細菌性胸膜炎とは肺の周囲を覆う胸膜に細菌感染が起こり胸水が貯留する疾患です。肺炎などの感染症が波及して発症することが多く、発熱や胸痛、呼吸困難などの症状が現れます。

放置すると膿胸や敗血症など重篤な合併症を引き起こしてしまう可能性があり、早期の診断と対応が必要とされるのです。

細菌性胸膜炎の病型について

細菌性胸膜炎は発症様式や経過によって急性細菌性胸膜炎と慢性細菌性胸膜炎に大別されます。

急性細菌性胸膜炎

急性細菌性胸膜炎は細菌感染が急速に進行して短期間で症状が悪化する病型です。肺炎などの感染症が胸膜に波及することで発症し、発熱や胸痛、呼吸困難などの症状が急激に現れます。

特徴詳細
発症様式急性発症
進行速度急速に進行
症状発熱、胸痛、呼吸困難など
合併症リスク高い

慢性細菌性胸膜炎

慢性細菌性胸膜炎は急性細菌性胸膜炎が適切に治療されなかった場合や、結核などの慢性感染症が胸膜に波及することで発症に至るのです。

症状は緩徐に進行し、発熱や全身倦怠感などの非特異的な症状が見られることが多いでしょう。

以下に慢性細菌性胸膜炎の特徴をまとめます。

  • 緩徐な発症と進行
  • 発熱、全身倦怠感などの非特異的症状
  • 胸水の増加と胸膜の肥厚
  • 治療抵抗性が高い

細菌性胸膜炎の主な症状

細菌性胸膜炎の症状は病型や感染の程度によって異なりますが、胸痛や発熱、呼吸困難などは共通して見られるのです。

急性細菌性胸膜炎の症状

急性細菌性胸膜炎では急激な発症と症状の悪化が特徴的です。 主な症状としては以下のようなものが挙げられます。

症状詳細
胸痛患側の胸部に強い痛みを感じる
発熱38℃以上の高熱を伴うことが多い
呼吸困難胸水の貯留により呼吸が困難になる
咳嗽湿性咳嗽や血痰を伴うことも

慢性細菌性胸膜炎の症状

慢性細菌性胸膜炎では症状の進行が緩徐で非特異的な症状が前景に立つことが多いのが特徴です。

以下に慢性細菌性胸膜炎でよく見られる症状を列挙します。

  • 微熱や倦怠感などの全身症状
  • 軽度の呼吸困難や咳嗽
  • 体重減少や食欲不振
  • 胸部不快感や鈍痛

急性細菌性胸膜炎と慢性細菌性胸膜炎の症状の程度を比較すると次のような特徴がでます。

症状急性細菌性胸膜炎慢性細菌性胸膜炎
発症様式急激緩徐
胸痛・鈍痛・不快感強い軽度
発熱高熱微熱
呼吸困難高度軽度

胸水貯留による症状

細菌性胸膜炎では感染に伴う胸水の貯留が特徴的な所見です。 胸水が増加すると以下のような症状が現れることがあります。

  • 呼吸困難の増悪
  • 患側の呼吸音の減弱
  • 胸部の膨隆感や叩打痛

合併症による症状

細菌性胸膜炎が重症化すると、膿胸や敗血症などの合併症を引き起こす可能性があるのです。 合併症による症状としては以下のようなものが知られています。

  • 膿胸:発熱の持続、膿性胸水の貯留
  • 敗血症:意識障害、ショック症状

発症の原因やきっかけ

細菌性胸膜炎は様々な細菌による胸膜の感染が原因で発症し、肺炎や敗血症などが主なきっかけとなるのです。

原因となる細菌

細菌性胸膜炎の原因となる細菌は多岐にわたりますが、以下のような細菌が主なものとして知られています。

細菌特徴
肺炎球菌市中肺炎の原因菌として最多
インフルエンザ菌小児に多い
黄色ブドウ球菌医療関連感染の原因菌
連鎖球菌市中肺炎の原因菌

発症のきっかけ

細菌性胸膜炎の発症に関与しているものとして考えられているのは以下の通りです。

  • 肺炎からの直接波及
