結論から申し上げますと、コーヒーに含まれるカフェインには、気管支を広げて呼吸を楽にする作用が医学的に認められています。これは喘息治療薬のテオフィリンと構造が似ているためです。

しかし、コーヒーはあくまで「嗜好品」であり、喘息の発作を止める治療薬の代わりにはなりません。過剰摂取は胃酸逆流を招き、かえって咳を悪化させるリスクさえあります。

本記事では、呼吸器専門医の視点から、カフェインが呼吸器に与える影響、適切な摂取量、そして薬との飲み合わせについて詳しく解説します。

正しい知識を持って、安全なコーヒーブレイクを楽しみましょう。

カフェインが喘息の気道に与える科学的な影響と働き

カフェインは単なる眠気覚ましではなく、気管支の平滑筋に直接働きかけて気道を広げる効果を持っています。

体内で「アデノシン」という物質が受容体に結合すると気管支が収縮しますが、カフェインはこの結合を阻害することで、空気の通り道を確保する働きをします。

実際に、肺機能検査を行う前の数時間はカフェインの摂取を控えるよう指導する場合があるほど、その影響力は無視できません。

気管支平滑筋への直接的な作用

私たちの気管支は、平滑筋という筋肉で囲まれています。喘息の患者さんは、炎症によってこの筋肉が過敏になり、少しの刺激でギュッと縮こまってしまいます。

これが喘息発作による息苦しさの正体です。カフェインを摂取すると、体内での代謝過程において、ホスホジエステラーゼという酵素の働きを抑えます。

この酵素が抑制されると、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)という物質の濃度が上昇します。

サイクリックAMPが増えることは、気管支平滑筋にとって「リラックスしなさい」という命令が出るのと同じ意味を持ちます。その結果、収縮していた筋肉が緩み、気道が広がって空気が通りやすくなります。

これは、かつて喘息治療の主力であったテオフィリン薬と同様の作用経路です。ただし、コーヒー1杯に含まれるカフェイン量では、医療用医薬品ほどの強力かつ持続的な効果は期待できません。

あくまで穏やかな補助的なものと捉える必要があります。

アデノシン受容体の拮抗作用

アデノシンは、体内でエネルギーを使った際に生じる物質で、細胞の活動を調整する役割を担っています。

喘息患者の気道において、アデノシンが特定の受容体に結合すると、肥満細胞からのヒスタミン放出を促したり、気管支を収縮させたりするトリガーとなります。

カフェインの化学構造は、このアデノシンと非常によく似ています。

そのため、カフェインを摂取すると、アデノシンが結合するはずだった受容体にカフェインが先回りして結合してしまいます(これを拮抗作用と呼びます)。

この働きによって、アデノシンによる気管支収縮の命令が遮断され、気道が狭くなるのを防ぐことができます。

運動誘発性喘息のような、急激な運動によって引き起こされる気管支収縮に対して、一定の予防効果があるという研究報告も存在します。

カフェインの生体への主な作用

作用の種類喘息への影響主な働き
気管支拡張作用プラス(呼吸が楽になる)平滑筋を弛緩させ、気道を広げる。
アデノシン拮抗プラス(収縮を防ぐ)気管支収縮物質の働きをブロックする。
利尿作用注意が必要体内の水分を排出し、痰の粘度を上げるリスク。
覚醒作用間接的影響交感神経を刺激し、呼吸中枢を活性化する。

