呼吸器疾患の一種である急性好酸球性肺炎(AEP)とは突然の発熱、咳、呼吸困難などの症状が現れる肺の炎症性疾患です。
AEPは健康な若者に突然発症することが多く、特に喫煙開始後や喫煙量の増加後に発症するケースが報告されています。
症状が重篤となる場合には呼吸不全に陥ることもあるため、早期の診断と適切な管理が必要とされる疾患なのです。
主要な症状と特徴について
急性好酸球性肺炎(AEP)の主症状は発熱、咳嗽、呼吸困難であり、これらの症状は急速に進行して重篤な呼吸不全に至ることがあるのです。
発熱
AEP患者さんの大多数は38℃以上の高熱が数日から1週間程度持続します。この発熱は急性好酸球性肺炎の初発症状であることが多く、咳嗽や呼吸困難に先行して出現するケースがほとんどです。
症状 | 特徴 |
発熱 | 38℃以上の高熱 |
発熱の持続期間 | 数日から1週間程度 |
咳嗽
AEP患者さんのほとんどは夜間や早朝に悪化する乾性咳嗽を呈します。この咳嗽は発症初期は軽度ですが急速に増悪し、頻回で激しい咳き込みを伴うようになるでしょう。
症状 | 特徴 |
咳嗽 | 乾性咳嗽 |
咳嗽の増悪 | 急速に増悪し、頻回で激しい咳き込みを伴う |
咳嗽の悪化時間帯 | 夜間や早朝 |
呼吸困難
AEPの進行に伴い呼吸困難が出現します。発症初期は軽度ですが急速に増悪し、症状が進むと安静時にも呼吸困難を感じるようになるでしょう。
重篤となる場合はチアノーゼを伴い、人工呼吸管理が必要となることがあるので注意が必要です。
- 呼吸困難の増悪
- チアノーゼを伴う重篤な呼吸困難
- 人工呼吸管理が必要となる場合がある
その他の症状
AEPでは上記の症状以外にも次のような症状を伴うこともあります。
症状 | 特徴 |
胸痛 | 胸膜炎による胸痛 |
筋肉痛 | 全身の筋肉痛 |
関節痛 | 全身の関節痛 |
倦怠感 | 全身倦怠感 |
AEPにおける原因と発症の特徴について
急性好酸球性肺炎の原因は十分に解明されていませんが、多岐にわたり関与している可能性があります。しかし明確な因果関係は確立されておらず、さらなる研究が必要な状態です。
喫煙との関連
AEPの発症には喫煙が深く関与しています。新規喫煙者や喫煙量が増加した喫煙者に多く見られ、喫煙開始後数日から数週間で発症することが多いです。
喫煙状況 | AEP発症リスク |
新規喫煙者 | 高い |
喫煙量増加者 | 高い |
非喫煙者 | 低い |
吸入物質への曝露
有機溶剤、粉塵、ガスなどの吸入物質への曝露がAEPの発症に関与している可能性があります。特に職業性曝露や環境曝露が注目されている原因です。
- 有機溶剤(塗料、接着剤、洗浄剤など)
- 粉塵(金属粉塵、木材粉塵、農薬など)
- ガス(溶接ヒューム、一酸化炭素など)
薬剤の使用
一部の薬剤の使用がAEPの発症に関与している可能性も挙げられます。
具体的には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗菌薬、抗てんかん薬などが報告されていますが、現段階で因果関係は十分に確立されていません。
薬剤 | AEP発症との関連 |
NSAIDs | 報告あり |
抗菌薬 | 報告あり |
抗てんかん薬 | 報告あり |
感染症と免疫学的機序
一部の感染症や免疫学的機序がAEPの発症に関与している可能性もあります。
具体的にはウイルス感染症、寄生虫感染症、自己免疫疾患などが報告されていますが、こちらも現段階で因果関係は不明です。
要因 | AEP発症との関連 |
ウイルス感染症 | 報告あり |
寄生虫感染症 | 報告あり |
自己免疫疾患 | 報告あり |
診察と診断の重要なポイントについて
急性好酸球性肺炎の診断には詳細な問診、身体所見、画像検査、気管支肺胞洗浄(BAL)などが重要な役割を果たします。
特に喫煙歴や吸入物質への曝露歴、症状の急速な進行などの特徴的な所見に注目することが診断のカギです。