  • 敗血症に伴う血行性播種
  • 胸部外傷や手術後の合併症
  • 縦隔炎や膿胸からの進展

特に肺炎は細菌性胸膜炎の最も重要なきっかけであり、肺炎患者の約20%に胸膜炎を合併すると報告されています。

病型別の原因・きっかけ

急性細菌性胸膜炎は主に肺炎や敗血症から急速に発症します。一方、慢性細菌性胸膜炎は結核などの慢性感染症や不適切な治療が原因となることが多いです。

病型主な原因・きっかけ
急性細菌性胸膜炎肺炎、敗血症
慢性細菌性胸膜炎結核、非結核性抗酸菌症、不適切な治療

性細菌性胸膜炎においては特に以下の疾患が原因となることが多いでしょう。

原因疾患頻度
結核高い
非結核性抗酸菌症中等度
真菌感染症低い
膿胸低い

感染経路

細菌性胸膜炎の感染経路は原因疾患によって異なります。肺炎からの直接波及では細菌が肺から胸膜へ直接浸潤することで感染が成立するのです。

敗血症に伴う血行性播種では血流を介して細菌が胸膜に到達することで感染を引き起こします。

細菌性胸膜炎の診察と診断

細菌性胸膜炎の診断には臨床症状や画像所見、胸水検査などを総合的に評価することが肝要です。

問診と身体所見

細菌性胸膜炎の診察では、まず詳細な問診で胸痛や発熱、呼吸困難などの症状の有無を確認します。基礎疾患や感染のリスク因子の有無についても確認が必要です。

身体所見では聴診で患側の呼吸音減弱や胸膜摩擦音を評価し、打診で濁音域の有無を確認します。

評価項目所見
聴診患側の呼吸音減弱、胸膜摩擦音
打診患側の濁音域

画像検査

胸部X線検査と胸部CT検査は細菌性胸膜炎の診断に欠かせない検査です。これにより胸水貯留の有無や量、胸膜の肥厚や石灰化などの所見を評価します。

以下は胸部画像検査の主な所見です。

  • 片側性の胸水貯留
  • 胸膜の肥厚や石灰化
  • 無気肺や胸膜癒着
  • 膿胸の合併

胸水検査

胸水穿刺による胸水の採取と検査は細菌性胸膜炎の確定診断に重要な役割を果たします。胸水の性状や細胞数、細菌学的検査などを行い、感染の有無や原因菌を同定するのです。

検査項目評価内容
性状膿性、漿液性、血性など
細胞数白血球数、好中球比率
細菌学的検査グラム染色、培養検査
生化学検査pH、グルコース、LDHなど

確定診断のための基準

細菌性胸膜炎の確定診断には以下の基準を満たす必要があります。

  1. 臨床的基準:特徴的な症状や身体所見を有する
  2. 画像的基準:胸水貯留や胸膜の異常所見を認める
  3. 胸水検査基準:感染を示唆する所見や原因菌の同定

これらの基準を総合的に評価して細菌性胸膜炎の診断に至るのです。

細菌性胸膜炎の画像所見

細菌性胸膜炎の画像所見は、病型や感染の程度によって異なる特徴を示し、診断や重症度評価に必要不可欠な役割を果たします。

胸部X線検査

胸部X線検査は細菌性胸膜炎の診断において第一歩となる検査です。

急性細菌性胸膜炎では片側性の胸水貯留や無気肺、胸膜の肥厚などが特徴的な所見として見られます。慢性細菌性胸膜炎では胸水貯留に加えて胸膜の石灰化や癒着などの所見が認められることもあるでしょう。

病型胸部X線検査の主な所見
急性細菌性胸膜炎片側性胸水貯留、無気肺、胸膜肥厚
慢性細菌性胸膜炎胸水貯留、胸膜石灰化、胸膜癒着
Chest CT scan showing a loculated right-sided pleural effusion with… | Download Scientific Diagram (researchgate.net)

