咳が長引くと「ただの風邪ではないかもしれない」と不安を感じる方が多くいます。 特に、咳喘息と気管支喘息は症状が似ており、自己判断が難しい病気です。
この二つは密接に関係していますが、病態や治療のゴールには明確な違いがあります。
本記事では、呼吸器の専門医がそれぞれの特徴、症状の差異、診断のための検査、そして適切な治療法について詳しく解説します。 咳喘息を放置すると本格的な喘息へ移行するリスクもあるため、正しい知識を持ち、早期に適切な対応をとることが、健康な生活を取り戻すための第一歩です。
咳喘息と気管支喘息の基本的な定義と病態の違い
咳喘息と気管支喘息は、いずれも気道に炎症が生じる病気ですが、その症状の現れ方や呼吸機能への影響には決定的な違いがあります。 両者の違いを正しく理解することは、適切な治療を選択し、将来的な重症化を防ぐために極めて重要です。
咳喘息とはどのような病気か
咳喘息は、慢性的に続く空咳(からせき)を唯一の症状とする呼吸器疾患です。 風邪をひいた後などに、咳だけが数週間以上残る場合、この病気が疑われます。
最大の特徴は、気管支喘息に見られるような「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)を伴わない点です。 気道の粘膜が炎症を起こしており、些細な刺激に対して過敏に反応して咳が出ます。
会話、冷たい空気、運動、タバコの煙などが刺激となり、一度咳き込むと止まらなくなることもあります。 呼吸機能検査では、気道の狭窄(空気の通り道が狭くなること)は認められないか、あっても軽度であることが一般的です。
しかし、治療を行わずに放置すると、約3割から4割の患者さんが本格的な気管支喘息へと移行するといわれています。 したがって、咳喘息は「喘息の前段階」あるいは「喘息の亜型」と捉え、早期に炎症を抑える治療を開始することが大切です。
気管支喘息の病態と仕組み
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症により、空気の通り道が狭くなる病気です。 咳喘息と同様に気道が過敏になっていますが、さらに炎症が進行し、気管支の平滑筋が収縮したり、痰(たん)の分泌が増えたり、粘膜がむくんだりすることで、物理的に気道が狭くなります。
この気道の狭窄が原因で、呼吸をするたびに空気が狭い場所を通る音がします。 これが「ゼーゼー」「ヒューヒュー」と聞こえる喘鳴です。
特に夜間や早朝に症状が悪化しやすく、激しい咳き込みとともに息苦しさ(呼吸困難)を感じます。 重症化すると、十分な酸素を取り込めず、生命に関わる発作を起こす可能性もあります。
気管支喘息の炎症はアレルギー反応が関与していることが多く、ダニやハウスダスト、ペットの毛などが原因となることがあります。 治療の目標は、発作を起こさない状態を維持し、健常人と変わらない日常生活を送ることです。
二つの病気を分ける決定的なポイント
咳喘息と気管支喘息を区別する最大のポイントは「喘鳴の有無」と「呼吸困難の有無」です。 咳喘息では、どれだけ激しく咳き込んでも、喘鳴は聞こえず、呼吸困難感も基本的にはありません(咳のしすぎによる息切れは除く)。
咳喘息と気管支喘息の比較まとめ
| 項目 | 咳喘息 | 気管支喘息 |
|---|---|---|
| 主な症状 | 空咳(痰は少ない)のみ | 咳、痰、喘鳴、呼吸困難 |
| 喘鳴(ゼーゼー) | なし | あり(呼気時に多い) |
| 呼吸困難感 | 基本的になし | あり(発作時は強い) |
| 気道狭窄の程度 | 軽度またはなし | 中等度〜高度(可逆性あり) |
| 発症のきっかけ | 風邪、季節の変わり目など | アレルギー、感染、天候など |
| 気管支拡張薬の効果 | あり(咳が改善する) | あり(呼吸が楽になる) |
一方、気管支喘息では、典型的な喘鳴や息苦しさが現れます。 また、気管支拡張薬を使用した際の反応も重要な判断材料です。
咳喘息、気管支喘息ともに、気管支拡張薬を吸入すると症状が改善します。 これは、他の咳の病気(例えば風邪による咳や逆流性食道炎、アトピー咳嗽など)との鑑別にも役立ちます。
