を要します。

外科的治療では、術後2~3週間程度で退院可能ですが、完全な治癒までには数ヶ月を要することがあります。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの治療方法と治癒までの期間

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの治療は、原則として外科的修復術が必要です。急性期には、脱出臓器の絞扼や損傷に対する緊急手術が行われます。慢性期では、待機的な手術が行われます。

手術では、脱出臓器を腹腔内に戻し、横隔膜欠損部を修復します。人工材料を用いた修復が必要な場合もあります。胸腔鏡下手術や腹腔鏡下手術が用いられることもあります。

病期治療方針
急性期緊急手術
慢性期待機的手術

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの治癒までの期間は、損傷の程度や合併症の有無によって大きく異なります。通常、術後2~3週間程度で退院可能ですが、完全な回復には数ヶ月を要することがあります。

また、外傷性の場合は、他の臓器損傷を伴うことも多く、より長期の治療を必要とすることがあります。

治療の副作用やデメリット(リスク)

横隔膜ヘルニアの治療は、病型や重症度に応じて外科的治療や薬物療法が選択されますが、いずれの治療法にも一定の副作用やリスクが伴います。

先天性横隔膜ヘルニアの治療における副作用とリスク

先天性横隔膜ヘルニアの外科的治療では、全身麻酔に伴う合併症や術後の感染症、縫合不全などのリスクがあります。また、人工材料を用いた修復では、異物反応や感染のリスクも考慮する必要があります。

術後の呼吸管理や循環管理に伴う合併症として、人工呼吸器関連肺炎や気胸、循環不全などが挙げられます。先天性横隔膜ヘルニアの治療では、これらの合併症を予防し、適切に管理することが重要です。

治療法主な副作用・リスク
外科的治療全身麻酔の合併症、感染症、縫合不全
術後管理人工呼吸器関連肺炎、気胸、循環不全

胸膜横隔膜ヘルニアの治療における副作用とリスク

胸膜横隔膜ヘルニアの外科的治療では、先天性横隔膜ヘルニアと同様に、全身麻酔に伴う合併症や術後の感染症、縫合不全などのリスクがあります。

また、胸腔鏡下手術や腹腔鏡下手術では、手術操作に伴う臓器損傷のリスクも考慮する必要があります。

嵌頓や絞扼を伴う症例では、腸管壊死や敗血症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、迅速な診断と適切な治療が不可欠です。

また、長期の入院加療に伴う廃用症候群や精神的ストレスにも留意が必要です。

食道裂孔ヘルニアの治療における副作用とリスク

食道裂孔ヘルニアの薬物療法では、プロトンポンプ阻害薬や消化管運動機能改善薬などの副作用が問題となることがあります。プロトンポンプ阻害薬では、胃酸分泌抑制に伴う胃内細菌叢の変化や骨粗鬆症、電解質異常などが報告されています。

外科的治療では、術後の合併症として、食道炎や狭窄、嚥下障害などが挙げられます。また、噴門形成術や胃固定術などの併施手術では、術後の逆流症状の再発や食道運動機能の低下なども懸念されます。

以下に、食道裂孔ヘルニアの治療における主な副作用とリスクを示します。

  • 薬物療法:胃内細菌叢の変化、骨粗鬆症、電解質異常など
  • 外科的治療:食道炎、狭窄、嚥下障害、逆流症状の再発など

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの治療における副作用とリスク

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの外科的治療では、全身麻酔に伴う合併症や術後の感染症、縫合不全などのリスクに加えて、脱出臓器の損傷や癒着に伴う合併症のリスクも考慮する必要があります。

特に、急性期の緊急手術では、患者の全身状態が不安定であることが多く、周術期の合併症リスクが高くなります。また、外傷性の場合は、他の臓器損傷を伴うことも多く、複数の手術が必要となる場合があります。

病期主な副作用・リスク
急性期全身状態の不安定性、周術期合併症
慢性期脱出臓器の損傷、癒着に伴う合併症

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの治療では、これらの副作用やリスクを十分に考慮し、適切な周術期管理と長期的なフォローアップを行うことが重要です。また、医原性の場合は、予防策の徹底と早期発見・治療が求められます。

