食事中や飲み物を飲んだ時、あるいは唾液を飲み込んだ際に、突然むせてしまい、一時的に声が出なくなるという経験はありますか。
咳き込んでしまい、声を出そうとしてもかすれたり、全く出なくなったりするこの症状は、多くの方が一度は経験するかもしれません。しかし、頻繁に起こる場合や、特定の状況で悪化する場合は、背景に何らかの原因が隠れている可能性も考えられます。
この記事では、むせて声が出なくなる症状について、考えられる原因、ご自身でできる対処法や予防策、そして医療機関を受診する目安などを詳しく解説します。
はじめに むせて声が出ない症状とは
「むせる」とは、飲食物や唾液などが誤って気管に入りそうになったり、入ってしまったりした際に、それを排出しようとする防御反応として起こる咳のことです。
このとき、声帯が一時的に強く閉鎖されることで、声が出にくくなったり、全く出なくなったりすることがあります。
特に、咳き込みが激しい場合や、気管に異物が入ったことによる刺激が強い場合に、声帯の緊張が高まり、発声が困難になるのです。
この症状は、食事中や水分補給時、あるいは就寝中に唾液が気管に流れ込むことで起こりやすいです。
多くは一時的なもので、むせが治まれば声も元に戻りますが、頻度が高い、特定の食べ物で必ず起こる、徐々に悪化しているなどの場合は、単なる「むせやすい体質」として片付けず、その原因を探ることが大切です。
どのような状況で起こりやすいか
むせて声が出なくなる症状は、特定の状況で誘発されやすい傾向があります。例えば、急いで食事をしたり、よく噛まずに飲み込んだりすると、食べ物がスムーズに食道へ送られず、気管に入りやすくなります。
また、水分を一気に飲んだり、おしゃべりをしながら食事をしたりすることも、誤嚥(ごえん:食べ物や唾液が誤って気管に入ること)のリスクを高めます。
その他、体調が悪い時や疲れている時、緊張している時なども、飲み込む機能(嚥下機能)が一時的に低下し、むせやすくなることがあります。
乾燥した空気や刺激物(煙など)も、喉を刺激して咳やむせを引き起こし、声が出なくなる原因となり得ます。
一時的なものと注意が必要なものの違い
たまにむせて声が出なくなる程度であれば、過度に心配する必要はないかもしれません。
しかし、以下のような場合は、嚥下機能の低下や何らかの病気が背景にある可能性を考え、注意深く観察することが重要です。
- むせる頻度が明らかに増えた
- 特定の食べ物や飲み物で必ずむせる
- 食事のたびに声が出なくなる
- むせた後、呼吸が苦しくなることがある
- 体重が減ってきた
これらのサインが見られる場合は、専門医に相談することを検討しましょう。この記事では、これらの点についても詳しく触れていきます。
むせて声が出ない主な原因
むせて声が出なくなる症状には、さまざまな原因が考えられます。加齢による自然な変化から、特定の病気、さらには生活習慣や環境因子まで多岐にわたります。
ご自身の状況と照らし合わせながら、考えられる原因を探ってみましょう。
加齢による変化
年齢を重ねるとともに、私たちの身体にはさまざまな変化が現れます。飲み込む力や咳をする力も例外ではなく、これらが弱まることで、むせやすくなったり、声が出にくくなったりすることがあります。
特に嚥下機能は、複数の筋肉や神経が複雑に連携して働くため、加齢の影響を受けやすい部分です。
加齢による主な嚥下機能関連の変化
変化する部分 | 具体的な変化 | 影響 |
---|---|---|
喉の筋肉 | 筋力低下、柔軟性の低下 | 飲み込む力の低下、気管を閉じる力の低下 |
神経反射 | 嚥下反射の遅延 | 食べ物が気管に入りやすくなる |
唾液の量 | 唾液分泌量の減少 | 食べ物がまとまりにくく、飲み込みにくい |
また、喉頭(のどぼとけ)の位置が加齢とともにやや下がることもあり、これが声帯の緊張に影響を与え、声質が変わったり、むせやすさに関与したりするとも言われています。
病気が原因となる場合
特定の病気が原因で、むせや声が出ない症状が現れることもあります。これらの病気は、嚥下機能に関わる神経や筋肉に直接影響を与えるものや、喉や食道に炎症などを引き起こすものが含まれます。
むせや声の異常を引き起こす可能性のある病気
病気の分類 | 代表的な病名 | 主な症状との関連 |
---|---|---|
脳血管障害 | 脳梗塞、脳出血 | 嚥下中枢の障害、喉の麻痺 |