ただし、咳喘息の場合は気道狭窄が軽微であるため、聴診器で呼吸音を聞いても異常音が聞こえないことがほとんどです。 専門医は、問診による症状の確認に加え、詳細な検査を行って確定診断を下します。
症状から見分ける咳喘息と気管支喘息の特徴
自身や家族の咳がどちらのタイプに当てはまるのかを知ることは、病院を受診する際の重要な手がかりとなります。 咳の性質、発生する時間帯、そして付随する症状に注目することで、ある程度の予測がつきます。
咳喘息特有の乾いた咳の特徴
咳喘息の咳は、「コンコン」という乾いた音が特徴的です。 痰が絡むことは少なく、もし出たとしても少量の透明な粘液程度です。
喉の奥がイガイガしたり、チクチクしたりするような違和感(掻痒感)を伴うことが多く、その刺激が引き金となって咳が始まります。 一度咳が出始めると、止めることが難しく、顔が赤くなるほど咳き込むことも珍しくありません。
特に、就寝時や深夜から明け方にかけて咳が悪化する傾向があります。 これは、夜間に副交感神経が優位になり気管支が収縮しやすくなることや、布団のダニやほこりの影響、気温の低下などが関係しています。
日中は比較的症状が落ち着いていることも多いため、「そのうち治るだろう」と放置してしまいがちですが、夜間の咳で睡眠不足に陥る患者さんも少なくありません。
気管支喘息に見られる喘鳴と呼吸困難
気管支喘息では、咳とともに粘り気のある痰が出ることが多くなります。 そして何より特徴的なのが、呼吸をするたびに胸の奥から聞こえる「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(喘鳴)です。
この音は、炎症によって狭くなった気道を空気が通過する際に発生する笛のような音です。 喘鳴と同時に、胸が締め付けられるような圧迫感や、息を吸っても酸素が入ってこないような息苦しさを感じます。
これを「喘息発作」と呼びます。 発作の程度は、軽い息切れ程度のものから、横になって眠れない(起座呼吸)、会話ができない、意識がもうろうとするような重篤なものまで様々です。
発作は急激に起こることもあれば、数日間かけて徐々に悪化することもあります。 咳喘息と同様に夜間や早朝に悪化しやすいですが、発作が起きると日常生活に支障をきたすレベルの苦痛を伴います。
発作が起きやすいタイミングと環境
咳喘息も気管支喘息も、気道が過敏になっているため、特定の刺激や環境変化によって症状が誘発されます。 どのような状況で咳や発作が出やすいかを知ることは、予防対策を講じる上で役立ちます。
症状を悪化させる主な要因
- 風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症の後
- 暖かい部屋から寒い廊下への移動など寒暖差
- 台風の接近や雨天などの低気圧接近時
- タバコの煙や線香の煙、排気ガス、強い香料
- 激しい運動や冷気を吸い込みながらの運動
- アルコール摂取による血管拡張作用
- 蓄積した過労や精神的なストレス
共通して症状が悪化しやすいのは、季節の変わり目や台風が近づいている時などの気圧・気温の変化が大きいタイミングです。 また、冷たい空気や乾燥した空気を吸い込んだ時、タバコの煙(受動喫煙含む)、線香や花火の煙、香水などの強い臭いも刺激となります。
運動をした直後や、大声で笑った時、電話で長話をした時などに咳き込むのも特徴的です。 さらに、アルコールを摂取すると気道の血管が拡張し、粘膜のむくみが増強するため、夜にお酒を飲んだ後に症状が悪化するケースも多く見られます。
診断を確定するための検査方法と流れ
問診や聴診だけでは、咳喘息や気管支喘息を確定診断することが難しい場合があります。 他の病気(COPD、肺がん、結核、心不全など)を除外し、気道の状態を客観的に評価するために、呼吸器内科では専門的な検査を行います。 正確な診断が、適切な治療への最短ルートです。
呼吸機能検査でわかること
スパイロメトリーと呼ばれる検査機器を用いて、肺活量や息を吐く強さを測定します。 患者さんはマウスピースをくわえ、合図に合わせて息を吸ったり吐いたりします。
