息を深く吐き出したときに、思わず「コンコン」と咳が出てしまうことはありませんか?

一時的なものであれば心配ないことも多いですが、この症状が続く場合、気管支喘息やCOPDなど気道が狭くなる病気が隠れているサインかもしれません。

放置すると症状が悪化する可能性もあるため、原因を正しく理解し、適切に対処することが大切です。

この記事では息を吐くと咳が出る主な原因や考えられる病気、病院を受診すべき目安について詳しく解説します。

なぜ息を吐くと咳が出るのか

息を吸う時ではなく、吐く時に咳が出るのには、気道(空気の通り道)の状態で説明できる理由があります。この症状の背景にある体の反応を理解しましょう。

気道が狭くなることが主な原因

健康な状態では、息を吐いても気道は十分に開いています。しかし、何らかの原因で気道に炎症が起きたり、筋肉が収縮したりすると気道は狭くなります。

この狭くなった気道を空気が勢いよく通過する際、その刺激が咳を引き起こすのです。特に意識して強く息を吐き出すと気道の内圧が変化し、さらに狭くなりやすいため咳が出やすくなります。

刺激に対する気道の過敏性

気管支喘息などのアレルギー性の病気があると、気道が非常に敏感な状態(気道過敏性)になります。

この状態では、健康な人なら何ともないようなわずかな刺激、例えば冷たい空気やホコリ、会話などでさえも気道が過剰に反応してしまい、咳が出やすくなります。

息を吐くという行為そのものが、敏感な気道への刺激となるのです。

咳反射と気道の関係

咳は気道に入った異物を外に出すための重要な防御反応です。気道が狭くなっていると、分泌物(痰)が溜まりやすくなります。

息を吐く動作によってこの溜まった痰が移動したり、気道の壁を刺激したりすることで咳反射が起こり、痰を排出しようとして咳が出ることがあります。

息を吐くと咳が出る場合に考えられる主な病気

「息を吐くと咳が出る」という症状は、いくつかの呼吸器の病気に特徴的です。代表的なものを紹介します。

気管支喘息

アレルギーなどが原因で気道に慢性的な炎症が起こる病気です。息を吐く時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(喘鳴)がしたり、呼吸困難の発作を起こしたりします。

夜間や早朝、季節の変わり目、運動後などに症状が出やすいのが特徴です。

咳喘息

喘鳴や呼吸困難はなく、乾いた咳だけが長く続くタイプの喘息です。気管支喘息と同様に気道が狭くなっているため息を吐く、会話する、冷たい空気を吸うなどのささいな刺激で咳が出ます。

風邪の後に発症することも多く、市販の咳止めはほとんど効きません。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

長年の喫煙が主な原因で、肺の機能が低下していく病気です。肺胞という組織が壊れたり、気管支に炎症が起きたりして、息を吐き出しにくくなるのが特徴です。

そのため、息を吐く時に咳や痰が出やすく、進行すると少し動いただけでも息切れするようになります。

息を吐くと咳が出る代表的な病気の特徴

病名主な症状特徴
気管支喘息咳、喘鳴、呼吸困難夜間・早朝に悪化しやすい
咳喘息長引く乾いた咳のみ喘鳴や呼吸困難はない
COPD咳、痰、労作時息切れ喫煙者に多く、進行性

咳を引き起こすその他の病気や原因

呼吸器疾患以外にも、「息を吐くと咳が出る」症状の原因となる病気があります。

感染後咳嗽(風邪の後など)

風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症の後、咳だけが数週間にわたって続く状態です。感染によって気道が一時的に過敏になっているために起こります。

多くは自然に改善しますが、咳が長引く場合は他の病気との鑑別が必要です。

アトピー咳嗽

アレルギー素因を持つ人にみられ、喉のイガイガ感を伴う乾いた咳が特徴です。咳喘息と似ていますが、気管支拡張薬が効きにくいという違いがあります。

特定の季節や環境で症状が出やすい傾向があります。

咳喘息とアトピー咳嗽の比較

項目咳喘息アトピー咳嗽
主な症状乾いた咳喉のイガイガ感を伴う乾いた咳
アレルギー素因関連あり関連が強い
効果のある薬気管支拡張薬、吸入ステロイド薬抗ヒスタミン薬、吸入ステロイド薬

逆流性食道炎

胃酸が食道へ逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる病気です。逆流した胃酸が喉や気管を刺激し、咳の原因となることがあります。

胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)などの症状を伴うことが多いですが、咳だけのこともあります。

症状から原因を探るセルフチェック

ご自身の症状を詳しく観察することが、原因を特定する手がかりになります。受診の際に医師に伝えるためにも以下の点を確認してみましょう。

咳以外の症状はあるか

咳だけでなく、他にどのような症状があるかで、原因となる病気をある程度推測できます。

咳と同時に起こる症状と関連する病気

伴う症状考えられる主な病気
ゼーゼー、ヒューヒュー(喘鳴)気管支喘息
痰、息切れCOPD、気管支炎
胸やけ、呑酸逆流性食道炎
鼻水、鼻づまり後鼻漏、アレルギー性鼻炎

