食事中や飲み物を飲んだ時、あるいは何でもない時に突然「ごほっ」と激しく咳き込むことはありませんか。

この「むせ」は、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入ってしまうことで起こる体の防御反応です。

一時的なものであれば心配いりませんが、頻繁に起こる場合や、特定の状況で悪化する場合は、何らかの原因が隠れている可能性があります。

この記事では、むせが起こる仕組みから、考えられる原因、ご自身でできる対策、そして医療機関を受診する目安について、分かりやすく解説します。

むせ(ごほっと)とは?基本的な理解

「むせる」という症状は、多くの方が経験したことがあるでしょう。特に急いで食事をしたり、飲み物を飲んだりした際に起こりやすい現象です。

しかし、この「むせ」が頻繁に起こるようになると、日常生活に支障をきたすこともあります。まずは、むせとは何か、基本的なところから理解を深めましょう。

むせるという症状について

むせるとは、医学的には「誤嚥(ごえん)」または「誤嚥しかけた」際に生じる反射的な咳のことです。

食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく、誤って気管の方へ流れ込んでしまうと、気管内の異物を排出しようとして激しい咳が出ます。これは、肺に異物が入るのを防ぐための重要な体の防御反応です。

健康な人でも、疲れていたり、慌てていたりすると、時折むせることがあります。

しかし、この反射が弱まったり、飲み込む機能自体が低下したりすると、むせる頻度が増えたり、むせても異物をうまく排出できなくなったりすることがあります。

「ごほっと」と表現される咳き込み

「ごほっと」という表現は、むせた時の突発的で強い咳の状態をよく表しています。

この咳は、気管に入った異物を一気に排出しようとするために起こります。

多くの場合、一度や二度の咳で異物が排出されれば症状は収まりますが、異物が気管の奥に入り込んだり、量が多い場合には、咳が続いたり、呼吸が苦しくなったりすることもあります。

食べ物や飲み物でむせる場合

食事中や水分補給時にむせるのは、最も一般的なケースです。

特に、水やお茶のようなサラサラした液体、パンやクッキーのようにパサパサしたもの、あるいは逆に餅やこんにゃくのように弾力がありすぎるものは、飲み込む際にタイミングがずれやすく、気管に入りやすい傾向があります。

また、急いで食べたり、よく噛まずに飲み込んだりすることも、むせる原因となります。

食事に集中せず、テレビを見ながら、あるいは会話をしながら食事をすることも、飲み込みのタイミングを誤らせる要因の一つです。

むせやすい食品の具体例と飲み込みのコツ

食品の種類具体例飲み込みのコツ・工夫
サラサラした液体水、お茶、ジュース少しとろみをつける、スプーンで少量ずつ飲む、ストローを使う
パサパサしたものパン、クッキー、ゆで卵の黄身水分と一緒に摂る、細かくする、汁物やソースと混ぜる
まとまりにくいものひき肉、刻み野菜、豆類片栗粉などでまとめる、ゼリー状にする、よく噛む

唾液でむせる場合

食べ物や飲み物だけでなく、自分の唾液でむせることもあります。これは、睡眠中やリラックスしている時など、無意識のうちに唾液が気管に流れ込んでしまうことで起こります。

特に、加齢などにより飲み込む反射が鈍くなっている場合や、唾液の量が多い場合に起こりやすいです。

日中に頻繁に唾液でむせる場合は、飲み込む機能の低下が考えられるため、注意が必要です。寝ている間に唾液でむせて咳き込むことが続く場合は、睡眠の質を低下させる原因にもなります。

むせ(ごほっと)が起こる体の仕組み

私たちが普段何気なく行っている「飲み込む」という行為は、実は非常に複雑で精密な体の仕組みによって成り立っています。この仕組みのどこかに問題が生じると、「むせ」という症状が現れます。

ここでは、正常な飲み込みの流れと、むせが起こる原因となる「誤嚥」について解説します。

正常な飲み込み(嚥下)の流れ

食べ物や飲み物を口に入れ、喉を通って食道へ送り込む一連の動作を「嚥下(えんげ)」といいます。嚥下は、大きく分けて以下の段階で進みます。

  1. 準備期:食べ物を認識し、口に取り込む。唾液と混ぜ合わせ、噛み砕いて飲み込みやすい塊(食塊)を形成する。
  2. 口腔期:舌を使って食塊を喉の奥へ送り込む。
  3. 咽頭期:食塊が喉を通過する際、喉頭蓋(こうとうがい)という蓋が気管の入り口を塞ぎ、食塊が食道へスムーズに送られる。この時、呼吸は一時的に止まる。
  4. 食道期:食塊が食道の蠕動(ぜんどう)運動によって胃へと運ばれる。