この検査で最も重要な指標が「1秒率」です。 息を思い切り吐き出した際、最初の1秒間に全体の何%を吐き出せたかを見る数値です。
気管支喘息の患者さんは、気道が狭くなっているため、空気を素早く吐き出すことが難しく、1秒率が低下(通常70%未満)します。 一方、咳喘息の患者さんは気道狭窄が軽度であるため、スパイロメトリーの結果が正常範囲内であることが珍しくありません。
しかし、正常値であっても末梢の気道にわずかな閉塞が隠れていることがあるため、詳細な波形の解析を行います。 この検査は、現在の呼吸機能の状態を把握する基本の検査です。
呼気NO検査による炎症の評価
呼気NO(一酸化窒素)検査は、吐いた息に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する検査です。 気道に好酸球(白血球の一種)によるアレルギー性の炎症があると、気道粘膜から一酸化窒素が多く産生されます。
主な検査の種類と目的
| 検査名 | 主な目的 | 判定のポイント |
|---|---|---|
| スパイロメトリー | 気道の狭さを評価 | 1秒率の低下、閉塞性障害の有無 |
| 呼気NO検査 | 気道炎症の程度を評価 | 呼気中一酸化窒素濃度の上昇 |
| 胸部レントゲン | 他疾患の除外 | 肺炎や肺がん等の異常陰影がないか |
| 血液検査 | アレルギー素因の確認 | IgE抗体、好酸球数の増加 |
| 気道可逆性試験 | 診断の確定 | 拡張薬吸入後に数値が改善するか |
この検査は、患者さんが一定の速度で息を吐くだけで済むため、体への負担が非常に少ないのが特徴です。 咳喘息や気管支喘息の患者さんでは、呼気中の一酸化窒素濃度が高値(通常22ppb以上など)を示す傾向があります。
数値が高いほど気道の炎症が強いことを示唆しており、診断だけでなく、ステロイド治療が効くかどうかの予測や、治療によって炎症がどの程度治まったかの判定にも有用です。 客観的な数値で炎症レベルを見える化できるため、治療のモチベーション維持にも役立ちます。
気道過敏性試験と胸部レントゲン
気道過敏性試験は、薄い濃度の薬剤を吸入し、気管支が収縮するかどうかを調べる検査です。 健康な人なら反応しないような微量な刺激で気道が狭くなれば、気道過敏性があると判定します。
咳喘息の確定診断において非常に有用ですが、実施できる施設が限られている場合もあります。 胸部レントゲン検査は、喘息そのものを診断するというよりは、他の病気を除外するために必要です。
肺炎、肺結核、肺がん、間質性肺炎、心不全などでも咳や息切れが生じるため、画像診断で肺の状態を確認します。 咳喘息や気管支喘息では、レントゲン上は異常なし(きれいな肺)と判断されることが一般的です。
これらの検査結果を総合的に判断し、医師は診断を下します。
咳喘息から気管支喘息への移行を防ぐ
咳喘息の患者さんにとって最も大切なことは、本格的な気管支喘息への移行を阻止することです。 咳喘息は「喘息の前段階」とも言える状態であり、この段階で適切な治療を行えば完治も期待できます。
しかし、油断して治療を中断すると、取り返しのつかない状態に進展する可能性があります。
放置した場合のリスクと経過
咳喘息を無治療のまま放置したり、市販の咳止めだけで凌いだりしていると、気道の炎症が徐々に慢性化・深刻化します。 炎症が続くと、気道の壁が厚く硬くなる「リモデリング(再構築)」という変化が起こります。
こうなると気道は常に狭い状態となり、治療を行っても元の健康な状態に戻りにくくなります。 研究によると、咳喘息患者の約30%から40%が、数年以内に典型的な気管支喘息へ移行すると報告されています。
気管支喘息へ移行すると、咳だけでなく喘鳴や呼吸困難発作に悩まされるようになり、日常生活の制限が大きくなります。 また、一度リモデリングが進んでしまうと、強力な薬を使っても症状がコントロールしにくくなる「難治性喘息」になるリスクも高まります。
早期発見と早期治療のメリット
咳喘息の段階で診断を受け、早期に吸入ステロイド薬などによる抗炎症治療を開始することは、将来の肺を守ることと同義です。 早期治療には主に3つの大きなメリットがあります。