抗炎症作用の可能性と限界

近年の研究では、カフェインそのものが持つ抗炎症作用についても注目が集まっています。喘息の本質は気道の慢性的な炎症です。

カフェインが免疫細胞の働きに影響を与え、炎症性サイトカインの産生を調整する可能性が示唆されています。

しかし、この抗炎症作用だけで喘息をコントロールできるわけではありません。吸入ステロイド薬のように、気道の炎症を強力に抑え込む力はカフェインにはないからです。

気管支拡張作用と抗炎症作用の両面でプラスの影響はあるものの、それは「コーヒーを飲めば薬がいらない」という意味ではありません。

あくまで日常生活の中での補助的なプラス要素として理解することが大切です。

コーヒー特有のメリットと胃食道逆流症(GERD)というリスク

コーヒーにはカフェイン以外にも体に良い成分が含まれていますが、同時に喘息患者さんが特に注意しなければならない「胃酸」の問題も抱えています。

温かいコーヒーの湯気がもたらす一時的な緩和効果と、胃酸逆流によって咳が悪化するリスクのバランスを理解することが、喘息管理において非常に重要です。

クロロゲン酸などのポリフェノールの効果

コーヒーに含まれる代表的なポリフェノールであるクロロゲン酸は、強い抗酸化作用を持っています。

喘息の炎症は酸化ストレスによって悪化することが知られているため、抗酸化物質を摂取することは、長期的な視点で見れば呼吸器の健康維持に役立ちます。

また、一部の研究では、定期的にコーヒーを飲む習慣がある人は、全く飲まない人に比べて喘息の発症リスクがわずかに低いというデータもあります。

これはカフェインの気管支拡張作用と、ポリフェノールの抗酸化・抗炎症作用が複合的に働いている結果と考えられます。

ただし、砂糖やフレッシュを大量に入れたコーヒーでは、糖質の過剰摂取による炎症リスクが高まるため、ブラックまたは少量の牛乳を加える程度が望ましいです。

温熱効果と蒸気による去痰作用

ホットコーヒーを飲む際、立ち上る湯気を吸い込むことになります。この温かい蒸気は、乾燥して敏感になった気道を潤し、粘り気の強い痰を柔らかくする物理的な効果があります。

喘息の発作時は、気道が乾燥すると刺激に対してより敏感になり、咳が止まらなくなる悪循環に陥ります。

温かい飲み物をゆっくりと飲む行為自体が、副交感神経を優位にしてリラックス効果をもたらします。

ストレスは喘息の大敵ですので、香りの良いコーヒーで一息つく時間は、精神的な安定を通じて間接的に喘息コントロールに寄与します。

ただし、熱すぎる飲み物は食道を刺激し、迷走神経反射によって逆に咳を誘発することがあるため、適度な温度まで冷ましてから飲むようにしてください。

コーヒー摂取のメリットとデメリット比較

項目メリットデメリット
呼吸器への影響気管支が広がり呼吸が楽になる可能性がある。利尿作用で脱水になると痰が切れにくくなる。
消化器への影響消化促進作用がある。胃酸過多や逆流により咳発作を誘発する。
精神面への影響リラックス効果、集中力向上。不安感や不眠を引き起こし、ストレスで喘息悪化。
成分的特徴ポリフェノールによる抗酸化作用。カフェイン依存や離脱症状のリスク。

最大の注意点:胃食道逆流症(GERD)の悪化

喘息患者さんにとって、コーヒー摂取の最大の懸念材料は「胃食道逆流症(GERD)」の誘発です。カフェインには、胃と食道の間にある「下部食道括約筋」を緩める作用があります。

さらに、コーヒー自体が胃酸の分泌を促進します。

胃酸が食道へ逆流すると、食道の粘膜にある神経が刺激され、反射的に気管支が収縮して咳が出ます。これを「胃食道逆流による咳喘息」や「逆流性食道炎に伴う喘息悪化」と呼びます。

もし、コーヒーを飲んだ後に胸焼けがしたり、酸っぱいものがこみ上げてきたり、あるいは咳き込みが増えるようであれば、コーヒーが喘息を悪化させている原因かもしれません。

