急性喉頭蓋炎とは呼吸器疾患の一種です。

喉頭蓋は気道の入り口にある蓋のような軟骨で、飲み込むときに喉頭を覆い誤嚥を防ぐ重要な役割を果たしています。

この喉頭蓋に炎症が生じると急性喉頭蓋炎を発症し、様々な症状が現れます。

特に小児の場合、急速に症状が悪化し重症化するリスクが高いため十分な注意が必要となります。

急性喉頭蓋炎の病型とその原因についての解説

急性喉頭蓋炎には細菌性とウイルス性の2つの病型が存在し、それぞれ原因は異なります。

細菌性急性喉頭蓋炎

細菌性急性喉頭蓋炎は主に細菌感染によって引き起こされる病型です。

特に小児において多く見られ、発症すると急速に症状が進行する傾向にあります。

細菌性急性喉頭蓋炎の主な原因菌と割合は以下の通りで、特に小児ではインフルエンザ菌による感染が多く見られます。

原因菌割合
インフルエンザ菌約60%
A群溶血性レンサ球菌約20%
その他の細菌約20%

これらの細菌は上気道に常在しているものの、何らかの要因で喉頭蓋に感染し炎症を引き起こすことがあります。

感染のリスク因子としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 免疫力の低下
  • 上気道の損傷