神経変性疾患 | パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS) | 筋肉の協調運動障害、筋力低下 |
消化器系疾患 | 逆流性食道炎、食道アカラシア | 胃酸の逆流による喉の刺激、食道の通過障害 |
このほかにも、喉頭がんや咽頭がんなどの腫瘍性疾患、甲状腺の病気、重症筋無力症なども、むせや声の異常の原因となることがあります。
風邪やインフルエンザなどの感染症でも、喉の炎症によって一時的にむせやすくなることがあります。
生活習慣や環境
日常生活の習慣や周囲の環境も、むせや声の出にくさに影響を与えることがあります。例えば、喫煙は喉の粘膜を刺激し、慢性的な炎症を引き起こすため、咳やむせの原因となります。
アルコールの多飲も、神経の働きを鈍らせたり、脱水を招いたりして嚥下機能を低下させる可能性があります。
また、空気が乾燥している環境では、喉の粘膜も乾燥しやすくなり、刺激に対して敏感になります。
大声を出す職業(教師、歌手など)の方や、日常的に大きな声で話す習慣のある方は、声帯に負担がかかりやすく、声のトラブルやむせにつながることもあります。
生活習慣・環境要因の例
- 喫煙
- 過度なアルコール摂取
- 乾燥した環境
- 声の酷使
薬の副作用
服用している薬の種類によっては、その副作用として咳が出やすくなったり、口が渇いたり、筋肉の動きに影響が出たりすることがあります。
これらの副作用が、結果的にむせや声の出にくさを引き起こす場合があります。
例えば、一部の降圧薬(ACE阻害薬など)は空咳の副作用が知られています。
また、抗ヒスタミン薬や向精神薬の中には、唾液の分泌を抑える作用があるものもあり、口腔内の乾燥から嚥下困難につながることがあります。
もし、新しい薬を飲み始めてからむせやすくなったと感じる場合は、自己判断で中止せず、処方した医師や薬剤師に相談することが大切です。
こんな場合は注意が必要 危険なサイン
むせて声が出なくなる症状が、単なる一時的なものではなく、何らかの対処が必要な状態であることを示すサインがいくつかあります。
これらのサインを見逃さず、早期に適切な対応をとることが、症状の悪化を防ぎ、健康を守る上で重要です。
頻繁に起こる、悪化している
以前はたまにしかむせなかったのに、最近になって頻繁にむせるようになった、あるいは、むせる程度や声が出なくなる時間が長くなっているなど、症状が悪化傾向にある場合は注意が必要です。
これは、背景にある原因が進行している可能性を示唆しています。例えば、加齢による嚥下機能の低下が徐々に進んでいる場合や、何らかの病気が悪化している場合などが考えられます。
食事のたびに起こる
特に、食事のたびにむせて声が出なくなるという場合は、嚥下機能に何らかの問題が生じている可能性が高いと考えられます。
食べ物がうまく飲み込めず、誤って気管に入りやすくなっている状態(誤嚥)が頻繁に起きているのかもしれません。
誤嚥を繰り返すと、誤嚥性肺炎という重篤な肺の感染症を引き起こすリスクもあるため、軽視できません。
誤嚥性肺炎のリスク要因
要因 | 説明 | 対策の方向性 |
---|---|---|
嚥下機能低下 | 食べ物や唾液が気管に入りやすい | 嚥下訓練、食事形態の工夫 |
口腔内細菌 | 誤嚥時に細菌も一緒に肺へ入る | 口腔ケアの徹底 |
免疫力低下 | 感染に対する抵抗力が弱い | 栄養状態の改善、基礎疾患の管理 |
体重減少を伴う
意図していないにもかかわらず、体重が徐々に減少している場合も注意が必要です。むせることへの恐怖心から食事量が減ってしまったり、うまく栄養が摂れていなかったりする可能性があります。
また、背景に悪性腫瘍などの消耗性の病気が隠れている場合も考えられます。体重減少は身体からの重要なサインであり、原因を特定する必要があります。
発熱や呼吸困難を伴う
むせて声が出なくなる症状に加えて、発熱や呼吸困難、胸の痛みなどを伴う場合は、誤嚥性肺炎やその他の呼吸器系の病気を発症している可能性があります。
特に高齢者の場合、誤嚥性肺炎は重症化しやすいため、速やかに医療機関を受診することが必要です。息苦しさを感じる、ゼーゼーという音がする、痰が増えたなどの症状にも注意しましょう。
ろれつが回らない、手足のしびれなど他の神経症状がある