所見:右側に胸水貯留あり、胸膜炎として説明可能である。(ただし、肺野に慢性気道炎症疑う所見あり、結核性の除外が必要な印象)

胸部CT検査


胸部CT検査は細菌性胸膜炎の診断と評価に欠かせない検査で、より詳細な情報を得ることができます。以下は病型別の特徴的な所見です。

病型胸部X線検査の主な所見
急性細菌性胸膜炎胸水貯留、胸膜の肥厚や造影効果、無気肺、膿胸の合併
慢性細菌性胸膜炎胸水貯留、胸膜の石灰化や肥厚、胸膜癒着、拘束肺
Chest CT scan showing a loculated right-sided pleural effusion with… | Download Scientific Diagram (researchgate.net)

所見:右側胸膜肥厚・胸水貯留を認め、胸膜炎として合致する所見である。

超音波検査

胸部超音波検査は胸水の評価や胸水穿刺のガイドとして有用な検査です。これにより胸水の性状や隔壁の有無、胸膜の肥厚などを評価することができます。

評価項目所見
胸水の性状無エコー、低エコー、高エコーなど
隔壁の有無隔壁の形成は膿胸を示唆
胸膜の肥厚胸膜の肥厚や不整
Rosenstengel, Andrew. “Pleural infection-current diagnosis and management.” Journal of thoracic disease vol. 4,2 (2012): 186-93.

所見:受動性無気肺(白矢印)と隣接する胸水貯留(矢印)を認める。

画像所見のピットフォール

細菌性胸膜炎の画像所見は他の胸膜疾患や肺疾患と類似することがあり、鑑別に注意が必要です。急性期と慢性期では画像所見が異なることがあるため、臨床経過と併せた評価が重要となります。

以下は鑑別を要する主な疾患です。

  • 悪性胸膜中皮腫
  • 転移性胸膜腫瘍
  • 胸膜結核
  • 膠原病関連胸膜炎

治療方法と薬、治癒までの期間

細菌性胸膜炎の治療は原因菌に応じた抗菌薬投与と胸水ドレナージを中心に行われ、病型や重症度によって治療期間が異なります。

急性細菌性胸膜炎は早期の診断と適切な治療により良好な予後が期待できる一方、慢性細菌性胸膜炎は治療抵抗性が高く、長期の治療を要するケースが多いでしょう。

抗菌薬治療

細菌性胸膜炎の治療の基本は原因菌に感受性のある抗菌薬の投与です。急性細菌性胸膜炎では広域スペクトラムの抗菌薬を経験的に選択し、培養結果に基づいて適宜変更していきます。

原因菌第一選択薬
肺炎球菌ペニシリン系、セフェム系
インフルエンザ菌セフェム系、フルオロキノロン系
黄色ブドウ球菌ペニシリン系、セファロスポリン系

慢性細菌性胸膜炎では原因菌の同定と薬剤感受性試験に基づいて抗菌薬を選択することが必要なのです。

胸水ドレナージ

細菌性胸膜炎では胸水の排出が治療の重要な要素です。急性細菌性胸膜炎では胸腔ドレーンを留置し、持続的なドレナージを行っていきます。

慢性細菌性胸膜炎では胸腔鏡下での癒着剥離や掻爬が考慮されることもあるでしょう。

以下は胸水ドレナージの適応です。

  • 胸水量が多い(500ml以上)
  • 膿胸の合併
  • 胸水の再貯留
  • 抗菌薬治療に反応しない

治療期間

細菌性胸膜炎の治療期間は病型や重症度、治療反応性によって異なるでしょう。急性細菌性胸膜炎では抗菌薬治療を2~4週間、胸水ドレナージを1~2週間程度行うことが一般的です。

