気管支炎とは呼吸器疾患の一種で、気管支の粘膜に炎症が生じて咳や痰、発熱などの症状を引き起こす病気です。
気管支炎はその原因によっていくつかの種類に分類され、症状によって治癒や完治の難易度も変わってきます。
気管支炎の主な症状について
気管支炎の主な症状は、咳、痰、息切れ、喘鳴、胸痛などが挙げられます。
咳
気管支炎の最も特徴的な症状は持続的な咳です。
咳は気管支の炎症や分泌物の増加によって引き起こされ、特に夜間や早朝に悪化する傾向があります。
痰
気管支の炎症によって分泌が亢進して気道クリアランスが低下することで気管支炎を患うと粘稠度の高い痰が増加します。
痰の色は透明から黄色、緑色まで様々で、血液が混じった痰が見られることもあります。
また、痰の量も少量から多量まで患者さんによって異なります。
息切れ
気管支炎になると気道の炎症や分泌物の貯留によって息切れを感じることがあります。
この息切れは体動時や会話時に顕著となり、日常生活の質を低下させる要因となり得ます。
さらに重症例では安静時にも息切れが持続し、呼吸困難感を伴うことがあります。
喘鳴
気管支炎では気道の狭窄や分泌物の貯留によって喘鳴が聴取されることがあります。
喘鳴はヒューヒューやゼーゼーといった音として聴取され、呼吸困難感を伴うことが少なくありません。
気管支炎の種類(病型)と特徴的な症状
気管支炎は主に急性気管支炎、慢性気管支炎、感染性気管支炎、アレルギー性気管支炎、細菌性気管支炎の5つの病型に分類され、それぞれ特徴的な症状がでます。
急性気管支炎
急性気管支炎はウイルスや細菌の感染によって引き起こされる一時的な炎症状態であり、咳や痰、発熱などの症状が特徴的です。
| 急性気管支炎の原因 | ウイルス感染、細菌感染 | 
| 急性気管支炎の症状 | 咳、痰、発熱、呼吸困難 | 
慢性気管支炎
慢性気管支炎は長期間にわたって気管支の炎症が持続する病態であり、喫煙や大気汚染などの刺激物質への長期曝露が主な原因とされています。
慢性気管支炎はCOPDの一部として位置づけられており、肺気腫、呼吸不全、肺性心といった合併症も疑われます。
| 慢性気管支炎の原因 | 喫煙、大気汚染、粉塵曝露 | 
| 慢性気管支炎の症状 | 3か月以上の咳、痰、呼吸機能の低下 | 
感染性気管支炎
感染性気管支炎はウイルスや細菌の感染によって引き起こされる気管支の炎症であり、急性気管支炎と類似した症状を呈します。
| 感染性気管支炎の原因微生物 | インフルエンザウイルス、RSウイルス、肺炎球菌、インフルエンザ菌 | 
| 感染性気管支炎の症状 | 咳、痰、発熱、倦怠感 | 
アレルギー性気管支炎
アレルギー性気管支炎はアレルゲンに対する過敏反応によって引き起こされる気管支の炎症であり、喘息との関連が深いとされています。
| アレルギー性気管支炎の原因 | ハウスダスト、花粉、動物の毛、カビ | 
| アレルギー性気管支炎の症状 | 咳、喘鳴、呼吸困難 | 
気管支炎を引き起こす原因やきっかけについて
気管支炎を引き起こす原因やきっかけは主にウイルスや細菌の感染、喫煙、大気汚染などが挙げられます。
喫煙
喫煙は気管支炎の最も重要なリスク因子であり、特に慢性気管支炎の発症と密接に関連しています。
喫煙による気道への直接的な刺激は気管支の炎症を引き起こし、線毛機能の低下や粘液分泌の亢進を招きます。
ウイルス感染
気管支炎の最も一般的な原因はウイルス感染です。
| ウイルスの種類 | インフルエンザウイルス、RSウイルス、ライノウイルスなど | 
| 感染経路 | 飛沫感染、接触感染 | 
ウイルス感染による気管支炎は上気道炎に続発して発症することが多く、急性の経過をたどります。
細菌感染
気管支炎の原因となる細菌には以下のようなものがあります。
| 細菌の種類 | 肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、百日咳菌など | 
| 感染経路 | 飛沫感染、接触感染 | 
細菌感染による気管支炎はウイルス感染に続発して発症することもあれば、単独で発症することもあります。
大気汚染
大気汚染物質への曝露は気管支炎の発症リスクを高めることが知られています。大気中の粒子状物質や刺激性ガスは気道の炎症を引き起こし、気管支の過敏性を亢進させます。
特に工業地域や交通量の多い都市部では大気汚染による気管支炎の発症率が高くなる傾向があります。
気管支炎の診察と診断の流れについて
気管支炎はその病型によって原因や症状、経過が異なるため、現在の症状や病歴、身体所見、各種検査結果を総合的に評価して適切な診断と病型を下します。
問診
問診では症状や病歴について詳細にお聞きします。
