アレルギー性喘息と診断され、吸入薬や飲み薬を処方されたものの、種類が多くて違いがよく分からない、副作用が心配、という方も多いのではないでしょうか。

アレルギー性喘息の治療は薬の役割を正しく理解し、ご自身の状態に合わせて使い分けることが非常に重要です。

この記事では喘息治療の基本となる薬の種類や効果、副作用、そして薬の効果を最大限に引き出すための正しい使い方について呼吸器内科の専門医が詳しく解説します。

薬への理解を深め、発作のない穏やかな毎日を目指しましょう。

アレルギー性喘息の治療と薬の基本

アレルギー性喘息の治療は薬物療法が中心となります。なぜ薬が必要で、どのような目的で使うのか、まずは基本的な考え方を理解しましょう。

なぜ薬による治療が必要なのか

アレルギー性喘息の根本にはアレルゲンによって引き起こされる気道の「慢性的な炎症」があります。症状がない時でも気道は炎症を起こしており、非常に敏感な状態です。

この炎症を放置すると、気道の壁が厚く硬くなる「リモデリング」という状態に進み、治療が難しくなることがあります。

薬物治療はこの慢性的な炎症を抑え、発作を予防し、将来的な気道の悪化を防ぐために必要です。

治療の二本柱「長期管理薬」と「発作治療薬」

喘息の薬は、その役割によって大きく2種類に分けられます。

症状を予防するために毎日使う「長期管理薬(コントローラー)」と、発作が起きた時に症状を和らげるために使う「発作治療薬(レリーバー)」です。

この2つを正しく使い分けることが喘息管理の鍵となります。

長期管理薬と発作治療薬の役割

種類役割使用タイミング
長期管理薬(コントローラー)気道の炎症を抑え、発作を予防する症状がなくても毎日定時に使用
発作治療薬(レリーバー)発作時に気管支を広げ、症状を和らげる発作時やその予兆がある時に使用

治療目標は「発作のない生活」

喘息治療の最終的な目標は、喘息がない人と変わらない日常生活を送れるようになることです。具体的には以下のような状態を目指します。

  • 咳や喘鳴などの喘息症状がない
  • 日中や夜間に症状で目覚めない
  • 発作治療薬の使用がほとんどない
  • 運動を含め、活動が制限されない

【長期管理】治療の中心となる吸入薬

長期管理薬の中でも気道の炎症に直接作用する吸入薬が治療の中心となります。毎日使用することで喘息の根本原因に働きかけます。

吸入ステロイド薬 気道の炎症を抑える

吸入ステロイド薬(ICS)はアレルギー性喘息治療の最も基本となる薬です。

気道の慢性的な炎症を強力に抑える作用があり、継続して使用することで気道の過敏性を改善し、発作を予防します。

全身への影響が少ないよう工夫されており、長期にわたり安全に使用できる薬です。

長時間作用性β2刺激薬 気管支を広げる

長時間作用性β2刺激薬(LABA)は気管支の筋肉を弛緩させ、狭くなった気道を長時間にわたって広げる効果があります。

ただし、気道の炎症を抑える作用はないため、単独で使うことはなく、必ず吸入ステロイド薬と一緒に使用します。

吸入ステロイド・LABA配合剤

現在の喘息治療で広く使われているのが炎症を抑える吸入ステロイド薬と、気管支を広げるLABAを一つの吸入器にまとめた配合剤です。

一度の吸入で二つの有効成分を同時に投与できるため利便性が高く、相乗効果も期待できます。

主な吸入薬の種類と特徴

薬剤の種類主な作用位置づけ
吸入ステロイド薬(ICS)気道の抗炎症作用長期管理の基本薬
長時間作用性β2刺激薬(LABA)長時間の気管支拡張作用ICSと併用して使用
ICS/LABA配合剤抗炎症+気管支拡張現在の主流な長期管理薬

【長期管理】吸入薬を補う飲み薬

吸入薬を基本としながら症状に応じて飲み薬(経口薬)を追加することがあります。吸入薬とは異なる作用で、喘息のコントロールを補助します。

ロイコトリエン受容体拮抗薬

ロイコトリエンはアレルギー反応に関わる化学物質の一つで、気管支を収縮させたり、炎症を引き起こしたりします。

この薬はロイコトリエンの働きをブロックすることで気道の炎症や鼻の症状を和らげます。特にアレルギー性鼻炎を合併している場合に有効です。

テオフィリン徐放製剤

弱い気管支拡張作用と抗炎症作用を併せ持つ薬です。効果が緩やかに持続するように工夫された徐放製剤が用いられます。

他の薬でコントロールが不十分な場合に追加を検討することがあります。

経口ステロイド薬(短期的な使用)

