風邪でもないのに咳だけが何週間も続いている、一度咳き込むとなかなか止まらない。そんな症状に心当たりはありませんか。

もしかしたらその咳は「咳喘息」かもしれません。咳喘息は放置すると本格的な喘息に移行する可能性もあるため、早期の対応が重要です。

この記事では、ご自身の症状が咳喘息に当てはまるかどうかを病院に行く前に確認できるセルフチェックリストを用意しました。

咳の原因を正しく理解し、適切な医療につなげるための一助としてご活用ください。

咳喘息とは?風邪や気管支喘息との違い

長引く咳の原因として近年注目されているのが「咳喘息」です。一般的な風邪や、よく知られている気管支喘息とは異なる特徴を持っています。

咳だけが長く続く特異な症状

咳喘息の最大の特徴は喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)や呼吸困難がなく、乾いた咳だけが慢性的に続く点にあります。

多くの場合、咳は3週間以上、時には数ヶ月にわたって続きます。風邪薬や一般的な咳止めを飲んでも、ほとんど効果が見られないことも特徴の一つです。

気管支喘息との決定的な違い

気管支喘息では、咳と共に喘鳴や息苦しさを伴うのが一般的です。これは気道が狭くなることで空気の通り道から特徴的な音が発生するためです。

一方、咳喘息では気道の狭窄が軽度であるため、喘鳴は起こりません。

しかし、気道が刺激に過敏になっている点は共通しており、咳喘息の患者さんの一部は将来的に気管支喘息へ移行する可能性があるため注意が必要です。

風邪の咳と見分けるポイント

風邪による咳は通常、発熱や喉の痛み、鼻水といった他の症状を伴い、1〜2週間程度で改善します。対して咳喘息は他の風邪症状がないにもかかわらず咳だけが長引きます。

また、特定の状況下で咳が悪化するのも咳喘息を見分けるポイントです。

咳喘息・気管支喘息・風邪の比較

項目咳喘息気管支喘息
主な症状乾いた咳のみ(長期間)咳、喘鳴、呼吸困難
咳以外の症状ほとんどない息苦しさ、胸の圧迫感
持続期間3週間以上続くことが多い発作的に起こり、慢性的に繰り返す

あなたの咳は大丈夫?咳喘息セルフチェックリスト

ご自身の症状が咳喘息の可能性にどれくらい当てはまるか、以下の項目でチェックしてみましょう。

多くの項目に該当するほど、咳喘息の可能性を考えます。

咳の期間とタイミングに関するチェック

咳がいつ、どのような時に出やすいかは、原因を探る上で重要な手がかりとなります。

咳の期間とタイミングに関するチェック項目

質問はい/いいえ
風邪をひいた後から、咳だけが3週間以上続いている
夜中や明け方、ベッドに入ると特に咳がひどくなる
季節の変わり目や特定の時期に咳が出やすい

咳を誘発する状況に関するチェック

咳喘息では特定の刺激が引き金となって咳が出やすくなります。

咳を誘発する状況に関するチェック項目

質問はい/いいえ
冷たい空気やエアコンの風にあたると咳き込む
会話中や電話で話していると咳が出始める
タバコの煙や香水、ホコリっぽい場所で咳が出やすい
運動した後や、坂道・階段を上った後に咳が出る

身体的な特徴や既往歴に関するチェック

ご自身の体質や過去の病歴も、咳喘息と深く関わっている場合があります。

身体的な特徴や既往歴に関するチェック項目

質問はい/いいえ
アトピー性皮膚炎や花粉症、アレルギー性鼻炎がある
家族(親や兄弟)に喘息の人がいる
市販の咳止め薬や風邪薬を飲んでも効果がない

チェックリストの結果をどう解釈するか

セルフチェックはあくまで目安です。結果を参考に今後の対応を考えましょう。

多くの項目が当てはまる場合

チェックリストの項目に5つ以上当てはまる場合、咳喘息の可能性が比較的高いと考えられます。

放置すると症状が悪化したり、本格的な気管支喘息に移行したりするリスクもあるため、一度呼吸器内科の専門医に相談することを強く推奨します。

いくつかの項目が当てはまる場合

2〜4項目程度が当てはまる場合でも、咳喘息の可能性は否定できません。特に「咳が3週間以上続く」という項目に該当する場合は、他の病気の可能性も含めて原因を調べる必要があります。