問診
AEPの診断において詳細な問診は非常に重要です。特に以下のような点に注目して問診を行います。
- 喫煙歴(新規喫煙者、喫煙量増加者)
- 吸入物質への曝露歴(職業性曝露、環境曝露)
- 薬剤の使用歴(NSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬など)
- 感染症の既往歴(ウイルス感染症、寄生虫感染症など)
特に喫煙歴と吸入物質への曝露歴は重要性が高いので必ず確認します。
身体所見
AEP患者さんの身体所見では以下のような所見が認められることが多いです。
身体所見 | 特徴 |
発熱 | 38℃以上の高熱 |
頻呼吸 | 呼吸数増加 |
低酸素血症 | 動脈血酸素分圧低下 |
両側性の肺雑音 | 湿性ラ音、捻髪音 |
画像検査
AEPの画像検査では胸部X線写真とCTが有用になります。特徴的な所見は以下の通りです。
画像検査 | 特徴的所見 |
胸部X線写真 | 両側性の浸潤影、すりガラス影、胸水 |
胸部CT | 両側性のすりガラス影、斑状影、小葉中心性粒状影 |
気管支肺胞洗浄(BAL)
AEPの確定診断には気管支肺胞洗浄(きかんしはいほうせんじょう、BAL)が重要です。BAL液では好酸球増多(25%以上)が認められます。
また、BAL液の細胞分画ではリンパ球増多や好中球増多を伴うこともあるでしょう。
- BAL液の好酸球増多(25%以上)
- BAL液の細胞分画:リンパ球増多、好中球増多を伴うことあり
画像検査の特徴的所見について
急性好酸球性肺炎(AEP)の画像検査では胸部X線写真、胸部CTで見られるいくつかの特徴的な所見がAEPの診断や重症度評価に重要な役割を果たします。
また、画像所見は病期によって変化するため経時的な評価が必要です。
胸部X線写真
AEP患者さんの胸部X線写真では両側性の浸潤影やすりガラス影が特徴的です。これらの所見は急性好酸球性肺炎の急性期に顕著に認められ、胸水を伴うこともあります。
所見 | 特徴 |
両側性の浸潤影 | びまん性、対称性 |
すりガラス影 | 両側性、びまん性 |
胸水 | 両側性、少量から中等量 |
所見:両側下肺野優位にhな所瘉のすりガラス影~浸潤影を散見し、AEPとして説明可能な所見である。
胸部CT
胸部CTでは胸部X線写真よりも詳細な所見が得られます。AEPで認められる特徴的な所見は以下の通りです。
所見 | 特徴 |
すりガラス影 | 両側性、びまん性 |
斑状影 | 両側性、不均一 |
小葉中心性粒状影 | 両側性、びまん性 |
胸膜直下の濃度上昇 | crazy paving appearance |
所見:胸膜直下及び気管支周囲を優位に両肺すりガラス影~浸潤影を散見し、AEPを疑う所見である。
画像所見の経時的変化
AEPの画像所見は病期によって変化します。急性期には浸潤影やすりガラス影が顕著ですが、回復期にはこれらの所見は改善傾向を示すでしょう。
ただし一部の患者さんでは線維化や牽引性気管支拡張などの残存所見を認めることがあります。
- 急性期:浸潤影、すりガラス影が顕著
- 回復期:浸潤影、すりガラス影は改善傾向
- 残存所見:線維化、牽引性気管支拡張など
治療方法と薬物療法について
急性好酸球性肺炎(AEP)の治療は原因となる喫煙や吸入物質の回避、酸素療法、ステロイド薬の投与が中心です。早期の診断と適切な治療によって多くの患者は数日から数週間で改善が得られます。
喫煙や吸入物質の回避
AEPの治療において最も重要なのは原因となる喫煙や吸入物質の回避です。
喫煙が原因と考えられる場合は即座に禁煙する必要がありますし、吸入物質への曝露が疑われる場合は曝露源の特定と回避が必要になってきます。
原因 | 対策 |
喫煙 | 即座の禁煙 |
吸入物質への曝露 | 曝露源の特定と回避 |
酸素療法
AEP患者さんの多くは低酸素血症を呈するため酸素療法が必要です。
