心タンポナーデとは、心臓を包んでいる心膜に血液や体液が貯まることで、心臓が圧迫されてしまう病態のことを指します。

心膜に液体が溜まると心臓が圧迫されるため、心臓が十分に拡張できなくなり、血液を全身に送り出すポンプ機能が損なわれてしまいます。

その結果、血圧が低下したり、呼吸困難や失神などの症状が現れたりすることがあります。 心タンポナーデは、心臓の働きに直接影響を及ぼす重篤な病態であり、早期の発見と対応が非常に重要となります。

心タンポナーデの主症状

心タンポナーデの主症状は、呼吸困難、頻脈、低血圧の3つに集約されます。

ベック三徴と呼ばれる心タンポナーデの代表的な症状

心タンポナーデの代表的な症状は、ベック三徴と呼ばれ、以下の3つが挙げられます。

  1. 頸静脈怒張:心臓への血液の戻りが悪くなることで、頸部の静脈が怒張し、うっ血が見られます
  2. 低血圧:心臓が圧迫されることで、全身に血液を送り出すポンプ機能が低下し、血圧が下がります
  3. 心音微弱化:心膜に貯留した液体により心臓の音が聞こえにくくなる現象が見られます

これらの症状が揃って出現する場合、心タンポナーデの可能性が高いと考えられます。

症状詳細
頸静脈怒張頸部の静脈のうっ血
低血圧心臓のポンプ機能低下

呼吸困難と頻脈

心タンポナーデでは、心臓が圧迫されることで心拍出量が減少し、全身への血流が低下します。

その結果、体内の酸素供給が不足し、呼吸困難を引き起こします。呼吸困難は心タンポナーデの初期症状として現れることが多く、症状が進行するにつれて増悪していきます。

また、心拍出量の低下を補うために、心拍数が増加し、頻脈が見られることも特徴的な症状の一つです。

症状機序
呼吸困難心拍出量減少による酸素供給不足
頻脈心拍出量低下の代償作用

血圧低下と末梢循環不全

心タンポナーデが進行すると、心臓が十分に拡張できなくなり、全身への血液の送り出しが妨げられます。その結果、血圧が低下し、ショック状態に陥ることがあります。

血圧低下に伴い、末梢循環不全も生じ、以下のような症状が見られることがあります。

  • 四肢の冷感
  • チアノーゼ(皮膚や粘膜の青紫色の変色)
  • 尿量減少

これらの症状は、心タンポナーデが重篤な状態に至っていることを示唆しており、迅速な対応が必要とされます。

失神と意識障害

心タンポナーデが重症化すると、脳への血流が著しく低下し、失神や意識障害を引き起こすことがあります。

失神は、一過性の意識消失であり、脳への血流が一時的に途絶えることで生じます。一方、意識障害は、脳への持続的な血流低下により引き起こされ、昏睡状態に至ることもあります。

これらの症状が見られた場合、心タンポナーデが生命を脅かす状態に至っている可能性が高く、緊急の処置が不可欠です。

心タンポナーデの主症状は、呼吸困難、頻脈、低血圧を中心とした多彩な症状が見られることが特徴です。これらの症状は、心タンポナーデの進行とともに増悪し、重篤な状態へと移行していきます。

心タンポナーデが疑われる場合、速やかな診断と適切な対応が求められます。

心タンポナーデの原因やきっかけ

心タンポナーデの原因は多岐にわたり、心臓や心膜の疾患、全身性疾患、医原性など様々な要因が関与します。

これらの原因により心膜腔に液体が貯留し、心膜内圧が上昇することで、心臓のポンプ機能が低下し、心タンポナーデを引き起こします。

心臓や心膜の疾患による心タンポナーデ

心臓や心膜に直接影響を及ぼす疾患は、心タンポナーデの主要な原因の一つです。

代表的な疾患としては、心筋梗塞、大動脈解離、心膜炎などが挙げられます。これらの疾患により、心臓や心膜に損傷が生じ、出血や滲出液の貯留が起こることで心タンポナーデを引き起こします。

