呼吸器疾患の一種である慢性好酸球性肺炎(まんせいこうさんきゅうせいはいえん)とは、原因不明の肺の炎症性疾患で主に中年女性に発症します。

慢性好酸球性肺炎は数週間から数ヶ月にわたって徐々に進行する咳、息切れ、発熱などの症状が顕著で、胸部X線写真では特徴的な陰影を示します。

好酸球という白血球の一種が肺に集積することで炎症が引き起こされますが、その原因は明らかになっていません。

主要な症状と特徴について

慢性好酸球性肺炎の主症状は咳嗽、呼吸困難、発熱であり、これらの症状は数週間から数ヶ月にわたって徐々に進行します。倦怠感や体重減少を伴うケースも見られるでしょう。

咳嗽

慢性好酸球性肺炎(まんせいこうさんきゅうせいはいえん)患者さんの大多数は乾性咳嗽を呈します。この咳嗽は当初は軽度ですが、徐々に増悪して夜間や早朝に悪化する傾向があるのです。

咳嗽は病状の進行とともに湿性へと変化していき、痰を伴うようになることもあります。

症状特徴
咳嗽乾性から湿性へ変化
咳嗽の悪化時間帯夜間や早朝

呼吸困難

慢性好酸球性肺炎の進行に伴い呼吸困難が出現するでしょう。症状発症当初は軽度で労作時のみですが、徐々に増悪していき安静時にも呼吸困難を感じるようになります。

呼吸困難は病状の重症度を反映しており、適切な治療が必要です。

症状特徴
呼吸困難労作時から安静時へ進行
呼吸困難の程度病状の重症度を反映

発熱

慢性好酸球性肺炎患者の約半数は発熱を呈します。通常は37.5℃以下の微熱ですが、時に38℃以上の高熱を示すでしょう。発熱は肺の炎症を反映しており、治療によって改善します。

症状特徴
発熱通常は微熱
高熱時に38℃以上

その他の症状

慢性好酸球性肺炎を発症すると、上記以外にも現れる可能性がある全身症状は次の通りです。

  • 倦怠感
  • 体重減少
  • 呼吸音の異常(捻髪音、湿性ラ音)
  • 胸部不快感
  • 関節痛
  • 筋肉痛

これらの症状は非特異的ですが、慢性好酸球性肺炎の診断の手がかりとなります。

原因と発症メカニズムについて

慢性好酸球性肺炎の正確な原因は不明ですが、アレルギー反応や免疫学的機序が関与していると考えられています。また、一部の症例では、感染症や薬剤が発症の引き金となる可能性も見られるのです。

性好酸球性肺炎の発症メカニズムの解明は新たな治療法の開発につながると期待されているのが現状です。

アレルギー反応の関与

慢性好酸球性肺炎の患者さんの多くは気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を合併しています。

このことから、アレルギー反応が慢性好酸球性肺炎の発症に関与していると考えられているのです。

アレルギー疾患合併頻度
気管支喘息約50%
アレルギー性鼻炎約30%

免疫学的機序の関与

慢性好酸球性肺炎の発症にはTh2細胞とIL-5などのサイトカインも重要な役割を果たしていると考えられているのです。

Th2細胞はIL-5を産生して好酸球の活性化と集積を促進します。また、好酸球自身もIL-5を産生して自己増殖と活性化を促進するのです。

免疫学的因子役割
Th2細胞IL-5の産生を介した好酸球の活性化と集積
IL-5好酸球の活性化、自己増殖、生存延長

感染症の関与

一部の慢性好酸球性肺炎患者さんでは感染症が発症の引き金となる可能性があります。特に真菌感染症や寄生虫感染症との関連が示唆されています。

ただし感染症と慢性好酸球性肺炎の因果関係は明確ではありません。

  • 真菌感染症(アスペルギルス症、クリプトコックス症など)
  • 寄生虫感染症(トキソカラ症、ストロンギロイデス症など)

薬剤の関与

まれに特定の薬剤が慢性好酸球性肺炎の発症に関与することがあります。

具体的には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗菌薬、抗てんかん薬などが報告されていますが、因果関係は不明です。