ウイルス性急性喉頭蓋炎

ウイルス性急性喉頭蓋炎とは主にウイルス感染によって引き起こされる病型です。

原因となる主なウイルスは以下の通りで年齢に関係なく発症します。

ウイルス特徴
アデノウイルス小児に多い
パラインフルエンザウイルス成人に多い

これらのウイルスは上気道感染症の原因となることが多く、急性喉頭蓋炎もその一部として発症することがあります。

ウイルス性の場合も喫煙や免疫力の低下などが感染のリスク因子となります。

細菌性と比較すると、症状の進行は比較的緩やかであるのが特徴です。

発症のメカニズム

急性喉頭蓋炎の発症メカニズムは、次のようなステップで進行します。

  1. 細菌やウイルスが喉頭蓋に感染
  2. 感染に対する炎症反応が生じる
  3. 喉頭蓋の腫脹と気道狭窄が起こる
  4. 呼吸困難などの症状が出現

特に細菌性の場合は炎症反応が急激に進行するため、数時間で重篤な状態に陥ることがあります。

急性喉頭蓋炎の主な症状とその特徴について

急性喉頭蓋炎の主な症状は呼吸困難、嚥下痛、発熱の3つが挙げられます。

呼吸困難

急性喉頭蓋炎の最も特徴的な症状は、急激に発症する呼吸困難です。

喉頭蓋の腫脹により気道が狭窄するため、吸気時に狭窄音(ストライダー)を伴う呼吸困難が出現します。

症状特徴
呼吸困難吸気時の狭窄音(ストライダー)を伴う
呼吸数増加
チアノーゼ重症例で出現

呼吸困難が進行すると呼吸数の増加やチアノーゼなどの低酸素症状も見られるようになります。

特に小児では急速に呼吸状態が悪化する可能性があるため注意が必要です。

嚥下痛

急性喉頭蓋炎では喉頭蓋の炎症により嚥下痛が出現します。

痛みが酷いと飲食が困難となり、流涎(よだれ)も見られることがあります。

以下は、嚥下痛に関連する主な症状です。

  • 飲食困難
  • 流涎
  • 喉の痛み
  • 嗄声

発熱

急性喉頭蓋炎では発熱を伴うことが多いです。

ただし、発熱の程度は症例によって異なり、必ずしも高熱となるわけではありません。

発熱の程度割合
38℃以上約50%
37℃台約30%
平熱約20%

発熱に加えて全身倦怠感や咽頭痛などの全身症状を伴う場合もあります。

その他の症状

上記の主症状以外にも、急性喉頭蓋炎では以下のような症状が見られることがあります。

  • 頭痛
  • 関節痛
  • リンパ節腫脹
  • 咳嗽

これらの症状は病型によっても異なります。

細菌性の場合は発症から数時間で急速に症状が悪化するのに対し、ウイルス性では数日かけて徐々に症状が進行していくことが一般的です。

急性喉頭蓋炎の診察と診断のポイントについて

急性喉頭蓋炎の診断には詳細な問診と身体所見の確認が重要です。

問診

急性喉頭蓋炎が疑われる患者さんに対しては以下のような内容を聴取します。

  • 発症の時期と経過
  • 呼吸困難の有無と程度
  • 嚥下痛の有無
  • 発熱の有無
  • 基礎疾患の有無

特に急速に進行する呼吸困難や高熱は重症化を示唆する所見であり、注意が必要です。

身体所見

急性喉頭蓋炎の身体所見としては、以下のようなものがあります。

所見特徴
喉頭蓋の腫脹喉頭鏡で確認
呼吸困難吸気性喘鳴(ストライダー)
嚥下痛唾液の嚥下困難
発熱38℃以上が多い

喉頭蓋の腫脹は喉頭鏡を用いて直接確認することが可能です。

ただし、喉頭鏡検査は患者の呼吸状態が安定している場合にのみ行うべきです。

画像検査

急性喉頭蓋炎の診断に際しては、以下のような画像検査が有用となることがあります。

  • 頸部X線検査
  • 頸部CT検査

頸部X線検査では喉頭蓋の腫脹による”Thumb sign”(親指サイン)が特徴的な所見として知られています。

また、頸部CT検査では喉頭蓋の腫脹の程度や気道狭窄の範囲を詳細に評価することができます。

検査所見
頸部X線検査“Thumb sign”
頸部CT検査喉頭蓋腫脹、気道狭窄

鑑別診断

急性喉頭蓋炎と鑑別を要する疾患としては、以下のようなものがあります。

これらの疾患では急性喉頭蓋炎と類似した症状を呈することがあるため、詳細な診察と検査に基づいた鑑別診断が必要となります。

急性喉頭蓋炎における画像所見とその特徴について

急性喉頭蓋炎の画像診断には、頸部X線検査と頸部CT検査が有用です。

頸部X線検査所見

頸部X線検査では喉頭蓋の腫脹による特徴的な所見が確認されます。

代表的なものが喉頭蓋の腫脹によって生じる”Thumb sign”(親指サイン)と呼ばれる所見です。

所見特徴
Thumb sign喉頭蓋の腫脹により、親指状の陰影が見られる
喉頭の狭小化喉頭蓋の腫脹により、喉頭の前後径が狭小化する

ただし、頸部X線検査は喉頭蓋の評価には有用ですが、気道狭窄の範囲や程度の詳細な評価は困難な場合があります。

Case courtesy of Andrew Ho, Radiopaedia.org. From the case rID: 22906

「喉頭蓋の腫脹が目立ち、いわゆる””Thumb sign”を呈している。」

頸部CT検査所見

頸部CT検査は、喉頭蓋の腫脹や気道狭窄の評価に優れた検査法です。

特に造影CT検査を行うことで、喉頭蓋の炎症の程度や周囲組織への影響をより詳細に評価することができます。

以下は、頸部CT検査で確認される主な所見です。

  • 喉頭蓋の腫脹と造影効果
  • 喉頭蓋谷の閉塞
  • 喉頭腔の狭小化
  • 傍喉頭間隙の炎症性変化

特に喉頭蓋谷の閉塞や喉頭腔の高度な狭小化は、重症例を示唆する所見として重要です。

所見重症度
喉頭蓋谷の閉塞中等度以上
喉頭腔の高度狭小化重症
Case courtesy of Michael P Hartung, Radiopaedia.org. From the case rID: 59365

「喉頭蓋の著明な腫脹あり、気道の高度狭小化を認める。」

急性喉頭蓋炎の画像診断の重要性

急性喉頭蓋炎は急速に呼吸困難が進行する可能性のある疾患です。

そのため画像検査による迅速な診断と重症度評価は、適切な治療方針の決定において非常に重要な役割を果たします。

特に頸部CT検査は喉頭蓋の炎症の程度や気道狭窄の評価に優れており、重症例の検出に有用です。

急性喉頭蓋炎の治療方法と治癒までの期間について

急性喉頭蓋炎の治療は原因となる細菌やウイルスの種類、症状の重症度によって異なります。

抗菌薬治療

細菌性急性喉頭蓋炎の場合は抗菌薬治療が中心となります。

原因菌としてインフルエンザ菌やレンサ球菌が多いため、これらをカバーする抗菌薬を選択します。

以下は、急性喉頭蓋炎に用いられる主な抗菌薬です。

  • セフトリアキソン(セフェム系)
  • アンピシリン/スルバクタム(ペニシリン系)
  • クリンダマイシン(リンコマイシン系)

通常7〜10日間の投与が行われます。

症状の改善とともに経口薬に切り替えることもあります。

ウイルス性急性喉頭蓋炎の治療

ウイルス性急性喉頭蓋炎の場合、抗ウイルス薬の有効性は確立していません。

そのため治療の中心は対症療法となります。

治療内容
対症療法解熱剤、鎮痛剤、吸入ステロイド薬など
気道管理必要に応じて気道確保処置

ウイルス性の場合も重症例では細菌性と同様に気道確保が重要です。

また、ステロイド薬の全身投与が行われることもあります。

全身管理と気道確保

急性喉頭蓋炎の治療において最も重要なのは、全身状態の管理と気道の確保です。

特に重症例では気道閉塞のリスクが高いため、気管挿管や気管切開などの気道確保処置が必要となる場合があります。

重症度治療
軽症〜中等症経過観察、抗菌薬投与
重症気道確保処置(気管挿管、気管切開など)