この場合、カフェインのメリットよりもデメリットが上回るため、摂取を控える判断が必要です。

お茶やその他の飲料におけるカフェイン含有量と選択肢

カフェインが含まれているのはコーヒーだけではありません。日本茶、紅茶、ウーロン茶、そしてエナジードリンクにも含まれています。

それぞれの飲み物にはカフェイン以外の成分も含まれており、喘息への影響も異なります。自分の体質や生活スタイルに合った飲み物を選ぶことが大切です。

緑茶のカテキンとテアニンの働き

緑茶にはカフェインだけでなく、カテキンという強力な抗酸化物質が含まれています。

カテキンには抗ウイルス作用や抗アレルギー作用も報告されており、風邪やインフルエンザがきっかけで喘息が悪化するのを防ぐ効果が期待できます。

また、緑茶に含まれるアミノ酸の一種であるテアニンには、リラックス効果があります。

カフェインによる覚醒作用や動悸といった興奮状態を、テアニンが和らげてくれるため、コーヒーに比べて体への刺激がマイルドです。

玉露のような高級な茶葉ほどカフェインが多く含まれますが、一般的な煎茶やほうじ茶であれば、適度なカフェイン摂取源として優秀です。

紅茶のテアフラビンと温め効果

完全発酵茶である紅茶には、テアフラビンという赤い色素成分が含まれています。これもポリフェノールの一種で、殺菌作用や抗炎症作用を持っています。

特に紅茶は体を温める作用が強いとされており、冷えによって喘息が悪化しやすいタイプの人には適しています。

生姜を入れたジンジャーティーなどは、血行を促進し、呼吸筋の動きをスムーズにする助けになります。ただし、紅茶も濃く抽出するとコーヒー並みのカフェイン量になることがあります。

空腹時に濃い紅茶を飲むと胃を荒らしやすいため、ミルクティーにするなどの工夫が必要です。

一般的な飲料のカフェイン含有量目安(100mlあたり)

飲料の種類カフェイン量特徴と注意点
ドリップコーヒー約60mg抽出方法や豆の種類で大きく変動する。
インスタントコーヒー約45mg手軽だが、商品によって濃度が異なる。
玉露(緑茶)約160mgコーヒー以上に高濃度。飲み過ぎに注意。
紅茶約30mg抽出時間が長いほどカフェインが増える。
ウーロン茶約20mg脂肪分解作用があるが、空腹時は胃に負担。
エナジードリンク30〜300mg以上製品により極端に多い。過剰摂取の危険大。

エナジードリンクのリスクと添加物

近年普及しているエナジードリンクには、コーヒーやお茶とは比較にならないほど高濃度のカフェインが含まれているものがあります。

喘息患者さんが安易にエナジードリンクを摂取することは推奨できません。

急激に大量のカフェインを摂取すると、交感神経が過剰に刺激され、動悸や手の震え、不安感を引き起こします。これらは喘息発作時のパニック状態と似ており、呼吸困難感を増幅させる恐れがあります。

さらに、大量に含まれる糖分や人工甘味料、保存料などの添加物が、アレルゲンとなったり気道を刺激したりする可能性も否定できません。

喘息のコントロールが不安定な時期は、エナジードリンクは避けるのが賢明です。

喘息治療薬との飲み合わせと相互作用のリスク

喘息の治療を受けている方が最も注意しなければならないのは、処方薬とカフェインの相互作用です。

特に気管支拡張薬を使用している場合、カフェインの摂取が薬の副作用を増強させてしまうことがあります。ここでは一般的な相互作用についてリストで示します。

  • テオフィリン製剤との併用は、血中濃度を上昇させ副作用リスクを高める可能性があります。
  • 短時間作用性β2刺激薬の直後にカフェインを摂ると、動悸や震えが増強される恐れがあります。
  • ニューキノロン系などの一部の抗生物質は、カフェインの分解を遅らせる作用があります。
  • シメチジンなどの胃薬は、カフェインの代謝を阻害し、興奮作用を強めることがあります。

テオフィリン製剤との重複作用

テオフィリン(商品名:テオドール、テオロング、ユニフィルなど)は、キサンチン誘導体と呼ばれる種類の薬で、化学構造がカフェインと非常に似ています。

この薬を服用している状態で大量のコーヒーを飲むことは、薬を倍量飲んでいるのと同じような状態を作り出してしまいます。

テオフィリンの血中濃度が上がりすぎると、「テオフィリン中毒」と呼ばれる状態になり、激しい吐き気、嘔吐、動悸、不整脈、痙攣などを引き起こす危険があります。

通常量のコーヒー(1日1〜2杯程度)であれば問題ないことが多いですが、代謝能力には個人差があります。

テオフィリンを服用中の方は、カフェインレスコーヒーを選ぶか、摂取量を厳密にコントロールすることが重要です。

β刺激薬の副作用増強

喘息治療の基本となる吸入ステロイド薬に含まれる長時間作用性β2刺激薬や、発作時に使うメプチンやサルタノールなどの短時間作用性β2刺激薬は、交感神経を刺激して気管支を広げます。

カフェインにも交感神経刺激作用があるため、これらが重なると心臓への負担が増大します。

具体的には、脈が速くなる(頻脈)、心臓がドキドキする(動悸)、手が震える(振戦)といった症状が出やすくなります。特に発作止めを使った直後は、心臓がバクバクしやすい状態です。