薬剤報告例
NSAIDsあり
抗菌薬あり
抗てんかん薬あり

診察と診断の重要なポイントについて

慢性好酸球性肺炎の診断には一般的な診察の他に画像検査、気管支肺胞洗浄(BAL)、肺生検などが重要な役割を果たします。

特に特徴的な画像所見と気管支肺胞洗浄液での好酸球増多が診断の決め手となるでしょう。

詳細な病歴聴取

慢性好酸球性肺炎の診断において詳細な病歴聴取は非常に重要です。特に以下のような点に注目して問診を行います。

問診項目重要性
呼吸器症状(咳嗽、呼吸困難、喀痰など)の経過高い
喘息やアレルギー疾患の既往歴高い
薬剤の使用歴中程度
職業歴や環境曝露歴中程度

身体所見

慢性好酸球性肺炎の患者さんに認められる身体所見は次の通りです。

身体所見頻度
呼吸音の異常(捻髪音、湿性ラ音)比較的高い
チアノーゼ低い
ばち指低い
リンパ節腫脹低い

画像検査

慢性好酸球性肺炎の画像検査では胸部X線写真とCTが有用で、以下のような特徴的な所見が認められます。

画像検査特徴的所見
胸部X線写真末梢優位の浸潤影、空洞形成を伴うことあり
胸部CT末梢優位のすりガラス影、浸潤影、葉間裂に沿った分布

気管支肺胞洗浄(BAL)

慢性好酸球性肺炎の診断には気管支肺胞洗浄(BAL)が重要です。

BAL液ではリンパ球増多を伴う好酸球増多(通常40%以上)が認められます。また、好酸球性サイトカイン(IL-5など)の上昇も特徴的です。

  • BAL液の好酸球増多(通常40%以上)
  • リンパ球増多を伴う
  • 好酸球性サイトカイン(IL-5など)の上昇

画像検査の特徴的所見について

慢性好酸球性肺炎の画像検査では胸部X線写真とCTが有用であり、いくつかの特徴的な所見が診断や病勢の評価に重要な役割を果たします。

また、他の疾患との鑑別が必要であり、画像所見のみでなく臨床所見や他の検査結果を総合的に判断することが重要となります。

胸部X線写真

慢性好酸球性肺炎患者さんの胸部X線写真では両側性の末梢優位の浸潤影が特徴的です。

これらの浸潤影はしばしば空洞形成を伴います。また、胸水や胸膜肥厚を伴うこともるでしょう。

所見特徴
末梢優位の浸潤影両側性、対称性
空洞形成浸潤影内に認められることあり
胸水少量から中等量
胸膜肥厚胸膜直下の浸潤影に伴って認められることあり
Crowe, Matthew et al. “Chronic eosinophilic pneumonia: clinical perspectives.” Therapeutics and clinical risk management vol. 15 397-403. 13 Mar. 2019,

所見:右上肺野・末梢優位に浸潤影の広がりを認め、CEPとして合致する所見である。

胸部CT

胸部CTでは胸部X線写真よりもさらに詳細な所見が得られます。慢性好酸球性肺炎で認められる所見は以下のようなものです。

所見特徴
すりガラス影、浸潤影末梢優位、両側性
葉間裂に沿った分布特徴的所見
気管支壁肥厚末梢気管支優位
小葉中心性の結節影散在性
Crowe, Matthew et al. “Chronic eosinophilic pneumonia: clinical perspectives.” Therapeutics and clinical risk management vol. 15 397-403. 13 Mar. 2019,

所見:右側・上葉・末梢優位に両肺すりガラス影~浸潤影を気管支透亮像伴って認め、CEPとして説明可能な所見である。

画像所見の経時的変化

慢性好酸球性肺炎の画像所見は病期によって変化するのです。急性期にはすりガラス影や浸潤影が主体ですが、亜急性期から慢性期にかけては浸潤影の消退とともに線維化や牽引性気管支拡張が出現します。