疾患機序
心筋梗塞冠動脈の閉塞による心筋の壊死と破裂
大動脈解離大動脈内膜の亀裂により生じる出血

全身性疾患に伴う心タンポナーデ

心臓や心膜以外の全身性疾患も、心タンポナーデの原因となり得ます。

例えば、自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスなど)、感染症(結核、ウイルス感染など)、悪性腫瘍の心膜転移などがあります。

全身性の炎症や腫瘍細胞の浸潤により、心膜の炎症や滲出液の貯留が生じ、心タンポナーデを引き起こすことがあります。

医原性の心タンポナーデ

医療行為に伴う合併症としても心タンポナーデが発生する場合があります。

心臓カテーテル検査や心臓手術、中心静脈カテーテル挿入などの侵襲的な処置において、心臓や心膜の損傷が生じると、出血性の心タンポナーデを引き起こすリスクがあります。

また、抗凝固療法や血栓溶解療法などの薬物治療に伴う出血性合併症としても心タンポナーデが生じることがあります。

医療行為リスク
心臓カテーテル検査心臓や冠動脈の損傷
中心静脈カテーテル挿入心臓や大血管の損傷

心タンポナーデの発症メカニズム

心タンポナーデの発症メカニズムは、以下の過程を経て進行します。

  1. 心膜腔への液体貯留:心臓や心膜の損傷、炎症、腫瘍浸潤などにより、心膜腔に血液や滲出液が貯留します
  2. 心膜内圧の上昇:心膜腔の液体貯留が進行すると、心膜内圧が上昇し、心臓が圧迫されます
  3. 心臓のポンプ機能低下:心臓の拡張が制限され、心室の充満が妨げられることで、心拍出量が低下します
  4. 循環不全の進行:心拍出量の低下により、全身の循環不全が進行し、重篤な症状を引き起こします

医療機関での診察と診断

心タンポナーデの診断には、病歴聴取、身体診察、心電図検査、心エコー検査、CT検査などを組み合わせた総合的な評価が必要です。

中でも、心エコー検査は心タンポナーデの診断と重症度評価において中心的な役割を担います。

病歴聴取と身体診察

心タンポナーデが疑われる患者さんに対しては、まず詳細な病歴聴取を行います。

心タンポナーデを引き起こし得る基礎疾患の有無、胸痛や呼吸困難などの症状の発現時期や経過、心臓手術や侵襲的な処置の既往歴などを確認することが大切です。

身体診察では、ベック三徴(頸静脈怒張、低血圧、心音微弱化)の有無を評価します。また、呼吸状態や末梢循環の評価も重要な所見となります。

評価項目重要性
病歴聴取基礎疾患や症状の経過を把握
身体診察ベック三徴や循環状態の評価

心電図検査

心電図検査は、心タンポナーデの診断に有用な検査の一つです。

心タンポナーデでは、低電位差、電気的交互脈(electrical alternans)、洞性頻脈などの所見が見られることがあります。

ただし、心電図所見は心タンポナーデに特異的ではないため、他の検査所見と組み合わせて総合的に判断する必要があります。

心エコー検査

心エコー検査は、心タンポナーデの診断において極めて重要な検査です。

心エコー検査では、心膜腔の液体貯留の有無や量、心室の虚脱所見、下大静脈の拡張や呼吸性変動の消失などの特徴的な所見を評価します。

また、心エコー検査は心タンポナーデの重症度評価にも有用であり、以下の所見がある場合は重症度が高いと判断されます。

  • 右室の虚脱が心周期の1/3以上
  • 左室の虚脱所見
  • 下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失