具体的には咳の性状や持続期間、痰の有無や性状、呼吸困難の有無などを確認して症状の経過や悪化・軽快の要因を探ります。
また、気管支炎の診断には生活環境や職業、喫煙歴なども重要な情報となります。
| 問診項目 | 内容 | 
| 症状 | 咳、痰、呼吸困難、発熱など | 
| 病歴 | 呼吸器疾患の既往、喫煙歴、アレルギー歴など | 
身体診察
身体診察では全身状態を評価し、呼吸器系の異常所見を行います。
また、気管支炎は喘息との鑑別が重要となるため聴診による評価も不可欠です。
| 身体診察項目 | 所見内容 | 
| 呼吸状態 | 呼吸数、呼吸パターン、呼吸補助筋の使用など | 
| 胸部所見 | 胸郭の形状、呼吸音、副雑音など | 
検査
気管支炎の診断に際しては各種検査が行われることがあります。
| 胸部X線検査 | 肺炎や他の呼吸器疾患との鑑別に有用 | 
| 血液検査 | 炎症反応の評価や感染症の鑑別に有用 | 
| 喀痰検査 | 細菌感染の有無や原因菌の同定に役立つ | 
| 肺機能検査 | 気流制限の評価や他の呼吸器疾患との鑑別に有用 | 
検査結果は気管支炎の診断や重症度の評価につながります。
鑑別診断
気管支炎の診断においては問診や検査から以下のような他の呼吸器疾患との鑑別をします。
- 肺炎
- 喘息
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 肺結核
- 肺がん
気管支炎の画像検査所見について
画像検査は気管支炎の診断や他の呼吸器疾患との鑑別、合併症の評価に重要な役割を果たしますが、病型や重症度によって所見が異なります。
急性気管支炎では画像所見は乏しいことが多く、胸部X線検査では異常を指摘できないことが少なくありません。
胸部X線検査
胸部X線検査は気管支炎の診断や経過観察に広く用いられる画像検査です。
| 胸部X線所見 | 内容 | 
| 気管支壁肥厚 | 気管支壁の肥厚や不整 | 
| 肺野の過膨張 | 肺野の透過性亢進や横隔膜の平低化 | 
急性気管支炎では胸部X線所見は正常であることが多く、胸部X線検査の主な目的は肺炎など他の疾患の除外となります。
一方、慢性気管支炎では気管支壁の肥厚や不整、肺野の過膨張といった所見が見られることがあります。

「右下肺野中心に気管支拡張・壁肥厚が認められ、慢性気管支炎が疑われる。」
CT検査
CT検査は気管支壁の詳細な評価が可能であり、他の呼吸器疾患との鑑別にも有用な画像検査です。
| CT所見 | 内容 | 
| 気管支壁肥厚 | 気管支壁の肥厚や不整 | 
| 気管支拡張症 | 気管支の拡張や変形 | 
| 肺実質の変化 | 気腫性変化、濃度上昇 | 

「左上下葉に気管支壁肥厚と分岐状小結節、いわゆる”tree in bud apperance”が認められ、細気管支炎が疑われる。」
気管支炎の治療法と薬、治癒までの期間について
気管支炎の治療はその病型や重症度に応じて異なりますが、一般的には対症療法が中心となります。
ただ、慢性気管支炎では生活習慣の改善や長期的な薬物療法が必要となることがあります。
急性気管支炎の治療
急性気管支炎の治療は主に対症療法によって多くの場合は自然に治癒します。
| 治療方法 | 内容 | 
| 安静 | 体を休めることで回復を促進する | 
| 水分補給 | 喀痰の排出を容易にして脱水を予防する | 
また、発熱や痛みの緩和に用いる解熱鎮痛薬、喀痰の排出を促進する去痰薬、気管支の収縮を緩和して呼吸を楽にする気管支拡張薬といった薬物療法が行われる場合もあります。
| 薬物療法 | 内容 | 
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン、イブプロフェンなど | 
| 去痰薬 | カルボシステイン、アンブロキソールなど | 
以上のような治療によって健康な人であれば急性気管支炎は通常1~3週間で自然に治癒しますが、高齢者や免疫力の低下した人では重症化するリスクもあります。
慢性気管支炎の治療
慢性気管支炎の治療は生活習慣の改善と症状の管理を組み合わせて行います。
生活習慣の改善としては以下のようなことが重要です。
| 禁煙 | 疾患最大の原因であり、最も重要な治療 | 
| 感染予防 | インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど予防接種を考慮 | 
| 適度な運動 | 身体活動性を維持することで呼吸機能の低下を防ぐ | 
また症状をコントロールし、急性増悪を予防するために
- 気管支の収縮を緩和し、呼吸を楽にする気管支拡張薬
- 気道炎症を抑制する吸入ステロイド薬