これらの動きが瞬時に、かつ協調して行われることで、私たちはむせずに食事をすることができます。特に咽頭期における気管の閉鎖は、誤嚥を防ぐ上で非常に重要です。

誤嚥とは何か

誤嚥(ごえん)とは、食べ物や飲み物、唾液、胃液などが、食道ではなく誤って気管や肺に入ってしまう状態を指します。気管に異物が入ると、それを排出しようとして咳反射が起こり、「むせ」が生じます。

これが、私たちが体験する「ごほっと」という咳き込みです。

誤嚥には、むせることで自覚できる「顕性誤嚥(けんせいごえん)」と、むせずに気付かないうちに誤嚥している「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」があります。

不顕性誤嚥は、特に高齢者や特定の病気を持つ方に見られ、肺炎のリスクを高めるため注意が必要です。

誤嚥とむせの関係

状態説明主な症状
正常な嚥下飲食物が正しく食道へ送られる特になし
顕性誤嚥飲食物が気管に入り、咳反射が起こるむせる、咳き込む、声がかすれる
不顕性誤嚥飲食物が気管に入っても、咳反射が起こらないか弱い自覚症状なし、または微熱、痰が増えるなど

喉の感覚と反射の重要性

喉には、異物が侵入しようとした際にそれを感知し、咳反射を引き起こすためのセンサー(知覚神経)があります。このセンサーが正常に働くことで、誤嚥を防ぐことができます。

また、飲み込む動作自体も、脳からの指令によってコントロールされる複雑な反射運動です。

加齢や病気によって、これらの感覚が鈍くなったり、反射機能が低下したりすると、食べ物や飲み物が気管に入りやすくなったり、入ってもうまく排出できなくなったりして、むせやすくなります。

喉の感覚や反射を維持することは、安全な食事のために非常に大切です。

むせ(ごほっと)の主な原因

むせは誰にでも起こりうる症状ですが、その背景には様々な原因が考えられます。加齢による自然な変化から、特定の病気、生活習慣に至るまで、多岐にわたります。

ご自身の状況と照らし合わせながら、考えられる原因を探ってみましょう。

加齢による影響

年齢を重ねるとともに、体の様々な機能が変化します。飲み込む力(嚥下機能)も例外ではありません。具体的には、以下のような変化がむせやすさにつながります。

  • 筋力の低下:舌や喉の筋力が弱まり、食べ物をうまく送り込めなくなる。
  • 反射の低下:咳反射や嚥下反射が鈍くなり、気管に異物が入りやすくなったり、入っても排出しにくくなったりする。
  • 感覚の低下:喉の感覚が鈍くなり、食べ物が気管に入りそうになっても気付きにくくなる。
  • 唾液量の減少:唾液が減ると、食べ物がまとまりにくく、飲み込みにくくなる。

これらの変化は徐々に進行するため、自分では気付きにくいこともあります。

以前より食事に時間がかかるようになった、特定の食べ物でむせやすくなったなどの変化があれば、加齢による影響を考える必要があります。

加齢に伴う嚥下機能の変化

変化する機能具体的な内容むせへの影響
筋力舌、喉、首周りの筋力低下食塊形成不良、送り込み困難
反射神経咳反射、嚥下反射の遅延・低下誤嚥リスク増大、異物排出困難
唾液分泌唾液腺の萎縮、唾液量減少食塊形成不良、口腔乾燥