酸素療法は経鼻カニューレや酸素マスクを用いて行われます。さらに重症例では人工呼吸管理が必要となる場合もあるでしょう。
酸素療法 | 適応 |
経鼻カニューレ | 軽症〜中等症 |
酸素マスク | 中等症〜重症 |
人工呼吸管理 | 重症 |
ステロイド薬の投与
AEPの治療にはステロイド薬の投与が有効です。初期治療としてはプレドニゾロンの経口投与または メチルプレドニゾロンの点滴静注が行われます。
治療反応性は良好で多くの患者さんは数日以内に改善が得られるでしょう。
ステロイド薬 | 投与経路 | 用量 |
プレドニゾロン | 経口 | 1-2 mg/kg/日 |
メチルプレドニゾロン | 点滴静注 | 1-2 mg/kg/日 |
治癒までの期間と予後
AEPの治癒までの期間は患者さんによって異なりますが、多くの場合は治療開始から数日~数週間で改善が得られます。
ステロイド薬の投与期間は症状や画像所見の改善に応じて徐々に減量させ、2~4週間程度で終了するのが一般的です。
AEPの予後は良好であり、適切な治療により多くは完全寛解します。ただし一部の患者さんでは再発や慢性化する場合があるため注意深いフォローアップが必要です。
治療の副作用とリスクについて
急性好酸球性肺炎の治療に用いられるステロイド薬や酸素療法にはいくつかの副作用やリスクが存在します。これらの副作用やリスクを理解して適切に管理することが重要です。
ステロイド薬の副作用
AEPの治療に用いられるステロイド薬は非常に有効な治療法ですが、以下のような副作用が報告されています。
副作用 | 対策 |
高血糖 | 血糖モニタリング、食事療法 |
高血圧 | 血圧モニタリング、降圧薬の使用 |
感染症のリスク増加 | 感染症の早期発見と治療 |
骨密度の低下 | 骨密度モニタリング、カルシウムとビタミンDの補充 |
精神症状 | 症状の観察、必要に応じて精神科受診 |
消化性潰瘍 | 消化器症状の観察、制酸薬の使用 |
満月様顔貌、体重増加 | 食事療法、運動療法 |
酸素療法のリスク
AEPの治療に用いられる酸素療法に存在するリスクと、それに対する予防策は次の通りです。
リスク | 対策 |
酸素毒性 | 必要最小限の酸素濃度の使用 |
人工呼吸器関連肺炎(VAP) | 人工呼吸器の適切な管理、口腔ケア |
気胸 | 胸部X線写真による早期発見 |
無気肺 | 体位ドレナージ、呼吸リハビリテーション |
治療中のモニタリング
AEPの治療中は副作用やリスクを早期に発見してそれを適切に対処するために、以下のようなモニタリングが大切になります。
モニタリング項目 | 頻度 |
バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸数) | 1日数回 |
血液検査(血算、生化学、CRP など) | 数日ごと |
画像検査(胸部X線写真、CT など) | 必要に応じて |
身体所見(呼吸音、副作用の有無など) | 1日数回 |
副作用やリスクへの対処
AEPの治療中に副作用やリスクが発生した場合は速やかに適切な対処を行うことが重要です。
方法は副作用やリスクの種類や重症度によって異なりますが、以下のような対処が行われます。
- ステロイド薬の減量や中止
- 酸素療法の調整
- 対症療法(制酸薬、降圧薬、抗菌薬など)
- 専門医への相談(呼吸器内科、感染症内科、精神科など)
再発リスクと予防策について
急性好酸球性肺炎は適切な治療により完全寛解が得られることが多いですが、一部の患者さんでは再発の危険も考えられます。
再発を防ぐには患者さん自身が再発のリスク因子を理解し、積極的に予防策を実践することが求められるでしょう。
再発のリスク因子
AEPの再発に関与しているリスク因子は以下の通りです。
リスク因子 | 再発リスク |
喫煙の再開 | 高い |
吸入物質への再曝露 | 高い |