気管支喘息への移行リスクを高める要因
- 医師の指示を守らず自己判断で治療を中断する
- 吸入ステロイド薬を使用せず発作止めのみに頼る
- 喫煙を続けている、または受動喫煙の環境にいる
- ダニやペットなどのアレルゲン回避をしていない
- 肥満や閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの放置
- 風邪をひく頻度が高く、そのたびに咳が悪化する
第一に、つらい咳症状から速やかに解放され、睡眠や仕事、日常生活の質が向上します。 第二に、気管支喘息への移行率を大幅に下げることができます。
適切に治療を継続すれば、喘息への移行を防ぎ、薬が不要な状態(寛解・治癒)を目指すことも可能です。 第三に、気道のリモデリングを防ぎ、将来的な肺機能の低下を予防できます。
高齢になってから呼吸機能が保たれているかどうかは、健康寿命に直結します。 「たかが咳」と侮らず、早めに専門医の手を借りることが、自分の体を守る最良の選択です。
薬物療法を中心とした治療アプローチ
咳喘息と気管支喘息の治療は、ガイドラインに基づいた薬物療法が基本となります。 治療の主役は、気道の炎症を鎮める「吸入ステロイド薬」です。
飲み薬や貼り薬も補助的に使われますが、吸入薬を正しく使うことが治療成功の鍵を握ります。 ここでは、主な薬剤の役割と使い方について解説します。
吸入ステロイド薬の役割と効果
吸入ステロイド薬(ICS)は、気道の炎症を根本から抑える最も効果的な薬です。 「ステロイド」と聞くと副作用を心配する方がいますが、吸入薬は気管支に直接作用するため、全身への影響は極めて少なく、安全性が高い薬です。
微量の薬剤が直接患部(気道粘膜)に届き、腫れや赤みを引かせます。 咳喘息においても気管支喘息においても、この吸入ステロイド薬を毎日定期的に吸入することが治療のベース(基本)となります。
即効性はないため、吸入してすぐに咳が止まるわけではありませんが、数日から数週間使い続けることで確実に炎症が治まり、症状が出にくい気道へと変化します。 症状が消えたからといってすぐにやめると炎症が再燃するため、医師が「卒業」を許可するまで継続することが大切です。
気管支拡張薬の使用方法
気管支拡張薬は、収縮して狭くなった気管支の筋肉(平滑筋)を緩め、気道を広げて呼吸を楽にする薬です。 長時間作用型の気管支拡張薬(LABA)は、吸入ステロイド薬と一緒に配合された「配合吸入薬」として使われることが一般的です。
その結果、炎症を抑えながら気道を広げ続けることができます。 一方、発作時や急な激しい咳き込みの際に頓服として使うのが短時間作用型の気管支拡張薬(SABA)です。
主な治療薬の種類と作用
| 薬剤の種類 | 分類 | 主な作用と特徴 |
|---|---|---|
| 吸入ステロイド薬 (ICS) | 基本治療薬 | 気道の炎症を強力に抑える。毎日継続必須 |
| 長時間作用型β2刺激薬 (LABA) | 気管支拡張薬 | 気道を長時間広げる。ICSと配合が多い |
| 短時間作用型β2刺激薬 (SABA) | 発作治療薬 | 発作時に使用。速効性はあるが炎症は治さない |
| ロイコトリエン受容体拮抗薬 | 内服薬 | アレルギー炎症と気道収縮を抑制。鼻炎も有効 |
| テオフィリン徐放製剤 | 内服薬 | 気管支を広げ、抗炎症作用も持つ |
これはシュッと吸うと数分で効果が現れ、苦しさを和らげます。 しかし、これは一時的な症状緩和に過ぎず、炎症そのものを治すわけではありません。
SABAの使用頻度が高いということは、ベースの治療が不十分であることを意味するため、治療内容の見直しが必要です。
内服薬の併用とその種類
吸入薬の効果を補うために、飲み薬(内服薬)を併用することがあります。 代表的なのが「ロイコトリエン受容体拮抗薬」です。
これはアレルギー反応に関わるロイコトリエンという物質の働きをブロックし、気道の炎症と収縮を抑えます。 特にアレルギー性鼻炎を合併している患者さんや、咳喘息の患者さんによく効く傾向があります。