病気が原因となる場合

特定の病気が原因で、嚥下機能が障害され、むせやすくなることがあります。これらの病気は、神経系、呼吸器系、消化器系など、様々な領域にわたります。

神経系の病気

脳や神経は、嚥下運動をコントロールする上で中心的な役割を果たします。そのため、これらの部位に障害が起こると、嚥下機能に大きな影響が出ます。

  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血):嚥下に関わる神経中枢が損傷されると、麻痺や感覚障害が生じ、むせやすくなります。特に発症直後や後遺症として嚥下障害が現れることがあります。
  • パーキンソン病:筋肉の動きが硬くなったり、動作が遅くなったりする特徴があり、舌や喉の動きも悪くなり、嚥下障害を引き起こします。
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS):全身の筋肉が徐々にやせて力がなくなっていく病気で、嚥下に関わる筋肉も侵されるため、重度の嚥下障害に至ることがあります。
  • 認知症:認知機能の低下により、食事に集中できなかったり、食べ物を認識できなかったりして、誤嚥のリスクが高まります。

呼吸器系の病気

呼吸と嚥下は密接に関連しており、呼吸器系の病気がむせの原因となることもあります。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):息切れや咳、痰が主な症状ですが、進行すると呼吸と嚥下のタイミングが合わせにくくなり、むせやすくなることがあります。
  • 肺炎:誤嚥によって引き起こされる誤嚥性肺炎は、さらなる誤嚥を招く悪循環に陥ることがあります。

消化器系の病気

食道や胃の病気も、間接的にむせの原因となることがあります。

  • 逆流性食道炎:胃酸や胃の内容物が食道へ逆流する病気です。逆流したものが喉まで上がってくると、気管を刺激して咳やむせを引き起こすことがあります。特に夜間や食後に症状が出やすいです。
  • 食道がん:がんが大きくなると食道を狭窄させ、食べ物の通過が悪くなり、つかえ感やむせの原因となることがあります。

生活習慣や環境要因

病気だけでなく、日々の生活習慣や食事環境もむせやすさに影響します。

  • 早食い・ながら食い:よく噛まずに急いで食べたり、テレビを見ながらなど食事に集中しない「ながら食い」は、飲み込みのタイミングを誤らせ、むせの原因となります。
  • 不適切な食事姿勢:猫背や横になったままの食事は、食べ物が気管に入りやすくなります。
  • 脱水:体内の水分が不足すると、唾液の分泌量が減り、食べ物がまとまりにくく、飲み込みにくくなります。
  • 喫煙:喫煙は喉の粘膜を刺激し、咳反射を過敏にしたり、逆に鈍らせたりすることがあります。また、COPDなどの呼吸器疾患のリスクを高めます。

薬の副作用

服用している薬の種類によっては、副作用として嚥下機能に影響が出たり、唾液の分泌量が変化したりして、むせやすくなることがあります。

例えば、抗精神病薬や抗ヒスタミン薬、利尿薬などの中には、口の渇き(唾液減少)を引き起こすものがあります。また、筋弛緩作用のある薬は、嚥下に関わる筋肉の働きを弱める可能性があります。

複数の薬を服用している高齢者では、特に注意が必要です。気になる場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。

薬の副作用とむせ

薬の種類(例)考えられる影響対処のポイント
抗コリン作用のある薬唾液分泌減少、口腔乾燥こまめな水分補給、口腔保湿剤の使用
筋弛緩薬嚥下関連筋の筋力低下医師に相談、薬の変更検討
一部の降圧薬咳(空咳)医師に相談、副作用の少ない薬への変更検討

こんな症状は要注意|医療機関受診の目安

時々むせる程度であれば、過度に心配する必要はありません。

しかし、以下のような症状が見られる場合は、何らかの病気が隠れていたり、誤嚥性肺炎のリスクが高まっていたりする可能性があるため、医療機関の受診を検討しましょう。

むせる頻度が増えた

以前と比べて、明らかにむせる回数が増えてきた場合は注意が必要です。特に、特定の食べ物だけでなく、水やお茶などの飲み物でも頻繁にむせるようになったら、嚥下機能が低下しているサインかもしれません。

日常生活の中で、「最近よくむせるな」と感じたら、その頻度や状況を記録しておくと、受診の際に役立ちます。

食事中に何度もむせる

一口食べるごとにむせる、食事が終わるまでに何度も激しく咳き込むなど、食事そのものが苦痛に感じるようになった場合は、医療機関への相談を考えましょう。

食事量の低下や栄養不足につながる可能性もあります。

体重が減ってきた

むせることを恐れて食事量が減ったり、飲み込みにくい状態が続いて栄養が十分に摂れなくなったりすると、意図しない体重減少が見られることがあります。

特別なダイエットをしていないのに体重が減り続けている場合は、嚥下障害が影響している可能性も考慮し、医師に相談することが大切です。

特に高齢者の場合、体重減少は体力の低下や免疫力の低下につながりやすいため、早期の対応が求められます。

受診を検討するサイン

症状・変化考えられること対応
むせる頻度の明らかな増加嚥下機能の低下症状の記録、医療機関受診検討
食事中の頻繁なむせ誤嚥リスクの上昇食事形態の工夫、医療機関受診
原因不明の体重減少栄養摂取不足の可能性医療機関で原因精査