むせて声が出なくなる症状と同時に、ろれつが回らない、言葉が出にくい、顔や手足にしびれや麻痺がある、めまいがする、物が二重に見えるといった神経症状が現れた場合は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害の可能性があります。
これらの症状は緊急を要する場合が多いため、ためらわずに救急車を呼ぶなど、迅速な対応が求められます。
緊急受診を要する可能性のある症状
以下の症状が一つでも見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 突然の激しいむせと呼吸困難
- 顔面や手足の麻痺、しびれ
- ろれつが回らない、言葉が出ない
- 意識がもうろうとする
- 激しい頭痛や嘔吐
自分でできる応急処置と予防策
むせて声が出なくなってしまった時、慌てずに対処する方法を知っておくことは大切です。また、日頃から予防策を講じることで、むせる頻度を減らし、症状を軽減することが期待できます。
ここでは、ご自身でできる応急処置と予防策について具体的に解説します。
むせてしまった時の対処法
万が一、食事中などにむせてしまった場合は、まず落ち着くことが肝心です。慌ててさらに飲み込もうとすると、かえって気管に異物が入りやすくなることがあります。
ゆっくりと息を整え、可能であれば少し前かがみの姿勢をとりましょう。背中を丸め、顎を軽く引くような体勢は、気管への異物の侵入を防ぎ、排出しやすくするのに役立ちます。
無理に咳をしようとせず、自然な咳で異物を出すように心がけます。声が出なくても焦らず、呼吸が落ち着くのを待ちましょう。多くの場合、むせが治まれば声も自然と戻ってきます。
食事の工夫
食事の仕方を少し工夫するだけで、むせるリスクを大幅に減らすことができます。まず、一口の量を少なくし、ゆっくりと時間をかけて、よく噛んで食べることを習慣にしましょう。
食べ物が細かくなり、唾液とよく混ざることで、飲み込みやすくなります。
食事形態の工夫例
工夫の種類 | 具体的な方法 | 期待される効果 |
---|---|---|
食べ物の硬さ | 柔らかく煮る、蒸す | 噛みやすく、飲み込みやすくする |
食べ物の大きさ | 細かく刻む、ペースト状にする | 喉を通りやすくする |
水分が多いもの | とろみ調整食品でとろみをつける | 気管に入りにくくする |
水分を摂る際も、一気に飲むのではなく、少量ずつゆっくりと飲むようにします。
特に、さらさらとした液体はむせやすいことがあるため、ゼリー状の水分や、とろみをつけた飲み物などを試してみるのも良いでしょう。
食事中の姿勢も大切で、椅子に深く腰掛け、やや前かがみの姿勢で、顎を軽く引いて食べるようにすると、誤嚥しにくくなります。
口腔ケアの重要性
口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に非常に重要です。食べ物のカスや細菌が口の中に残っていると、誤嚥した際にそれらが気管に入り、肺炎を引き起こす原因となります。
毎食後や就寝前には、丁寧に歯磨きやうがいを行い、入れ歯を使用している場合は、入れ歯もきれいに清掃しましょう。
舌の表面にも細菌が付着しやすいため、舌ブラシなどを使って清掃することも効果的です。定期的に歯科医院で専門的な口腔ケアを受けることも、むせやすい方にとっては有益です。
喉の保湿
喉が乾燥すると、粘膜の防御機能が低下し、わずかな刺激でもむせやすくなることがあります。
空気が乾燥しやすい季節や、エアコンの効いた室内では、加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、適度な湿度を保つように心がけましょう。
また、こまめに水分を補給することも大切です。一度にたくさん飲むのではなく、少量ずつ頻繁に飲むのがポイントです。
カフェインを多く含む飲み物やアルコールは利尿作用があり、かえって脱水を招くことがあるため、水や白湯、麦茶などがおすすめです。
禁煙、節酒
喫煙は、喉や気管の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、咳や痰、むせの原因となります。
また、長期的には肺の機能を低下させるため、禁煙はむせの予防だけでなく、全身の健康維持のためにも非常に重要です。禁煙が難しい場合は、禁煙外来などで専門家のサポートを受けることも検討しましょう。