症状が改善しないようであれば、医療機関を受診しましょう。

セルフチェックの限界と注意点

このチェックリストは咳喘息の診断を確定するものではありません。長引く咳の原因は他にも様々あり、中には重篤な病気が隠れていることもあります。

このことにより、自己判断で様子を見続けるのではなく、専門家による正確な診断を受けることが何よりも大切です。

咳喘息の重症度を考える

咳喘息と一言でいっても、その程度は人それぞれです。ご自身の症状がどのくらいの重症度にあたるのか、日常生活への影響から考えてみましょう。

日常生活への影響度で判断する

重症度を判断する上で重要なのは、咳が日常生活にどれだけ支障をきたしているかです。

仕事や学業に集中できない、趣味を楽しめないなど生活の質(QOL)が低下している場合は、積極的な治療が必要です。

咳の頻度や強さ

一日に何度も激しく咳き込む、一度咳が出始めると数分間止まらない、といった場合は症状が強い状態と考えられます。

咳によって体力を消耗したり、胸や背中が痛くなったりすることもあります。

睡眠への影響は重要なサイン

夜間の咳は咳喘息の重症度を測る上で特に重要な指標です。咳で夜中に何度も目が覚める、眠りが浅いといった状態は心身ともに大きな負担となります。

十分な睡眠がとれない場合は重症度が高いと判断し、早急な治療介入が求められます。

咳喘息の重症度の目安

重症度日常生活への影響睡眠への影響
軽症時々咳が出るが、集中はできる咳で目覚めることはほとんどない
中等症咳でしばしば作業が中断する週に1〜2回、咳で目覚める
重症咳がひどく、日常生活に大きな支障がある毎晩のように咳で目覚め、熟睡できない

専門医への受診を強く推奨するケース

セルフチェックの結果に関わらず、以下のような場合は速やかに呼吸器内科を受診してください。

チェックで咳喘息が強く疑われる時

前述のチェックリストで多くの項目が当てはまり、ご自身でも咳喘息ではないかと感じている場合は、専門医による確定診断と適切な治療を受けることが解決への第一歩です。

市販薬が効かない、または悪化する時

市販の医薬品を1〜2週間試しても咳が全く改善しない、あるいはかえってひどくなるような場合は、市販薬では対応できない病気が原因である可能性が高いです。

自己判断での服薬を中止し、医師の診察を受けましょう。

咳以外の危険な症状がある時

咳だけでなく、以下のような症状を伴う場合は肺がんや結核、間質性肺炎など、より重篤な病気の可能性があります。

これらのサインを見逃さず、直ちに医療機関を受診することが重要です。

  • 呼吸困難、息切れ
  • 血痰(血の混じった痰)
  • 胸の痛み
  • 原因不明の発熱や体重減少

呼吸器内科では何をするのか

「病院に行っても何をされるのだろう」と不安に思う方もいるかもしれません。呼吸器内科での一般的な診察の流れを紹介します。

正確な診断のための問診

医師はまず、あなたの症状について詳しく質問します。

セルフチェックリストで確認したような内容(いつから咳が続くか、どんな時にひどくなるか、アレルギーの有無など)をできるだけ具体的に伝えられるように準備しておくと診察がスムーズです。

診断に役立つ主な検査

問診の内容から咳喘息が疑われる場合、診断を確定するためにいくつかの検査を行います。

呼吸器内科で行う主な検査

検査名内容目的
胸部X線検査胸のレントゲン写真を撮る肺炎や肺がんなど他の病気がないか確認する
呼吸機能検査息を吸ったり吐いたりして肺の機能を調べる気道が狭くなっていないか評価する
呼気NO検査吐いた息に含まれる一酸化窒素の濃度を測るアレルギー性の気道の炎症度合いを調べる

咳喘息と診断された後の治療

検査の結果、咳喘息と診断された場合は、主に吸入ステロイド薬による治療を開始します。吸入ステロイド薬は気道の炎症を直接抑えることで咳の根本原因に働きかけます。

症状が改善しても自己判断で中断せず、医師の指示に従って治療を継続することが再発防止のために大切です。

咳喘息のセルフチェックに関するよくある質問

最後に、咳喘息のセルフチェックについて患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。

Q
チェックリストで当てはまれば咳喘息と確定ですか?
A

いいえ、このチェックリストはあくまで受診の目安であり、診断を確定するものではありません。

似たような症状を示す他の病気も存在するため、最終的な診断は医師による診察と必要な検査に基づいて行います。

自己判断はせず、気になる症状があれば必ず専門医に相談してください。

Q
子供でも咳喘息になりますか?
A

はい、お子さんでも咳喘息を発症することはあります。特に風邪をひいた後に咳だけが長引く場合は注意が必要です。

小児の場合は小児科またはアレルギー科が専門となりますので、症状が続く場合はかかりつけ医に相談しましょう。

Q
咳喘息は他人にうつりますか?
A

咳喘息はウイルスや細菌による感染症ではないため、他人にうつることはありません。

咳やくしゃみで飛沫が飛ぶことはありますが、それによって相手が咳喘息になることはありません。

Q
放置するとどうなりますか?
A

咳喘息を治療せずに放置すると咳の症状が慢性化して日常生活に支障をきたすだけでなく、約3割の方が本格的な気管支喘息に移行すると言われています。

気管支喘息になると、治療がより複雑になる可能性があります。そうなる前に、咳喘息の段階で適切な治療を開始することが重要です。

以上

参考にした論文

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