発熱を伴う場合

むせる症状に加えて、原因不明の発熱(特に37.5℃以上)が続く場合は、誤嚥性肺炎を発症している可能性があります。誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液などと一緒に細菌が肺に入り込み、炎症を起こす病気です。

特に高齢者や免疫力が低下している方では重症化しやすいため、早期の診断と治療が必要です。咳や痰が増えたり、呼吸が苦しくなったりする症状も伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。

家庭でできるむせ(ごほっと)の予防と対策

むせの症状を軽減し、誤嚥を防ぐためには、日常生活の中での工夫が大切です。食事の仕方や環境、口腔ケア、そして飲み込む力を鍛える簡単な運動など、家庭で取り組める予防策や対策を紹介します。

食事の工夫

毎日の食事は、むせを防ぐ上で最も重要なポイントの一つです。食材の選び方から調理法、食べる時の姿勢まで、少しの工夫で飲み込みやすさが大きく変わります。

食べやすい食材の選び方

一般的に、適度な水分とまとまりやすさがある食材は飲み込みやすいとされます。一方で、サラサラしすぎたり、パサパサしたり、硬すぎたりするものは注意が必要です。

  • 推奨される食材:ヨーグルト、ゼリー、プリン、豆腐、ひき肉料理(あんかけなど)、ペースト状にした野菜や果物、とろみのあるスープなど。
  • 注意が必要な食材:水、お茶、汁気の多い煮物、パン、クッキー、ナッツ類、こんにゃく、餅、生の葉物野菜など。

調理方法の工夫

食材そのものが飲み込みにくくても、調理方法を工夫することで食べやすくなります。

  • 細かく刻む、すりおろす:硬い野菜や肉は、細かく刻んだり、すりおろしたりすることで、噛みやすく飲み込みやすくなります。
  • とろみをつける:片栗粉や市販のとろみ調整食品を使って、水分や汁物に適度なとろみをつけると、喉を通過するスピードがゆっくりになり、誤嚥しにくくなります。
  • 水分を加える:パサパサした食材(パン、芋類など)は、牛乳やだし汁に浸したり、ソースをかけたりして、しっとりさせると食べやすくなります。
  • 柔らかく煮込む:食材を長時間煮込むことで、繊維が壊れて柔らかくなり、飲み込みやすくなります。

食事の姿勢と環境

正しい姿勢で食事をすることも、むせを防ぐためには重要です。また、食事に集中できる環境を整えましょう。

  • 姿勢:椅子に深く腰掛け、足を床につけ、少し前かがみの姿勢で食べるのが理想です。顎を軽く引くと、気管の入り口が狭まり、食道が広がりやすくなります。
  • 環境:テレビを消し、会話も控えめにするなど、食事に集中できる静かな環境を作りましょう。慌てず、一口ずつゆっくりと時間をかけて食べることを心がけます。

食事介助が必要な場合の注意点

ポイント具体的な方法理由
食べる人のペースに合わせる急かさず、飲み込んだのを確認してから次の一口を勧める慌てると誤嚥のリスクが高まるため
一口の量を調整するティースプーン1杯程度から始め、様子を見ながら調整する量が多すぎると処理しきれず誤嚥しやすいため
声かけ「お口を開けてください」「ごっくんしましょう」など具体的に声かけする食事への意識を高め、嚥下を促すため

飲み込みやすくする工夫

食事内容だけでなく、飲み込み方自体にも工夫の余地があります。例えば、食べ物を口に入れた後、一度顎を引いてから飲み込む「顎引き嚥下」は、食塊が気管に入りにくくする方法の一つです。

また、一口の量を少なくし、よく噛んでから飲み込むことを意識するだけでも、むせの予防につながります。

口腔ケアの重要性

口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に非常に重要です。たとえ誤嚥してしまっても、口の中の細菌が少なければ、肺炎を発症するリスクを減らすことができます。

