気管支炎によるしつこい咳に加え、「胸が痛い」「息苦しい」といった症状が現れると、多くの方が「ただの風邪が悪化しただけだろうか」「何か重い病気ではないか」と強い不安を感じるものです。

確かに咳のしすぎで胸の筋肉が痛むこともありますが、中には肺炎への悪化や、心臓・肺の別の病気が隠れている危険なサインである可能性も否定できません。

この記事では気管支炎で胸の痛みや息苦しさが生じる原因を詳しく解説し、どのような症状があればすぐに病院へ行くべきか、その見極め方と対処法を呼吸器内科の視点から分かりやすく紹介します。

なぜ気管支炎で胸が痛くなるのか

気管支炎に伴う胸の痛みはいくつかの原因が考えられます。痛みの性質や場所を観察することが、原因を見分ける手がかりになります。

咳のしすぎによる筋肉痛

気管支炎の最も一般的な胸痛の原因は激しい咳を繰り返すことによる筋肉痛です。咳をする際には胸や背中、お腹の筋肉(呼吸筋)を強く使います。

普段使わない筋肉を酷使することで、筋肉痛やひどい場合には肋骨にひびが入る(疲労骨折)こともあります。この痛みは咳をした時や、体を動かした時に強くなるのが特徴です。

気管支の炎症そのものによる痛み

気管支の炎症が強い場合、炎症そのものが胸の中心部、特に胸骨(胸の真ん中にある骨)の裏側あたりにヒリヒリ、チクチクとした痛みを感じさせることがあります。

深呼吸や咳によって痛みが誘発されることが多いです。

痛みの原因の見分け方

原因痛みの特徴痛む場所
筋肉痛体を動かしたり咳をしたりすると痛む。押すと痛いことがある。胸の広い範囲、脇腹、背中など
気管支の炎症胸の中心部にヒリヒリ、チクチクした痛み。胸骨の裏側あたり

胸膜への炎症の波及

まれですが、気管支の炎症が肺を覆う膜である「胸膜」にまで及ぶと、「胸膜炎」を引き起こすことがあります。胸膜炎の痛みは鋭く、深呼吸や咳、体の向きを変えることで悪化するのが特徴です。

この場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。

気管支炎で息苦しさを感じる原因

咳だけでなく息苦しさ(呼吸困難)を感じる場合、気道で何らかの問題が起きているサインです。放置すると呼吸状態が悪化する可能性があるため、注意が必要です。

痰による気道の閉塞

気管支炎では炎症によって気道から多くの粘液(痰)が分泌されます。この痰がうまく排出されずに気道に溜まると空気の通り道が狭くなり、息苦しさの原因となります。

特に粘り気の強い痰が絡んでいると、息を吐き出しにくく感じることがあります。

気管支のむくみと狭窄

炎症によって気管支の壁がむくむ(浮腫)と、気道の内部が狭くなります。この状態を「気道狭窄」と呼びます。

気道が狭くなると、呼吸をするたびに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音(喘鳴)が聞こえることもあり、これは喘息でも見られる所見です。

息苦しさの主な原因

原因気道で起きていること
痰の貯留粘液が空気の通り道を塞いでいる
気管支の狭窄炎症によるむくみで空気の通り道が狭くなっている

肺炎への悪化による酸素交換能力の低下

気管支の炎症がさらに奥の「肺胞」という部分にまで広がると、肺炎になります。肺胞は血液中に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するガス交換の場です。

肺炎になると、このガス交換がうまくできなくなり、体に必要な酸素が不足するため、安静にしていても息苦しさを感じるようになります。

すぐに病院へ行くべき危険なサイン

気管支炎による胸の痛みや息苦しさは、時に重篤な病気の前触れであることがあります。

以下のような症状が一つでも見られる場合は、様子を見ずに速やかに呼吸器内科などの医療機関を受診してください。

安静にしていても息苦しい

体を動かしていない、座ったり横になったりしている状態でも息苦しさを感じるのは、呼吸機能がかなり低下しているサインです。

特に会話をするのも苦しい、横になると息苦しさが悪化するといった場合は注意が必要です。

胸の痛みが持続・悪化する

咳をした時だけの一時的な痛みではなく、痛みがずっと続いたり、時間とともにどんどん強くなったりする場合は、胸膜炎や心臓の病気など他の重篤な疾患の可能性も考えられます。

受診を急ぐべき症状

症状考えられる状態
安静時の息苦しさ重度の肺炎、呼吸不全
持続・悪化する胸痛胸膜炎、心筋梗塞、肺塞栓症など
唇や顔色が紫色になる重度の低酸素状態(チアノーゼ)