そこでコーヒーを飲むと、不快感が強まり、パニック発作のような状態に陥ることもあります。発作止めを使用した後は、水や麦茶などのノンカフェイン飲料で水分補給を行い、安静にすることが大切です。

エフェドリン含有市販薬との併用

ドラッグストアで購入できる市販の咳止め薬や、一部の漢方薬(麻黄湯など)には、「エフェドリン」という気管支拡張成分が含まれています。エフェドリンもまた、交感神経を強く刺激する成分です。

「病院に行く時間がないから」と市販の咳止めを飲み、さらに「気管支を広げよう」と濃いコーヒーを飲むという行為は、心臓血管系に対して非常に危険な負荷をかけます。

血圧の急上昇や不整脈のリスクがあるため、市販薬とカフェインの同時摂取は避けるべきです。喘息の咳は市販薬では止まらないことが多いため、早めに専門医を受診することを強くお勧めします。

適切な摂取タイミングと量に関するガイドライン

喘息患者さんがコーヒーを楽しむためには、「いつ」「どのくらい」飲むかが鍵となります。体調や服薬のタイミングを見極め、自分の体にとってプラスになる飲み方を身につけましょう。

ここでは具体的な摂取の目安について説明します。

1日の適正摂取量の上限

健康な成人であれば、1日のカフェイン摂取量は400mg(コーヒー約3〜4杯)までが目安とされています。

しかし、喘息患者さんの場合は、薬との相互作用や胃食道逆流のリスクを考慮し、これより少なめに設定するのが安全です。

具体的には、1日あたりコーヒー2杯(カフェイン約120〜150mg)程度に留めるのが無難です。

特にテオフィリン製剤を服用している方は、主治医と相談の上、1杯以下にするか、デカフェに切り替えることを検討してください。

また、自分の体調を観察し、「コーヒーを飲んだ後に痰が絡みやすくなる」「胸焼けがする」と感じる場合は、その量があなたの体にとっての過剰摂取であるサインです。

年齢・状態別の1日あたりのカフェイン摂取目安

対象目安量備考
健康な成人400mg以下(約3〜4杯)欧州食品安全機関(EFSA)等の基準。
喘息患者(薬なし)200〜300mg(約2〜3杯)胃酸逆流や睡眠への影響を考慮して控えめに。
テオフィリン服用中100mg以下(約1杯)薬効増強リスクがあるため、原則は控えるかデカフェ推奨。
妊婦・授乳中200mg以下(約2杯)胎児・乳児への代謝影響を考慮。

発作時の対応と日常摂取の違い

インターネット上には「喘息発作が出たらコーヒーを飲むと良い」という情報がありますが、これは半分正解で半分間違いです。

軽い喘鳴(ゼーゼーする音)がし始めた初期段階であれば、温かいコーヒーを飲むことでリラックスし、気管支がわずかに広がることで症状が落ち着くことはあります。

しかし、本格的な発作(苦しくて横になれない、会話が途切れるなど)が起きている時に、コーヒーを治療薬代わりにすることは絶対に避けてください。

コーヒーの効果は弱く、効き始めるまでに時間がかかります。発作時は速やかに処方された発作止め吸入薬を使用し、改善しない場合は医療機関を受診することが最優先です。

コーヒーはあくまで「予防的・日常的な楽しみ」として位置づけ、「緊急時の薬」としては扱わないでください。

就寝前の摂取を控える理由

喘息は「モーニング・ディップ」と呼ばれる現象により、明け方に発作が起きやすい特徴があります。質の良い睡眠をとることは、喘息コントロールにおいて極めて重要です。

カフェインの覚醒作用は摂取後4〜6時間持続するため、夕方以降にコーヒーを飲むと入眠を妨げたり、眠りを浅くしたりします。

睡眠不足は免疫力を低下させ、風邪を引きやすくするだけでなく、自律神経のバランスを崩して気道の過敏性を高めます。結果として、夜間や早朝の発作リスクを高めてしまいます。

喘息患者さんは、午後3時以降はカフェインを含む飲料を控え、ハーブティーや白湯などに切り替える習慣をつけることが、夜間の発作予防につながります。

依存性と離脱症状が喘息管理に及ぼす影響

カフェインを常飲していると、身体がその状態に慣れてしまい、依存形成されることがあります。

カフェインが切れた時に起こる離脱症状は、直接的に喘息を悪化させるわけではありませんが、体調不良を引き起こし、間接的に喘息の管理を難しくします。主な影響は以下の通りです。