毎食後と就寝前には、歯ブラシだけでなく、歯間ブラシや舌ブラシも使って丁寧に清掃しましょう。入れ歯を使用している場合は、毎食後きちんと外して清掃することが大切です。

また、定期的に歯科医院で専門的な口腔ケアを受けることも推奨します。

口腔ケアの基本ステップ

ステップ内容ポイント
うがい食事の残りかすを洗い流すぶくぶくうがい、がらがらうがい
歯磨き歯ブラシで歯の表面、歯と歯茎の間を磨く歯間ブラシやデンタルフロスも活用
舌清掃舌ブラシや柔らかい歯ブラシで舌の汚れを取る奥から手前に優しく数回
保湿口腔保湿剤などで口の中の潤いを保つ乾燥は細菌繁殖の原因に

嚥下体操(飲み込む力を鍛える運動)

飲み込む力や咳をする力を維持・向上させるためには、首や肩、口、舌の筋肉を鍛える「嚥下体操」が効果的です。特別な道具は必要なく、自宅で簡単に行えます。

  • 首の体操:首をゆっくり前後左右に倒したり、回したりする。
  • 肩の体操:肩を上げ下げしたり、前回し・後ろ回ししたりする。
  • 口の体操:口を大きく開けたり閉じたり、唇をすぼめたり横に引いたりする。
  • 舌の体操:舌を前に出したり引っ込めたり、左右に動かしたり、上下の唇を舐めるように動かす。
  • 頬の体操:頬を膨らませたりへこませたりする。
  • 発声練習:「パ」「タ」「カ」「ラ」などの音をはっきり発声する(パタカラ体操)。

これらの体操を、無理のない範囲で毎日続けることが大切です。具体的な方法については、医師や言語聴覚士に相談し、指導を受けるとよいでしょう。

むせ(ごほっと)で考えられる病気と検査

頻繁にむせる場合や、他の症状を伴う場合は、背景に何らかの病気が隠れている可能性があります。ここでは、むせと関連の深い代表的な病気と、医療機関で行われる主な検査について説明します。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物、唾液などが細菌とともに気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。高齢者や寝たきりの方、脳卒中の後遺症がある方などで発症リスクが高まります。

主な症状は、発熱、咳、痰、呼吸困難などですが、高齢者ではこれらの症状がはっきりしないこともあります。むせやすい方が原因不明の発熱を繰り返す場合は、誤嚥性肺炎を疑う必要があります。

早期発見と適切な治療が重要です。

脳卒中後遺症

脳梗塞や脳出血などの脳卒中を発症すると、脳の嚥下中枢がダメージを受け、嚥下障害が後遺症として残ることがあります。

麻痺によって口や喉の動きが悪くなったり、感覚が鈍くなったりして、食べ物や飲み物がうまく飲み込めず、むせやすくなります。

リハビリテーションによって機能回復を目指しますが、重度の場合は経管栄養や胃ろうが必要になることもあります。

パーキンソン病

パーキンソン病は、脳内のドパミンという物質が減少することで、体の動きが不自由になる進行性の神経難病です。

手の震え、筋肉のこわばり、動作の緩慢さなどが主な症状ですが、進行すると嚥下に関わる筋肉の動きも悪くなり、飲み込みにくさやむせが生じます。

薬物療法やリハビリテーションで症状のコントロールを行いますが、嚥下機能の維持も重要な治療目標となります。

逆流性食道炎

逆流性食道炎は、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することで、食道の粘膜に炎症が起こる病気です。

胸やけや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感じ)が主な症状ですが、逆流した胃酸が喉まで達すると、声のかすれや喉の違和感、咳、そしてむせを引き起こすことがあります。

特に食後や横になった時に症状が出やすいのが特徴です。生活習慣の改善や薬物療法で治療します。

むせと関連する主な病気

病名主な症状(むせ以外)関連する診療科
誤嚥性肺炎発熱、咳、痰、呼吸困難内科、呼吸器内科
脳卒中片麻痺、言語障害、意識障害神経内科、脳神経外科、リハビリテーション科
パーキンソン病手の震え、筋肉のこわばり、動作緩慢神経内科
逆流性食道炎胸やけ、呑酸、喉の違和感消化器内科