飲み薬のステロイドは非常に強力な抗炎症作用を持ちますが、長期的に使用すると全身性の副作用のリスクがあります。

そのため、喘息の症状が急激に悪化した場合などに、救急的に短期間だけ使用するのが一般的です。

主な飲み薬の役割

薬剤名主な役割
ロイコトリエン受容体拮抗薬気道や鼻の炎症を抑える
テオフィリン徐放製剤気管支を広げ、炎症を補助的に抑える
経口ステロイド薬強い発作時に短期間使用する

【発作治療】発作時に使う薬の正しい知識

どれだけ長期管理を徹底していても、体調や環境の変化で発作が起きてしまうことがあります。

その時に備え、発作治療薬(レリーバー)の正しい知識を持つことが重要です。

短時間作用性β2刺激薬(SABA)の役割

発作治療薬として使われるのは短時間作用性β2刺激薬(SABA)という吸入薬です。吸入後すぐに効果が現れ、狭くなった気管支を素早く広げて呼吸を楽にします。

あくまで一時的に症状を抑えるための薬であり、気道の炎症を治す効果はありません。

なぜレリーバーの多用は危険なのか

発作治療薬を頻繁に使う(月に3回以上など)状態は、根底にある気道の炎症がコントロールできていない証拠です。

この薬に頼りすぎると根本的な治療がおろそかになり、かえって重症の発作を引き起こすリスクを高めることが知られています。

発作治療薬の使用回数は喘息のコントロール状態を知る重要なバロメーターです。

発作の重症度と対処の目安

重症度症状対処法
小発作軽い咳や喘鳴、歩行は可能発作治療薬を1〜2回吸入し、安静にする
中発作苦しくて横になれない、会話が途切れる発作治療薬を吸入し、速やかに医療機関へ
大発作動けない、意識が朦朧とするすぐに救急車を要請する

重症の方向けの新しい治療「生物学的製剤」

従来の治療法ではコントロールが難しい重症のアレルギー性喘息に対して、新しいタイプの治療薬が登場しています。

生物学的製剤とは何か

生物学的製剤はバイオテクノロジーを用いて作られた薬で、アレルギー反応の特定の原因物質にピンポイントで作用します。

喘息を引き起こす体内の特定の分子の働きをブロックすることで気道の炎症を根本から抑えます。注射薬であり、通常は病院で投与します。

対象となる重症喘息の患者さん

高用量の吸入ステロイド薬や他の長期管理薬を使用しても、症状のコントロールができない重症の患者さんが対象となります。

どのタイプの生物学的製剤が適しているかは、血液検査などでアレルギーのタイプを詳しく調べて判断します。

主な生物学的製剤の種類

薬剤の種類作用する対象
抗IgE抗体製剤アレルギー反応の司令塔であるIgE抗体
抗IL-5/IL-5受容体抗体製剤気道の炎症細胞(好酸球)を増やすIL-5
抗IL-4/13受容体抗体製剤アレルギー炎症に関わるIL-4とIL-13

薬の副作用と上手な付き合い方

どんな薬にも副作用の可能性はありますが、喘息の薬は正しく使えば安全性が高く、過度に心配する必要はありません。

吸入ステロイド薬の局所的な副作用と予防法

吸入ステロイド薬の副作用は薬が直接付着する口や喉に起こるものがほとんどです。具体的には、声がかすれる(嗄声)、口の中にカビが生える(口腔カンジダ症)などがあります。

これらの副作用は吸入後に必ずうがいをすることで、ほぼ予防できます。

全身性の副作用はほとんどない理由

吸入薬は、ごく微量の薬が気道に直接作用するように設計されています。

体内に吸収される量は非常に少なく、飲み薬のステロイドで懸念されるような全身性の副作用(顔が丸くなる、骨がもろくなるなど)の心配はほとんどありません。

吸入ステロイド薬の副作用対策

副作用主な症状予防法
嗄声(させい)声がかすれる、出にくくなる吸入後のうがい、吸入補助具の使用
口腔カンジダ症口の中に白い苔のようなものができる吸入後のうがい(口をすすぐだけでなく、喉もガラガラうがいする)