  • カフェインが切れた際、血管拡張に伴う激しい頭痛が生じる場合があります。
  • 強い疲労感や眠気が出現し、日々の服薬管理がおろそかになるリスクがあります。
  • 精神的なイライラや不安感が増し、呼吸リズムの乱れを誘発することがあります。
  • 依存状態からの離脱には、一般的に数日から1週間程度かかるとされています。

頭痛や倦怠感によるストレス負荷

毎日大量にコーヒーを飲んでいる人が急に摂取を止めると、血管が過度に拡張してズキズキとした頭痛が生じることがあります。

喘息患者さんにとって、痛みというストレスは発作の誘引になります。頭痛薬(NSAIDs)の中には「アスピリン喘息」を誘発するものがあるため、安易に鎮痛剤を使えないという事情もあります。

また、強い倦怠感や集中力の低下は、日々の吸入療法を忘れる原因になりかねません。

喘息治療は毎日の継続が命です。「だるいから今日は吸入をサボろう」という心理状態を作らないためにも、カフェインへの過度な依存は避け、飲まない日があっても平気な状態を保つことが大切です。

睡眠の質低下と夜間喘息の悪循環

前述の通り、カフェインによる睡眠の質の低下は喘息の大敵です。

しかし、依存状態にあると「コーヒーを飲まないとシャキッとしない」と感じ、夕方や夜にも飲んでしまうという悪循環に陥りがちです。

夜中に咳で目が覚めることが多い方は、実はカフェインによる浅い眠りが原因で、気道の炎症に対する防御力が落ちている可能性があります。

さらに、カフェインの利尿作用で夜中にトイレに起きることで、冷たい空気に触れて咳き込むケースもあります。

良質な睡眠こそが最高の喘息治療薬の一つであることを認識し、カフェイン依存から脱却することが、安定した呼吸への近道です。

不安感や動悸の増加

カフェインの過剰摂取は、脳のアデノシン受容体をブロックし続けることで、脳を興奮状態に保ちます。

これが慢性化すると、常に交感神経が高ぶった状態になり、些細なことで不安を感じたり、動悸がしやすくなったりします。

喘息発作の前兆として「なんとなく胸が苦しい」「不安だ」と感じることがありますが、カフェインによる不安感と区別がつかなくなることがあります。

自分の体のSOSを正しくキャッチするためにも、神経系をフラットな状態に保つことが望ましいです。

特にパニック障害などを併発している喘息患者さんは、カフェインを完全に断つことで症状が改善することも珍しくありません。

カフェインに敏感な方のための代替飲料と水分補給

テオフィリンを服用している方、胃食道逆流症がある方、あるいはカフェインで動悸がしやすい方は、無理にコーヒーを飲む必要はありません。気道を潤し、リラックスできる飲み物は他にもたくさんあります。

ここでは、喘息患者さんに特におすすめしたいノンカフェインの選択肢を紹介します。

デカフェ・カフェインレスコーヒーの活用

現在では、技術の進歩により、味や香りを損なわずにカフェインだけを90%以上カットした「デカフェ」や「カフェインレスコーヒー」が数多く販売されています。

これらを選べば、カフェインによる副作用や薬との相互作用を気にすることなく、コーヒーの香りによるリラックス効果や、ポリフェノールによる抗酸化作用の恩恵を受けることができます。

特に夕食後やリラックスタイムには、デカフェを選ぶのが賢い選択です。

スターバックスなどのコーヒーチェーン店でもデカフェに変更できるサービスが一般的になっていますので、外出先でも積極的に活用しましょう。

「コーヒーを飲む雰囲気」を楽しむだけでも、十分なストレス解消になります。

ハーブティー(ルイボス、カモミール等)

ハーブティーは自然由来の成分で優しく体に作用します。特にルイボスティーは、カフェインを含まないだけでなく、強力な抗酸化作用を持ち、「抗アレルギー作用」があるお茶としても知られています。

ミネラルも豊富で、日常の水分補給に最適です。

また、カモミールティーには高いリラックス効果があり、気管支の筋肉を緩める作用もわずかにあると言われています。就寝前に温かいカモミールティーを飲むことは、安眠を誘い、夜間の発作予防に役立ちます。