心エコー検査は、心タンポナーデの診断と重症度評価に不可欠な検査法と言えます。

検査評価項目
心エコー検査心膜液貯留、心室虚脱、下大静脈所見
心電図検査低電位差、電気的交互脈、洞性頻脈

CT検査

CT検査は、心膜液貯留の評価に加えて、心タンポナーデの原因疾患の診断にも有用です。

特に、大動脈解離や悪性腫瘍の心膜転移、肺血栓塞栓症などの心タンポナーデの原因となる疾患の評価において重要な役割を果たします。

また、心エコー検査で評価が困難な症例や、心タンポナーデの重症度がより高い症例では、CT検査による詳細な評価が必要となることがあります。

心タンポナーデの特徴的な画像所見

心タンポナーデの画像診断では、心エコー検査とCT検査が中心的な役割を果たし、心膜液貯留や心臓圧迫所見などの特徴的な所見を捉えることが重要です。

心エコー検査における心タンポナーデの所見

心エコー検査は、心タンポナーデの診断において第一選択となる画像検査です。

典型的な心タンポナーデの心エコー所見としては、心膜腔への液体貯留、右室の虚脱、下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失などが挙げられます。

心膜液貯留は、心臓の周囲に無エコー領域として描出され、量が多い場合は全周性に認められます。

右室虚脱は、心膜液貯留による心外性の圧迫により生じ、右室の拡張が制限される所見です。重症例では、右室の虚脱が心周期の1/3以上の期間で認められることがあります。

所見意義
心膜液貯留心タンポナーデの主要所見
右室虚脱心外性圧迫による右室拡張制限
Pericardial Effusion-> Tamponade? ~ Ultrasound Cases Info (ultrasound-cases.blogspot.com)より引用

所見:拡張期の右心室の陥没を伴う心嚢液貯留を認め、心タンポナーデを疑う所見である。

CT検査における心タンポナーデの所見

CT検査は、心膜液貯留の評価に加えて、心タンポナーデの原因疾患の診断にも有用です。

心タンポナーデのCT所見としては、心膜腔への液体貯留、心室の変形、下大静脈の拡張などが特徴的です。

心膜液貯留は、心臓周囲の低吸収域として描出され、量が多い場合は心臓を取り囲むように認められます。

また、CT検査では心タンポナーデの原因となる疾患の評価も可能であり、以下のような所見が認められる場合があります。

  • 大動脈解離:大動脈壁の解離と偽腔の形成
  • 悪性腫瘍の心膜転移:心膜への腫瘤性病変の浸潤
  • 肺血栓塞栓症:肺動脈内の血栓の存在

CT検査は、心タンポナーデの診断と原因疾患の評価において重要な役割を担っています。

Case courtesy of Rade Kovač, Radiopaedia.org. From the case rID: 78607

所見:心臓周囲に軽度高吸収の領域が認められ、血性心嚢水貯留、心タンポナーデとして説明可能な所見である。

MRI検査における心タンポナーデの所見

MRI検査は、心タンポナーデの診断において心エコー検査やCT検査ほど一般的ではありませんが、心膜液の性状評価や心筋の評価に有用です。

心タンポナーデのMRI所見としては、T1強調画像とT2強調画像における心膜液貯留の高信号、心室の変形、下大静脈の拡張などが挙げられます。

心膜液の性状評価では、T1強調画像とT2強調画像の信号パターンから、滲出液や血液の鑑別が可能となることがあります。

撮影法評価項目
T1強調画像心膜液の高信号、性状評価
T2強調画像心膜液の高信号、性状評価
Rajiah, Prabhakar. “Cardiac MRI: Part 2, pericardial diseases.” AJR. American journal of roentgenology vol. 197,4 (2011): W621-34.