  • 急性期:すりガラス影、浸潤影が主体
  • 亜急性期から慢性期:浸潤影の消退、線維化、牽引性気管支拡張の出現

他の疾患との鑑別

慢性好酸球性肺炎の画像所見は他の間質性肺炎や感染症、肺癌などとの鑑別が必要です。特に以下の疾患との鑑別が重要になります。

  • 特発性器質化肺炎
  • 過敏性肺炎
  • サルコイドーシス
  • 肺胞蛋白症
  • 肺癌(特に胸膜直下の病変)

画像所見のみでの鑑別は困難なことが多いため、臨床所見や気管支肺胞洗浄液の所見などを総合的に判断する必要があるでしょう。

治療方法と薬物療法について

慢性好酸球性肺炎の治療はステロイド薬が第一選択であり、多くの患者さんは数週間から数ヶ月の治療で寛解に至ります。

ステロイド薬の投与

慢性好酸球性肺炎の治療にはステロイド薬の全身投与が有効です。一般的にはプレドニゾロン(0.5-1 mg/kg/日)の経口投与が行われます。

症状や画像所見の改善が得られるまでこの用量を継続し、その後は徐々に減量する方法がよいでしょう。

ステロイド薬投与経路初期用量
プレドニゾロン経口0.5-1 mg/kg/日
メチルプレドニゾロン点滴静注500-1000 mg/日(パルス療法)

重症例や経口投与が困難な場合は、メチルプレドニゾロンのパルス療法(500-1000 mg/日、3日間)が行われることもあります。

治療期間と寛解までの期間

ステロイド薬の投与期間は症状や画像所見の改善度によって異なりますが、通常は2~3ヶ月程度です。

多くの患者さんは治療開始後数日から数週間で症状の改善が得られ、数週間から数ヶ月で寛解に至ります。

項目期間
症状の改善数日から数週間
寛解数週間から数ヶ月
ステロイド薬の投与期間2-3ヶ月程度

再発の防止と長期管理

慢性好酸球性肺炎は治療終了後も再発が多い疾患の一つです。再発を防ぐためにはステロイド薬の漸減と中止後の経過観察が重要になります。

  • ステロイド薬の漸減:寛解後、2-3ヶ月かけて徐々に減量
  • 中止後の経過観察:定期的な胸部X線写真や血液検査による評価

再発時は速やかにステロイド薬を再開し、症状や画像所見の改善を図ることになります。

それでも頻回に再発する場合は低用量のステロイド薬の長期投与が考慮されるでしょう。

再発時の対応内容
ステロイド薬の再開症状や画像所見に応じて用量を調整
低用量ステロイド薬の長期投与再発を抑制するために考慮

その他の治療法

ステロイド薬が無効な場合や副作用のため使用できない場合は、以下のような治療法が検討されます。

  • 免疫抑制薬(シクロスポリン、アザチオプリンなど)
  • 生物学的製剤(メポリズマブ、ベンラリズマブなど)
  • 好酸球吸着療法

ただしこれらの治療法の有効性は十分に確立されていないため専門医との相談が必要です。

治療の副作用とリスクについて

慢性好酸球性肺炎の治療に用いられるステロイド薬は非常に有効ですが、長期使用に伴う様々な副作用やリスクが存在します。これらの副作用やリスクを理解し、適切に管理することが重要です。

ステロイド薬の全身性副作用

慢性好酸球性肺炎の治療に用いられるステロイド薬は、全身性の副作用を引き起こす可能性があります。主な副作用は以下の通りです。

副作用リスク管理
骨粗鬆症骨密度測定、カルシウムとビタミンDの補充
糖尿病血糖モニタリング、食事療法、運動療法
高血圧血圧モニタリング、生活習慣の改善、降圧薬の使用
感染症のリスク増加感染症の早期発見と治療、予防接種
消化性潰瘍消化器症状のモニタリング、制酸薬の使用
精神症状症状のモニタリング、必要に応じて精神科受診
白内障、緑内障定期的な眼科検診
満月様顔貌、体重増加食事療法、運動療法

ステロイド薬の局所的副作用

吸入ステロイド薬を使用する場合、以下のような局所的な副作用が生じることがあります。

  • 口腔カンジダ症
  • 嗄声
  • 咽頭刺激感

これらの副作用は吸入手技の指導や含嗽により予防・軽減することができるでしょう。

ステロイド薬の減量・中止時の注意点

ステロイド薬を長期間使用した後、急激に減量・中止すると副腎不全などの症状が現れる可能性も否めません。そのためステロイド薬の減量・中止は、医師の指導の下で徐々に行う必要があります。