咳が出やすい時間帯や状況

特定の時間や状況で咳が悪化する場合、それは重要な情報です。

  • 夜間から早朝にかけて
  • 季節の変わり目
  • 運動中や運動の後
  • 会話中や笑った時
  • ホコリっぽい場所やタバコの煙

これらの状況は、特に喘息や咳喘息で咳を誘発しやすい典型的な状況です。

痰の色や性質

痰が絡む咳の場合、その色や粘り気も診断の助けになります。

痰の状態と原因の推定

痰の色・性質考えられる原因
透明・白くサラサラ気道過敏性、アレルギー
黄色・緑色でネバネバ細菌感染(気管支炎、肺炎など)
血液が混じる(血痰)重篤な病気の可能性あり(至急受診)

病院を受診すべき危険なサイン

「息を吐くと咳が出る」症状に加えて、以下のようなサインが見られる場合は、放置せずに早めに呼吸器内科を受診してください。

呼吸困難や胸の痛みがある場合

安静にしていても息が苦しい、少し動いただけでも息が切れる、胸に痛みや圧迫感があるといった症状は、病状が進行しているサインかもしれません。

特に喘息発作や肺炎、心臓の病気などが考えられ、緊急の対応を要する場合もあります。

咳が2週間以上続く場合

風邪による咳は通常1〜2週間で改善します。それを超えて咳が続く場合は、単なる風邪ではない可能性が高いです。

咳喘息やCOPD、あるいは他の病気が隠れていることも考えられるため、専門医による詳しい検査が必要です。

血痰や高熱を伴う場合

痰に血が混じる、38度以上の高熱が続くといった症状は肺炎や肺結核、肺がんなど、重篤な病気のサインである可能性があります。

これらの症状に気づいたら、ためらわずに速やかに医療機関を受診しましょう。

呼吸器内科で行う検査と診断

呼吸器内科では症状の原因を正確に突き止めるために、いくつかの検査を行います。

問診と聴診

まず、患者様から症状が始まった時期や状況、既往歴、生活習慣などを詳しく伺います(問診)。

その後で聴診器を使って胸の音を聞き、喘鳴などの異常な呼吸音がないかを確認します(聴診)。

呼吸機能検査(スパイロメトリー)

息を思い切り吸ったり吐いたりして、肺活量や息を吐く勢い(1秒量)などを測定する検査です。

気道がどの程度狭くなっているかを客観的な数値で評価でき、喘息やCOPDの診断にとても重要です。

呼吸機能検査でわかること

測定項目内容診断に役立つ病気
%肺活量肺の大きさ、一度に吸える空気の量間質性肺炎など
1秒率吐き出す息の勢い、気道の狭さ気管支喘息、COPD

胸部X線(レントゲン)検査

肺に炎症(肺炎)や異常な影がないか、心臓の大きさに問題はないかなどを画像で確認します。

咳の原因として、肺炎や肺がん、結核などの重い病気がないかを除外するために行います。

その他の検査

必要に応じて、アレルギーの原因を調べる血液検査や、痰の中に含まれる細菌や細胞を調べる喀痰検査、気道の炎症の程度を調べる呼気NO(一酸化窒素)濃度測定などを行うこともあります。

息を吐くと出る咳に関するよくある質問

ここでは、患者様からよく寄せられる質問にお答えします。

Q
市販の咳止め薬を飲んでもいいですか?
A

市販薬で一時的に症状が和らぐことはありますが、根本的な原因の治療にはなりません。特に咳喘息やCOPDが原因の場合、市販の咳止めは効果が乏しいことがほとんどです。

咳が長引く場合は自己判断で薬を続けるのではなく、一度呼吸器内科を受診して原因に合った適切な治療を受けることが大切です。

Q
子供が息を吐くと咳をします。大丈夫ですか?
A

お子さんの場合、気道がまだ細く敏感なため、風邪などをきっかけに咳が出やすくなります。

しかし、息を吐く時にゼーゼーしたり、咳が長引いたり、夜間に咳き込んで眠れないような場合は小児喘息の可能性があります。

症状が気になる場合は、小児科やアレルギー科を受診して相談しましょう。

Q
咳を和らげるために自分でできることはありますか?
A

診断を受け、適切な治療を始めることが第一ですが、日常生活で症状を和らげる工夫も有効です。

原因によって対策は異なりますが、共通して心がけたい点もあります。

日常生活でのセルフケア

対策具体的な方法
保湿・加湿こまめな水分補給、加湿器の使用、マスクの着用
刺激を避ける禁煙・受動喫煙の防止、ホコリや花粉の除去(掃除)
体調管理十分な休養、バランスの取れた食事、体の保温

以上

参考にした論文

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