アルコールの飲みすぎも、嚥下反射を鈍らせたり、脱水を引き起こしたりして、むせやすくなる原因となります。適量を守り、休肝日を設けるなど、節度ある飲酒を心がけることが大切です。
医療機関を受診する目安
むせて声が出なくなる症状が気になる場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきか迷うことがあるかもしれません。ここでは、受診を検討する具体的な目安について説明します。
危険なサインが見られる場合
前述した「こんな場合は注意が必要 危険なサイン」に該当する症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診することを強く推奨します。
特に、体重減少、発熱、呼吸困難、ろれつが回らないなどの症状は、放置すると深刻な事態につながる可能性があるため、速やかな対応が必要です。これらのサインは、身体が発している重要な警告と捉えましょう。
原因がわからず不安な場合
明らかな危険なサインはなくても、むせる頻度が増えてきたり、声が出なくなることが気になったりして、原因がわからずに不安を感じる場合は、一度専門医に相談してみるのが良いでしょう。
原因を特定し、適切なアドバイスを受けることで、不安が軽減されることもあります。また、早期に問題を発見できれば、それだけ早く対策を講じることができます。
日常生活に支障が出ている場合
むせることへの恐怖心から食事を楽しめなくなったり、人と話すことをためらったりするなど、日常生活に支障が出ている場合も、受診を考えるタイミングです。
症状によってQOL(生活の質)が低下しているのであれば、医療の介入によって改善できる可能性があります。我慢せずに、専門家の助けを求めることを考えてみてください。
何科を受診すべきか
むせて声が出なくなる症状で医療機関を受診する場合、まずはかかりつけの内科医に相談するのが一般的です。かかりつけ医は、全身状態を把握した上で、必要に応じて専門の診療科を紹介してくれます。
症状によっては、耳鼻咽喉科や神経内科、消化器内科などが専門となる場合があります。
例えば、声帯や喉に異常が疑われる場合は耳鼻咽喉科、脳や神経の病気が疑われる場合は神経内科、逆流性食道炎などが原因と考えられる場合は消化器内科が適しています。
嚥下障害が専門の「嚥下外来」を設けている医療機関もあります。
受診を検討する診療科の例
診療科 | 主な対象となる状態 | 備考 |
---|---|---|
内科(かかりつけ医) | 初期相談、全身状態の評価 | 必要に応じて専門科へ紹介 |
耳鼻咽喉科 | 声帯、喉、鼻の異常、嚥下機能評価 | 嚥下内視鏡検査など |
神経内科 | 脳血管障害、パーキンソン病など神経疾患 | 神経学的診察、画像検査など |
医療機関で行われる検査と診断
医療機関では、むせて声が出なくなる原因を特定するために、さまざまな検査が行われます。
問診から始まり、喉の状態を直接観察する検査や、飲み込みの機能を評価する検査など、症状や疑われる原因に応じて適切な検査が選択されます。
問診
診断の第一歩は、詳しい問診です。医師は、以下のような点について質問します。
- いつから症状があるか
- どのような時にむせやすいか(食事中、水分摂取時、会話中など)
- むせる頻度や程度、持続時間
- 声が出なくなる状況(かすれる、全く出ないなど)
- 他に気になる症状(体重減少、発熱、咳、痰、胸焼け、手足のしびれなど)
- 既往歴(これまでに罹った病気や手術歴)
- 現在服用中の薬
- 生活習慣(食事内容、喫煙・飲酒の状況、職業など)
これらの情報は、原因を推測し、必要な検査を絞り込む上で非常に重要です。できるだけ正確に、詳しく伝えるようにしましょう。
喉や声帯の視診
喉や声帯の状態を直接観察するために、内視鏡検査(喉頭ファイバースコープ検査など)が行われることがあります。
これは、細い管状のカメラを鼻や口から挿入し、喉の奥や声帯の動き、炎症やポリープ、腫瘍の有無などをモニターで確認する検査です。
比較的短時間で終わり、局所麻酔を使用するため、大きな苦痛は伴わないことが多いです。
嚥下機能検査
飲み込みの機能(嚥下機能)を評価するための検査もいくつかあります。代表的なものに、嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)があります。
代表的な嚥下機能評価検査
検査名 | 検査方法 | わかること |
---|---|---|