唇や爪の色が紫色になる(チアノーゼ)

唇や爪、顔色が悪く、紫色っぽく見える状態を「チアノーゼ」と呼びます。

これは、血液中の酸素が著しく不足していることを示す非常に危険なサインであり、救急受診が必要です。

意識がもうろうとする・朦朧とする

息苦しさに加えて、意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍いといった症状は低酸素状態が脳にまで影響を及ぼしている可能性を示唆します。

この場合は、ためらわずに救急車を呼んでください。

胸痛や息苦しさを伴う他の病気の可能性

「気管支炎だと思っていたら、実は違う病気だった」ということもあります。特に胸の痛みや息苦しさは、呼吸器以外の病気でも起こりうる症状です。

肺炎

前述の通り、気管支炎が悪化して肺炎に至ることがあります。

高熱、色の濃い痰(黄色や緑色)、強い倦怠感などを伴うことが多く、胸部X線検査で診断します。

気胸

何らかの原因で肺に穴が開き、空気が漏れて肺がしぼんでしまう病気です。

突然の胸の痛みと息苦しさで発症します。激しい咳がきっかけで起こることもあります。

心臓の病気(心筋梗塞・狭心症など)

胸を締め付けられるような圧迫されるような痛みがある場合、心臓の病気の可能性も考えなくてはなりません。

痛みは左肩や腕、顎にまで広がることがあります。冷や汗や吐き気を伴うことも特徴です。

気管支炎と心臓の病気の痛みの違い

項目気管支炎に関連する痛み心臓の病気が疑われる痛み
痛みの性質咳や深呼吸で強まる、チクチク・ヒリヒリ締め付けられる、圧迫される、重苦しい
持続時間様々数分~数十分続くことが多い
伴う症状咳、痰、発熱冷や汗、吐き気、左肩への放散痛

呼吸器内科での検査と診断

医療機関では症状の原因を正確に特定するために、以下のような検査を組み合わせて診断を進めます。

胸部X線(レントゲン)検査

胸の痛みや息苦しさがある場合、まず行われる基本的な検査です。

肺炎や気胸、胸水の有無、心臓の大きさなどを確認し、重篤な病気を見逃さないために非常に重要です。

パルスオキシメーターと血液検査

パルスオキシメーターは、指先にはさむだけで血液中の酸素飽和度(SpO2)を簡単に測定できる機器です。息苦しさの原因が、低酸素状態によるものかを評価します。

また、血液検査では炎症反応の強さ(白血球数やCRP)などを調べ、感染症の重症度を判断します。

検査でわかること

検査主な評価項目
胸部X線検査肺炎、気胸、胸水、心拡大の有無
パルスオキシメーター血液中の酸素飽和度(低酸素の有無)
血液検査炎症の程度、細菌感染の可能性

必要に応じて行う追加検査

心臓の病気が疑われる場合は心電図検査を、肺塞栓症(エコノミークラス症候群)などが疑われる場合は胸部CT検査などを追加で行うことがあります。

気管支炎の胸痛や息苦しさに関するよくある質問

最後に、気管支炎に伴う症状について患者様からよくいただく質問にお答えします。

Q
咳のしすぎで肋骨が折れることはありますか?
A

はい、あります。特に高齢の方や骨粗しょう症のある方では激しい咳を繰り返すことで肋骨にひびが入ったり、折れたりする「咳漱性肋骨骨折」が起こることがあります。

咳をした時や体をひねった時に特定の場所に鋭い痛みが走る場合は、その可能性を考えます。

Q
市販の痛み止めを飲んでも良いですか?
A

咳による筋肉痛などに対して、一時的に市販の解熱鎮痛薬を使用することは可能です。

ただし、痛みの原因がはっきりしない段階で安易に薬を飲むと、重篤な病気の発見が遅れる可能性があります。

特に持続する強い痛みがある場合は、自己判断で薬を飲む前に医療機関を受診してください。

Q
楽になる姿勢はありますか?
A

息苦しい時は仰向けに寝るよりも、上半身を起こした姿勢の方が楽に感じることが多いです。

クッションや布団を背中に当てて座ったり、テーブルに寄りかかるように前かがみになったりする「起坐呼吸」の姿勢を試してみてください。

呼吸を楽にする姿勢

姿勢ポイント
座った姿勢背中にクッションを当て、少し前かがみになる
前かがみの姿勢机に肘をつき、上半身の重みを腕で支える

以上

参考にした論文

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