全身状態の管理には酸素投与、輸液、解熱剤の使用などが含まれます。

特に小児では脱水に注意が必要で、必要に応じて輸液を行います。

治癒までの期間

急性喉頭蓋炎の治癒までの期間は原因や重症度によって異なります。

一般的には以下のような経過をたどります。

  • 抗菌薬治療開始後、2〜3日で症状改善傾向
  • 治療開始から7〜10日程度で症状消失
  • 重症例や合併症がある場合、治癒までに2〜3週間を要することも

適切な治療が行われれば、多くの場合は後遺症なく治癒します。

ただし、治療の遅れによって気道狭窄が進行した場合、予後不良となるリスクがあります。

急性喉頭蓋炎の治療に伴う副作用とリスクについて

急性喉頭蓋炎の治療には副作用やリスクが伴う場合があります。

抗菌薬治療の副作用

細菌性急性喉頭蓋炎の治療に用いられる抗菌薬は、以下のような副作用を引き起こす可能性があります。

抗菌薬主な副作用
セフェム系アレルギー反応、下痢、肝機能障害
ペニシリン系アレルギー反応、腹痛、血液障害
リンコマイシン系偽膜性大腸炎、肝機能障害、血液障害

これらの副作用は通常は軽度で一過性ですが、まれに重篤な場合もあります。

特にアレルギー反応や偽膜性大腸炎には注意が必要です。

ステロイド薬の副作用

重症例で使われるステロイド薬の副作用としては、以下のようなものがあります。

  • 高血糖
  • 感染症のリスク増加
  • 胃潰瘍
  • 骨粗鬆症
  • 精神症状

ただし、急性喉頭蓋炎の治療で用いられるステロイド薬は通常は短期間の投与となるため、長期投与に比べて副作用のリスクは低いとされています。

気道確保処置のリスク

重症の急性喉頭蓋炎で行う気管挿管や気管切開などの気道確保処置には、以下のようなリスクが伴います。

  • 気道損傷
  • 感染症
  • 出血
  • 合併症(気胸、皮下気腫など)

特に緊急での処置となる場合リスクはより高くなります。

治療に伴うその他のリスク

急性喉頭蓋炎の治療では、以下のようなリスクも考慮する必要があります。

  • 治療の遅れによる重症化
  • 誤嚥性肺炎の合併
  • 呼吸不全の進行

急性喉頭蓋炎の再発の可能性と予防法について

急性喉頭蓋炎は適切な治療により多くの場合は治癒しますが、再発する可能性もあります。

しかし、適切な予防策を講じることで再発のリスクを下げることができます。

再発のリスク因子

急性喉頭蓋炎の再発には、以下のようなリスク因子が関与していると考えられています。

  • 免疫力の低下
  • 喫煙
  • 慢性的な上気道炎
  • 反復性の扁桃炎

特に免疫力の低下は再発のリスクを高める重要な因子です。

そのため、免疫抑制状態にある患者さんや高齢者などは再発に注意が必要です。

リスク因子再発リスク
免疫力低下高い
喫煙中等度
慢性上気道炎中等度
反復性扁桃炎中等度

予防法① 感染予防

急性喉頭蓋炎の予防には感染予防が重要な役割を果たします。

以下のような感染予防策が推奨されています。

  • 手洗いの徹底
  • 咳エチケットの実践
  • 感染者との接触を避ける
  • 予防接種(インフルエンザワクチンなど)

特に手洗いは感染予防の基本であり、こまめに実践することが大切です。

また、感染者との接触を避けることで感染のリスクを減らすことができます。

予防法② リスク因子の管理

急性喉頭蓋炎の予防には再発のリスク因子を管理することも重要です。

具体的には以下のような取り組みが推奨されています。

  • 禁煙
  • 免疫力の維持(バランスの取れた食事、十分な睡眠など)
  • 慢性疾患の適切な管理

喫煙は急性喉頭蓋炎のリスクを高めるため、禁煙は予防に有効です。

また、免疫力を維持することで感染に対する抵抗力を高めることができます。

予防法内容
感染予防手洗い、咳エチケット、接触回避、予防接種
リスク因子管理禁煙、免疫力維持、慢性疾患管理

急性喉頭蓋炎の治療にかかる費用について

急性喉頭蓋炎の治療には初診料、再診料、検査費、処置費、入院費などが必要となり、その総額は数十万円に上ることもあります。

初診料と再診料

急性喉頭蓋炎の診療では初診時に初診料、再診時に再診料が発生します。

初診料は2,820円、再診料は720円程度が一般的な金額です。

項目金額
初診料2,830円
再診料750円

検査費

急性喉頭蓋炎の診断には血液検査や画像検査などが行われます。

これらの検査費用は数千円から数万円程度となります。

検査金額
血液検査1,500~5,000円
画像検査2,100円~20,700円

処置費

急性喉頭蓋炎の治療では、気道確保のための処置が必要となる場合があります。

気管挿管や気管切開などの処置費用は、数万円から数十万円に及ぶこともあります。

入院費

重症の急性喉頭蓋炎では入院治療が必要となります。

入院費は1日あたり数万円程度が一般的です。

入院期間によっては総額が数十万円から数百万円に達することもあります。

ただし、保険適用となると1割~3割の自己負担であり、また高額医療制度の対象となるため、実際の自己負担はもっと安くなります。

以上

参考にした論文