ステロイド薬の早期中止 | 中等度 |
基礎疾患の存在(気管支喘息、アトピー性疾患など) | 中等度 |
喫煙の回避
AEPの再発予防において最も重要なのは喫煙の回避です。喫煙はAEPの発症だけでなく、再発にも深く関与しています。AEPの既往がある患者さんは完全に禁煙することを強く推奨されるでしょう。
喫煙状況 | 再発リスク |
完全禁煙 | 低い |
喫煙量の減量 | 中等度 |
喫煙の継続 | 高い |
環境因子の管理
AEPの再発予防には環境因子の管理も重要です。特に職業性曝露や環境曝露が疑われる患者さんでは次のような曝露源の特定と回避が必要となります。
環境因子 | 具体例 | 管理方法 |
---|---|---|
有機溶剤 | 塗料、接着剤、洗浄剤など | 使用の中止、代替品への変更 |
粉塵 | 金属粉塵、木材粉塵、農薬など | マスクの着用、換気の徹底 |
ガス | 溶接ヒューム、一酸化炭素など | 換気の徹底、防毒マスクの着用 |
定期的なフォローアップ
AEPの再発を早期に発見し、適切に対処するためには定期的なフォローアップが重要です。フォローアップでは以下のような評価を行います。
- 症状の評価(呼吸困難、咳嗽など)
- 身体所見(呼吸音、バイタルサインなど)
- 画像検査(胸部X線写真、CT など)
- 呼吸機能検査
- 血液検査(好酸球数、CRP など)
フォローアップの頻度は患者さんの状態や再発リスクに応じて個別に設定しましょう。再発が疑われる場合は、速やかに専門医の評価を受ける必要があります。
AEPにおける治療費について
急性好酸球性肺炎の治療費は検査費や入院費などを含めると高額になる可能性があり、患者の経済的負担は大きいと言えるでしょう。
初診料と再診料
AEPの診療では初診時に2,910円~5,410円程度、再診時に750円~2,660円程度の費用がかかります。
項目 | 費用 |
初診料 | 2,910円~5,410円 |
再診料 | 750円~2,660円 |
検査費
AEPの診断や評価に必要な検査には血液検査、画像検査、気管支鏡検査などがあり、これらの検査費用は数万円から数十万円に及ぶでしょう。
検査 | 費用 |
血液検査 | 4,200円(血液一般+生化学5-7項目の場合) |
画像検査(胸部X線、CT) | 2,100円~5,620円、14,700円~20,700円 |
気管支鏡検査 | 25,000円~29,000円+入院費 |
入院費
AEPの治療では入院が必要となる場合があり、入院費は全体で1日あたり1万円から3万円程度になります。
詳細に説明すると、現在基本的に日本の入院費は「包括評価(DPC)」にて計算されます。
各診療行為ごとに計算する今までの「出来高」計算方式とは異なり、病名・症状をもとに手術や処置などの診療内容に応じて厚生労働省が定めた『診断群分類点数表』(約1,400分類)に当てはめ、1日あたりの金額を基に入院医療費を計算する方式です。
1日あたりの金額に含まれるものは、投薬、注射、検査、画像診断、入院基本料等です。
手術、リハビリなどは、従来どおりの出来高計算となります。
(投薬、検査、画像診断、処置等でも、一部出来高計算されるものがあります。)
計算式は下記の通りです。
「1日あたりの金額」×「入院日数」×「医療機関別係数※」+「出来高計算分」
例えば、14日間入院するとした場合は下記の通りとなります。
DPC名: 肺炎等(市中肺炎以外) 手術なし 手術処置等2なし
日数: 14
医療機関別係数: 0.0948 (例:神戸大学医学部附属病院)
入院費: ¥388,090 +出来高計算分
重症例では集中治療室(ICU)での管理が必要となり、さらに高額な費用がかかることを知っておかなければなりません。
その他の費用
AEPの治療では酸素療法や薬物療法に関連する費用も発生しますが、これらの費用は病状や治療内容によって異なります。
以上
- 参考にした論文