所見:右房と左室に隣接して高信号強度を有する2つの限局性胸水(矢印)が認められる。さらに、拡張期に右房壁の虚脱がみられ(矢頭)、局所性心タンポナーデを示している所見である。

心タンポナーデの重症度評価における画像所見

心タンポナーデの重症度評価においても、画像検査は重要な役割を果たします。

心エコー検査では、右室虚脱の程度と duration、左室の虚脱所見、下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失などが重症度評価の指標となります。

CT検査やMRI検査では、心膜液貯留量の定量評価や心室の変形の程度評価が重症度の判断に寄与します。

これらの画像所見を総合的に評価することで、心タンポナーデの重症度を適切に判断し、治療方針の決定につなげることが可能となります。

心タンポナーデの治療戦略と予後

心タンポナーデの治療では、心膜液排液と原因疾患の治療を組み合わせた適切な治療戦略が重要です。

早期の診断と治療介入、原因疾患に応じた適切な治療の継続が、予後の改善と再発防止につながります。

心タンポナーデの治癒までの期間は症例によって大きく異なりますが、適切な治療とフォローアップにより、多くの患者さんが良好な経過をたどることが期待できます。

心膜穿刺と心膜ドレナージ

心タンポナーデの初期治療として、心膜穿刺と心膜ドレナージが行われます。

心膜穿刺は、局所麻酔下に心膜腔に穿刺針を刺入し、心膜液を排液する手技です。超音波ガイド下で行うことで、安全性と正確性が向上します。

急性の心タンポナーデでは、心膜穿刺により症状の改善が得られることが多いですが、再貯留のリスクがあるため、持続的なドレナージが必要となる場合があります。

心膜ドレナージは、心膜腔にカテーテルを留置し、持続的に心膜液を排液する手技です。ドレナージの期間は、心膜液の性状や量、原因疾患などによって異なりますが、数日から数週間程度が一般的です。

手技目的
心膜穿刺心膜液の排液
心膜ドレナージ持続的な心膜液排液

外科的治療

心膜液の再貯留を繰り返す症例や、心膜ドレナージでは改善が得られない症例では、外科的治療が考慮されます。

外科的治療としては、心膜開窓術と心膜切除術があります。心膜開窓術は、心膜に小さな開窓を作成し、心膜液の排出路を確保する手術です。

心膜切除術は、心膜の一部を切除することで、心膜腔の癒着を防ぎ、再貯留を予防する手術です。

これらの外科的治療は、心タンポナーデの再発予防に有効ですが、侵襲性が高いため、患者さんの全身状態や原因疾患を考慮して適応を判断する必要があります。

原因疾患の治療

心タンポナーデの根本的な治療のためには、原因疾患の特定と治療が不可欠です。

心タンポナーデの原因疾患は多岐にわたりますが、代表的なものとしては以下のようなものがあります。

  • 悪性腫瘍:化学療法や放射線療法などの腫瘍に対する治療
  • 感染症:抗菌薬や抗ウイルス薬などの感染症治療
  • 自己免疫疾患:ステロイドや免疫抑制薬などの免疫調整療法
  • 外傷性:外科的修復や止血処置などの外傷に対する治療

原因疾患に応じた適切な治療を行うことで、心タンポナーデの再発を防ぎ、予後の改善につなげることが可能となります。

原因疾患治療法
悪性腫瘍化学療法、放射線療法
感染症抗菌薬、抗ウイルス薬

予後と治癒までの期間

心タンポナーデの予後は、原因疾患や重症度、治療介入のタイミングなどによって大きく異なります。

急性の心タンポナーデでは、早期の心膜液排液により循環動態が改善し、比較的良好な予後が期待できます。一方、慢性の心タンポナーデや悪性腫瘍に伴う心タンポナーデでは、原因疾患のコントロールが困難な場合があり、予後不良となることがあります。

治癒までの期間も、原因疾患や病態によって大きく異なります。

急性の心タンポナーデでは、心膜液排液後数日から数週間程度で症状が改善し、治癒に至ることが多いです。

慢性の心タンポナーデや原因疾患が難治性の場合は、治療が長期化することがあり、数ヶ月から数年にわたる経過観察が必要となる場合もあります。

治療の副作用やデメリット(リスク)