ただし、キク科アレルギーがある方はカモミールでアレルギー反応が出ることがあるので注意が必要です。

カフェインを含まないおすすめの代替飲料リスト

飲料名期待できる効果特徴
ルイボスティー抗酸化・抗アレルギーノンカフェインでミネラル豊富。味に癖が少ない。
カモミールティー鎮静・リラックス就寝前に最適。キク科アレルギーの人は注意。
麦茶血流改善・体温低下ミネラルを含む。夏場の水分補給に適している。
黒豆茶抗酸化・のどの保護アントシアニンが豊富。香ばしい香りで飲みやすい。
白湯代謝アップ・保湿胃腸を温め、副交感神経を優位にする。コストゼロ。

最も重要なのは「水」による加湿

最終的に、喘息患者さんにとって最も優れた飲み物は「水」または「白湯」です。喘息の管理において、痰を出しやすくすることは非常に重要です。

体内の水分が不足すると、痰が粘っこくなり、気道にへばりついて咳を誘発したり、呼吸を妨げたりします。

カフェインやアルコールには利尿作用があり、飲んだ以上の水分が体から出ていってしまうことがあります。これらを摂取する際は、同量の水をチェイサーとして飲むように心がけてください。

こまめに水を飲み、喉を湿らせておくことは、ウイルス感染の予防にもなり、気道過敏性を抑える基本中の基本です。1日1.5〜2リットルを目安に、常温の水か白湯を少しずつ摂取しましょう。

Q&A

Q
子供の喘息にコーヒーを飲ませても良いですか?
A

お子様へのコーヒー提供は推奨されません。子供は大人に比べてカフェインの代謝能力が低く、脳や身体への影響が強く出やすいためです。

睡眠障害や興奮状態を引き起こし、成長ホルモンの分泌や情緒の安定を妨げる可能性があります。

気管支拡張作用を期待して飲ませるよりも、医師から処方された適切な薬を使用することが安全かつ確実です。

中学生以降で体が大きくなってから、薄めのものを少量から試す程度に留めてください。

Q
検査の前にコーヒーを飲んではいけないのはなぜですか?
A

呼吸機能検査(スパイロメトリーなど)や、気道過敏性試験を受ける前は、カフェインの摂取を控える必要があります。

これは、カフェインの気管支拡張作用によって、本来の肺の状態よりも良い数値が出てしまい、正確な診断ができなくなるためです。

通常、検査の4〜6時間前から摂取制限がかかることが多いですが、病院によって指示が異なりますので、事前の案内をよく確認してください。

Q
コーヒーにミルクを入れると胃への負担は減りますか?
A

はい、減らすことができます。牛乳に含まれるタンパク質や脂肪分が胃の粘膜をコーティングし、胃酸による刺激を和らげる効果があります。

また、カフェインの吸収速度が緩やかになるため、血中濃度の急激な上昇を抑えることも期待できます。

胃食道逆流症が心配な方や、ブラックコーヒーで胃が痛くなる方は、カフェオレやラテにして飲むことをお勧めします。

ただし、牛乳アレルギーがある方は豆乳やアーモンドミルクで代用してください。

Q
インスタントとドリップで喘息への効果は違いますか?
A

基本的なカフェインの作用機序に違いはありませんが、含有量に差が出ることがあります。一般的に、ドリップコーヒーの方がカフェイン量が多い傾向にあります。

一方で、安価なインスタントコーヒーの一部には、添加物が多く含まれている場合があり、これらが稀に刺激となることも考えられます。

どちらが良いとは一概に言えませんが、香りのリラックス効果を重視するならば、淹れたてのドリップコーヒーの方が高い効果を期待できるでしょう。

Q
喘息ですがコーヒーの香りを嗅ぐだけでも効果はありますか?
A

香りによるリラックス効果は大いに期待できます。コーヒーの香り成分には、脳のα波を増やし、リラックス状態を導く効果があるという実験結果があります。

ストレスは喘息発作の大きな誘因の一つですので、香りを楽しみながら深呼吸をすることは、副交感神経を優位にし、気道の緊張を和らげるのに役立ちます。

カフェインが苦手な方でも、香りを楽しむことは安全な喘息ケアの一つと言えます。

参考にした論文