検査の種類について

むせの原因を調べるためには、問診や診察に加えて、いくつかの検査が行われます。どのような検査があるのか、代表的なものを紹介します。

  • 嚥下造影検査(VF):バリウムなどの造影剤を含んだ模擬食品を食べてもらい、レントゲン動画で飲み込みの様子を観察する検査です。食べ物が口から喉、食道へと送られる過程や、誤嚥の有無、誤嚥する場所などを詳細に評価できます。
  • 嚥下内視鏡検査(VE):鼻から細い内視鏡(カメラ)を挿入し、喉の奥を直接観察しながら、着色した水やゼリーなどを飲み込んでもらう検査です。喉の動きや声帯の閉鎖状態、誤嚥や咽頭残留(飲み込んだ後に喉に残ること)の有無を確認できます。
  • 反復唾液嚥下テスト(RSST):30秒間に何回唾液を飲み込めるかを測定する簡単な検査です。3回未満の場合は嚥下障害が疑われます。
  • 水飲みテスト:少量の冷水を飲んでもらい、むせの有無、呼吸状態の変化、声の変化などを観察するスクリーニング検査です。
  • 胸部X線検査・CT検査:誤嚥性肺炎が疑われる場合に行われ、肺の炎症の有無や広がりを確認します。

これらの検査を組み合わせることで、むせの原因を特定し、適切な治療や対策につなげます。

むせ(ごほっと)に関するよくある質問

ここでは、むせに関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q
むせやすいのですが、何科を受診すればよいですか?
A

まずは、かかりつけの内科医にご相談いただくのがよいでしょう。

症状や状況を詳しくお話しいただき、必要に応じて耳鼻咽喉科、神経内科、消化器内科、リハビリテーション科といった専門の診療科を紹介してもらう流れが一般的です。

特に高齢者の場合は、老年内科や総合診療科も相談しやすい窓口となります。

Q
むせやすい食べ物や飲み物はありますか?避けた方がよいものは何ですか?
A

一般的に、水やお茶のようなサラサラした液体、パンやカステラのようにパサパサして口の中でまとまりにくいもの、餅やこんにゃくのように弾力があって噛み切りにくいもの、きざみ食やとろみの調整が不適切なものはむせやすい傾向があります。

また、酸味の強いもの(酢の物など)も咳き込みを誘発することがあります。

ただし、何がむせやすいかは個人差が大きいため、ご自身が食べにくいと感じるものを無理に摂取する必要はありません。

食事の形態を工夫したり、少量ずつ試したりすることが大切です。

むせやすい食品の例(再掲)

分類具体例理由
液体水、お茶、汁物動きが速く、気管に入りやすい
パサパサしたものパン、クッキー、芋類口の中でまとまりにくく、バラバラになりやすい
弾力があるもの餅、こんにゃくゼリー、イカ噛み切りにくく、喉に詰まりやすい
Q
薬を飲むときにいつもむせてしまいます。どうすればよいですか?
A

薬を飲む際のむせは、多くの方が経験する悩みです。まずは、多めの水(コップ1杯程度)で、上を向かずに顎を少し引いた姿勢で飲むようにしてみてください。それでもむせる場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。

服薬補助ゼリーを使用したり、錠剤を粉砕したり(自己判断せず必ず確認を)、カプセルを外したり(これも確認が必要)といった方法があります。

また、薬の種類によっては、より飲みやすい形状の薬に変更できる場合もあります。

Q
子供のむせも大人と同じ原因ですか?
A

子供のむせの原因は、大人とは異なる点も多くあります。乳幼児期は嚥下機能が未発達なため、母乳やミルク、離乳食でむせることはよくあります。

また、風邪などで鼻が詰まっている時や、気管支炎などの呼吸器感染症の際にも咳き込みやむせが見られます。

食べ物を口に詰め込みすぎたり、遊びながら食べたりすることも原因になります。頻繁にむせる、体重が増えない、呼吸が苦しそうなどの症状が続く場合は、小児科医に相談してください。

まれに、先天的な喉や食道の形態異常、神経系の病気が隠れていることもあります。

むせるという症状は、体からのサインです。軽く考えずに、気になることがあれば早めに医療機関に相談し、適切なアドバイスや治療を受けることが、健康な生活を維持するために重要です。

以上

参考にした論文