心タンポナーデの治療には、心膜穿刺・ドレナージ、外科的治療、薬物療法など、様々な選択肢がありますが、いずれの治療法にも副作用やリスクが伴います。

治療に伴う合併症や患者負担を最小限に抑えつつ、原因疾患に応じた適切な治療を提供することが重要です。

心膜穿刺と心膜ドレナージの合併症

心膜穿刺と心膜ドレナージは、心タンポナーデの初期治療として広く行われていますが、手技に伴う合併症のリスクがあります。

代表的な合併症としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 心臓や冠動脈の損傷:穿刺針やカテーテルによる心臓や冠動脈の損傷により、出血や心筋梗塞を引き起こす可能性があります
  • 気胸:穿刺針が肺を損傷することで、気胸を生じる場合があります
  • 感染:手技に伴う感染のリスクがあり、心膜炎や敗血症などの重篤な感染症を引き起こすことがあります
  • 不整脈:手技による刺激で、不整脈が誘発される可能性があります

これらの合併症は、手技の熟練度や超音波ガイドの使用などにより、リスクを軽減することが可能ですが、完全に避けることはできません。

合併症リスク因子
心臓・冠動脈損傷手技の未熟練、解剖学的変異
気胸肺の損傷、解剖学的変異

外科的治療の侵襲性と合併症

心膜開窓術や心膜切除術などの外科的治療は、心タンポナーデの再発予防に有効ですが、侵襲性が高く、合併症のリスクが伴います。

外科的治療の主な合併症としては、以下のようなものがあります。

出血手術操作による出血のリスクがあり、大量出血を来たす可能性があります
感染手術部位の感染により、創部感染や心内膜炎などを引き起こすことがあります
不整脈手術操作による刺激で、不整脈が誘発される場合があります
呼吸器合併症全身麻酔や手術侵襲により、無気肺や肺炎などの呼吸器合併症を生じることがあります