再発の可能性と予防の仕方

横隔膜ヘルニアの再発は、病型や治療法によって異なりますが、いずれの場合も再発のリスクを考慮し、適切な予防策を講じることが重要です。

先天性横隔膜ヘルニアの再発リスクと予防策

先天性横隔膜ヘルニアの外科的治療後の再発率は、比較的低いとされています。しかし、ヘルニア門が大きい場合や、修復に人工材料を使用した場合は、再発のリスクが高くなります。

再発予防のためには、適切な手術手技の選択と丁寧な修復操作が不可欠です。

また、術後の呼吸管理や栄養管理を適切に行い、肺の成長と発達を促すことも重要です。長期的なフォローアップにより、再発の早期発見と対応が可能となります。

再発リスク因子予防策
大きなヘルニア門適切な手術手技の選択
人工材料の使用丁寧な修復操作

胸膜横隔膜ヘルニアの再発リスクと予防策

胸膜横隔膜ヘルニアの外科的治療後の再発率は、比較的低いとされています。しかし、ヘルニア門が大きい場合や、修復が不十分な場合は、再発のリスクが高くなります。

再発予防のためには、ヘルニア門の完全な閉鎖と、必要に応じた人工材料の使用が重要です。また、術後の呼吸管理や感染予防、適切な創部ケアも欠かせません。

再発のリスクが高い症例では、定期的な画像検査によるフォローアップが推奨されます。

食道裂孔ヘルニアの再発リスクと予防策

食道裂孔ヘルニアの外科的治療後の再発率は、病型や手術法によって異なりますが、比較的高いとされています。特に、滑脱型ヘルニアでは、再発率が高くなる傾向があります。

再発予防のためには、適切な手術手技の選択と丁寧な操作が重要です。また、術後の生活指導として、以下の点に留意する必要があります。

  • 肥満の予防と改善
  • 腹圧を上げる動作の制限(重量物の持ち上げ、いきみなど)
  • 食事内容の調整(脂肪や刺激物の制限、分割食の徹底など)
  • 就寝時の頭部挙上

再発のリスクが高い症例では、定期的な内視鏡検査やバリウム造影検査によるフォローアップが推奨されます。再発を早期に発見し、適切に対処することが重要です。

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの再発リスクと予防策

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアの外科的治療後の再発率は、比較的低いとされています。しかし、修復が不十分な場合や、周囲組織の脆弱性が高い場合は、再発のリスクが高くなります。

再発予防のためには、ヘルニア門の完全な閉鎖と、必要に応じた人工材料の使用が重要です。また、術後の感染予防や適切な創部ケア、呼吸管理も欠かせません。

再発リスク因子予防策
不十分な修復ヘルニア門の完全閉鎖
周囲組織の脆弱性人工材料の使用

外傷性および医原性横隔膜ヘルニアでは、原疾患や全身状態に応じた慎重なフォローアップが必要です。再発の早期発見と適切な対処により、良好な予後が期待できます。

治療費

横隔膜ヘルニアの治療費は、症状や治療方法によって大きく異なりますが、一般的に高額となる傾向があります。

初診料および再診料

横隔膜ヘルニアの診断および経過観察のための初診料は、病院の規模や地域によって異なりますが、2,910円~5,410円程度が一般的で、 再診料は750円~2,660円程度です。

検査費

横隔膜ヘルニアの診断には、胸部レントゲン検査やCT検査、上部消化管造影検査などが行われます。これらの検査費用は、合わせて数万円から10万円程度となることがあります。

検査種類費用目安
胸部レントゲン検査2,100円~4,000円/回
CT検査14,700円~20,700円/回

処置費および入院費

横隔膜ヘルニアの治療では、外科的手術が必要となる場合があります。手術費用は、病型や手術方法によって異なりますが、数十万円から100万円以上となることもあります。

治療内容費用目安
外科的手術横隔膜縫合術:334,600円+諸経費

現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。 各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。 1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。 手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。 (投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

計算式は下記の通りです。

「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

DPC名 横隔膜腫瘍・横隔膜疾患(新生児を含む。) 手術あり
日数 14
医療機関別係数 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
総医療費 ¥346,920 +出来高計算分

以上

参考にした論文