副作用が心配な時の対処法

薬を使用していて気になる症状が現れた場合は自己判断で薬をやめずに、まずは主治医や薬剤師に相談してください。

副作用の多くは薬の種類の変更や使い方の工夫で対処可能です。治療を中断してしまうことの方が、喘息の悪化を招くリスクがはるかに高いです。

薬の効果を最大限に引き出すために

処方された薬の効果を十分に得るためには、患者さん自身の取り組みも重要になります。

正しい吸入方法の習得

吸入薬は正しく吸えていなければ効果がありません。吸入器(デバイス)には様々な種類があり、それぞれ使い方が異なります。

初めて処方される際には医師や薬剤師から必ず指導を受け、正しく吸入できているか定期的に確認してもらうことが大切です。

自己判断で薬をやめないことの重要性

喘息治療で最もよくある失敗は症状が良くなったからといって自己判断で薬をやめてしまうことです。症状がないのは、長期管理薬が気道の炎症を抑えてくれているおかげです。

薬をやめればいずれ炎症は再燃し、発作を繰り返すことになります。治療の中断や変更は必ず医師と相談の上で行いましょう。

喘息日記で日々の状態を記録する

日々の症状や体調、発作治療薬の使用回数、ピークフロー値などを記録する「喘息日記」は、自己管理に非常に役立ちます。

客観的な記録があることで、師もあなたの状態を正確に把握でき、より適切な治療方針を立てることができます。

よくある質問

最後に、アレルギー性喘息の薬について患者さんからよくいただく質問にお答えします。

Q
薬はいつまで続ける必要がありますか?
A

 アレルギー性喘息は高血圧などと同じ慢性疾患です。症状がなくても気道の炎症は続いているため、基本的には長期にわたる治療の継続が必要です。

医師が状態を評価し、数ヶ月から数年にわたって安定した状態が続けば薬を減らしたり、中止したりすることを検討できる場合もあります。

Q
薬の値段はどのくらいですか?
A

薬の値段は種類や処方日数によって大きく異なります。吸入薬や生物学的製剤は比較的高価な傾向にありますが、各種医療費助成制度を利用できる場合があります。

例えば、一定の基準を満たす喘息患者さんは都道府県の医療費助成制度の対象となる可能性があります。詳しくはお住まいの自治体や医療機関にご相談ください。

Q
ジェネリック医薬品は使えますか?
A

はい、多くの喘息治療薬でジェネリック医薬品(後発医薬品)が利用可能です。有効成分は先発医薬品と同じであり、薬代の負担を軽減することができます。

ただし、吸入薬の場合はデバイスの形状や使い方が先発品と異なることがあるため、切り替える際は改めて吸入指導を受けることが重要です。

Q
妊娠中や授乳中でも薬は使えますか?
A

妊娠中や授乳中に喘息のコントロールが悪化すると、母子ともに危険な状態になる可能性があります。自己判断で薬をやめることは絶対にしないでください。

多くの吸入ステロイド薬は妊娠中・授乳中でも安全に使用できることがわかっています。妊娠を計画している場合や妊娠が判明した場合は必ず主治医に伝え、治療方針を相談しましょう。

以上

参考にした論文

OKAMOTO, Y., et al. House dust mite sublingual tablet is effective and safe in patients with allergic rhinitis. Allergy, 2017, 72.3: 435-443.

ICHINOSE, Masakazu, et al. Japanese guidelines for adult asthma 2017. Allergology International, 2017, 66.2: 163-189.

ADACHI, Mitsuru, et al. Real-world safety and efficacy of omalizumab in patients with severe allergic asthma: a long-term post-marketing study in Japan. Respiratory Medicine, 2018, 141: 56-63.

TANAKA, Akihiko, et al. Efficacy and safety of HDM SLIT tablet in Japanese adults with allergic asthma. The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice, 2020, 8.2: 710-720. e14.

HAMASAKI, Yuhei, et al. Japanese guideline for childhood asthma 2014. Allergology International, 2014, 63.3: 335-356.

NAGASE, Hiroyuki, et al. Prevalence, disease burden, and treatment reality of patients with severe, uncontrolled asthma in Japan. Allergology International, 2020, 69.1: 53-60.

FUJISAWA, Takao, et al. Long-term safety of subcutaneous immunotherapy with TO-204 in Japanese patients with house dust mite-induced allergic rhinitis and allergic bronchial asthma: Multicenter, open label clinical trial. Allergology International, 2018, 67.3: 347-356.

HOSHINO, Makoto, et al. Long-term efficacy of house dust mite sublingual immunotherapy on clinical and pulmonary function in patients with asthma and allergic rhinitis. Journal of Allergy and Clinical Immunology: Global, 2024, 3.2: 100206.

YAMAGUCHI, Masao, et al. Real-world safety and effectiveness of benralizumab in Japanese patients with severe asthma: a multicenter prospective observational study. Journal of Asthma and Allergy, 2024, 45-60.

MASUYAMA, Keisuke, et al. Efficacy and safety of SQ house dust mite sublingual immunotherapy‐tablet in Japanese children. Allergy, 2018, 73.12: 2352-2363.