「風邪は治ったはずなのに、咳だけがずっと続いている」「夜中や明け方に咳がひどくて目が覚める」そんな症状に悩んでいませんか。

それはただの咳ではなく、「咳喘息」の発作かもしれません。咳喘息は、呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)がないため喘息と気づかれにくく、適切な治療が遅れがちです。

この記事では咳喘息の発作時に見られる特徴的な症状、発作が起きた時の正しい対処法、そして日常生活で実践できる予防策について、呼吸器内科の専門的な視点から詳しく解説します。

つらい咳の症状をコントロールし、快適な毎日を取り戻しましょう。

咳喘息とは?普通の喘息や風邪との違い

咳喘息は気管支喘息の一歩手前の状態ともいわれ、慢性的に咳が続く気道の病気です。一般的な喘息や風邪の咳とは異なる特徴があります。

ヒューヒューゼーゼー鳴らない喘息

気管支喘息の典型的な症状である「喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)」や呼吸困難は、咳喘息では基本的に見られません。

主な症状は痰の絡まない乾いた咳(乾性咳嗽)が続くことです。このため、ご自身では喘息だとは気づかず、長引く風邪だと思い込んでしまう方が少なくありません。

長引く咳は風邪ではない可能性

風邪(急性上気道炎)による咳は通常1〜2週間、長くても3週間以内には治まります。一方で、咳喘息の咳は8週間以上続くことが定義の一つです。

もし1ヶ月近く咳が続いている場合は咳喘息や他の呼吸器疾患の可能性を考え、専門医に相談することが重要です。

症状から見る疾患の比較

項目風邪咳喘息気管支喘息
主な症状咳、鼻水、喉の痛み、発熱長引く乾いた咳のみ咳、喘鳴、呼吸困難
咳の期間〜3週間8週間以上慢性的・反復性
喘鳴なしなしあり

気管支喘息へ移行するリスク

咳喘息を治療せずに放置すると、約3割の方が本格的な気管支喘息に移行するといわれています。

咳喘息の段階で気道の炎症をしっかりと抑える治療を開始することが、将来的な喘息への移行を防ぐ上で非常に大切です。

早期診断・早期治療が鍵となります。

咳喘息の発作時に現れる主な症状

咳喘息の発作は、一度始まるとなかなか止まらない、しつこい咳が特徴です。日常生活に支障をきたすほどの激しい症状が現れることもあります。

一度出始めると止まらない激しい咳

咳喘息の発作は軽い咳払い程度ではなく、「コンコン、コンコン」と連続して激しく咳き込むことが多いです。

会話中に咳が止まらなくなったり、咳のしすぎで吐き気をもよおしたり、胸や腹筋が痛くなったりすることもあります。

夜間に症状が悪化し、睡眠が妨げられることも少なくありません。

特定の時間帯に悪化する咳

咳喘息の症状は1日の中でも出やすい時間帯があります。特に就寝時、深夜から明け方にかけて、また起床時に咳がひどくなる傾向があります。

これは自律神経の働きやホルモンの変動、アレルゲンの影響などが関係していると考えられています。

発作が悪化しやすい状況

時間帯状況考えられる要因
夜間・早朝布団に入った時、寝ている時副交感神経優位、気温低下
日中会話中、電話中、運動後声帯の振動、呼吸量の増加
その他タバコの煙、飲酒後気道への直接的な刺激

喉のイガイガ感や胸の違和感

激しい咳の発作の前触れとして、喉のイガイガとしたかゆみや、いがらっぽさを感じることがあります。

また、咳が出始めると胸のあたりがムズムズしたり、圧迫感のような違和感を覚えたりする方もいます。これらの感覚は気道が過敏になっているサインです。

咳喘息の発作を引き起こす主な原因

咳喘息は気道がさまざまな刺激に過敏に反応することで発作が起こります。どのようなものが引き金になるかを知り、日常生活で避けることが予防につながります。

寒暖差や冷たい空気の刺激

咳喘息の患者様にとって、急激な温度の変化は大きな刺激となります。

季節の変わり目や暖かい室内から寒い屋外へ出た時、あるいは夏の冷房が効いた部屋に入った時などに冷たい空気を吸い込むことで気道が収縮し、発作が誘発されやすくなります。

アレルゲン(花粉・ハウスダスト)の吸入

アレルギー体質の方は特定のアレルゲンを吸い込むことが発作の直接的な原因となります。

原因となるアレルゲンは人によって異なりますが、代表的なものには以下のようなものがあります。

主な吸入性アレルゲン

  • ハウスダスト(ダニのフンや死骸)
  • スギ、ヒノキなどの花粉
  • 犬や猫などのペットの毛やフケ
  • ゴキブリなどの昆虫
  • カビ(アルテルナリアなど)

ストレスや過労による影響

精神的なストレスや身体的な疲労は自律神経や免疫のバランスを乱し、気道の過敏性を高めることが知られています。

仕事が忙しい時期や、大きな心配事を抱えている時に咳の症状が悪化することがあります。心身のコンディションを整えることも咳喘息の管理には重要です。

タバコの煙や香水などの刺激物

タバコの煙(受動喫煙を含む)は咳喘息の症状を悪化させる最も大きな要因の一つです。

その他にも香水や芳香剤、殺虫剤、花火の煙といった化学物質や強いにおいも気道を刺激し、咳の発作を引き起こす原因となります。

日常生活に潜む刺激物

種類具体例
タバコ、線香、花火
化学物質ヘアスプレー、殺虫剤、塩素系漂白剤
天気台風や雨の日の前(気圧の変化)