嚥下造影検査 (VF) | バリウムなどの造影剤を含んだ模擬食品を飲み込み、その様子をX線動画で撮影する | 飲み込みの全体の流れ、誤嚥の有無、食物の残留部位 |
嚥下内視鏡検査 (VE) | 内視鏡を鼻から挿入し、喉を直接観察しながら着色した水やゼリーなどを飲み込む | 喉頭蓋の動き、声門閉鎖の状態、誤嚥や咽頭残留の有無 |
このほかにも、反復唾液嚥下テスト(RSST:30秒間に何回唾液を飲み込めるかを調べる)、水飲みテスト(少量の水を飲んでもらい、むせや呼吸の変化を観察する)など、比較的簡単に行えるスクリーニング検査もあります。
必要に応じて血液検査、画像検査など
全身状態の評価や、特定の病気が疑われる場合には、血液検査や画像検査(CT、MRIなど)が行われることもあります。血液検査では、炎症反応や栄養状態、特定の病気に関連するマーカーなどを調べます。
画像検査は、脳血管障害や腫瘍性疾患などが疑われる場合に、その存在や位置、広がりなどを確認するために用いられます。
これらの検査結果を総合的に判断し、むせて声が出なくなる原因を診断し、適切な治療方針を立てていきます。
日常生活で気をつけること
むせやすい方や声が出にくくなりやすい方は、日常生活の中でいくつかの点に気をつけることで、症状の予防や軽減につながることがあります。
医療機関での治療と並行して、ご自身でもできる工夫を取り入れてみましょう。
食事環境の整備
落ち着いて食事に集中できる環境を整えることが大切です。テレビを見ながらや、会話に夢中になりながらの「ながら食べ」は避けましょう。
食事の際は、テーブルと椅子の高さを調整し、正しい姿勢(深く腰掛け、やや前かがみで顎を引く)で食べるように心がけます。また、一口量を少なくし、ゆっくりとよく噛んで食べることを意識しましょう。
食事に集中するためのポイント
- 静かな環境で食事をする
- 食事の時間を十分にとる
- 一口ごとに箸やスプーンを置く
適度な運動と体力維持
全身の筋力が低下すると、飲み込む力や咳をする力も弱まることがあります。日頃から適度な運動を心がけ、体力を維持することは、嚥下機能の維持にもつながります。
ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で続けられる運動を取り入れましょう。また、嚥下に関わる筋肉を鍛えるための「嚥下体操」や「発声練習」なども効果的な場合があります。
これらについては、医師や言語聴覚士などの専門家に相談し、指導を受けると良いでしょう。
声の衛生
声帯に負担をかけるような発声は、声のトラブルやむせの原因となることがあります。大声を出したり、長時間話し続けたりすることは避け、喉を休ませる時間を意識的に作りましょう。
騒がしい場所での会話も、自然と声が大きくなりがちなので注意が必要です。また、十分な睡眠をとり、体調を整えることも、声の健康を保つ上で大切です。
声帯に優しい発声の心がけ
ポイント | 具体的な行動 | 理由 |
---|---|---|
声量 | 無理のない自然な声で話す | 大声は声帯に負担をかける |
会話時間 | 長時間話し続けない、適度に休憩する | 声帯の疲労を防ぐ |
環境 | 乾燥した場所や騒がしい場所を避ける | 喉への刺激や負担を減らす |
ストレス管理
過度なストレスは、自律神経のバランスを乱し、身体のさまざまな機能に影響を与えることがあります。
嚥下機能も例外ではなく、緊張や不安が強いと、飲み込みがうまくいかなくなったり、喉に違和感を覚えたりすることがあります。
自分に合ったリラックス方法(趣味、音楽鑑賞、入浴など)を見つけ、上手にストレスを解消することも、むせの予防につながるかもしれません。
定期的な健康チェック
むせや声の出にくさの原因となる病気の中には、早期発見・早期治療が重要なものもあります。定期的に健康診断を受け、ご自身の健康状態を把握しておくことは、さまざまな病気の予防や早期発見に役立ちます。
特に、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)は、脳血管障害のリスクを高めるため、しっかりと管理することが大切です。
よくある質問
ここでは、むせて声が出なくなる症状に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をいくつか紹介します。
- Qむせやすいのは遺伝しますか?