外科的治療の適応は、患者さんの全身状態や原因疾患を考慮して慎重に判断する必要があります。

薬物療法の副作用

心タンポナーデの原因疾患に対する薬物療法では、各薬剤特有の副作用に注意が必要です。

例えば、悪性腫瘍に対する化学療法では、骨髄抑制、消化器症状、末梢神経障害などの副作用が生じることがあります。

感染症に対する抗菌薬治療では、アレルギー反応や消化器症状、肝機能障害などの副作用が問題となる場合があります。

また、自己免疫疾患に対するステロイドや免疫抑制薬の使用では、易感染性、糖尿病、骨粗鬆症などの副作用のリスクがあります。

薬物療法主な副作用
化学療法骨髄抑制、消化器症状、末梢神経障害
抗菌薬治療アレルギー反応、消化器症状、肝機能障害

治療に伴う患者負担

心タンポナーデの治療では、身体的な侵襲や副作用のみならず、精神的・経済的な負担も大きな問題となります。

入院治療や外来通院による日常生活の制限、治療費の負担、再発に対する不安などは、患者さんやご家族の大きなストレスとなり得ます。

また、原因疾患が難治性の場合は、長期にわたる治療が必要となり、身体的・精神的な疲弊を招くことがあります。

心タンポナーデの再発リスクと予防戦略

心タンポナーデの再発リスクは、原因疾患や病態によって異なりますが、いずれの場合も再発予防のための適切なフォローアップと原因疾患の管理が重要となります。

定期的な評価と治療介入、患者さんの生活指導と教育を通して、心タンポナーデの再発を防ぎ、患者さんのQOLの維持と向上を目指すことが求められます。

再発リスクの評価

心タンポナーデの再発リスクは、原因疾患や病態によって大きく異なります。

例えば、特発性の心タンポナーデや感染症に伴う心タンポナーデでは、治療後の再発リスクは比較的低いとされています。

一方、悪性腫瘍に伴う心タンポナーデや自己免疫疾患に伴う心タンポナーデでは、原因疾患のコントロールが不十分な場合、再発リスクが高くなることがあります。

また、心膜液の性状や量、ドレナージ後の再貯留の有無なども、再発リスクを評価する上で重要な因子となります。

原因疾患再発リスク
特発性低い
感染症比較的低い
悪性腫瘍高い
自己免疫疾患高い

再発予防のためのフォローアップ

心タンポナーデの再発予防には、定期的なフォローアップが欠かせません。

フォローアップの間隔や内容は、原因疾患や再発リスクに応じて個別に設定されますが、一般的には以下のような項目が含まれます。

  • 症状の評価:呼吸困難や胸痛などの症状の有無を確認します
  • 身体所見:血圧、脈拍、呼吸状態などを評価します
  • 画像検査:心エコー検査やCT検査により、心膜液の再貯留の有無を確認します
  • 血液検査:炎症反応や腫瘍マーカーなど、原因疾患に関連する検査を行います

定期的なフォローアップにより、心タンポナーデの再発を早期に発見し、適切な治療介入を行うことが可能となります。

原因疾患の管理

心タンポナーデの再発予防には、原因疾患の適切な管理が不可欠です。

悪性腫瘍に伴う心タンポナーデでは、腫瘍に対する治療の継続と効果的なコントロールが重要となります。化学療法や放射線療法、分子標的薬の使用など、個々の症例に応じた最適な治療戦略を立てる必要があります。

自己免疫疾患に伴う心タンポナーデでは、原疾患の活動性を抑制することが再発予防につながります。ステロイドや免疫抑制薬の適切な使用、病勢のモニタリングと薬剤調整などが求められます。

原因疾患管理方法
悪性腫瘍腫瘍に対する治療の継続と効果的なコントロール
自己免疫疾患原疾患の活動性の抑制、ステロイドや免疫抑制薬の適切な使用

生活指導と患者教育

心タンポナーデの再発予防には、患者さん自身の生活習慣の改善と疾患管理への積極的な参加が重要です。

医療者は、以下のような生活指導と患者教育を行うことが求められます。

  • 症状の自己管理:呼吸困難や胸痛などの症状に対する注意喚起と早期受診の必要性の説明
  • 感染予防:手洗いの徹底や流行期のマスク着用など、感染予防策の指導
  • 服薬管理:原因疾患に対する薬物療法の重要性と服薬アドヒアランスの向上
  • 定期受診の遵守:フォローアップの重要性と定期受診の必要性の説明

患者さんの理解と協力を得ながら、再発予防のための包括的なアプローチを行うことが重要です。

治療費

心タンポナーデの診断と治療のために、初診料や再診料が発生します。初診料は、初めて医療機関を受診した際に課される費用で、再診料は2回目以降の受診時に発生する費用です。

費用項目金額
初診料2,910円~5,410円
再診料750円~2,660円

検査費

心タンポナーデの診断には、心エコー検査やCT検査などの画像検査が必要となります。これらの検査費用は、健康保険適用の場合、3割の自己負担となります。

検査項目金額
心エコー検査8,800円~20,100円
CT検査14,700円~20,700円

処置費

心タンポナーデの治療では、心膜穿刺や心膜ドレナージなどの処置が行われます。

  • 心膜穿刺:5,000円程度
  • 心膜ドレナージ:5,000円~6,600円程度/日

入院費

心タンポナーデの治療には、入院加療が必要となることが多く、入院費が発生します。入院費は、1日あたりの病室料と食事料、検査・処置・投薬などの費用を合わせたものとなります。

入院費は、病院や病室の種類、入院期間などによって異なりますが、1日あたり数万円から10万円以上となる場合があります。

例えば手術を伴う場合で、14日間入院の場合は下記の通りです。

DPC名 心・大血管損傷 手術あり
日数 14
医療機関別係数 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
総医療費 ¥541,940 +出来高計算分

なお、保険適用となると1割~3割の自己負担であり、高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。

以上

参考にした論文

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