- 喀痰の排出を促進する去痰薬
といった薬物療法が行われる場合もあります。
| 薬物療法 | 内容 | 
| 気管支拡張薬 | サルメテロール、アミノフェリンなど | 
| 吸入ステロイド薬 | キュバール、パルミコートなど | 
| 去痰薬 | カルボシステイン、アンブロキソールなど | 
抗菌薬の使用
気管支炎の多くはウイルス感染によるものなので抗菌薬は効果がありませんが、感染性気管支炎や以下のような場合には抗菌薬の使用を考慮します。
- 細菌感染が疑われる場合
- 症状が重篤な場合
- 基礎疾患がある高リスク患者の場合
アレルギー性気管支炎の場合は原因アレルゲンの回避と抗アレルギー薬の使用が治療が必要になります。
気管支炎の治療薬の副作用やデメリット(リスク)
気管支炎の治療に用いられる薬剤にはそれぞれ特有の副作用やデメリットが存在します。
特に長期間の使用や高用量の使用では副作用のリスクが高くるので注意が必要です。
解熱鎮痛薬の副作用
発熱や痛みの緩和に用いられる解熱鎮痛薬には以下のような副作用が報告されています。
| 副作用 | 内容 | 
| 消化器症状 | 胃痛、胃不快感、胃潰瘍など | 
| 肝機能障害 | 肝酵素の上昇、黄疸など | 
去痰薬の副作用
喀痰の排出を促進するために用いられる去痰薬には以下のような副作用が報告されています。
| 副作用 | 内容 | 
| 消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢など | 
| アレルギー反応 | 発疹、掻痒感など | 
| 口渇 | こまめな水分補給が必要になる | 
| 尿量増加 | トイレが近くなる | 
気管支拡張薬の副作用
気管支の収縮を緩和して呼吸を楽にする気管支拡張薬には以下のような副作用が報告されています。
- 動悸、頻脈などの心臓症状
- 手指の振戦、神経過敏
- 低カリウム血症
このため気管支拡張薬の使用は、心疾患などの基礎疾患がある場合に特に注意が必要です。
吸入ステロイド薬の副作用
気道炎症を抑制して症状を改善につながる吸入ステロイド薬には以下のような副作用が報告されています。
- 口腔カンジダ症
- 嗄声、咽頭刺激感
- 骨密度の低下(長期使用時)
このため吸入ステロイド薬を使用する際はうがいを励行し、定期的な口腔内の観察が必要です。
気管支炎の再発リスクと予防法
気管支炎は適切な治療により多くの場合は治癒し、ウイルスや細菌の感染によって引き起こされるため再発のリスクは比較的低いとされています。
ですが、特に長期間にわたって気管支の炎症が起こる慢性気管支炎では再発を繰り返すことが少なくありません。
そのため生活習慣の改善や感染予防対策が重要です。再発を防ぐには禁煙が最も重要です。
生活習慣の改善
気管支炎の再発を防ぐには再発リスク因子のある生活習慣を見直し、健康的なライフスタイルを心がけることが欠かせません。
以下のような点に注意することが大切です。
| 予防策 | 詳細 | 
| 禁煙の徹底 | 喫煙は慢性気管支炎の最大の原因 | 
| バランスのよい食事 | 栄養バランスの良い食事で体調を整える | 
| 適度な運動 | 免疫力を高めストレス解消につながる | 
| 十分な睡眠 | 睡眠不足は免疫力を低下させる | 
| 大気汚染を避ける | 空気清浄機などを使用して気管支への負担を減らす | 
急性気管支炎・慢性気管支炎ともに喫煙は再発を促す最大要因とされているので、喫煙を避けることは第一の予防法といえるでしょう。
感染予防対策
気管支炎の再発を防ぐには感染予防対策も重要で、以下のような対策が有効とされています。
| 手洗いの徹底 | 流水と石鹸で30秒以上手を洗う | 
| マスクを着用 | 感染が疑われる場合はマスクを着用 | 
| 人混みを避ける | 感染のリスクが高い場所は避ける | 
| ワクチン接種 | インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種 | 
気管支炎の治療にかかる費用について
気管支炎の治療費用は病型や重症度、治療内容によって異なりますが、一般的な費用は以下の通りです。
| 費用項目 | 金額 | 
| 初診料 | 2,880円~5,380円 | 
| 再診料 | 730円~2,640円 | 
| 検査費用 | 2,000円~40,000円 | 
| 処置費用 | 2,000円~30,000円 | 
| 薬代 | 400円~3,000円 | 
通常気管支炎の診断や重症度評価のための検査費用は、胸部X線検査で2,000円~5,000円、血液検査では1,500円~5,000円程度になります。
以上
- 参考にした論文
 
