自分やお子さんの咳を聞いて、「いつもと違う、変な音が混じっている」と感じたことはありませんか。

「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった笛のような音や、「ケンケン」という犬の鳴き声に似た乾いた音は単なる風邪の咳とは異なり、気道や肺の特定の場所に異常が起きているサインかもしれません。

この記事では咳に混じる変な音の種類別に大人と子供それぞれで考えられる病気、家庭でできる対処法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて、呼吸器内科の観点から詳しく解説します。

咳に混じる「変な音」の種類と特徴

咳に伴う異常な呼吸音は音の種類によって、空気の通り道のどこがどのように狭くなっているのかを推測する手がかりになります。

ヒューヒュー、ゼーゼー(喘鳴)

息を吐くときに聞こえる笛のような高い音です。これは「喘鳴(ぜんめい)」と呼ばれ、主に気管支などの細い気道が狭くなっていることを示します。

気道の粘膜が腫れたり、痰が絡まったり、筋肉がけいれんしたりすることで空気の通り道が狭まり、音が発生します。

ケンケン、コンコン(犬吠様咳嗽)

犬が吠えるような、あるいはオットセイの鳴き声のような甲高い乾いた咳です。

これは「犬吠様咳嗽(けんばいようがいそう)」と呼ばれ、主に喉頭(のどぼとけ)周辺の太い気道が腫れて狭くなっている時に聞こえます。特に子供でよく見られます。

ゼロゼロ、ゴロゴロ(痰が絡む音)

息をするたびに聞こえる、痰が絡んだような低いゴロゴロとした音です。これは気管支や肺の中に多くの分泌物(痰)が溜まっていることを示します。

音が胸の奥から聞こえる感じがするのが特徴で、肺炎や気管支炎などで見られます。

咳から聞こえる音のまとめ

音の種類聞こえ方主に障害されている部位
喘鳴(ぜんめい)ヒューヒュー、ゼーゼー細い気道(気管支など)
犬吠様咳嗽ケンケン、コンコン太い気道(喉頭周辺)
痰の絡む音ゼロゼロ、ゴロゴロ気管支、肺

「ヒューヒュー、ゼーゼー」が聞こえる時に考えられる病気

笛のような音が聞こえる喘鳴はアレルギーや感染症によって気管支が狭くなる病気でよく見られます。大人も子供も注意が必要です。

気管支喘息

アレルギーなどが原因で気道に慢性的な炎症が起き、様々な刺激に敏感になっている状態です。

ホコリやダニ、冷たい空気などをきっかけに発作が起こり、気管支が狭くなって「ヒューヒュー」という喘鳴や激しい咳、呼吸困難を引き起こします。

特に夜間から早朝にかけて症状が出やすいのが特徴です。

急性気管支炎・肺炎

ウイルスや細菌の感染によって気管支や肺に炎症が起き、気道がむくんで狭くなることで喘鳴が出ることがあります。

発熱や黄色い痰を伴うことが多いです。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

主に長年の喫煙習慣が原因で、肺に炎症が起きて呼吸がしにくくなる病気です。

坂道や階段を上る時の息切れが主な症状ですが、進行すると安静時にも「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が聞こえるようになります。

主に中高年以降の成人に見られます。

喘息とCOPDの主な違い

項目気管支喘息COPD
主な原因アレルギーなど長期の喫煙など
発症年齢小児期や若年層に多い40歳以上の中高年に多い
症状発作性の咳、喘鳴、呼吸困難慢性の咳、痰、労作時息切れ

子供の「ケンケン」という咳で疑われる病気

犬が吠えるような特徴的な咳は子供の喉頭周辺の病気でよく聞かれます。急速に悪化することがあるため、注意深い観察が重要です。

クループ症候群

主にウイルス感染によって喉頭から気管にかけての部分が腫れてしまい、気道が狭くなる病気です。

生後6ヶ月から3歳くらいの乳幼児に多く、特徴的な「ケンケン」という咳のほか、声がかすれる、息を吸う時に「ヒュー」という音がする(吸気性喘鳴)などの症状が見られます。