- A
むせやすさ自体が直接的に遺伝するというよりは、骨格や体質など、むせやすさに関連する要素が遺伝する可能性は考えられます。
しかし、多くの場合、むせやすさは加齢、病気、生活習慣など後天的な要因が大きく関わっています。
ご家族にむせやすい方がいる場合でも、過度に心配する必要はありませんが、予防策を意識することは有益でしょう。
- Q薬で治りますか?
- A
むせて声が出なくなる原因によっては、薬物療法が有効な場合があります。
例えば、逆流性食道炎が原因で喉の刺激や咳、むせが起きている場合には、胃酸の分泌を抑える薬や消化管の運動を改善する薬などが用いられます。
また、アレルギー反応によって喉の炎症が起きている場合には、抗ヒスタミン薬やステロイド薬が処方されることもあります。
脳梗塞後遺症などによる嚥下障害に対して、嚥下反射を改善する目的で漢方薬(例:半夏厚朴湯)が補助的に使われることもあります。
ただし、これらの薬は医師の診断に基づいて処方されるものであり、自己判断での使用は避けるべきです。根本的な原因や症状に応じて適切な治療法が選択されます。
原因に応じた薬物療法の可能性
原因・症状 用いられる可能性のある薬の種類 期待される主な作用 逆流性食道炎 プロトンポンプ阻害薬、H2ブロッカー 胃酸分泌抑制 アレルギー性炎症 抗ヒスタミン薬、吸入ステロイド薬 炎症抑制、アレルギー反応抑制 一部の神経疾患に伴う嚥下困難 (対症療法として)気道分泌物抑制薬など 症状緩和
- Q子供でもむせて声が出なくなることはありますか?
- A
はい、子供でもむせて声が出なくなることはあります。乳幼児期は嚥下機能がまだ未熟なため、授乳中や離乳食の際にむせやすいことがあります。
また、風邪などで喉に炎症がある時や、ピーナッツなどの小さな食べ物を誤って気管に詰まらせてしまう事故(気道異物)も、むせや声が出ない原因となります。
子供が頻繁にむせる、顔色が悪くなる、呼吸が苦しそうなどの場合は、小児科医に相談することが大切です。特に気道異物は窒息の危険があるため、緊急の対応が必要です。
- Qサプリメントで予防できますか?
- A
現時点では、むせや嚥下障害の予防・改善効果が科学的に明確に証明されている特定のサプリメントはありません。バランスの取れた食事で必要な栄養素を摂取することが基本です。
もし、特定の栄養素の不足が疑われる場合や、サプリメントの利用を検討したい場合は、自己判断せず、必ず医師や管理栄養士に相談してください。
安易な情報に頼らず、専門家のアドバイスを受けることが重要です。
- Q歌うとむせにくくなりますか?
- A
歌うこと自体が直接的にむせを治すわけではありませんが、発声練習や呼吸訓練の一環として、正しく歌うことは嚥下に関わる筋肉を鍛えたり、呼吸機能を高めたりするのに役立つ可能性があります。
特に、腹式呼吸を意識した発声は、呼吸筋を強化し、咳をする力を高める効果も期待できます。
ただし、むせの原因や程度によっては、歌うことがかえって喉に負担をかける場合もあるため、専門家(医師や言語聴覚士など)に相談の上、無理のない範囲で行うことが大切です。
以上