  • 減量・中止時の症状:倦怠感、筋肉痛、関節痛、低血圧など
  • 減量・中止の方法:1-2ヶ月かけて徐々に減量、症状に応じて調整

その他の治療法の副作用とリスク

免疫抑制薬や生物学的製剤などの治療法も副作用やリスクを伴います。

免疫抑制薬感染症のリスク増加、腎機能障害、肝機能障害など
生物学的製剤アレルギー反応、感染症のリスク増加など

定期的なモニタリングと患者さんの指導を通じて、副作用やリスクを最小限に抑えながら効果的な治療を行うことが求められるのです。

慢性好酸球性肺炎における再発リスクと予防策

慢性好酸球性肺炎は適切な治療により寛解が得られても、再発が多い疾患です。再発を予防するためには、長期的なステロイド薬の管理、環境因子の回避、定期的なフォローアップが重要となります。

患者さん自身が再発のリスク因子を理解し、積極的に予防策を実践することが求められるでしょう。

再発のリスク因子

慢性好酸球性肺炎の再発には以下のようなリスク因子が関与していると考えられています。

リスク因子再発リスク
ステロイド薬の早期減量・中止高い
喫煙の継続高い
アレルギー疾患の合併中等度
環境因子への曝露(粉塵、化学物質など)中等度

ステロイド薬の長期管理

再発予防のためにはステロイド薬の適切な長期管理が不可欠です。ステロイド薬の減量・中止は徐々に行い、症状の再燃がないことを確認しながら進めます。

  • ステロイド薬の減量:2-3ヶ月かけて徐々に減量
  • 低用量ステロイド薬の維持療法:再発リスクの高い患者では考慮
ステロイド薬の管理目的
徐々な減量再発リスクの低減
低用量維持療法再発予防

環境因子の回避

喫煙や環境因子への曝露は慢性好酸球性肺炎の再発リスクを高めることになりかねません。これらの因子を回避することが再発予防にとって重要です。

環境因子回避方法
喫煙禁煙
粉塵、化学物質マスクの着用、換気の徹底
室内環境空気清浄機の使用

定期的なフォローアップ

慢性好酸球性肺炎の再発を早期に発見して適切に対処するためには、定期的なフォローアップが必要です。フォローアップでは、以下のような評価を行います。

  • 症状の評価(咳嗽、呼吸困難など)
  • 身体所見(呼吸音、バイタルサインなど)
  • 画像検査(胸部X線写真、CT など)
  • 呼吸機能検査
  • 血液検査(好酸球数、CRP など)

フォローアップの頻度は患者さんの状態や再発リスクに応じて個別に設定しなければなりません。

治療費について

初診料と再診料

慢性好酸球性肺炎の診療では初診時に2,910円~5,410円程度、再診時に750円~2,660円程度の費用がかかるでしょう。

項目費用
初診料2,910円~5,410円
再診料750円~2,660円

検査費

慢性好酸球性肺炎の診断や評価に必要な検査には血液検査、画像検査、呼吸機能検査などがあり、これらの検査費用は数万円から10万円以上です。

検査費用
血液検査54,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合)
画像検査(胸部X線、CT)(胸部X線検査)2,100円~5,620円、(胸部CT検査)14,700円~20,700円
呼吸機能検査5,002,300円~5,700円

入院費

重症の慢性好酸球性肺炎患者さんは入院治療が必要となる場合があります。入院費は施設によっても差がありますが、1日あたり1万円から3万円程度となるでしょう。

入院費用
一般病棟1万円〜3万円/日
集中治療室(ICU)5万円〜10万円/日

詳細としては、現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

例えば、14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

DPC 3 8
DPC名: その他の呼吸器の障害
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥339,050 +出来高計算分

その他の費用

慢性好酸球性肺炎の治療では、ステロイド薬や吸入薬などの薬剤費も発生します。

以上

参考にした論文