急性喉頭蓋炎

喉の奥にある喉頭蓋という部分が細菌感染で急激に腫れ上がる、非常に危険な病気です。

唾も飲み込めないほどの強い喉の痛み、発熱、呼吸困難を伴い、窒息の危険があるため、緊急の対応が必要です。

異物の誤嚥

おもちゃの部品やピーナッツなどを誤って気道に吸い込んでしまった場合にも、突然の激しい咳や「ケンケン」という音が出ることがあります。

咳き込んでいる最中に顔色が悪くなるなどのサインがあれば、ただちに救急要請が必要です。

子供の緊急性が高い咳のサイン

症状考えられる状態
肩を上下させて苦しそうに呼吸する呼吸困難
顔色や唇の色が青白い(チアノーゼ)酸素不足
よだれが多く、水分も飲めない喉の強い腫れ

胸の奥から「ゼロゼロ」という音がする病気

痰が絡んだ湿った音は気道や肺に分泌物が多く溜まっているサインです。感染症が原因であることが多いです。

細気管支炎

主にRSウイルスなどが原因で、肺の末梢にある細気管支という部分に炎症が起きる病気です。

2歳未満の乳幼児に多く、咳や鼻水から始まり、次第に呼吸が速くなり、「ゼロゼロ」「ヒューヒュー」という音が混じります。

母乳やミルクの飲みが悪くなることもあります。

肺炎

細菌やウイルスが肺に感染し、炎症を起こす病気です。高熱や激しい咳、胸の痛みとともに、痰が絡んだ「ゼロゼロ」という音が聞こえます。

呼吸が速く、ぐったりして元気がない場合は入院治療が必要です。

気管支拡張症

過去の感染症などが原因で気管支の一部が袋のように広がり、そこに細菌が感染しやすくなっている状態です。

慢性の咳と大量の膿のような痰が特徴で、「ゴロゴロ」という音が続くことがあります。

すぐに医療機関を受診すべきタイミング

咳から変な音が聞こえる場合、様子を見ても良いケースもありますが、中には急いで受診する必要がある危険なサインも含まれています。

呼吸困難のサインがある

呼吸が苦しそうな様子は最も注意すべき症状です。

  • 息を吸う時に小鼻がヒクヒクする
  • 鎖骨の間や肋骨の下がへこむ(陥没呼吸)
  • 呼吸の回数が異常に多い、または速い
  • 横になれず、座らないと呼吸ができない

これらのサインが見られたら、夜間や休日でもためらわずに救急外来を受診してください。

全身状態が悪い

咳の音に加えて、全身の状態を観察することも大切です。

顔色が悪く唇が紫色になっている(チアノーゼ)、意識がはっきりしない、水分が摂れずぐったりしているなどの場合は、重症化している可能性があります。

症状が長引いている

激しい症状はなくても、変な音を伴う咳が1週間以上続く場合や、一度良くなった後に再び悪化するような場合は単なる風邪ではない可能性があります。

呼吸器内科や小児科を受診し、原因を調べることが重要です。

受診の目安

緊急度症状の例対応
緊急呼吸困難、チアノーゼ、意識がもうろうとしている救急車を呼ぶ
準緊急水分がとれない、ぐったりしている、高熱が続く夜間・休日でも救急外来を受診
通常症状が長引く、悪化傾向にある日中に専門の診療科を受診

家庭でできる応急的な対処法

医療機関を受診するまでの間、少しでも症状を和らげるために家庭でできることがあります。ただし、これらは根本的な治療ではないことを理解しておきましょう。

部屋の加湿

空気が乾燥すると、喉や気道の粘膜が刺激されて咳が悪化しやすくなります。加湿器を使ったり、洗濯物を室内に干したりして、部屋の湿度を50〜60%程度に保ちましょう。

特にクループ症候群の「ケンケン」という咳には、浴室に蒸気を充満させて吸わせることも有効です。

こまめな水分補給

水分を十分に摂ることで痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。また、脱水を防ぐ意味でも水分摂取は重要です。

湯冷ましや麦茶、経口補水液などを少しずつ、こまめに与えましょう。

楽な姿勢をとらせる

呼吸が苦しい時は、横になるよりも上半身を少し起こした姿勢の方が楽になります。

クッションや布団を背中に当てて少しもたれかかるように座らせてあげましょう。赤ちゃんの場合は縦抱きも有効です。

症状を和らげるためのポイント

対処法目的
加湿気道の乾燥を防ぎ、刺激を和らげる
水分補給痰を出しやすくし、脱水を予防する
楽な姿勢気道を確保し、呼吸をしやすくする

クリニックでの診断と治療の流れ

医療機関では問診や診察、必要な検査を通じて咳の原因を正確に診断し、それぞれの病気に合った治療を行います。

問診と聴診

どのような音がいつから出ているか、咳以外の症状はあるかなどを詳しくお聞きします。

そして聴診器を胸や背中に当てて、呼吸音を直接聞く「聴診」は、診断において非常に重要な情報源となります。

必要な場合の追加検査

診断を確定するために、いくつかの検査を追加することがあります。

胸部X線(レントゲン)検査は肺炎の有無を、血液検査は炎症の程度やアレルギーの可能性を調べるのに役立ちます。

また、喘息が疑われる場合は呼吸機能検査(スパイロメトリー)を行うこともあります。

呼吸器の主な検査

検査名わかること
胸部X線検査肺炎や心不全、気管支拡張症などの有無
呼吸機能検査気道がどのくらい狭くなっているか(喘息、COPD)
血液検査炎症の程度、アレルギーの有無

原因に応じた治療

治療は原因となる病気によって大きく異なります。細菌感染が原因であれば抗菌薬(抗生物質)を、喘息であれば気道を広げる吸入薬やステロイド薬を使用します。

クループ症候群には、喉の腫れを抑えるステロイドの吸入や内服を行います。

咳の変な音に関するよくある質問

最後に、咳の音に関してよく寄せられる質問にお答えします。

Q
この咳は周りの人にうつりますか?
A

咳の原因がウイルスや細菌などの感染症である場合、咳やくしゃみの飛沫を介して他の人にうつる可能性があります。

クループ症候群や細気管支炎、肺炎、百日咳などは感染力が強い病気です。一方、気管支喘息やCOPD、異物の誤嚥などは感染しません。

Q
咳止めを市販薬で飲ませても良いですか?
A

自己判断での市販の咳止めの使用は慎重になるべきです。

特に痰が絡んでいる場合に強力な咳止めを使うと痰の排出を妨げてしまい、かえって病気を悪化させる可能性があります。

変な音がする咳の場合は、まず医療機関で原因を特定することが先決です。

Q
アレルギーも関係しますか?
A

はい、大いに関係します。「ヒューヒュー」という喘鳴が特徴的な気管支喘息は、アレルギーが関与している代表的な病気です。

また、アレルギー性鼻炎で鼻が詰まり、口呼吸になることで喉が乾燥し、咳が出やすくなることもあります。

以上

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