咳喘息の発作が起きてしまった時の正しい対処法

もし咳の発作が起きてしまったら、慌てず冷静に対処することが大切です。正しい対処法を知っておくことで症状を速やかに和らげることができます。

処方された発作治療薬(リリーバー)の使用

医師から処方されている短時間作用性β2刺激薬(SABA)などの発作治療薬(リリーバー)があれば、指示された通りに使用します。

この薬は狭くなった気管支を速やかに広げ、激しい咳を鎮める効果があります。お守りとして常に携帯しましょう。

楽な姿勢で安静にする

咳がひどい時は体を横にするよりも、座った状態で少し前かがみになると呼吸が楽になります。机や枕に寄りかかり、腕で体を支えるような姿勢も有効です。

慌てずにゆっくりと腹式呼吸を意識すると、気持ちも落ち着きやすくなります。

発作時に楽な姿勢の例

姿勢ポイント
座位(椅子に座る)少し前傾姿勢になり、肘を膝の上につく。
起座位(ベッドなど)枕やクッションを抱えるようにして上半身を起こす。

水分補給と室内の加湿

喉が乾燥すると咳が出やすくなります。常温の水やぬるま湯を少しずつ飲み、喉を潤しましょう。冷たい飲み物は気道を刺激することがあるため避けた方が無難です。

また、加湿器などを使って室内の湿度を50〜60%程度に保つことも、喉への刺激を和らげるのに役立ちます。

日常生活でできる咳喘息の発作予防策

咳喘息の治療で最も重要なのは、発作が起きないように普段から気道の炎症をコントロールすることです。

医師の指示に従った治療の継続と、セルフケアが鍵となります。

長期管理薬(コントローラー)の継続

咳喘息治療の基本は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬などの長期管理薬(コントローラー)を症状がない時でも毎日続けることです。

このお薬の作用によって気道の過敏性が低下し、発作が起こりにくい状態を維持します。自己判断で中断しないことが非常に重要です。

アレルゲンや刺激物からの回避

発作の原因となるアレルゲンや刺激物を特定し、それらを生活環境からできるだけ遠ざける努力が必要です。

アレルギーの原因が分かっている場合は、こまめな掃除や寝具の管理、空気清浄機の使用などが有効です。外出時にはマスクを着用し、花粉や冷たい空気の吸入を防ぎましょう。

体調管理とストレスコントロール

日頃から十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけ、過労を避けることが免疫力を正常に保ち、発作の予防につながります。

適度な運動は心肺機能を高めますが、運動によって咳が誘発される場合は事前に主治医に相談しましょう。

自分なりのリラックス方法を見つけてストレスを上手に発散することも大切です。

予防のためのセルフケア

分類具体的な対策
環境整備こまめな掃除、適切な換気、加湿
生活習慣禁煙、節酒、規則正しい生活
体調管理うがい・手洗い、十分な休養

咳喘息の診断と呼吸器内科での治療

長引く咳が咳喘息によるものかを診断し、適切な治療を受けるためには、呼吸器を専門とする医師の診察が必要です。

呼吸機能検査や呼気NO検査

問診で症状を詳しく聞いた後、客観的な評価のためにいくつかの検査を行います。

スパイロメトリーという呼吸機能検査で気道が狭くなっていないかを確認したり、呼気NO(一酸化窒素)濃度測定で気道のアレルギー性炎症の程度を数値で評価したりします。

これらの検査は、診断だけでなく治療効果の判定にも役立ちます。

咳喘息の診断に用いられる主な検査

検査名内容わかること
呼吸機能検査息を思いきり吸ったり吐いたりする気道の狭さの程度
呼気NO濃度測定一定の強さでゆっくり息を吐く気道のアレルギー性炎症の度合い
胸部X線検査胸のレントゲン撮影他の肺の病気がないかの確認

治療の基本は吸入ステロイド薬

咳喘息の治療の第一選択は気道の炎症を直接抑える吸入ステロイド薬です。吸入薬は、ごく少量の薬剤が気道に直接作用するため全身への影響が少なく、安全に長期間使用できます。

これに加えて、気管支拡張薬や抗アレルギー薬などを併用することもあります。

治療期間と通院の重要性

症状が良くなったからといって、すぐに薬をやめてしまうと気道の炎症が再燃し、咳が再発することがよくあります。

気道の炎症が完全に落ち着くまでには数ヶ月から年単位の治療が必要な場合もあります。

医師の指示通りに定期的な通院を続けて、気道の状態をチェックしながら適切な治療を継続することが根治への近道です。

咳喘息に関するよくある質問

最後に、咳喘息について患者様からよくいただく質問とその回答をまとめました。

Q
咳喘息は他の人にうつりますか?
A

いいえ、うつりません。

咳喘息はウイルスや細菌による感染症ではなく、気道のアレルギー性の炎症が原因で起こる病気です。そのため、咳やくしゃみで周囲の人に感染させる心配は一切ありません。

Q
薬を使い続けないといけませんか?
A

症状をコントロールし、気管支喘息への移行を防ぐためには、症状がなくても一定期間、お薬(特に吸入ステロイド薬)を続ける必要があります。

治療によって気道の炎症が十分に改善すれば、医師の判断で薬の量を減らしたり中止したりすることも可能です。自己判断で中断せず、必ず主治医に相談してください。

Q
市販の咳止め薬は効きますか?
A

一般的な市販の咳止め薬は咳喘息の原因である気道の炎症を抑える作用がないため、ほとんど効果は期待できません。

むしろ、原因が分からないまま咳止め薬を使い続けることで診断が遅れ、症状が悪化してしまう可能性があります。

2〜3週間以上咳が続く場合は市販薬に頼らず、呼吸器内科を受診してください。

以上

参考にした論文

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