その他、テオフィリン徐放製剤などの気管支拡張薬や、アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬などが処方されることもあります。 重症の気管支喘息では、生物学的製剤(注射薬)を使用することもあります。
どの薬をどの程度使うかは、重症度や患者さんのライフスタイルに合わせて医師が調整します。
日常生活で注意すべき環境整備と予防
薬物療法は非常に強力ですが、それだけで万全とは言えません。 せっかく薬で炎症を抑えても、日常生活の中で気道を刺激する物質(アレルゲンや刺激物質)を吸い込み続けていれば、治療効果は半減してしまいます。
生活環境を見直し、発作の引き金を減らす環境整備(環境調整)を行うことが、治療の一部として重要です。
室内環境とダニ対策
喘息の原因として最も多いのが、室内塵(ハウスダスト)に含まれるダニの死骸やフンです。 これらは微細で空中に舞い上がりやすく、吸い込むことで強いアレルギー反応を引き起こします。
徹底したダニ対策が必要です。 布団や枕カバーはこまめに洗濯し、布団乾燥機を使って湿気を除去した後、掃除機をかけてダニの死骸を吸い取ります。
フローリングの部屋の方がカーペット敷きの部屋よりもダニの繁殖を抑えられます。 布製のソファーやぬいぐるみもダニの温床になりやすいため、置かないか、定期的な手入れが必要です。
また、ペット(犬、猫、ハムスターなど)の毛やフケも強力なアレルゲンとなるため、飼育環境の清掃や、寝室に入れないなどの工夫が求められます。
気温差と湿度の管理
冷たく乾燥した空気は気道を刺激し、咳や発作を誘発します。 特に冬場は注意が必要です。
家庭でできる環境整備のポイント
| 対象 | 具体的な対策 | 目的 |
|---|---|---|
| 寝具(布団・枕) | 週1回のシーツ洗濯、布団乾燥機 | ダニ・フンの除去 |
| 床・掃除 | フローリング推奨、毎日の掃除 | ホコリの蓄積防止 |
| 空調・湿度 | フィルター清掃、湿度50-60% | カビ防止、気道保護 |
| ペット | こまめなシャンプー、寝室NG | アレルゲン回避 |
| 布製品 | カーペット、ぬいぐるみを減らす | ダニの温床除去 |
マスクを着用することで、吸い込む空気を加湿・加温できるため、外出時だけでなく就寝時のマスク着用も有効な場合があります。 室内の湿度は50%〜60%程度に保つのが理想的です。
乾燥しすぎると気道の防御機能が低下し、逆に湿度が高すぎるとダニやカビが繁殖しやすくなります。 加湿器や除湿機を上手に使い、湿度計を見ながら調整しましょう。
エアコンのフィルターにはカビが付着していることがあるため、定期的な清掃を行い、カビの胞子を部屋中に撒き散らさないように注意します。
ストレスと生活習慣の影響
ストレスや過労は自律神経のバランスを崩し、喘息を悪化させる大きな要因です。 十分な睡眠と休息をとり、ストレスを溜め込まない生活を心がけます。
適度な運動は心肺機能を高めるために推奨されますが、発作が起きている時期は控え、安定している時期に無理のない範囲で行います(水泳などは湿度が高く発作が起きにくいとされます)。 肥満も喘息のリスクファクターであり、減量することで呼吸機能が改善することがわかっています。
バランスの良い食事を摂り、標準体重を目指すことも治療の一環です。 もちろん、喫煙は厳禁です。
タバコの煙は気道を直接傷つけ、薬の効果を弱めてしまいます。
専門医が教える受診のタイミング
「ただの咳だから」と様子を見ているうちに症状が悪化してしまうケースは後を絶ちません。 どのタイミングで専門医を受診すべきか、その目安を知っておくことは重症化を防ぐために大切です。
一般的な風邪薬や咳止めでは効果がない場合、それは専門的な治療が必要なサインかもしれません。
咳が長引く期間の目安
風邪による咳であれば、通常は1週間から2週間程度で治まります。 もし咳が2週間以上続いているなら、それは単なる風邪ではない可能性が高いと考えます。
3週間を超えると「遷延性(せんえんせい)咳嗽」、8週間を超えると「慢性咳嗽」と定義され、咳喘息や気管支喘息を含む様々な病気が疑われます。 特に、「咳以外の風邪症状(熱、鼻水、喉の痛みなど)は治ったのに、咳だけが残っている」というパターンは要注意です。