慢性細菌性胸膜炎では治療期間がより長期に及ぶ傾向で、4~8週間の抗菌薬治療と2~4週間の胸水ドレナージが必要となることがあります。

病型抗菌薬治療期間胸水ドレナージ期間
急性細菌性胸膜炎2~4週間1~2週間
慢性細菌性胸膜炎4~8週間2~4週間

治療効果の判定

細菌性胸膜炎の治療効果は臨床症状の改善、画像所見の改善、胸水の減少などを総合的に評価して判定するのです。

治療開始後3~5日で臨床症状の改善が見られない場合や胸水の減少が不十分な場合は、治療方針が再検討されることになるでしょう。

治療の副作用やデメリット

細菌性胸膜炎の治療には抗菌薬投与や胸水ドレナージに伴う副作用やデメリットがあるため注意が必要です。

抗菌薬の副作用

細菌性胸膜炎治療に用いられる抗菌薬には様々な副作用の報告があります。例えばペニシリン系薬ではアレルギー反応や消化器症状などが、セフェム系薬では皮疹や肝機能障害などです。

広域スペクトラムの抗菌薬を長期間使用すると耐性菌の出現や菌交代現象のリスクが高まることも知られています。

抗菌薬主な副作用
ペニシリン系アレルギー反応、消化器症状
セフェム系皮疹、肝機能障害
フルオロキノロン系腱障害、中枢神経系症状

胸水ドレナージの合併症

胸水ドレナージは細菌性胸膜炎の重要な治療法ですが、合併症のリスクも考慮しなければなりません。 以下は胸水ドレナージに伴う主な合併症です。

  • 気胸や血胸
  • 感染の悪化や敗血症
  • 臓器損傷(肺、心臓、肝臓など)
  • ドレーンの閉塞や逸脱

長期治療による影響

細菌性胸膜炎の治療は長期間に及ぶことが多く、患者さんのQOLに影響を与える可能性があります。入院治療による日常生活の制限や治療に伴う苦痛などは患者さんにとって大きな負担となるのです。

影響詳細
身体的影響疼痛、倦怠感、食欲不振など
精神的影響抑うつ、不安、ストレスなど
社会的影響仕事や学業への支障、経済的負担など

治療抵抗性菌の出現

細菌性胸膜炎の治療では抗菌薬の長期使用により、治療抵抗性菌が出現するリスクも考えられます。治療抵抗性菌が出現した場合は治療効果が減弱し、治癒までの期間が延長することもあるのです。

治療抵抗性菌の出現を予防するための対策としては次のことを守りましょう。

  • 適切な抗菌薬の選択と用量調整
  • 薬剤感受性試験に基づく抗菌薬の変更
  • 抗菌薬の適正使用と不必要な長期使用の回避

治療にかかる費用

細菌性胸膜炎の治療費は症例によって大きく異なりますが、長期の治療を要することから患者さんの経済的負担は小さくないでしょう。

初診料と再診料

細菌性胸膜炎の診断・治療のための初診料は2,910円~5,410円程度となります。 再診料は750円~2,660円程度です。

項目費用
初診料2,910円~5,410円
再診料750円~2,660円

検査費

細菌性胸膜炎の診断・経過観察に必要な検査費用の目安は以下の通りです。

検査項目費用目安
胸水検査胸水穿刺手技料1,800円+各種生化学検査や培養検査代など
胸部CT検査1514,700円~20,700円
胸部X線検査2,100円~5,620円

処置費

胸水ドレナージなどの処置が必要な場合は追加の費用が発生します。

処置費用
胸水ドレナージ持続的経皮的胸水ドレナージ術6,600円×日数
あるいは、経皮的膿胸ドレナージ術54,000円など
胸腔鏡下手術胸壁膿瘍切開術7,000円や胸腔鏡下膿胸腔掻爬術326,900円+麻酔料・物品料など

入院費

重症例や合併症を有する患者さんは入院治療が必要となることがあるでしょう。

現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)

計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」

手術ありで14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。

DPC名 胸水、胸膜の疾患(その他)
日数 14
医療機関別係数 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
総医療費 ¥429,840 +出来高計算分

以上

参考にした論文