この場合、感染症後の気道過敏性が残っているか、咳喘息が発症している可能性が高いため、早めに呼吸器内科を受診することをお勧めします。
市販薬が効かない場合の対応
市販の風邪薬や咳止め(鎮咳薬)を数日服用しても咳が改善しない、あるいは一時的に止まっても薬が切れるとまた激しく出る場合、その薬が病態に合っていない可能性があります。 咳喘息や気管支喘息の咳は、脳の咳中枢を抑える一般的な鎮咳薬では止まりにくく、気道の炎症を抑える治療が必要です。
呼吸器内科受診を推奨するサイン
| 症状・状況 | 推奨される対応 |
|---|---|
| 風邪の後、咳だけが2週間以上続く | 早めに呼吸器内科を受診 |
| 夜中や明け方に咳で目が覚める | 咳喘息・喘息の疑い強。受診推奨 |
| 冷気、会話、運動で咳が誘発される | 気道過敏性の疑い。受診推奨 |
| 市販の咳止めが全く効かない | 専門的な検査と治療が必要 |
| ゼーゼーする、息苦しい、横になれない | 至急受診または救急要請 |
効かない薬を漫然と飲み続けることは、診断を遅らせるだけでなく、副作用のリスクも伴います。 「市販薬が効かない」という事実は、医師にとって重要な診断の手がかりとなりますので、受診の際は飲んでいた薬(お薬手帳など)を持参するとスムーズです。
緊急性が高い症状の見極め
次のような症状がある場合は、診療時間を待たずに救急受診を検討するか、至急病院へ行く必要があります。 これらは気管支喘息の大発作や、他の重篤な疾患の兆候である可能性があります。
安静にしていても息苦しい、横になると息ができず座らないといられない(起座呼吸)、唇や指先が紫色になる(チアノーゼ)、会話が途切れ途切れにしかできない、意識がもうろうとする、といった症状です。 これらは酸素が体に取り込めていない危険なサインです。
咳喘息だと思っていても、急激に悪化してこのような状態になることも稀にあります。 自分の体のSOSを見逃さないようにしましょう。
Q&A
- Q咳喘息は完治するのですか?
- A
適切な治療を行えば、症状が出ない状態(寛解)に持ち込むことは十分に可能であり、約半数の患者さんは治療を終了しても再発しない「完治」に至るとされています。 しかし、残りの半数は気管支喘息へ移行したり、季節の変わり目などに再発を繰り返したりします。
完治を目指すためには、症状が消えても自己判断で薬をやめず、医師の指示通りに数ヶ月程度治療を継続して気道の炎症をしっかりと鎮静化させることが重要です。
- Q子供も咳喘息になりますか?
- A
はい、お子さんも咳喘息になります。 ただし、小児の場合は典型的な気管支喘息(ゼーゼーする喘息)であることが多く、咳だけの喘息(咳喘息)と診断されるケースは大人に比べると少ない傾向にあります。
子供が風邪の後に咳だけが長引く、夜になると咳き込んで吐いてしまう、運動すると咳き込むといった場合は、小児喘息や咳喘息の可能性がありますので、小児科やアレルギー科の受診をお勧めします。
- Q運動はしても大丈夫ですか?
- A
基本的には、症状が落ち着いていれば運動をしても問題ありません。 むしろ、適度な運動は心肺機能を高めるために推奨されます。
しかし、冷たく乾燥した空気の中での激しい運動(冬のマラソンなど)は発作を誘発しやすいため注意が必要です。
運動前に準備運動をしっかり行う、マスクをして吸気を加湿する、あるいは医師と相談して運動前に予防的に吸入薬を使用するなどの対策をとることで、安全に運動を楽しむことができます。
- Q咳が止まったら薬をやめてもいいですか?
- A
いいえ、自己判断での中止は避けてください。 これが最も再発や重症化を招く原因です。
咳が止まっても、気道の奥にはまだ炎症の「火種」が残っていることがよくあります。 この状態で薬をやめると、再び風邪などの刺激ですぐに咳がぶり返してしまいます。
医師は症状だけでなく、呼吸機能検査や呼気NO検査などの客観的なデータを見て、炎症が消失したと判断してから減薬・中止を指示します。 それまでは根気強く治療を続けましょう。
